No.510602

コルチカム(spn/cd)

2014のキャスxディーン?サム←ディーン←キャス?あんまりカプ臭くない。自サイトの拍手駄文。入れ替えのために投下。花言葉シリーズで書いてます。セリフの最後を、花言葉の意味にしてます。永続・回顧などの意味もあるようですが、当方こちらを採用。

2012-11-21 08:05:51 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:819   閲覧ユーザー数:819

 

 記憶が映画のフィルムのようなら、さしずめこれは、カビが生えて映像の擦り切れた1コマだろう。

 

―その花は、コルチカムっていうんだよ。

 

 どこの街かは覚えていない。公園に入りそこねたような場所で、球根が剥き出しのまま地面に転がっていた。だのに花は咲いている。白みがかった茎の先に開かせている紫がかったピンクの花びらは、無機質な地面と相まって、やけに目立った。葉っぱが無いので引き抜かれたのかとも思ったが、土はどこにも着いていない。

 

 一体どういう事だと首を傾げる俺の隣で、奴はさらりと、花の名前どころか育て方まで答えた。

 

 

 

 どうしてあいつは俺の弟のくせに、花なんて詳しいんだ。情報オタクにも程があるぞ。

 

「リーダー、時間だ」

 

 頭上から呼ばれる言葉で目が覚めた。ゆっくりと瞼を開ければ、車の助手席で銃の手入れをしながら、こっちに意味深な笑みを浮かべる男がいた。

 

「…………珍しいな、うたた寝をするなんて」

 

 こいつの顔は知っている。だけど、どうだろう、記憶の奥にある奴と違う気がする。

 

 そうだ、俺はこいつの事を、こう呼んでいた。

 

「キ……」

 

 俺は無意識に呼びかけた名前を、慌てて唇ごと手のひらで塞いだ。

 

「何?」

 

「いや……」

 

 曖昧なまま終わらせたけど、相手は気にした様子も無い。こいつがどんな意味を持って聞き流しているかはどうでもいい。

 

 とりあえずは、手入れに行き詰まった短機関銃を、訝しそうに眺める奴から、その銃を奪い取る。

 

「貸してみろ」

 

 素直に渡された銃を、体が覚えるまま診断する。

 

「ジャムった時に、ここが引っかかったんだ」

 

 原因さえ分かれば、後は簡単だ。数度部品をかみ合わせ、スムーズになった銃を返してやる。

 

「ほら」

 

「どうも」

 

 窓から見上げた空は、明るくなっていた。とはいえ、陽の光など差さなくなった今の世界では、明度の度合いでしか判断出来ないが。

 

「頃合だな」

 

 悪魔を狙うのに、あえて夜を選ぶ必要はない。俺と同乗者は2人で朝を待っていた。

 

 車を出て、数十メートル先にある廃墟となったビルに向かう。ところが車を出た男が、ドアを閉めながらこの場に似つかわしくない声を発した。

 

「珍しいなあ、花が咲いてる」

 

 これから悪魔と向かい合うというのに、何を呑気なと眉を潜めた。

 

「大分元気は無いが、球根が剥き出しのままとはいえ、こんな世界でタフな奴だ」

 

 そのまま俺の名を呼びかねない気楽さに、わざとらしく溜め息をつきながら近づく。別に花を見たいからではなく、奴のいる側に、目的地があるからだ。

 

 早くしろ。そう口を開いた筈が、驚きのあまり立ち止まったまま、全く違う言葉を紡いでいた。

 

「コルチカム、だ」

 

「へえ、詳しいな、リーダー」

 

 俺から名前が出るのを心底意外そうに返す声が、やけに遠く感じる。代わりに夢で見た記憶の断片が、ノイズに混じって蘇る。

 

―その花は、コルチカムっていうんだよ。土に植えなくても時期が来ると花を咲かせるらしいけど、本当なんだ。

 

 何故か楽しげに目を細めながら、こいつは、俺の弟は丁寧な手つきで花を拾い上げた。

 

―来年も咲かせるには、やっぱりちゃんと土に植えて水も太陽もいるんだよ。公園目の前だし、ちょっと植えてくる。

 

 俺は、そんな暇なんか無いと言いつつも、しょうがねえなと笑って付いていった。

 

 あれがいつの頃の事だったか、もう覚えていない。その日、どんな風に過ごしたのかも。あるのは古い映画のように、掠れたワンシーンだけ。

 

 そういえばあいつは、どう俺の名を呼んでいたっけ。

 

 記憶の渦に飲み込まれそうになっている俺の傍で、なんとはなしに尋ねて来た声で覚醒する。

 

「じゃあ、花ことばなんてのも知ってるのか。こんな世でもかろうじて色を見せるなんて、寝物語として丁度良い」

 

 いつも通りの、どこまで本気か分からない問いかけに、俺は自然と苦々しい顔になる。

 

「知るわけねえだろ。女でこれ以上揉め事は起こすな」

 

「リーダーの安眠を妨げる程の事は起きてないさ」

 

「そうかよ」

 

 相手が逃げる為に、うたた寝の事を持ち出してきたのは明白だが、俺もあえてこれ以上の無駄口は止めた。

 

 あいつがどんな風に俺の名を呼んでいたのかも、あいつが俺の何であったかも、全てが消えゆく物だ。

 

 消していかなければ、俺はいつか思い出に潰されてしまう。

知るわけがないと一蹴したコルチカムの花ことばを、実は知っている。ある日俺は、カフェで頼んだコーヒーを待っている間に、なんとはなしに調べてみた。

 

 理由は簡単、あいつが教えてくれなかったからだ。

球根を植えているのを眺めている間、手持ち無沙汰で尋ねた俺に、あいつは知らないと答えた。

 

 いつか袂を分かれる、そんな日が来ると知っていたのか。それとも、その花ことばに含まれている物そのものが、俺たちには存在しなかったのか。

 

「いい加減行くぞ、今なら奇襲を狙える」

 

「はいはい、2人でどうにかするしかないんだからな」

 

 俺が直した短機関銃と、俺の手の中に収まる銃の安全装置を外す。

俺から離れた男の代わりを務めるように、こいつは傍を離れようとしない。ああ、それすらもいつか、忘れなければ。

土も水も陽もいらない。何より、明日をも知れぬ世界にしたのは、俺であり、あいつなのだから。

 

 薄れゆく、遠き安息の日々。

 

 無造作に投げされたままであろうコルチカムの花は、直に色を消して、この世界に溶け込むだろう。ならばまだ色を為している今なら、己を超える男の声が聞こえただろうか。

 

「俺の最良の日は過ぎた」


 
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