No.496874

恋姫†無双 関羽千里行 第1章 9話

Red-xさん

恋姫†無双の2次創作、関羽千里行の第9話になります。
戦闘パートです。
愛紗さん大暴れ。
そしてお三方、SSでまでまたあの恐怖を体験させてしまってすいません。
それではよろしくお願いします。

2012-10-16 19:19:30 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3609   閲覧ユーザー数:2990

第1章 9話 ―戦いと意外な真実―

 

目の前に広がる荒野。そしてそれを埋め尽くさんばかりに蠢く黄巾の群れその数三万以上。対するは京の街を守らんと立ち上がった七千の勇士たち。今ここに戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。

 

 

 

一刀「いよいよだな...」

 

前回とは比べ物にならないほど不利な戦況に武者震いが走る。視界が埋め尽くされるという表現がふさわしいほど、目の前の黄巾の群れは多かった。

 

愛紗「この大軍勢に私が先頭となって切り込むのですね...そう考えると少々怖いかもしれません。」

 

一刀「愛紗が戦いで弱気なんて珍しいな。昔は弱気になる俺を愛紗が元気づけてくれてたのに。」

 

愛紗「この世界に来て、自分の武勇が周囲と比べてもかなりのものだというのは今までのことで実感があります。己の武に対する誇りもあります。しかしそれはあくまで単騎同士での戦いでです。それに今まで立ち合った者は前の世界でも戦ったことのある者が多かった。そう考えると、将としての自分の実力はそれほどではないのではないかと思えてきてしまうのです。だめですね、私は。久々に先陣でこんな数を相手にするので少し弱気になっているようです。」

 

 隣に立って少しうつむき加減の愛紗を後ろからそっと抱きとめる。

 

一刀「大丈夫。俺たちがついてるから。」

 

愛紗「一刀様...」

 

霞「ひゅーひゅー、おふたりさん、あっついなぁ。妬けるわぁ。」

 

 気付くと後ろには俺たちの仲間が勢揃いしてこちらを見ていた。気恥ずかしさから2人とも赤くなって慌てて体を離す。

 

華雄「全く、これだけの敵を前に暢気なものだな。」

 

祭「羨ましいもんじゃのう。」

 

趙雲「これが終わったら、関羽殿の生娘のような反応を見ながら一献というのもおつかもしれませんな。」

 

思春「べ、別に羨ましくなど...」

 

趙雲「おっと。こちらもかわいらしい反応を見せてくれますな。」

 

 後ろで見ていた兵士たちからも笑い声が上がる。多くの人に見られていたかと思うと、酒で酔いが回ったかのように顔がカッと熱くなった。

 

華雄「しかし...あれだけの数を有しておきながらなぜ攻めてこないのだ?」

 

一刀「うーん、あっちも人数差が圧倒的だと思ってるだろうから、そのうちこっちが怖くなって逃げ出すとでも思ってるんじゃないかなぁ。油断してくれているなら突撃の効果が上がりそうだけど。さて...」

 

 俺は整列した後ろの兵士たちに向き直る。

 

一刀「諸君、各隊長から聞いていると思うがこれからあの軍勢に対して突撃を行う。」

 

 敵が目視できる範囲に入っており、その数の多さに多くの兵士が気圧されている。

 

一刀「あの数相手に突撃するんだ。怖くなるのも無理はない。だが少し考えてほしい。目の前の獣の群れは一向に動かない。なぜだ?普通に考えればこちらなどあっという間に倒せてしまうほどの数の差があるのに。」

 

 兵士たちの間にどよめきが起こる。

 

一刀「どうして攻めてこないのか。それはあいつらに俺たちがしっぽを巻いて逃げだすなんて思われているからだ!」

 

実際にそう思っているのかはわからない。もしかしたら何か事情があって攻めてこないだけかもしれない。だが今はこの数相手に勝つためにこちらの士気をあげることが先決だ。俺は皆を奮い立たせるため、少しずつ時間をかけて言葉を紡いでいった。

 

一刀「みんな、その時いた人は初めて一緒に黄巾と戦った時のことを思い出してくれ。この街を守るため、俺たちは...」

 

 

 一方その頃黄巾側では、目の前の軍勢など取るに足らないというような雰囲気が流れていた。だがその一方で圧倒的な数の差がありながらなかなか撤退しない敵を前に、不安を募らせる者たちがいた。

 

??「あいつら結構粘るわね。こっちには大した軍勢はいないって言ったのはどこのどいつよ...それにいつもならもうとっくにこの数を見たら逃げ出すのに...」

 

??「そうね。このまま今まで通り洛陽まで行ければいいのだけれど...」

 

??「早く洛陽でお買いものしたいもんね。」

 

??「違うでしょ姉さん。私たちが認められるにはもう上洛して本当に天下を取るしかないのよ。」

 

??「そうよ。このまま官軍につかまっちゃったら私たち首が飛んじゃうのよ!」

 

??「えー。私まだ死にたくないよー。」

 

??「だから姉さんも洛陽まで頑張りましょう。」

 

??「うん。お姉ちゃん頑張っちゃうよ♪」

 

 コロコロと表情を変える彼女に2人は少し安堵した。しかしそんな雰囲気を壊すように、目の前の軍勢から大きな歓声が上がった。予想とは異なる相手の反応に3人に動揺が走る。

 

??「ちょっと!あいつら私たちとやるつもり!?」

 

??「想定外だけど、こうなってしまったらもう仕方ないわ。戦うしかない。」

 

??「みんな~!気をつけてね~!」

 

黄巾「ほあああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

愛紗「疾風のごとく駆けよ!我らには天の加護がついている!何人も我らの歩みを止めることなどできん!」

 

趙雲「左様!敵は所詮匪賊!匪賊ごときに我らを止める道理などない!」

 

 まさしく疾風のように駆けていく二人。愛紗が一閃するたびに数十人もの敵が塊となって吹き飛んでいき、苦痛に声をあげることもなく一瞬にしてその命を散らしていく。さらにその後ろからその武勇に遅れまいと、趙雲もまた閃光のように槍を振るって敵をはね飛ばしていく。その二人の周りには切られた多くの敵の血で赤い吹雪が広がっていた。その姿を何と形容したものか。猪の突進のような荒々しさを持ちながら、その得物を振るう二人の姿はどちらもまるで舞を舞うかのような美しさも兼ね備えていた。2つの剣閃が光を描いて赤い世界の中で死の舞を舞うその姿に敵も味方も魅入られる他なかった。

 

愛紗「どうした!我こそはと思う者は我が進撃を止めてみよ!」

 

趙雲「腰ぬけめ!女子(おなご)相手にこの体たらく。こう言われて恥じ入るものがあるならば、我らに一太刀浴びせて見せよ!」

 

華雄「やるな、趙雲とやら。我らも遅れを取るな!」

 

霞「愛紗やっぱかっこええなぁ。ウチらも負けてられへんで!」

 

 2人に鼓舞され華雄と霞も目の前の人壁をなぎ倒していく。またそれを見た兵士たちも鼓舞されさらに敵を打ち倒していく。だが敵に対してこちらはあまりに少数。左右から後ろから突撃する彼女たちを包囲しなぶり殺しにしようと試みる。しかし...

 

思春「遅い!」

 

祭「皆の者、陣形を崩すなよ!」

 

一刀「前のみんなをやらせるわけにはいかないんでね!みんな、なるべく固まって大きな声をあげながら進むんだ!」

 

俺たち3人の隊は前の突撃隊を援護すべくその後ろから守りつつ攻めるという難儀な作業を行っていた。横から飛びかかっているものを斬り倒し、後ろから追いすがってくる者に続け様に矢をたたき込む。本来ならばすぐに気力を使い果たしてしまうような作業だが吶喊している4人とその隊の勢いのおかげでこちらに来る敵はその難しい作業を遂行するのに支障がでないほどの数だ。

 

黄巾A「くそ!なんで勝てねぇんだ!こっちの方が数は多いんだぞ!」

 

 すでに敵陣の中腹まで割り込んでいるにも関わらず、その勢いを全く鈍らせることないこちらに対して敵が動揺を見せ始める。三万もの人を割り割いて迫りくる黒髪の猛将。その姿はまさに鬼神だ。そしてそれに続く将兵たちがその隙間を広げる。それはさながら黄巾という1つの生き物に向けて突き放たれた一本の強靭な槍だ。そのすさまじい様相は黄巾の本陣にいる彼女たちからも確認することができた。

 

??「な、なんなのよあれ!?あんなのアリなの!?」

 

??「アリも何も実際に目にしているあれが事実よ。このままじゃここも危ないわ。」

 

??「ど、どうしよう?逃げる?お姉ちゃんあんなの無理だよぉ~。」

 

??「でもここで引いたら洛陽まで行けっこないわよ!」

 

 三万を率いる彼女たち自身に戦闘力など微塵もない。微塵もないがゆえに普通なら他人の力量など測ることができない。にも関わらず彼女たちには迫り来る黒髪の猛将が、そしてそれに続く力の群れが自分たちの目の前にある幾多の人壁を打ち破り、ここに到達することがわかってしまった。それは実際に戦っている黄巾党員たちにも理解できることであった。ある者は彼女たちを守らんと、ある者は己が死を回避せんと走り回る。

 

黄巾C「くそ、あいつらやっぱり化け物だぁ!あんなのに勝てるわけがねぇ!逃げろぉおお!」

 

黄巾D「逃げるなぁ!張角様をお守りしろ!!」

 

 黄巾と北郷たちとの間にはあまりに大きな数の差があった。しかしその圧倒的な数の差が覆ったことで余裕を保っていた黄巾たちにかえって多大な恐怖を植え付けていった。恐怖に耐えきれなくなった者たちは我先にとその場から離れていく。なんとか自分たちの指導者を守ろうとする者たちもその顔は悲壮感にあふれている。

 

黄巾D「張角様方!もう我らではあいつらを止めることはできません!どうかお逃げ下さい!」

 

張角「みんな!だめだよ!」

 

黄巾E「急いで下さい!もうそこまで奴らが迫っています!時間だけ稼いだら我らも後から必ず追いかけますので!」

 

張梁「姉さん逃げましょう!急がないと本当に命が危ないわ!」

 

張角「いやだ!だめだよ!」

 

黄巾F「ここに残ってる奴らはみんな3人の歌が大好きだから残ってるんでさぁ。その3人の歌が一生聴けなくなるなんて耐えられねぇ。だから絶対死にやしませんて。」

 

張宝「あんな化け物につかまったらどうなるかわかったもんじゃないんだから!みんなもすぐに逃げるのよ!」

 

黄巾E「わかってますって。さあお早く!」

 

 親衛隊の皆に送りだされ3人は泣く泣く陣を離れた。しかしその姿を接近した愛紗に見られてしまう。

 

愛紗「!?あれが張角たちか!逃がさん!」

 

黄巾D「行かせるか!ここは我らの命に代えても通さんぞ!」

 

黄巾E「久しぶりに張宝ちゃんと喋れたんだ!今日の俺は百人力だぜ!」

 

黄巾F「張梁ちゃんたちには歌で大陸を獲るっていう夢があるんだ!行かせるわけにはいかないぜ!」

 

愛紗「その忠信見事なり!だが我らも守るべき者たちがいるのだ!行かせてもらうぞ!はあああああ!」

 

 猛進する愛紗の前に親衛隊らしき黄巾の一団が恐怖を振り切り立ちはだかる。その顔どれもが死地にあって笑みを浮かべていた。しかしそれも愛紗が一閃すると討ち合うこともできずあっさりとはね飛ばされてしまう。だが愛紗は今までの黄巾党員たちと異なるものを感じたのか手加減し、愛紗の一閃を受けても黄巾党員たちの命はこの世にとどまっていた。愛紗が敵を倒している間に趙雲が風のようにすり抜け、3人に詰め寄りその槍を向ける。いつでもその槍が自分たちの命を奪ってしまえると感じた彼女たちは恐怖でその足を止めてしまう。

 

趙雲「甘寧の言っていた特徴と一致する。貴様たちが張角、張宝、張梁だな。おとなしくしてもらうぞ。」

 

張角「やだ!お姉ちゃんまだ死にたくないよ!」

 

愛紗「安心しろ。歯がゆいが我が主なら悪いようにはしないだろう。」

 

張宝「ひぃ!化け物!」

 

愛紗「誰が化け物だ!」

 

張梁「ちぃ姉さんは黙ってて!」

 あとから追いついた愛紗に3人が恐怖する。今までの鬼神のような戦いを見ていれば無理もないだろう。腰を抜かしてその場にへたり込んでしまう。そんな状態でもなんとか冷静さを保っていたと見られる1人が恐る恐る受け答える。

 

張梁「おとなしく投降すれば命は助けていただけるんですか?」

 

愛紗「そうだな。あのお方なら命まで取ることはないだろう。他の者にも手出しはさせないと、私の誇りにかけて誓おう。趙雲殿もそれでよろしいだろうか。」

 

趙雲「あいわかった。ならば私もこの正義の槍にかけて誓わせてもらおう。」

 

張梁「わかりました。なら私たちもこれ以上抵抗はしないと約束します。」

 

張宝「ちょっと!」

 

張梁「ここで抵抗しても勝ち目はないわ。命を取らないと言って下さっているんだしここは従いましょう。親衛隊の方も私たちから刃向かわないよう言っておきますのでどうか命だけは。」

 

愛紗「そうか。だが一応そちらは縄だけはかけさせてもらうぞ。」

 

愛紗によって気絶させられたものたちにも一人一人縄がかけられていく。こうして黄巾との戦いは張角たち首謀者の捕獲ということで幕を閉じた。

 

 

一刀「えーと、俺の名前は北郷一刀。それで君たちが張角さん、張宝さん、張梁さんでいいのかな。」

 

街に戻り広間の前に引き出された張三姉妹と黄巾の親衛隊を率いていた者たちは一刀たちの尋問を受けていた。ただ尋問と言っても険悪な雰囲気はあまり感じられなかった。

 

張角「そうだよ。」

 

思春「間違いありません。」

 

 俺の質問に二人が答えた。目の前にいる3人はあの初めて街を襲ってきた残忍な黄巾党をひいているとは思えない。しかし本人という確認が取れてしまった。そこで俺は思春からの報告を聞いた時から思っていたこと、そして3人を実際に目にしてその思いが強まったことで気になったことを口にした。

 

一刀「3人に聞きたいんだけど、どうしてこんなことをしたの?」

 

 まずは自分たちの犯した罪について問われ、責められるだろうと思っていた3人は意外といった表情を浮かべた。だが目の前の青年の顔をみてもそのような雰囲気は感じられない。ひとまずの安心感を得た彼女たちは自分たちの身の上話と今までの経緯について語りだした。

 

張宝「ちぃたちはただ歌っていただけよ!」

 

愛紗「そんな馬鹿な。」

 

張梁「本当です。私たち3人、最初はただの旅芸人だったんです。」

 

 彼女たちの話をまとめるとこうだ。彼女たちは大陸一を目指す旅芸人で方々で歌を披露していた。そのうち彼女たちの歌に魅かれて、彼女たちのシンボルである黄色い布を身につけたいわゆるおっかけと言われる連中が出てきた。それが黄巾党の始まりらしい。いつしかその数はどんどん増えていき、旅先の街でも黄色い布を纏った一団は目立つようになった。

 

そんな旅の途中、ある街で黄巾の一員を装った何者かが強盗を働いた。無論彼女たちのファンというだけの彼らがそんなことをするはずがない。ただその街の人間にとっては余所者である彼女たちと黄巾党員は誤解を抱えたまま仕方なくその街を出るしかなかった。

 

その後再び旅を続けていると、突然向かった先の街にファンである黄巾党員たちが入ることができなくなった。黄巾党が強盗を働いたという噂が出回っていたのだ。その噂に便乗したのか、各地で黄色い布を纏った強盗団が次々と現れ、いつしか黄巾党は匪賊という汚名をかぶることになってしまった。それが今の黄巾の乱と言われるものに発展したらしい。

 

困った3姉妹と一緒に旅をしていた者たちはどうしたものかと皆で考え合った結果、世間の誤解を解こうと村を回っては公演を続けつつ無実を訴えたらしい。しかし、黄巾の汚名を返上することはできなかった。そして自分たちだけでの汚名返上を諦めた彼女たちは上洛して黄巾党にかけられた誤解を解き、さらに歌で直接帝に認めてもらおうと洛陽に向かっている最中だった。しかし騒ぎが大きくなりすぎたこと、いろんな村を回ったことで自分たちはすっかり素性がばれてしまっていると考えた。このままでは洛陽に入ることもできない。

 

そこで武力もない彼女たちは規模が大きくなりすぎたことを利用し、圧倒的な数を見せつけていくことで戦うことなく洛陽まで行くという作戦を考えたのであった。洛陽に無傷でそんな大部隊で行けることはないだろうが、元々ただの旅芸人とそのおっかけであった彼女たちは気付かなかったらしい。もし実際にたどり着けたとしても実際に黄色い布を身にまとって暴れている人がいる限り、黄巾党の汚名をそそぐことは難しかっただろう。

 

また、途中で合流していた部隊というのは彼女たちも多すぎて把握しきれていなかったらしい。おそらく流れに便乗して紛れ込んだいわゆる偽物の黄巾党員なのであろう。後ろの人たちの話によると捕まった人数がほんの一握りだったのでその他は逃げたのだろうというのが共通の見解だった。

 

それが彼女たちの真実であった。誤解が生んだ大きな戦。全てを聞き終えると全く予想もしていなかったことにその場にいた者は唖然としてしまった。

 

張梁「それで、私たちから真実を聞いた貴方は私たちをどうするのですか?斬首にしますか?」

 

 その瞬間後ろで縛られていた親衛隊の人たちが騒ぎだした。

 

黄巾D「お願いします!私たちはどうなっても構わないのでどうか張角様たちの命だけは!」

 

黄巾E「張宝ちゃんたちは悪くねぇ!俺の首を差し出すから張宝ちゃんたちは見逃して下せぇ!今ここにいねぇ奴らもそう思ってるはずだ!」

 

黄巾F「そうだそうだ!張梁ちゃんの話を聞いたら彼女たちは悪くねぇってわかるだろ!」

 

張角「みんな...。」

 

張宝「悪いのは最初に盗みをやった奴なのよ!私たちは悪くないんだから!」

 

張梁「ちぃ姉さんは黙ってて。お願いします。彼らは今まで私たちを守ってくれたんです。」

 

 確かに張宝の言う通り彼女たちはむしろ被害者とも言える。しかも黄巾党が汚名を着せられた時点で、おっかけとしてついてきた彼らとの関係を断つこともできたはずだ。だがそれをしなかった。彼らは自分たちを慕ってくれるファンの人たちを捨てていくことなんてできなかったのだ。そんなに優しい彼女たちを斬首にすることなんてできない。

 

一刀「わかった。これから処遇を言い渡す。」

 

 その場合にいた全員ののどがゴクリと鳴る。

 

一刀「今回のことについて俺たちから君たちに何か罰を与えるようなことはしない。親衛隊の君たちもだ。」

 

一同「!」

 

一刀「君たちは特に盗みや殺しを命令したとかではないわけだし、親衛隊の人は愛紗がすぐに倒しちゃってこっちには被害がなかったから直接の遺恨もないしね。君たちがここにいる限り、条件付きで君たちのことは俺がすべて責任を持とう。外向けには張角、張宝、張梁という名前の人は討ちとって火葬にしたとでも言っておく。」

 

 三姉妹から後ろの人たちに目を向け、

 

一刀「後ろの人たちと投降した人たちは本当の黄巾党員しか残ってないんだよね?だったら流民を受け入れたとでも言っておいてここの住人には俺から直接事実を伝えよう。ここの人は偽物の黄巾党に襲われた人たちが多いけど、みんないい人たちだからきっとわかってくれるさ。それと事実上黄巾党は一旦解散してもらうことになってしまうから、汚名をそそぐというのは叶えてあげられない。それでもいいかな。」

 

 その瞬間、広間にひざまずいていた彼女らはひとまず命が助かったことで歓喜の表情を浮かべた。汚名は注げなくても命があればまたやり直せる。その口々に俺への感謝を述べる。だが一方でその他の者が俺に対して批判を投げかけた。

 

兵士「失礼を承知で申し上げます!もしこの事が朝廷側に知られればこの街は逆賊として官軍に攻められてしまいます!」

 

一刀「多分だけどそれは大丈夫だと思うよ。君たち、君たちの似顔絵が手配書として出回ってるんだけど見たことがあるかい?」

 

 3人は首を横に振る。そこで俺は思春に頼んで例の手配書を持ってきてもらい、3人に見せた。

 

張宝「ちょっとなんなのよこれ!」

 

張梁「呆れた。」

 

張角「お姉ちゃんはこんなんじゃないよー。」

 

一刀「まあこんなのが出回っている時点でこっちから何も言わなければバレないと思うんだ。君たちが思っているほど朝廷は君たちのことを知らないよ。あっちは黄巾党の動きをまったくつかめていなかったみたいだしね。」

 

文官「しかしこの街に張角という者たちがいるということが噂になれば事ですぞ。」

 

一刀「それについては少し考えがあるんだ。」

 

 俺は椅子から立ち上がると張角たち3人の前まできてこう言った。

 

一刀「君たち名前を捨てる覚悟があるかい?」

 

張梁「それはどういうことですか。」

 

一刀「さっきの人が言った通り、このまま君たちがまた芸人として続けていくことは難しいと思うんだ。だから念のためにもホトボリが覚めるまでしばらく俺のところで侍女か何かとして働いてもらう。それだったらおおっぴらにはならないしうちでかくまっていても大丈夫だろう。それに今は無理だけど、俺たちの領地が広がればその圏内は俺の公認ということにすれば安全なわけだしまた旅芸人としてやっていけるだろう。」

 

三姉妹「!」

 

一刀「その時は俺も力を貸すよ。ただやっぱりそのままの名前だと疑われてしまう。だから君たちの今の名前は捨てる必要があるんだ。偽名を使うか真名をそのまま名乗るか。さっきの条件付きというのもこれが飲めるかどうか次第になってしまうんだけど。どうかな。」

 

 3人がお互いの顔色をうかがう。今まで生きてきた証である名前を捨てるなんて簡単に決められることではないだろう。それに偽名ならまだしも真名を名乗ると言うのは抵抗があるに違いない。ただこの方法は前の世界で実践済だ。俺たちが滅ぼされない限りは大丈夫だろう。3人でしばらくこそこそと何か話してから張梁が口開いた。

 

張梁「確認したいのですが。もし貴方の言う通りにしたらまた私たちは芸人として歌を歌うことができるのですか?」

 

一刀「そうだね。もしかしたら何か手伝ってもらったりしてもらうかもしれないけど。兵の慰問で歌ってもらったりとかね。それに俺たちが天下をとったら君たちは事実上国中旅ができるってことになるし悪い話ではないと思うんだ。」

 

張梁「今ここで首を取れば朝廷から褒賞が出るかもしれないんですよ。今の言葉を聞いても、私たちをかくまったところでそちらに利益なんて殆どありません。むしろ官軍や諸侯に知られて弱みに付け込まれる危険があるんですよ?なぜ初対面の私たちにそこまでしてくれるんですか?」

 

一刀「うーん、だって君たち悪いことしてないんだろ。」

 

張宝「あんた馬鹿じゃないの?」

 

張梁「ちょっとちぃ姉さん!」

 

霞「馬鹿やな。」

 

華雄「馬鹿だな。」

 

思春「全く貴方という人は。」

 

祭「大甘じゃな。」

 

 前の世界でも散々ヘンだとか馬鹿だとか言われたがこの世界でもそこは変わらないようだ。初めて恋を仲間に誘った時を思い出す。この雰囲気は懐かしいけどやっぱり俺は甘いのか...と思っていると、

 

愛紗「でもそういう甘さが一刀様の良いところです。」

 

 愛紗の言葉に張三姉妹と黄巾たちの間に流れていた不安を抱えた雰囲気が一転し和やかな空気が訪れる。俺の言葉にいつものことかとまた呆れたような暖かい笑いが起こる。

 

人和「有り難く貴方の申し出をお受けします。私の真名は人和です。これからはそう呼んで下さい。」

 

地和「ちぃは地和!命を助けてくれたことには一応感謝してあげるわ。」

 

天和「私は天和。これからよろしくね、ご主人様♪」

 

 その一言で周囲の空気が一瞬にして凍りついた。

 

地和「ちょっと天和姉さん何言ってるのよ!」

 

天和「あれ?だってこれからしばらくこの人の侍女として働くんでしょ?難しいことはよくわからないけど命を助けてもらったし、それにさっきから思ってたんだけど結構この人お姉ちゃんの好みなんだ♪」

 

 天和がギュッと俺に抱きついてくる。そしていつもの通り、何かが轟音を立てた盛り上がってくる。でも今日は何かいつもより多い!?

 

黄巾F「...ご主人様...だと?ご主人様だとぉおおおおおお!!」

 

黄巾E「まさか張宝ちゃんにもそう呼ばせる気じゃないだろうな!?そんなうらや...罪深いことを...!」

 

黄巾D「くそ!私の手が縛られてさえいなければ!」

 

愛紗「覚悟は...よろしいですね?」

 

一刀「なんでいつもこうなるんだぁああああああ!!」

 

 その後俺がどうなったかは言うまでもない。しかしその広間にはいつまでも温かい笑いが木霊していたという。

 

 

 

―あとがき―

 

 こんばんは。いつも読んで下さっている方はありがとうございます。そして先ほど確認したら1話の閲覧数が千を超えてました!いやっほう!これもみなさんのおかげです。とりあえず嬉しかったので大声で千本桜歌ってしまった、近所の方ごめんなさい。

 

 というわけで9話でした。思ったより長くなってしまった。張3姉妹の説明が長い!読みづらくてすいません。説明くさいセリフを会話にしてしまえばもう少し短くなりそうなんですが...1話の左慈さんもそうですが、言うことが長すぎると会話にしづらいんですよね。

 

 そんなこっちの事情はともかく、一刀君甘い!だがそれがいい。一刀君って割と男の人にも愛される主人公ですよね。そして一刀君の勢力がどんどん大所帯に。といっても三姉妹は戦力って感じではないですけど...無印で言うところの董卓と賈詡みたいなポジションになるとは思います。まあ話の流れから次回あたりまた...増えるのか?

 

 そいともうすぐ拠点パートがあります。拠点パートは戦闘描写に次ぐ不安要素なんですが...おそらく2人で1話分くらいのボリュームにはなると思います。俺は嫁の話だけ読むぜ!って言う方もおられると思いますが、今までの話で書けなかった裏設定みたいなのもチラホラはいると思うので(次回にそれが入るかはわかりませんが)できれば全員読んでくれると嬉しいです。

 

それでは、これからも読んで下さるという方はよろしくお願いします!

 


 
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