No.513101

咲-Saki-《風神録》日常編・南二局三本場

壁|・ω・)<すっきりさわやか?

               \マダゼスチンサイダー!/

2012-11-28 20:44:49 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:3010   閲覧ユーザー数:2936

「はぁ、はぁ……お、追ってきてないよな?」

 

「だ、大丈夫っぽいっすよ」

 

「はぁ……はぁ……」

 

「い、いきなり走り出すんじゃないし!」

 

 適当に走った俺たちは駅と反対側の公園までやってきた。背後から男たちは追ってくる様子はなく、どうやら撒いたようだった。やれやれ。

 

 

 

咲-Saki-《風神録》

 南二局三本場 『遊びに行こう!~帰宅編~』

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「キャ、キャプテン大丈夫ですか?」

 

「あ、す、すみません、急に走らせてしまって」

 

 キャプテン(仮)さんはいきなり走ったことで息が上がってしまい、膝に手をついて大きく肩を上下させていた。しかし丁度いいことに目の前には自動販売機が。というわけでポケットから財布を取り出し硬貨を投入。何がいいのか分からないから、適当に水、炭酸飲料、スポーツドリンク、お茶と各種選んだ。

 

「お好きなのどうぞ。ご要望があれば買い直します」

 

「い、いえ、そんな、助けてもらったのに、こんな……」

 

「お好きなの、どうぞ」

 

 経験上、こういうタイプの人は多少強引に持っていかないとずっと遠慮し続けてしまう。だから多少強引に押し付けてしまった方がいいのだ。キャプテン(仮)さんは大分戸惑った様子であったが、最終的にはおずおずと俺の腕の中から水を抜き取っていった。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「どういたしまして。はい、そっちもどーぞ」

 

「……まぁ、貰っといてやるし」

 

 少女――猫っぽいから猫(仮)少女でいいや――も炭酸飲料を抜き取っていく。

 

「はい、モモ、どっちがいい? それとも買い直す?」

 

「じゃあお茶貰うっす」

 

 全員に飲み物が行き渡ったことを確認してから、手元に残ったスポーツドリンクの蓋を開ける。

 

「あ、あの」

 

 口を付けて飲もうとしたところで声をかけられ、そのままの姿勢で止まる。目線を動かすと、キャプテン(仮)さんがペットボトルを手にしたまま俺に向かって頭を下げていた。

 

「先ほどは困っているところを助けていただき、その上に飲み物までこうしてご馳走になってしまい、本当にありがとうございます」

 

「……あ! い、いえ……」

 

 その驚くぐらい礼儀正しい(と言っては失礼があるのではと思うぐらい)対応に、思わず呆気に取られてしまった。隣のモモもお茶を両手に持ったまま若干ポカンとしている。

 

「今度お礼がしたいので、よければお二人のお名前と連絡先を教えていただければ……」

 

「い、いやいや、そんなのいいですって。俺たちが勝手にやったことですし」

 

「私も御人君に頼まれて協力しただけっすから」

 

 自己満足のためにやったことでお礼をされる筋合いは無い。むしろこうして綺麗なお姉さんとお話できただけで十分満足――。

 

 ゾワッ

 

「!?」

 

 な、なんだ!? 今何処からか寒気が……お話というかオハナシ的な感覚が……。

 

 

 

 

 

 

「そ、そういえば先ほどからキャプテンって呼ばれてましたけど、何部のキャプテンさんなんですかね?」

 

 話題転換にとそんな話を振ってみる。

 

「ええと、風越女子で麻雀部のキャプテンをさせていただいてます」

 

 へえ、あの『名門』風越女子の麻雀部のキャプテンさんだったのか。風越女子の名前を聞いてもしやとは思ったが、本当に麻雀部だったとは。

 

「じゃあ、またお会いする事になるかもですね」

 

「……えっと、それはどういう意味で……?」

 

「そのままの意味ですよ。俺らも鶴賀の麻雀部なんで」

 

 最も、実際に彼女たちと戦うことになるのは女子であるモモだけで、男子部員の俺は精々会場で顔を合わせる程度であろうが。

 

「……へえ、そうですか」

 

 その瞬間だった。

 

 ゾクリッ

 

「っ!?」

 

 先ほどとは比べ物にならない寒気、威圧的で押し潰されそうな勢いの『風』が俺の中を駆け巡った。さっきの寒気は出何処が分からなかったが、今回はハッキリと分かる。

 

 その『風』は、目の前の少女から発せられていた。

 

 目の前の、朗らかに笑う少女の閉じられた右目から発せられていた。

 

「? どうかしましたか?」

 

「い、いえ……何でもないですよ」

 

 突然腕を擦り始めた俺の行動を訝しく思ったのか、キャプテンさんは首を傾げる。俺はそれに対してただ首を横に振るのだった。

 

「大会で当たっちゃった時は、是非ともお手柔らかにお願いしますね?」

 

「ふふ、考えておきますね」

 

「うわ、ちょっと怖……」

 

 その後、どうやら彼女たちは学校の備品の買出しの途中だったらしく、大会でまた会いましょうという言葉と共にキャプテンさんと猫(仮)少女は去っていった。

 

「それじゃ、私たちもそろそろ行くっすか?」

 

「あ、ああ、そうだな」

 

 空腹を二度思い出した俺たちも、改めて昼食を取るために公園を跡にする。

 

 何処で何を食べようかという会話をモモとしながらも。

 

 俺は、頭の片隅で先ほど感じた『風』のことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 日は既に傾き始め、窓から差し込んでくる夕陽に照らされながら俺とモモは電車に揺られていた。

 

 昼食を食べてから俺たちは結局夕方まで遊び続けた。ゲーセンに戻って再びゲームに興じ、適当に歩きながらウインドウショッピングをしたりと、いかにも十代の健全な男女の遊びだったと思う。……一人だと普段が普段だからなぁ(部屋で漫画やラノベやゲームやネットサーフィン)。

 

「今日は楽しんでもらえたかな?」

 

「もちろんっすよ! すっごく楽しかったっす!」

 

「そかそか」

 

 それなら重畳である。途中は無理矢理走らせて疲れるような真似をしてしまい、何だかんだで自分本位で連れまわしてしまった感が否めなかったが、モモが楽しんでくれたならば良しとしよう。

 

「……御人君は、楽しかったっすか?」

 

「もちろんだ。また何処か遊びに行こうな」

 

「はいっす!」

 

 ……よし! 今もの凄くさりげなく次のデートの約束を取り付けることに成功した! よくやった俺!

 

 次のモモとのデートに思いを馳せながら、俺とモモの初めての遊び……否、デートは幕を閉じたのだった。

 

 

 

 頭の片隅に、今日邂逅した少女から感じた『風』のことを残したまま……。

 

 

 

   †

 

 

 

「そういえば御人君、どうして一筒(イーピン)なんて持ってたっすか?」

 

「いや、なんか知らないけどポケットの中に入ってた」

 

 不思議なことがあるもんだ。

 

 

 

 《南三局に続く》


 
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