No.528710

真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史動乱編ノ二十四


 お待たせしました!二日連続投稿ですが。

 今回の拠点話を飾るのは…満を持して登場の命さんです!!

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2013-01-06 22:30:32 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:5938   閲覧ユーザー数:4557

 

「なあ、一刀。妾は『雑煮』という物が食べたいのじゃが」

 

 所用にて洛陽を訪れ、陛下に挨拶に来た俺に対しての陛下の第一声がそれ

 

 であった。

 

「はっ!?…雑煮、ですか?」

 

 雑煮って…あの雑煮か?でも何で?あれって日本独特の料理のはず…俺も

 

 朱里もそれについて、こっちに来てから話した事も無いのに…何故、陛下

 

 が知っているんだ?

 

 俺の顔に疑問が浮かんでいるのが分かったのだろうか、陛下は一巻の木簡

 

 を見せる。

 

「これは…?」

 

「お主も『史記』は知っておろう?」

 

「はぁ、そりゃ有名な書物ですし…」

 

「これはな、その著者である司馬遷が史記の中に入れるはずだった幻の列伝

 

 なのじゃ」

 

 えっ!?…そんなものがあるのか?まあ、外史だしと言ってしまえばそれ

 

 までなのだが。

 

 その木簡の最初には『天刀』とだけ書かれていた…待て、これって?

 

「その名はのぉ、高祖に仕えし名軍師、張良の側に常にあったという天よりの

 

 使者とか申す者の名なのじゃが、その中に『雑煮』なる食べ物について書か

 

 れている一節があっての、それだけではどのように作るのか分からぬのじゃ

 

 が、もしかしてお主か朱里なら知っておらぬかと思うての。どうじゃろう」

 

 

 

 俺はその列伝の該当部分を読んだのだが…確かに雑煮だ。しかもこれは間違

 

 い無くいつも正月にばあちゃんが作ってくれた北郷家の雑煮だ。という事は

 

 この『天刀』ってやっぱり…。

 

「…お~い、一刀~。聞いておるのか~」

 

 気が付くと陛下の顔が目の前にあり、俺がびっくりして尻餅をついてしまう。

 

「何じゃ、こんな美少女の顔を目の前にして驚くとは失敬な。ここは妾の唇を

 

 ガバッと奪う場面じゃろうが」

 

「……………」

 

「こりゃ、何か言わんか!これではただ妾が恥ずかしいだけじゃろうが!!」

 

 陛下の突然の言葉に驚きの余り二の句をつげない俺の前で、陛下はぷりぷり

 

 怒っていた。陛下のこういう所は意外に可愛いと思ってしまう。

 

「まあ、それはともかく…どうなんじゃ、わかるのか」

 

「内容は理解しましたが、俺には作れません。朱里に聞いてみないと。すぐに

 

 南陽に戻って聞いてき『そうか、ならばすぐに南陽に行こうぞ』…はい?」

 

「何じゃ、聞こえなかったのか?妾も共に南陽へ行くと言っておるのじゃ」

 

「いやいやいやいや、陛下がみだりに洛陽から動くのは問題があるかと」

 

「嫌じゃ嫌じゃ!妾も行くのじゃ!!たまには洛陽以外の所にも行ってみたい

 

 のじゃ!!」

 

 子供か、あんたは!!…っとツッコみそうになってしまったが、さすがに

 

 陛下相手にそれはまずかろうと思いとどまる。

 

「さあ、すぐに支度せよ!楽しい南陽への旅の始まりじゃ!!」

 

 はぁ…陛下は気楽に言ってるけど、陛下のご移動っていろいろ大変だという

 

 のに…劉協陛下はいつも『私もたまには洛陽以外の場所にも行ってみたいと

 

 は思うのですが、皇帝の移動にはとかく大変な手間がかかるもの、みだりに

 

 行うわけには参りませんね』って言ってたのに…。でも、今更撤回しなさそ

 

 うだしな…この人は。はあ、誰か胃薬を頂戴…。

 

 こうして劉弁陛下の初の行幸は突然に決まったのであった。

 

 

 

 ~南陽にて~

 

「というわけで陛下におかれてはここにしばらく滞在される事となった。いろ

 

 いろ大変だろうが、より一層の警戒態勢をお願いする」

 

 俺からのお達しに皆、げんなりした顔となる。多分俺も似たような顔をして

 

 たんだろうな。

 

「ところで朱里、分かるかその木簡の内容で?」

 

「はい、間違い無く北郷家の雑煮ですし、おばあ様には雑煮の作り方は教えて

 

 もらってますので大丈夫なのですが…これがこの世界にあるって事は、この

 

 外史って、もしかして…」

 

「ああ、じいちゃんが過去に来た外史って事だな。それがばあちゃんと出会っ

 

 た外史なのか二回目の外史の方なのかは分からないけど」

 

 俺はそう言ってため息をついた…じいちゃんも余計な物残しやがって、その

 

 おかげで孫が苦労するだろうが。

 

 ・・・・・・・

 

「朱里さん、準備出来ました」

 

 準備を手伝っていた流琉がそう朱里に声をかける。最初は朱里一人で作る予

 

 定だったのだが、新たな天の国の料理を作ると聞いて、流琉と紫苑が黙って

 

 いるはずも無く、喜々として手伝いに参加していた。

 

 準備した食材は丸餅の他、鶏のもも肉・里芋・蒲鉾・焼き海老・春菊、出汁

 

 用に干し海老・干し椎茸を使用し、味付けのベースとして醤油と酒を少々。

 

 これが我が北郷家に代々食べられている雑煮である。

 

 朱里が手際良く作っている所を見ると、ここに来る前に、ばあちゃんから

 

 しっかりと教えてもらっていたようだ。

 

 

 

「出来ましたよ~」

 

 朱里が皆に声をかけると、全員先を争うように食堂へ入ろうとするが、

 

「待て、陛下が先だろう」

 

 俺のその言葉に皆、陛下に道を開ける。

 

 陛下が食堂に入り皆も席についてから、朱里達が雑煮を配膳していく。

 

「ほう、これが雑煮というものか。一刀の国では何時も食べられている物

 

 なのか?」

 

「いえ、新年の祝いの席で食べるのが一般的ですね。何故新年なのかはいろいろ

 

 な説があるようですが。さあ、まずは熱い内にどうぞ」

 

 やはりというか何というか、全員が餅から食べていた。

 

 皆、美味しそうに食べているので大成功と思いきや、肝心の陛下の箸が進んで

 

 いなかった。何かあったのだろうか?

 

「お口に合いませんでしたか?」

 

 俺が恐る恐る聞くと、

 

「いや、そういうわけでは無い。予想以上に美味じゃった…のだが」

 

「だが?」

 

「いや、何でもないのじゃ」

 

 そう言って陛下は再び食べ始めたが、その眼が凪の方に向いた時に何かを捉え

 

 たが如きに眼が光ったように見えた。

 

「む…凪よ、お主が雑煮にかけているそれは何じゃ?」

 

 

 

 見ると、凪は雑煮にこれでもかとばかりに唐辛子の粉をかけていた。

 

 全員の眼がそれに向けられると、凪はうろたえたかのように眼を泳がせる。

 

「あ、あの…こういうのは、まずかったでしょうか?」

 

 確かに、雑煮に唐辛子をふりかける人はたまにはいるけど…凪のそれは表面が

 

 赤く染まりかけていたのであった。結局凪の好みはそういうのになるわけか。

 

 そう思っていたら、陛下がとんでもない行動に出る。

 

「凪よ、その唐辛子の粉、妾にも分けてくれんかの?」

 

「は?…はぁ、どうぞ」

 

 そして陛下は凪から唐辛子を受け取ると、凪以上に猛然とかけ始めた。

 

 そして、陛下の雑煮が見事なまでに真っ赤に染まっていたのである。どう見ても

 

 体に悪そうにしか見えないのだが、それを陛下はそれはそれは美味しそうに食べ

 

 始めた。

 

「うむ、これじゃこれじゃ。辛味が足らんと思っておったのじゃ」

 

 …ああ、この人もそういう味の趣味の人なのか。じいちゃんやばあちゃんが見た

 

 ら、卒倒しそうな状況だな。

 

「はわわ~、折角のお出汁の味が…」

 

 朱里がそう言ってがっくり肩を落としていた。そりゃそうだ、いろいろ味付けに

 

 苦慮しながら作った物を辛味一色で塗りつぶされたらねぇ…正直、皇帝陛下でな

 

 かったら速攻で怒り出すような場面だ。こういう事を平気でやる辺り、やはり陛下

 

 も名家のお嬢様なんだなとつくづく思う。

 

「どうしたのじゃ?皆も食べよ」

 

 陛下と凪は皆の思いを余所に美味しそうに真っ赤になった餅を食べていた。

 

 

 

「今回は良い物を食べさせてもらったぞ。褒めてつかわす」

 

 次の日、洛陽へ帰る前に陛下は俺達にそう声をかける。

 

 ちなみに朱里はまだ引き摺っているらしく、顔が少々引きつったままだった。

 

「ところで一刀、あの雑煮というのは必ずあのような具を使うのか?」

 

「いえ、雑煮というのは各地域、各家でそれぞれ違う物が出るのです。今回、作った

 

 のは俺の家の雑煮だというだけです」

 

「ふむ、そうなのか…ならば、最初から唐辛子を入れた雑煮を作る事も可能という

 

 わけじゃな?」

 

「はい、確かそういう雑煮を見た事はあります」

 

「なるほど、なるほど…良し!ならば、洛陽に戻ったら即、研究じゃな」

 

 陛下はそう言って帰っていったのだが…研究って、どうかその過程で犠牲者が出ま

 

 せんように。

 

 ・・・・・・・・

 

 それからしばらくして。

 

「ただいま戻りました!」

 

「ご苦労様、凪。すまなかったな、洛陽まで行ってもらって」

 

「いえ、おかげですばらしい雑煮に出会えましたので!」

 

 素晴らしい雑煮?…って、まさか。

 

「あのさ、凪…その雑煮って?」

 

「『劉弁陛下特製・唐辛子ビタビタ雑煮』です!さすがは陛下です、あのような素晴ら

 

 しい物をお作りになるとは…しかもそれを上回る雑煮も開発中とか…楽しみです」

 

 凪はそう言って遠い眼をしながらそれはそれはうれしそうにしていた。

 

 それって本当に大丈夫なのか?後で調べておこう。

 

 

 

 数日後。

 

「ただいま戻りました…」

 

「急にすまなかったな、輝里。どうだった?陛下特製の雑煮は?」

 

「どうもこうも…ある意味、注目の料理にはなってましたけど…あれは人の食べる物で

 

 はありません。出している店の方も余程売れないのか『一杯食べ切れたら一ヶ月分の

 

 食事代無料にします』とかいう看板出してますけど…これまでそれを成し遂げたのは

 

 凪一人だけのようです。しかも凪は十杯も平らげたとかで名前まで貼ってありました

 

 よ。本当は店の方もやめて普通の雑煮を出したいみたいなんですけど…陛下の肝煎り

 

 とあってはそうもいかないようです」

 

 その報告を聞いて、さすがに頭が痛くなってきた…今度洛陽へ行った時に何とかして

 

 おかないとダメなようだ。

 

 ・・・・・・・

 

 ~洛陽にて~

 

「どうじゃ、爺?今度の新作雑煮は。素晴らしいじゃろう?」

 

「陛下…これは儂のような年寄りには身の毒ですじゃで勘弁してくだされ…」

 

「何を言うか、王允。いつも『若い者にはまだまだ負けん』とか言っとるくせに」

 

「幾ら何でも『唐辛子ビタビタ十倍雑煮』は無理ですじゃ…ガクッ」

 

「何じゃ、爺もだらしないのう。ならば、また南陽に行って凪に試食してもらおうかの」

 

 王允始め、大の大人がことごとく失神して医者送りになるほどの辛さの雑煮を普通に

 

 飲み干しながら、劉弁はうれしそうに笑っていたのであった。

 

 

 

                                     続く(のじゃ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 今回は…命さん、我が儘し放題の回でした。

 

 ああ、権力を握った人間の我が儘って怖い…。

 

 ちなみに朱里は少々トラウマになって、再び雑煮を作れる

 

 ようになるまで十数日を要したという話もチラホラと…。

 

 そして一応、次回辺りで拠点は終了にして、本編へ入って

 

 いきたいと思っております。

 

 

 それでは次回、外史動乱編ノ二十五でお会いいたしましょう。

 

 

 

 追伸 命さん特製の『唐辛子ビタビタ十倍雑煮』、食べ切れた人

 

    にはもしかしたら命さんよりいい物が送られるかもしれま

 

    せんので、挑戦したい方はご勝手に。但し、生命の保障は

 

    出来かねますので。ちなみにその辛さは一撃で虎を殺せる

 

    程の威力です。

 

 

 

 


 
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