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魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 四十九話

全力解放っ! 本気のサイヤ人!

2012-10-16 21:58:58 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:4308   閲覧ユーザー数:4042

 

海鳴市海上

 

街中のビルの屋上から見えるように海は荒れ、竜巻と雷を伴う超異常気象に見舞われていた。

 

津波、サイクロン、雷は全てある地点から発生していた。

 

ぶつかり合うカリフとジャネンバが引き起こしている。

 

なのはたちはそんな光景を目の当たりにして言葉を失っていた。

 

「すごい……あの怪物に食い下がっている」

「とてつもない力ね……ここまで打撃音と衝撃が伝わってくるなんて……」

「これが……あいつの真の力なのか……」

 

プレシアたち魔法関係者でさえもここまでの戦いなど初めてであり、未知の領域である。

 

そんな中でもアリサたちは混乱の極みにいた。

 

「なによこれ……夢なんでしょ……」

「カリフくん……」

 

アリサとすずかのようについ先ほどまで魔法すら知らなかった一般人にとっては目の前の光景など夢を通り越して悪夢だった。

 

自分と同い年の子が突然現れた化物と戦ったり、異常気象を引き起こすなど小説やマンガの中でしかありえなかった。

 

だが、その光景が目の前に広がり、二人の中の常識や生きてきた世界が音を立てて崩れ去って行く。

 

それはなのはたちにとっても同じだった。

 

「カリフ……君は一体……」

 

ユーノが皆が思っていることを口に出してしまい、そのことに返事をすることもなく目の前の戦いを見守っていた。

 

 

 

「ジャネンバー!」

「ふん!」

 

ジャネンバの巨体のタックルを避けてがら空きになった背中へと一気に突進してパンチを繰り出そうとするも、ジャネンバは巨体を器用に半回転させて短い足からの蹴りを突っ込んできたカリフに仕掛ける。

 

「!?」

「ホー!」

 

その蹴りを何とか器用に触って受け流すも、あまりの威力に態勢を崩されてしまった。

 

そこへジャネンバは腹の穴を拡大させてエネルギーを溜め、カリフに向ける。

 

「てめっ!」

「ジャネンバー!!」

 

掛け声と共に発射された砲撃は地球に当たれば一たまりも無いことくらい感じられるほどに強力だった。

 

カリフはどの道避けられないことを悟って腕を付き出す。

 

「うるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

付き出した腕をエネルギー弾に当てながら軌道を逸らすようにぶつけて進路を変える。

 

だが、その際にもエネルギー弾の熱がカリフの腕を焦がす。

 

「こ、この……っ!」

 

煙を上げて焦げる痛みに耐えて夜空の彼方へ弾いた後、カリフの金色のオーラがより一層爆ぜる。

 

「調子に乗ってんじゃねーぞコラッ!」

 

体の前で構え、両手の間から紅いエネルギー弾を形成する。

 

「ジャネンバー!」

 

その様子を見ていた腕を振ってはしゃぐ素振りを見せる。

 

それに対してカリフは目を鋭くさせた。

 

「せいぜい余裕こいているがいい……くらえ……」

 

充分に育ったエネルギーを両手を付き出すことで発射する!

 

「邪皇砲!!」

 

勢い良く放たれたエネルギー弾はジャネンバへと向かい、やがては飲みこんだ。

 

エネルギー弾はジャネンバさえも呑みこみ、海に着水した瞬間に特大の水柱を創りだす。

 

まさにビルのような水柱ができあがったのだが、ジャネンバは全身をシャワーで洗うような仕草を見せてキャッキャと喜んでいた。

 

その姿に流石のカリフも唖然とした。

 

「おいおい……今の喰らって無傷って……アリか?」

 

呆けていると、ジャネンバはこっちを見てきて腹を抱えて笑いだす。

 

「ゲラゲラゲラ~!」

「こいつ……マジで頭ん中ガキだなオイ」

 

なんだか調子が狂うのかカリフは頭を抱え……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と見せかけて波ぁぁっ!」

 

急に両手から莫大なエネルギー波をジャネンバに再度繰り出した。

 

そんなジャネンバは片手からカリフのコピーを創り出した。

 

「はぁ!?」

 

これにも驚かされながらも気を取り直してエネルギーをぶつけようとする。

 

「ジャネンバ♪」

 

対するジャネンバもコピーカリフにエネルギー弾を放たせて迎え撃つ。

 

ぶつかり合う膨大なエネルギーは反発し合い、突風を巻き起こして拮抗する。

 

「きゃああぁぁぁぁぁ!」

「うぐぅ……」

 

なのはたちも突風に煽られながらも飛ばされないように踏ん張っていた。

 

海上が光に包まれる中、カリフは突如、その場を離れてエネルギー弾の軌道も真上に変えた。

 

「ジャネンバ?」

 

ジャネンバがその行動を不思議がっているジャネンバの攻撃から逃れたカリフは円盤状のエネルギーを両手に構えていた。

 

「気円斬!」

 

放たれた二つはジャネンバの元へと空を切りながら向かっていく。

 

ジャネンバは逃げようと呑気に背中を見せた時だった。

 

「そりゃ悪手だ。上、上」

 

そう言いながらカリフは指でチョイチョイと空を指す先には、先程軌道をずらしていたエネルギーが勢いよく地上に落下していた。

 

エネルギー弾を遥か上空にまで上げた後、そこからコントロールしてここまで再度運んで来ていたということだ。

 

そのまま器用に操り、カクカクに曲げてジャネンバの後頭部に当てた。

 

「ジャネ……!」

「耳の裏側への攻撃で動きが鈍るか……脳はあるようだし構造も人間と同じと見ていいな」

 

小規模の爆発だが、それでも一瞬だけ相手の脳を揺らして動きを封じることができたため二つの気円斬も見事に直撃した。

 

両腕を切断に成功したが、血もでないことからダメージは期待していない。

 

「ジャネンバジャネンバ!」

 

それどころかジャネンバは切断面からまた新たに腕を生やした。

 

「はぁ!? んだこいつ!?」

「ジャ~……」

「! ちっ!」

 

毒づいていると、ジャネンバが遠くで拳を振りかぶっていたのが見えた。

 

こういった態勢の時には決まったパターンがあることをリーゼたちとのバトルで拝見していた。

 

カリフは全方向に警戒いていると、予想通りやってきた。

 

「ネンバ!」

 

カリフの真横からワープしてきたジャネンバのパンチをカリフは手で受け流し、余分な衝撃は体の回転に変えることで態勢も崩さずに済んだ。

 

だが、それで終わる訳も無くジャネンバは辺り構わずにパンチを繰り出してはワープさせてカリフの周囲に出現させる。

 

それでも避けるだけなら簡単であるため、カリフは縦横無尽に動きながら受け流しているため決定打ももらっていない。

 

「その拳が転移できるってんなら……」

 

カリフは向かってくる拳に手を付き出し……

 

「こいつも喰らいな」

 

エネルギー弾を拳に喰らわせた。

 

そして、拳を伝ってエネルギー弾の爆発までもが本体の元へワープされる。

 

「ジャネンバー!」

 

爆発に巻き込まれてジャネンバは横転するが、そこへさらなる追撃が待っていた。

 

「50連……」

「!!」

 

ジャネンバの腕に掴まって一緒にワープしてきたカリフがジャネンバの腕の上で利き腕に力を入れている。

 

「ジャ……!」

 

叩き落とそうとするジャネンバだが、既に遅かった。

 

「釘パンチィ!」

 

血管を浮き立たせた極太の拳がジャネンバの顔面に突き刺さった。

 

「ゴ……ボゴ……」

 

それによってジャネンバは顔の形を変えて吹き飛ばされる。

 

「ホー!!!」

「!?」

 

だが、負けじとジャネンバもパンチをカリフに繰り出していた。

 

まさにカウンターとしてもらってしまうことはカリフ自身が咄嗟に思い、腕をクロスさせて防御する。

 

そしてトラック並の大きさの拳がカリフにヒットした。

 

「む……ぐぁ……っ!!」

 

カリフは苦悶の声を上げながらそのまま後方へ勢い良く吹き飛ばされ、ジャネンバも直後に釘パンチの時間差衝撃に襲われた。

 

「ジャネ、ジャネ、ジャネ、ジャ……!!」

 

顔の同じ個所に何発も連続で与えられる打撃にジャネンバも遥か後方へと飛ばされていくのだった。

 

 

「す、すごい……この防衛プログラムと互角以上に渡り合っている……」

 

ジャネンバの中でクライドは外の状況を覗き、驚愕を口にしていた。

 

そして、今、この瞬間に胸が高鳴っていた。

 

「こんな気持ち……いつ振りだろうか……人を止めてから忘れていた……」

 

瞳から流れるは溢れだす感情、胸に去来するは二度と感じることはないと思っていた“希望”

 

「そうだ……この力強さ……この暖かさ……これが人が人である証……」

 

昔のありし姿を求めるかのようにクライドは上に見える外への光に

 

 

 

手を伸ばしていた。

 

 

 

 

 

 

「おっしゃあ! まだまだいけるぞ!」

「やっちまえー!」

 

なのはたちのいるビルではアルフとヴィータの応援合戦が始まっていた。

 

皆は全てをカリフに託している分、無言ではあるが心からカリフの勝利を願っていた。

 

「こんなことがあるのか……相手はアルカンシェルでさえも吸収してしまうような化物だぞ。それを……」

 

クロノもカリフの戦いぶりに食い入るように見ていた時、何かが音を立ててビルに突っ込んできた。

 

“それ”はビルにピンボールのように弾かれながらなのはたちの元へと到達した。

 

ビルの縁でボロボロの服のカリフだった。

 

「カリフ!」

「大丈夫か!?」

 

フェイトとはやてが心配で声をかけるも、カリフは余裕そうに向き直った。

 

「参った参った。パワーは同等、技も多彩、おまけにどうやっているのかは知らんがオレの攻撃をオレより一手先を読んでやがる……避けるだけなら問題ないが、こっちが攻撃しようものならその隙を見逃さずに反撃しやがる。野郎……見た目に寄らずしたたかよ」

「そんな……」

 

初めてだった。

 

カリフがここまで精神的に参りながら弱音を吐くなんて……

 

カリフにとってはそれが愚痴だとしても自分たちとは一線を画してきたカリフでもどうにもならない相手なのだと思ってしまった。

 

「ていうか傷があんな簡単に治るってのはどういうことだ?」

「多分、あれも防衛プログラムの力だ。いくら切断しようが焼き払おうが無限に再生し続ける……」

「実力でもスペックでもあっちが何枚も上手か……」

「じゃあもう勝ち目なんてないじゃないか! あれに対抗できるのってアンタだけなんだよ!」

 

アルフの焦りの混じった声もカリフは手で制するだけだった。

 

「腐るな。相手の優れた点を知ることは同時に弱点を知ることに直結する。その証拠に戦って分かったが、奴は人間と同じ構造の体ででき、余地も一手先まで読めるだけでその先などからっきしだった。時間差で追撃を与えれば防ぐこともできない……完璧な特殊能力にも穴は確実に存在する」

「だが、戦えるだけじゃあ意味が無い。本来の目的は奴の完全破壊だ」

「カリフも知ってると思うけど、奴はアルカンシェルのパワーを全て食いつくしたんだ。奴を倒すにはさらに膨大なエネルギーを……」

 

ユーノとクロノの台詞にカリフは鼻を鳴らして笑った。

 

「それが醍醐味と言うものだろう? 殺るか殺られるかの土壇場でせめぎ合う血と肉の躍動、永く忘れかけていた至福の時だ。オレはこれを待っていたのだ」

「んなこと言ってる場合かよ! お前、圧倒的不利なんだぞ!?」

「なにか策、もしくは勝算があるのか?」

 

ヴィータとシグナムの言葉にカリフは口を三日月状に歪ませる。

 

「策? そんなもん必要ねえ」

「なに?」

 

カリフの言葉に全員が驚愕を顕わにする。

 

「既に奴の底は知れた。なら、オレは更に強くなればいいだけのこと」

「そんな無茶な……」

「今は一旦アースラに戻って具体案を練った方がいいと思うのが正直な意見なんだが……本気で言っているのか?」

「オレは嘘は嫌いだ。それに……」

 

遠くで釘パンチから解放されたジャネンバを見据える。

 

「お前等が奴相手に時間稼ぎできたことさえ奇跡のようなものだ……いつも強いと豪語しているオレがここで腐ったら恰好つかねーだろうが」

「カリフくん……」

 

なのははカリフがここで初めて自分たちを認めてくれたような気がした。

 

こんな状況ではあるが、少し嬉しくもなった。

 

「それに、出力が足りないなら増やせばいい……こさらに強くなればいいだけだ」

「いや、そんなに簡単なことじゃあ……」

 

シャマルが反論しようとするが、そこから雰囲気が一変した。

 

カリフは深呼吸を始め、精神を統一し始めた。

 

普段とは違う厳かな雰囲気に誰もが息を飲んだ。

 

「ど、どうしたの…?」

「まさか……あるのか……この先が!?」

 

アリシアは困惑し、シグナムは驚愕を隠せない。

 

さっきまでの戦いを見ただけでカリフと自分たちとの差を痛感させられたというのに、まだ彼は本気を出していないという。

 

また、カリフとの距離が遠ざかった瞬間だった。

 

「カリフ……」

 

さまざまな感情が交差するフェイトはどう声をかけてもいいのか分からない。

 

そんな彼女たちを捨て置き、カリフはしばらく精神統一を続ける。

 

「ふぅ~……」

 

来たる時を感じ取り、ここで目を一気に開眼した!!

 

「はぁっ!」

『『『!!』』』

 

カリフの周りから再び突風が吹き荒れる。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

 

気をさらに高め続ける内に海では嵐が吹き荒れ、カリフの気合で周りのビルがひとりでに倒壊する。

 

やがて、なのはたちのいるビルにも亀裂が奔る。

 

「!! ここから離れるんだ! なのはたちは遠くの足場まで一般人を!」

「分かった! 私はアリサちゃんを!」

「すずかちゃんはうちとや!」

「アリシア!」

 

三人はそれぞれの三人の手を取って上空へと飛ぶ。

 

「ちょっ、なのは!?」

「はやてちゃん!?」

「ありがとうね、フェイト」

 

アリシア以外の二人はおっかなびっくりで自分たちがいたビルが崩れ去ったのを見つめていた。

 

リーゼ姉妹もグレアムと共に別のビルへと移動している。

 

「……」

「フェイト?」

 

フェイトは飛んでいる最中でもカリフを見つめることしかできなかった。

 

ただ距離が広くなっていく。

 

 

物理的距離でも

 

 

心の距離も

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔な奴等は行ったな」

 

なのはたちが遠ざかったのを感じた時、カリフは首をコキコキと鳴らした。

 

今まではなのはたちが近くにいることで血からの解放による余波に巻き込まれると思っていたが、そんな懸念も消えた今は気にすることでなくなった。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

 

腕を交差させて絞り出すように奥底に眠る力を引き出す。

 

絞った雑巾からさらに水分を絞り取るような作業。

 

まさに、己の全てを出し尽くすと言っても過言ではない。

 

「が……あが……うがああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

どこまでも響くような獣に似る叫びで吼え、力を出し尽くす。

 

「UGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

そして、遂に全ての力を解放し……

 

 

 

 

 

カリフの体から黄金の旋風が巻き起こった。

 

「ジャネンバ?」

 

遠くのジャネンバもその光を首を傾げて見ていた。

 

金色の旋風は辺りを照らし、すぐに治まる。

 

光が治まった時にいたのは、カリフだった。

 

 

 

 

金髪の長髪が腰にまで伸び、眉毛を無くした姿がそこにあった。

 

「今すぐにブチ殺してやるぜぇ……」

 

先程までとは格が違う威圧感と稲妻を纏った最強にして最凶の最狂戦士が姿を現した。

 

「ジャネンバ?」

 

遠くでその姿を視認したジャネンバがさらに首を傾げた時だった。

 

 

 

 

 

「どこ見てんだ肉ダルマぁ」

「!?」

 

気付けば懐にその金髪が揺らめいていた。

 

ジャネンバの予知能力を以てしても予知した時には遅すぎる。

 

圧倒的なスピードで詰められた距離一キロ以上は伊達ではない。

 

額に血管を浮かばせながらカリフは拳を血管が浮き出るほど力強く握り、全身全霊を込めて拳を振り抜いた!!

 

「ジャ……ッ!!」

 

ジャネンバは痛みで声さえ上げられずに空中へと打ち上げられた。

 

巨体が五十メートルくらい持ち上がった所でカリフはその場から音を立てて消えた。

 

その瞬間に起こったのはジャネンバの腹部から響く打撃音の炸裂だった。

 

人の目には映らぬスピードでのカリフのラッシュは苛烈を極め、最初から全力だった。

 

傍から見ればジャネンバの腹部が勝手に凹み、宙に浮かされているとしか思えない。

 

それほどまでにカリフは速かった。

 

拳、蹴りを繰り出す姿は誰の視界にも映さずに猛威を振るう。

 

「ジャ……ネ………」

 

ジャネンバが弱々しい声を振り絞った所でカリフは止めに姿を現し、力を込める。

 

「60連……釘パンチィ!」

 

再び釘パンチをジャネンバ叩きこみ、遥か上空へと打ち上げる。

 

カリフはすぐに両手に気を込めて猛スピードで飛翔する。

 

黄金のオーラを纏って上空から雲の中へと突っ込む。

 

雲の上へ抜け出た所でジャネンバを発見した。

 

未だに見えない時間差攻撃に見舞われているジャネンバを追い越し、大気圏内へと入る。

 

辺りの星を見渡せる所にまで来て、カリフは宙返りで急降下を始める。

 

大気圏内での急降下によりカリフの体が熱を帯びる。

 

常人では一瞬で圧死するほどのGも物ともせずに打ち上がって来たジャネンバへと突貫する。

 

「オオオォォォォォォラアアアァァァァァァァァァァァ!!」

 

このための伏線!! 気合の掛け声と共に金色の二つの拳をジャネンバに叩きこんだ!!

 

「~~~!!」

 

もはやジャネンバの声さえも周りには響かず、急上昇のあとに急降下を味わわされることとなった。

 

ジャネンバの腹部がとがった物を押し付けられたゴムみたいに変形しながら地上へと落下される。

 

空気摩擦によってジャネンバの体に火が着く。

 

カリフは気で全身ガードしているため火は気と一体化して紅い光へと変わる。

 

カリフとジャネンバは共に炎と光に覆われ、地球に落下してくる隕石となった。

 

その隕石は数秒足らずで海鳴海上へと螺旋を描きながら戻って来た。

 

その姿は遠くのクロノたちでも観測ができた。

 

「綺麗……」

 

だれかが言った言葉は簡素であるが、目にしている光景を最も体現しており、誰もが考えていることだった。

 

金と紅

 

スーパーサイヤ人のオーラと炎の混ざった閃光が海に落下し……

 

 

 

 

直後に……

 

 

 

 

 

海に穴が空いた。

 

 

 

「こ、これは……」

 

遠くで全てを見ていたなのはたちは目の前の光景に唖然とした。

 

穴の空いた海には地表が剥き出し、海鳴の海に急に滝ができたこともあるが、何よりその規模の大きさが先程の一撃の威力を物語っていた。

 

「これは……アルカンシェルと同等の威力じゃないか……」

 

アリアは肩で息をしながら呟いた。

 

事実、海に空いた穴は半径数キロに渡っており、今でも穴は塞がることなくその状態を維持しているのを見るとエネルギーはアルカンシェルを遥かに凌駕していた。

 

「待て、何か出てきた」

 

ザフィーラの発言に全員の視線が釘づけにされ、海の穴を見つめる。

 

確かに、その穴から出てくる小さな影が現れた。

 

その姿は金色に輝いていたことも遠くで確認できた。

 

「……カリフ……なのかい?」

 

少し自信なさげに聞いている間に、その影はいつのまにか消えていた。

 

「あれ? 消えた?」

 

なのはが不思議がっていると不意に背後から声がかかった。

 

「大した奴だったよまったく……」

『『『!?』』』

 

その声に過敏に反応し、全員が素早く振り返るとそこには得意気に宙で浮きながら舞空術で浮いているカリフがいた。

 

ただし、普段の姿とはかけ離れ、金髪の長髪で眉毛も無い強面ではあった。

 

「カリフくん……でええかな?」

「半年以上も一緒に住んでこの顔を覚えていないと? オレとの半年はなんだったのやら……」

「そんな姿は見たこと無いんですけど……金髪ってだけでも驚きなのに……」

 

はやてとシャマルにわざとらしく頭を抱えて悲しみを表現する。

 

だが、他の面子はそれ以外にも気になったことはあった。

 

「あの……聞きたいんだけど……」

「なに?」

「その抱えている人……誰?」

 

フェイトが指すのはカリフが片手で抱えている全裸の男性

 

「拾った」

「いや、方法を聞いてるんじゃなくてその人が誰かって聞きたいんだけど……」

 

簡素に答えるカリフになのはは突っ込みを入れて再度聞き返そうとした時だった。

 

すぐ近くのリインフォースが驚愕に固まっていた。

 

「あなたは……まさかこんな所に……」

「え? リインフォース、知ってるん?」

 

はやての問いにリインフォースは頷いて話す。

 

「彼は防衛プログラムの中でその防衛プログラムを制御する管制プログラムです」

「制御……てことはあの人も闇の書の?」

「ええ、そしてかつては人間だったのです」

「え!? この人、人間だったの!?」

 

リインの答えにフェイトは驚愕しながら話を聞く。

 

「ナハトのことは知っているな? 今から十一年前にナハトは暴走し、周囲の物を取り込み始めた際に私が……」

「その者の体を分解し、データ体として再構築した……我等と同じ存在となったという訳か」

「あぁ」

「でも、アタシらそんな奴知らねーぞ」

「お前たちが知らなくても無理はない。この者は守護騎士システムとはなんの関わりも無かったからな」

 

リインの話に相づちを打つメンバーだが、その横で全裸男性に驚愕の表情を向ける人物がいた。

 

リーゼ姉妹、グレアム、そして……

 

「十一年前……暴走……事故……そんな……ことが……」

 

クロノは狼狽し、ゆっくりと男性に近付いて行く。

 

そんな時、男性の体が微かに動き、虚ろな目でクロノを見据える。

 

「クロノ?」

 

フェイトの声も聞こえないのか、クロノはデバイスを落として男性に近付いて行く。

 

近付く度にクロノの胸は締めつけられ、涙がいとも容易く溢れだす。

 

涙で顔を濡らし、追いすがるように伸ばした手の先の男性は笑った。

 

 

力無く、生気も薄い。

 

 

 

覇気も威厳もないけれど……

 

 

 

当時と変わらない優しさは確かに“そこ”にあった。

 

男性も細い腕を力の限り伸ばし、互いを求め合う。

 

やがて、二つの手は重なり合った。

 

 

 

「今……帰ったよ。クロノ……」

 

男性、クライドからの弱々しい声がクロノの記憶に衝撃を与えた。

 

走馬灯のように父親との思い出が脳内にフラッシュバックして止まらない。

 

クロノは思い出に身を任せ、“執務官の鎧”を剥がして行く。

 

涙は見せず、弱音も吐かない。

 

今までに定めてきた執務官としてのルールが破綻し、彼は“十一年前”に戻った。

 

「……父さんっ!」

 

クロノは痩せて軽くなったクライドの手を握りながら静かに泣いた。

 

 

 

 

 

地上の様子はしっかりとアースラにモニター越しで伝わっていた。

 

事の顛末を見届けていたスタッフは全員、言葉を失っていた。

 

「うそ……」

 

エイミィがそう呟きながらクロノとクライドを凝視していた。

 

だが、そこにはスッタフ以上に衝撃を受けている者がいる。

 

リンディだ。

 

「ク、クライドさん……っ!!」

「艦長!?」

 

リンディは立ち上がり、一心不乱に走り始めた。

 

エイミィの声にも耳を貸さずにリンディはアースラ内を走る。

 

「クライドさん! クライドさん!! クライドさんっ!!!」

 

名前を呼びながら地上へ到達するポッドへ向かう。

 

走りながら涙の雫を振りまく。

 

疲れで呼吸が乱れても走るのを、泣くのを止めない。

 

「あなたっ!」

 

リンディの叫びはアースラの中に響き渡った。

 

 

 

 

クロノとクライドをなのはたちは神妙な面持ちで見つめる。

 

「えっと……たしかクロノのお父さんって……」

「多分、なのはの思ってる通りだよ。リンディさんから聞いただけなんだけど、クロノのお父さんは十一年前の闇の書の護送中に闇の書の暴走に巻き込まれて……」

「私が艦隊ごとアルカンシェルで消滅させた……」

 

フェイトの間に入ってグレアムが続けた。

 

確かに、史実ではそうなっている。

 

当時の最悪の事件として処理された案件だった。

 

「だけど、闇の書……リイフォースに助けられたっちゅう訳やな……」

 

初めて聞いたはやても納得している所に近くで転移魔法が起こった。

 

突然のことに全員が身構えるが、すぐにリンディが現れたのを見て唖然となった。

 

「リンディ提督?」

 

フェイトの言葉にアリサたちはさらに驚愕する。

 

「リンディさん!?」

「……提督……て……」

「もう駄目……なんかもうこれ以上は無理かも……」

「アリサちゃん!?」

 

アリサの中では既に日常が壊されすぎて心の均衡が崩れかかり、頭を抑えて倒れかける。

 

すずかがそんなアリサを慌てて介抱する姿を見てなのはたちは苦笑する。

 

「にゃはは……なんだか凄いね」

「せやな、死んだと思ってた人が生きてたり……魔法ってすごいな~」

「いえ、こんなこと魔法でも起き得ないわ。これは一生に有るか無いかの“奇跡”よ」

「プレシアさん」

 

プレシアはそう言いながらもリンディたちを暖かく見守る。

 

「クライドさん……」

「リンディ……」

 

互いに見つめ合う二人

 

先に口を開いたのはクライドだった。

 

「リンディ……その……」

「……」

「遅くなって……ごめん」

「~っ!!」

 

たった一言

 

たった一言でリンディの心は揺さぶられ、彼女は激情に身を任せた。

 

今では皮と骨しかなくなった胸に静かに顔を埋めて泣いた。

 

「ああぁぁぁぁぁー! クライドさん! 会いたかった! 今まで……! ずっと……!!」

「……すまなかった」

「ずっと……! 忘れたことなんてなかったっ! ずっと……! 私は……!」

「すまない……本当に……辛い目に合わせて……本当に……」

 

出せる力を振り絞ってリンディの頭を撫でる。

 

クロノ、リンディ、クライド

 

 

十一年もの歳月を経ることとなったが……

 

 

家族が

 

 

 

一つに戻った

 

 

 

 

三人は抱き合って泣いた。

 

 

 

大声を上げて

 

 

 

十一年分の悲しみを吐き出すように……

 

十一年分の切望を満たすかのように……

 

十一年ぶりの再会を喜ぶかのように……

 

 

 

そんな三人を見つめていたなのはたちは微笑んでいた。

 

「グス……よかったねクロノくん……」

「リンディさんも……嬉しそう……」

「せやね……やっぱ家族ってええな……」

 

なのは、フェイト、はやては三人そろって思う所があるのかしずかに見つめていた。

 

「うわ~ん! 良かったよー! リンディ提督もクロノも~!」

「アルフ、はいティッシュ」

「ありがとうユーノ~! うわ~ん!」

 

嬉しさに泣くアルフにティッシュを渡して笑顔になるユーノ

 

「……」

 

プレシアは皆とは離れた場所でクロノたちを見守っていた。

 

そして、悲しみと嬉しさを分かち合うハラオウン一家を見て涙を流す。

 

「私たちも……あんな家族になれたらいいのに……」

 

自分が過去に行ってきた行為

 

未だにフェイトやアルフに近づけないことに対する悲しみが口に出ていた。

 

羨ましそうに見つめていると、不意に誰かに手を握られた。

 

何かと思って見ると、自分の愛娘のアリシアが手を握っていた。

 

「アリシア……」

「大丈夫だよ。フェイトは優しい子だから」

 

まるで自分の気持ちを読んだかのように優しく語りかけてくれる。

 

それでもプレシアは不安だった。

 

「でも、私は……」

 

煮え切らない様子のプレシアにアリシアは頬を膨らませた。

 

「もう! ママったらさっき自分で言ったことも忘れたの!?」

「え、えっと……なんて……」

 

全く心覚えのないことに狼狽していると、アリシアは依然として仏頂面のまま続けた。

 

「さっき言ったじゃん! 魔法じゃない“奇跡が起こった”って!」

「あ、あの……」

「奇跡も魔法もあるんだよ!? だから後はママがフェイトと自分を信じなきゃ!」

「……」

 

アリシアなりの励まし

 

“奇跡”なんて眉唾な物だと思ってた。

 

どんなに頑張っても報われるのは運がいい人だけだと……

 

だけど、今こうして目の前で起きていることは奇跡であり、現実である。

 

それは自分が運がいいから?

 

それとも諦めなかったから?

 

答えなんて分からない。

 

だけど、アリシアの言葉でなんだか少し気が軽くなったような気がした。

 

アリシアの表情は柔らかくなり、プレシアの手を繋いだ。

 

「ママは一人じゃないよ。私もいるから」

「……そう……ね……」

「またやり直そう? フェイトたちもきっとそう思ってる」

「……そうね」

 

プレシアは思った。

 

この事件が終わった後は自分がどうなるか分からない、だけど、それでもフェイトの母であろうと。

 

プレシアは自分に微笑みかけてくれる愛娘のために誓った。

 

この笑顔を守りたい……と

 

プレシアは優しくアリシアの頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

―――解せぬ

 

周りは既にジャネンバが沈黙したことで緊張状態が抜けていた所だった。

 

カリフはスーパーサイヤ人3を解かずに海に空いた穴を睨んで警戒を止めない。

 

確かに最後の一撃で頭部もふっ飛ばし、膨大な気と衝撃を注入させて破裂させたのはこの目で確認した。

 

だが、それでもカリフには勝った時の高揚感と優越感がまるで無い。

 

しばらくは緊張しながら構えていたのだったが……

 

「どうした? そんな所でボウっとして」

「……」

「折角勝ったんだからそんな仏頂面も止めろって」

 

シグナムとヴィータはやたら気分良くカリフに話しかけてくる。

 

少し気にはなるのだが、カリフは意味も無いことを永く考えるのは嫌う。

 

すぐに緊張を解いてヴィータたちの方へ振り向いた。

 

「そうだな。久々にこの姿になって神経が過敏に……」

 

振り向いた時

 

 

 

 

 

“そいつ”はいた。

 

赤と青白の色彩に彩られ体

 

長い耳と歪な長い角、長い赤の尻尾

 

まるで“鬼”のような何かが鋭い眼光でカリフを突き刺していた。

 

初めて見る人外の者はなのはたちはおろかカリフにすら気付かれないでビルの下から浮遊していた。

 

なのはたち、誰一人として気付いておらず気付いているのはカリフだけ

 

周りがスローモーションの世界に代わる中でカリフとその鬼だけが互いに向き合い、硬直した。

 

スローの世界で鬼は笑いかけてきた時だった。

 

 

 

 

 

―――っ!!

 

今までに味わったことが無いほどの悪寒

 

悟空やベジータからも受けることのなかったかつてない殺気

 

宇宙を巡っても対面したことのない強烈な本能の怯え

 

佇まいから垣間見える凄みと雲泥の実力差

 

目の前の相手の実力を本能で理解してたった一秒の世界の中でカリフは吼えた。

 

 

「てめえ等ぁ!!」

 

突然のカリフの叫びに全員が視線を向けた時だった。

 

 

 

―――ドケエェェェェェェェェェェェェェ!!

『『『!!』』』

 

カリフの“野性”を垣間見た全員が驚愕と恐怖に突貫するカリフを無意識に素早く、反射的に避けた。

 

だが、目の前の鬼はその“野性”を見ても立ちつくすばかり。

 

(渾身の威嚇を受け流しやがった!?)

 

自分にビビらない相手にそのまま渾身の握り拳を叩きこもうとした時だった。

 

「フっ……」

 

短く笑いながら流暢にカリフの拳を片手で受け止め、易々と懐へ入りこんだ。

 

「こ、このっ……!」

 

驚愕しながらももう片方の拳で攻撃しようとした時だった。

 

鬼の首から上がブレてこの世から姿を消す。

 

「!?」

 

それを認識した時、カリフの腕が生温かい感触に襲われた。

 

自分の腕を見た時……時間が止まった気がした。

 

 

 

 

自分の腕が円状にくり抜かれ、血が僅かに滲み始めていた。

 

まるで噛み千切られたかのように……

 

(く……喰われ……た?)

 

半ば呆然としながら鬼の姿を視認しようとした時だった。

 

スローの世界の中で目の前に迫ってくるのは赤い拳

 

驚愕する間も無く、その拳はカリフの顔面に吸い込まれ……

 

 

 

 

 

 

 

「ウガァ!!」

 

振り抜かれたっ!

 

カリフは顔面に受けた衝撃でその場から弾き飛ばされてビルを貫通していく。

 

十辺りのビルに叩きつけられた時、カリフの姿はそのビルの中へと消えた。

 

 

その光景を一通り見ていたなのはたちはカリフを避けた時から微動だにしていない。

 

その間にカリフは目の前の鬼に殴り飛ばされていたのだから。

 

「カ……リフくん?」

 

なのはだけでなく、フェイトやはやて、ユーノたちや騎士たちでさえもその状況を理解していなかった。

 

彼女たちにとってはカリフに驚かされた後、カリフが遠くへビルに貫通しながら吹っ飛び、急に出てきた鬼がカリフのいたであろう場所で拳を振り抜いていたことくらいの認識しかなかった。

 

その間の両者の攻防を目にすることなく……

 

 

 

「ゲギャギャギャギャー!」

 

鬼……ジャネンバ最終形態は高らかに笑った。

 

 

正真正銘の絶望が産声を上げた……

 

 
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