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魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第二十六話 久遠

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2012-10-21 22:43:28 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:41199   閲覧ユーザー数:36751

 ~~第三者視点~~

 

 薄暗い一室。その部屋の中には沢山のコードがあり、コードの先には3つのポッドが存在していた。

 ポッドの中に浮かぶのは脳味噌。

 

 「っ!!」

 

 その中の一つ、左側のポッドに入っている脳味噌が何かに反応する。

 

 「どうした?」

 

 問うのは右側のポッドに入っている脳味噌。

 

 「…『駒』に付けていた『枷』が外れた」

 

 「っ!?まさか、術式を解いたというのか!?」

 

 左側の脳味噌の言葉にすかさず聞き返す右側の脳味噌。

 

 「それは有り得ない。あの術式を解除する方法を知っている者はもはや存在しない。我々を除いてな」

 

 「……確かに。ならば勘違いではないのか?」

 

 「勘違いではない。確かに術式は解けている」

 

 「あの術式を『駒』が解けるとは思えないな。ならば考えられる可能性は一つ…」

 

 「…『駒』が死んだか」

 

 左側と右側の脳味噌の会話を聞いていただけの真ん中のポッドに入っている脳味噌が声を出す。

 

 「いずれ使い捨てるつもりだったとはいえこの時期に死んでしまうとは…」

 

 「全くもって使えない『駒』だな」

 

 「だがどうする?『駒』を再び複製するとなるとかなりの時間を要するぞ」

 

 「別の者を新たな『駒』として宛がうか?今の所使えそうな者と言えば…レジアス・ゲイズぐらいか?」

 

 「奴にはまだ『正義』側で動いて貰わねば困る。『悪』側に回すのは得策ではない」

 

 「それはそうだが…」

 

 「…………『オリジナル』を目覚めさせるか」

 

 「「っ!!?」」

 

 真ん中のポッドの発言に左右の脳は反応する。

 

 「今の所都合が良い『駒』といえば『オリジナル』ぐらいであろう」

 

 「だが『オリジナル』を使うのは危険過ぎやしないか?」

 

 「左様。奴は我等に牙を剥ける可能性があるぞ」

 

 「ならば束縛すれば良い。『駒』と同じ術式は使えぬが他にも我等の言いなりになる『枷』を付ける術はあるだろう?」

 

 「それはそうだが…」

 

 「同時に『駒』の複製も行い、新たな『駒』が完成すれば再び『オリジナル』を封印すれば良い」

 

 「「……………………」」

 

 「不満か?」

 

 「いや…確かに現状出来るのはそれしか思い当らぬ」

 

 「『オリジナル』を使うのは不本意ではあるが…やむを得ぬな」

 

 真ん中の脳味噌の提案に渋々ながらも左右の脳味噌が納得する。

 こうしてポッドの脳味噌…否、最高評議会は新たな『駒』を使い、自分達の『正義』を世界に示そうとするのだった。

 

 

 

 ~~第三者視点終了~~

 

 季節はすでに夏。今日から制服も半袖へと衣替えが始まる。

 今日は1時間目が体育。しかも授業の内容は水泳だったりする。

 

 「…つまりメガーヌ、ルーテシアの親子は勇紀の家に住んでいるのかい?」

 

 「まあな」

 

 俺と亮太はプールサイドの端っこでこの土日にあった事を話していた。

 

 「それにスカリエッティが原作とはかなり違う立ち位置みたいだね。原作では評議会を利用していたキャラなのにこの世界では評議会に束縛されていたなんて」

 

 「まあそこは俺が何とかしたけどな」

 

 「それにしても何故勇紀はルールブレイカー持ってるんだい?あれはメディアの伝説が具現化したのだから『原典』という定義には当てはまらないと思うんだけど…」

 

 「俺が知るかよ」

 

 ルールブレイカーだけじゃなくエクスカリバーやゲイボルクなんかも原典とは別に入ってたし。

 

 「これは神様に貰ったレアスキルだからな。何故あるかなんて神様に聞かなきゃ分からん」

 

 「ご都合主義だね」

 

 「…言うな。それに今回はそのご都合主義のおかげでスカリエッティ助けられたんだし」

 

 「それもそうだね」

 

 「それより亮太、俺も聞きたいんだが…」

 

 「何だい?」

 

 「何でお前、泳げんの(・・・・)?」

 

 そう、さっき一回俺は25メートルをクロールで泳いでいたのだが俺が泳ぎ切った後に、俺の後ろに並んでいた亮太も普通にプールに飛び込み泳いでいた。

 悪魔の実の能力者はカナヅチになる筈なのに。

 

 「それは僕にも分からないよ。昔家族で市民プールに行った時、僕は自分が能力者だって事忘れて普通にプールに入ったんだけど溺れなかったんだよ」

 

 「……レアスキル扱いだからか?」

 

 「さあ?そういうデメリットが無いのも勇紀が真名解放出来るみたいに神様のせいだったりしてね」

 

 「……否定出来ないんだが」

 

 あのうっかりが日常茶飯事な神様なら有り得そうだし。

 

 「まあ、いいじゃないか。細かい事気にしてもしょうがないし」

 

 細かいのか?

 

 「それよりあれ…」

 

 亮太が指を差す先にはレヴィが泳いでいた。

 つか速いなオイ。他の女子誰も追いつけないじゃねえか。

 アイツ本当に運動神経は群を抜いてるな。

 

 「あっという間に泳ぎ切ったね」

 

 「ああ」

 

 泳ぎ切ってプールサイドに上がるレヴィ。

 

 「よーし!もう一回泳ぐぞー!!」

 

 スタートの方に戻り列の最後尾に並び直す。

 これでアイツ4回目じゃなかったっけ?

 既に合計100メートルは泳いでる。にも関わらず元気なレヴィ。体力あるなー。

 

 「あっ、シュテルさんとディアーチェさんも泳ぐみたいだ」

 

 「あの二人も運動神経は良い方だからな。心配は無いな」

 

 むしろ心配なのは

 

 「うう~…」

 

 プールに入ってから全く動かないユーリ。

 現在プールは泳ぐ人と練習する人のために分けられているが練習側にいるのはユーリだけだったりする。

 

 「ユーリさんは泳げないの?」

 

 「運動全般が苦手だからな。泳ぎ始めた瞬間に溺れるだろうな」

 

 「じゃあ教えてあげれば?」

 

 「そうだな。ユーリが泳げるようにちょっと指導してきますか。亮太はどうするよ?」

 

 「僕はもうひと泳ぎしてこようかな」

 

 「そっか、んじゃ」

 

 俺は亮太と別れユーリの側に近寄る。

 

 「ユーリ、泳がないのか?」

 

 「…それ、私が泳げないって知ってて言ってますよね?」

 

 『むうう』と唸り俺を睨むユーリに俺は苦笑する。

 

 「まあ知ってて聞いたけどな。それよりユーリが良ければ泳ぎを教えてやるけど?」

 

 「えっ!?ユウキがですか!?」

 

 「俺以外に誰が…って他にも泳げる奴はいるな」

 

 ていうかクラスで泳げないのはユーリだけだ。

 

 「誰かほかの奴に頼むか?シュテルやディアーチェでもいいし、レヴィは…無理か。アイツが指導役をこなせるとは思えんし。後は…」

 

 「いえ!!ユウキがいいです!!ユウキでいいです!!」

 

 声を張り上げて俺を指名するユーリ。

 他のクラスメイトは何事かとこっちを向く。

 

 「ん?俺でホントに良いのか?」

 

 「はい!!」

 

 力強く頷くユーリ。

 なら俺が教えますか。

 

 ザブンッ

 

 俺はプールに入り

 

 「とりあえずバタ足から始めるか。ユーリ、まずはプールサイドを掴んで」

 

 「は、はい」

 

 ユーリは俺に言われた事を実行する。

 

 「で、身体を水平方向になる様に浮かべて」

 

 「こう…ですか?」

 

 少しずつ体を浮かべていく。

 体が水平に浮かんだのを確認して

 

 「後は足を動かして泳ぐだけなんだけどこの時重要なのは膝から下だけを動かすんじゃなくて足全体を動かすつもりで、大きく足で水を下に押すようにやってみ。それと顔は正面、進行方向を向くんじゃなくてプールの底を見るように」

 

 「わ、分かりました」

 

 ユーリが水面に顔をつけ、足を動かし始める。

 バシャバシャと足が水面を蹴り水飛沫を上げる。

 

 「良い感じ良い感じ」

 

 「あぷ…あぷ…」

 

 時折顔を上げて息継ぎをしながら必死に練習するユーリ。

 練習を始めて5分程経つ頃にはフォームも多少はマシになってきた。

 

 「もういいぞユーリ」

 

 「は…はい」

 

 ユーリはバタ足を止めて身体の向きを戻す。

 『ハアハア』と呼吸が荒く落ち着くまでしばらく待つ。

 

 「んじゃ次は実際に端から端まで泳いでみるか」

 

 「ええっ!?」

 

 「何故そんなに驚く?」

 

 「む、無理です!絶対に途中で沈んで溺れちゃいますよ」

 

 「いや、さっきのフォームで泳げば絶対いけるんだが…」

 

 「無理です無理です!!」

 

 ユーリは首を左右に振って否定する。

 

 「じゃあ俺がユーリの手を掴んで引っ張ってやるから泳いでみ?」

 

 「ふえっ!?」

 

 「あっ!それよりもビート板使った方がいいか?」

 

 「いえ!!ユウキが私の手を引いて下さい!!」

 

 ビート板を取りに行こうとしたらユーリに左手を掴まれた。

 離すまいかというぐらいに力強く握られる。…痛い。

 

 「分かった。とりあえず手を離そうユーリさん。マジ痛いから」

 

 「あっ!ご、ごめんなさい」

 

 謝る割には手を離してくれない。その代わりに左手を握る力を緩めてくれる。

 

 「気にすんな。とりあえずプールの端に行くぞ」

 

 「はい」

 

 俺とユーリは手を繋いでプールの端まで行く。

 

 「じゃあ始めるぞ」

 

 「分かりました。……絶対に手を離さないで下さいね」

 

 「大丈夫だって」

 

 『絶対ですよ!』と再確認してからユーリは泳ぎ始める。

 俺はユーリの手を離さず、ユーリの泳ぐ速度に合わせて進む。

 

 「あぷ…あぷ…」

 

 バシャバシャ。

 息継ぎを頻繁に入れながら泳ぐ。

 足も水中に沈む事無く体の向きを水平に保ったまま。顔を水につけている時もちゃんとプールの底を見ているようだ。意外に前に進む速度は速い。アドバイスした事をちゃんと実践出来ていて何よりだ。

 

 「ユーリ、もう半分でゴールだ。そのフォーム維持して頑張れ」

 

 「あぷ…あぷ…《わ、分かりました》」

 

 泳いでいるから喋れないので念話で返事してきたユーリ。

 

 「もうちょいもうちょい」

 

 段々ゴールに近付いているがユーリの速度も少し落ちてきた。

 少しずつ疲れ始めてるな。

 

 「あぷ…あぷ…」

 

 水面を蹴る勢いが弱くなってきている。

 それでも必死に前へ進もうと頑張るユーリ。

 そして…

 

 「ほい、ゴールだ。お疲れさんユーリ」

 

 「ぷはっ!…ハア…ハア…」

 

 ユーリは25メートルを泳ぎ切った。

 

 「どうだ?泳ぎ切れた感想は?」

 

 「ほ…本当に…泳ぎ切れた…んですか?」

 

 ユーリはハアハアと息を切らせ途切れ途切れになりながらも言葉を発す。

 

 「ああ」

 

 後ろを振り返り確認するユーリ。

 そして泳ぎ切ったと分かったユーリは

 

 「や、やりました!私、泳げました!」

 

 ギュッ

 

 喜んで俺に抱き着いてくるユーリ。

 

 「うん、おめでとう」

 

 そんなユーリの頭を撫でてやる。

 

 「あっ!?……ふにゅ~///」

 

 気持ち良さそうに目を細めるユーリ。

 ユーリをしばらく撫でた後、俺はプールから上がる。

 

 「ユウキ、何処へ行くのですか?(う~…もう少し撫でてほしいんですけど)」

 

 「休憩」

 

 「あっ、じゃあ私も休憩します(もう少しユウキと一緒にいたいです)」

 

 ユーリもプールから上がり俺と一緒にプールサイドに腰を下ろす。

 

 「それにしても水泳の授業内容って結構自由にしていいんですね?こうやって休憩してても何も言われませんし」

 

 「今日は最初の水泳だからなあ。皆がどれぐらい泳げるか見てるんだろ?後、担任(ロリコン)休みだし」

 

 それは朝のSHRで知った情報だった。あの担任(ロリコン)が風邪を引いたらしく今日は別の先生が俺達のクラスを受け持っている。去年担任(ロリコン)が受け持った水泳は授業にすらならず毎回自習も同然の授業内容だったとか。

 

 「担任(ロリコン)がいないと俺は学校で平和に過ごせる」

 

 「毎日睨まれてますもんね」

 

 「お前等と一緒にいるのが主な理由だしな。もし担任(ロリコン)が今ここにいたら俺はプールの中で鬼ごっこしてる羽目になる」

 

 担任(ロリコン)の体力は底無しだからな。授業が終わるまでひたすら追いかけてくるだろう。

 

 「…尤も今では亮太もその対象になりつつあるけどな」

 

 俺はその本人の方を見る。

 泳いでいる亮太にクラスの女子から黄色い声援が飛び、クラスの男子は殺意を膨らませる。

 

 「おかげで俺の心労が多少は軽減されてる」

 

 「…ユウキは亮太と妙に仲が良いですよね?」

 

 「ん?まあ気が合うからな」

 

 「でも直博や誠悟よりも仲良さそうですけど?何だか色々話せる間柄みたいな感じです」

 

 確かに色々話せるな。お互い転生者だし。

 

 「何だか悔しいです」

 

 『むうう』と唸り亮太を睨むユーリ。

 

 「何が悔しいのか分からんが…喧嘩だけはするなよ?」

 

 「…善処します」

 

 『善処』ですか…。『しない』とは断言しないのですね。

 しかし亮太の奴も速いな。男子ではダントツだ。

 あっという間にゴールしやがった。

 

 「ユウキよりも速いですね」

 

 「だな。直博なら亮太と良い勝負が出来るんじゃないか?」

 

 俺達と同学年の男子で一番速いのは直博だ。

 

 「私もあんな風に速く泳いでみたいです」

 

 「それは今後の努力次第だな。さっきだって25メートル泳げたんだから、やれば出来るさ」

 

 隣に座るユーリの頭を軽く撫でながら答える。

 

 「あっ…。はい、頑張りますね(また頭撫でてもらえました)///」

 

 二人で休憩しつつ喋っていたら

 

 「随分仲が良いですね」

 

 反対側から声が聞こえてきたのでそちらを向くとシュテルが立っていた。その傍らにはレヴィとディアーチェもいる。

 いつの間に来たんだ?それになんか三人共不機嫌そうだし。

 

 「どうしたんだ?泳いでたんじゃないのか?」

 

 「我等も休憩だ。流石に疲れ始めてきたからな」

 

 「で、ふとみたらユウとユーリがイチャイチャしてるのが見えたから邪魔しに来たんだ」

 

 イチャイチャって…。

 

 「してるよ!何でユーリの頭撫でてるのさ!」

 

 「何でって…ユーリが頑張って25メートル泳ぎ切ったし」

 

 「そうです!頑張った私へのご褒美なんです!//」

 

 別に撫でるぐらいなら…ねえ。

 

 「ご褒美ですか…そうですか」

 

 しかし三人の機嫌は直らない。

 

 「なら私も頑張ればご褒美は貰えるのですか?」

 

 「えっ!?そりゃ頑張れば労いはするよ。何する気かしらんけど」

 

 「分かりました。ではユウキが何か課題を出して下さい」

 

 「課題って…。まさかお前も何か欲しいのか?」

 

 「欲しいと言いますか…」

 

 さっきからチラチラと見てる。視線の先はユーリの頭を撫でている俺の手。

 

 「もしかして撫でてほしいのか?」

 

 シュテルはコクコクと首を縦に振る。

 

 「シュテるんだけズルい!ユウ、僕も僕も!」

 

 「わ、我も所望する//」

 

 ここぞとばかりにレヴィとディアーチェも『褒美くれ』と主張する。

 そんなに撫でてほしいのかねえ。

 

 「別に良いけど課題か…」

 

 三人の苦手なものとかについて考えてみる。

 レヴィは頭が悪いから勉強に関する事で良いだろう。でもシュテルとディアーチェは勉強、運動、家事とそれなりに出来るからなあ。

 うーん……。

 

 「…今は特に思い付かないな。後で課題の内容決めたら伝えるって事で良いか?」

 

 「「「構いません(オッケー)(構わん)」」」

 

 特に反対される事も無かった。三人に出す課題考えないとな。

 

 「ところで……」

 

 ディアーチェが口を開く。ジト目でこっち見ながら。

 

 「ユウキ、お前はいつまでユーリを撫でているつもりだ?」

 

 「……あ」

 

 言われて気が付いた。ずっとユーリの頭を撫でていた事に。

 俺はユーリの頭から手を離すが

 

 「ふみゃあ~~~……//////」

 

 ユーリは蕩けきった表情で精神がトリップしていた。

 それから授業が終わってもしばらくユーリが元に戻る事は無かった………。

 

 

 

 時間は進み、放課後…。

 

 「…今回はレヴィに合わせて全員勉強関係にするか」

 

 「ええっ!?」

 

 レヴィが大声を上げる。

 

 「何で驚くんだよ?」

 

 「それは難易度が高すぎるよユウ!別の条件にしようよ!!」

 

 「別の条件?」

 

 「うん。サッカーでハットトリック決めるとかボウリングでスコア200以上出すとかが良いと思うよ」

 

 「却下だ!」

 

 どっちもお前の得意なスポーツ関係じゃねえか。

 

 「今回は勉強で行く!これを変更するつもりは無い」

 

 「ヤダヤダ!絶対ヤダ!!」

 

 駄々をこねるレヴィ。

 

 「レヴィ、落ち着いて下さい」

 

 そんなレヴィをシュテルが宥める。

 

 「シュテるん達は良いよね!僕と違って頭も良いし」

 

 「やる前から諦めていたら結果なんて出せませんよ」

 

 「うう~、でも…」

 

 「ユウキ」

 

 シュテルが俺を呼ぶ。

 

 「勉強って言っても具体的には何をするんですか?」

 

 「勉強というよりテストの結果で褒美やるかどうか決めようと思う」

 

 「テストですか?」

 

 「ああ、来週の金曜日は国語、算数、理科、社会のテストがあるからな。そのテストで一定の点数以上取れたら褒美やるってのでどうだ?」

 

 世間一般で言う期末テストってやつだな。海小(ウチ)では基本的にその四教科しかテストは無いんだよなあ。前世の小学校では音楽や道徳なんかの授業でもテストはあったのに。まあ、勉強する教科が少なくて済むのは嬉しいけど。

 

 「成る程。分かりやすいですね」

 

 「それで、一体何点以上取れば良いのだ?」

 

 会話にディアーチェも加わってくる。

 

 「二人は各教科で80点以上取る事がノルマかなあ」

 

 シュテルとディアーチェは今回が初めて受けるテストだが、テスト前の復習さえ怠らなかったらこれぐらい取れる様な気がする。

 後はレヴィだが…

 

 「レヴィはどれか1つの教科で40点以上取る事が目標な」

 

 シュテルやディアーチェと違って1つの教科でいいんだから難易度はかなり低い筈。

 

 「良かったですねレヴィ。1つの教科で40点なら貴方にも達成出来ますよ」

 

 「……本当?」

 

 自分の事なのに何故他人に聞くんだレヴィ?

 

 「ええ、ですから最初から投げ出さずに頑張りましょうね」

 

 「分かったよシュテるん!僕、頑張ってみるよ!」

 

 シュテルに諭されやる気が出たらしいレヴィ。

 …これで少しは頭が良くなってくれると将来心配しなくて済むんだけどな。

 

 「あの~…」

 

 そこで今まで空気になっていたユーリが会話に割り込んでくる。

 

 「今回の課題に私が含まれていないのは何故なんでしょうか?」

 

 「ユーリは既にユウキに撫でてもらったじゃないですか」

 

 「そうだな。精神が飛んでいってしまう程長い時間撫でてもらったのだ」

 

 「そんな羨ましい事されたユーリは参加しちゃダメだからね」

 

 「……そういう事らしいからユーリは諦めてくれ」

 

 シュンと項垂れるユーリ。

 

 「じゃあ早く帰りましょうか。時間は待ってくれませんから」

 

 「そうだね!よーっし、やるぞーーー!!」

 

 「なら我は夕食の材料でも買いに行く」

 

 「私は…どうしたらいいのでしょうか?」

 

 「ユーリは翠屋でシュークリームでも買ってきて下さい」

 

 「シュテル…私何だかパシリ扱いされてる様な気がするんですけど?」

 

 「ユーリは今回のテストとは何の関係もありませんから。私達は翠屋に通う時間も勉強に回さないといけないので」

 

 「ユーリ、よろしくね」

 

 そう言ってシュテル、レヴィ、ディアーチェの三人は先に教室を後にする。

 俺とユーリは教室に取り残されたが

 

 「俺達も出るか」

 

 「…そうですね」

 

 三人の後を追う様にすぐさま教室を出るのだった………。

 

 

 

 「ユウキはこの後どうするのですか?」

 

 学校を出てすぐにユーリが聞いてきた。

 

 「八束神社に寄ってく」

 

 「神社に?何故ですか?」

 

 「『次のテストで三人が良い点取れますように』って祈っておこうかなと」

 

 「それは三人の努力次第では?」

 

 「まあ、そうなんだけど気分の問題かな」

 

 別に高校や大学の受験って訳じゃないからそんな事する必要は全く無いんだが。

 

 「なら『三人がテスト当日に体調を崩さない様に』って願えばいいのでは?」

 

 「それはいいな」

 

 ユーリの案に頷いて答える。いくら衛生面に気を遣っても当日に体調崩してしまっては元も子も無い。

 俺は途中でユーリと別れ、八束神社に向かった。

 歩いて10分弱。すぐに神社へ向かうための石段が見えてきた。

 石段を上り鳥居をくぐって

 

 「うーん、ここに来るのも初詣の時以来だなあ」

 

 約半年ぶりの神社と辺りを見渡す。

 初詣や縁日では人で溢れ返るこの神社も普段はほとんど人のいる気配が無い。

 俺は賽銭箱に小銭を何枚か入れ『三人が万全の状態でテストを受けられますように』と祈る。

 

 「…………よし、こんなもんでいいかな」

 

 俺は踵を返し家に帰ろうとした時、近くの草むらがガサガサと音を立てて揺れる。

 草むらから出てきたのは一匹の子狐だった。首には細い紐に通した鈴が付いており首輪の代わりになっている。誰かが飼ってる子狐だろうと思われるが俺はその子狐に見覚えがあった。子狐も俺の方をジッと見ている。

 

 「もしかして…久遠?久遠か?」

 

 俺がそう言うと子狐は俺の方に走ってきて飛びつく。

 

 「くぅー!くぅー!」

 

 俺が抱き留めると嬉しそうに鳴きながらスリスリと頬擦りしてくる。

 くすぐったいけど気持ち良い。間違い無く本物の久遠だ。

 

 「久しぶりだな久遠。元気だったか?」

 

 「くぉん!」

 

 頬擦りしながら元気良く返事する久遠。

 しばらく久遠の好きにさせ、頬擦りを止めたところで抱き留めていた久遠を地面に下ろし尋ねる。

 

 「久遠、お前だけか?那美さんは一緒じゃないのか?」

 

 俺は久遠の飼い主である人の名を口にする。

 神咲那美さん。久遠の飼い主で原作『とらハ3』のヒロインの一人。普段は巫女さんをやっているが退魔師としての一面もある。何も無い所で転んだりするドジッ娘さん。

 

 「くぉん、くぉん」

 

 「うーん…。一緒にはいないって事か?」

 

 久遠が頷く。そして俺の目の前で久遠の姿が子狐から人間の子供のような姿になり口を開く。

 そういやこの姿なら言葉を話せるんだった。

 

 「那美…寮に…いる」

 

 「寮って、さざなみ寮だよな?」

 

 「うん…薫も一緒」

 

 「薫さんもか…」

 

 まさか薫さんも一緒とは思わなかったな。

 神咲薫さん。那美さんの義姉で那美さんと同じ退魔師。『神咲一灯流』という流派の師範代でもあり常に仕事で全国を飛び回っている人。『とらハ2』ではヒロインで『とらハ3』ではサブキャラという立ち位置。

 そんな『とらハ』キャラの人達と俺が知り合いなのは小学2年生になる少し前。この神社に来た時、偶々今回みたいに草むらからすがたを見せた久遠と出会った事が始まりだった。

 最初は人見知りの激しい久遠に逃げられていたが『とらハ3』のなのはが仲良くなった時の様にひたすら神社に通っていた。その時に那美さんと出会い、久遠の好物が油揚げだと聞いて(『とらハ3』の原作知識で知ってたけど)俺は次の日から神社に通う度に油揚げを買い、毎日久遠にあげた。もっとも、俺が油揚げから離れないと久遠は近寄って食べようともしなかったが。それでも諦めずに頑張った結果、久遠も段々と俺の事を人見知りせず、ついには頭を撫でる事に成功した。あの時は嬉しくて年相応にはしゃいで喜んだ。

 それから久遠を抱きかかえられるようになるのに時間はかからず俺と久遠は仲良くなった。

 でもそんな時に薫さんがやってきて、久遠の生い立ちとか色々聞かされたっけ(後、久遠が人型になれる事を教えてもらったのも、人型になった姿を見せてもらったのもこの時)。

 それで薫さんは久遠を助けるためにこの時期に来たとか。

 『とらハ3』の原作イベントである久遠の封印が解ける日が近いんだと知ったと同時に『とらハ』の原作も結構壊れてるなと思った。

 この時の那美さんは風芽丘に進学する前、つまりまだ中学生だったし、薫さんだって久遠を『助ける』ためじゃなく『封印が解ける前に殺す』ために海鳴にやってきたのが本来の原作の流れだったしな。

 それに本来ならこのイベントは那美さんが高校2年の時に起こるイベントだし。

 俺としては仲良くなった久遠を助けたかったけど、那美さんと薫さんに『危険だから駄目』だと言われた。

 …確かに当時の俺だと足手まといになりかねなかった。『悪霊』や『祟り』の類との戦い方なんて知らないし、当時は今ほど魔力の制御も上手く出来なかったし、下手をして二人の足を引っ張ったりしたらそれこそ久遠を助ける邪魔になる。だからその日は久遠が無事に助かる事だけを願って俺は眠りについた。

 次の日に神社に向かうと久遠はいた。那美さんも薫さんも無事で久遠を助ける事に成功したらしい。

 ただ、今回の一件を機に那美さんは風芽丘への進学を止め、本格的に退魔師としての仕事をするため久遠と共に鹿児島の実家に戻り自分を鍛える事にしたのだ。

 結局、俺が小学2年生になった日が那美さん、久遠との別れの日になってしまいそれ以来会う事は無かったのだが…

 

 「勇紀…どうしたの?」

 

 「ん?」

 

 突然久遠が心配そうな表情で俺を見ている。

 いかんいかん。どうやら少しの間、ボーっとしていたみたいだな。

 

 「具合…悪い?」

 

 「大丈夫、俺は元気だから。ただ久遠達と会った時の事から別れるまでの間の事を少し思い出してたんだ」

 

 「久遠と?」

 

 「折角仲良くなれたのにほとんど遊べなかったからな」

 

 「…うん」

 

 シュンとする久遠。耳と尻尾が垂れる。

 

 「まあ今はこうやって再会出来たから俺は嬉しいよ。ところで久遠と那美さん、それに薫さんは何で海鳴に?」

 

 「えと…お仕事」

 

 「仕事?退魔師の?」

 

 俺の問いにフルフルと首を左右に振る久遠。

 

 「ここの…お仕事」

 

 「ここって…八束神社で?」

 

 「…………」(コクコク)

 

 今度は首を縦に振る。

 八束神社で仕事って…やっぱ巫女さんなのか?

 

 「そっか。じゃあしばらく久遠も那美さんも海鳴にいるって事だよな?」

 

 「…………」(コクコク)

 

 再度首を縦に振って答えてくれる。じゃあ…

 

 「久遠、今から俺と遊ばないか?」

 

 俺の発言にさっきまで垂れていた耳と尻尾がピンッと立つ。

 

 「折角会えたのにこのまま『また今度』っていうのもアレだしな」

 

 「久遠…勇紀と遊ぶ!」

 

 嬉しそうに返事してくれる久遠。耳はピコピコと動き、尻尾もフリフリと振っている。

 

 「じゃあ昔みたいに鬼ごっこでいいか?」

 

 王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の中に遊び道具なんて無いからな。…久遠と遊ぶために今度何か入れておこう。

 

 「…………」(コクコクコクコク)

 

 首を縦に振る勢いが半端無い。

 

 「じゃあルールは昔と同じで逃げる範囲は神社の境内と裏手の森な。森は奥まで行き過ぎない様に神社が遠目から見える所まで。最初は俺が久遠を追いかける鬼役でいいか?」

 

 「…………」(コクッ)

 

 大きく頷いたのを確認して俺はランドセルを神社の賽銭箱の側に置き、身体をほぐす。

 

 「じゃあ10数えたら追いかけるから久遠は逃げろ~」

 

 そう言ってカウントを始めると同時に久遠は逃げ出す。

 カウントを数え終えた俺は久遠を追いかけ始める。

 鬼役をやって、逃げる役をやって、また鬼役をやる。

 たった二人(もとい一人と一匹)の鬼ごっこだが時間を忘れるぐらいに楽しかった。精神年齢が大人の俺でも童心に戻ったかのようにひたすら楽しんだ。

 やがて俺達が完全に疲れ果て、鬼ごっこを止めた時には空はオレンジ色に染まっていた………。

 

 

 

 「じゃあ久遠、またな」

 

 「くぅ~」

 

 鬼ごっこを終え、少しだけ休憩していた俺。

 神社の石段に腰掛けている間、久遠は子狐の姿に戻り俺の膝の上で丸くなっていたのでその間は、ひたすら撫でていた。

 今は夏だからまだ空はオレンジ色とはいえ、時間はもう6時過ぎだった。あまり遅いと家にいるであろうシュテル達に心配されるかもしれないからな。

 久遠と別れるのは名残惜しいが俺は膝の上の久遠をそっとのけ、ランドセルを背負って家に帰る事にした。

 別れ際の久遠の鳴き声が寂しそうに聞こえた。

 

 神社の石段を下りて家路に着くと

 

 「ユウキ?こんな時間に何故ここにいるのだ?」

 

 途中でディアーチェと会った。

 

 「ちょっと神社で遊んでてな。ディアーチェも今まで買い物してたのか?学校出た時は3時過ぎだったろ?」

 

 ディアーチェの服装は俺と同じ海小の制服姿だった。

 

 「今日は隣町のスーパーが特売日だったからな」

 

 そう言って手に持っているビニール袋を見せてくれる。特売の始まる時間まで待っていたという事か。

 結構一杯買ったみたいで両手のビニール袋はパンパンに膨れ上がっている。

 

 「重そうだな。一つ持つよ」

 

 「そうか?済まぬな。実は結構重たくてここまで戻ってくるのに時間がかかってしまった」

 

 そう言ってビニール袋の一つを手渡される。

 確かに重いな。ズシッときて思わずフラついてしまった。

 

 「ユウキ?大丈夫か?かなり疲れておるようだが…」

 

 「ん?大丈夫。いざとなれば宝物庫に収納するから」

 

 「それにしても随分と疲れておるように見えるが?」

 

 「さっきも言ったが神社で友達と遊んでてな」

 

 「友達?亮太か?直博か?誠悟か?」

 

 ディアーチェの口から俺の友達の名前が出るが謙介の名前は出てこなかった。

 ディアーチェにとって謙介は俺の『友達』というカテゴリーに含まれていないのだろうか?

 

 「残念ながら全員外れだ。昔この街にいた友達だよ。俺が2年生になった時に引っ越していったけどまたこの街に戻ってきたみたいでな。神社に行ったら偶然再会して今まで遊んでた」

 

 「ふむ。我等の知らぬ輩という事か」

 

 「お前等と出会うよりも前だからな。それよりさっさと帰らないか?立ち話も何だし…」

 

 「そうだな」

 

 俺はディアーチェと肩を並べて歩き出す。

 身体は疲れているが心地良い疲れだ。それに久遠と再会出来たのが何より嬉しい。

 那美さんも戻ってきてるみたいだし近い内に挨拶しに行かないといけないな。

 そんな事を考えながら俺はディアーチェと二人で何気ない会話を交わしながら我が家に向かって足を進めるのだった………。

 


 
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