No.515443

魏エンドアフター~貴方ヲ守リニ~

かにぱんさん

この蜀編では一刀も頑張りますが、凪も頑張ります。多分。

2012-12-05 23:56:05 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:7631   閲覧ユーザー数:5491

劉備「この辺り、かなぁ?」

 

関羽「女将が言っていたのはこの辺ですね」

 

張飛「きっと丘の向こうにあるんじゃないかなー?」

 

半ば強制的に腕を取られ店を飛び出し、公孫賛のもとへ向かう途中、

女将の言っていた桃園へ行くことになった。

あのあと何とか張飛を窘め、

二人にも必死に説明しプチご主人様ということで納得してもらえた。

……多分。

女将にもらった酒瓶を手に、丘を登りだす。

 

一刀「うお―――――」

 

丘を登りきったところで思わず声を上げる。

眼下に広がった一面桃色の世界。

花びらが舞落ち、今まで見たこともないような綺麗な景色が視界いっぱいに広がった。

 

劉備「これが桃園かー……すごいねー♪」

 

関羽「なんと美しい……その名に恥じぬ美しさです」

 

一刀「御苑の桜みたいだ……これはすごいな」

 

張飛「ほぇー……」

 

それぞれが感嘆の声を上げる。

目の前に広がる美しい景色に心を奪われ、しばらくそれを眺める。

 

劉備「雅だねぇ~」

 

一刀「ああ……」

 

日本では滅多に見られないであろう絶景。

少なくとも俺の人生でここまで綺麗で人の心をわしづかみにするような景色は見たことがない。

 

────華琳達にも見せてやりたい────

 

そんな事を思った。

三人でしばし風雅を楽しんでいると、

 

張飛「酒なのだーー!!」

 

目の前の景色に心を奪われていた3人の耳にとても嬉しそうな声が入る

 

関羽「……お前も少しはこの景色に感動したらどうなんだ」

 

張飛「十分感動したのだ。

   感動したから早く酒を呑むのだ!」

 

劉備「あっはは、鈴々ちゃんらしいね」

 

まったく、とため息をつくがすぐに微笑みの表情になる。

3人が盃を持ち、それをまた一歩下がった場所で眺める。

 

関羽「何をしているのですご主人様」

 

一刀「え?」

 

劉備「早くご主人様も盃を持って!」

 

張飛「早くするのだ!」

 

劉備さんが小走りでこちらに来て盃を手渡す。

 

一刀「いや……いいの?」

 

思わず3人にそう聞く。

当たり前だ。桃園、劉備、関羽、張飛と来たらあの場面しかないだろう。

しかし3人は何が?とでも言うように首を傾げる。

 

一刀「俺はいつかは居なくなるんだよ?

   劉備さん達の志半ばでいなくなるかもしれないんだよ?」

 

こんな大切な……桃園の誓いと言われる出来事の中に、そんな俺が居てもいいのだろうか。

 

劉備「それでも志を共にして、困っている人たちを助けたいって言ってくれたし、

   何よりもご主人様の事は何か……うまく言えないけど良くわかるよ」

 

どういう事だろうと首を傾げる

 

関羽「桃香様の言うとおり、貴方の人となりは見ていればよくわかります。

   たとえ途中でいなくなってしまうとしても、我々の志に頷いてくれました。

   そしてこれからの一歩を踏み出せるのは貴方のおかげです。

   何を迷うことがありましょうか」

 

張飛「そうなのだ。

   最後まで一緒に居れないのは残念だけど、志は一緒なのだ」

 

3人の言葉が胸に響く。

たとえ義兄弟の契を交わせなくとも、

生死を共にすることができなくとも。

 

関羽「たとえ貴方が志半ばで居なくなってしまうとしても、

   今こうして一緒に居る、志を共にする同志であることは変わりません」

 

一刀「……わかったよ」

 

劉備さんから盃を受け取り、

 

一刀「ありがとう」

 

劉備「えへへ♪」

 

お礼を言うと照れくさそうにはにかむ。

それぞれの盃に酒を注いでいく。

 

劉備「それじゃあ皆準備はいいかな?」

 

関羽「はっ!」

 

張飛「いいのだ!」

 

一刀「ああ」

 

これからどうなるかなんてわからないけど。

この世界の華琳達を目の前にして、戦う事になったとして。

そこで自分がどんな選択をして、どうなるのかなんてわからないけど。

この子達の真摯な心には、全力で応えてあげたいと思う。

 

一刀「これから先、俺に出来る事は何か。

   何をすればいいのかなんてわからないけど」

 

軽く深呼吸をし、3人の目を順に見つめる

 

一刀「君たちが今掲げている志の、ほんの少しでも手助けが出来ればと心から思う」

 

華琳達のもとへ帰りたい、帰らなければいけない。

だけど目の前にいるこの子達を放っておく事もできない。

たとえここが別の外史だとしても、言葉を交わしたから、目を合わせたから。

俺が華琳のもとへ帰る時まで、俺なんかに出来ることならしてあげたいと思う。

 

一刀「だから、よろしくお願いします」

 

劉備「じゃあ結盟だね!」

 

劉備さんの言葉に頷く、そして関羽さんが手に包んでいた盃を空に向かって高だかと掲げ

 

関羽「我ら4人!」

 

劉備「性は違えど、姉妹の契を結びしからは!」

 

張飛「心を同じくして助け合い、皆で力なき人々を救うのだ!」

 

関羽「同年、同月、同日に生まれることを得ずとも!」

 

劉備「願わくば、同年、同月、同日に死せんことを!」

 

この言葉の誓いに、俺は加われないけれど。

それでもここに居られる事を嬉しく思う。

 

『乾杯!』

 

桃園の誓いが目の前で繰り広げられる。

その意味を心に刻みながら、俺はこの外史での一歩を踏み出すのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

掲げた盃を一気に飲み干す。

 

一刀「くはー……ッ!なかなか……キツいねこれ」

 

劉備「あはは、まぁ出立の気付けとしていいんじゃないかな」

 

張飛「美味しいのだ!」

 

関羽「っ……」

 

うむ、やはりこちらの関羽さんも酒に弱いらしい。

もとの世界でも宴会なんかの時、

華琳が関羽さんに酒を呑ませて前後不覚にし、

閨にお持ち帰りしようとしていたが関羽さんがそのまま落ちたのでお預け。

まぁ落ちなくても嫌がったと思うけど。

関羽さんてそっちの気なさそうだし。

 

劉備「ねぇねぇご主人様、ご主人様のその得物は観賞用の物なの?」

 

と、突然劉備さんが腰に下げている刀に興味を持ったのか、

それとももともと気になっていたのか、目を輝かせながら聞いてくる。

 

一刀「え?なんで?」

 

関羽「確かに、武器として使うにはあまりにも細すぎて

   すぐに折れてしまうと思うのですが」

 

張飛「綺麗だけど戦場では使えなさそうなのだ」

 

ぬぅ、好き勝手言ってくれちゃうじゃないか。

これでも真桜は日本刀の特徴、フォルムを維持し、

強度を上げ、且つこの美しい色合いを出すのに死ぬほど苦労したらしい。

蛍楼石という希少鉱石を惜しげもなく使用し、

しかも二本も仕上げたため費用も莫大だったとか。

まぁそれは3年間ずっと放置されてた俺の給金で返したけど。

鞘にもこだわりがあるらしく、シンプルながらも上品さを醸し出している。(真桜談)

しかも切れ味抜群と来たもんだ。

どこの業物だと。

 

一刀「ふふん侮るなかれ。

   これは俺の知る限りの最高の腕を持った子が鍛え上げた名刀である」

 

皆を少し後ろに下がらせ腰にぶら下げている摩天楼を鞘から抜き取り、刃を晒す。

 

劉備「ほぇぇ……」

 

関羽「これもまた……なんと美しい」

 

張飛「鞘も綺麗だけど刀身はもっと綺麗なのだ~……」

 

一刀「ドヤァ……」

 

薄紅色の刀身に”天をも貫く強き想い”という意味で3人で名づけた摩天楼の名。

改めて見ても、真桜の人生最高傑作だというのは頷ける。

 

一刀「これは日本刀って言ってこの国の刀とは結構違うんだけど。

   俺にとっては一番使いやすい得物だよ」

 

関羽「しかしこうなるとますます惜しいですね」

 

張飛「そうなのだ。

   戦闘で折れちゃったら勿体無いのだ」

 

一刀「大丈夫大丈夫。

   多分張飛ちゃんが思い切り叩きつけても曲がりもしないと思うよ」

 

張飛「えー、すごく嘘っぽいのだ」

 

 

一刀「ま、とりあえずそろそろ出発しようか」

 

まぁまぁと宥め刀を鞘に納め、歩き出そうとした

 

劉備「待ってご主人様」

 

劉備さん、いや、3人揃ってその場から動こうとせず呼び止められる。

 

一刀「どうしたの?劉備さん。

   まだ何かあった?」

 

劉備「桃香だよ」

 

一刀「ん?」

 

言っている意味がわからずに、首をかしげながらアホ面を晒したと思う。

 

劉備「これからは私たちのご主人様になるんだから、

   ご主人様は私たちの事は真名で呼んでほしいの」

 

関羽「そうですね。

   我々は志を共にしたのですし、

   それに桃香様の言うとおり、貴方は我らの主人だ」

 

張飛「そうなのだ。

   いつまでもそんな他人行儀な呼び方は嫌なのだ」

 

一刀「え……いいの?」

 

何度も言うが俺はこの世界に留まるつもりはない。

困っている人を助けたいし彼女たちの力になりたいという気持ちに偽りはないが、

悪く言ってしまえばもとの世界に戻るまでの片手間ということになってしまう。

そんな中途半端な俺が真名を、そんな大切な名前を呼んでしまってもいいのだろうか。

 

一刀「しつこくなっちゃうかもしれないけど、俺はいつか居なくなるんだよ?

   それも半年か一年か、今日か明日かもわからないんだ。

   そんな人間に真名を預けてもいいのか?大切な名前なんだろ?」

 

張飛「むー……お兄ちゃんは細かいことを気にしすぎなのだ。

   鈴々達が良いって言ってるんだからいいのだ」

 

細かいことって……結構大事な事だと思うんだけどなぁ。

 

関羽「たとえご主人様の言うとおりだとしても、貴方の気持ちに偽りはないでしょう。

   ならば何を気に病む事がありますか。

   なによりこうして我々の事を考えてくれている事を嬉しく思います」

 

劉備「そうそう、私たちが良いって言ってるんだからいいの!

   はい決定!」

 

一刀「……劉備さんってさ」

 

劉備「桃香!」

 

ムっとした表情で抗議をするように

自分の真名を言う彼女を見て危うく父性愛に目覚めそうになった。

 

一刀「あはは……わかったよ。

   じゃあ──」

 

一息入れて、目の前で膨れている彼女に目を合わせ──

 

一刀「桃香」

 

桃香「はい♪」

 

本当に嬉しそうな顔をする。

そしてその両隣にいる二人にも

 

一刀「愛紗、鈴々」

 

愛紗「はっ」

 

鈴々「応なのだ!」

 

一刀「これから先どうなるかはわからないし、俺がいつ帰るのかもわからないけど、

   その日が来るまでは全力で君たちの手助けをしていきたいと思う」

 

そう、これから先の事なんてわからないけど、俺は彼女たちの真名を預かった。

それがどういう意味なのかは前の世界で散々身にしみている。

だから俺は俺なりにいつか帰る日までは頑張ってみようと思う。

 

一刀「改めてよろしくな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桃園でのやりとりを終え、俺たちは公孫賛……白蓮の本拠地へ向かった。

白蓮は今の桃香の遥か上の立場にいるため、

普通ならば情報収集なりしなければならないだろう。

しかし俺は確信している。

ここに居る公孫賛が俺の知っている白蓮ならば、

そんな小細工をしなくても受け入れてくれるだろう。

むしろ小細工をしたほうが彼女は嫌がるのではないだろうか。

桃香と白蓮は友人同士。

その繋がりを利用して足元を見ようなどという子ではないから。

……いや、利用してもらわないとダメか。

こちらも彼女を利用しようとしているのだから。

とはいえ、この当たりに巣食う盗賊団の規模、

それに白蓮の軍の規模くらいは把握しておきたい。

 

 

 

一刀「というわけで情報収集の結果、

   ここらに巣食う盗賊が約五千人、対して公孫賛の軍が約三千人。

   相手が雑軍だからと言ってこの差はでかいと思う。

   さらに言えば公孫賛の方も半数は農民の次男、三男ってところだろうから」

 

酒屋で昼食を取り、くつろいでいる3人へ矢継ぎ早に述べる。

 

一刀「そこで一番重要になってくるのは部隊を率いる将の質になると思う。

   で、聞くけど3人は兵を率いたことはある?」

 

鈴々「無いのだ!」

 

うんまぁそうだろうね。

しかしそこは問題から外していいだろう。

なにせあの関羽、張飛なのだから。

前の世界でも散々活躍してたもんなぁ。

 

一刀「よしOKモーマンタイ。

   それじゃあ公孫賛のところへ行こう」

 

桃香「えええ!?」

 

愛紗「お、お待ちください!

   確かに公孫賛殿は桃香様のご友人という事ですが、

   さすがにこれだけ少数で行けば足元を見られるのでは?」

 

鈴々「うー……鈴々なめられるのは嫌なのだ。

   ちょっとでも兵を引き連れて行ったほうがいいと思うのだ」

 

うむ、確かに確実性を高めるならそうしたほうがいいんだろうね。

俺だって彼女の事を何も知らなかったら何の準備せずにさぁ行こうなんて言わないけど……

 

 

一刀「はい愛紗、今の所持金はいくらでしょうか」

 

愛紗「……ここのお代を払ってしまえば……これだけですね」

 

一刀「うん無理!」

 

そう、女将のところで無銭飲食してその代わりに皿洗いをした俺たち。

さらにありがたい事にちょっとした給金までくれたのだ。

しかしそれもここに来るまでに全て消費された。

……主に鈴々の食費で。

 

愛紗「しかし、お金は無くても兵の集め方はいくらでもありましょう。

   幸いにも我々は武に長けている」

 

鈴々「そうなのだ。

   鈴々達と戦って鈴々達が勝ったら兵として来てもらうのだ」

 

一刀「まぁそれは鈴々達が勝てるだろうね。

   だけどその方法はちょっと厳しい。

   まず腕自慢の人は既に公孫賛のところへ義勇兵として志願しているだろうって事と

   鈴々達は確かに強いけど女の子なんだ。

   女の子に負けたとあっては男の面目丸つぶれ。

   そんな人が快く手を貸してくれるとは思えない」

 

桃香「そう言われちゃうと……ん~~」

 

愛紗「……」

 

打開策が思いつかず、3人とも黙ってしまう。

 

一刀「まぁ心配いらないよ。

   俺たちだけで言ってもそりゃ少しはなんじゃそらとナメられちゃうかもしれないけど、

   少なくとも俺達が一方的に利用されるなんて事にはならないと思う。

   確信もしてる」

 

桃香「どうして?」

 

一刀「んー……」

 

白蓮という人間を知っているから、と言えば簡単だが彼女達に言ってもそれこそなんじゃそらだ。

 

一刀「まぁ、騙されたと思ってさ。

   御使い様の予言って事でひとつ」

 

3人とも不安を隠しきれない様子だが渋々頷いてくれた。

まぁ3人からすればなんの確証も保証もなく、

只良いように利用されてしまうかもしれないという懸念があるのだろうから仕方ない。

しかし何も打開策が無い今、反論しようにも材料がないのだろう。

不安にさせてしまうのは申し訳ないけど、ここは言うとおりにしてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後4人で城を訪ねた。

門前で少し待たされたが、劉備が来たという事よりも天の御使い、

つまり俺が来たという事ですぐに玉座へ案内されることになった。

 

一刀「あるぇ……?」

 

愛紗「どうかしましたか?

   今のところはご主人様の言っていた通りになっていますが」

 

一刀「え?うんいやぁそうなんだけど……」

 

俺が思っていたのは

桃香が尋ねる→白蓮喜ぶ→一緒に戦おうよ!

みたいな流れになるはずだったんだけど、まさか俺に食いついてくるとは思わなかった。

彼女の性格からして天の御使いを手に入れたいとか利用したいとか

そういう事はなさそうだけど……普通だもんなぁあの子。

 

一刀「まぁ考えても仕方ないか」

 

とりあえず白蓮と会わないことには何も始まらないしな。

そう心の中で納得し、侍女の案内に従い、玉座の間へ足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

白蓮「桃香!ひっさしぶりだなー!」

 

桃香に向けられた第一声。

うむ、素晴らしいくらいに普通味溢れている。

白蓮らしい。

 

桃香「白蓮ちゃん!久しぶりだねー♪」

 

白蓮「魯植先生のところを卒業して以来だからもう3年ぶりかー。

   元気そうで何よりだ」

 

桃香「白蓮ちゃんこそ元気そうだね。

   それにいつの間にか太守様になっちゃって、すごいよー!」

 

……同窓会かっ。

そんなツッコミを入れてしまいそうになるくらい和気藹々とした雰囲気。

さっきまで兵がどうのこうのと言ってた雰囲気はどうした。

あっちはあっちできゃいのきゃいのと楽しそうにはしゃいでるようで何より。

とりあえず向こうの話が終わるまですることが無いので……

と、玉座の間をぐるりと見渡すと──

 

「ほう、見たことの無い得物を持っている。

 この短期間で連続してこうも珍しいものにお目にかかれるとは」

 

一刀「ふおぉ!?」

 

突然後ろから声をかけられる。

しかもかなり聞き慣れた声だ。

 

一刀「な、なんだよ。

   びっくりさせないでくれよ、せ──」

 

星。という言葉が喉元まででかかりなんとか止める。

危ない危ない。ここでの星は俺の事を知らないんだから、

真名なんて呼んだら首を刎ねられかねない。

とはいえ──

 

一刀「……どうも」

 

やはり嬉しく感じてしまう。

ここにいるのが別の星だとしても、姿は全く同じ。

その姿を見ただけで嬉しくなってしまうのだ。

 

 

 

 

 

そして俺はさらに驚く。

星の後方、少し離れたところにいる銀髪の少女。

髪型や服装などは変わっているし、顔も下半分が防具で隠れているがわかる。

自分の愛する者の姿を見間違うはずはない。

間違いなく彼女だ。

しかし混乱した。

彼女がここにいるはずがないのだから。

前の世界だって、華琳の所に来るまでにここに居たなどという話は聞いてない。

ならあそこにいる彼女は……

と、考えていると彼女も目を見開きこちらを見ている。

少しずつこちらに近づき、だんだんとその足を早め──

 

一刀「…………」

 

俺の目の前で止まる。

あまりの事に混乱して言葉が出てこない。

しばしの沈黙、そして彼女が口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凪「……隊長……ですか?」

 

その言葉を聞いた瞬間、堪えきれなかった。

 

星「おお……」

 

周りの目があることも忘れ、

強く、強く彼女の体を抱きしめた。

 

一刀「……凪か?」

 

彼女の首筋に顔を埋め、確認するまでもない事を確認する。

それほどに信じられなかったから。

 

凪「……はい。

  ……貴方を……守りに来ました」

 

そう言い彼女も背中に手を回し抱き返してくれる。

今まで桃香達と出会って、頭では割り切ってここまで来たつもりだったけど、

心はそうじゃなかったようで。

緊張の糸が切れたというか、抑えていたものが爆発したというか。

とにかく涙が止まらなかった。

桃香達が居るのはありがたい事だけど、

それでも俺は不安だったのだろうか。

知らず知らずのうちに、

この世界で俺は孤独という不安を抱えていたのだろうか。

自分が現世へと返された事を思い出していたのだろうか。

これがどんな感情で流している涙なのかはわからないけど、

とても心が救われた。

 

凪「もう独りにしません。

  ずっとお傍にいます」

 

一刀「ああ……ああ……ッ!

   傍にいてくれ……!」

 

只々、凪の暖かさに安心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白蓮「あのー……」

 

しばらく二人で抱き合っていると、白蓮が声を掛けてくる。

 

白蓮「うん、二人が感動の再会をしたってのは雰囲気でわかる。

   気持ちもよ~くわかる。

   わかるから場をわきまえてくれ……」

 

顔を真っ赤にし、目線をそらしながら言う。

 

凪「す、すすすすみません!」

 

そしてものすごい勢いで俺から離れる凪。

こちらも顔を真っ赤にしている。

言い訳をしようとしているのか何度か口をパクパクさせるがそのまま俯いてしまう。

……愛い奴よのう。

 

星「ふむ。

  楽獅殿の探し人とは、恋人であったか」

 

口元を抑え、俺のよく知る仕草で楽しい事を見つけたかのような視線。

うん、こっちの星も相変わらずでなんというか安心した。

 

桃香「わぁ……」

 

愛紗「ん、んんッ!!」

 

鈴々「……」

 

こちらの3人も、惚けたり呆けたり、わざとらしく咳き込んだりして。

 

愛紗「えー、あー……」

 

一刀「あ、あぁそうそう。

   なんで公孫賛は俺達をすぐに通してくれたんだ?」

 

気まずいので話を逸らす。

 

白蓮「え?あぁそれは楽獅がうちに士官するときに金はいらないから

   天の御使いの情報があったらくれって言うもんだから」

 

……さっきから思ってたけど”楽獅”って?

 

一刀「(……なぁ凪)」

 

凪「(ここで自分の名が明らかになってしまうのはまずいと思ったので偽名を)」

 

一刀「(髪型や服装も変えて顔も隠してるのも?)」

 

凪「(はい。自分なりの変装です……変、でしょうか?)」

 

一刀「(いやいや、すごく似合ってるしかわいいと思うよ)」

 

凪「(あ、ありがとうございます)」

 

なるほど、確かに凪がここにいる事は歴史上ではありえない事だし……

って、あれ?

確かにここに居るのは歴史上ではおかしいのかもしれないが

見た目を帰る必要はあるのか?

まるで誰もが凪の事を知ってて、

それで顔がバレないようにしてるような……え?

 

一刀「(……つかぬ事を聞くけどさ。

    ……凪ってもしかして二人いるの?)」

 

凪「(……そのようです。しかもバレたらまずいのはもちろん、

   楽進、つまり自分二人が対面した瞬間、

   この世界への馴染みが無い私は外史の外へはじき飛ばされるそうです)」

 

なんということだ。

そんな危険を冒してまで来てくれた事はすごく嬉しい。

嬉しいけど、なんて無茶をしたんだ……。

 

凪「(……もう、離れるのは嫌ですから)」

 

俯き加減の上目遣いというダブルパンチ。

ぐはッ……これは許さざるを得ない。

むしろありがとうございます。

 

白蓮「何を二人でコソコソ話してるんだ?」

 

一刀「いやいや、なんでもありませんよ。

   それにしても楽獅を雇ったのは何で?」

 

白蓮「何でも何もお前、それだけ親しい仲なら知ってるだろ?

   もう強いのなんのって。

   そんな奴が義勇兵としてうちに来て

   金はいらないから情報だけくれなんて言うから最初は疑ったけど

   星が大丈夫だと言うし、

   それにそれだけ強い奴が来てくれるなら私も願ったり叶ったりだしな」

 

なるほど。

じゃあ凪のおかげでここまですんなり来れたって訳か。

 

白蓮「で、天の御使いが来たーなんて言うから

   どんな胡散臭くても情報を渡すと約束した以上通さない訳にもいかないし、

   まぁそれが当たりだった訳なんだけど」

 

うむ。

自分でも胡散臭いと思うし、俺だったら絶対に通さないだろうなと思う。

 

桃香「一刀さんは本物だよ!

   私には見えてるもん!

   ご主人様の背後に光り輝く後光が!」

 

どこの菩薩だと。

 

一刀「まぁ後光があるかはともかく、

   今は桃香達と行動を共にしているんだ。

   よろしく」

 

凪「……ご主人様?」

 

爽やかに挨拶をした俺の横で何やら不穏な気配。

何だろう。

見なくてもわかるような不機嫌オーラというかなんというか。

 

桃香「そうだよ!一刀さんは私達のご主人様になってくれたんだよ♪」

 

一刀「違うんだ!」

 

凪「…………」

 

鈴々「そうなのだ。

   お兄ちゃんにはもう鈴々達の真名も預けてるのだ」

 

凪「ほう」

 

あれぇ?

おかしい。

感動の再会を果たしたはずなのに。

というかやっぱり桃香達は俺の話を聞いてないんじゃないのか?

あくまでも主人は桃香であって

俺はその補佐役的な存在という事で落ち着いたはずなのに。

 

一刀「いや、だからね、凪」

 

凪「自分は隊長の部下ですから、

  隊長がお決めになった事に口出しする権利などありません」

 

全力で不機嫌なんですけど……

 

凪「しかし自分は華琳様から隊長の事を任されている身ですので、報告はさせていただきます」

 

一刀「待って!話を聞いて!」

 

こんな事華琳に知られたら

それこそ城中に一晩もかからないうちに知れ渡ってしまう。

そしてまた華琳に

”貴方が誰のものなのか再認識させなくてはならないようね”

みたいな事言われて──

……それはそれでいいかもしれない。

 

凪「何をだらしない顔をしているのですか」

 

一刀「はっ!?」

 

そんな事考えてる場合じゃねぇわ。

 

一刀「いや違うんだって。

   ご主人様とか呼ばれちゃってるけどこれはそう、

   いわば形だけの主人という事で。

   ほら、天の御使いとかいうワケのわからない畏敬の存在を

   私兵として扱っちゃったりしたらなんか縁起わるそうでしょ?

   だからそういう事で──」

 

桃香「違うよぅ。

   形だけの主人は私、一刀さんは私達の心の中の、

   本当のご主人様なんだよ」

 

凪「……こう言っているようですが?」

 

話をややこしくしないで!

何で普段はほわほわで抜けてる癖にこういうときだけ頑ななんだよ!

 

白蓮「あーはいはい痴話喧嘩は二人の時にやってくれ。

   とりあえず今は盗賊団討伐の話だ」

 

一刀「そうそう!

   苦しんでる街の人たちを一刻も早く救ってあげないと!」

 

ナイス白蓮!

帰ったら飯くらいは奢ってやる!

 

凪「……うまく逃れたと思わないでくださいね」

 

何か隣で怖い事言ってるけど聞こえない。

俺には何も聞こえない。

 

 

 

 

 

 

 

……後でフォロー入れておこう。

怖いもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、凪の抗議の視線を横に感じつつ、賊討伐の話は進んだ。

そして俺の思ったとおり、白蓮は桃香たちの力を認め、

盗賊団討伐の参加を許可してくれた。

そのための陣割を決めるためにしばしの休憩を挟み、

侍女に呼ばれ城門へと向かった。

そこには武装した兵士が整列していた。

桃香達は星と何やら難しい顔で話している。

……何やら四人で手を合わせ始めた。

力を合わせて頑張ろうみたいな事をしているのだろうか。

 

 

 

 

 

一刀「はい、という訳で左翼の全指揮を任された訳なんだけど」

 

愛紗「新参者に左翼全指揮を渡すとは。

   なかなか豪毅な方ですね、白蓮殿も」

 

一刀「それだけ期待されてるって事だと思う。

   頼むよ?鈴々」

 

鈴々「任せろなのだ!」

 

一刀「凪」

 

凪「はっ」

 

一刀「俺達二人は少数の兵を率いて遊撃部隊として動かさせてもらう。

   敵の規模は約五千だから相手の気を引く程度なら出来ると思う」

 

遊撃部隊としてはあまりにも頼りなさすぎるが、

軍で動くことになれていない俺に加え、

氣弾での集中火力がある凪には小隊として動く方が好ましい。

乱戦のど真ん中に居たとなれば凪の氣弾は味方を巻き込んでしまうかもしれないし、

それに気を使って全力を出せないのも効率が悪い。

何よりこれは相手が盗賊という雑軍だからこそ出来る事だ。

 

凪「了解しました」

 

桃香「ええ!?」

 

愛紗「なっ!?お待ちください!あまりにも危険です!

   ご主人様はどうか桃香様と──」

 

一刀「大丈夫だって。

   何も捨て身で突進するわけじゃない。

   公孫賛が選りすぐりの精鋭を貸してくれたし、精々ひと当てして下がる、

   くらいの事しかやらないよ」

 

俺の氣も完全に回復している訳じゃない。

凪のように氣を飛ばそうものなら激痛により悶絶してしまう。

せいぜい体に氣を循環させて身体能力の強化ってのが良いとこだ。

 

愛紗「しかし……!」

 

一刀「それに凪もいる。

   何より愛紗達に力を貸すって言ったのに

   無茶して御陀仏なんて事するわけないだろ?」

 

愛紗「…………」

 

何やら必死に反論しようとしているようだが、この戦力差とあっては一人でも多いほうが良い。

そのため強くは言えないんだろう。

 

愛紗「……わかりました。

   ですがくれぐれも無茶はしないでください。

   危ないと思ったらすぐに下がってください」

 

桃香「絶対の絶対に、無茶しないでよ?」

 

一刀「わかったよ」

 

渋々納得し、凪に向き直り

 

愛紗「頼んだぞ楽獅殿。

   必ずご主人様を守ってくれ」

 

桃香「お願いね!楽獅ちゃん!」

 

凪「当然です。お任せ下さい」

 

先ほどの不穏な空気もどこへやら。

目線を合わせ頷き合い、馬に跨る。

 

白蓮「諸君!いよいよ出陣の時が来た!」

 

先頭に立っている白蓮の演説が始まり、兵達の士気が上昇していく。

それぞれの胸に勇志を抱いて、彼女の演説に呼応する。

 

白蓮「公孫の勇者達よ!今こそ功名の好機ぞ!各々存分に手柄を立てぃ!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

白蓮「出陣だ!」

 

白蓮の号令と共に意気揚々と城門から出発する兵士。

桃香、愛紗、鈴々達も左翼部隊を引き連れ進行。

俺と凪の小隊はその左翼に組み込まれながらも、いつでも離脱できる場所にいる。

しばらく移動していると本陣からの伝令が届いた。

 

愛紗「いよいよですね」

 

一刀「ああ、じゃあこっちは任せたよ。愛紗、鈴々」

 

愛紗「はっ!」

 

鈴々「合点なのだ!」

 

そう言い全軍停止している部隊の前へ出ていき

 

愛紗「聞けぃ!劉備隊の兵どもよ!

   敵は組織化されてもいない雑兵どもだ!

   気負うな!さりとて慢心するな!」

 

愛紗達の鼓舞が始まった。

それを確認しつつ、俺達は小隊を再度整列し直す。

さすがというべきか。

公孫賛選りすぐりの兵という事もあるのだろうが、凪の指揮能力が半端じゃない。

やはり小隊をずっと率いてきたからか、非の打ち所のない号令で兵達を動かす。

 

凪「いいか!我々はあくまでも敵を翻弄することが目的だ!

  深追いはするな!命令をよく聞け!

  貴様らの一挙手一投足が隣の仲間の命綱となる!」

 

『うおおおおおおおーーーーーーーーーー!!!』

 

おお……やはり流石。

迫力も俺なんかとは段違いだ。

 

「敵影を確認!」

 

凪「全員抜刀ッ!!!」

 

号令と共に遊撃部隊全員がほぼ同時に抜刀する。

 

「盗賊たちが突出してきました!」

 

鈴々「いよいよ戦い開始なのだ!皆鈴々に続けーーーーーーー!!!」

 

愛紗「関羽隊も行くぞ!!全軍突撃ぃぃーーーーーーーーーー!!!」

 


 
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