No.521316

真・恋姫†無双 想伝 ~魏†残想~

更新です。
改めて魏ルートのエンディングを見ていても立ってもいられず勢いで書きました。
お察しの通り、セリフ部分はほぼ(99%)コピペです。
エンディングを見て感じた、考えた心情が書いてあるだけなのでお目汚しでなければご覧ください。

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2012-12-22 02:27:25 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:12453   閲覧ユーザー数:8851

 

 

 

 

城の周りの賑やかな宴の喧騒とは裏腹に、小川の周辺は虫の鳴き声しか聞こえない、静寂な雰囲気を湛えていた。

俺の前には背を向けた彼女が佇む。

小さくて華奢な背だ。誰が思うだろう、彼女が今や大陸の覇王であるということを。

 

彼女が口を開く。

 

 

「綺麗な月ね………」

 

 

その表情はこちら側からは窺がい知れない。

 

 

「そうだな……。俺、こんなに大きな月、初めて見たかも」

 

 

俺は今、どんな顔をしているだろう。

月を見上げて思う。初めてこの世界に来て月を見た時は“ああ、月はどこでも変わらないんだな”なんて思ったものだ。今見上げる月は、その時よりも大きく、そして輝いて見えた。これは多分、俺の心の余裕の表れ、成長なんだと思った。……思いたかった。

 

 

「そうね……戦っている間は、こんなに落ち付いて月を見たことなんて無かった気がするわ……」

 

 

「華琳でも余裕のない時ってあるんだ」

 

 

茶化すように俺は言う。

 

 

「私だって人の子よ。そうそう上ばかりは見ていられないわ」

 

 

多分、少し口を尖らせて心外そうに華琳は言う。

上ばかり見てきた、彼女が。

 

 

「あれだけ余裕たっぷりに見えたのに?」

 

 

「それはあなたの目が節穴だったせいでしょう?」

 

 

節穴。そうだ、確かに節穴だ。

彼女はいつだって余裕たっぷりだった。だって、そう振るまっていたのだから。

そう振る舞おうと、努力していたのだから。

 

 

「……まあ、否定はしないよ」

 

 

「否定なさいよ。俺の見る目は確かだった、って」

 

 

それじゃ俺が自意識過剰な人だよ、華琳。

いや、でも現に確かだった。華琳の言う通り、人を見る目は。

 

 

「大陸の王をちゃんと見定めて、仕えることが出来たって?」

 

 

「それは私の手柄でしょう?あなたが私に仕えられたのは、私が拾ったからだもの」

 

 

「ははっ、そりゃそうか。……華琳には感謝してもしきれないよ」

 

 

…本当に、感謝してもしきれない。

恩という言葉で計るなら、間違い無く華琳は恩人だ。色々な意味で。

まったく……恩知らずだよなぁ…俺。

 

陳留の郊外で拾われてからというもの、本当に色々なことがあった。

春蘭と秋蘭を除けば、一番華琳との付き合いが長いのは俺だ。それが、俺にとってはちょっとした自慢だった。

 

 

「その恩はこれから返してもらえるのでしょう?あなたの天界の知識、むしろ今からの方が意味を持ってくるはずよ」

 

 

恩。まるでこっちの心情を見抜いているんじゃないかと思わせる単語を華琳は使う。

返したい。……返してぇよ、恩。

 

 

「だよ……なぁ………」

 

 

そんな思いを嘲笑うかのように、俺の身体が透け始める。

感覚が鈍くなっていく。

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 

会話が止まる。

この時ばかりは、俺は受け身だ。

心の中で色々な想いがごちゃごちゃになりすぎていて、何を言っていいのか分からない。

残された時間。俺はもっと華琳と話したかった。……欲を言えば、皆とも。

 

 

「……帰るの?」

 

 

少しだけ、華琳の持つ気配が変わった。

覇王然とした、気配が。

 

 

「さてな。……自分では分からないよ」

 

 

初めて今の状況に対する話題を振る華琳に、答える。

存在が消えるのか、死ぬのか、もとの世界に戻るのか、別の何かなのか、分からない。

……俺の方が、知りたい。

 

 

「だけど……この間から考えてはいたよ。この国の歴史のことをね……」

 

 

「あなたの知っている歴史と、かなり変わっているという話?」

 

 

「ああ。今考えるとさ……定軍山の時も、赤壁の時も……その前に劉備さんと呂布たちが攻め込んできた時も……」

 

 

一回、言葉を切る。

少しでも長く、意味のある会話にしたい。俺という存在を残しておきたい。

これって、きっと我儘なんだろうなぁ……。

 

 

「調子が悪くなったのって、歴史の大きな分かれ道にさしかかった時だったんだよな……」

 

 

定軍山。秋蘭……夏候淵が死ぬ世界と死なない世界。

赤壁。華琳……曹操が破れるか破れないかの世界。

一番初めの、劉備さんと呂布たちの侵攻。

これは最も質の悪い、華琳……曹操が死ぬかもしれなかった世界。

 

でも、『起きなかったこと』なんてものは仮定の話に過ぎない。

仮定の話は分からない。あったかもしれないもう一つの未来なんて、見れない。

……今この時のように。

 

 

「でしょうね」

 

 

「……気付いてたの?」

 

 

自分でも驚くほどに、衝撃は受けなかった。

『気付いてたのなら――』なんていう考えは不思議と浮かばない。

 

 

「許子将に言われていたでしょう?『大局には逆らうな、逆らえば身の破滅』って」

 

 

「やっぱりあれ、華琳の事じゃなかったんだな」

 

「春蘭じゃあるまいし、そこまで大言を吐く気はないわよ。そしてその言葉に従うなら、大局……あなたの知る歴史から外れきったとき、あなたは――」

 

 

最初の台詞を聞いて自然と口角が上がった。

華琳の声にも少しだけ笑いが混じっていたように思う。

……卑怯だな、俺は。……考えないようにしてる、『あなたは――』と続くその先を。

 

 

「……なるほど。そういうことか」

 

 

だから俺は平坦な台詞を返す。

分かっていた。

 

『大局に逆らうな、逆らえば身の破滅』

 

華琳が勝利に勝利を重ねて行けばいくほど、その言葉は呪いのように俺のことを縛り付けようとしていた。

……分かってはいたんだ、気付きたくなかっただけで。

だから俺は、ここに来て初めて気付いた様な声色で、独り言のように返した。

 

「けれど、私は後悔していないわ。私は私の欲しいものを求めて……歩むべき道を歩んだだけ。誰に恥じることも、悔いることもしない」

 

それは、強がりのように聞こえた。

だから

 

 

「……ああ、それでいい」

 

 

強がりを、強がりで無い――真実にした。

 

 

 

「一刀。あなたは?……後悔していない?」

 

「してたら、定軍山や赤壁のことを話したりしないよ。それに、前に華琳も言っただろ?役目を果たして死ねた人間は誇らしいって」

 

即答。

これは紛れも無い真実。

……でも多分、論点をずらした真実。

 

 

「ええ……」

 

「だから華琳……」

 

 

一度、目を瞑る。

走馬灯のように瞼の裏を駆け廻る、この世界に来てからの日々。

真実、走馬灯なのかもしれない。

 

 

でも

 

 

だけど

 

 

これだけは伝えたい。

 

 

 

 

 

「君に会えてよかった」

 

 

 

 

 

これだけは、絶対に多分なんて言葉は使わない――本当の気持ちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……当たり前でしょう。この私を誰だと思っているの?」

 

 

「曹孟徳。誇り高き魏……いや、大陸の覇王」

 

 

「そうよ。それでいいわ」

 

 

 

「華琳。これからは俺の代わりに劉備や孫策がいる。皆で力を合わせて、俺の知ってる歴史にはない、もっと素晴らしい国を作ってくれ……」

 

 

それは言う必要すらない言葉。

曹孟徳なら当たり前に、分かっていること。

 

 

「君なら、それが出来るだろ……?」

 

 

ただこの時を、少しでも長く感じていたいが為の、本来は無為な事象。

俺には、それが出来ないから――

 

 

「ええ……。あなたがその場にいないことを死ぬほど悔しがるような国を作ってあげる」

 

 

「ははっ……そう聞くと、帰りたくなくなるな」

 

 

「そう……」

 

 

 

 

沈黙。

 

俺の本能はこの先を聞くなと叫ぶ。

だけどさ、聞いていたいじゃないか。耳に残しておきたいじゃないか。

この手に彼女を抱きしめた感触を残しておけないのなら、尚更。

 

そして――

 

 

 

 

「そんなに言うなら……ずっと私の側にいなさい」

 

 

 

 

一番聞きたかった

一番聞きたくなかった

聞けば辛くなると分かってるその言葉を彼女は口にした。

 

 

今までで一番心がざわめく。

……酷いよなぁ、この覇王様は。

最後の最後まで思う通りにさせてくれないなんて。

 

 

きっとこれは心の奥底から初めて出てきた彼女。

魏の曹操ではない。大陸の覇者、曹孟徳でもない。皆が知ってる華琳ですらない。

ここにいるのはきっと、全てのものを捨てた、一人の女の子。

 

 

 

 

「そうしたいけど……もう無理……かな?」

 

 

 

 

存在が消えて行く。

自分の意思じゃ何も出来なくなる。

辛うじて動くのは頭と、口と、『心』だけ。

 

 

 

 

「……どうして?」

 

 

 

「もう……俺の役目はこれでお終いだろうから」

 

 

 

「……お終いにしなければ良いじゃない」

 

 

 

「それは無理だよ。華琳の夢が叶ったことで、華琳の物語は終端を迎えたんだ……」

 

 

 

徐々に、辛うじて残っているただの女の子としての殻も剥がれて行く。

 

 

 

「その物語を見ていた俺も、終端を迎えなくちゃいけない……」

 

 

 

誰かが言った。

 

『私が夢の中で蝶となったのか、もしくは自分が蝶で、今は夢を見て私になっているのか』

 

本当にどちらなのだろう。今もその答えが分からない。

 

 

 

「……ダメよ。そんなの認めないわ」

 

 

 

「認めたくないよ、俺も……」

 

 

 

そんなことは言うまでもない。

俺も華琳もそんなことは分かってる。

……でも、言わないと伝わらないこともあるんだ。

 

 

 

 

「どうしても……逝くの?」

 

 

 

 

声に不純物が混じる。

不純物――本来、あってはならないもの。

 

 

 

 

「ああ……もう終わりみたいだからね……」

 

 

 

「そう……」

 

 

 

纏う空気に冷たいものが一瞬混じる。

 

 

 

「……恨んでやるから」

 

 

「ははっ、それは怖いな……。けど、少し嬉しいって思える……」

 

 

 

多分、これが決め手。

最後に、愛しい人への、精一杯の意地悪。

 

 

 

 

「……逝かないで」

 

 

 

 

剥がれはじめた。

必死にしがみ付いていた最後の殻が。

 

 

 

 

「ごめんよ……華琳」

 

 

 

止まらない。

 

 

 

「一刀……」

 

 

 

剥がれ墜ちて行く。

 

 

 

「さよなら……誇り高き王……」

 

 

 

止まらない。

 

 

 

「一刀……」

 

 

 

消えて行く。

 

 

 

「さよなら……寂しがり屋の女の子」

 

 

 

声が震える。

 

 

 

 

「一刀……!」

 

 

 

 

責めるような震える声。

……愛しい人の、愛しい声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さようなら……愛していたよ、華琳―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方的に言いたいことを言った自分勝手な俺。

 

そんな自分に憤りを覚える暇もない。

 

一番言いたかったことを言えた満足感と、同じぐらいの怒りを抱えたまま

 

俺の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~曹操~

 

 

 

 

 

――消えた。

――消えてしまった。

 

背を向けていたのに分かった。

分かってしまった。

信じたくなかった。

 

 

「…………一刀?」

 

 

――――――――――――――――――――――――。

 

 

「一刀……?一刀……!」

 

 

振り向く。

誰もいない――そこにいて欲しい人がいない。

 

 

 

 

「………ばか。……ばかぁ………っ!」

 

 

 

 

分かっていた。

何故か分かった。

当然分かっていた。

どんな形であれ、夢を叶えれば彼が消えることは。

だけど進んだ。自分の為に、皆の為に、私の夢を支えてくれた彼の為に。

 

――その結果がこれだ。

 

 

 

「……ホントに消えるなんて……なんで、私の側にいてくれないの……っ!」

 

 

 

理不尽だということも分かってる。

自分勝手だということも分かってる。

我儘だということも分かってる。

 

天秤に乗せた二つの物が、どっちも大切だった。

ただそれだけのことなのに。

 

彼と過ごしていて、天秤は傾いていった。

今更になって気付く。

……私は自分を騙したんだ。――重い方が天下。軽い方が――彼。

 

 

 

そんなはずないのに――!!

 

 

 

「ずっといるって……言ったじゃない……!」

 

 

 

でも、だけど、私はそれを振り払った。

一刀の手を離した。紛れもない自分の意思で。

 

 

 

桂花や春蘭は、一刀を糾弾するかもしれない。

心の底ではそう思っていなくても。それが彼女達。

 

――だけど。

糾弾されるべきは、彼の手を握っていた者。

生殺与奪。そんなものはいらなかった。

そんなものを決める権利はいらなかった。

 

 

 

 

「ばか……ぁ……!」

 

 

 

 

泣いた。

 

泣いた。

 

泣いた。

 

泣いた。

 

泣く権利なんてない。

 

泣く資格なんてない。

 

泣いていいわけがない。

 

止まらない。

 

止まるわけがない。

 

止めていいはずがない。

 

止めようとしても止まらない。

 

人生で初めてしゃくりあげるまで泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

もうこんな自分を優しく抱きしめて

頭を撫でてくれて、泣き止むまでずっと側にいてくれる人はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ彼が

 

 

『 一刀が側にいてくれれば良かった 』

 

 

それが――

 

 

 

 

 

華琳という一人の少女が、自分にさえも隠し続けた唯一無二の願いだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真・恋姫†無双 想伝 ~魏†残想~ 序章

 

 


 
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