No.500114

[TOVS/ユリファラ]手切れ金

ユーリ・ファラ本編。ほのぼのSSです。
「オレはお前にシグルスの相棒として雇われている身だぜ。
その苦労を泡にするんだ、当たり前だろ?」

2012-10-25 11:03:52 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1466   閲覧ユーザー数:1456

手切れ金

 

「はあ…」

「どうした、ファラ」

 

いつも明るい顔をしている相棒(パートナー)が珍しく落ち込んでいる。これはどうしたことかとユーリは眉をひそめた。

 

「あのね、ユーリ。わたし、ちゃんとユーリの役に立ってるかなあ」

「これはまた、いきなりやぶから棒だな」

 

ファラとユーリは戦闘を終え休憩を取ることにした。適当に昼を取った後、彼らは草原に座って和み、互いに他愛も無い話をしながら 空を流れ行く雲を互いに見つめて暇を持て余す。

ファラはいきなり話を相棒に振ったことを後悔するが、ユーリに悟られたくなくて、それを誤魔化すように野に咲く名も無い花を自分の指で弄くる。が、何も言わない彼女にしびれを切らしたユーリは言って見ろと促す。ファラはそれに戸惑ったが、しばらくすると意を決して話し始めた。

 

「えっとね。ユーリは剣士で、わたしは格闘家じゃない。けどそれって、攻撃面では安心でも隙がありすぎるというか」

「…言っている意味が分からないんだが」

 

ユーリは単刀直入で素直なファラらしからぬ言い方に、思わず首をかしげた。

 

「ほら、前にマオと戦ったじゃない?」

「そんなこともあったな、懐かしい」

「もう、ユーリ!」

 

ファラは以前戦ったシグルスの事を既に忘れかけているユーリの頭を、 軽く叩いた。

 

「でね。あの時痛感しだんた。わたしがカイウスに攻撃してて、ユーリを援護してた時にマオの術が一気に来て、それでわたしたちピンチになって」

「ああ、なるほどな」

 

閃いたユーリは指を鳴らし、思わせぶりにその指をそのままファラへと向ける。

 

「つまりおまえはこう考えた。自分が術を使う事が出来たら良かったのに、…ってな。図星だろ」

「…うん」

 

ファラは悩んでいた。自分はユーリと同じタイプだから一人は術の方がより強かったのではないか。

 

(…それでファラの奴、落ち込んでいたのか)

 

くだらないと思いつつも、ユーリはファラの顔が真剣そのものなので、顔に出さずにそのまま彼女の話を聞き続けた。

 

「はあ…もう少し勉強しておけばよかったなあ」

「あのな、勉強すれば覚えられるものなのか?術って」

「私の知り合いなんて術士だけど、頑張ってきちんといい大学へ行ったんだよ」

 

ファラは空を眺めた。どうやら知り合いの事でも考えているのだろうか? ユーリはファラの表情を伺おうとしたが、やめた。今知っているファラ以外の事を知っても、彼にとっては今は意味がなかった。

 

「けど、オレは別に気にしないけどな。良いところも有るしよ」

「どんな?」

「色々。 例えばオレが攻撃している間に囲んで援護してくれるとか、回復が物凄く早かったりとか、それ以前にオレの指示に従ってくれるとか」

「そう?そんなの相棒だったら当たり前じゃない?」

 

今度はファラが首をかしげた。自分がやっていることが特別とは思えない。 空気を読み、相手のしたいことをする。それは今まで自分が自身の田舎でやってきた、ごく当たり前の事だったからだ。

 

「それでもオレはお前の事、高く評価しているんだがな。まあいい、自信が無いなら降りろよ。ただし」

 

ユーリは真剣な顔になり、いきなりファラに手を差し出す。その顔があまりに怖かったので、彼女は思わず身を引いてしまった。

 

「な、なに?」

「違約金だよ」

「え、ええ!?」

「オレはお前にシグルスの相棒として雇われている身だぜ。

その苦労を泡にするんだ、当たり前だろ?受け取った報酬分でいい。これでどうだ?」

「そんな、待ってよ!」

 

ファラはうーんと頭をうならせた。

 

「あれ、二年働いてやっと貯めたものなのに…」

「おう、じゃこれから二年かけてきっちり働けよ」

「ひ、酷いよユーリ!!」

「その間ずっと相棒でいてやっから」

「え?」

「…おまえも鈍いな、案外」

 

ふう、とため息を吐いた。そのままファラに向けていた指を彼女の頭に乗せる。仕方がねえな、 と呆れながら。

 

「そんな面倒な事、お前だって嫌だろ?」

「うーん、 でもユーリがそうしたいんだったら働くよ」

「馬鹿かおまえ。…んなの冗談だっての」

「そ、そうなの?」

 

ファラが至って真面目に語りだすので、ユーリは思わず吹いてしまった。彼女は普段は気が利く少女であったが、自分の事となるととたんに鈍感になるらしい。このように冗談めいた事でもすぐに本気にしてしまう。

 

(いつもなら、またまたあ!…とか言ってすぐに茶化すくせにな)

 

「オレたちはようやくお互いに目標が定まって、軌道に乗ってきた。今まで無事に順調でいられたのはそのオレたちの息が合っていたからだろ? …それともおまえは今更パートナーを変える勇気があるのか? 一からまた始めないといけないんだぜ?」

「あ、そっか。…それも大変かも?」

「よし、解決だな」

 

満足したかのように、ユーリはファラの頭を撫で始めた。ファラは一度言えばすぐに理解してくれる。そんな素直な部分にユーリは何度も救われてきたのだ。今更金云々で手切れになるなど、彼には考えられなかった。

自分の「下町を救いたい」願いとファラの「田舎を救いたい」気持ちは今や「ダインを救う」という共通点になっている。だからこそ、ゴールを目指せるのだ。 相棒はファラとでないと意味が無い。

 

「ここまで来たら楽しくやろうぜ、ファラ」

「いいの?」

「いいに決まってるだろ?」

 

自分の照れた顔を何となく見られるのが大人として恥ずかしくて、ユーリはそのまま大きくファラの頭を撫で続ける。その動作が急に速く、荒くなったのでたまらずファラは声を上げた。

 

「もうっ!」

「おまえの髪ってごわごわ」

「そう思うんだったら撫でないでよう!」

 

もうすぐ決着がつく。ユーリは流れ行く雲をじっと見つめていた。


 
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