No.530848

超次元ゲイムネプテューヌmk2 OG Re:master 第八話

ME-GAさん

自分の使ってるスマホは古くてネプコレできないってどういうことだ!?

2013-01-12 15:42:35 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1425   閲覧ユーザー数:1385

プラネテューヌ領。

ゲイムギョウ界に存在する巨大な大陸の中で西方を治める4つの国の内の一つ。

その中心部に位置する中央都市『プラネテューヌ』。

大陸上のあちらこちらのぽつぽつと存在する小都市ではない。プラネテューヌ領の全てを統治し、他国との貿易の中枢を押さえる大都市であった。

 

 

そこから北西の位置に当たる場所に存在するダンジョン『バーチャフォレスト』。

ダンジョンにしては珍しく平原地帯の姿を残した美しく、近年までは観光名所としても機能していた場所だ。

しかし、やはりごく最近になってモンスターが蔓延るようになりまだまだレベルの低いモンスター達が集まっており駆け出しの冒険者や戦闘員にはうってつけの狩り場であった。

それ故にあちらこちらにモンスターを狩ろうとするのであろう、まだまだ装備の浅い者達の姿が見える。革製の鎧を纏った若い男性、指定のブレザー調の衣装を身につけた士官生達の姿がちらほらと見えている。

時折吹く風が平原に広がる木々や花々を揺らして心地よい音を奏でている。

しかし、そのなかに銃や剣のものと言った不快音が風に乗って流れていた。

 

 

少年の持つ日光を弾く黒い刀身が鞘から解き放たれる。

まるで何もかもを覆い尽くしてしまいそうなほどにその刀身は黒く、禍々しい殺気すらも帯びているように感じられた。

しかしそれに怖気づくこともなく、いやそもそも感情という類の物を持ち合わせてなどいないのか、うっすらと青く透明なゲル状の身体を持つモンスター『スライヌ』はぴょこぴょこと跳ねながら少年にゆっくりと近付いていく。

『ヌラッ』

『ヌラ~~~』

意味も不明な擬音を発しながら、スライヌの集団は迷うことなく少年に接近する。

少年は戸惑うことなく、長刀を両手で構える。刹那、その瞳に一筋の純粋な殺気が走る。

それには流石に身の危険を感じたのかスライヌ達は身を引いて逃げ出そうと試みるもすでにその行動は遅いとしか言いようがなかった。

サァ――、とまるで空気が抜けるように淡く優しい音が平原の中に響き、スライヌ達の身体は真っ二つに切り裂かれる。

どぷん、と液体が地面に溶ける音と共にスライヌ達の姿はブレて一斉に消えた。それを確認してから少年はそっと目を伏せてから黒の刀を鞘に収めた。

チン、と金具の音が異様に響く中、少年はふっと吐息して刀を定位置である腰に戻す。

その手際に見惚れるように、周囲を行く人々は目を剥いて少年に視線を送っていた。しかし少年はそれに気にした風もなく颯爽と自身の纏う黒のコートを風に靡かせて木陰にいる連れの少女に声を掛ける。

「こっちは済んだぞ」

「うん、後は奥にいるモンスターを幾つか討伐したら終わりかな?」

少女:ネプギアはクエスト用紙に目を落として内容を確認する。対する少年:キラの方も先程のまるで背筋を凍るほどの殺気を放っていた彼とは違う、無邪気そうに笑みを浮かべたまま自身も樹木に体重を預ける。

さわさわと頭上で木枝が揺れるのを感じながら、心地のよい風が吹きつけるをのキラはどこか不思議な感触に思いながら傍らの少女に視線を送る。

青い平原をバックに、その長い桃色の髪を靡かせてそっと正面を見据える彼女の姿はまるで絵画にでも残しておきたくなるほどに美しく、儚い存在であった。

――そんなことを考えるような人間ではないのに、とキラは一瞬だけ自分の思考に疑問を持った。だとすれば彼女がそうさせているのか、と。彼女という存在は己にそれだけの多大的な影響を与える存在なのかと彼女の存在がますます気に掛かってしまうのが己自身よく分かっていた。

しかし、そんな彼の視線に気付くこともなくネプギアは邪気のない笑顔を向けてキラに問い掛ける。

「そろそろ行こっか?」

「ん、あ、おお。そうだな」

心ここにあらずだったキラが、ネプギアの呼びかけに慌てたように返答する。

ネプギアは自分が背を預けていた木の幹に手を突いて腰を上げる。彼女が歩き出すと同時にキラもスッともたれていた背を起こしてネプギアの後を追うように歩みを進める。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

大都市『プラネテューヌ』の中央街に位置する政府立の大病院。

治安の悪化の所為か、ここには軽傷やら重傷やらの人々が常に出入りをしていた。腕や足に包帯を巻いた男性、車椅子で病院内を進む少女、と様々だが分かるのはここにいる人々の目に生気はほとんど灯っていなかった。

その中で少女、コンパはいつものようになだれ込むように押しかける患者の相手を一人ずつこなしていく中で見知った顔が入室してくることに気付いた。

「あ、あいちゃん。どうしたですか?」

彼女の顔見知りであるアイエフが扉を押し開けて彼女の元に歩み寄っていた。

「ちょっと緊急の患者がいるの。受付に頼んだらこんぱに預けてって言われたから連れてきたわ」

アイエフがチラと扉の方に視線を向けるとそれに繋ぐように二人の政府員が、恐らく冒険者と思われる男性を担いで入室する。

出血こそないものの、それでも全身に走る打撲が目立ちその出で立ちはどうも痛々しかった。

コンパは一瞬、慌てたように口元を押さえたがすぐに医療キットを揃えて男性の身体を見て回る。

「結構な重傷です……。何があったですか?」

「分かんないわ、ダンジョンのど真ん中に倒れてたんだもの。この人が目覚めてから事情を聞くしかないわね」

アイエフは訝しむような目つきで男性を見る。

『バーチャフォレスト』で倒れていたこの男性にアイエフは少しだけ見覚えがあった。確か以前に政府の元を尋ねてきた国外の冒険者であったはずだった。彼が身に纏う武装もさることながら決して駆け出しの冒険者とも言えず、それなりに経験を積んだやり手の冒険者であることが伺えるのだが、そんな彼がこうして重傷を負ってあまつさえ気を失っていることにアイエフは少なからず戦慄した。

そして、あの地帯にいったい何が起こっているのかと危惧していた――。

 

 *

 

コンパの治療が終わって三十分ほどが経過した後、

男性は「う、ぅ……」と呻き声を上げてゆっくりと顔を上げた。

それからキョロキョロと周囲を見回して、自分がいったいどういう状況に置かれているのかを確認してからほっと安堵の息を吐いた。

「ここは……病院、か……」

「ええ、政府立の病院よ。それより聞きたいことがあるの」

アイエフは男性に怪訝な顔つきで迫る。コンパの力を借りてゆっくりと上体を起こした男性は訝しむようにアイエフの顔色を覗ってから首肯した。

「あなたが気絶する前、いったい何が起きたの?」

「……俺は」

男性はぽつりぽつりと語り始めた。

言い分によると、男性はプラネテューヌに到着したばかりの冒険者で政府の中枢建物である『プラネタワー』に顔を出し、軽く情報を得た後にギルドへと赴いたらしい。

その後、資金稼ぎのために幾つかの簡単なクエストを受注してから、まずひとまずの目的地としてバーチャフォレストに繰り出したらしい。

彼の腕前をもってすれば、なかなかに簡単なクエストであった。次々と目標であるモンスターを討伐していき、残り目標が一体を切ったところで背後にとてつもない衝撃を感じて意識が途切れたという。

「何のモンスターにやられたか、分かる?」

アイエフの問いに、男性は思考を廻らせるようにして腕を組む。

しかし、暫くした後に力無く首を横に振ってしまった。

「何のモンスターか分かれば、まだ対策のしようがあったんだけどね……」

アイエフが残念そうにそう呟くのに対して男性は「すみません……」と肩をすくめて謝罪したが、アイエフは右手でそれを制す。

「あなたが謝る事じゃないけど……それよりもすぐに休んだ方がいいわ。こんぱ、とにかく病室に送ってあげましょう」

「分かったです」

コンパとアイエフは男性の両肩を担いで彼のはいる病室の方を目指していく。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

ずばっ、と小気味のよい音と共にスライヌがまた一匹切り伏せられた。

しかしその瞬間にも己の周囲を塞ぐ集団のスライヌの波が衰えることはなく、じわじわと自分たちを狙ってきていることが分かる。

ぽよんっ、と可愛らしげな音を立ててまた一匹、スライヌがキラに向かって跳んでくる。刀の軌道が間に合わない、キラは右足でスライヌを蹴り飛ばし、びちゃびちゃと音を立ててスライヌが四散するのを確認してから足下に迫ってくるスライヌ達を新たに切った。

『ヌラッ』

『ヌララッ』

ふっとネプギアの方に視線を向けると既に何匹かのスライヌがネプギアの身体にまとわりついていた。

「チッ」

キラは小さく舌打ちして、自分と彼女の間にいるスライヌ達を切り捨てて彼女に付いているスライヌ達を次々と引っ剥がす。

ぽよんっ、ぽよんっ、とまるで神経を逆撫でにでもするようにスライヌ達は地面を爆ぜて転がっていく。

「うぅ~~……」

ネプギアは既に軽く涙目になってすっかりびちょびちょになって色白の肌が透けて見えてしまっているワンピースに視線を向けてキラは軽く赤面してから咄嗟に視線を正面のスライヌの軍勢に反らした。

「ベトベトだよ~……」

「我慢しろ!」

キラはネプギアにそう叱咤して寄ってくるスライヌ三匹を斬る。

――おかしい、とキラは思う。

今まで何度もここに足を踏み入れてきてはいるが、こんなにもスライヌが大量発生することは一度もなかった。それどころか遠くの方に視線を向ければ、むくむくとまるでソフトクレームが出来上がるときのようにスライヌ達が地面から湧き出してきている。

こんなことは初めてだった。

またしてもキラは小さく舌打ちして、ネプギアを脇に抱えて背後に聳える巨木の幹を蹴ってスライヌの軍勢を跳び越える。

『ヌラッ?』

『ヌラヌラッ?』

予想外というようにスライヌ達は慌てている。その隙にキラはネプギアを地面に降ろして手を引いて疾走する。

「ねぇねぇキラぁ、ここのスライヌってこんなに多いの!?」

半ば涙目涙声でネプギアは嫌悪きった表情でキラに問うたが、キラは怒声を張り上げて答える。

「なワケないだろ! こんなに多いのは初めてだ!」

確かに討伐する戦闘員達が長らくここを開けてモンスターが大量発生したことはあったがそれでも数十単位が増えたのみで、こうしてざっと見ただけでも数百単位、しかもスライヌ単種のみが増えているとなるとこれは明らかに異常事態であることは容易に察しが付くことだった。

とはいえ、こんな緊急事態を見逃しておけるはずもなくましてやスライヌ達は自分たちを追ってきている。このまま街に逃げたところで彼らを引き連れて余計な混乱を招くだけだ。

キラは再び、小さく舌打ちする。

急ブレーキを掛けて刀に手を掛けて居合の形を作り、そこから目にもとまらぬスピードで刀を振るう。直後、跳ねていたスライヌ達の動きが止まり、刹那、激しい水音を立てて四散した。

今ので片付けられたのも精々数十匹程度だろう。刀を鞘に収めてキラはそう推測する。

『ヌラッ』

『ヌラ~~~ッ』

対する彼らは、何を思うでもなく至って涼しげな表情でじりじりと迫ってきている。

――違和感。

何を待っている?

何をしたい?

何を起こそうとしている?

いや、そもそも――『何故自分たちを狙う?』

今ではスライヌの軍勢の驚き、逃げてしまっているがここ辺りにはまだ結構な数の人間がいた。ならば手当たり次第でもいいはずだ。しかし何故、彼らは執拗に自分たちを狙うのか、スライヌ達が出現してからただ一つ、自分たちを狙うのはどうして?

キラはそう思いながらまた一匹、スライヌを切り伏せた。

チラ、と背後のネプギアに視線を向けると彼女の方もまたスライヌに剣を立てていた。トン、と背中を合わせて守り合う形になる。

「キラ……早く抜けないとこっちも限界になっちゃうよ」

「分かってる。けど、このままにもしておけないだろ」

どのみち今ここを抜け出したとしてもどうせ戦うことになる。それに最早、この状態で逃げ出すことなど不可能だった。

彼らの周りには無数のスライヌ達が、二人を囲うようにじわりじわりとゆっくりと歩み寄っている。

たかがスライヌ、しかしモンスターだ。人間に危害を加えるなど重々承知、その上でキラはここに来た。

ぎゅぅ、と刀を握る手に自然と力が籠もる。

(これまで、か……)

いや、まだ――。

生にすがりたい。まだ、まだ生きていたい――。

そんなみっともない考えがキラの思考を駆けめぐる。

自嘲したような笑みが自然と浮かぶ。己はこんなにも卑しく、そして悲しい存在であったことに対する嘲笑。

スライヌ達が飛び上がる。自分たちに襲い掛かろうと瞳をぎらつかせて。

「ッ――!」

ネプギアが目を伏せているのが分かった。

キラもそれにならうように、そっと終わりを覚悟して目を伏せ――

「ゴメン……『姉さん』……」

その言葉を、そっと、静かに告げた――。

 

 

ザン、と鋭利な刃物で何かを斬る音がした。

スライヌ達はこんな鋭利な攻撃はしない。ならば、救援か。

キラはそっと瞳を開く。

サイドアップにされた茶髪と青いコートが風に吹かれて靡いていた。

その手を覗くことが出来ない、大きめの袖から黒い特異な形状の武器『カタール』が一対、伸びていた。

風に乗ってよく通る、心強い声がキラの耳を刺激した。

「間一髪ね。もう大丈夫よ」

「ッ――アイ、エフ……さん?」

アイエフはキラに横顔を見せてニッと口の端をつり上げた。

どこからともなく現れた彼女の姿に驚いていたのはキラ達だけじゃない。スライヌ達の方も、いきなりの彼女の出現に戸惑っていたらしく動きを止めていた。が、すぐに新たな敵を見つけたとばかりに瞳の色を変えて飛びかかった。

数にして恐らく15匹くらいか。アイエフは両手を左右に突き出した状態でくるっとターン。それによってまず4匹のスライヌが四散した。続いてカタールに内蔵された銃弾で更に3匹を撃墜。回転を止めて直線上に並ぶ3匹をキックで葬り、残る5匹を回し蹴りで墜とす。

実力差をモロに見せつけられてスライヌ達もじりじりと身を引いていた。アイエフが一歩踏み出す度に向こうもゆっくりと距離をとる。先程とはまったく逆、まさに形勢逆転だ。

それを横目に、コンパが医療器具を携えて二人の元に駆け寄る。

「お待たせです」

「あ……コンパさん」

ネプギアは安心したように彼女の名を呼んだ。

「た、助かったのか……」

キラは安堵の息を盛大に漏らしてがくりと地面に膝を突いた。

スライヌ達に睨みをきかせつつも、アイエフはクイと顔を半分だけ覗かせてキラ達に言った。

「つーか、なんでアンタらはこんなとこにいるワケ?」

「え? あー……なんつーか、その……」

キラは言葉に詰まる。

先日に言われたことを思い出したからだ。

 

 

『そうね、私が悪かったわ。頃合いを見てこっちから連絡を入れると思うからその時は……』

 

 

つまり、アレはこちらの準備ができ次第、という意味だ。

先に彼女たちに何かを言っておくべきだったかとキラは苦い表情を俯かせた。

「ま、無事だったから許してあげるわ」

「でも、これからはそういう無茶はやめてほしいです」

「はぁい……」

ネプギアは疲れ切った声でそう答えた。

彼女の身体がへなへなと崩れ落ちる。それを慌ててキラは支えてやった。

「とにかく、今はこいつらを片付けて……」

アイエフはスッと眼前のスライヌ達に視線を落とす。

が、その視界に映るのはただの青。いや、水色の方が限りなく近いような気もするがそんなことは極めてどうでもいい事柄だ。

本来『それ』が発するはずの可愛らしげな音はこの状態では決して有り得ない。ぼよんっぼよんっ、と超特大級の水風船を跳ねさせたら恐らくこんな音がするんじゃねーか、みたいな音を発してそれは4人を見下ろしていた。

「――」

アイエフは言葉を詰まらせた。いや、声を発せなかった。

何かを言おうとした瞬間に身体を襲う浮遊感と激痛。もしかしたら骨の一本や二本折れたんじゃないかという音と共にアイエフのその小柄な身体が吹き飛ばされたのだった。

キラは何も言えなかった。目の前に存在する圧倒的なモノに戦慄した。

形状は、何の変哲もない至って普通のスライヌだ。ベスでもメタルでもない。

けれど、圧倒的な存在感を醸し出しているのは紛れもなくそのサイズだ。

縦は恐らくキラを二人並べてやっとつり合うくらい、横はもう街道をせき止めてしまうほどに特大サイズ、言うなれば『ビッグスライヌ』の様相を呈していた。

「いッ――!」

声を上げようとしたがそれよりも早くにビッグスライヌの身体が、決してその図体からは想像も出来ないようなまさに閃光のスピードでキラに突進を仕掛けてきた。

キラの背中に大きな衝撃が走る。どうやら樹木に叩き付けられたらしい。

「ってぇ……」

しかし、痛みに悶えるヒマもなくビッグスライヌは跳躍してキラを踏みつぶした。

「ッ――!」

息が出来ない。

キラは必死にもがくがそれに相高まるようにしてビッグスライヌも押さえつける力を強める。

キラの視界がぼやけて、意識も朦朧とする。

「ッ! コンパさん、援護お願いします!!」

「りょ、了解です!」

ネプギアは剣を構えてビッグスライヌに突進。コンパが特大注射器を構えて放射、ビッグスライヌの耳の辺りに命中して爆発が起きる。

『ヌラッ?』

野太い声でビッグスライヌがこちらに視線を向ける。ネプギアは剣を逆手に構えてビッグスライヌの額に当たる部分に突き立てた。

剣を引っこ抜くと中からびゅっと奇妙な液体が噴き出す。

「やった……?」

ネプギアは距離をとってその様子を眺める。吹き出した液体はやがて一つの小粒となり、スライヌが生み出された。

「うぇえ!?」

あまりに衝撃的だったか、コンパがそう声を漏らした。ネプギアの方は既に声も出ないかただただ驚いた表情でそれを見ていた。

そしてスライヌは二人を一瞥するとぼよんっぼよんっと跳ねてビッグスライヌと同化した。

たらりとネプギアの頬に冷や汗が流れる。

「あの……あれ、何なんでしょうか?」

「わ、分からないですぅ……」

その時、ビッグスライヌの瞳が光った。

ぐりんっ、と身体の向きを変えて二人に突進を繰り出す。

「ッ――!」

ネプギアは咄嗟にコンパ諸共近くの茂みに突っ込む。

的を外して背後に聳えていた巨木にビッグスライヌの身体が突っ込む。ミシミシ……と音を立てて巨木が倒れた。

癪に障ったようで、ビッグスライヌがぐぐぐっとゆっくりと身体を二人の方へ向けて怒りに視線を向けていた。

直後、ビッグスライヌの身体は二人の眼前に迫っていた。

「ッ!」

痛みに表情を歪めた。

けれど、今度こそキラは足に力を込めた。

全身の骨が、筋肉が軋むのが分かった。けれど、ここで折れるわけにはいかない。ぐっと両足に力を込めて鞘から抜きはなった黒い刀身でビッグスライヌを止めていた。

「キラ――!」

「退け! 早く!!」

キラの怒号にネプギアとコンパははたと気付いた風にその場を離れた。

(よし! あとはこのまま――!!)

しかし、そこでまた脳が揺らいだ。

まだ完全に回復しきっていないらしく、目眩が襲う。

その隙を襲ってビッグスライヌが力を込める。

「しまっ――!?」

――ガスッ、太い音と共にビッグスライヌの身体が吹き飛んだ。

アイエフがハイキックを放ち、ビッグスライヌに一撃与えていた。

「助かりました……」

「まだ早いわよ」

アイエフの額から出血しているのが見て取れたが今は気にしている場合ではないという風にアイエフは乱暴に額の傷を拭っていた。

バキバキと木々の折れる音がしてのっそりとビッグスライヌの巨体が持ち上がる。

『ヌラ~~』

「コンパは援護射撃! ネプギアは右から、キラは左から攻めなさい!!」

アイエフの指示にコンパは再び爆撃弾を装填して放射。ヒットした部分から爆炎があがり、ビッグスライヌの動きが止まる。

できるだけ姿勢を屈めてキラは刀を構えてスライヌに斬りかかる。先程と同じようにビッグスライヌの身体から液体が爆ぜ、スライヌが生み出される。同化される前にキラは一匹を叩き潰してもう一匹を斬る。

ネプギアはキラよりも大きくビッグスライヌの身体をえぐり取る。分離したスライヌを一撃で叩き斬って葬る。

アイエフは牽制射撃をしながら本体に接近、右のカタールで額に突き立ててもう片方でスライヌ達を切り伏せる。

大きさが半分程度になったところでスライヌ達は分離した。

トドメとばかりにコンパの爆撃弾が地面を抉り、数匹が消し飛ぶ。

『ヌラッ!?』

『ヌラヌラッ!!!』

危険を感じ取って、スライヌ達は一目散に茂みの中に消えていく。

「――終わっ、た……?」

ネプギアはへなへなと地面にへたり込む。キラも安堵の息を漏らして刀を地面に突き、体重を預ける。

 

 *

 

「チッ……アイツら……」

少女は忌々しそうに奥歯を噛んだ。

バーチャフォレスト、ネプギア達から暫く離れた場所でその少女は悔しそうな表情のまま4人を睨んでいた。

身を隠すように、木々の陰に隠れてその少女はそこにいた。

「まさかビッグスライヌを撃退するなんて……」

少女としてもキラ達がビッグスライヌを撃退することは予想することが出来ないことであったらしく、憎々しげに唾を吐いた。

『ヌラッ』

『ヌラ~~ッ』

「けっ、うるせぇなテメェら」

少女が何やら異様なディスクを前につき出すとスライヌ達の身体がそのディスクに吸い込まれるようにして消えた。

「にしたって、マジパネェ奴らだな……。マジック様が目ぇつけんのも分かる気がするな……」

最早、感心したような素振りで少女は顎に手をやって暫く彼女らを眺めていた。

しかし、そこから少女は不適に口元をつり上げる。

「ってぇことは……アイツらを殺れば、アタシは……!」

ゾクゾクと身体が歓喜に震えるのが分かった。

彼らを殺せば、自分は間違いなく有能だと認められる。そう、認めて貰えるのだ――。

そう考えるとこの興奮を抑えてなどいられるはずもない。

『クックック……』と抑えきれない衝動をそのまま笑い声として吐く。

「いや、焦っちゃダメだな。しっかりと準備して……」

とは言うモノの、少女は既に成功した姿を思い描いているようで不適な笑みを途絶えさせることもなく、ゆっくりとその場を立ち去る。

 

 *

 

「よかったぁ~……」

ネプギアは目元に涙を溜めてキラに抱きついてそう言った。

彼女の端正な作りの顔が急接近したことに対してキラは自分の動悸が速くなることを感じつつ、彼女の華奢な身体を抱き留めた。

彼自身も、自分が生存していることをようやく実感して安堵の息を盛大に漏らす。

「助かった……」

消え入りそうな声と共にキラはふぅと吐息した。

目の前に感じる少女のほんのりと暖かい体温が、自分が生きていることがよく実感させてくれる。

しかし、すぐにそんな彼の表情に陰が掛かる。

「――(ニコッ)」

「――(ゾクッ)」

アイエフが至ってにこやかに笑うのに対し、キラは背中に悪寒が走るのがよく分かった。

つぅ、と額に冷や汗が垂れる。ひくついた表情が浮かぶ。

ネプギアの方もそんなアイエフの表情に気付いたのか、キラと同じように恐ろしげな表情でアイエフを見ていた。

「まあ、色々と言いたいことはあるんだけど――」

「「すいませんでしたー!!」」

土下座×2。

見かねたコンパの方は少し遠慮がちに横から話に入る。

「あ、あの、もういいんじゃないですか?」

「ダメよ、あと少しで死んでたかもしれないんだから。ここは厳しくいかなきゃ」

その言葉に二人の表情が更に青ざめる。

そんな二人を一瞥してアイエフは嘆息した後に腰に手をやってから声を発した。

「とにかく面倒な説教は一時中断ね。とりあえずここを離れましょ」

アイエフはピッとダンジョンの出口の方角を指してそう言った。

「ですね。怪我の方もゆっくり治療したいですし、早く帰るです」

コンパの言葉にキラはひとまずゆっくり首を縦に振った。

まだ少し軋む身体を起こしてキラはふと空を仰いだ。

 

 

 

 

 

――何かが起きそうな、そんな一雨来そうな黒雲が迫っていた。

 

 

 

キラはきゅっと口を噤み、先を行く三人の後を追った。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択