No.525471

真恋姫無双 おせっかいが行く 第二十六話

びっくりさん

お久しぶりです。
覚えている人はいるのか心配ですが、最新話を投稿します。
話はあまり進んでいないので申し訳ないですが・・・
よければ見てくれると幸いです。

2012-12-31 05:56:27 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:15658   閲覧ユーザー数:9707

 

 

 

 

 

「みんな大丈夫ですか?」

「ええ・・・といいたいところですが、皆そろそろ限界に来てます。どれくらい持つかわかりません」

「もうすぐ・・・もうすぐなのです。汝南郡に入りました。もうすぐなのです!」

「軍師殿はどこを目指しておいでなのですか?」

「僅かな希望です・・・・この人なら、兄上なら助けてくれると信じてここまできました」

「軍師殿の兄上様・・・ですか?」

「いえ、音々が勝手に呼んでいるだけです。けど、とても優しい方なのです!」

 

道中、恋に肩を貸している高順は音々に気になっていたことを尋ねた。もはや、残っている者達は空腹、ストレス、疲労で限界に達している。それでも、軍師の導きに従いついてきていた。軍師なら、自分達が助かる道を見つけてくれると信じて。彼らは知っている。小さい体で、直接戦闘では非力で力になれない分、戦略で役に立とうと懸命に勉強に励んでいた軍師の姿を。彼らは知っている。戦闘での自分達の力を信頼して、戦略を立ててくれている軍師を。そんな彼女だから、兵達は文句を言わずここまでついてきたのだ。音々自身も兵達の思いに気付いている。だから、それを裏切らないように小さな体に鞭打って必死に頑張っているのだ。敬愛する恋と、その部下の為に。

 

「でも、音々は・・・怖いのです。いくら優しい兄上でも、今の私達を助けてくれるのか。世間での風評ははっきりいって悪いのです。そんな音々達を助けてくれるのかって・・・」

「・・・」

「優しい兄上が・・・豹変して。今までの村の人達みたいな目で見てきたら・・・音々は耐えられないのです」

 

それは、音々がずっと抱いてきた想いだった。助けてくれると信じている。しかし、もしかしたら助けてもらえないのではないか?という疑念も抱いている。それは次第に大きくなって、今では大半を占めてしまっていた。

 

「音々は・・・音々は・・・「大丈夫ですよ」え?」

 

堪えていた涙が本音を零している内に溢れ出てくる。今にも決壊しそうな涙腺、それに待ったをかけたのは高順の優しい言葉だった。

 

「大丈夫です。きっと助けてくれますよ」

「・・・本当・・・ですか?」

「ええ。だって・・・優しい兄上なのでしょう?」

 

優しい兄上。この言葉に音々の脳裏にあの村で過ごした楽しく平和な日々を思い出す。あの優しかった兄の姿を・・・。すると、自然に笑みが溢れ。

 

「はい!!」

 

元気良く返事を返すことが出来たのであった。

これは、そんな義妹が信じる『おせっかい』の物語である。

 

 

 

 

「弁様、今日の街の様子は・・・」

「ごきげんよう。今日もご機嫌麗しゅう」

「可愛らしいですなぁ」

 

毎日が同じことの繰り返しだった。朝起きて、臣達の決まり文句のような賛辞を受け、勉強をし、街の様子を聞き、ただただ笑顔を浮かべているだけの日々。両親との時間も、自由な時間もなく、監視が付き、勉強させられる。

 

「父君様がお亡くなりになられました」

 

そんな毎日に少しだけ変化があった。父親である霊帝の死。国のトップが亡くなった、そうなると必然的にそのトップの子供である彼女がトップになるのは必然。毎日が同じことの繰り返しだった彼女に、新たに書類に判子を押すことが追加された。ささいな変化だった。父親と一緒にいる時間もなかった彼女に突然、父親が死んだと言われても悲しいと思うことが難しい。皇族としての彼女が反応できても、一人の女の子としての彼女は反応できないのだ。だから、一言・・・。

 

「そうですか。おしいひとをなくしました」

 

と呟いただけ。それからの彼女は臣下の者が運んでくる書類に坦々と印を押すだけの日々。そんな彼女にも一人の女の子に戻る時間がある。それは・・・。

 

「おねえちゃん。おとうさんしんじゃったの?」

「ええ、そうみたい」

「そっか・・・でも、わたしたちのせいかつはかわらないんだよね」

「まったくかわらないわけじゃないとおもうけど・・・ちょっとだけだよ」

 

腹違いの妹、劉協との時間である。彼女とは母親は違うが、自分と同じ境遇を送り、何より実の両親よりも共にいる時間が長い。故に二人は共に励ましあい、支えあって生きてきた。

 

「だいじょうぶ。わたしたちはいっしょよ」

「うん・・・」

 

そんな彼女達の生活はある日、意外な人物が変えてくれた。

 

「お助けに参りました。陛下」

「「え?」」

 

ある日、突然扉が開けられたと思うと二人の彼女達より少し年上と思われる少女が入室して放った言葉に困惑することになった。少女達の名前は董卓と賈詡といい、腐りきった宮廷の宦官共を一掃し、洛陽の政治を改善しようと立ち上がっていた者達であった。その途中、半ば監禁されている陛下の存在を知り、こうしてやってきたのである。

それからの彼女達の生活が変った。

 

「陛下・・・ご飯食べに行く」

「わんわん♪」

「れ、恋殿~!?も、申し訳ありません!陛下・・・」

 

「あっ、陛下やないですか~。ウチ、これから調練ですねん」

 

「陛下、申し訳ありませんが、これに印をお願いします」

「その他はボク達が引き受けますから」

 

董卓と出会ってから、自由に外に行けるようになった。無論、護衛はついてはいるが。しかし、今までのように一日中部屋の中で過ごすことはなくなった。印を押すだけの仕事も減った。董卓、賈詡がやってくれているからだ。どうしても必要な書類だけはやらなければならないが、宦官達が政を行っていたときに比べたら半分以上減っていた。そして、一番の変化というと・・・。

 

「おねえちゃん。はやくいこう!おねえちゃんたちがまってるよ!!」

「うん。またせちゃわるいよね!」

 

姉妹以外の人との会話が増えたことであった。今まで妹以外の人物と会話するときは、表情を変えることが滅多になかったが、董卓軍に保護されてから彼女らと接する内に少しづつ感情を表に出すようになり、表情が豊かになってきていた。彼女達は自分達姉妹を一人の人間として、まるで家族のように優しく接してくれた。そんな彼女達に自分達も応えなければ・・・。機会のような毎日から、一人の人間としての毎日に変わる。ようやく何も感じなかった日々から、楽しい日常へと変化する。そんな考えも出来るようになったのに。

そんな日も長くは続かなかった。反董卓連合が組まれてしまったから。

 

「わたしたちはまたふたりだけになった・・・」

 

「わたしたちといっしょにいるとまた・・・」

 

「せっかくあたたかいばしょに、やさしいひとたちにあえたのに・・・」

 

「さみしい・・・」

 

 

 

 

「さみしいよ・・・・」

 

 

 

 

ガバッ・・・

 

「・・・ゆめ?」

 

劉弁は上半身だけを起こした状態でぽつりと呟いた。正確な時間はわからないが、窓の外は真っ暗闇でまだ夜の時間から抜け出していないことがわかる。夢の内容のせいか、身体は汗でびっしょりと濡れて気持ち悪い。気分も優れないため、とりあえず落ち着こうと軽く深呼吸をして気分を落ち着かせようとして・・・

 

「おねえちゃん?」

 

隣から声をかけられたことに驚き、失敗するのであった。

声をかけてきたのは妹の劉協である。目が覚めたときに身体を起こした音に気付いたのだろう。寝ぼけていながらも、姉を心配していることがわかる。

 

「なんでもない。むしがうるさかっただけよ。おこしてごめんね」

「ううん・・・それならいいの。おやすみなさい・・・」

「うん。おやすみ」

 

やはり眠かったのだろう。すぐに寝息が聞こえてくる。そんな妹を確認すると、再び息を整え始める劉弁。しかし、先ほどの内容を忘れることが出来ず、しばらく眠ることが出来ず、悶々と思考にふけ続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、もういっちゃうのか・・・」

「ああ、この世界で病魔に侵されている者が大勢いる。それを考えると立ち止まってはいられないんだ!」

「そうだな・・・その信念をこっちの都合で曲げさせられないな。気をつけてな?」

「ああ、北郷には世話になった。おかげで、助けられる人が増えそうだ」

「こっちの台詞だ。君のおかげで葉雄を助けることができた。ありがとう」

「それこそ、俺の信念に基づいての行動だ」

 

二人は笑いあうと、拳をあわせた。

 

「「死ぬなよ!!」」

 

別れの挨拶をしている二人の後ろでは、こちらも別れの挨拶をしていた。

 

「彼は変わってないわね~」

「当然じゃ。そこに惚れたのだからな」

「熱々ね~」

「ふん。羨ましいか?それはそうと、お主も良いオノコに惚れたのぅ」

「そうね。私の想像以上だったわ。まぁ、初めて会話したときも予想外だったのだけど」

「あれほどのオノコはなかなかいまい?逃すなよ?」

「当たり前よ!どこへ行こうとも追いかけるわよ!!」

「それでこそ、漢女じゃ!!」

 

結局、卑弥呼は旅を続ける華佗についていくため、お別れになる。貂蝉はこのまま一刀の元に残るらしいので、こうして会話しているのであった。蹴、符儒、仙花らとも挨拶を済ませて、最後の二人と会話していたのだ。本音を言えば、華佗の医療は是非とも欲しい。しかし、一刀は『信念がある』と語る華佗を止めることが出来なかった。自分も信念を曲げずに生きている人間だから。

 

「じゃ、またのぅ」

「いつでも呼んでくれ!俺は患者を治す為ならどんなとこでも参上するぞ!」

 

こうして、華佗達は旅立っていったのであった。

 

 

 

 

「いっくよ~!!」

「おー!」

「うん!」

「だ~る~ま~さ~ん~が・・・ころんだ!!」

 

ある日の午後。仕事をしている紫苑や仙花に代わり、天和達、歌三姉妹が遊んでいる璃々達を迎えにきていた。そこで三姉妹が目にしたのは、初めて目にする変わった遊びをしている璃々である。

 

「ねぇ、地和ちゃん、人和ちゃん。璃々ちゃん達は何してるのかな?」

「さあ?見てる限りでは遊びなんでしょうけど・・・どんな遊びかさっぱりわからないわ」

「私もわからないわ。見たことない遊びね。あの子達が独自で考えた遊びかもしれないわよ?」

「二人も知らないんだね。じゃあ、聞いてみよう!」

「そうね。それが手っ取り早いわ!!」

「お~い!璃々ちゃ~ん、弁ちゃ~ん、協ちゃ~ん!」

 

見たことがない遊び(遊びは推測)をしている璃々達に大声で呼びかける天和。その声に気付いた璃々達も大きく手を振って返してくれた。劉弁だけは恥ずかしそうに俯いていたが。

 

「璃々ちゃん達は何して遊んでたの?」

「あのね~、これはおとうさんにおしえてもらった【だるまさんがころんだ】ってあそびだよ」

「【だるまさんがころんだ】?どうやって遊ぶの?」

「じゃあ、おねえちゃんたちもいっしょにやろ~」

 

というわけで天和達も一緒になって遊ぶことになりました。元からそれほど急いでいるわけではなかったので、少しくらい大丈夫との判断からである。三姉妹は璃々達から簡単にルールを教えてもらい早速遊んで見ることにした。最初の鬼は璃々である。

 

「だるまさんが・・・こ~ろ~んだ!!」

 

ピタッ!

 

「だ~る~ま~さんがころんだ!!」

 

ピタッ!!

 

「すっご~い!まだうごいてないよ~」

 

璃々の掛け声のタイミングを微妙にずらした攻勢にさきほどから一緒に遊んでいた劉姉妹をはじめ、この遊びを初めてやっている歌三姉妹もしっかりと対応をしていた。そんなみんなに感心しつつ、璃々は続けて掛け声を発していく。

 

「わわ!!」

「危ないわ・・・・」

「意外と緊張するのね」

 

天和達も初めてながらに、この遊びを楽しんでいる様子。本当なら一回で終わらせるはずが、璃々達にもう一回もう一回とねだられるまま、自分達も楽しかったこともあり、帰りの遅いみんなを心配した一刀が迎えにくるまで遊んでしまったのでした。

 

 

「そっか、みんなで遊んでたのか。遅くて心配したぞ?」

「「「「「「ごめんなさい」」」」」」

「いや、みんなが無事でよかった。さぁ、帰ろう?」

「「「「「「は~い」」」」」」

 

一刀がみんなを促し、帰路につく。そんな一刀の隣に璃々が移動し、今日にあったことを楽しそうに報告し始めた。一刀もそんな璃々を嫌な顔一つしないで、むしろ楽しそうに話を聞いている。それは娘が今日あったことを父親に話している光景であった。

そんな二人の後ろを歩いている天和。ふいに彼女の袖がくいくい引かれる感触を感じて振り向くと。劉協が天和の袖を引っ張っていた。ただし、視線は前の一刀と璃々を向いている。

 

「どうしたの~?」

「え?あ!ご、ごめんなさい!!」

「謝ることないよ~。手、つなごっか!」

 

慌てて袖から手を離し、謝罪をする劉協に向かって笑顔を浮かべて自ら手を握る天和。

 

「一刀と璃々ちゃんが気になる?」

「え?」

「ずっと見てるからそうなのかと思ったんだけど?」

「あっ・・・・えと・・・」

「あの二人は本当に仲がいいよね~。もう、本当の親子みたいに・・・もしかしたら、本当の親子のよりも仲いいかもね」

 

恥ずかしがっている劉協に向かって、天和が前を歩いている二人の印象を話す。その中で、劉協は気になる言葉を聞いた。

 

「あ、あの・・・ほんとうのおやこみたいって?」

「え?一刀と璃々ちゃんは本当は親子じゃないってことだよ?あ!そっか、協ちゃんは知らなかったんだっけ?」

 

一刀と璃々の関係は天和達からして当然の関係であったが、劉協達は最近きたので知らないことに気付いた。

 

「ん~・・・教えてもいいんだけど~。これは私がしていい話じゃないと思うから。一刀に聞いてみよう!」

 

天和はそういうと劉協の返答を待たずに、一刀に近づき問いかけてしまった。これに慌てたのが劉協である。自分の何気ない質問で気を悪くさせてしまうのではないかとの考えからだ。が、ここは一刀である。なんでもないとでもいうように話してくれたのである。

 

「ん?俺と璃々ちゃんのことか?ああ、この子達は知らなかったっけ」

「おとうさんはね~。りりのおとうさんだけど~、ちはつながってないの~」

「でも、璃々ちゃんと俺は家族だよ。ね~?」

「うん♪」

 

そんな二人に素直に感心する劉協。その会話を後ろで聞いていた劉弁は衝撃を受けていた。自分達は実の親子でさえも滅多に会うことはなく、あんなに大切にしてもらえることもなかったのだ。それを、赤の他人である目の前の二人が体現している。信じられないような事実に。

 

「家族って言うのは血が繋がっているからなるんじゃないよ?繋がっていても、子供を虐待・・・いじめたり、親のことを邪魔だって思う人もいる。そういうのは血が繋がっていても家族とは言えないよ。大事なのはお互いに大切だと思う心の繋がりだと思う。だって、そうでしょ?お父さんとお母さんは血が繋がっていないけど、家族になってるでしょ?それはお互いに大切だと思いあってるからなんだよ」

 

 

一刀の話を黙って聞く劉姉妹と歌三姉妹。璃々も黙っているがニコニコして一刀の話を聞いている皆のことを眺めていた。

 

「俺は璃々ちゃんを大切に思ってる」

「りりもおとうさんだいすきー!たいせつにおもってるもん!」

「だから、俺たちは家族なんだよ」

 

一刀の言葉に反応する璃々に笑顔で抱きしめる一刀。それを微笑ましそうに見守る歌三姉妹。劉協は真剣な顔で一刀を見つめ、劉弁はというと何かを考え、俯いていた。

 

「だから、君達も遠慮しないでね?俺は君達と家族になりたいんだから」

 

最後にそう締め括った一刀の言葉を、考えに没頭していた彼女に聞く余裕はなかった。

 

 

それから・・・

 

 

どう帰ってきたか記憶がない。妹である劉協はあれから随分と馴染めたようだ。

 

「と///ととさま///」

「ん?ととさまって俺のこと?」

「は、はい///ダメですか?///」

「ううん。好きに呼んでくれていいよ」

「あ、ありがとう!ととさま~!!」

 

劉協は璃々の影響からか一刀のことを「ととさま」と呼ぶようになった。きっと、一刀の家族になりたいという言葉も影響があるかもしれないが、そう呼ぶようになってから彼と彼女の距離が縮まったのは確かである。

 

「ととさま~、だっこ~!」

「はいはい。おいで」

「わ~い♪」

 

現に、思う存分甘え始めた子とそれに笑顔で答える青年の光景が目の前にあるのだから。

そんな妹とは対照的に劉弁は塞ぎこんで自分の感情を出せないでいるのであった。

 

 

 

 

『陛下・・・・』

 

『陛下・・・』

 

『陛下・・・』

 

「いや・・・いや!」

 

劉弁は真っ暗な中にいた。聞こえてくるのは、聞き覚えのある男の声のみ。そう、まだ彼女達が皇帝として都にいたときの部下の声だ。声を聞けば彼らがいやらしい笑みを浮かべ、自分の欲望を満たすために媚びへつらっていることがはっきりとわかる。

その欲望はとても気持ち悪く、劉弁は気持ち悪さを振り切るように、逃げ出すのであった。

 

『陛下・・・』

 

「こないで!!」

 

『陛下・・・』

 

「いやあああああああああ!!」

 

『陛下・・・』

 

逃げても逃げても、聞こえてくる声。

走っても走っても消えない不快な欲望の気配。

 

ドサッ

 

「あう!?」

 

『陛下・・・』

 

『陛下・・・』

 

『陛下・・・』

 

「あっ・・・あっ・・・」

 

どれくらい走ったか、幼い体が悲鳴をあげついに足をもつれさせ、転んでしまった彼女。暗闇の中、見えるはずないが条件反射で振り向いた彼女の目にうつったのは・・・。

目と口が笑っているような顔の白い仮面が暗闇から浮き上がっているシルエットである。、それは、先ほどから感じている不快な欲望を表しているような仮面であった。

 

『陛下・・・』

 

『陛下・・・』

 

『陛下・・・』

 

「いや・・・だれか・・・」

 

その仮面と声はゆっくりと、彼女に近寄ってくる。疲労と混乱中の彼女にはもはや逃げる術はない。必死に逃げようと足と手を動かすが、もがいているようにしか見えず、白い仮面の接近を止めるものもいない。絶望だけが彼女の心に渦巻いていた。

 

『陛下・・・』

 

『陛下・・・』

 

『陛下・・・』

 

「だれか、たすけてぇえええええ!!!」

 

 

 

パリィイイイイン!!

 

その絶望が最高潮に達したとき、彼女は始めて自分の感情が叫びとなって飛び出す。そして、彼女の叫びが通じたように一番彼女に迫っていた仮面が割れたのである。

 

パリィイン

 

パカン!

 

バリィイイン

 

「え?」

 

彼女を中心に次々と割られていく白い仮面。あまりの現象に余計、困惑する彼女が捕らえたのは白い仮面を割っているモノの正体だった。

 

「けん?」

 

今、まさに白い仮面を割っているのは一振りの剣であった。だが、ただの剣ではない。その剣は鞭のようにしなり、蛇のように獲物を捕らえていた。彼女は知らないが、それは俗に“蛇腹剣”と呼ばれている特殊な剣である。その剣が白い仮面を攻撃していたのである。

 

『陛下・・・』

 

『陛下・・・』

 

『陛下・・・』

 

「いやぁああ!!」

 

が、割られた白い仮面は割られた分、それ以上に増殖し、彼女に迫ってきていた。だが、彼女を助けたのは蛇腹剣だけではなかったのだ。

 

パラパラパラ・・・・

 

シュシュシュシュ!!

 

バリバリバリバリィイイン!!

 

数枚の“お札”が待っていると思いきや、次の瞬間には白い仮面の数十枚が一瞬の内に割られていたのだ。本の一瞬の出来事、しかし、彼女には何故かわかった。その仮面は鋭い“蹴り”によって破壊されたのだということを。が、それでも白い仮面はとまらない。

 

『陛下・・・』

 

『陛下・・・』

 

『陛下・・・』

 

ヒュヒュヒュヒュ!

 

ガシャァアア!!

 

今度は彼女の背後の仮面が破壊された。と同時に彼女を暖かい何かが包み込む。

まるで、『この子に指一本触れさせません』と言っているかのように。

彼女の背後に大きな目が現れたと思った次の瞬間には、大量の矢が白い仮面を纏めて破壊するのであった。

 

『陛下・・・』

 

『陛下・・・』

 

『陛下・・・』

 

ブオン!!

 

ドガシャアアアアアン!!

 

鈍い風斬り音と供に強い衝撃が仮面を破壊する。その一撃は一振りの斧によるものである。

斧はたった一振りで仮面を何枚も破壊するほどの破壊力であった。

 

 

 

『陛下・・・』

 

『陛下・・・』

 

『陛下・・・』

 

カッ!カッ!カッ!

 

突如、暗闇の世界に3筋の光が差し込んだ。それと同時に楽しげで気合いが漲るような元気の出る音楽が聞こえてくる。白い仮面はその音楽と光に吸い込まれるように集まりだした。

 

『陛下・・・』

 

『陛下・・・』

 

『陛下・・・』

 

「今です!!」

 

やがて、全ての仮面が光に集まりきったところで・・・まだ、幼い雰囲気を感じさせる声が響き・・・。

 

轟!!

 

それは一撃で終わった。一回聞いただけでわかる強烈な風斬り音。彼女の耳に聞こえたとき、白い仮面は全て破壊し尽されていた。彼女にはわかった。白い仮面を破壊しつくしたのは一振りの戟であると・・・。

 

「たすかったの?」

 

『陛下ァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

「ひぅ!」

 

白い仮面達は破壊された、しかし。彼らはまだ死んではいなかった。破壊された仮面の欠片が一箇所に集まり、一つの巨大な仮面に成りつつあったからだ。安心しそうになった彼女に再び恐怖が・・・。

 

「「こっちだよ」」

 

そんな彼女の耳に、二つの声が・・・その内の一つが聞きなれた声だった。

劉弁はその声に導かれるまま走り出す。いつの間に彼女の周りにはさきほど、白い仮面から助けてくれていた武器達が彼女を中心に、白い仮面から守るように回っている。

 

「「ここだよ」」

 

「ここ?」

 

導かれた場所は先ほどとは変わり映えのない、相変わらずの暗闇の世界だった。巨大な白い仮面も健在だ。ここにいてどうするのだろうか?そんな疑問を抱く彼女の目に鳥の羽が待っているのが見えた。すると、彼女を守っていた武器達が回転しながら、上空へと昇り始める。そこにあったのはこれまた巨大な蜂の巣であった。やがて、武器達が全て蜂の巣に取り込まれ・・・一筋の白い光となって、巨大な白い仮面を破壊したのである。

 

『陛下ァアアアアアアアアアアアア!!!!!』

 

白い仮面が破壊されると、暗闇の世界が眩い光に満ち溢れ・・・足場がなくなり、落下しているような浮遊感に襲われた。そう、まだ恐怖は終わっていなかったのだ。突然の落下に驚いた劉弁。反射的に下のほうを向いた視線の先には、暗闇の中から伸ばされた無数の黒い手の群れであった。

その手からは白い仮面と同じ声が聞こえてくる。白い仮面と同属であると、劉弁は悟る。しかし、空を飛ぶ術を持っていない彼女はどうすることも出来ず、その黒い手のほうに落下していくのである。

 

「ああああああああああああああああ!!!」

 

『劉弁』

 

このまま、あの黒い手に取り込まれてしまうのか・・・そんな思いがよぎる彼女に差し出されたのは・・・優しさに満ち溢れた声と白い衣を纏った一本の手であった。

彼女は無我夢中でその差し出された手を掴む。その瞬間、世界は光に包まれた。

 

 

「劉弁ちゃん・・・劉弁ちゃん!」

「うぅ・・・うん?」

「劉弁ちゃん?起きたの?」

「はく・・・し・・・さん?」

「良かった!うなされてたから心配したんだ。大丈夫かい?怖い夢でも見ちゃったかな?」

「う、うぅ・・・うわあああああん!」

「よしよし。もう大丈夫だからね」

 

気付いたら、劉弁の目の前には一刀の姿が。劉弁は、今まで夢を見ていたことに気付くが、さきほどまでの恐怖から思わず抱きついて泣いてしまう。それを優しく受け止め、背中をさすってあげる一刀であった。劉弁はすぐにわかった。さきほどの夢に出た彼女に指し伸ばされた手が、一刀の手であることに。

 

「今日は一緒に寝ようか?」

「はい///あの・・・」

「ん?」

「ありがとうございます・・・お、おとうさま///」

「どういたしまして」

 

このときを境に、心を開いていく劉弁であった。

 


 
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