No.505675

真・恋姫†無双 ~我天道征~ 第17話

seiさん

裏切り者の件が片付き、黄巾党も大きなダメージを負ったため、今はおとなしくしていた。
そんな陳留では、一刀達が久々の日常を満喫していた。
そしてそんな日常に、新たな者達が加わろうとしていた。


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2012-11-08 04:42:38 投稿 / 全16ページ    総閲覧数:6028   閲覧ユーザー数:4493

 

 

 

 

 

 

 

 

注意 本作の一刀君は能力が上方修正されています。

 

   そういったチートが嫌い、そんなの一刀じゃないという方はご注意ください。

 

 

   また、恋姫たちの好感度がほぼMAXになっていますが、仕様なので気にしないで下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日、いつも通りに仕事をしていると、何故か侍女が俺のことを呼びに来た。

何でも華琳が呼んでいるらしいので、すぐに玉座の間に来るようにとのことらしい。

 

(最近は特に大きな失敗もしてないし、仕事もサボってないよな。)

 

玉座の間に向かう道すがら、俺は最近の自分の行動を省みて、怒られるようなことをしていないか考える。

てか、呼ばれて真っ先に考えることがコレって、なんだか悲しすぎるよなー。

 

 

そんなことを思い、若干テンションを落としながらとぼとぼと歩き、玉座の間の近くへと辿り着く。

するとその扉の前には、春蘭が待ちかまえていた。

 

「遅いぞ、北郷。」

「え?言伝されてから、すぐにこっちに来たつもりだったけど、伝言ミスでもあったのかな?」

「何かよくわからんが、貴様も華琳様の部下なら、華琳様が呼ぼうとする前に参上し、華琳様をお待たせすることなどするな!」

「できるかー!」

「何だとー!」

 

 

そんな不毛とも言える言い争いをしていると、扉が開き中から秋蘭が顔を出す。

 

「何を遊んでいるんだ、二人とも。」

「こ、こやつが。」

「姉者。姉者は、北郷が来たら中へと案内するようにと、華琳様から言われたのではなかったか?」

「そ、それは・・・」

「姉者にも思う所はあるだろうが、まずは華琳様のご命令を優先させるべきではないのか?」

「う、うむ・・・」

 

春蘭は秋蘭に窘められ、怒られた子供の様にシュンとなっていた。

 

「まったく。 すまんな、北郷。中で華琳様がお待ちだ、急いで入ってくれ。」

「お、おう。」

 

秋蘭に急かされ、俺はそそくさと中へ入る。

 

 

するとそこには、華琳・桂花・季衣・流琉といつものメンバーに加え、楽進・李典・于禁の新しく仲間になった三人もいた。

 

「一刀、ようやくきたわね。」

 

そんな中、華琳があきれた様にそんなことを言う。

俺はばつが悪いという顔をしながら、華琳の近くへと行く。

 

「わり、申し訳ありません、か、あー、曹操、様。お、じゃなくて、私に、何かご用でしょうか?」

 

この場に楽進達がいることもあり、俺は一応恭しく華琳に尋ねる。

・・・かなりしどろもどろであったが。

 

 

「はぁー、いつも通りで構わないわよ、一刀。 彼女たちには、貴方のことを話してあるから。」

 

華琳はそんな俺に呆れた様な顔をし、普段通りの話し方でいいといってくれた。

 

「助かる。で、俺に何か用か、華琳?」

 

華琳のお許しが出たため、おれはすぐにいつも通りの話し方へと戻す。

今や州牧でもある華琳に、平然とタメ口をきく俺に、新しく入った三人は信じられないという顔をしていた。

他のみんなは、もういつも通りのことなので、そんなことはまったく気にしていないが。

 

 

「ええ、実は貴方の表向きの役職が決まったから、そのことを伝えるために呼んだのよ。」

「なるほど、ついに決まったんだ。」

 

俺は一応、特殊細作部隊「忍」の隊長をしているが、これはあくまで裏の顔だ。

表向きとしては、華琳や桂花の小間使い、雑用係、使いっぱしりをしていた。

だが城の中をうろつくには、それにも限度がある。

ということで、適当な役職を探してくれていたらしいが、ついにそれが決まったらしい。

 

 

「貴方には、今度新設することにした警備隊の隊長を務めてもらうことにしたわ。」

「警備隊っていうと。」

「そう、貴方が案を出した、あれよ。

やっと設立の目処がたったから、そのまま発案者である貴方に隊長職についてもらうことにしたわ。」

「まあ、確かに無難か。」

 

自分の出した案が元になっているし、俺自身が実際に現場を見た方が、色々とやりやすいよな。

 

 

「わかった、引き受けるよ。」

「そう、ならあなたの仕事だけど、町の警備はもちろん、隊員達の陣頭指揮に、町への配置や勤務予定の決定、問題が起きた場合の対応に、それと、」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。」

「あら、何かしら?」

「それ全部、俺一人でやるのか? さ、さすがに辛いかなーなんて思っちゃたりするんだけど。」

 

俺はあまりの仕事の多さに、これからの不安一杯に泣き言をいう。

 

 

「わかってるわよ。そのために、この3人を呼んだのだから。」

「え?」

 

それに対し華琳は、楽進達3人の方を指す。

俺もそんな華琳につられ、3人の方へと顔を向ける。

 

「彼女たちには、あなたの副官、つまり警備隊の副隊長として、補佐にあたらせることにしたわ。」

「そ、そうなんだ。あー、よかった。」

 

仕事詰めの日々にならずにすみそうで、俺はほっと胸をなで下ろす。

 

 

「そういう訳だから、お互いに自己紹介でもなさい。」

 

そして華琳に促され、自己紹介をすることにした。

 

「えー、姓は北郷、名は一刀で、字ってのはない。

 そして一応は、天の御遣いってことになってるけど、俺自身あんまりピンときてないから、皆も気にしないでくれ。

 まあ、これからよろしくな、楽進、李典、于禁。」

 

俺は自分なりの自己紹介をして、彼女たちへと笑顔を向ける。

 

「・・・ぎ、です。」

「え?」

 

そんな俺に対し、楽進が何かを言う。

 

「私の真名は凪です。そう呼んでください。」

「ええ!?」

「ウチは真桜や。」

「沙和は、沙和なのー。」

「えええっ!??」

 

楽進達は、淡々と自分の真名を教えてくれるが、逆に俺が驚いてしまった。

 

 

「初対面なんだけど、いいのか?」

「構いません。華琳様達がここまで信をおく方なのです、真名を預けるには十分な理由です。」

「あと、天の御遣いの噂も知ってるしー、それが本当だっていうのもー、華琳様達から聞いたのー。

 そんなすごい人なら、喜んで教えちゃうのー。」

「それに、ウチらの上司になるんやろ? だったら、真名くらい預けんとな。」

 

俺の質問に、3人はそれぞれ答えてくれた。

そこまで言われて断るのは、逆に失礼すぎるよな。

そう思い、謹んで3人の真名を預かることにした。

 

「わかった。 だけど、俺には真名がないから、好きに呼んでくれ。

 改めてよろしくな、凪、真桜、沙和。」

「はい、隊長。」「よろしゅう、隊長。」「よろしくなの、たーいちょう。」

 

 

こうして3人は警備隊の副隊長、そして俺の部下となった。

この日から、騒がしくも賑やかな、3人との日々が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

≪見せて≫

 

俺は、城の外れにある工房へと向かっていた。

その工房は、天の知識の実用化をするために建造されたものだ。

ようするに、俺の出した案のものを再現しようということらしい。

 

今までは、それを再現できるほどの技術者がいなかったため先送りにされていたが、つい最近その問題が解決された。

真桜だ。

彼女はこういった発明や絡繰に造詣が深く、そんな彼女ならば再現も可能だと判断されたのだ。

よってその工房は、情報の漏洩防止も兼ねて城の外れに建てられており、真桜以外の者もほとんどおらず、真桜専用の工房といってもいいものになっていた。

 

 

俺はというと、天の知識を使っているということと、真桜が俺の部下ということもあり、進行状況の確認や一応の監視としての役割を課せられていた。

さらに仕事が増えて大変になったが、まあ初めての部下が気にならないといえば嘘になる。

 

コンコン

 

「おーい、真桜ー。」

 

備え付けられた扉をノックし声をかけるも、中からは何の反応もない。

 

コンコン

 

「おーい、まおーー!!

 

さらに大声で呼ぶも、やはり返事はない。

このままでは仕方ないと思い、俺は扉を開け中へと入る。

 

 

工房の中へ入ると、大型の絡繰がいくつも目に付いた。

水車や風車、組み立て途中なのかよくわからないものなど、たくさんあった。

それらを横目に、俺はさらに奥へと進む。

 

すると先の方から、なにやらゴーという音ともに、熱気が伝わってきた。

その発生源へと足を進めると、そこには大型の炉が置かれていた。

どうやらこの音と熱気は、この炉からみたいだ。

 

そして目的の人物である真桜も、その炉の前にいた。

俺はそんな真桜へと近づき、声をかける。

 

「おい、真桜。」

「わあっ!」

「うおっ!?」

 

すると真桜は、驚いたのか大声をあげ、その反応に俺も驚いてしまった。

 

「な、なんや、隊長かいな。いきなり声かけるなんて、心臓に悪いわ~。」

「心臓に悪いのはこっちだ。工房の外から、なんども声はかけたんだぞ。」

「あれ、そうやの?集中してたから、全然気付かへんかったわー。」

「ったく。」

 

まったく悪びれる様子もなく、笑って誤魔化す真桜。

 

 

「ところで。さっきから熱心にみてたみたいだけど、これ何なんだ?」

 

そんな態度に呆れながらも、俺は真桜の前にある炉を指して質問をする。

 

「ん、これ? これこそ、隊長の話を元にウチが開発した、最新型の炉やねん。」

「まさか、完成したのか?」

「まだ試作段階やけど、あと少しって所やね。」

 

俺はそんな真桜の言葉に、口を開けてポカンとしてしまった。

いくら天の知識があったとはいえ、俺の拙い説明でまさかここまでのものを本当に作りあげちまうとは。

真桜って、もしかして天才ってやつなのか?

 

 

ピー  ガタガタガタ

 

そんなことを考えながら炉を見上げていると、その炉の様子がなんだか可笑しい。

さっきまでは音が違うし、なんだか揺れ動いてるような。

 

ガタガタガタガタガタ  ピピーー!!

 

いよいよ炉の様子が、ただ事ではなくなってきた。

 

「・・・まさか。」

「あかん! 隊長、逃げるで!!」

 

そんな真桜の叫びとともに、その場から駆け出す。

 

カッ!

 

すると後ろから、閃光のような光が出たかと思った次の瞬間。

 

ドッカーーン!!!

 

 

「ゴホゴホ、真桜、無事か?」

「なんとか~。」

 

音の割に被害は少なく、細かい破片が飛び散ったり、煙が充満したくらいで済んだ。

ちなみに、コントの様に頭がチリチリパーマになったり、口から煙をプハッと吐き出す様なことにはなっていないので、あしからず。

 

「まさか、爆発するなんてな。」

 

俺は真桜を引き起こした後、周りの惨状を見ながら、そんな言葉を漏らす。

 

「まったく、これで3度目やけど、やっぱり炉自体の耐久力や圧のかけ方にまだ問題があるんかな?」

「・・・待て、今なんて言った?」

 

今、真桜の口から聞き捨てならない言葉が聞こえた様な。

 

「え? 炉の耐久力や圧に」

「いや、もう少し前だ。」

「これで3度目ってとこ?」

 

俺は自分の聞き間違いなどではなかったことに、顔を青くする。

 

「こんな事故が、既に2回も。」

「発明に失敗はつきもんやで。 そして失敗には、爆発がつきもんなんや。

 だから隊長、それを恐れてたら発明なんて出来へんで。」

 

真桜は良い笑顔で、名言じみたことを言う。

前言撤回。

天才と何とかは紙一重というが、真桜はその紙一重の上にいるようだ。

 

 

 

 

「じゃあ隊長、好きに寛いでて。」

「おう。」

 

その後俺は、工房内に作られた真桜の私室へと来ていた。

そこも多くの工具や、大小様々な発明品が所狭しと置かれており、真桜らしいといえば真桜らしい部屋だった。

そこには鋸や金槌などのほかに、ドライバーやスパナなどあきらかに時代考証を無視したものまで置かれていたが、もうそこについては考えないことにした。

 

 

物珍しさもあってしばらく眺めていたが、机の上に置いてあるモノを見て動きを止める。

一旦視線を外し、目頭を押さえる。

 

(いやいやいや、きっと見間違いだ。)

 

そう自分に言い聞かせ、再び机の上へと視線を戻す。

が、やはり見間違いでなかったことに愕然とする。

ストレートに名前は言えないが、男性のある部分、まあシンボルとでも言えばいいのか、それを人工的に模したモノがそこにはあった。

 

 

俺は近づき、それを手に取る。

 

「真桜、これは?」

 

まあ俺も、健康的な男子であるため、これが何でどういうものなのかも知ってはいる。

知ってはいるが、実際に見たのは初めてだ。

もしかしたら、万が一にも、俺の勘違いということもありえる。

だからこそ俺は、勇気を持ってそれを真桜に尋ねることにした。

 

「それ? それは華琳様に頼まれて作った、絡繰お万ちゃんや。」

「え、え~と、これの使い方は?」

 

既に製作依頼主が華琳という時点で、99%以上確定しているのだが、僅かな望みに希望を託す。

 

「知らんの、隊長? これは、女性が女性をこう攻め「いや、わかった。もういいよ。」なら、ええけど。なんで、黄昏とるん?」

(華琳のやつは、何を作らせてんだ!)

 

と思いながら、俺は項垂れた。

 

 

「真桜、こういっちゃなんだが、嫌なら嫌って言っていいんだぞ。なんなら俺が、代わりに言ってやるし。」

「何が? いやー、それ作るのはほんま楽しかったわー。ウチの絡繰ん中でも、傑作の一つやね。」

(類友だった! 早くなんとかしないと!!)

 

そんなことを必死に考えすぎていたため、俺は今の自分の状況がまったく見えていなかった。

 

 

「真桜さーん。お茶菓子をもってきました。」

「ああ、流琉。入ってええよ。」

「それじゃ、お邪魔しますね。」

 

どうやら、流琉がお菓子を持ってきてくれたようだ。

真桜が入室の許可をすると、扉が開かれ、そこから流琉が姿を現す。

 

「あ、兄様もいらしてたんですか。もし良かったら、兄、様、も・・・」

 

しかし流琉は、そんな俺を確認するなり、固まってしまう。

 

(あれ? なんか様子がおかしいな?)

 

そんなことを考えていると、流琉が口を開く。

 

「に、兄様、そ、その、手にもっているのは、その、あの」

「手?」

 

流琉が真っ赤になりながら、俺の手元を指さす。

そんな俺の手には、真桜謹製、絡繰お万ちゃんがしっかりと握られていた。

 

 

「なっ! ち、ちがうんだ、流琉。これには深い訳が。」

「あの、このことは誰にも言いませんから。し、失礼しました!」

 

そう言って流琉は、そそくさと部屋を後にしてしまった。

俺は弁明も何もできず、伸ばした手が虚しくを空を掴むのだった。

 

「まあ、しゃあないわな。女の子と二人きりの密室で、そんなもん握っとる男がいたら、そりゃ流琉やなくても、そんな場にはおれんは。」

「誰のせいだ!大体真桜が、こんなもんを作らなければ。」

「こんなもんってなんや!お万ちゃんをつくるのに、ウチがどれだけの苦労をしたと。」

「そんな苦労、知ったことか!」

 

 

そんな不毛な言い争いをしていると、また不幸がやってきた。

 

「真桜、材料についてなのだが、これ位で、足りる、だろ、うか?」

「・・・しゅ、秋蘭。」

 

これまたいいタイミングで、秋蘭が訪ねてきたのだ。

もちろん俺の手には、まだお万ちゃんが固く握られたままである。

 

「・・・北郷、お主の趣味にとやかく言うつもりはない。が、せめて仕事が終わってからにしろよ。」

「ちょ、まってくれ秋蘭。誤解、ごか(バタンッ)い、なの、に・・・」

 

俺の言葉も虚しく、秋蘭も確実に誤解をしたまま部屋を後にしてしまった。

俺は全てが終わったと悟り、その場で絶望に打ち拉がれていた。

 

 

 

 

【side 真桜】

 

「・・・違うんだ、違うんだよ。誤解だ、誤解なんだ。」

「あちゃー、こりゃ重症やな。」

 

流琉に続いて秋蘭様にもばっちり見られたせいか、隊長は何かブツブツいいながら、部屋の隅にいってもーた。

まあこのまま放っておいてもおもろいんやけど、さすがにそういう訳にもいかへんよなー。

しゃーない、少し助け舟だしたるか。

 

 

「あー、隊長。 ウチも、流琉や秋蘭様の説明手伝ったるから、元気だしいな。」

「本当か?」

 

顔をあげた隊長の目に、僅かに光が灯る。

 

「まあ、ウチにも責任がないわけやないし、それくらいなら。」

「ありがとう、真桜!」

 

隊長はなんとか元気を取り戻したみたいで、嬉しそうにウチの手をとる。

 

ドキッ

 

(なんや、ちょっと照れるな。)

 

ウチがそんなことを考えている間も、隊長はまったく気にせずお礼の言葉を言い続ける。

 

「これで、誤解をとくことができる。」

 

相当嬉しいのか、さっきまでの言い争いのことなんぞ、すっかり頭から抜け落ちとるみたいやな。

 

 

「言葉だけじゃ、足りないくらいだ。何か俺にできることがあったら、言ってくれよ。」

 

ウチはその言葉を聞き逃さへんかった。

隊長にできること、か。

 

「なら、隊長に頼みたいことがあるんやけど、ええ?」

「ああ、俺に出来る範囲のことだったらだけどな。」

「大丈夫。隊長でもできる、とーっても簡単なことやから。」

「そうなのか?なら、何でも言ってくれよ。」

 

ニヤッ 言質はとった。

 

 

ウチは、隊長に頼みごとの内容を説明する。

 

「実はな、お万ちゃんにはある重大な欠点があるんよ。」

「これに、か?」

 

ウチが隊長の手にあるお万ちゃんを指さしてそういうと、隊長は何やら微妙な顔をする。

 

「その問題とはな。」

「その問題とは?」

 

ウチが真剣な顔になると、隊長もそれにつられ姿勢を正す。

 

「ウチ、実物見たことないねん。」

「・・・・・は?」

 

先程までの空気が霧散していった。

 

 

「やっぱウチとしては、作るからにはしっかりとこだわりたいと思っとるんよ。

 書物なんかの知識はあるんやけど、やっぱり本物を見てこそだと思うねん。

 ほら、百聞は一見にしかずって言うやろ?」

「まてまてまて、まさか。」

 

隊長もやっと気付いたのか、その顔が青くなっていく。

 

「というわけで。隊長、見せて♪」

「見せるかーー!!!」

 

今日一番の隊長の叫びが、部屋中に響き渡る。

 

 

「ええやん、減るもんやなし。」

「減るわ!俺の人としての何かが確実に!」

 

予想通りというか、隊長は必死に拒否する。

や・け・ど

 

「さっき、何でも言ってくれって言ったはずなんやけどなー。」

「うっ。」

「あれは嘘やったんかなー。 あーあ、裏切られたわー、傷ついてもうたわー。」

「うううっ。」

 

先程言質をとったことを持ち出すと、案の定押し黙ってしまった。

 

 

「・・・そ、それ以外で、何とか、ならないか?」

「んー、そんなに嫌なん?」

「ああ、だから頼む。」

「しゃあないなー。」

「じゃあ。」

 

隊長があまりにも嫌がり、頑なに拒むため、ウチは頼むのをやめることにした。

 

「力づくで見させてもらうわ。」

「へっ?」

 

そう、頼むはやめや。

代わりに、力づくで見させてもらうことにした。

 

 

 

「隊長、観念しい。」

「馬鹿、やめ。」

 

ドスンバッタンガタンドタン

 

隊長の履物を掴み、脱がしにかかる。

しかし隊長も、そうさせまいと必死に抵抗する。

 

そんな格闘がしばらく続いとったが、それも終わりを迎える。

 

「くっ、この。」

「うわっ。」

 

隊長が足を払ったため、ウチの体が後ろへと倒される。

 

「道連れや。」

「え、ちょっ。」

 

しかしウチも、履物を離さんかったため、隊長も一緒に倒れ込んできた。

 

 

ボスッ

 

そのままウチの体は仮眠用の寝台へと倒され、隊長は両手を寝台へとつき、ウチに覆いかぶさるような体勢になった。

 

ドキッ

 

隊長の顔が、すぐ目の前にある。

隊長の息遣いを感じる。

ウチは胸の鼓動が治まらず、隊長から目を離すことができんかった。

 

 

「悪い、真桜。すぐ退くから。」

 

そんな状況を理解した隊長が、体を起こそうとする。

 

スッ

 

「真桜?」

 

思わずウチは、そんな隊長の首に手を回してもうた。

隊長は、それに戸惑った表情を見せる。

 

「隊長。 なら、交換条件だったらどうや?」

「は? 一体何言って。」

「隊長の見せてもらう代わりに、隊長もウチの見てええよ。」

「なっ!??」

 

隊長の顔が一気に赤くなる。

 

 

「そ、そそそ、そんなこと、冗談でも言っちゃ「冗談ちゃうよ。」いいっ!?」

「ウチは本気やけど、それじゃ隊長は嫌か?」

「嫌ってことは、むしろ見たいというか、ってそうじゃなくて!」

 

隊長は一人で慌てふためいて、軽く混乱しとるみたいやった。

そしてしまいには、

 

「こ、こういうことは、そんな理由でするべきじゃない!

 ま、真桜が好きになった人のために、してあげるべきことだと思うぞ、俺は。」

 

なんてことを言いだした。

 

 

(この阿呆は! 好きでも何でもない奴に、そんな理由でここまでするかいな!!)

 

そう叫びたい気持ちを抑え、なんとか声には出さへんかった。

しかし、そんな朴念仁に対するモヤモヤした気持ちは残ったままだ。

この弄ばれた気持ち、どう落とし前つけさせてもらおうか、と考えていると。

 

「真桜、この前言っていた絡繰について、なの、だけれ、ど・・・」

 

ちょうど良く、華琳様が部屋へとやってきてくれた。

 

 

最初こそウチらのことを見て固まっとったが、次第に体を震わせ、殺気を放ちだした。

 

「一刀。一体、何をしているのかしら?」

「ちが、誤解だ。これは事故、そう事故なんだ。 真桜、真桜からも言ってやってくれ。」

 

そんな華琳様へと必死に弁解する隊長は、ウチに援軍を頼む。

それを受けてウチは、

 

「隊長が、ええやないか、ええやないかってウチのことを。」

「まおーーーう!!!」

 

隊長の、絶望の叫びが轟く。

 

「一刀。 私は、そんなことのために貴方に部下をつけたのではないのよ。」

「いや、それは十分理解してるし、さっきのは真桜の嘘で」

「問答無用!」

「ぎゃーー!!」

 

そのまま隊長は、華琳様に連れられてどっかへ行ってもうた。

 

 

一人残されたウチは、寝台へと腰かけさっきまでのことを思い出す。

 

「あそこまでやって、あの反応か。 はぁー、難儀やなー。」

 

そんな朴念仁のことを考え、ウチは大きな溜息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

好出衣値衣砥(こうでいねいと)するの≫

 

【side 一刀】

 

今日は、久しぶりに非番の日だ。

まあ、部屋でのんびりしてもいいんだが、たまには仕事以外で町を回るのも悪くないよな。

そんなことを考え、俺は町へと向かうことにした。

 

町に着くと、そこはいつも通り、とても賑わっていた。

元気よく品物を売るおっちゃん。

その商品を、一生懸命値切ろうとするおばちゃん。

楽しそうに井戸端会議をする、奥様方。

そんな当たり前だけど、この世界では何よりも大事なものが溢れていた。

 

 

俺の耳にも、ここ最近の町での犯罪率が減ってきた話は入ってきている。

少しずつではあるが、警備隊の効果が出てきた結果ともいえる。

その結果が今のこの光景だとすれば、俺にとっては何よりも嬉しい結果だ。

それもこれも、未熟な俺を支えてくれる、あの三人の部下のおかげだ。

本当にあの三人には、感謝してもし足りないな。

 

俺はそんなことをしみじみ思いながら、再び辺りを見て回る。

元気に走りまわる子供たち。

仲良くお散歩している老夫婦。

そして、喫茶店でのんびりとお茶をしている沙和。

 

 

「・・・・・ん、沙和?」

 

俺は巻き戻しの様に、来た道を引き返す。

そしてもう一度、その場所を確認する。

そこには確かに、喫茶店のテラス席で読書をしながらお茶を楽しむ、沙和の姿があった。

 

「やっぱり沙和だ。おーい、沙和ー。」

 

俺は、通りから声をかける。

 

「? た、隊長!」

 

自分のことを呼ぶ声に、沙和は辺りをキョロキョロと見回す。

そして俺の姿に気付くと、何故か驚いた顔をしていた。

 

 

(あれ、そんな驚かす様な声のかけ方したかな?)

 

そんなことを考えながら、沙和の座っている席へと近づく。

 

「町で仕事以外の時に会うなんて、珍しいこともあるもんだな。」

「ほ、ほんと、すっごい偶然なのー。」

(うーん、何か沙和の様子がおかしい気がするけど、どうかしたのかな?)

 

どこか白々しい様な態度の沙和に、さらに疑問が深まる。

 

「た、隊長は、どうしてここにいるの?」

「ん? ああ、久しぶりに休みを貰えたからさ、たまにはゆっくり町でも見て回ろうかと思ってさ。

 そういう沙和は、どうなんだ?」

「え? さ、沙和はー。

そう! 沙和も隊長と一緒で、非番だったからのんびり町を回ってたのー。」

「なんだ、そうだったのか。

って、あれ?でも、今日の勤務予定って・・・」

 

沙和の発言に何か引っかかった俺は、自分の記憶を引っ張りだそうとする。

 

 

「あ、あー! 隊長、そんな所にずっと立ってないで、座るのー。

 ここのお茶はとっても人気があって美味しいから、きっと気に入ると思うの。

 すいませーん、本日のおすすめを1つお願いしますなのー。」

 

そんな俺を、沙和はもの凄い勢いで座らせ、有無を言わせず注文までしてしまった。

 

「ご、強引だな。」

「あ、あはは、ここのお茶美味しいから、どうしても隊長に飲んでほしかったのー。」

(なんだよ、嬉しいこと言ってくれるな。)

 

俺はそんな沙和の気づかいに、感動してしまった。

 

 

しばらくするとお茶が届き、俺はそのお茶を啜りながら、沙和と会話をすることにした。

 

「(ズズッ)あっ、美味い。」

「でしょー。」

「沙和は、よくここに来るのか?」

「んーん、今日初めて来たの。」

「は?」

 

何か、おかしなこと言ってないか?

 

「初めてなのに、なんでそんな自信満々にオススメしたんだ?」

 

俺は、先程の会話の引っかかったことについて質問した。

 

「それはこのお店が、陳留で今一押しのお店だって『阿蘇阿蘇(あそあそ)』に載ってたからなのー。」

「あそあそ?」

 

まーた、この外史特有の代物か。

 

 

「隊長、知らないの?

 今若い女の子達の間で流行ってる、色々な情報がのってるの。」

 

そういって沙和は、実物を俺に見せてくれる。

俺はそれを手に取り、中身に目を通す。

 

今流行りのお店に、美容関係や催し物の日程、はては占いコーナーまで完備か。

あっ、この店のことも確かに書いてあるな。

そして全体的に、ファッション関係の内容が大部分を占めてるな、この本。

いつの世も、女の子はおしゃれが好きなんだなとしみじみ感じる。

 

 

そうして読み終わった本を、沙和へと返す。

 

「どうだった、隊長。何か気になる情報見つかった?」

「いや、特には。

只、おしゃれ関係のことが沢山書いてあったから、やっぱり女の子はそこが大字なんだなー、って思ったかな。」

「それはそうなの。 女の子は、いつでも好きな男の人に、最高の自分を見てもらいたいと思ってるものなのー。」

 

沙和は目をキラキラと輝かせて熱弁する。

 

「あはは、まあ女の子が可愛らしい格好してくれるのは、確かに男としては嬉しいよな。」

 

そして俺は、みんなのそんな姿を想像(妄想?)して、顔をニヤニヤさせていた。

 

 

「でもそれは、男の人にも言えることなの。」

「男も?」

「そう、女の子だって男の人が素敵な服を着てたら嬉しいし、思わずドキッってなっちゃうの♪」

「うーん、まあ、そういうもんなのかなー。」

 

俺は自分の周りにそういう人物がいなかったため、あまりピンとこなかった。

確かに、テレビなどで見かける俳優なんかは、ビシッ決めてて格好いいと思うけど。

 

 

「ところで隊長。隊長って、よく同じような服を着てることが多いとおもうの。」

「え、そうか? まあ、確かにそうかもな。俺、自分の服とかにはあまり興味ないからな。」

 

沙和に指摘され、俺は自分の服装を振り返る。

フランチェスカの制服は、特別な時以外着るなと、華琳から厳重注意されているため、普段は着ていない。

その代わりにこちらで買った服を着ているが、忍者の性なのか、あまり目立たない地味目でありふれた服しか着ていなかった。

 

 

バンッ!

 

「そんなんじゃ、いけないと思うの!隊長も、もっとおしゃれに気を使うべきなの!!」

 

しかしそんな俺の発言が、沙和の何かに火をつけたのか、沙和はものすごい剣幕で怒る。

 

「い、いや、最低限は気をつけてるぞ。

 それに、俺なんかがおしゃれしても、たかがしれてるだろ?」

「そんなんだから、隊長は駄目駄目なの。 こうなったら、沙和が隊長の服を見繕ってあげるの!」

「いいっ!」

「そうと決まれば、善は急げなの。さあ隊長、のんびりしてないでさっさと移動するの。」

 

そう言うや否や、沙和は俺の腕を掴み、ものすごい力で俺をグイグイと引っ張っていく。

 

 

「ちょ、待てって。あっ、お代そこに置いときますんで。」

 

俺はお茶の代金をテーブルの上になんとか置き、そのまま沙和に連れられた。

 

(それにしても、沙和でさえこの力って、この時代の女の子はどうなってるんだ?)

 

と、そんなことを思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

しばらく引き摺られていると、ある店の前でやっと止まる。

どうやら、ここが目的地らしい。

 

「こんにちはー、なのー。」

「いらっしゃいませ~。」

 

店の中に入ると、店員が独特な言い回しとアクセントで出迎えてくれた。

店内を見渡すと、そこには服だけでなく小物なども置かれており、どうやらファッション関係全般を扱っている複合店のようだ。

ちなみに店名は、『陳留 一丸宮』となっていた。

うん、今さら深く考えるのはやめようと思う。

 

 

「えーと、沙和さん。そろそろ、離してもらえないでしょうか。」

 

俺は今だ引き摺られているこの状況を変えようと、沙和に声をかける。

 

「えー、でも離したら、隊長逃げるでしょ。」

「逃げないよ。 それに、せっかく沙和が俺の服をコーディネートしてくれるんだ、そんなことしたら失礼だろ。」

「うん、わかったの。」

 

俺に逃亡の意思がないことが伝わると、沙和を掴んでいた腕を離してくれた。

 

 

「ところで隊長、こうでい、ねいとって何なの??」

 

思わず横文字なんて使っちまったけど、そりゃ伝わるはずないよな。

 

「ええと、コーディネートってのは、うーん、何て言えばいいのかな。

 衣装や小物などを、その人に合わせて見繕うとでも言えばいいのか、まあ今から沙和が、俺にしてくれようとしたことだな。」

「ふーん。じゃあ沙和が、隊長のことをしっかり好出衣値衣砥(こうでいねいと)してあげるの♪」

 

そういって沙和は、店の奥の方へと向かっていった。

 

 

30分後

 

「着替え終わったぞ。」

 

俺は沙和の選んでくれた服を着て、試着室から出る。

そんな俺の服装は、シャツにパーカーにデニムのパンツと、明らかに現代日本の方がしっくりくる格好である。

まあこの外史のそういった部分は、もう突っ込むだけ無駄なので構わない。

 

 

むしろ問題なのは、俺の姿を見るなり固まってしまった、沙和と店員さんのほうだ。

 

(うーん、やっぱ俺には似合わないよな。

 向こうにいた時も、及川の奴にムリヤリ服を試着させられて、同じような状況になったことあったもんな。)

 

そんな昔のことを思い出しながら、いまだ動く気配のない沙和をどうしようかと考えるのだった。

 

 

 

 

【side 沙和】

 

(か、かっこいいのー♪)

 

絶対に隊長に似合うと思ったけど、まさかこんなに格好良くなっちゃうなんて、予想外過ぎるの。

隊長、普段も格好良いんだけど、今日はさらに3割増しで見えるのー。

そんな隊長の姿に、沙和も思わず見惚れちゃったの。

隣にいた店員さんも、沙和と同じような感じだったの。

 

 

「あー、沙和。どこか、おかしいか?」

 

隊長が、恐る恐るって感じで、そんなことを聞いてくる。

 

「あはは。やっぱ俺には、こんな服似合わねえよな。」

 

まだ少しボーっとしていた沙和が、何も答えず黙っていると、何か勘違いした隊長が服を脱ごうとする。

そこでやっと状況を理解し、すぐさまそれを止める。

 

「そんなことないの! とっても似合ってるし、めっちゃ格好いいの!」

「そ、そうか?」

「そうなの!」

 

沙和が必死にくい止めるけど、隊長はまだ半信半疑って顔をしてるの。

 

 

「隊長は、沙和の好出衣値衣砥(こうでいねいと)を信じられないの?」

「い、いや、そういうわけじゃ。」

「だったら、今の隊長はとっても素敵だから、自身を持っていいの。」

「・・・そうだな。 沙和がコーディネートしてくれたんだ。似合わないはずないよな。」

「もちろんなの♪」

 

やっと隊長も納得してくれて、嬉しそうな笑顔を向けてくれた。

 

 

「ありがとうございました~。」

 

用事を済ませた沙和達は、お店を後にした。

もちろん隊長は、さっき沙和が選んだ服を着てくれている。

 

「さてと、素敵な服も選んでもらったし、これからどうする?」

「えーと。」

 

隊長がこれからの予定を、沙和に聞いてくる。

沙和がどうしようか悩んでいると、

 

きゅ~~

 

お腹がなっちゃたの。

 

「あはは。じゃあまずは、メシにでもするか。」 

 

そんな恥ずかしい音を聞いた隊長は、笑いながら食事に行くことを勧めてくれる。

だけど、せっかくのいい雰囲気が台無しなの。

 

 

「そうだな。今日は、こんな良い服を選んでもらったんだ。いつもの所じゃなくて、少し違う店にでも行ってみるか。」

「え?」

「たしかこの先に、華琳に連れてってもらったいい店があったんだ。」

「それ知ってるの。 阿蘇阿蘇(あそあそ)でも話題になってる、高級店なの。 でも、沙和のお給金じゃ・・・」

「言ったろ。 今日は、沙和にこんな良い服を選んでもらったんだ。俺にご馳走させてくれよ。」

「本当なの? 隊長、太っ腹なのー。」

「ははは、現金なやつだな。」

 

だけどそんな暗い気持も、隊長がご馳走してくれるとわかったら、すぐに吹き飛んでいっちゃったの。

こうして沙和達は、そのお店へと向かうことにしたの。

 

 

お店に着くと、そこは明らかに沙和とは場違いな雰囲気を発していた。

華琳様が贔屓にしてるくらいだから、すごいお店なのは知ってたけど、実際に来てみるとまた違うの。

 

「おーい、沙和。席が空いてるみたいだから、中に入るぞ。」

「わかったのー。」

 

そして、お店の中もとっても豪華で、興奮が抑えられなかったの。

思わずあたりをキョロキョロみながら歩いてたんだけど、それがいけなかったの。

 

 

ガタン  カチャン  パシャ

 

「ああっ!」

 

食事をしている人の机にぶつかっちゃって、杯に入っていたお酒をこぼしちゃったの。

さらにそれが、その人の服にかかっちゃって。

 

「貴様、何てことを。」

「ご、ごめんなさいなの!」

「謝ってすむと思っているのか。」

 

相手はどこかの富豪のようで、身なりのいい恰好をしていたの。

その人は服が汚されたことに、ものすごい剣幕で怒ってたの。

もちろん悪いのは沙和だから、すぐに謝ったの。

けど、相手の怒りはそれじゃ治まらなかったの。

 

 

「どうしたんだ、沙和?」

「あ、隊長。」

 

そんな騒ぎをききつけた隊長が、来てくれたの。

 

「何だ、貴様は?」

「彼女の連れのものです。」

「ふん。この女はな、酒をこぼして私の服を汚したんだよ。」

 

そうって男は、汚れた部分を指さす。

 

「そうなのか、沙和?」

「・・・うんなの。」

「それは、本当に申し訳ないことをしてしまいました。服の方は弁償させてもらいますので、それで許して頂けませんか?」

 

隊長はそういって、丁寧に謝る。

 

 

「弁償だと?お前、これが何なのかわかっているのか? これはな、あの『奢錬』の最新型の服なんだぞ。

 それをお前みたいな、金もなさそうな貧乏人に払えるのか?」

「ええっ、奢錬!?」

 

相手から聞かされた衝撃的な事実に、沙和の顔は青くなっちゃたの。

 

「沙和、しゃねるって?」

「奢錬の最新型の服っていったら、沙和のお給料の3カ月分くらいしちゃうの。

 いくらなんでも、そんな額払いきれないの。」

「なっ!?」

 

隊長はよくわかってないみたいだったけど、沙和が説明してあげると、ギョッとした顔になったの。

 

 

「だ・が。お前さんが私のお酌でもしてくれれば、考えてやらんことも。」

 

そういってその男は、沙和のことを舐めまわす様にジロジロみてきたの。

 

(ううう、こんな奴にお酌するなんて、絶対ヤなの。 でも、そんな大金払えないし。)

 

沙和が絶体絶命の状況に怯えていると、その間に割り込むようにして、隊長が立ちふさがる。

 

「な、なんだ。」

「弁償の方は自分が必ずしますので、今日の所はこれでひいて頂けませんか。」

「・・・隊長。」

 

再び隊長が丁寧な対応で謝り、今度は深く頭も下げる。

 

 

しかし相手は、そんな隊長の行動が気に障ったのか、とんでもない行動にでたの。

 

「今日の所はひけだ? 私は被害者なんだぞ。なのに、随分と偉そうなことを言うな。」

 

ビチャビチャビチャビチャ

 

そう言って男は、瓶に入っていた酒を、隊長の頭からかける。

 

「こいつ、よく「沙和!」隊長?」

 

そんな態度に、沙和は手をあげそうになったけど、それを隊長が一喝して押しとどめる。

 

「なんで止めるの?」

「元々は、こっちが悪いんだ。こんなことで、問題を起こすわけにはいかない。

 それに、これくらい大したことないよ。」

 

隊長はお酒でびしょ濡れになりながらも、沙和に笑顔を向けてくれる。

 

 

 

そんな隊長の思いが伝わって、沙和もぐっと堪えることにしたの。

でもやっぱり、隊長にあんなことしたこいつは許せないの。

そう思って睨んでいると、その男に違和感を覚える。

 

「あれ?」

「な、何をする、この女。」

「沙和?」

 

沙和はその男に近づいて、着ている服を引っ張り、その裏地に目を通す。

もちろんその男は、沙和のこの行動に怪訝な顔をするし、隊長は訳がわからないって顔をしてたの。

 

 

そして服を調べていると、さっき感じた違和感の正体に気付いたの。

 

「これ、偽物なの。」

「「えっ!?」」

 

沙和の言葉に、二人は目を丸くしたの。

 

「き、貴様、言うに事欠いて偽物だと。どこに証拠が、」

「まず、この布の縫い合わせ部分、よく見ると僅かにずれてるの。そのせいで、さっきから模様がどこかおかしいって感じてたの。

 次に縫い目だけど、見える所はしっかりしてるけど、見えない所は適当にやっててひどいの。

 どっちも、本物だったらあり得ないことなの。」

「ぬぅ。」

 

偽物呼ばわりされた男が、怒って詰め寄ってきたけど、沙和が証拠をあげると、言葉を詰まらせていったの。

 

「それに決め手は、裏地に刺繍された奢錬の文字なの。

 本物は金糸で刺繍されてるはずなのに、これはただの糸で刺繍されてるの。

 それが、この服が偽物っていうなによりの証拠なの!」

 

沙和はその男の服を指さし、ビシッと指摘してやったの。

 

 

男が恐る恐る自分の服を捲ると、そこには沙和の指摘した通りの文字が刺繍してあったの。

それに気付くと、男の顔の方が青くなっていったの。

 

「ば、馬鹿な。この服は確かに店で奢錬だと言われて、」

「それ、正規のお店で買った? 奢錬は人気があるから、模造品がたくさん出回ってるの。」

「・・・・・」

 

心当たりがあったみたいで、もうその男は何も言えなかったみたいなの。

 

 

「なあ、沙和。あれが偽物だとしたら、値段はどれくらいになるんだ?」

「本物じゃないって時点で価値はないし、もうそこら辺で売ってる服と同じくらいの値段しかしないの。

 むしろ、今隊長が着てる服のほうが、高いくらいなの。」

「そうか。」

 

隊長はまだ弁償のことを気にしてたみたいだけど、そんな心配がいらないことを教えてあげると、ホッとしていた。

 

 

そして隊長は、そのままその男の前へと歩み寄る。

 

「あの。」

「(ビクッ)な、なんだ?」

 

隊長が声をかけると、その男は体を大きく震わせてたの。

 

「服のことなんですが、確かにこっちに否があるんですが、俺の服も汚れてしまったことですし、これでお互い手を引きませんか?」

「なっ。」

「引いてもらえますよね。」

「わ、わかった。この話はなかったことにする。」

 

隊長の迫力に、言い淀んでいた男も諦めて手をひいたの。

ざまあみろって感じでスッとしたけど、確かにさっきの隊長、ちょっと怖かったの・・・。

 

 

「あー、沙和。ここで食事って感じじゃなくなっちまったし、別の場所でも構わないか?」

「うん、大丈夫なの。」

 

確かに、こんな騒ぎを起こした後じゃ、とてものんびり食事をできる雰囲気じゃないの。

だから沙和達は、やむなくそのお店を後にしたの。

 

 

 

そして別の店へと向かう道すがら、隊長が声をかけてくる。

 

「悪いな、沙和。」

「え、何がなの?」

 

隊長がいきなり謝ってくるから、思わず何のことか聞き返しちゃったの。

 

「いや、せっかく沙和にコーディネートしてもらったのに、その服をこんなに汚しちまって。」

 

そういって隊長は、自分の服を掴んで見せる。

さっきかけられたお酒が、頭だけじゃなく服にまでかかっちゃってたの。

顔や髪のお酒は拭きとったけど、服にかかっちゃったほうは、見事にシミになっちゃてたの。

 

 

でも、

 

「そんなこと、気にしなくていいの。 服が汚れちゃったのは、沙和を庇ってくれたせいなんだし。」

「だけど、」

「それに、どんなひどい格好になっても、隊長は格好いいから、なんの問題もないの♪」

 

そう。

あの時お酒をかけられ、罵倒されていた隊長は、汚れて惨めな姿だったの。

でも、そんな姿になっても沙和のことを庇ってくれた隊長は、そんなの全部無しにするくらい格好良かったの。

 

だから、

 

「だから沙和は、そんな隊長のことが大好きなの♪」

 

そんな勢いのまま、隊長に告白しちゃったの。

 

 

だけど、

 

「あはは、なんか照れるな。 だけど、俺も沙和のこと大好きだぞ。」

 

なんか隊長の反応が薄いというか、軽い感じがするの。

もしかして隊長、告白したって気付いてないの?

 

「さてそれじゃ、腹も減ってるし、飯屋でも探すか。」

 

やっぱり、このニブチン、全然気がついてないの。

 

「た、隊長!」

 

沙和は、もう一度しっかり伝えようと思ったんだけど、それは失敗に終わっちゃうの。

 

 

「沙和!」

「な、凪ちゃん。」

「あれ、凪?」

 

凪ちゃんが、ものすごい形相でこっちにやってきたの。

 

「沙和、お前。 こんな所で、一体何をしているんだ!」

「ご、ごめんなの、凪ちゃん。」

「あー、凪。 沙和の奴、どうかしたのか?」

 

いまいち状況を掴めていない隊長が、間に割って入る。

 

 

「あ、隊長。実は沙和の奴、今日の私との警邏をすっぽかして、サボっていたみたいなのです。」

「・・・・・沙和?」

「ごめんなさいなのー!」

 

隊長もようやく気付いたみたいで、沙和のことをジト目で睨む。

 

「とにかく、仕事に戻ってもらうぞ、沙和。」

「あー、隊長ー。」

 

沙和は凪ちゃんに首根っこを掴まれて、ズルズルと引き摺られる。

 

 

「はー、しゃあない。」

 

そんな沙和を見て、隊長が溜息をつく。

 

「凪、そんなに急がなくても、もう昼休憩なんだろ?」

「まあ、確かに、今は休憩時間ですが。」

「沙和には、後で俺からも注意しておくから、真桜も呼んできて、四人で食事でもしないか?」

「・・・わかりました。沙和の件、隊長にお願い致します。では、私は真桜を呼んできますね。」

「ああ、よろしく頼むよ。」

 

そう言って凪ちゃんは、沙和のことを離して、真桜ちゃんのことを呼びにいったの。

 

 

「ありがとうなの、隊長。」

「まったく。罰として、今日の昼食はいつもの店にするからな。」

「そんなーなのー。」

 

助けてもらったけど、それもそれでひどいの。

 

 

「だから、今度出掛ける時は、ちゃんと休みの時にしてくれよ。」

「! わかったの。」

 

今日は色々なことがあったけど、おかげで隊長のことがもっと好きになったの。

これからも、よろしくお願いしますなの、隊長♪

 

 

 

 

 

 

 

≪辛すぎる忠義≫

 

【side 一刀】

 

今日も今日とて、警邏が終わった。

俺は隊員達に指示を出し、今日の報告書を書こうと詰め所へ向かう。

すると、

 

「隊長。」

「ん? 凪か、どうしたんだ?」

 

俺と一緒にまわっていた凪が、俺のことを引きとめる。

 

「はい、隊長はこの所大変お忙しそうなご様子。報告書の方は私がやっておきますので、隊長は先にお戻りください。」

「うーん。」

 

確かに、警備隊を発足してしばらく経つが、まだまだ問題は山積みだ。

俺も、天の世界での知識を元に案を出したりして、微力ながら桂花達を手伝っている。

それに加え、通常の業務に、「忍」の育成、その他諸々と、確かに忙しいといえば忙しいか。

 

凪を見ると、俺を心配そうにずっと見ていた。

少し悩んだが、確かに疲れているのも事実だったので、今回は凪の好意に甘えることにした。

 

 

「わかった、それじゃ凪にお願いしてもいいか?」

「は、はい、お任せ下さい! それでは隊長は、しっかりと休んでください。」

 

俺がそれを受け入れると、凪の表情は一気に明るくなる。

そして俺にそう言い残すと、詰め所に向かって走って行ってしまった。

 

(なんか、可愛いな。)

 

俺はといえば、そんな凪の可愛らしさに心癒されていた。

 

 

 

後日。

今は警邏の途中なのだが、今日は気温が高く、とにかく暑い。

それに加え、こんな鎧をつけて町を練り歩いているのだ、嫌でも汗が噴き出してくる。

 

「あつい~。」

 

俺は額に浮かんだ汗を拭いながら、情けない声を出してしまった。

 

 

「隊長。」

 

そんな俺に、凪が声をかけてくる。

 

「ああ、悪い。 ちょっとだれすぎた。」

 

怒られると思った俺は、すぐに謝り姿勢を正す。

が、凪の反応は俺の予想と違っていた。

 

 

「いえ、そういうつもりで声をかけたのではなく、あの、その、よかったら、これをお使いください。」

 

何か手を後ろでモジモジしているかと思ったら、その両手を俺へと突き出してきた。

そしてその手には、白い布が握られていた。

 

「え、えーと、これは・・・」

 

俺がこの状況に戸惑っていると。

 

「よ、よろしければ、こ、こちらで、あの、汗のほうをお拭きになってはと。」

(ああ、汗拭き用のタオルってことか。)

 

そこまで聞いてやっと気がつく。

そしてそんな優しさに嬉しくなり、俺は笑顔でそれを受け取る。

 

「ありがとう、凪。」

「い、いえ。 お役に立てて良かったです。」

 

 

そう言って凪は、また隊の指揮へと戻っていった。

俺は凪から受け取ったタオルで額の汗を拭きながら、

 

(気のきく部下がいるっていいなー。)

 

などと、感慨に耽っていた。

 

 

 

また別の日。

 

「隊長。」

 

 

またまた別の日。

 

「隊長。」

 

 

またまたまーた別の日。

 

「隊長。」

 

 

 

 

今日は、サボり魔二人の監視ということで、真桜と沙和の警邏に同行中である。

 

「う~ん。」

 

しかし俺はといえば、そんな二人の監視よりも、別のことを考えてしまっていた。

 

「ん? 隊長どしたん、そんな声出して?」

「隊長が悩んでるなんて、珍しいのー。」

 

そんな俺を心配(?)した二人が、声をかけてくる。

 

「いや、なんというか。 あっ、でも二人なら・・・」

「「?」」

 

話そうかどうか迷ってる俺に、二人は首をひねる。

 

 

しばらく悩んでいたが、二人に相談することを決め、口を開く。

 

「いや、実は凪のことなんだけど。」

「凪ちゃん?」

「なんや、凪がどうかしたんか?」

 

凪という単語に、親友の二人は真剣な表情になる。

 

「凪って、俺に結構気を使ってくれてるんだけどさ。それが、なんというか過剰な気がするんだよ。」

「あー、確かに。凪ちゃんの、隊長に対する態度は特別なのー。」

「なんや、隊長。まさかそんな凪が、鬱陶しいとか、邪魔だとか思っとんのか?」

「えー、それはひどいの!」

 

俺の話を聞いた二人が、怒りの視線を俺へと向ける。

 

 

俺はそれを、慌てて否定する。

 

「ち、違うって。あんな可愛い子に気を使われて、嬉しいと思うことはあっても、その逆なんてありえないって。」

「じゃあ、何を悩んでん?」

「いや、だから逆にさ、そんな可愛い子が、なんで俺のことなんかをそんなに気遣ってくれてるのかなーって思ってさ。やっぱ、頼りなく見えるのかなー。」

「「えっ!?」」

 

俺が何故悩んでいるかを話すと、二人は信じられないものを見るような目で俺を見る。

 

「え、え~と、真桜さん、沙和さん。」

 

俺がそんな二人に恐る恐る声をかけると、二人は俺に背を向けしゃがみ込み、こそこそと話し始めた。

 

 

(信じられないの! 凪ちゃん、あんなに隊長好き好き光線出してるのに、全然気がついてないの!)

(そういえば、華琳様や秋蘭様から聞いた話やけど。 隊長、超がいくらついても足らへん位の朴念仁らしいで。)

(あー、だからあの時もー。)

(なんや、何か身に覚えあるん?)

(ん? ううん、な、なんでもないのー。)

(しっかし凪も、やっかいなんに惚れてもうたな。 ・・・まあ、ウチも人のことは言えんけど。)

(真桜ちゃん、何か言った?)

(あ、いや、特に大したことやあらへん、あははは。)

 

話している内容は聞こえない(てか、聞かないようにしてるけど)が、チラチラこちらを見られながら内緒話をされるのは、どうにも居心地が悪い。

てか、やっぱり俺に問題があるのか?

 

 

そんなことを考えていると、背後から最近聞きなれた声が聞こえてくる。

 

「隊長ー!」

 

凪である。

凪が、こちらに向かって走ってきていた。

 

「凪、どうかしたのか?」

「それはこちらの台詞です。定時になっても集合場所にいらっしゃらないので、様子を見に来たんです。」

「えっ、もうそんな時間? 悪い、うっかりしてた。」

 

どうやら、真桜や沙和たちと話している内に、集合時間を過ぎてしまっていたようだ。

 

(あー、こんなんだから、頼りないって思われるんだろうな。)

 

俺はそんな自分の不甲斐なさに、落ち込んでしまう。

 

 

「た、隊長?」

「ごめんな。こんな頼りないのが、凪の上司で。」

「な、何を言っているのですか!隊長は頼りなくなどありません!

 逆に、隊長からは多くのことを教えて頂き、頼りにしているくらいです。」

「ありがとうな、凪。」

「な、な、な、ななななな・・・」

(お世辞でも、そう言ってもらえるとやっぱり嬉しいもんだな。)

 

俺はそんなことを思いながら、凪の頭を撫でていた。

 

 

「た、たたた、隊長!」

「は、はい。」

 

すると凪がいきなり大声を出したので、俺はそれに気押され思わず直立してしまった。

 

「きょ、今日の昼餉は、お決まりでしょうか!」

「昼餉?」

「はい!」

 

何事かと思ったが、凪が聞いてきたのは昼食についてだった。

 

 

まあいつも通りなら、適当に空いてる食堂に行って、そこで済ますことが多い。

今日もそのつもりだったから、特に決めてはいないと言える。

 

「いや、特にそういうのはないけど。」

「本当ですか!」

「あ、ああ。」

 

さっきから、凪の迫力が凄いんだよな。

 

 

「で、でしたら。今日、自分お弁当を作ってきたので、よ、よよよ、よかったら、隊長に食べていた頂けると。」

「え、いいのか? それは嬉しいな、是非とも頂くよ。」

「は、はい! でしたら、北門を抜けた先に綺麗な小川がありますので、そこで食事にしませんか。

 先に行っていますので、隊への指示が終わったら、真桜達と一緒に来て下さい。」

 

そこまで言いきって、凪は走り去っていく。

最近、こんな光景をよく見る気がするななどと考える。

ま、それはさておき、凪をあまり待たせても悪いので、兵達に今後の指示をだしておく。

そして俺は、さっきまでの悩みもすっかり忘れて、凪の待つ小川へと向かうのであった。

 

 

 

 

そして俺は真桜と沙和を引き連れ、約束の小川まで来た。

そこには既に凪が待っており、様々な点心が広げられていた。

 

「お、うっまそー。」

「そんな、華琳様や流琉様に比べたら、私の料理など。」

「そこと比べたら、大陸のほとんどの人間が、そう言うやろ。」

「あの二人は、規格外なのー。」

「ま、確かにあの二人はそうかもな。 それに、凪のも十分美味しそうだと思うぞ、俺は。」

「あ、ありがとうございます。」

 

料理を褒められて嬉しかったのか、凪は顔を赤くして俯いてしまった。

 

 

「そんなことより、沙和お腹ぺこぺこなのー。」

「ウチもや。」

「しかたないな。 それじゃ、凪、頂いてもいいかな?」

「はい、どうぞ。」

「それじゃ」

「「「いただきます(なの)。」」」

 

そして俺達は、凪の美味しい弁当に舌鼓をうったのだ。

 

 

「た、隊長、よろしかったらこれも。」

 

弁当も一通り食べ終わると、凪が別の包みを持ってやってきた。

 

「これは?」

「あ、あの、隊長に食べて欲しくて、これは別にしていたのです。」

「俺に?」

「はい。」

 

ジ~ン

 

(俺は、本当に良い部下を持った。)

 

そんなことを思い、俺は目頭が熱くなるのを感じていた。

 

 

「隊長?」

「ああ、悪い。 それじゃ、ありがたく頂くよ。」

 

そういって包みを開くと、中にはほかとは違った饅頭が入っていた。

赤いのだ。

皮の部分に何かを練り込んであるのか、それはもう真っ赤だ。

先程食べた料理の美味さからか、俺は特に深く考えず、まあ食べてみればわかるだろうと思い、その内の一つを口へと運ぶ。

 

 

「ん? あー、隊長!」

「それはあかん!」

「へ?」

 

真桜と沙和がこちらに気付き、俺へと警告する。

しかしそんな警告も空しく、赤い饅頭は俺の口の中へと入る。

 

 

モグモグモグモグ

 

うん、食感からどうやら肉まんみたいなものだな。

味付けも少し変わってるけど、美味しい。

 

モグモグ、モグ?

 

しかし、しばらく咀嚼していると、違和感が俺を襲う。

今日は涼しいくらいなのに、体中から汗が噴き出してくる。

饅頭の味も、だんだんとしなくなってきた。

俺は、そのままその饅頭を飲み込む。

 

モグモグ、ゴクン・・・・・!!!

 

 

「くぁwsでfrgthyじゅいこl;p」

 

突然、それはやってきた。

 

口の中だけでなく、食道から胃まで、全てが焼かれた様に熱く痛い。

今、火を吹けと言われれば、楽勝で出来てしまいそうだ。

全身は、俺の意思とは無関係に震え、顔色も白くなっているだろうと実感できる。

流れる汗も、全てが冷や汗へと変わってしまった。

俺は口元を抑え、俯くしかなかった。

 

 

「隊長?」

 

どうやら凪は俺の真正面にいたため、、俯いた俺の顔色は見えなかったらしい。

しかし、横の方にいた真桜と沙和にはばっちり見えており、心配そうにこっちを見ている。

 

「隊長、どうかされたのですか?」

 

頭の上から、凪の心配する声が聞こえてくる。

まずい、このままじゃ凪に気付かれる。

しかし、今顔をあげてしまえば、この蒼白の顔と止まらない汗でばれる。

なら!

 

 

「北郷流忍術『仏ノ座(ほとけのざ)』 」

 

「隊長?」

「いやー、あまりに美味しくて噛みしめていたんだよ。」

 

俺はいつもと変わらぬ笑顔で、凪に向き合う。

それを見ていた真桜と沙和は、びっくりした顔で俺を見る。

 

「そ、そうですか、喜んでもらえて良かったです♪」

 

どうやら、凪のほうもなんとか誤魔化せたみたいだ。

 

 

俺は危機を脱せことにほっとしていたが、これはあくまで序章にしか過ぎなかった。

 

「宜しければ、まだありますのでどうぞ。」

「え?」

 

そういって凪は、包みに残っていた饅頭を差し出す。

 

(や、やばい。1個であの破壊力、それが後数個だと。も、もつのか?)

 

俺がそれに手を出そうか戸惑っていると。

 

「やっぱり、隊長のお口には合いませんよね。」

 

凪がそんなことを言って、捨てられた子犬のようにシュンとなってしまった。

それを見て俺は、覚悟を決める。

 

 

「いただきます。」

 

残った饅頭を手に持つと、ものすごい勢いで口へと押し込む。

『仏ノ座』を使っているものの、それを上回るダメージのため、再び顔は白くなり、汗も噴き出してくる。

全身が痙攣しだし、なんだか意識も遠くなってきた気がする。

それでも俺は最後の力を振り絞り、全ての饅頭を胃の中へと押し込んだ。

 

「た、隊長?」

「ふぅー。 う、美味かったぞ、な、ぎ・・・」

 

バタンッ!

 

「隊長、隊長ー!!」

「あかん、沙和、水や!」

「わかったのー。」

 

そこで、俺の意識は途切れた。

 

 

 

 

【side 凪】

 

今日は、最悪な日だ。

真桜や沙和から助言をもらい、隊長に料理を作ってあげてはどうかと言われた。

さすがに、二人きりというのは難易度が高すぎるので、二人にも一緒にいてもらうことにした。

 

二人が言うには、私は皆より少しばかり辛党らしい。

だからお弁当は、二人でも食べられる程度のもの、ということになったのだ。

しかし、やはり隊長に食べて頂くからには、自分が美味しいと思うものを食べて頂きたい。

だから私は、皆で食べるものとは別に、隊長用に特製の饅頭を作ってみたのだが、その結果がこれだ。

隊長は、そんな私なんかの料理を無理に食べて下さり、気を失ってしまった。

 

 

午後の警邏の方は、真桜と沙和が受け持ってくれるというので、私は隊長の看病をすることになった。

隊長も、初めこそうなされていたが、今は少し落ち着いてきたようだ。

 

あれほど二人に言われたというのに、浮かれて暴走した結果がこれだ。

今日ほど、自分を嫌になったことはない。

きっと隊長も、こんな私に愛想を尽かされたことだろう。

例えそうなったとしても、今まで通り隊長を支えていこう。

隊長は迷惑かもしれないが、せめて、それだけでも・・・

 

 

「う、うーん。」

 

そんなことを考えていると、隊長が気付かれたようで、目を覚ました。

 

「あれ、俺は一体?」

「気を失って、しばらく眠っていました。」

「そうか。 ・・・って、凪!?こ、この体勢は。」

「私のせいでこんなことになってしまったので、少しでも痛くない様にと。」

 

そう今私は、隊長の頭を自分の太ももの上に乗せている、つまり膝枕の状態だ。

 

 

「ご、ごめん、すぐにどく、から。」

「いきなり起きると危ないです。しばらくは、このままでいて下さい。」

「う、わかった。」

 

いきなり起きたせいか、隊長はふらついており、私はなんとか説得して隊長を元の位置へと戻す。

しかし隊長は、先程のことをまだ怒っているのか、私に背を向けこちらを見てはくれない。

まあ、当然といえば当然か。

あんな無礼なことをしてしまったのだ、こういう態度をとられてもしかたないし、その覚悟はしていた。

 

だから、せめて・・・

 

 

「申し訳ありません、隊長。」

「え?」

 

私がそう言うと、隊長がこちらを振り返る。

 

「なんで、謝るんだ?」

「私があんなものを食べさせてせいで、隊長をこんな目にあわせてしまったからです。

 少しでも、隊長に喜んで頂こうとしたのですが、逆にこんなことに。

 自分は、隊長の部下失格です。どのような叱責も、甘んじて受け入れるつもりです。」

 

私は言いたいことを言い終え、隊長からの言葉を待った。

 

 

しかし隊長からの言葉は、私の想像とは異なるものだった。

 

「凪は、部下失格なんかじゃないぞ。」

「え?」

 

隊長の言葉に驚き、思わず私は隊長を見つめてしまった。

 

「ま、まあ、確かにさっきの料理は俺には辛すぎたけど、凪は俺のためを思って作ってくれたんだろ?」

「はい。」

「だったら、お礼を言うことはあっても、怒るなんてするはずないだろ。

 むしろごめんな、俺が気絶なんかしちまったせいで、凪をこんなに思い詰めさせて。」

「隊長。 もったいない、お言葉です。」

 

そんな隊長の優しさに、私は目元が潤んでしまった。

 

 

「まあそれに、こうして凪の膝枕を堪能できたんだ、役得だよ。」

 

そう言って隊長は、私に笑顔を向ける。

 

「そ、そんな、私みたいな無骨者の膝枕など。もっと、女性らしい者の膝枕の方が」

「何言ってるんだ!!」

 

私が隊長の言葉を否定することを言うと、隊長はいきなり大声を出して怒鳴った。

 

「凪は、とても可愛らしい女の子だ!

 膝だって、柔らかくて気持ちいいし、女の子特有の良い匂いもするし、それに」

「わ、わかりました、隊長。わかりましたから、それ以上は言わないで下さい。 は、恥ずかしいです。」

「ん?まあ、わかってくれればいいんだけど。」

 

隊長は、ものすごい勢いで私を誉めたてる。

そのあまりの褒めっぷりに、私は恥ずかしくなってしまい、なんとか隊長を止める。

そんな隊長はまだ言い足りないのか、少し不満そうな顔をされていた。

だけど隊長が、私のことをそんな風に見ていてくれたなんて、なんだか嬉しい♪

 

 

「ふあ~。」

 

すると隊長が、大きなあくびをする。

 

「隊長、眠いのですか?」

「なんだか、凪に膝枕してもらってたら、だんだんと眠気が、ふぁ~。」

 

私の質問に答えながらも、再び隊長は大きなあくびをする。

 

「よかったら、少しお休みください。まだふらついてましたし、仕事の方は真桜と沙和が代わりをしてくれています。」

「そうなのか? じゃあ、悪い、けど、少し、ねむ、る、わ・・・」

「隊長?」

「す~、す~」

 

そう言い終わるや否や、隊長は静かな寝息をたてて眠ってしまった。

 

 

私はそんな隊長の寝顔を見ながら、改めて隊長の優しさを感じていた。

 

「隊長、ありがとうございます。」

「す~す~」

 

お礼を言うが、もちろん返事はなく、規則正しい寝息だけが返ってくる。

それを確認すると、私は身体を屈め、隊長の顔へと近づく。

 

チュッ

 

「んっ、ムニャムニャ」

「お慕いしています、隊長。」

 

真っ赤になった私の顔を、小川から吹く優しい風が撫でていく。

そんなある日の、昼下がりの出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

sei 「そんなわけで第17話、三羽烏の拠点パートいかがだったでしょうか?

   前書きにも書きましたが、好感度がほぼMAXですね。

   まあ私の力では、だんだん惚れていくとかいう細かい描写ができないので、これで勘弁して下さい。

 

   そして今回、今までで一番たくさん書きました。

   こんなに書く予定じゃなかったのに、3人分の拠点って恐ろしいですね。

   おかげで忙しさに拍車がかかって、燃え尽きそうになりましたよ。

 

   さて今回のゲストですが、特に今回の話とは関係ないですが、この方に来ていただきました、どうぞ!」

 

桃香「こんにちは、今回は私がゲストですよ。」

 

sei 「今回のゲストは、蜀の王様であり、一部では恋姫界一の腹黒として有名な桃香さんでーす。」

 

桃香「あはは、ひどいなーsei さん。私、腹黒なんかじゃないですよ。」

 

sei 「まあ、恋姫本編ではそういう描写は少ないですけど、」

 

桃香「(ずいっ)そうだよね、どうして腹黒なんてことになってるの?」

 

sei 「え、あの、他のSSなんかでそういった書かれ方が多くてというか、あの、近いんですが。」

 

桃香「(ニコニコ)それは、sei さんもそう思ってるのかな?」

 

sei 「え、えーと・・・」

 

桃香「(ゴゴゴゴゴッ)どうなのかな?」

 

sei 「ひぃー。 じ、自分は、まったくそんなこと思ってないっす。

   桃香さんの魅力を理解してない、一部の暴徒が騒いでるだけだと思います、はい。」

 

桃香「良かった♪ もしsei さんがそんなこと思ってたら、私、sei さんのこと・・・」

 

sei 「私のことを?」

 

桃香「・・・・・・・・ふふっ、気にしないで。 さあ、話を進めよう。」

 

sei 「・・・はい。(超こえーよ。ある意味、今までのゲストの中で、一番こえーよ。)」

 

 

桃香「なんか今回も、ご主人様が忍術使ってたけど、あれって何なの?」

 

sei 「ああ、『仏ノ座(ほとけのざ)』 のことですね。

   あれは自分の体内の気を使って、自分の意思で調整できない血管・汗腺・内臓などを操作する技です。

   以前黄巾党との戦いの時に、汗の量を調節したのも、この技です。」

 

桃香「ふーん。でも、そんなすごい技を、とってもくだらない所で使ってたけど、あれっていいの?」

 

sei 「まあ、あれもあれでとっても大事な場面だし、一刀なら迷わず使うでしょ。」

 

桃香「確かに、ご主人様らしいっていえば、ご主人様らしいね。」

 

sei 「ちなみに、調整できるといっても少しです。

   今回のように、ダメージのデカすぎるものでは、さすがにその効果も期待できません。」

 

桃香「凪ちゃんの料理は、天元突破してるからね。 さすがに、ご主人様でも無理だったね。」

 

 

桃香「次にコメントっていうか、ネタを提供してくれたことについてだね。」

 

sei 「はい。まずはネタを提供してくれた皆様、ありがとうございます。

   色々参考にさせてもらったおかげで、なんとか書くことができました。」

 

桃香「そうだね。 ほんとにその前までは、まったくネタが浮かんでなかったもんね。」

 

sei 「まったくです。特に真桜や沙和なんか、ギャグばっかで、どうやってラブラブにしようか必死でしたね。」

 

桃香「今後の話は大丈夫なの?」

 

sei 「はい、本編の方『は』考えてあるので、問題なしです!」

 

桃香「は?」

 

sei 「は」

 

桃香「・・・・・拠点『は』?」

 

sei 「は~~?」

 

桃香「・・・・・sei さんは、一回自分の行いを見つめ直した方がいいと思うよ。」

 

sei 「ええと、善処します。」

 

 

桃香「さて、今回はこんな所かな。」

 

sei 「そうですね、ちなみに次回予告ですが、『ついに黄巾党のアジトが判明し、天和達を助けに向かう一刀達一行。

そしてその道中、一刀達はある者たちと遭遇することに。』って内容です。」

 

桃香「そのある者たちって、私達のことだよね?」

 

sei 「・・・・・・・・・」

 

桃香「全然関係ないこの話に呼ばれたのも、そのためだよね?」

 

sei 「・・・・・・・・・」

 

桃香「魏のメンバーでもないし、以前出てきた訳でもないから、それしか考えられないよね。」

 

sei 「それではみなさん、また次回お会いしましょう。」

 

桃香「えっ、こんな終わり方でいいの!」

 

 

 


 
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