No.547560

BL作家だけど、恋しちゃいました・オフ発行

しばしばさん

某サイトで連載しているパラレル小説のオフ版ですv独立している話ですので、これだけ読んでもOKだと思います(笑)虎徹さんが新米のBL作家、バーナビーがスーパーヒーローという捏造ですv
3月17日、東京ビックサイトにて開催予定の春コミ18で初売りいたします。

2013-02-22 23:07:32 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1120   閲覧ユーザー数:1112

 真っ青に晴れ渡った空に浮かぶ、ほっこりとした白い雲。

 そよっ、と吹く柔らかい春風。季節は三月、本来ならまだまだ寒い日が続く、今日この頃だが。ここ、大都市・シュテルンビルトは、本日は快晴で日差しも暖かく。過ごしやすい一日となっている。

 気候がいいせいか、道を行き交う人々の表情も、どこか綻んでいて。

 初春らしく、普段なら気忙しい街中だと言うのに、ふんわりと言うか、のんびりとした雰囲気が漂っているようだ。

 ──そんな、なごやかなムードの中。

 ここ、シュテルンビルトのメインストリートにある、人気カフェの一角…テラス席に座っている男…は、周りののどかな様子とは裏腹に。一人、ぷぅっ、と頬を膨らませて、椅子に腰かけていた。

 彼の名は、鏑木虎徹。名前から見ても判る通り、東洋の血を引いている。

 艶やかな濡れ羽色の黒髪、小麦色のなめらかな肌、蜂蜜色の綺麗な双眸、すっと通った鼻梁に、ふっくらとしたアヒル口。頭にはツートンカラーのキャスケット、オリーブグリーンのシャツと、オフホワイトのベスト。引き締まった下肢が纏うのは、黒のトラウザース。多種多様な人種がひしめく大都会にあっても、自然と人目を集めてしまう、均整の取れたしなやかな肢体と顔立ちの持ち主だ。

 だが、今その愛らしい顔は、不服そうな色をくっきりと浮かべ。

 アヒル口は、本当のアヒルのようにぶーっ、と尖っている。

 頬づえを着いて、ドリンク…恐らく、クリームソーダーだろう、今はアイスは全く原型を留めていないが…を、ストローでぐちゃぐちゃに掻き回している。

 虎徹は、しばらく不気味な緑色の液体を弄っていたが。やがて、ふぅ…と溜め息をついた。

「くっそ…なんでボツなんだよぉ。ネイサン、最近チェック厳しくねぇかぁ?」

 悔しそうに呟いて、エグい色になってしまっているソーダを、ずずっ、と吸う。

 彼の前にある、オシャレなテーブルの上には、数十枚はあるであろう、原稿用紙。

 そのマス目には、文字がびっしりと埋まっている。

 どうやら、小説らしい。そう、実はこの男…虎徹は、小説家なのだ。

 と言っても、純文学とかいう高尚なモノではないし、巷で流行りのミステリー作家だとか、ティーンズ向けの作家でもない。

 では、どんな作品を書いているのか?それは…意外な事に、なんとボーイズ・ラブなのだ。

 もちろん、BLを書いている作家なんて、このご時世ごまんといる。

 美しい少年や、麗しい美青年、はたまた美中年、もちょっと進んで美老人…などなどの、ありとあらゆる人種を網羅したお話は、今時の女性達の間で密やかなブームなのだ。

 昔はそれこそ禁断の書物のように、愛好家達は、こそこそと本を隠して読んでいたりしたものだが。時代の流れと共に、暗黒期?は終わりを迎え。

 現在では、女性達は堂々とBLを愉しんでいる。

 ツワモノは、公共の場…電車の中とか、バスの中でも平気で読んでいるくらいだ。

 しかし。女性に好まれるそのジャンルは、読み手同様、書き手も女性である事が多い。

 乙女のバイブルは、やはり乙女が書いてナンボ、なのだから。

 

 

 

 だがしかし。

 虎徹は、そんな禁断の園に足を踏み入れてしまった、れっきとした男性BL作家なのだ。

 ではなぜ、彼が聖地に突入してしまったか。それは話せば長くなるが…まぁ簡略化すると、虎徹とて初めはフツ―の文で、フツーの若者向けの小説を書いていたのだ。

 けれど、虎徹はガサツな性格をしているけれど、これでもフェミニストで。

 全ての男が求めるような、女の子のレイプシーンとか、ロリとか、人妻凌辱モノとか、女教師輪姦モノ…なんてのは、どうしても書けなかったのである。

 キャラに感情移入し過ぎてしまうのだ。こんな目に遭って、女の子が可哀想だ!と。

 男は大抵スケベな生き物だ。だから、例え小説といえど、いやん♪なシーンを期待してしまうものである。でも、虎徹にはそーいうのが書けない。女性を辱めるのなんて、男の風上にも置けぬ、という、現代では死滅しかかっているナイト精神を持ち合わせているのである。

 と言っても、じゃあ真面目な文学…というワケにもいかず。小難しいストーリーを考えるのは、苦手なので…では、どうすればいいのか、と彼は悩んだ。

 そんな時、救いの手を差し伸べてくれたのが、ネイサン・シーモアという人物だった。

 彼、いや、彼女…男の身体を持っているけれど、女の心を持つネイサンは、その一風変わった嗜好を生かし、大手BL小説出版社に勤めている、有能な編集者である。

 彼女が見出した作家は、必ずと言っていいほど大成する。もちろん、ネイサンのスパルタ指導による賜物だが。

 虎徹は、ひょんな事からネイサンと知り合い、親交を深めるようになったのだ。

 どちらかと言えば、まだまだマイノリティな世界に属する彼女を、全く差別も軽蔑もしなかった虎徹の気性をネイサンはいたく気に入り。

 お世辞にも売れっ子とは言い難い虎徹を、影になり日向になりと助けてくれたのである。

 そして、その彼女は、行き詰ってしまった虎徹に、新たな道を指し示してくれた。

 それがBL作家だ。

 “このジャンルは、競争が激しいわ。弱肉強食と言ってもいい。女の子達はドライだから、面白くないと思った小説には、一銭も払わない。だけど、ひとたび人気を得たら、こっちのモンなの。彼女達のキビシイ審査の目をパスすれば、華やかな人気作家としての未来が待っているのよ? ”

ローズレットのグロスが塗られた、肉厚な唇をニィ、と吊り上げて。

 彼女は堂々と、そう宣言してくれたのだ。

 しかし、初めは当然、虎徹もためらった。それはそうだろう。いくらBL小説が巷でブレイクを起こしているとは言っても、自分は男なのだ。同性同士の恋愛…なんてのが、きちんと書けるとは到底思えない。大体、美形が登場人物とはいえ…どう転んだって、結局は男、である。

 同じモンが付いている者同士が、あんあん言ったり、ベットでぎしぎし、なーんてのは…想像するだけでエグイ。

 だが、ネイサンはそんな虎徹のささやかな抵抗を、鼻で笑い飛ばした。

“なにお子ちゃまみたいなコト、言ってんのよ。アンタ、仮にも作家でしょ?だったら、妄想力で、現実と空想世界をきっちり切り離しなさいな!二次元脳をフル回転させれば、リアルなんて苦にもなんなくなるのよ! ”

 BL世界のオトコ達には、すね毛も腋毛もナッシング!

 どこまでも美しく、どこまでも可憐なの!

 優秀な編集員である彼女は、握りこぶしを作って、虎徹に向かって力説したのである。

 そんな、ホンモノ?の金言に頭を一撃され、虎徹も目を開かれたような思いを抱いた。

 そうだ。俺は妄想過多(世の小説家達に、袋叩きにされそうなセリフである)の物書きなんだ。夢の世界にイクのは、得意中の得意じゃねぇか!現実の男同士の絡みがキモイとか、そんな甘えた事抜かしてる場合じゃねぇんだ!っつーか、書かなきゃ、おまんま喰い上げなんだ!路頭に迷いたくなかったら…やるっきゃねぇぇ!

 

 

 

 ──ネイサンのありがたい括を貰った虎徹は、心を入れ替えた。

 そうして彼は、ボーイズラブを書く事を、決意したのである。

 虎徹はまず手始めに、ショートショートを書いてみた。頭から現実を排除しつつ、がんばってみた。

 それは、腐女子が好むような、ハードでぐちょぐちょで、ぬるぬるえっち的シロモノでは無かったけれど…だげと、虎徹は以前から心理描写を得意とする作家であったので。

 切な系SSは、それなりに読者の心をがっつり掴み。

 ある程度の手ごたえを、虎徹に与えてくれたのだ。

 こうして、一本・二本と作品を増やしていき。それらに、ファンが少しずつ付いてくれて。

 虎徹は、どうにか新生BL作家として、船出を成功させたのである。

 やがて、ネイサンのお墨付きももらい、書きためた小説は、めでたく単行化され。

 彼は、今ではすっかりボーイズラブの世界に、首まで漬かっているのであった。

 

 

 

「はぁ…」

 重い溜め息と共に、虎徹がちらり、と原稿用紙を見る。

 先ほど、出版社に持って行ったソレ。本当ならば、再来月に販売予定のBL小説本・『月刊オリオン』に掲載される予定の新作だが…前述の通り、ボツをしっかり喰らってしまっている。

「今回は、結構良く書けたと思ってたのになぁ…」

 つん、と指先で、白い紙をつつく。

 『オリオン』は、BL雑誌の中では、一・二を争う大手だ。だからレベルも高い。

 生半可な作品では、けんもほろろにボツられてしまうのだ。

 それは中堅作家の虎徹とて、同じ事。特にネイサンはハイレベルなモノを求めるので、妥協は許さないのである。

 殊に、手塩にかけた虎徹には尚更だ。

 アンタには、一作や二作で消えてしまうような作家にはなって欲しくないの。だから、きっちりシゴいてんの。これは愛の鞭なのよ。いい?ガッツ見せて、喰らい付いてくるのよ?

 ボツを喰らって、凹んでいた虎徹に無情に投げかけられた言葉が、頭の中で木霊する。

 虎徹は、原稿用紙の上に、へにゃんと突っ伏した。

 ……判ってる。ネイサンが、必要以上にこの自分に厳しくするのは、己を見込んでくれているからってコト。実際、彼女のお眼鏡に叶った者達は、弱肉強食のBL作家世界を、見事に渡り切っているのだから。

 だからこそ、頑張らなければと思うのだけど……

「あぁぁ…でもでも、やっぱりダメージでかいよぉ。くそっ、なんかいいアイデア、何処かに落っこちてねぇかなぁ?エロ神様、降臨してくれぇぇ!」

 ぼそっと呟く。

 今回書いた作品は、ボーイズラブでは既におなじみの、ケモミミだ。

 人間と猫のハーフという、とんでもねー設定の受と、その飼い主の男の、らぶらぶえっち話だったのだが…いかんせん、ケモミミというのは使い古されたネタである。故に、ともすれば、何処かで見たような、的な話になってしまうのだ。

 何か目新しい設定が無いと、読者にも呆れられてしまう。

 しかし、大概のネタはもう既に出尽くしている。そこから斬新なアイデアを生み出すのは、生半可な事ではない。でも、それをやらなければ、自分は永遠にボツを出され続けるのだろう。

 虎徹は、何度目になるか判らぬ溜め息をこぼすと、顔をのろのろと上げ。仏頂面のまま、がさがさと音を立てて、原稿用紙をかき集めた。

 とんとん、と隅を軽く叩いて、クリップでまとめる。

 ──ここで、ずーっと凹んでいる訳にもいかない。早く自宅に戻って、パソコンと向かい合わないと。ネイサンは、この話はボツにしてくれたけど。執筆者から虎徹を外す気はさらさら無いらしく “早く次の作品を作ってくるのよ? ”と、がっつり念を押してくれたのだ。

 彼女の期待を裏切るワケにはいかない。自分の生活の為にも、ネイサンを満足させる新作を書き上げねば。

 しかし。このまま家に戻るのも…何となく、気が重い。

 虎徹は、ぼけっ…と視線をさまよわせていたが。

 やがて、かたん、と椅子を鳴らして立ち上がった。

 せっかく都心に出てきているのだし、気分転換にブラブラするのも悪くないだろう。ひょっとして、何かいいネタが転がっているかもしれないし。

 さて、では何処へ行くか……

「そー言えば、マヨが切れかかってたよな…あと、ひざ掛けも欲しいな。まだ冷えるし…この際、イイのを奮発しちゃうか♪」

 ぽん、と手を叩いて、頷く。

 確かこの近くに、大型のショッピングモールがあった筈。

 そこに行けば、ひざ掛けもマヨも、同時に手に入る。

 それに、本屋にも寄りたいし。

「よし、そこに行くか!」

 虎徹はようやく表情を緩めると、原稿用紙を封筒に直し、大ざっぱにバックに詰め込むと。意気揚々と、カフェを後にしたのであった。

 

 

 

 ──もちろん、この時の彼は、自分の身にあんな…想像も出来なかった事件が降りかかってくるとは、夢にも思っていなかった。

 けれど。それこそが、神の恵みだったのだろう。

 その神は、当然エロ神様だけど。っつうか、願った通りだけど。

 とにかく、虎徹にとって、素晴らしい転機となったのは、間違いのない事実なのである……

 

 

 

 

 

「……ふぇぇ…っ」

 掠れた声を上げて、虎徹がリビングにあるソファにへたり込む。

 彼は、自分で自分の肩を抱きながら、蜂蜜色の瞳をうっとりと潤ませた。

 ……信じられない。あの出来事は、夢だったんじゃないだろうか?

 いや。違う。あれは…紛れもない現実だった。自分は、本当に “彼 ”に出会ったのだ……!

「っ…!」

 今更ながらに、頬が赤く燃え上がる。

 その姿は、まさしく乙女そのもの。

 虎徹は、ごろん、とソファに横たわった。

 ──カフェを出て、気晴らしに大型ショッピングモールに足を向け。ウィンドウショッピングを愉しんでいた彼は、そこでとんでもないアクシデントに見舞われたのだ。

 それは、モール内での火災事故。

 一階にある、食堂街の一つ、中華料理屋から出火した炎は、瞬く間に建物を舐め尽くした。

 スプリンクラーも動いてはいたが、火の回りの方が早かったのだ。

 休日とあって、モールは人が多く。当然、大混乱になった。

 泣き声や悲鳴、怒鳴り声が響き。みな、我先に出口へと殺到した。

 虎徹はその時、三階にいたのだが。幸い、階段近くにいた為、どうにか逃げ遅れる事はせずに済んだ。

 のだが…途中、彼は一人の子供を発見してしまったのだ。

 その女の子は、足を怪我して、ただ泣きじゃくっていた。親の姿は無い。恐らく、あの騒動の中で、生き別れになってしまったのだろう。

 子供がいる所は、階段から遠い。でも、見捨てる事など、人として出来る筈も無く。虎徹は、勇敢に火の粉の中をかいくぐり、少女を助け出したのである。

 だが、不運にも脱出口は塞がれてしまった。火力に耐え切れず、天井が崩落し…非常階段口を完全に塞いでしまったのだ。

 間一髪、巻き込まれる事だけは避けられたが、このままでは間違いなく焼死してしまう。唯一の逃げ場は、窓だけ。もちろん、飛び降りれば大怪我するだろうけれど、窓の下には、張り出したテントがある。あれに乗れば、どうにかなる!

 虎徹は子供をしっかり抱き抱えると、窓に近付こうとして…息を飲んだ。そこも炎の勢いに押され、ガラスがぐにゃりと変形し始めていたのだ。

 ダメだ…このままじゃ、バックドラフトが……!

 とっさに振り返って見ても、後ろにまで火が迫っている。どちらにも逃げられない。

 虎徹は蒼白になりつつも、子供をぎゅっと抱きしめた。

 刹那、窓ガラスが爆発し…炎が襲い掛かってきたのだ。

 虎徹は、死を覚悟しつつも、せめて子供だけは、とその場にうずくまった。

 あっという間に、炎に包まれて…黒焦げになる!

 歯を食い縛って、恐怖と絶望に耐える。

 ……けれど。その瞬間、二人は何か冷たいモノによって、守られていたのだ。

『!?』

 何だ!?一体、何が…!?

 はっとして、虎徹が顔を上げる。と、その瞳に写ったのは…

 美しい真っ赤なスーツを纏った、一人の青年の姿だった。

 凛と輝く蒼い光が、自分達を見つめている。

 その人物の名は……

 

 

 

『ば…バーナビーっ…!?』

 あぜん、として虎徹が呟く。

 そう。彼等を身を挺して守っていたのは、バーナビー・ブルックスJrという、若き “スーパーヒーロー ”だったのである。

 ここ、シュテルンビルトには、企業とタイアップして、犯罪に敢然と立ち向かう、ヒーローという職業が存在する。

 彼等は、みなネクスト能力、という不思議な力を身に着けている。それを駆使して、日夜、悪と戦うのだ。

 中でも、このバーナビーという青年は、ルーキーながらもヒーローとしての活躍は目覚ましく。加えて、ルックスも最高のイケメンなのだ。きらきらと輝く金糸の髪、翡翠の如き美しい瞳。甘い鼻梁に、鍛え上げられた肉体美を誇る、完全無欠の超絶人気モノ。

 彼の名を知らぬ者は、このシュテルンビルトには存在しない。

 バーナビーは、大都市の若きガーディアンなのだ。

その、ギリシャ神話に出てくるアポロンのように、美しい男が…今、自分達を炎から救ってくれている……!

 虎徹は状況も忘れて、ほけらっ…と、青年に見惚れてしまった。

 そんな彼を、バーナビーは怪我はありませんか?と気遣ってくれ。

 業火の中から、脱出させてくれたのである。

 なんと、炎をものともせず走り抜け。窓から外へとダイブして、である。しっかりと、虎徹と子供を抱えたまま。

 バーナビーの能力は、ハンドレットパワーだという。だから、二人を抱えて飛ぶくらい、何でもないのだと、青年は微笑んでいた。

 ……こうして、虎徹達は、からくも死の危機から抜け出す事が出来たのだ。

 子供も無事、親元に返す事ができ。文字通り、大団円となったのだが……

 

 

 

「バーナビーって、すげぇ恰好イイ…あんな美形、本当にいるんだ…!」

 ソファに転がり、手近にあったクッションをきゅぅぅ、と抱き締めて、虎徹がうっとりと呟く。

 もちろん、虎徹とてバーナビーの活躍は、テレビで観て知っている。だけど、ナマを間近で拝んでしまうと、その迫力たるや、比べ物になりはしない。

 睫毛まで金色だった。声も甘くて、腰が痺れるようで…ハンサムスマイルは、メガトン級の威力だった!

 おまけに、すんごく優しかったのだ。

「お、俺の事…可愛い、って…」

 首筋まで赤く染めつつ、ニニマニマとして言う。

 バーナビーは、虎徹の勇敢な行動を褒めてくれて。あまつさえ、身体の心配もしてくれて……

『……貴方、東洋の血が混じっているんですね。随分と可愛らしい…いや、男性に向かって失礼かな。だけど、この滑らかそうな肌…これが傷付かなくて、本当に良かったです』

 そんな風に、柔らかく呟いて。にっこりと笑いかけてくれたのである。シュテルンビルトの貴公子が、冴えないオジサンなんかに、だ!

 これを僥倖と言わずして、何と言おうか。

 虎徹は、ピンク色の溜め息をこぼした。

 ──もともと、虎徹はヒーローが大好きだ。男なら、誰だって好きだろう。子供の頃、夢中になるのは決まって正義の味方、なのだから。

 ちなみに、虎徹の幼い頃からの憧れは、初代ヒーローのMrレジェントだ。

 彼も強くてカッコ良かった。もっとも、キレイなのは…断然バーナビーの方だけど。でもでも、彼は虎徹にとって、無敵の英雄そのものだったのだ。彼に対する想いは、大人になった現在も変わってはいない。レジェントのDVDだって持ってるし、スクラップブックだって、幾つもある。

 実際、彼を超えるヒーローなんて、いないと信じていた。

 しかし。

 バーナビーをまともに見てしまった今は…その考えを、改めなければならないようだ。

 レジェントに負けず劣らず、恰好良かった青年。

 美しい翡翠の瞳も、高い鼻梁も、ちょこっとシニカルな口元も…どうしようもなく素晴らしかった。

「はぁ…」

 虎徹は、クッションにパフッ、と顔を埋めた。

 

 

 

「……BLに例えるなら…パーフェクトな美貌を持つ、最強の攻キャラ…だよな…」

 青年は美しいけれど、それは女性的なものではない。

 あのナイフのように鋭い美は、正にボーイズラブ世界に於いては、絶対に攻!だ。

 虎徹は、ぶつぶつと呟きを漏らした。

 綺麗で、女性達の憧れの的で。だけど、その攻は、実は可愛らしい男の子がタイプで。それも、ちょっと天然が入ったような、無邪気で無垢な少年が大好物なんだ。

 そーだなぁ…うん、舞台はどこかの大企業にして。

 攻…バーナビーは、バリバリの企業戦士で。会社一のモテ男にして……

「って…おぉ、なんか新作書けそうじゃん、俺!」

 湯水の如く湧いて来るネタに、虎徹が思わず身を起こす。

 彼はソファから飛び降りると、仕事場にしている小部屋へと一目散に駆けて行った。

 ドアを開けるのももどかしく中に飛び込み、デスクに置いてあるパソコンの電源を入れる。

 じりじりと起動を待って、ワードを立ち上げる。

 やがて、お馴染みの画面が現れると、虎徹は素早くキーボードに指を滑らせた。

「えっと…主人公は、バーナビーのままじゃマズイよな…うーん…よし、攻キャラは “バニー ”だ!」

 あくまでバーナビーがモデルなのだから、極力名前は似せたい。まんまだと、肖像権の侵害になるかもしれないから、少しもじればオッケーだろう。

 ついでに、受は…今回は、自分でいっか。

 虎徹、の一文字を変えて…タイガーにしよう!

 瞬く間に、受と攻のキャラ設定が決まる。

 虎徹は、夢中になってキーを叩き出した。

 

 

 

 

続きはオフにて


 
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