No.506390

IS x 龍騎〜鏡の戦士達 Vent 29: 赤竜と黒竜

i-pod男さん

少し短めですが、龍騎vsリュウガです。

2012-11-10 05:29:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1696   閲覧ユーザー数:1607

休みが終わり、一夏は授業の合間にある十五分弱の時間を使ってスケジュールを小忠実に手帳に書き込んでいた。もう片方の手で携帯端末を弄ってメール、報告書等の書類の作成を行っていた。

 

(しかし、嫌な役回りを押し付けられたな。まさか、俺が鈴からデッキを取り返さなきゃ行けないなんて。指名された以上やるけど・・・・)

 

一夏は一段落ついた所で二組の教室に向かって行った。扉を開くと、

 

「鈴!いるか?」

 

大声でそう叫んだ。

 

「何か用?」

 

「ちょっと時間をくれ。十分もあれば終わる。」

 

二人は屋上に上がった。どんよりとした空は、今にも雨を降らせそうな雰囲気を醸し出している。風も出て来て、一夏のコートがバサバサとはためいた。

 

「で、何の用?」

 

「お前が持っている龍騎のデッキを返して欲しい。」

 

「え・・・・?」

 

「お前は迷っている。戦いに於いて、迷いとは即ち死だ。お前は俺の幼馴染みだ。俺はお前を死なせたくはない。だから、返してくれ。あれは元々、司狼さんが持っていた物だ。」

 

「嘘よ!私はこれを」

 

「オーディンに貰った、だろ?」

 

気色ばんだ鈴音を遮った。空から雨がポツポツと降り始めて来た。

 

「知ってるさ。オーディンは今の所、俺達の味方だ。デッキを作ったのも彼だ。お前、もうどれ位の間ドラグレッダーに餌を与えていない?遅かれ早かれ、お前はドラグレッダーに契約破棄と見なされて殺される。だから、そうなる前に」

 

「嫌よ!彼は言ってたわ。この力があれば、お父さんとお母さんが、戻って来てくれる!私は、それを諦めない!」

 

「それがあろうと無かろうと、それは可能だ!」

 

「私がやらないと意味が無いのよ!」

 

「お前一人では出来る事は限られているから言ってるんだ!デッキを渡せ!」

 

一夏はリボルバーを構えて撃鉄を起こした。

 

「コイツは殺傷能力を極限まで押さえたゴム弾だが、俺はお前を撃ちたくない。だから、頼む。デッキを渡してくれ。どうしても渡さないなら、力ずくで奪う事になる。お前と、戦わせないでくれ・・・・頼むから・・・・」

 

雨は更に激しくなり、一夏の顔は涙なのか雨の雫なのか分からない程に濡れており、銃を握った左手は震えていた。

 

「ごめん、一夏・・・・でも、私は・・・・私の願いは、私が叶えるからこそ意味があるの。一人だけだったら何も出来ないのは分かってる。でも、もう無理なの・・・」

 

「だったら・・・・だったら俺と・・・・いや、俺達と来い!AD・VeX7に!」

 

「私が負けたらね!」

 

そう言って、地面に出来た水溜りにデッキを翳した。

 

「戦うしか、無いのか・・・・」

 

一夏はポケットからリュウガのデッキを引っ張り出した。基本スペックは龍騎とは変わらないが、全体的にパワーは上である。

 

「鈴・・・・俺は、この世界を変えたいんだ。皆の為に・・・・ISがあろうとなかろうと、男だろうが女だろうが、みんなが普通に暮らせる世界に。だから、力を貸してくれ。俺は、お前と戦いたくない・・・!やめろよ・・・!」

 

「私だって・・・私だって嫌よ!一夏と戦いたくなんか無いわよ!でも・・・!!」

 

「だったら・・・デッキは返さなくても良い・・・・・いや・・・・ 分かった。もう何も言わない。」

 

一夏もデッキを水面に向けた。

 

「「変身!」」

 

龍騎とリュウガ。相反する赤と黒は、それぞれの感情を表しているかの様だった。悲しみと葛藤に溺れる、底の見えぬ奈落の黒。願いを叶える為に奔走し、血を吐く様な決断を迫られた自分への苛立ち、怒りを表す赤。二人はミラーワールドに飛び込むと、戦い始めた。リュウガは龍騎の攻撃を受け流しながら反撃は一切しなかった。一夏はまだ迷っているのだ。

 

(迷えば死ぬと言ったのは自分なのに、何て様だ・・・・所詮人の子って訳だな、俺も・・・・)

 

鋭いラッシュを潜り抜けると、右足を軸に裏拳の要領でダークドラグバイザーを顎に叩き込んだ。その攻撃で龍騎は後ろにひっくり返る。

 

「アグッ!」

 

「鈴、もうやめてくれ。」

 

だが龍騎は立ち上がり、ドラグセイバーのアドベントカードをベントインした。

 

『ソードベント』

 

振り下ろされたその剣はリュウガの胸を的確に捉えたが、彼は動じなかった。

 

「いち、か・・・・?」

 

「もう良いんだ・・・・・もうお前はライダーとして戦う必要は無い!!これ以上は、もうやめろ!俺は・・・・これ以上は、どうにかなっちまいそうだ・・・・幼馴染みと・・・・・殺し合いなんか俺はしたくない!!」

 

ミラーワールドを出ると、雨はやはりまだ降っていた。

 

「ごめん、一夏・・・・私、最低の馬鹿よ・・・・」

 

そう言って龍騎のデッキを一夏の胸に押し付ける。そして意識が遠のいたのか、ぐったりと動かなくなった。

 

「・・・・中に入ろう。風邪引くぞ。」

 

一夏は彼女を優しく抱き上げ、医務室に運んで行った。

 

「ごめんな、鈴。お前に成り代わって、お前の家族は俺が取り戻す。だから、お前はもう戦うな。」

 

封印のカードを彼女の手に握らせ、軽く頭を撫でてやると、静かに出て行った。

 

 

 

 

 

 

「デッキ、取り戻して来ました。」

 

一夏は龍騎のデッキを司狼に渡す。司狼はそれを残っているリュウガを含めた四つのデッキと一緒に保管した。

 

「ご苦労さん。すまないな、本来なら俺がやるべき事なのに。お前は大丈夫なのか?斬られたんだろ?」

 

「大丈夫です。俺だからこそ大丈夫なんですよ。俺じゃないと、彼女は聞かないかもしれない。俺だって、初対面の時友達になるまでかなり時間が掛かりましたから。今は医務室に寝かせています。」

 

だが、一夏の硬い表情に司狼は顔をしかめる。

 

「お前、少し休暇を取れ。お前の書類はマドカ辺りに回しておく。幼馴染みと戦ったんじゃ、寝覚めも悪いだろう?身が入らなくて当然だ。お前にこんな重荷を背負わせたのは俺の責任でもある。本当にすまない。そして、ありがとう。」

 

「司狼さん・・・・」

 

「ゆっくりしていろ。お前が本格的に参加するのは、まだ少し先だ。織斑先生辺りでもデートに連れて行ってやれ。休息は大事だ。(さてと、ゾルダとタイガのデッキはまだ渡していないが・・・・果たして向こうはどう動いてくれるんだろうな?後は・・・・・)」

 

二枚の写真と二つのデッキを手にした司狼は軽く下唇を噛んで思案に耽った。

 

「じゃ、俺はこれで・・・」

 

「ああ。お疲れさん。」

 

一夏の背中は暗く、重い物を背負い込んでいる様だった。

 


 
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