No.51690

四橋かりんさん
CHEER
寝苦しい夜だった。時計を見るともう二時をまわっている。
中国の山奥にある古寺から一人の少女が出てきた。
彼女の名前は麻宮アテナ。十八歳の高校生。いわずと知れた歌って踊って戦えるアイドルだ。
毎年催される異種格闘技大会THE KING OF FIGHTERS
――K.O.F.――第一回戦開催地イギリスへアテナ達サイコソルジャーチームは明日出発する。
K.O.F.出場も今年でもう五回目だ。
緊張して眠れないなどということはなかった。
――でも何だか眠れない。頭の中が淀んでる…。
建物の外に出ると熱帯夜特有の風が吹き付ける。
寺の出入り口から延びる石段の下方へと視線を移すと、闇の中に人影を見つけた。
「……拳崇……?」
そう呼ばれた少年…年齢からして青年というべきか。
彼はひどく驚いた様子で振り向いた。
「あ、アテナ?何しとるんや。女の子の出歩く時間やないで。」
青年の名前は椎拳崇。十九歳。アテナの修行仲間で彼女に惚れ込んでおり、
自称『アテナのナイト』である。
「それはこっちの台詞よ。拳崇こそ何してるの。こんな時間に。」
年齢のわりにあどけない顔が一瞬硬直した。明らかに焦っている。
「あ…ええっと・・・・星を見とったんや。」
――星?拳崇が?台所ならいざしらず、星?
不信感を抱きつつアテナは空を見上げる。
…星はひとつも出てはいない。月明かりはあるがそれは雲にかかってぼんやりしたものの放つ、
やさしい光だった。拳崇も空を仰ぎ、慌てて言い直す。
「あっ…星、星っちゅうんはな、月のことや。ほら、月は地球の衛星っちゅうやん?やから」
「嘘つき。……泣いてたくせに…。」
アテナが遮った。拳崇の口は「やから」の「ら」の形のまま、動かない。
さっき拳崇が振り向いた時、彼の頬を幾筋かの光が伝っていた。
距離がある為、見間違いかと思い近づいてみると
今度は彼の顔の下辺りの地面が湿った色になっている。
月明かりが弱い為、目が赤いかどうかまではわからない。
しかし先刻拳崇がここで何をしていたかは容易に想像できた。
「は…ははは。やっぱ、アテナにはかなわんなぁ…。」
苦笑いをして頭を掻くような仕草をしている。
「あたりまえじゃない。星を見てたなんて…。
拳崇なら、台所覗いてたって言った方がまだ説得力があるわ。大体おかしいと思ってたのよ。
お師匠様がK.O.F.の招待状持ってきた時も今もわざとらしい笑い方ばっかりして。
無理して明るくしてるのバレバレじゃない。」
石段の一番下の段、拳崇の隣に腰掛けながらアテナは言った。
「何やごっつ格好悪いな俺。アテナにだけは見られたなかったんにな…。
それはそうと、アテナは何で外に出てきたんや?」
「うーん。眠れなかった…っていうか誰かが苦しんでるような気がして気になって。」
『誰か』が拳崇であるということはいうまでもない。
「あっちゃ~。聞こえてもーたか心の声が。こないな時間誰も外に出て来ぇへんやろし、
いくら何でも心の声は聞こえんと思たんやけどなぁははは。」
無理して明るく振る舞う拳崇をアテナは見てられなかった。
何の力にもなってやれない自分への憤りを抑えられない。
「どうして?どうしてみんなの前で無理して笑って…こんな所で独りで泣いてるのよ。」
本当は自分に向けられるべき感情の矛先が全然違ってしまった。
つい拳崇を責め立てるような口調になったことを、アテナは後悔した。
「そやかて…笑うてないと不安でしゃあないんや。自信がないんや。
超能力も無うなって…。ずっと…ずっと続くと思ってたのに。」
その瞬間拳崇の目から何かがこぼれ落ちた。月光に照らされて光るそれは
やっと乾きかけた地面を再び濡らしている。
「嫌、や…見んといてやアテナ…こない情けない姿っ……。
こないなつもりやなかったんにっ…ほんまごめんっ。ごめ……っ」
今までずっと我慢していたのか、しゃくりあげて泣く拳崇に
アテナは胸を抉られるような想いがした。普段はどんな強い相手にでも
怯まず大口を叩く拳崇のこんな姿を見るとは思いもしなかったのだ。
「無理しないで。格好悪いとか、そんなの気にしないで。泣いてもいいよ。
あとでいつもどおり笑えばいいから。」
「アテナ…。うっ……うああああああ」
アテナの優しさに触れて気が抜けたのか、拳崇の目から一層多くの涙が溢れだす。
アテナは彼の背を撫でながら、ずっと隣にいた。
暫くして拳崇は泣き止んだ。こんなに泣いたのは久しぶりだと思うと同時に
アテナにとてつもなく格好悪いところを見せてしまったという自己嫌悪に陥っていた。
「アテナぁ…、めっちゃ格好悪いとこ見してもーたけど、嫌わんといてな…。」
子犬のような目でアテナを見つめる。少々乙女心がくすぐられたような
気がしたが、夜の醸しだす独特の雰囲気の所為だろうと思い直した。
「今更格好いいも悪いもないわよ。あと、自信持って。
超能力が無くなってから一番修行してたの拳崇でしょ?修行嫌いなのによく頑張ったじゃない」
「……そうやろか。」
弱々しく答える。アテナは困った。これでは試合が心配だ。
拳崇のことだから周囲に判るほど鬱状態になることはないだろう。
しかし、多少の精神力が試合を大きく左右してしまうこともある。
――もう奥の手しか残ってない…。
アテナは思った。
「私、心配だよ拳崇。拳崇が、好きだから……。」
「へっ?」
その瞬間、拳崇の心臓は跳ね上がった。同時にこれまでの憂鬱を一気に
吹き飛ばし、胸の中で渦巻いていたものがすぅっと晴れていくのを感じた。
アテナは表情から拳崇の心中を察し、大成功だと思った。
しかし、調子に乗っても困るので次の一言をつけ加える。
「友達としてね。」
「なぁ~んや。そーゆーことかいな…。」
拳崇のあからさまにがっかりしたような動作が可笑しくてアテナはくすくす笑った。
少しがっかりした拳崇だったが、アテナの笑い顔に負けてぷっと吹き出し、一緒に笑った。
暫く笑うと二人とも黙ってしまった。
曇ってはいるが今夜は満月だ。その優しい光をアテナは心地よく浴びている。
一方拳崇はというと、折角廻ってきた二人きりのチャンスを逃すまいと
何を言おうか頭をフル回転させていた。
いっそのこと告白してしまおうかとも考えたが、
普段の言動を見る限りとても自分に気があるとは思えない。
今夜のことで気持ちは高まっていたが、焦る必要はないと思ったのでやめた。
それでも何か言おうと拳崇はアテナの方を向いた。
しかし、月明かりに照らしだされたアテナの横顔を見た途端
体中が痺れてしまい、何も言うことができずにいた。
いつのまにか空は晴れ、月が澄みきった光を放っていた。
「ねえ、拳崇。」
アテナが口を開いた。
「何や?」
アテナの呼びかけにこたえる。
「今回のK.O.F.で拳崇が超能力を取り戻すか、私達が優勝できたら、
拳崇に何かいいものあげるよ。」
「ほんまか!?」
拳崇の表情が一気に明るくなった。月にも負けないくらいに。
アテナは黙って頷く。
「いよっしゃあ~、やったでえ!!嬉しいなあ。そういや最近食ってへんかったし。」
立ち上がり子供のようにはしゃぐ拳崇とは対照的にアテナは首を傾げる。
「食う…って何を?」
「何言うてんねんアテナがくれるええモンいうたらアテナの手作り肉まんしかないやないか~。
おおっと、もうこないな時間か。そういや明日イギリスへ発つんやったな。体調の為に早う寝んと。
アテナ、今夜はいろいろおおきに。今言うたこと忘れたらあかんで。ほな、おやすみ~!」
「えっちょっと、拳崇!」
アテナの声が後を追うのにも気づかず、拳崇は走り去ってしまった。
翳りの無くなった笑顔を残して。
「もう拳崇ったら、この世でいいものっていったら肉まんしか思いつかないのかしら。まったく……単純なんだから。」
静けさの中にとり残されたアテナは、その笑顔の主へむかってひとりごちた。
「もっといいものあげるって言ってるのに……。」
THE KING OF FIGHTERS '99
PSYCHO SOLDIER TEAM ENDING へ…
あとがき…
'99のオフィシャルストーリーとK.O.F開催の間の話です。
高校一年の夏に書いたものを加筆修正したものです。年齢バレる(苦笑)
内容は矛盾点以外変えていません。拙いのもまあ当時の持ち味ということで(^^;)
今読むとアテナ結構冷たいなぁ…(笑)
「今更格好いいも悪いもないわよ」なんて拳崇の日頃の努力が無に還ってますね。
アテナがいくらデキた娘だからってまだ思春期真っ只中の高校生。
自分の気持ちをコントロールできなかったり、言いたいことを上手く伝えられなかったりすることもあるんじゃないでしょうか。
てなわけで前半のアテナが拳崇を責め立てるシーンはそのままにしました。
気を遣って無理せず自分には本音を聞かせて欲しいと思っているアテナの気持ちが伝わればいいんじゃないかと…。
好きな娘の前でこんなに泣くのもどーよ?と思いましたが、
こんなに泣いてしまうくらい気を許しているという関係を表すべく
修正はしませんでした。情けない姿は見せられないと思いつつも
それを超える位アテナの前で彼は安らいでしまうのではないでしょうか(と言い訳。)
ちなみにアテナの言う「いいものあげる」はEDの、アレです。
厳密に言えば「いいことしてあげる」なんですが、響きがエロい。(死)
という当時の私の判断によりこの台詞になりました。
気がない(ように見える)けど、ホントはすごく拳崇のことを想ってるアテナ。
不器用だけど二人だけに通じる絆があるんじゃないかなぁと思います。
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KOF99の公式ストーリー後の話。落ち込んでる拳崇と、励ますアテナです。
2009-01-12 02:09:15 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:382 閲覧ユーザー数:348