No.521992

さよなら、私の騎士様

bambambooさん

《ソードアート・オンライン》最終回ぃぃぃぃッ!!

ウンディーネのアスナさん美しかったよ! キリト君と末永く爆発しなさい!

リズの窓ガラスのひっつき具合にニヤニヤしてしまったよ。

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2012-12-23 19:17:37 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1435   閲覧ユーザー数:1387

 

~ さよなら、私の騎士(ナイト)様 ~

 

 

ゲームクリアを告げる鐘の音が、アインクラッド中に響き渡った。

 

その鐘の音は、二年前のあの日と全く同じ音だったけど、絶望ではなく希望を与える音だった。

 

プレイヤーたちは歓喜の声を上げ、一様に晴れやかな顔をしていた。

 

そんな人たちの中、私は唯一浮かない顔をしていた。

 

初めこそ、私も他のプレイヤーたち同様に「キリトさんたちがやってくれたんだ!」と喜んだけれど、今私が胸に抱くこの小さな青い竜を見て、直ぐに気付いてしまったからだ。

 

《ゲームクリア》、それは同時に《ピナとの別れ》を表すのだと言うことに。

 

 

 

私がフィールドに出ていた理由はただの暇つぶしだった。

 

でも、実を言うとそれは建前で、本当のところは気を紛らわすため。

 

私はこの世界に囚われてから、毎晩のようにお父さんとお母さんの夢を見た。

 

真っ暗な闇の中で必死に手を伸ばすも、決して届くことの無い、とても恐ろしく寂しい夢だった。

 

そしてその寂しさは、いつまでも私にこびりついていた。

 

その想い消し去りたかった私は、気を紛らわすためにフィールドに出た。

 

疲れで泥のように眠ってしまえば、あの夢を見ないですむという考えもあった。

 

結果は成功。

 

それからと言うもの、私はフィールドに出ては結構無茶なことをした。

 

そのおかげで、中層ではそれなりに有名なハイレベルプレイヤーになれた。全然嬉しくなかったけれど。

 

有名になったせいで、私は結構いろんな人から結婚を申し込まれるようになった。

 

でも、私はそれに温かさを微塵も感じられなくて、たまらなく嫌だった。

 

一回、本当にしつこい人が居て、こんな目に遭うのならいっそ死んでしまいたいと考えた時もあった。

 

そんな時だった。私がこの子(ピナ)と出会ったのは。

 

 

 

ピナと出会い、テイムに成功したのは本当に偶然だった。

 

気分の良かった私はそのまま街へと帰って、一日中ピナと戯れた。

 

そして夜、いつもと違って疲れの全く無い私はあの夢を見た。

 

久しぶりに見るその夢はあまりに怖くて、私は飛び起きた。

 

――――きゅるるる?

 

そんな私に、ピナは心配そうに見つめて寄り添って来た。

 

私は縋るような思いでピナを抱きしめた。

 

ふわふわの羽毛は優しさを感じるような柔らかさで、なによりとても温かかった。

 

その温かさは現実のお父さんとお母さんのものみたいで、私は我慢できなくなって、大粒の涙を流してむせび泣いた。

 

何度も何度も「お父さん…お母さん…」と呟いて、ピナを力いっぱい抱きしめた。

 

その間、ピナは片時も離れること無く、とめどなく流れる涙を拭うようにその小さな頭をすり寄せていた。

 

そして次の日の朝、泣き疲れて眠ってしまった私が目を覚ますと、心配そうな目で私を覗きこむピナがいた。

 

小さく欠伸をしていたから、もしかしたらずっと私を見守っていたのかもしれない。

 

ピナを安心させようと「もう大丈夫だよ。ありがと、ピナ」と声を掛けると、ピナは嬉しそうに一声鳴いて部屋中を飛び回った。

 

あまりに嬉しかったのか、前方不注意で壁にぶつかったときは思わず吹き出してしまった。

 

そのときの私に、寂しさはもう無かった。

 

 

 

「それからも、ピナはいつも私を助けてくれたね」

 

「きゅる?」

 

昔のことを思い出して微笑んだ私に、胸に抱くピナは疑問符を浮かべるように首を傾げた。

 

その様子がたまらなく可愛くて、私はより一層微笑んだ。

 

ピナは私のHPが危なくなったらすぐに治療をしてくれた。

 

私が麻痺とかで身動きが取れないときは必死にモンスターの注意を引こうとした。

 

その小さな体を懸命に使って、身を呈して私を庇った時もあった。

 

あのときは、もしキリトさんが来てくれなかったらどうなっていたか分からない。

 

もしあのとき、ピナが戻ってこなかったら、私はどうしていただろうか。

 

きっと、ピナに会う前の私に戻ったんだろうなあ。

 

なんてことを考えていると、私の体だけ(・・)が薄青い光に包まれた。

 

「そっか…もう、お別れなんだね」

 

頬に涙が伝うのを感じた。

 

すると、ピナはあの夜のように心配そうな目をして、涙を拭うようにすり寄って来た。

 

「ピナっ!」

 

私は力いっぱいピナを抱きしめた。

 

このふわふわな羽毛の柔らかさを、温かさを忘れないように強く強く抱きしめた。

 

「きゅるるるっ!」

 

「ぴな…?」

 

私の腕から飛び上がったピナは、涙を流す私の目の前まで来て今までで一番大きな鳴き声を上げた

 

その様子は、私に笑顔になって欲しいと言っているようだった。

 

「そうだよね……最後は笑顔の方がいいよね?」

 

「きゅうっ!」

 

今できる精一杯の笑顔を作ると、ピナは嬉しそうにその場で一回転した。

 

でも、私はその様子をおぼろげにしか捉えることが出来なかった。

 

だって、もう私の視界はもうほとんど真っ青なのだから。

 

最後のその一瞬までピナを見れないことはとても悲しかった。

 

でも、笑顔は崩さないようにした。

 

「ありがとう、ピナ。ピナはいつも私を守ってくれた。いつもいつも私の側にいて、どんなときも守ってくれた」

 

周囲の音が、少しずつ聞こえなくなっていく。

 

五感がこの世界から現実世界(むこう)へ戻りだしたのだろう。

 

「ピナがいなかったら、私は今みたいに笑えてなかった」

 

薄青い世界の中で、ピナの淡い青色の姿が少しずつ光の粒になっていくのが見えた。

 

「ありがとうピナ。ずっとずっと私の側にいてくれて。ずっとずっと、私を守ってくれて。ピナは、私にとって、私を守ってくれる騎士(ナイト)だよ!」

 

音はもうほとんど聞こえない。ピナの姿は、もう見えない。

 

でも私は、そこにピナがいる気がして手を伸ばすと、温かい羽毛のようなものが私の手にすり寄って来た。

 

「今まで本当にありがとう! さようなら、私の騎士(ナイト)様!」

 

その温もりをもう一度力いっぱい抱きしめると、私の感覚は全て真っ白になった。

 

――――さようならピナ、楽しい時間をありがとう。ピナが私の使い魔で本当に良かった。

 

 

 

その数ヶ月後、少女と青い竜は《妖精の世界》で再開を果たす。

 

この奇跡は、その小さな体で懸命に戦い抜いた二人に対する神様からの贈り物なのだろうか。

 


 
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