No.542969

真・恋姫†無双~絆創公~ 第二十八話 【可能性の回避】

今回の話、STEINS;GATEがお好きな方は分かっていただけると思います。

2013-02-11 16:45:49 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1522   閲覧ユーザー数:1368

第二十八話

 

「張遼様…………貴女様への、挑戦状が……」

 カードを手にしている男は震えた声で、その裏に書かれている墨文字を、宛名の女性へと見せた。

「ウチに…………?」

 訝しげな様子で腰を上げて、目に入ったカードに近寄って、その文字を確かめる。

 彼女と同じように一刀も席を立ち、ヤナギの持つカードに近寄った。

「霞への……挑戦状?」

「はい……詳しい事は書かれておりませんが、十中八九張遼様への挑戦状かと思われます…………」

 小刻みに震えるその手で、霞にカードを手渡す。

 そこで、泉美が思い出したように口を開く。

「あ……あと、この手紙みたいなのも一緒に刺さっていました……」

 差し出されたその紙は折り畳まれてはいるが、大きさからすれば確かに便箋のような雰囲気のものだった。

「失礼致します……」

 仰々しく受け取ったヤナギは、恐る恐る開いて中身を確認した。

「……決戦の日時は四十日後の正午、場所はここから南に十里先の荒野、張遼様と九頭竜が操る鎧一体との勝負、だそうです……」

 文面を読み上げたヤナギは、その険しい顔を霞へ向けた。

「如何なさいますか? 張遼様……」

「……面白いやんか。今度こそ、逃げられんようにとっちめたる……!」

 カードを持つ手に力が入っているのだろう、少し形が歪んでいた。

 それを見たアキラが、慌てて霞に近寄った。

「ああ、すいません! もしかしたら何かの手掛かりになるかもしれませんので、これ預かっときたいんですけど……」

「あっ、ゴメンな……」

 霞も少し慌てて、持っていたカードを手渡した。

「しかし、スペードのジャックか……張遼様に相応しい挑戦状と言いますか……」

 アキラに渡ったカードを眺めていたヤナギが、ポツリと呟いた。

「へ? どーいうこっちゃ?」

「このジャックの絵は騎士、もしくは英雄を表しています。おまけにジャックは数字の“十一”にあたります。十一を組み合わせれば“士”という字にもなり、武士や侍、軍人を意味する事にもなります。ですので……」

「ふーん…………」

 ヤナギの説明を聞いた霞は、満更でもない顔になった。

「張遼様…………?」

「あの男がそこまで考えとるんかは知らんけど、そうまでして売られた喧嘩……買わんワケにはいかんな……」

 楽しそうに口元で笑う霞を、一刀は心配そうな顔で見つめている。

「霞……気をつけてくれよ……?」

「何や一刀? ウチが負けると思うてんのか?」

「いや……その…………」

「安心せぃ! 初陣はウチにドーンと任せときゃええねん!!」

「………………ああ」

 霞は活気付けるように一刀の背中を叩いたが、それでも彼はどこか浮かない顔だった。

 

「ちょっといいか?」

 一カ所に固まって話している一団に、軍議では珍しく春蘭が自分から口を開いた。

「何すか? 夏候惇さん」

「まだ良くは分からんが、お前たちは何か奇怪な術を使って、北郷の家族と来たんだろう?」

「そうっすけど?」

「ならば、その術で先回りして……その、クズ何とかを捕らえられないのか?」

「…………!?」

 春蘭の発言に、女性達一同は衝撃を受け、彼女を驚愕の表情で見つめた。

 “その手があったか!”という意味合いも確かにあったが、それ以上にその策を春蘭が思い付いたことが、何よりの衝撃だったのである。

 発言者も何となくその空気を察したのだろう、多数の視線を受けて困惑していた。

「な、何だその顔は!? また私を馬鹿にするのか!?」

 普段の経験からか、自分が恥をかかされると思い騒ぎ始める。

「姉者……その逆だ。皆一同、姉者の策に感銘を受けているんだ……」

「そ、そうなのか? そんなに良かったのか!?」

「ああ。で、アキラよ。それは可能なのか……?」

「正直な話、出来ますよ」

 その発言に、春蘭が心底嬉しそうな顔になる。

「おお! ならば、早くすれば良いだろう!?」

「でも、ですね……それをしてしまうと、余計厄介な展開になる可能性があるんですよ……」

 申し訳無さそうに、アキラは反論する。

「どういう事だ?」

「私が説明致します……」

 春蘭の問い掛けに、今度はヤナギが応える。

「例えばですね……ある病に効く薬があるとします」

「うむ……」

「過去にその病によって命を落とされた方々に、この薬を与えて命を救いたいと願い、我々の術を用いて行動したとします」

「うむ…………」

「しかしその患者の中には、この薬を作るきっかけとなった人物もいるのです。それは、薬の開発者の子供で、その子を病で亡くした事がきっかけで、薬の開発に取りかかるのです。もし、その子供まで助けてしまうと、この薬の存在自体が消えてしまう事になってしまいます……」

「……………………」

「さらに、後々の世代に生きる人間の数にも影響を及ぼしかねません。ですので、慎重に行動しなければ…………夏候惇様?」

「………………………………」

 一方的に話していたヤナギは言葉を止めた。

 春蘭の頭から、白煙が出ていたからである。

「……御理解頂けましたか?」

「……ええい、まどろっこしい! もっと短く話せんのか!!」

 頭を振りながら、モヤモヤとゴチャゴチャを振り払おうとする。

 詰め寄られたヤナギも、予想外の反応に慌てた。

「で、では、話を少し変えましょう! えーと、不慮の事故により命を落とした少年がいました」

「ふむ……」

「その少年を救いたいと願った男が、我々の術を用いて救った途端、その姿を消してしまいました……」

「………………」

「理由は、男の先祖にあたるその時代の女性が、元の結婚相手とは知り合わず、成長したその少年と結ばれたからです……」

「…………………………」

「これも駄目ですか……?」

 ヤナギが姿を消したと言った辺りから、春蘭は既に煙を出し始めていた。

「惇ちゃんにそんな小難しい話は、分からへんと思うで?」

 霞は笑いながら、煙を出している女性を眺めていた。霞は話の内容をある程度理解しているのだろう、春蘭とは違い余裕を見せている。

「うーむ、どう説明すればよいのやら……」

「うーむ、どう聞けばよいのやら…………」

「相変わらず主任は説明がややこしいんですよ……」

 アキラはヤナギの肩を軽く叩きながら、自分に任せろと言うような態度を見せた。

 それを察したのか、ニコニコ笑っているアキラを訝しげに見る。

「何だ、お前は上手く説明出来ると言うのか?」

「ええ、多分大丈夫だと思います。夏候惇さん以外の、まだ分かっていない方々にも伝わる例え話があります」

 確かにアキラの言う通り、ちゃんと理解できていないような反応の人間が何人かいた。

「だったらやってみろ」

「ラジャー! ……と、その前に。取り出したるはこちらの品々!」

 そう言いながらアキラの手にあるのは、アイマスクとヘッドホン、そして携帯音楽プレイヤーである。

「……どこから出した?」

「まあ、細かい事は気にしないで。北郷一刀さん、これを装着して下さい!」

「へ? 俺が?」

 いきなり指名された一刀は狼狽えた。

「ハイ! お願いします!」

「……何か変なことするの?」

 手渡された品々とアキラを交互に見ながら、少し不安そうな表情になる。

「いえいえ、大丈夫ですよ! あ、あと少し離れて貰えますか?」

「ハイハイ……」

 アキラに誘導され、円卓から少し離れたところに置かれた椅子に腰掛け、視覚と聴覚を遮断した一刀。

 それを確認したアキラは、円卓に座る女性達に向き直る。

「ハイ、これで北郷一刀さんはこれからの会話ややり取りは一切分からなくなりました。じゃあ皆さん、これから幾つか質問しますが、顔は伏せて目を閉じてください。皆さんの反応が分からないように。ちなみにこの質問の内容とその答えは僕たちは一切口外しません。もし僕たちがそうしたなら、首をはねられても構いません……」

「お、おい、アキラ! 何をする気だ!?」

「まあまあ、主任。任せといてください。質問に当てはまると思ったら、静かに手を挙げてください。喋らないようお願いします。ああ、北郷一家さんは参加しなくて大丈夫です……」

 女性陣全員が準備できたのを確認すると、アキラはゆっくりと喋り出した。

「それではいきます。皆さんが、一番大切だと思う人を一人思い浮かべてください……その人があなたにこう言いました……“俺、やっと気が付いたんだ……”」

「待て。その話し方の時点で一人しか思い浮かばないだろうが」

 ヤナギがすかさずツッコミを入れる。

「まあ、見ててください。続けますよ……“やっと気が付いたんだ……俺が本当に愛しているのは君だけなんだ。他の誰でもない、君だけだ。例え皆から恨まれようとも、命を狙われようとも、それでも構わない! 俺は君だけを愛していきたいんだ! 俺の側に、君だけがずっといて欲しい……”と言われました。これを聞いて涙を流すほど嬉しいと思った人は手を挙げてください」

 言葉が終わった瞬間、次々と皆の手が挙がっていく。中には躊躇して、上げ下げを繰り返す者もいた。

「ハイ、ありがとうございます。手を下ろしてください……では次の質問です。皆さんの大切な人が、先程の言葉をあなたではない違う誰かに話しているのを、あなたが聞いてしまいました。自分は選ばれなかった……もうあの人は私を愛してくれない……そう思って、生涯の愛を誓い合った二人を凄く憎んでしまうかもしれない、と思った人は手を挙げてください」

 先程と同じように、女性陣が次々と手を挙げていく。

「ハイ、ありがとうございます。手を下ろしてください。まだそのままで聞いてください。今の質問の内容ですが、選ばれた幸せな方は一人、そして不幸になってしまったのはそれ以外の方々です」

 周りが顔を上げてないことを確認しながら、男はなおも話し続ける。

「立場が違うだけで皆さんの反応が変わりますよね? 下手したら相手を憎みすぎて命を奪いかねません。もしくは悲しみのあまり自ら命を絶ってしまう方もいるかもしれません。皆さんの大切な方が一人を選ばない……いえ、もしかすれば選ぶ事を躊躇っているのかもしれませんが、そういった皆さんの事を想っての行動だとも考えられます」

 少し神妙な顔つきで、男は諭すような語り口になる。

「一人を選ぶ事がこのように色んな結末を迎えることになります。誠実さや潔癖さを追究しすぎると、かえって不幸な結果を招く事にもなりかねないんです。ですから、既に起こってしまった事は仕方ないと思い直して、これから悪化しないようにどう対処していくかが大事なんです……分かって頂けましたか?」

 最後の問い掛けに、全員が静かに手を挙げた。

「ハイ、分かって頂けて嬉しいです! ではご協力感謝致します。もう手を下ろして、顔を上げて頂いて構いませんよ……」

 そう言い残して、男は自分の上司に笑いかける。

「ね? 上手くいったでしょ?」

「……こういう事に関しては天才的だな」

「そりゃどうも。あ、北郷一刀さんを忘れていた!」

 アキラは慌てて、今まで黙って待機している一刀に駆け寄った。

「別の事でも、力を発揮してくれると嬉しいんだが……」

 一刀に呼び掛けながら謝るアキラを、ヤナギは呆れながら眺めていた。

 

 

 

 

 

-続く-


 
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