No.541832

無双恋姫 ―御遣い再臨― 第一話

雅岩さん

貂蝉の転移術によって真恋姫の世界にやってきた一刀君。
そこで出会う女の子とは……

2013-02-09 00:26:09 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2591   閲覧ユーザー数:2175

 見上げれば吸い込まれそうな蒼天が広がり、見渡せば荒涼たる大地が目に飛び込んでくる。

 帰って来たんだ。この世界に……

 

「で、これからどうしようか……」

 

 ひとしきり感慨にひたった後、俺を襲ったのはこれからの身の振り方だった。

 一言で言うと“行くあてが無い”。

 

 以前は訳がわからないまま三国志の世界にやってきて、成り行きで愛紗たちと一緒に行動することになった。

 そしてたまたまやってきた町を助けた事によって逃げ出した太守に代わって太守になった。

 それからも仲間と共に自分のできる限りで自分たちの町を守ってきたらそれが大陸統一という結果となっていた。

 

 ようするに流されるままだったんだよなぁ。

 もちろん、その場その場での決断はしてきたけど。

 いざ何もない状態から何かをするっていうのは難しいな……

 

 まあいいや。とりあえず、現状の把握から始めようか。

 こんな何もない場所にずっといても何も始まらないし。

 

「まず俺自身は…… 何も問題なく向こうから転移できたみたいだな」

 

 怪我もしてないようだし、天の御使いの象徴だったフランチェスカの制服もきちんと着ている。

 

「じゃあ次は荷物か。貂蝉が全部は持っていけないと言っていたからな」

 

 辺りを見回すと荷物を入れていた大型のリュックサックがあった。

 よかった。中途半端に中身だけ転移してたらどうしようかと思っていたからな。

 さっそく中身の確認を……と持ち上げてみる。

 

「軽いな…… いやまあ、元々かなり詰め込んでいたからそれよりはという意味だけど……」

 

 じゃあ中身はという事で開けてみてみる。

 

「よかった。胴着や前の世界でみんなからもらった刀とかはしっかりとある」

 

 最低限これだけは残っていてほしいという物は残っていてくれたみたいだ。

 

「それ以外は……と」

 

 片っ端から確認していく。

 おお、これが残ってるか。ありがたいな。

 けどあれが無いな…… 残念だ。

 

 そして一通り確認が終わる。結果としては――

 

「思っていた以上に悪くない」

 

 この世界であったら面白いなと思う道具が結構残っていてくれた。

 便利な物も……まあ少しはある。

 少なくても今夜野宿する事もできそうだ。

 なるべくならしたくはないけどな。

 

「じゃあ、まずはどこかの町や村を探しに行こうか」

 

 とりあえず現在地がわからない事には始まらないからな。

 

 護身用に刀を腰に装備し、リュックを担いで準備は万端。

 気合も入れなおして、さあ出発だ。

 

<<無双恋姫 ―御遣い再臨―>>

 

 第一話

 

 

 

「黄巾党が現れる前の時代か……」

 

 歩きながら貂蝉が言っていた言葉を思い出す。

 

 この時代だとみんなはどうしてるのかな。

 華琳は魏を立ち上げる前だな。

 蓮華は間違いなく呉にいるだろう。

 愛紗や鈴々は一緒に旅を続けている可能性が高いかな。

 翠や月は涼州にいるんだろう。

 それ以外にも袁紹、公孫賛も城を構えているんだよな。

 

 前回の世界の事や実際の三国志の話を考えると多分こんなところだろうな。

 

 そんな状況の中、俺は何をどうしたいんだろうか。

 武力も無い、知力も無い、仲間もいない。

 俺が目指している場所は前の世界の様な状況だ。

 みんなが生きて町の人たちも笑っている。そんな世界。

 俺が何もしなくてもそんな世界がやってくるかもしれない。

 けど何もせず過ごすなんて耐えられないし、そのせいで誰かが死んだりしたら俺はもう立ち直れない。

 なら俺が少なくなくても立っていなければいけない場所は……

 そしてその為に俺は……

 

 

「これはラッキーだな」

 

 歩き始めてほどなく人や馬が移動した形跡がある場所にすぐ出る事ができた。

 とりあえずこの通りに歩いて行くと人のいる場所に着く可能性が高いな。

 

 ただ……この場所は危ないな。

 近くに山や岩場があって隠れる場所が多い。

 賊が現れる可能性があるか……

 

「おらぁ! ちょろちょろ逃げ回るんじゃねぇ」

 

 と思ったとたんにこれだよ!

 あきらかに争いごとがおきている口調だな。

 

 俺は急いで声が聞こえた方向に向かう。

 近づくにつれ聞こえてくる声から男数人が女の子を襲っている物だとわかった。

 

 俺は刀を鞘から抜き、戦闘態勢を整える。

 

「見えた!」

 

 男が三人か……

 女の子の方は器用に男達の攻撃を避けている。

 よかった、無事だった……

 なら俺がするべき事は一つだ。

 

「お前ら! 小さい女の子を複数人で囲んで、何をしている!」

 

 女の子を助ける。それだけだ。

 勝てる自信は無い。けどここで見捨てて俺の目指す場所を得る事なんかできない!

 

「なんだてめぇは」

 

 よし、俺の言葉で三人の意識がこっちに向いた。

 この間に女の子が逃げてくれれば……って、あれ。

 

「なんだガキか、それに良い服きてるじゃねぇか。刀も中々の物に見えるな」

 

 リーダーだと思われる男が俺の持ち物を見て目の色を変えた。

 けど、そんなことより後ろを気にした方がいいと思う。

 

「こりゃ今日はツイてるぜ。チビ! デク! そのガキは置いてこっちのガキを狙うぞ!」

 

 男がそう叫ぶ。が、反応が返ってこない。

 俺はもう、「後ろを見た方がいいよ」と言いたくて仕方が無かった。

 

「どうしたんだ、早くこいつ…を……」

 

 ようやく後ろを向く男。そして固まる。

 そりゃそうだろうな。そこには昏倒して横たわっているデブの男と、女の子に背後から首を絞められ持ちあげられている背の小さい男がいるんだから。

 

「残るはあなただけですけどどうしますか?」

 

 やわらかな笑顔で話す女の子。

 リーダーの男は言葉にならない声をあげ一目散に逃げ出した。

 

「仲間を置いて逃げ出すなんてっ」

 

 すると女の子が手に小さな男を持ったまま……

 

「駄目」

 

 大きく振り被って……

 

「ですよっ!」

 

 投げた!

 

「ぐえっ……」

 

 そして激突。

 見事なストライクが決まった。

 

「…………」

 

 俺はそれを唖然と見つめるだけだった。

 そんな俺に女の子がとてとてと駆けてくる。

 

「助けていただいてありがとうございます」

「いや、俺はなにもしてないよ」

「そんなことありませんよ。あの人たちの注意をひきつけてもらえなかったら、私逃げるだけで精いっぱいでなにもできなかったですから」

 

 そう言って可愛い笑顔で話しかけてくる女の子。

 

 改めてみてもこの小さな体からあの力が出せるのかとても信じられない。

 フリルのついたリボンにへそ下が余裕で出ているほどのスパッツをはいている女の子。

 なんだろう、前の世界の季衣―許緒―と似た雰囲気感じるな。

 

「そう言ってもらえると俺も良かったよ。俺の名前は北郷一刀って言うんだ、よろしく」

「北・郷・一刀さんですか?」

「よく間違われるんだけど違うんだ。姓が北郷、諱が一刀。字は無いよ」

「二字姓で字が無いって珍しいですね。私は典韋。けど流琉って呼んでください」

「えっ、それって真名なんじゃないの」

 

 いきなり真名を預けられた事に驚いてしまう。

 

「はい。襲われているところを助けてもらいましたから。気にしないでください」

 

 う~ん。さっきも言った通り何もしてないんだけど……

 けどこれで断るのも失礼だよな。

 

「わかった、ありがとう。けど俺には返せる真名が無いんだ。だから好きに呼んでもらってくれたらいいよ」

「そうなんですか。うーん、じゃあすぐに思いつかないのでいったん北郷さんで」

「了解。よろしくな、流琉」

「はい!」

 

 軽く握手をする。

 

「それじゃあまず、あの気絶している三人を縄で縛ってしまおうか」

「そうですね」

 

 そして俺はリュックに縄を取りに戻った。

 

 

「ちょうど兵隊さんたちが通りかかってよかったですね」

「めんどくさそうな顔をされたけどね」

 

 あれから三人を縄で縛った後、ちょうどこの辺の賊の討伐を終えて帰ってきた兵が通りかかり、ついでにと預かってもらった。

 よけいな仕事が増えてと、あまりいい顔はされなかったけど預かってくれただけありがたいと思った方がいいだろうな。

 この時代、すでに朝廷はすでに腐敗していて役人もまともに仕事をしてない事もあると聞いている。

 そんな状況で嫌々ながらも預かってくれただけまだまともな人が統治してるんだろう。

 

「そう言えば北郷さんはなんであんな場所にいたんですか? あの辺は最近治安が悪くなっているからあまり人が通らなくなってるんですよ」

「そうなんだ。いや実は今自分がどこにいるのかさえわかってないんだよね」

「えっ!?」

「う~ん、詳しく説明するのが難しいな…… まあ気が付いたらあの近くの場所にいてさまよっていたんだ」

 

 1800年後の未来から飛んできましたーなんて言えるわけもないし……

 

「そうなんですか」

「逆に流琉はなんであんな場所に? 危ない場所なんだろ」

「今お世話になっているお店。料理屋さんなんですけど、そこのお使いでいました」

「そんな危ない場所に一人でお使い?」

「いえ、その場所は少し離れているんです。けどその帰りに流星がこの辺りに落ちたのを見かけてついつい……」

 

 苦笑しながら流琉が答える。

 流星か、俺もそんな珍しい物を見たら言ってしまうかもな……

 

「最近、管輅っていう占い師の予言が広まってますし」

「どんな予言なんだい」

「えーっと、流星に乗って天の御使いがやってきて、この世界を平和にしてくれるっていうものです」

「へ、へぇ…… そうなんだ」

 

 前回の事やその予言。流星の落ちた場所から考えると俺がその流星と共にこの世界にやってきたって事だよな。

 という事は俺の所為で流琉が危ない目にあったって事か……

 

「そういえば北郷さんって珍しい服を着てますよね。光でキラキラしてるなんて初めてみました」

「え、うん。ポリエステルっていう生地を使ってるんだ」

「ぽりえすてるですか」

「そう。自然にあるものじゃなくて人工的に作られたものなんだけど、この時代じゃまだ無い……」

「この時代ってどういう事ですか?」

「えっ、いやその……」

 

 うっかり口に出してしまって慌てて話を変えようとしたけど既に遅く。

 前の世界の事を省いた現状を説明する事になってしまった。

 

「一八○○年後の世界ですか」

「信じてくれるの」

 

 狂人の類かと思われるのを覚悟して話したけどあっさり納得してくれた。

 

「はい。確かに全てと言われると困りますけど、少なくても北郷さんが嘘をついていない事はわかります」

 

 続けて流琉はお店で色々な人と接してるとそういうのがわかってるくるんですと話す。

 

「ありがとう」

 

 泣きそうになってくる。

 望んでやってきたというのに思った以上に心細かったみたいだ。

 

「それにその予言では天の御使いは白くて光る服をきているそうですよ」

「ああ、だからさっき服の事を聞いてきたのか」

 

 やはりこの制服を着てきたのは正解だったかな。

 

「けど北郷さんが天の御使い様だってことの方がびっくりです」

「状況からするとそうだけど俺自身は普通の人間だよ」

「見ず知らずの人間を助けに来る人は普通じゃないですよ」

 

 笑顔で話してくる流琉。

 

「そういえばどこか行くあてってあるんですか?」

「流琉の予想してる通りだと思う。まったくないよ」

「それなら私が働いている店に来ますか? 今ちょうど人手が足りていないので」

「そうだね。おじゃまさせてもらうよ」

 

 先を見過ぎていても今との剥離に心が潰されてしまいそうになる。

 行くあてもない、こちらの世界のお金もない以上、まずは生活できるようになる事から始めるべきだな。

 ゆっくりもできないけどあせらず一つ一つ出来ることをやっていこう。

 前もそういう風にやってきたんだから。

 

 うーん。そう思ったら気が楽になってきたな。

 なんか気がつかないうちにネガティブになっていたかな。

 

 そして流琉と一緒にこの近くの町に向かっていった。

 

 

 

 

*******************************

無双恋姫 ―御遣い再臨―の第一話をお送りしました。雅岩です。

 

というわけで一刀君が初めて出会う恋姫ヒロインは流琉でした。

可愛いですよね~ 私の中の恋姫キャラで上位クラスにいる娘になります。

 

気が付いていない所でネガティブになっていた一刀君は今回の話でようやく前向きになれたはずです。

些細なことでもそれが救われることになるっていうことでしょうか。

 

ちなみに一刀君が持ってきた道具はどんなものがあるか考えていません。

その時々で面白そうかなと思ったらポンっと出てくるはずです。

 

さて、次回はさらに恋姫キャラ三人、オリキャラ一人でてくる予定です。

 

お楽しみにー

 

あと、コメントや支援を入れてくださった方ありがとうございます。

正直テンションあがりました。

ご期待にそえるような話をかけていけたらと思います。

 

 

 

 

*********

 

さて、ここから先は作者の反省とこの作品に対する裏話的を少し書いていきます。

そのような物が好きでは無い方はスルーしていただけたら幸いです。

 

 

 

では、まず今回のお話。作者本人的には納得のいく形には出来ていません。

流琉との自己紹介以降の場面の展開が無理矢理な感じがしています。

これはひとえに私の技量の無さと直前に内容をがらっと変えた弊害です。

 

このお話ですが、実は元々三年前に考えていた話で当時で第二話まで完成していました。

プロローグはその時の内容から三分の一ほど書き換えて投稿しました。

が、この第一話は丸々書き直しています。

元々はどテンプレの星・風・稟の三人と出会う内容でした。その際に星が記憶を取り戻して……ってな具合でした。

今回その内容をキャラの好みなどで流琉に変えた為に外史の事を知っている一刀君と知らない流琉とで説明できる内容やそうでない所、一刀君の感情の持っていきかたが変わってしまい苦労しました。

 

もし今回の内容でもよかったと言っていただけたら幸いですが、自分でもっと納得のいく展開を思いついたら修正をかけていきたいと思っています。

 

 

それではまた第二話でー

 


 
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