No.506926

真・恋姫無双アナザーストーリー 蜀√ 桜咲く時季に 第50話

葉月さん

いよいよ、紫苑との戦闘になります。
そして、最後の奥付では前回の投票結果を発表します。

お楽しみください!

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2012-11-11 16:05:42 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:7445   閲覧ユーザー数:5486

真・恋姫無双 ifストーリー

蜀√ 桜咲く時季に 第50話

 

 

 

 

【将として、母親として】

 

 

 

《一刀視点》

 

「おはよう、みんな」

 

「あっ!ご主人様!おはようございます」

 

天幕に入り朝の挨拶をすると桃香が元気よく挨拶をしてくれた。

 

「あれ?ご主人様、愛紗ちゃんは?」

 

「え?あ、ああ……愛紗なら」

 

「?」

 

俺は苦笑いを浮かべて天幕の入り口を見た。

 

「……っ!」

 

「……愛紗ちゃん、どうしたんですか?」

 

「うん……なんだか桃香の顔を見れないとか言って入って来ないんだよ」

 

多分、昨日のやり取りが原因なんだと思うけど。

 

昨日、愛紗の話だと本当なら二人で俺に可愛がってもらう予定だったらしい。

 

俺はその話を聞いて昨日の夜の会議の時に愛紗が『夜』がどうのって言っていたことを思い出していた。

 

「ちょっと愛紗ちゃんの所に行ってきますね、ご主人様」

 

「ああ」

 

桃香はそれだけを言うと天幕の外で隠れている愛紗の元へ向かっていった。

 

「昨晩はお楽しみだったようえすな、主」

 

「せ、星……ま、まあ。流れと言うかなんというか」

 

「ふえ?お楽しみってなんですか?」

 

「雪華よ、お楽しみと言うのはな……」

 

「わわわっ!なんでもないよ、雪華!せ、星も余計なことを言うんじゃない!」

 

「?は、はぁ……」

 

慌てて星の話を止めさせて雪華に何でもないと伝えた。

 

「ごほん……遅れたけど、星、雪華。おはよう」

 

「あ、はい!おはようございます、ご主人様!」

 

「おはようございます、主よ。今日も戦日和の良い天気ですな」

 

「ああ……いい天気だな」

 

戦日和、ね……あんまり良い響きじゃないな。

 

「ご主人様~、愛紗ちゃんを連れてきたよ」

 

「と、桃香様!そんなに引っ張らないでください!じ、自分で歩けますから!」

 

愛紗は桃香に無理矢理つれて俺の元へ来た。

 

「おや、愛紗。昨日はお盛んだったようだな」

 

「なっ!せ、星!何を言い出すんだ!雪華が居るんだぞ!」

 

「お盛ん?」

 

「雪華はまだ知らなくてよい事だ!」

 

「ふ、ふぇ、す、すみません」

 

「愛紗よ、少し強く言い過ぎだぞ。雪華が怯えてしまったではないか」

 

「す、すまない……雪華よ、別に怒っているわけじゃないんだ。元はと言えば星、お前が変なことを言うのがいけないんだろ」

 

「はっはっは。愛紗をからかうのは日課だからな」

 

「勝手に日課にするな!まったく……それより、朝議を始めるぞ。皆、既にこの場に居るな」

 

愛紗は星にからかわれ、いつもの調子を取り戻していた。

 

「ありがとう、星」

 

「おや、私は愛紗をからかっただけですぞ?主にお礼を言われるようなことではありますまい」

 

お礼を言うが星は何のことだと言わんばかりに惚けていた。

 

「ご主人様、星と話していないで朝議を始めますぞ」

 

「なんと!あれだけ主としていたのにまだ足りないというのか、愛紗よ」

 

「な、何を言い出すのだ急に!」

 

「ふふふ、良いではないか詳しく教えても」

 

「ば、バカなことを言うな!」

 

「……」

 

いや、本当にからかってるだけなのかも……

 

再び愛紗をからかい始めた星を見てそんなことを思っていた。

 

「よし!今日こそは城を落とすぞ!皆、気合を入れろ!」

 

「「おうっ!」」

 

愛紗の気合の入った声に兵たちは声を揃えて答えていた。

 

「愛紗ちゃん、気合入ってますね、ご主人様」

 

「ああ」

 

「きっとご主人様が愛紗ちゃんを一杯可愛がってあげたからですね」

 

「ぶっ!と、桃香!?」

 

桃香の言葉に思わず噴いてしまった。

 

「いいな~」

 

「……」

 

「私もご主人様に可愛がって貰いたいな~?」

 

「……」

 

桃香は上目遣いで俺を見上げていた。

 

「そ、そのうちな……」

 

「そのうちっていつですか?」

 

「そのうちは、そのうちだよ……」

 

「え~。それじゃ、分からないです。ちゃんと決めてください」

 

桃香は不満な表情を浮かべて俺に詰め寄ってきた。

 

随分と粘ってくるな……

 

「ほ、ほら、今から攻城戦だし、また後でな」

 

「う~ん……わかりました」

 

「ほっ……」

 

俺は安堵の溜息をついた。が、

 

「それじゃ、終わったら聞きに来ますから決めておいてくださいね!」

 

「……」

 

桃香は笑顔で答えると足取り軽く持ち場へ戻っていった。

 

はぁ、どうやら回避は出来ないみたいだ……

 

「どうかしましたか、ご主人様?」

 

「ん?なんでもないぞ、雪華」

 

「わぷっ!な、なんで撫でるんですか?」

 

話しかけてきた雪華になんでもないと言いながら頭を撫でた。

 

「雪華が可愛かったから、かな」

 

「ふぇええ!?こ、こんな時に冗談はやめてくらはい!」

 

「噛んでるぞ」

 

「ふえっ!」

 

「はは」

 

雪華の恥ずかしがる仕草が可愛くて思わず笑ってしまった。

 

「あーーーーっ!一刀君が雪華ちゃんとイチャイチャしてる!ずるーーーい!」

 

「「「っ!!」」」

 

なぜだか分からないが、優未の大声と同時に多くの視線を感じた。

 

な、なに?何でこんなに見られてるんだ?

 

「ずるいずるい!私も雪華ちゃんとイチャイチャする~!雪華ちゃ~~~~ん♪」

 

戸惑う俺を尻目に、優未は雪華に抱きつこうと腕を伸ばし迫ってきていた。

 

「ふぇえええっ!?」

 

「待って~、雪華ちゃ~~ん♪」

 

雪華を捕まえようとする優未に、雪華は俺を盾にして逃げていた。

 

「ゆ、優未。雪華も困ってるから止めてあげてくれないかな?」

 

「え~!」

 

「そう言わずに、それにこれから戦うんだしさ」

 

「ん~、仕方ないな~」

 

優未は俺の説得で渋々了承してくれた。

 

「……んふふ~♪ちゅっ」

 

「んっ!?」

 

優未はニヤリと笑い、突然俺の口にキスをしてきた。

 

「今日はこれで許してあげるね♪それじゃね~♪」

 

優未は上機嫌で持ち場に戻っていった。

 

「……な、なんだったんだ?」

 

状況が飲み込めず頭を捻る。

 

「……むぅ~」

 

「ん?どうした、雪華」

 

「何でもありません」

 

「??」

 

なぜか雪華は頬を膨らませて不機嫌そうにしていた。

 

それに周りからの視線もさっき以上に痛いんだけど……お、俺なにかしたか?

 

「主よ」

 

「あ、な、なに?」

 

「とりあえずですが……これで今回は許しましょう」

 

「へ?」

 

(がんっ!)

 

「~~~~~~~~~~~~っ!?!?」

 

星は笑顔で言うと、自分の得物である龍牙の柄で俺の頭を思いっきり叩いてきた。

 

「な、何するんだ、行き成り」

 

頭を抑えながら抗議する俺を星は笑顔を崩さずに言ってきた。

 

「逆にお礼を言われたいくらいですぞ、何しろ若干一名、主に斬りかかろうとしていた者も居ますからな。

 

「……」

 

星に言われ辺りを見回すと一人だけ……そう、さっきまで上機嫌だった愛紗が眉を吊り上げて得物を力強く握り締めて俺の方を見ていた。いや、睨んでいた。

 

「は、ははは……」

 

「私より愛紗の方が良かったですかな?」

 

「いいえ……あ、ありがとうございました」

 

「まあ、礼を言われるほどの事ではありませぬ。何せ私も少々我慢になりませんでしたからな」

 

星は笑顔で答えると、愛紗の方へ歩いて行き、愛紗の背を押し……って!押して!?

 

「ご主人様ぁあああーーーーーっ!!」

 

愛紗は繋がれていた鎖が切れた犬の様に勢い良く得物を構えて俺の方へ走って来た。

 

「ちょ!落ち着け愛紗!」

 

迫ってくる愛紗の顔が鬼気迫るものがあり、両目を閉じて両手を伸ばして静止を試みた。

 

(むに)

 

「っ!?」

 

ん?なんだこの柔らかくて弾力のあるものは……

 

(もみもみ)

 

「っ……っ!」

 

お?お?これは中々揉み応えが……ん?どこかで揉んだことあるような感触だな。もう一度揉めば分かるかな?

 

(もみもみもみ)

 

「っ~~~~!い、いい加減にしてください、ご主人様!」

 

(ごんっ!)

 

「いっつ~~~~!?」

 

「はぁ~、はぁ~!」

 

頭に星から受けた衝撃よりもさらにそれ以上の衝撃を受けて顔をゆがませる。

 

すると今度は愛紗の少し荒い息が聞こえてきた。

 

ん?愛紗……揉んだことある感触……あっ。

 

俺は恐る恐る目を開き、愛紗を見た。

 

「……」

 

愛紗は頬を赤く染め肩で息をしていた。そして、俺は目線を下した。

 

「あっ」

 

目線を下すと俺の手は愛紗の豊満な胸を鷲掴みにしていた。

 

「いや、これは不可抗力で!」

 

(もみ)

 

「っ!」

 

し、しまった!あまりにもさわり心地が良かったから!

 

「ご主人様……あなたと言う人は……」

 

愛紗はさらに肩を震わせ握り拳を作り氣を……氣?

 

「って!待て待て待て!愛紗、さっきの拳でも痛かったのに拳に氣を集めるなんて!お、俺の頭が割れる!割れるから!」

 

ま、まずい!これは流石にまずい!ただでさえ力があるのに氣なんて籠められたらひとたまりもないぞ!

 

「問答……無用っ!」

 

愛紗は腕を振り上げ、振り下ろしてきた。

 

「あらあら、羨ましいですね。ご主人様に胸を揉んでいただけるだなんて」

 

(ぴたっ)

 

「な、なにを言い出すのだ菫殿!」

 

菫のとんでもない発言に愛紗は寸前の所で拳を止めて慌てだした。

 

「羨ましいと言ったのですよ、(わたくし)もご主人様に揉んでいただきたいものですわ」

 

菫はそう言うと愛紗以上にある胸を両腕で押し上げた。

 

「……ごくん」

 

「ご主人様?」

 

「あ、いや!ごほん!す、菫。そ、そんなはしたない事を言うものじゃないぞ!」

 

思わず唾を飲んでしまい、愛紗に睨まれてしまった俺は慌てて菫をたしなめた。

 

「それは残念ですわ。ご主人様でしたらいつでも歓迎いたしますのに」

 

「い、いつでも歓迎……」

 

「いい加減にしろ!今は有事だぞ、これ以上ご主人様を惑わすな!」

 

「あらあら。では、ここの城を無事に落とすことが出来たら、お誘いしてみることにいたしましょう」

 

「なっ!?」

 

笑顔で答える菫に愛紗は目を丸くして口を開いていた。

 

「いいな~、おば様だけ」

 

「あら、なら蒲公英も一緒にいかがですか?」

 

「えっ!いいの!?」

 

「もちろんですよ……翠、逃げようとしていますがあなたは強制参加ですよ」

 

「な、なに!?」

 

菫の背後ではそろ~っと逃げようとしてた翠が思わず立ち止まり驚きの声を上げた。

 

「な、何考えてるんだよ母様!」

 

「あら、(わたくし)は至って真面目ですよ。それに翠には跡取りを身篭って貰わなければ」

 

「△□○☆□○☆~~~っ!?」

 

翠は顔を真っ赤にして口をパクパクとさせて何かを言おうとしていた。

 

「い、いい加減にしてくれ!(あたし)は初めてなんだぞ!?そんなこと出来るかーーーーーっ!!」

 

「え?」

 

「あらあら」

 

「うわ~!お姉様だいた~~ん♪」

 

翠の言葉にみんなの動きが止まった。

 

「……あ、ああっ!あぁぁあぁああああっ!?!?」

 

翠は頭の天辺から湯気が出るんじゃないかってほど、顔を赤くしていた。

 

「ふふふ、大丈夫ですよ。きっと、ご主人様が優しく、大人の女にしてくださいますよ。そうですよね、ご主人様?」

 

「え?あ、ああ。それはもちろん優しくするけど……って!そういう事じゃなくて!なんてこと言うんだ菫!」

 

思わず菫の話に乗せられた俺だったが直ぐに話を戻した。

 

「兎に角!この話はこれでおしまい!翠も今の事は忘れて戦に集中してくれ」

 

「お、おう!わ、わかったよ……」

 

「愛紗、指揮を任せるぞ」

 

「わかりました……ですが、終わった後、きっちりと話をさせてもらいますよ」

 

「あ、ああ……お手柔らかに」

 

頷いてくれたものの愛紗はまだ何処か不服そうだった。

 

「モテる男はつらいですね、ご主人様?」

 

「っ!?と、桃香……いつからそこに?」

 

背後から声を掛けられ思わず背筋を伸ばしてしまった。

 

背後で表情は分からなかったが、桃香から感じられる気配は……ものすごく不機嫌オーラを漂わせていた。

 

「ん?それはね~」

 

桃香は背後から俺の前に来てニコリと微笑むと、

 

「羨ましいと言ったのですよ、(わたくし)もご主人様に揉んでいただきたいものですわ」

 

「っ!?」

 

桃香は菫の声を真似して話ながら、これまた菫がやったように両腕で胸を押し上げた。

 

「え、えっと……」

 

「ご主人様?」

 

「は、はい!」

 

「無事に城を落とせたら一日付き合ってもらいますからね」

 

「あ、いや。そのうちって……」

 

「いいですね?」

 

「はい……」

 

戸惑っている俺に桃香は笑顔迫り、思わず押し切られてしまった。

 

はぁ……まあ、桃香の機嫌も良くなったし、とりあえずはこれでいいかな……

 

桃香は俺の答えに満足したのか笑顔で俺の横に立っていた。

 

《愛紗視点》

 

「桃香様、ご主人様。兵の準備が整いました」

 

戦の準備が整いご主人様たちへ報告をする。

 

「ありがとう、愛紗ちゃん。それじゃ……」

 

「ちょっと待ってくれ、桃香」

 

「え?なんですか?」

 

「今回の号令は……俺にやらせてくれないかな?」

 

「別に構いませんけど……」

 

「ありがとう」

 

桃香様にお礼を言うご主人様。

 

そう言えば、ご主人様の号令はあまり聞いた事がなかったな。

 

ではなぜ、いきなり号令をやりたいと願い出たのだ?

 

私はふとそんな疑問が浮かんできた。そして、過去を思い返してみる。

 

「……」

 

確かにご主人様が号令をかけることはあった。だが、どれも桃香様や私がお願いした時だけだったような気がする。

 

ご主人様、ご自身から願い出ることは今まで一度も無かったことだ。

 

「みんな聞いてくれ!」

 

そんなことを考えていると、ご主人様の話が始まった。

 

「袁紹から国を追われ、曹操からも追われて俺たちはここまできた。みんなにはつらい思いをさせてばかりだ。本当にすまない!」

 

(ざわざわ)

 

ご主人様が兵たちに頭を下げて謝る。それを見た兵たちは一斉にざわめきだす。

 

「だけど!すまないと思う反面、嬉しくもあった!こんな状況なのにみんなは俺たちを信じて着いて来てくれた!こんなに嬉しい事は無い!」

 

ご主人様……

 

「だからもう少しだけ、俺に着いて来てくれないか!俺一人じゃ何もできない。だけどみんなが居てくれれば一人で不可能なことも可能にすることができると思うから!」

 

「「「……」」」

 

一瞬の静寂

 

「「「おぉぉおおおおおぉぉおっ!!!」」」

 

そして、一斉に兵たちの雄叫びが晴れ渡った大空に響き渡った。

 

「よし!全軍、行くぞ!」

 

「「「おぉぉおおおおおぉぉおっ!!!」」」

 

ご主人様の口上が終わる。

 

「お疲れ様です、ご主人様」

 

「これくらいどうってことないよ」

 

微笑むご主人様だったが私にはどこか無理をしているように見えた。

 

「……それじゃ、みんな!頑張って城を落とそう!おーーーっ!」

 

「「「おぉぉおおおおおぉぉおっ!!!」」」

 

桃香様もそれが分かったのか、いつも以上に明るい声で兵達に向かい激を飛ばしていた。

 

「それじゃ、愛紗ちゃん!あとは任せたよ」

 

「はっ!ではご主人様、行ってまいります」

 

「ああ、気を付けて」

 

「はっ!ではいくぞ!右翼はっ」

 

「ま、待ってください!」

 

兵に指示を出そうとしたその時だった。突然、朱里が大声を上げた。

 

「どうした、朱里。大きな声を出して」

 

「前を見てください!」

 

「……なんだというのだ?」

 

朱里に言われ、城のある前方を見る。

 

「門が……開いているだと!?」

 

なんと城の門が開き、そこから人が出てくるのが見えた。

 

「あれは……女性……?」

 

遠く表情までは分からなかったが髪が長いことからかろうじて女性であることはわかった。

 

「城では白旗を揚げていますが、降伏ということでしょうか」

 

「わからん……何かの罠かもしれん」

 

朱里が言ったように城の城壁で白旗が掲げられていた、本来であれば降伏という意味に取れるが開戦して一日で降伏するものなのだろうか?

 

とりあえず、罠の可能性も考えておかなければ。

 

「それは無いんじゃないかな?」

 

「なぜそう言いきれるのだ優未殿」

 

「女の感、かな♪」

 

優未殿はなんとも説得力のない意見を躊躇いも無く言ってきた。

 

「そんな説得力のない意見を信じろと?」

 

「あ~、そんなこと言っていいの?」

 

「な、何がだ」

 

「女の感って結構当たるんだよ。とくに、男の人の浮気とか?」

 

「ぶっ!ごほっ!ごほっ!」

 

優未殿の言葉にご主人様は咽て咳をだした。

 

「……ご主人様?」

 

「ないないない!そんなことないから!」

 

ご主人様は全力で首を振る。

 

「……その話は今は置いておきましょう。まずは、現状をどうするかです」

 

「お、置いておくんだ……」

 

「何か言いましたか?」

 

「いいえ……」

 

素っ気無く答えると、ご主人様は肩を落としてなんでもないと言った。

 

「も~、そんなに睨んだら一刀君が可哀想でしょ?ね~、一刀君♪よしよし」

 

「なっ!?」

 

私のご主人様に対する態度に優未殿はご主人様が可哀想だと庇い、なぜか腕に抱きつき頭を撫でていた。

 

「な、なな、何をしているのだ、この非常時に!」

 

「だって、一刀君が可哀想だったんだもん♪」

 

「だもん♪ではない!今は、戦」

 

「あ~、はいはい。それで、門から出てきたあの人どうするの?」

 

「~~~~っ!」

 

言葉を遮り話を進める優未殿に私は怒りで体を震わせていた。

 

「まあまあ、愛紗ちゃん。ここは抑えて抑えて、兎に角ここは様子を見よ、ね?」

 

「……桃香様がそう言うのであれば」

 

仲裁に入ってきた桃香様の意見によりここは様子を見ることになった。

 

「……我が名は黄漢升!劉備軍が一の将に一騎打ちの決闘を申し付ける!」

 

門から出てきた女性は大きな声を出し一騎打ちの申し付けを付けてきた。

 

今の声は……っ!紫苑殿か!

 

聞き覚えのある声……だが、以前聞いたような優しい声では無く、戦場に立つ一人の武人としての声だった。

 

「ほらね?違ったでしょ」

 

どうだ、と、言わんばかりに胸を張る優未殿。

 

「まあ、知ってたんだけどね。てへ♪」

 

「し、知っていただと!?どういうことだ優未殿」

 

舌をペロッと出し、可愛らしくとんでもない事を言ってきた。

 

「ん?だって、私が提案したんだもん」

 

「何を」

 

「一騎打ちを」

 

「誰に」

 

「黄忠さん」

 

「……どうやって」

 

「そんなの~、城に入ってに決まってるでしょ。愛紗っておっかし~」

 

「~~~っ!星っ!これは一体どういう事だ!」

 

「……」

 

星に話を聞こうと星を探したが星の姿はどこにもなかった。

 

「星はどこに行った……」

 

「え、えっと……ちょっと前に急用を思い出したと……」

 

「……逃げたな、星め……」

 

「まあまあ、そう、星を苛めちゃ可哀想だよ。怒らない怒らない」

 

「誰のせいだというのだ!」

 

「え?誰のせい?」

 

「はぁ……もういい、怒る気が失せた。それで、一騎打ちという提案をしたのは本当なんだな」

 

「うん!それで、誰が行くの?あ、私は嫌だからね昨日ひと仕事したし!」

 

『みんなそれは同じだ!』

 

っと、声を上げて言いたかったがこれ以上、優未殿とのやり取りは付かれるので我慢をした。

 

「……一騎打ちなら俺が行くよ」

 

「いけません!主であるご主人様が出るなど!」

 

「でも、しおっ……黄忠は劉備軍が一の将、つまりこの中で一番強い将を出せって云ってるんだろ」

 

「でしたら、恋でも構わないはずです!」

 

「……??」

 

恋に目線を向けると眠たそうな目で私をじっと見て首を少し傾けた。

 

「……ご主人様、恋より強い」

 

「なっ!れ、恋よ!そこでそういう事を言わなくていいのだ!」

 

「…………??」

 

さらに首を傾げる。だ、だめだ……話が纏まらなくなる。

 

「兎に角!ご主人様が一騎打ちするなど却下です!私が行きます」

 

「だけど……」

 

「恋!ご主人様をしっかりと押さえているのだぞ」

 

「なっ!愛紗!」

 

「私が戻ってくるまでしっかりと捕まえていたら、肉まんを沢山食わせてやろう」

 

ご主人様がまだ何か言いそうになったので、すかさず恋を食べ物でつった。

 

(っ!)

 

「わかった」

 

恋は頷と直ぐにご主人様を後ろから抱きしめた。

 

くっ!じ、自分で言ったことだが……羨ましい。

 

「ちょ!れ、恋!?」

 

「…………ご主人様、暴れないで」

 

「うぉお!?」

 

暴れるご主人様を恋はさらにきつく後ろから抱きしめていた。

 

しかし、後ろから恋が抱きしめることによって、ご主人様の背中には恋の胸がさらに押し付けられていた。

 

その結果か、ご主人様は恋の胸が背中から押し付けられていることに慌てて動くことができないでいた。

 

「う、うむ……その調子で頼むぞ」

 

自分で言ったことだが引き離したい気持ちを抑え、恋にご主人様の事を頼んだ。

 

「愛紗さん、情報によりますと黄忠さんは弓の名手だそうです。ですから、距離を取らず、近接で攻めた方が良いかもしれません」

 

「そうか、その情報役立たせてもらうぞ、雪華。しかし、良く調べたな」

 

「ふぇ、ま、前に居た町でいろいろ調べている時にたまたま聞いただけです」

 

「そう恥ずかしがるな、自信を持て」

 

恥ずかしそうに答える雪華に私は笑顔で答えた。

 

「ふえ、は、はい」

 

「うむ……では、桃香様、行ってまいります」

 

「うん……気を付けてね、愛紗ちゃん」

 

「はい」

 

私は一騎打ちに向かう為、一人、荒野で待つ紫苑殿の元へと向かった。

 

(じゃり、じゃり)

 

「……」

 

一人、無言で荒野を歩く。

 

(じゃり、じゃり、ざっ)

 

「……」

 

「お久しぶりですね、愛紗さん……」

 

「黄忠殿……」

 

懐かしい声に私は真名では無く、名を呼ぶ。

 

「……真名では呼んで下さらないのね」

 

「ああ……敵同士だからな」

 

「……」

 

紫苑殿は少し困った顔をして微笑んでいた。

 

私とて、紫苑殿とは戦いたくはなかった。だが、それ以上にご主人様と紫苑殿の戦うところはもっと見たくない。

 

紫苑殿と戦い、苦しむご主人様など……

 

「そうですか……では、関羽、一騎打ちを挑ませていただきます。(わたくし)が勝ったら、この城は諦めて貰います」

 

「いいだろう。しかし、我々が勝った時には」

 

「ええ、お好きになさってください……ですが、民たちには」

 

「分かっている。そもそも我々はこの城を通りたいだけだ、追剥のようなことはしない」

 

「そうですか、それを聞いて安心しました……」

 

そう言うと紫苑は表情を一変させ、獲物を構えた。

 

「……」

 

私も得物を構え紫苑に対峙する。

 

「……」

 

「……」

 

お互い自分に有利な距離を取りたいために相手の動きを見る。

 

紫苑殿は弓、その特性上、遠距離を得意とする。そして私は御主人様から頂いた戟、近接武器だ。

 

「……はっ!」

 

「っ!」

 

先に沈黙を破ったのは紫苑の方だった。

 

紫苑は素早く矢を手に取り私目掛けて射ってきた。

 

「はっ!」

 

(パキッ)

 

私は飛んでくる矢を得物で払い落とす。

 

「流石ですね。ですが、これはどうですか?はっ、はっ、はっ!」

 

「っ!?」

 

紫苑は目にも止まらぬ速さで三本の矢を射ってきた。しかもそのどれもが急所を狙ったものだった。

 

「くっ!……はぁあああっ!」

 

(パキッ、パキッ)

 

前に前進しながら矢を叩き割って行く。

 

「これで、最後だ!」

 

(パキッ)

 

最後の一本を叩き割り、紫苑との距離を詰めめようとした、が……

 

「なっ!?」

 

矢を全て落としたと思っていたがなんと三本目の矢の後ろに隠れるようにしてもう一本の矢が現れた。

 

「くっ!……っ!」

 

今の体勢で叩き落とすことが出来ないと判断した私はなんとか体の軸をずらし矢を避けた。避けた際に、矢の刃が私の肩を掠って行った。

 

「今のを避けるとは……流石ですね」

 

「日ごろの鍛錬の賜物だ。今度はこちらから行かせてもらうぞ!」

 

「そうはさせませんわ。はっ!」

 

距離を詰めようとする私に紫苑殿は矢を放ちながら一定の距離を保とうと後退していく。

 

「はっ!こちらとて、これ以上やらせるわけにはいかない!」

 

私は距離を詰める為に走りながら矢を払いのける。

 

くっ!しかし、これでは一向に距離が縮まらないか……ここはご主人様から教えて頂いた歩術を試してみるか……

 

「……はっ!」

 

足に氣を集め地面を蹴りあげると同時に爆発させる。

 

「なっ!?」

 

一気に距離を詰められると紫苑殿は驚いた表情を浮かべていた。

 

よし、これなら距離を……って!?

 

「ち、ちょ!行き過ぎだ!」

 

「あ、あらあら」

 

勢いが付き過ぎた私は紫苑殿との距離を詰める筈が追い抜かしてしまった。

 

「くっ!」

 

(ガッ!ズザザーーーッ!)

 

偃月刀で地面を刺し無理矢理勢いを殺す。

 

まだ実践には使えないか……

 

御主人様との手合わせでも上手く扱うことが出来ていなかったものを実践で行き成り成功出来る訳が無いとは思ったが……

 

しかし、今は未完成でもこれを使い紫苑殿との寄りを詰めねば。氣の量をもう少し少なくすれば、少しは扱えるはず。

 

今までは氣の量を少なくするという考えが無かった訳では無い。ご主人様にも同じようなことを言われていた。

 

『愛紗はもう少し氣を少なくした方が良いと思うよ』

 

ご主人様は微笑みながら言っていたが、その時の私は

 

『少ないより多い方が断然いいではありませんか』

 

そう言ってご主人様のいう事を聞いていなかった。

 

(ぐぐっ!)

 

「……はっ!」

 

先ほどより半分くらいの氣でもう一度紫苑殿との距離を詰める。

 

「はぁぁあああっ!」

 

(ガキンッ!)

 

「くっ!はっ!」

 

先ほどとは違い丁度良い距離で紫苑殿の前に行くことができ一撃をお見舞いした。

 

紫苑殿は少し顔を歪めながらも己の得物で私の一撃を防ぎ、私目掛けて蹴りを放ってきた。

 

「やるではないか、私の一撃を防ぎ一撃を放ってくるとは」

 

当たる寸前の所で体を逸らし紫苑殿の蹴りを避け距離を取った。

 

「弓使いだからといって近接戦が苦手と思っていますと怪我をしますよ」

 

「そのようだな。認識を改めさせてもらおう」

 

まさか近接格闘も出来るとは思わなかったな、だが動きは決して早くはない。油断せずいればそこまで恐れる攻撃ではない。

 

「……一つ、お尋ねしてもよろしいですか」

 

「一騎打ちの最中だが、いいだろう。なんだ、黄忠よ」

 

「あなた方の主、劉備さんは益州をどうするおつもりなのですか?」

 

「それは……」

 

「そういうのは、やっぱり主本人である俺たちが伝えることだよね」

 

「え?」

 

声が聞こえ振り向くと、そこにはご主人様と桃香様が居た。

 

《一刀視点》

 

「……」

 

「……」

 

なんていうか……居心地が悪い……

 

「……」

 

「……」

 

その原因は分かってる。

 

「な、なあ、恋。離れてくれないかな?」

 

「……(ふるふる)だめ」

 

「どうしてだ?」

 

「……愛紗が言ったから」

 

「……」

 

とまあ、恋は愛紗の言いつけを守って俺を紫苑の元へと行かせない様にしているのだ。だけど、その方法が問題だ。

 

恋は俺の背後から手を回し、腰でがっちりと固定していた。

 

「れ、恋……胸があ、当たってるんだけど」

 

「……?」

 

そう、これが一番の原因、恋が俺に密着しているせいで恋の胸が俺の背中に押し付けられているのだ。

 

「ぐぬぬぬっ……愛紗殿の命令とは言え……恋殿に抱きつくなど許せないのです!」

 

「どう見ても、俺が抱きつかれてるだろ!」

 

「そんな細かいこと、どうでもいいのです!さっさと離れやがるのです!陳宮きっくをお見舞いしてやるのです!」

 

「出来たらしてるわ!だけどとび蹴りは簡便だ!」

 

「陳宮きっくなのです!そんな安直な名前ではないのです!」

 

陳宮キックも十分安直だろ。と思ったが言わないでおいた。言ったら大変なことになりそうだしな。

 

「ぶー、ぶー!恋だけいいな~……っ!そうだ♪」

 

文句を言っていた優未だったが何かを思いついたのかニヤリと笑った。

 

すっごい嫌な予感がするんだけど……でも、この状況じゃ、動くことも出来ないしな……

 

「えへへ~♪私も一刀君を確保~♪」

 

「どわっ!?」

 

優未は笑いながら俺に抱きついてきた。

 

「ち、ちょ、優未!放して!」

 

「え~。折角、抱きつ、確保したのにそれは出来ない相談だよ」

 

今、抱きつくって言ったよね?聞き間違いじゃないよね?

 

だけど今はそれどころじゃない、早く離れて貰わないと。

 

「と、とにかく俺はここで動かないから離れてくれないかな、二人とも」

 

じゃないと、周りの目が痛い!

 

周囲に目を向けるとさまざまな表情を浮かべていた。

 

「はわわ……はぁ」「あわわ……はぁ」

 

我らが軍師二人は口癖を言った後、自分の胸を見て溜息を吐き、

 

「ふぇ……わ、私だってまだ成長するはずです……多分」

 

雪華は鳴きそうな表情をしながらも、自分を勇気付け、

 

「あらあら、翠もあれくらいの度胸があれば良いのですがね」

 

「な、何言ってるんだよ母様!それに今は待機中だろ!?」

 

「え~、お姉様。抱きつかないの?なら、たんぽぽがご主人様に抱きついちゃおうかな♪」

 

菫と蒲公英は翠をからかいながらもこちらをニヤニヤと見てるし、

 

「……」

 

そして、桃香はニコニコと笑いながら一言も喋らないで居た。

 

うぅ……桃香が黙って笑ってるときって不機嫌なことが多いんだよな……

 

「と、とにかく離れてくれ。これじゃ前が見えないから」

 

「え~~~~っ!もう、仕方ないな~。それじゃ、またの機会って事で!」

 

いや、またの機会も起こさないでください……

 

とりあえず、優未は俺から離れてくれたが……

 

「……恋、離れてくれないかな?」

 

「……(ふるふる)愛紗に言われたから、だめ」

 

恋は首を振り話してはくれなかった。

 

「愛紗ちゃんにお願いされちゃったんだから仕方ないよね」

 

仕方ないと言いながらも少し不機嫌そうな桃香。

 

「……しかし主よ。愛紗一人で行かせて本当によかったのですかな?」

 

「え?……あ、そうなんだよ。幾ら愛紗が強いって言っても相手は飛び道具だからさ」

 

困っていると星が助け舟を出してくれた。こういう見極めは流石だよな……だけど、もう少し早く言って欲しいんだけどな。

 

「それでは面白みが無いではありませぬか、主よ」

 

「……」

 

いつも思うが、人の心を読まないでもらいたい。

 

「主は顔に直ぐ出ますからな」

 

「だから読まないで!?」

 

「はっはっは!」

 

笑って誤魔化す星……はぁ、もういいや。

 

「兎に角、愛紗が心配だ」

 

「でも、ご主人様は動けないですよね」

 

「そうなんだよな~」

 

桃香の言う通り恋に後ろから抱き着かれて動くことができないんだよな……ん?待てよ……

 

「なあ、恋」

 

「……?」

 

「恋は愛紗が戻ってくるまで離れないんだよな?」

 

「……(こくん)」

 

首を横にして後ろに居る恋に話しかける。頭しか見えなかったが恋は黙って頷いた。

 

「……」

 

とりあえず一歩だけ動いてみる。

 

「……」

 

すると恋は俺に合わせて一歩前に出た。

 

「……」

 

今度はさらに二歩。

 

「……」

 

これまた俺の足に合わせて踏まれない様に着いてきた。ぴったり抱き着いてるのに器用だな……でも、これなら。

 

「桃香、一緒に来てくれ」

 

「え?あ、はい!」

 

一瞬、キョトンとした顔をした桃香だったが直ぐに返事をしてくれた。

 

「みんなはここで待機だ」

 

「よし、それじゃ、いこっ!?うぉ!?」

 

歩き出そうとして地面の窪みに引っかけてしまいバランスを崩してしまった。

 

「ご、ご主人様!?」

 

「あ、ありがとう、桃香……恋も大丈夫か?」

 

「……(こくん)」

 

取り合えず、桃香のおかげで倒れることは無かったが、いつもならなんてことの無い窪みが、今は恋が抱き着いているせいもあり、上手く持ち直すことが出来なかった。

 

「よし、それじゃ行こうか」

 

「う、うん……」

 

「?」

 

………………

 

…………

 

……

 

「……ご、ご主人様?あ、あのね?」

 

「ん?どうした、桃香?」

 

暫く歩いていると、黙っていた桃香が話しかけてきた。

 

「そ、その……またこけると危ないから……」

 

桃香は頬を染めてなんだか言い難そうにしていた。そして、チラチラと桃香の向ける目線の先には……

 

?……ああ、そういう事か。

 

「そうだな。それじゃ、またこけないように手を繋いでいてくれるかな?」

 

「は、はい!」

 

満面の笑みで返事をする桃香。

 

「ははっ」

 

「ん?どうしたんですか、ご主人様。急に笑ったりして」

 

「いや。やっぱり、桃香は笑ってる顔が一番可愛いなって思ってさ」

 

「はぅ!い、いきなりそんな恥ずかしいこと言わないでください!て、照れちゃいます」

 

「うんうん、照れてる桃香も可愛いぞ」

 

「も、も~!ご主人様!」

 

(ぽかぽかぽか!)

 

桃香は頬を赤くして俺の胸を叩いてきた。

 

「ごめんごめん。もう言わないから叩かないでくれ」

 

「もう、ご主人様は女の人に直ぐそういう事を言うんだから……だから、ご主人様の事を好きになっちゃう人が増えちゃうのに」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「別に何も言ってないです」

 

ぷく~っと頬を膨らませてぷいっとそっぽを向く桃香。多分、声に出して言うとまた怒られるから言わないけど、拗ねた桃香って子供っぽくて可愛いよね。

 

「……見えてきた」

 

「え?あっ、本当だ」

 

今まで黙っていた恋が一言だけ喋った。その声に前方を見ると二人の姿が見えた。

 

「ご主人様」

 

「ああ、行こう」

 

桃香の真剣な声に俺も頷いて近づいて行った。

 

「――っ」

 

「――っ」

 

「……遠くで良くわからないけど、愛紗ちゃんたち何かお話しているみたいですね」

 

「ああ」

 

桃香の言う通り二人は戦いをしておらず、何かを話しているようだった。

 

「あなた方の主、劉備さんは益州をどうするおつもりなのですか?」

 

もう少し近づくと紫苑の声が聞こえてきた。

 

俺はそこ声に自然と声を出した。

 

《紫苑視点》

 

「そういうのは、やっぱり主本人である俺たちが伝えることだよね」

 

「そうそう」

 

「っ!」

 

(わたくし)の質問に答えようと喋ろうとしていた愛紗さんの声を遮り、懐かしい声が聞こえてきた。

 

この声は……

 

「紫苑さん、お久しぶりです!」

 

「久しぶり、紫苑」

 

愛紗さんの背後を見ると一人は桃香さんがそして、背後から女の人に抱き付かれている一刀様が居ました。

 

あれから数年が経ち、さらに男らしくなっていました。

 

「ご主人様、それに桃香様もなぜここに!?」

 

「愛紗ちゃんが心配になっちゃって」

 

「し、心配になちゃってって……恋、なぜ私の言い付けを守らなかった!」

 

「……(ふるふる)恋、愛紗の言ったこと守ってる」

 

「なに?」

 

「……愛紗はご主人様を捕まえておけって言った。だから捕まえてる」

 

「~~っ」

 

恋の子供のような言い訳に思わず呆笑いそうになってしまいました。

 

「しかしだな、これが罠とも限らないんだぞ」

 

「…………大丈夫」

 

「なぜだ?」

 

「……伏兵、居ない」

 

「……」

 

愛紗さんは赤毛の女性の言葉に言葉をなくしていました。

 

「はぁ……もうお好きになさってください。私は周囲を警戒します」

 

「ありがとう、愛紗ちゃん」

 

「ありがとうな、愛紗」

 

「いえ……っ!恋は、私と一緒に周囲の警戒をするぞ」

 

「……言い付け……」

 

「もうそれは良い」

 

「……肉まん」

 

「ああ、わかってる!たらふく食わせてやる。だから離れるんだ」

 

「……(こくん)」

 

「愛紗ちゃんたら、ヤキモチ焼いちゃって、可愛い♪」

 

「……何か言いましたか、桃香様?」

 

「あわわわわっ!な、何も言ってないよ!ね、ね?ご主人様!」

 

「え?あ、うん。そう、かな?」

 

愛紗さんが睨むと桃香さんは慌てて一刀様の背に隠れて弁解していました。

 

「ふふ……相変わらず賑やかなのですね」

 

「そう思われないようにしているのだがな」

 

「え~、賑やかな方が楽しくていいのに」

 

「時と場合によります。このような場では気を引き締めてもらいたいものです」

 

「う゛……」

 

愛紗さんの言葉に低く唸る桃香さん。

 

「え、えっと!そ、そうだ、話を戻さないとね!それで紫苑さん、尋ねたいことってなんですか?」

 

逃げ場をなくした桃香さんは無理やりに話を戻してきました。

 

「……では、お伺いします……なぜこの地を攻めるのですか?」

 

「……」

 

「返答次第で(わたくし)たちは命尽きるまで抗いましょう」

 

「それは……みんなの為です!」

 

「みんなの、為?」

 

桃香さんの言った意味が分からず聞き返す。

 

「重税が掛けられ、庶人の為に使うお金を内乱を続ける軍資金にしている。それっておかしいと思うんです」

 

「……」

 

「だから私たちは内輪もめしている人たちをやっつけたいんです」

 

まっすぐな瞳で桃香さんは(わたくし)に訴えかけてきました。

 

おっしゃっていることはとてもよくわかります……ですが、(わたくし)もこの城を預かる身、その言葉だけで動くことはできません。

 

「戦火を広げてまで、ですか?」

 

「それを言われちゃうと痛いな。……だけど今続けてる内乱は何が残るのかな?きっと残るのは虚しさだけじゃないかな?」

 

「それは……」

 

一刀様の言葉に声を詰まらせる。

 

確かに、今続いている内乱は終わりが見えません。そして、掛けられる税はさらに重くなってきています。

 

他国から見れば良い標的なのかもしれません。

 

「少なくとも、俺たちはこの国を治める太守より有能だと思うよ。なんせ頼りになる大切な仲間が居るからね」

 

「ご主人様……」

 

一刀様の言葉に桃香さんや愛紗さんはとても嬉しそうに微笑んでいました。

 

「それに太守は、内乱を収め、外敵から人々を守る。そんな必要最低限のことも出来ない今の太守を、住民たちは必要としているのかな?」

 

「……」

 

なにも言い返せませんでした。現にこうして一刀様たちが攻め込んできているのに何の手だでも打ってきていないのですから……

 

「だからこそ……俺たちはここに来たんです」

 

一刀様の真剣な眼差し……そして、言葉には出していませんでしたが、『これ以上戦わないでほしい』と訴えかけてきているように感じました。

 

「……お話は分かりました……(わたくし)はあなた方に降りましょう」

 

「ありがとうございます、紫苑さん!よかったね、ご主人様」

 

「ああ……」

 

嬉しそうに喜ぶ桃香さんにそれを見て微笑む一刀様。

 

これで(わたくし)の役目は終わり、ですね……

 

「一刀様、璃々をよろしくお願いします」

 

「紫苑さん、何を言って……っ!?」

 

「し、紫苑さん!?」

 

(わたくし)は懐に隠していた小刀で自分の腹を突き刺そうとした。

 

(っ!)

 

来るはずの腹部の痛みが来ない……思いっきり突き刺したはずなのに。

 

「……っ!?」

 

恐る恐る目を開くと小刀には確かに血が着いていました。ですが、その血は(わたくし)のものではなく……

 

「何を考えているだ、紫苑」

 

「一刀、さま……」

 

(わたくし)の目の前で顔を歪ませた一刀様が居ました。

 

「あなたが死んでしまったら、それを悲しむのは璃々ちゃんなんですよ?」

 

「ですが、(わたくし)は母である前に将です。将はその責任を……」

 

「違う!将である前にあなたは璃々ちゃんの母親なんです!」

 

「っ!」

 

(カランッ)

 

一刀様の言葉に(わたくし)は手の力が抜け地面に小刀が落ちた。

 

「璃々ちゃんを悲しませないであげてください」

 

一刀様は痛みを堪えながら(わたくし)に優しく微笑みかけてくださいました。

 

「ご主人様!手、手見せて!」

 

「ご主人様、お怪我は大丈夫ですか!?」

 

(わたくし)から離れた一刀様に桃香さんと愛紗さんが慌てて近づいてきました。

 

「これくらい大丈夫だよ。柄を握ったつもりだったんだけど少し刃の所に掌があたっただけだから」

 

「それでも怪我をしたことに変わりはありません!早く手当をいたしませんと!」

 

「大げさだな」

 

慌てる愛紗さんに一刀様は呑気に微笑んでおいででした。

 

「って、愛紗も怪我をしているじゃないか。ちょっと見せて」

 

「え?ああ、掠り傷です、ご主人様の怪我ほどでは……」

 

「だめだよ。愛紗は女の子なんだからそういうこと気にしないと。顔じゃなかったから良いようなものの」

 

「傷は将としての誇りです」

 

「そんな誇りなら俺はいらないよ。愛紗が無事で怪我一つなくいてくれることの方が俺にとっては誇りだ」

 

「ご、ご主人様……」

 

一刀様はそう言うと愛紗さんの肩の傷に手を当てました。

 

「……」

 

暫くその光景を見ていると愛紗さんの肩の傷が見る見るうちに消えて最後には元通りになっていました。

 

これは氣の一種なのでしょうか?

 

「……ありがとうございます、ご主人様」

 

「これくらいどうってことないよ。さてと」

 

「あ、ご主人様、手の傷は!」

 

「え?ああ、愛紗の傷を治すのと一緒に少しだけ直したよ。まあ、止血程度だけどね」

 

「ほ、本当に大丈夫ですか、ご主人様?」

 

「ああ、心配してくれてありがとうな、桃香。愛紗も」

 

「いえ、家臣として当り前の事です」

 

「も~、違うでしょ愛紗ちゃん。そこは好きな人だから心配したっていうところだよ」

 

「なっ!?そ、そのようなこと言える訳が!」

 

「素直になっちゃいなよ、愛紗ちゃん」

 

「と、桃香様!」

 

桃香さんの言葉に慌てる愛紗さん。そしてそれを微笑みながら見る一刀様。

 

「……」

 

なんと言いますか、この方たちは初めてお会いした時からまったく変わっていませんね。

 

いえ、違いますね……あのころと違うさらに輝きを増しているように見えます。

 

「……紫苑」

 

「はい。なんでしょうか」

 

暫く、その光景を見ていると一刀様が話しかけてきました。

 

「あれを見てください」

 

「え?……あっ」

 

一刀様に言われお城の方を見る、するとそこには大勢の兵と民たちが城壁の上にいました。

 

『御使い様ーーーーっ!どうか、黄忠様を殺さないでください!』

 

『黄忠様は俺たちの為に色々と相談に乗ってくれる城主様なんだ!だから命だけは!』

 

『御使い様がそんな事する訳無いだろ!御使い様は黄忠様を助けにここまで来てくれたんだから!そうですよね、御使い様!』

 

「ああ、もちろんだ!」

 

『わぁぁぁああああああっ!!』

 

一刀様の一言で城壁に居た人々は歓声を上げていました。

 

「あれがあなたがここでしてきたことの結果です。あれだけの民からの信頼を得ている人はそうは居ないでしょう」

 

「ええ……とても嬉しく思います」

 

(わたくし)が今までしてきたことは間違いではなかった……そう思えた瞬間でした。

 

この城の城主になった当初はまったく良い目で見られていませんでした。以前居た城主同様、重税をかすのだろう。そう言われていたくらいですから。

 

ですが、(わたくし)は出来るだけ街に出て人々に接してきました。兵たちから危険だと言われても、街へ行くことを止めませんでした。

 

そして少しずつでしたが民たちは(わたくし)に話しかけてくれるようになった。

 

「そんな民たちから好かれているあなたが俺は欲しい……ともに歩んではくれませんか?」

 

(どくんっ!)

 

「……ふふっ」

 

差し出される手、そして真剣なその眼差しに(わたくし)は胸が高鳴りました。ですが、(わたくし)はそれを表情には出さない様に微笑みました。

 

「え?な何かおかしなこと言いましたか?」

 

「いいえ……おかしくは無いのですが、まるで口説き文句のように仰ったので」

 

「え?……っ!あ、いや!べ、別に口説くとかそんな訳じゃなくてですね!っ!?いへへへへへっ!」

 

「もーっ!ご主人様!」

 

「我々が居ると言うのに良い度胸ですね、ご主人様」

 

「ご、誤解だっへ!べ、別に口説いてたわへじゃなくへ!」

 

一刀様はお二人から両頬を抓られて少し涙目になっていました。

 

「……わかりました、この命、あなた方にお預けしましょう」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ええ、民たちもそれを望んでいるようですから」

 

そう……この方たちなら民たちを守り、穏やかに過ごせる大陸にしてくれる……(わたくし)はそう信じて……

 

「これから兵共々よろしくお願いいたします。桃香様、そしてご主人様」

 

《To be continued...》

葉月「はい!という訳で、前回の拠点投票の結果発表の時間です!ドンドンドンッ!パフパフーッ!」

 

愛紗「なんだその擬音は」

 

葉月「まあ、お決まりってことでそこはスルーする感じで」

 

愛紗「す、擦る?何を擦るのだ?」

 

葉月「いや、擦るじゃなくてスルーです、スルー。無視って意味ですよ」

 

愛紗「なら最初からそう言えばよいだろう。紛らわしい」

 

葉月「いや、まあそうなんですけど……まあいいや。とりあえず最下位から発表です!」

 

 

第18位…鈴々・音々音   0票

 

鈴々「うにゃーーー!また一位になれなかったのだ!」

 

音々寝「確かに興味は無いと言いましたが零票ってどういう事なのですかーーーーっ!」

 

 

第14位…雛里・白蓮・蒲公英・美羽   3票

 

雛里「あわわ……朱里ちゃんが私より上に行っちゃいました」

 

白蓮「まあ、こんなもんだよな。(あたし)なんてさ」

 

蒲公英「えーー!なんでたんぽぽこんなに低いの!?これじゃおば様たちとご主人様とで親子丼が出来ないよ!」

 

美羽「なんじゃとーーー!なぜ妾がこんなに低いのじゃ!納得いかないのじゃ!やり直しを要求するのじゃ!」

 

 

第12位…詠・七乃   4票

 

詠「くっ!七乃と一緒とかちょっと屈辱だわ!なんでこんな主弄りの変態と一緒なのよ!」

 

七乃「酷い言われ様ですねー。私は変態なんかじゃないですよ。ただ美羽様を愛しているだけです。あぁぁ、それにしても悔しさでワガママを言う美羽様はなんて可愛いのでしょう!漏れちゃいそうです」

 

詠「……やっぱり変態じゃない!」

 

 

第11位……翠   5票

 

翠「ちょ!(あたし)なんかに5票見れたやつがいるのか!?物好きなやつらだな……で、でもそのなんだ……ありがとな」

 

 

第9位…恋・優未   6票

 

恋「……ありがとう」

 

優未「ち、ちょっと!なんでこんなに少ないの!?うえ~~ん!せっかく一刀君とイチャイチャできると思ったのにーーーー!」

 

 

第8位…菫   7票

 

菫「あらあら、あとちょっとでしたが届きませんでしたか。ですが、票を入れてくださった皆様の為にもがんばって行きたいと思います」

 

 

第6位…朱里・星   8票

 

朱里「はわわ!こ、こんなに票を貰えたのは初めてでしゅ!で、でも雛里ちゃんと離れちゃってちょっとさみしいな」

 

星「くっ!あと数票あれば上位に入れたのか、無念……だがしかし!私は諦めぬぞ、そう、華蝶の星はまだしっ(長いのでコメントを省きます)」

 

星「って、こら!良い所で省略するとはどういう事だ!」

 

 

葉月「さてさて皆さんが投票した恋姫たちは居たでしょうか?………………え?居ない?それじゃ、上位5名の発表に行きましょう!」

 

 

第4位…月・?(紫苑・璃々)   9票

 

月「へぅ……あ、ありがとうございます。みなさんのおかげで上位に入ることが出来ました」

 

葉月「上位に入った月はどんな話を書いてもらいたいですか?やっぱり、一刀とラブラブイチャイチャな話ですかね?」

 

月「へう!?そ、それはその……あの……………………はぃ~~~~~~~っ!!!」

 

紫苑「あ、あらあら、初登場でいきなり上位に入るとは思いませんでしたわ」

 

璃々「わーい!璃々、ごしゅじんさま一緒に遊びたい!」

 

紫苑「そうね。でも、(わたくし)……うふふ♪」

 

葉月「な、なんだか。嫌な予感が……だが、聞かないわけには」

 

紫苑「うふふ♪……それはもちろん、夜討ち朝駆けは戦の基本といいますからね」

 

葉月「あ~、言いたいことは分かったのでそれ以上言わなくていいですよ」

 

紫苑「あら、そうですか?それは残念です」

 

葉月「と、とりあえず次です!」

 

 

第3位…雪華   16票

 

雪華「ふえぇえ!?こ、こんなに票が入ったんですか!?」

 

葉月「もう定番ですね。みんな雪華の可愛さに魅了されちゃってるんですよ」

 

雪華「ふええ!?そ、そんなことありません!わ、私よりも可愛い人は沢山います!」

 

葉月「でも、その可愛い人たちを抑えての3位ですよ」

 

雪華「うぅ……こ、困ります」

 

葉月「そういうちょっとオドオドした所が好かれる原因だと思いますよ」

 

雪華「ふぇ~~」

 

葉月「では続いて第2位です!」

 

 

第2位…桃香   18票

 

桃香「うぇえ!?わ、私!?」

 

葉月「何驚いているんですか」

 

桃香「だ、だって今までこんなに票を貰ったことなかったし!それに2位だよ!?」

 

葉月「そう言えば確かにそうですよね」

 

桃香「うんうん!みんな、投票してくれてありがとうね!」

 

葉月「さて、次は第1位です!」

 

 

第1位…愛紗   29票

 

愛紗「こ、こんなに票を頂けたのか……」

 

葉月「そう言えば、今までの投票で最多票数ですね」

 

愛紗「うむ、ありがたい限りだ」

 

葉月「さて、投票総数、141票の中から見事1位を獲得した愛紗に聞きますけど、どんな話がいいですか?」

 

愛紗「き、急にそんなことを言われても……っ!いやいやいや!ダメだ!」

 

葉月「あ、今いやらしい事を想像しましたね」

 

愛紗「うぇえ!?そ、そんなことないぞ!だ、断じてない!」

 

葉月「そんな顔を赤くして言われても説得力無いですよ」

 

愛紗「あ、あああ赤くなどなっていない!」

 

葉月「はいはい。まあ、お話は私が勝手に書くんで愛紗の要望は聞きませんけどね」

 

愛紗「なっ!?だったらなぜ聞いた!」

 

葉月「え?愛紗の慌てふためく顔が見たかっらからに決まっているじゃないですか」

 

愛紗「~~~~っ!お、おのれ葉月!ゆ、ゆるさーーーーーん!」

 

葉月「どわっ!こ、これもいつもの事ですけど偃月刀を振り回すの止めてくださいよ!」

 

愛紗「だったら私にちょっかいを出さないことだな!」

 

葉月「それは無理!」

 

愛紗「でやぁあああっ!」

 

葉月「うひーーーーーーっ!あ、愛紗に殺されるーーーーー!」

 

愛紗「待て葉月!毎度毎度、私をからかいよって!叩き直してくれる!」

 

葉月「うぉおっ!き、今日はここまでです!次回は月・紫苑親子・雪華でお送りする予定です!ではみなさん、生きていたら次回お会いしましょう!それでは~~~~~~っ!」

 

愛紗「くっ!相変わらず逃げ足だけは早い奴だ!だが、逃がすわけにはいかん!皆の者!私はこれから葉月を追う!また会おう!」


 
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