No.530886

真・金姫†無双 #6

一郎太さん

そんなこんなで、あの娘の登場だぜ。

先に言っておく。

コールは禁止な。

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2013-01-12 17:45:58 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:10679   閲覧ユーザー数:7734

 

 

 

#6

 

 

そんなこんなで、本日も仕入れにやって来た。亞莎は部屋で勉強中。俺は1人、市場で食材の数々を物色している。

 

「あれ、アンタ見ない顔だね。どこからやって来たんだ?」

「青州の方からさ。こっちにゃない作物があるぜ?」

「へぇ?」

 

いつもの店である程度食材を購入した後、荷車の前で店を開いている男に話しかけた。新顔だ。青州…北のほうだよな?

 

「見せてもらってもいいか?」

「あぁ、こっちでも食うかは分からないが、この黒麦はまた味が違うからな。どうだい?」

「黒麦?」

 

麦の一種だろうが、どう違うのか興味を惹かれ、実が詰まった箱を覗き込む。そして、俺は驚愕した。

 

「こいつは……」

「おっ、こりゃまた驚いた。兄ちゃん知ってんのか?」

「まぁな……おっちゃん、これいくら?」

「こっちじゃ珍しいからな。ちょいと値が張るが……どのくらい欲しい?1箱か?それとも2箱?」

「全部だ」

「なんだ、そんなもんか……って、全部ぅ!?」

「あぁ。だからまけてくれよ」

「おいおい、こいつはとんだ場所に来ちまったみたいだな。まさか昼前に商売を終えられるとは思わなかったぜ」

 

そいつは嬉しいだろう。俺だって嬉しいさ。

 

「さぁ、いくらだ?」

「……仕方がねぇ。これも何かの縁なんだろうよ。このくらいでどうだ?」

「買ったぁ!」

 

ちょっと予算オーバーはしたが、そこは料理の値段に組み込めば問題ない。いやぁ、いい買い物したなー。

 

 

 

 

 

 

所持金もほとんどなくなり、食材もしっかりと買い込んだ俺は、黒麦のおっちゃんから荷車を借りて、店へと帰ってきた。

 

「亞莎、ただいまー」

「あ、おかえりなさーい!」

 

引き戸を開けて声を掛ければ、そちらではなく、店の裏側から声が返ってきた。

 

「あぁ、鍛練してたのか。偉いぞ」

「えへへ、ありがとうございますっ」

 

パタパタとやって来た亞莎の頭を撫でてやれば、ふにゃっと破顔する。可愛いなぁ、もう。

 

「今日はまたたくさん買ってきましたね」

「おう。珍しい物があったからな。買っちまったんだ」

「そうなんですか?見てみても?」

「おー」

 

食材を店内に運び込みながら答えれば、ガタガタと木箱が開く音が聞こえてくる。次いで。

 

「ひゃぁぁああああああああああ!?」

 

亞莎の叫び声。驚きに荷物を落としそうになりながらも、なんとか金を無駄にしない事に成功する。

 

「うぉっ!?……っと、どうした亞莎?」

「かか、かかか一刀さぁああん!」

「とりあえず落ち着けっどぁあ!?」

 

そして問い掛ければ、いきなり襲い掛かられた。え?

 

「これが落ち着いていられますか!見損ないました!」

「待て待て待て!いったい何が……っと!?」

 

手刀や蹴りでかかってくる亞莎を躱しながら再び問う。どうしたってんだよ、いったい。

 

「まさか…まさか一刀さんが、人身売買に手を出すなんてぇ!」

「はぁああああ!?どういう事だ、よ……」

 

そこまで言われて、ようやく『彼女』の存在に気が付いた。

 

「あ、あわわ……」

 

ひとつだけ蓋の開いた箱の中に、三角の魔女帽子。その下から覗く1対の瞳は涙に濡れ、震えている。

 

「……誰だ、この娘は?」

「問答無用っ!…って……え?」

「ごごごごめんなしゃいぃ…売らないでぇ!?」

「「…………」」

 

これまた珍しい買い物をしてしまったもんだ。

 

 

 

 

 

 

怯える少女に茶を出してやり、ビクビクと震えられながらも話を聞くこと小一時間。

 

「――――話をまとめると、だ」

「ひゃぃ!?」

 

そんな怯えなくても。

 

「まず、お嬢ちゃんの名前は鳳統。で、友達と一緒に、仕える主を探す旅に出たはいいものの、変な男に絡まれちまった」

「は、はぃ…」

「で、そいつから逃げる為に近くの箱に隠れたが、その箱が旅商人の品物だった」

「えぇ…」

「で、抜け出す時機を得られずに、気づけば此処まで来てしまった、と……そういう事で合ってるか?」

「その通りでしゅ…あぅ……」

「さらに言うならば、その友達はもしかして孔明だったり?」

「その通りでしゅ……って、あわわっ、なんで知ってるんですかぁ!?」

「秘密」

「あわっ!?」

 

マジかよ。

 

「とりあえず、あのおっちゃんは身売りの商人じゃなく、俺も人身売買に手をかけてしまった訳ではない、と」

「あうぅ…ごめんなさい、一刀さん……」

「いいさ。誤解は解けたんだ」

 

申し訳なさそうに下げられる亞莎の頭を撫でてやり、俺は鳳統に向き直る。

 

「さて、鳳統ちゃんよ」

「は、ひゃぃっ!」

「嬢ちゃんは、どうにかして、その孔明のところに戻りたい訳だ」

「うぅ…そうです……」

「でも、孔明だって嬢ちゃんと同じように箱に隠れちまった訳だろ?どうやって探す?」

「そ、それは……」

「金もない。武もない。そんな嬢ちゃんが、1人で旅をして大陸を周るっていうのか?」

「あぅぅ…」

「そんな無謀な事をしても、よくて野垂れ死に。酷けりゃ腐った役人にでも買われて、性奴隷で飼い殺しって事もあり得るよなぁ」

「あわっ!?……ふぇぇええええん!」

「一刀さん?」

 

おっと、また泣き出しちまった。そして睨まないでください、亞莎さん。とっても怖いです。

 

「ごめんね、鳳統ちゃん。一刀さんって、時々意地悪だから。でも、ホントは優しいんだよ?……たぶん」

 

おい、小声で言っても聞こえてんだよ、コラ。

 

「はややっ!?」

「ま、今のは、嬢ちゃんが1人で旅に戻った場合の話だ。此処にいれば、そんな心配もない」

「うっく、ひっく……え?」

「出会っちまったのも何かの縁だしな。それに、この店は商人もたくさん来る。もしかしたら、孔明の情報だって手に入るかもしれないぞ?」

「い、いいんですか、北郷さん……?」

 

今にも縋りつきそうな瞳で見上げてくる鳳統ちゃんに、俺は笑みを返して答える。

 

「あぁ、もちろんだ。借金だって返してもらってないしな」

「あ、ありがとうございます!…………って、え?」

 

 

 

 

 

 

「あ、あの…どういう事でしゅか……?」

「だって、俺は鳳統ちゃんが隠れていた箱の分も、黒麦の代金を払ったんだぞ?それも、こっちじゃ珍しいから結構な値段で、だ。それを、嬢ちゃんは無為にしちまった」

「えと、あの、それは……」

「勿論、今すぐ払ってくれるならかまわないぜ?」

「……ちなみに、お幾らくらいで?」

「こんくらい」

 

俺は両手でその値段を示して見せる。

 

「あ、それだったら何とか――」

「あぁ、たぶんそれ、桁が違うから」

「あわわっ!?」

 

そんな小さな銭袋じゃ足りねーよ。

 

「そういやぁ、あの商人に事情を話して、1箱分だけ金を返してもらう、ってのもありだな」

「あの、だったらそれで……」

「でも、そしたら嬢ちゃんを引き渡さないとなぁ。あの男もまだまだ若かったし。旅ばっかで色々と溜まってるもんもあるだろうなぁ」

「あわわわわ……」

「?」

 

キョトンと首を傾げる亞莎とは対照的に、鳳統ちゃんは震え出す。意外に耳年増なのかもしれない。

 

「あるいは、どっかの役人に売られちまうかも。そしたらさっき言ったみたいに……」

「あわわっ!?働きます!ここで働きますから!だから売らないでくださぃぃいい!?」

「亞莎」

「……はぁ、なんですか、一刀さん?」

「従業員が1人増えるぞ」

「仕方がないですね。でも、もっと優しいやり方もあったのでは?」

 

泣きつく少女を抱き留める亞莎に小言を言われるが、十分優しいぞ?

 

「もう、どこがですか」

「こんくらい縛っとかないと、ほんのわずかな情報でも飛び出していっちまいそうだからな。こんな小さな娘には危険が過ぎる」

「はぁ…よしよし、ごめんね、鳳統ちゃん」

「ふぇぇえええん…」

 

さて、俺は新作料理でも作りますか。

 

 

 

 

 

 

メソメソと泣き続ける鳳統ちゃんは亞莎に任せ、俺は裏庭で石臼と、先程購入した黒麦を準備する。

 

「黒麦って言ってたけど、これってどう見ても蕎麦の実だよな」

 

そう。俺が大金を叩いてまで買ったのは、蕎麦の実だ。懐かしの、日本の味。海の幸はないので、出汁は醤油と鶏肉、それから酒でもそれなりの味にはなるはずだ。あとは、麺を打つのみ。

 

「まーわるーまーわるーよ、臼はー、まわるー」

 

俺からすれば数十年前、今からすれば千年以上後の歌謡曲を口ずさみながら、蕎麦の実を石臼で挽いていく。あぁ、ほんのりと蕎麦の香りが――。

 

「楽しそうですね、一刀さん」

「亞莎か。あぁ、楽しいぞ。なんてったって、俺の故郷の味がもうすぐ味わえるんだからな」

「あぅぅ、北郷さんと亞莎さんは、同じ邑の出身じゃなかったんですか?」

「ん?」

 

石臼を回しながら亞莎に答えれば、3つ目の声が。振り返れば、眼を赤くした鳳統ちゃん。泣き止んではいるようだ。というか、真名を交換したのか。意外に早いな、おい。

 

「あぁ、ちょいと訳有りでな。ま、その辺りは追々って事で。それより嬢ちゃんは、黒麦を食った事は?」

「えと、箱の中で、お腹が空いた時に……」

 

思ったよりも強かなようだぞ、このおチビちゃんは。

 

「そうかそうか。だったら楽しみにしとけ。この大陸でこの味を口にするのは俺達が最初だからな」

「?」

「まぁ、待ってろって事だ」

 

 

 

 

 

 

一定量を蕎麦粉に挽き終えれば、今度は麺打ちだ。婆ちゃんがやってるのを手伝った事もあるからな。それくらいは訳ない。

 

「粉がどんどんと固まっていきますね」

「点心の生地、でしょうか?」

 

場所は変わって店内。俺は調理場で生地をこね、亞莎と鳳統ちゃんはカウンター席で採譜の文字の塗り直しをしている。字も書けるんだな。

 

「そいつは違うぜ、(ヒヨ)りん」

「ぴよっ!?」

「なんですか、そのひよりんというのは?」

「ずっと鳳統ちゃんってのも他人行儀な気がしてな。ひよりんはもうウチの従業員、つまりは仲間、家族だ。という訳であだ名」

 

麺棒で生地を薄く延ばし、包丁を準備。

 

「ちなみに、あだ名の由来は?」

「『鳳』って感じじゃないし、同じ鳥類って事で、可愛いひよこさん」

「なんていうか、偶然にしては凄いですね……」

「あわわ……」

「ほい、ほいっ、ほいさ!……どういう事だ?」

 

リズミカルに包丁を動かし、細長い麺を作っていく。あ、駄目だ。お腹が空いてきた。

 

「えっと……」

「あの、自分で説明しましゅ…」

「いいの?」

「はい。さっきは怖くて泣いちゃいましたけど、冷静に考えれば、私の事を想って言ってくれたというのが分かって……」

「そっか。雛里ちゃんがいいなら、それでいいよ」

「ん?」

 

均等に切り分けた麺を小分けにし、1杯分の玉を作っていく。何やら2人が話しているが……って、ひなり?

 

「あの、北郷さん」

「おう、どしたぃ?」

「先ほどは、取り乱してすみませんでした!」

「お?」

 

鶏肉を細かく切り分けて湯に入れていると、(ヒヨ)りんが立ち上がり、ペコリと頭を下げる。真面目な話のようだ。俺はいったん手を止めた。

 

「こんな風になっていなかったら、私はたぶん、当てもないのに街を出ていました。朱里ちゃん……孔明ちゃんを探しに」

「……」

「でも、ちゃんと考えればわかるんです。それがどれだけ危険な事か。私は、こんなところで何も残さずに死ぬ事はできません。だから、ここで働かせて欲しいんです……生きて、朱里ちゃんに会う為に」

「雛里ちゃん……」

 

先程までの様子が嘘のようだ。堂々と、(ヒヨ)りんは言葉を紡ぐ。

 

「それに、北郷さんは言ってくれました。私はもう、ここの家族だ、って……。だから、北郷さんに真名を預けたいと思います」

「……いいのか?」

「はい。今まではずっと朱里ちゃんに頼りっ放しでしたが、ここでなら、私は変われると思うんです。その為の第一歩として、どうか受け取ってはもらえませんか?」

 

どうやら、この娘も亞莎と似ているらしい。必要なのは、きっかけなのだ。亞莎が姉さんから自立する為に必要だったように、この娘も、友人に頼ってばかりの自分と決別する為に、きっかけを必要としていたのだろう。

 

「わかった。ありがたく受け取らせて貰うよ。俺は北郷一刀。姓が北郷で、名が一刀だ。だが、今はこの一刀を真名の代わりにしている」

「はいっ、私の事は、雛里と呼んでください、一刀さん!」

「おう、雛里ん!」

「ぴよっ!?」

 

という訳で、新しい妹が出来ました。

 

 

 

 

 

 

あぁ、ひとつ言い忘れていた。

 

「なんですか?」

「仕事中は店長(マスター)と呼ぶように」

「ま、ますたぁ……?」

「一刀さんのこだわりらしいので、気にしたら負けですよ」

「はぁ……?」

 

そんな、昼さがりのお蕎麦時。さて、食い終わったら仕込みを始めますか。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

という訳で、#6でした。

 

 

雛里んが仲間になりました。

 

 

可愛いです。

 

 

雛里んコール禁止したら、※がまったくつかない気がしてならない。

 

 

ではまた次回。

 

 

バイバイ。

 

 

 


 
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