No.491419

すみません。こいつの兄です18

隔日刊から、日刊くらいのペースで妄想をそのまま垂れ流しています。お話の行く先は決めていません。

最初から読まれる場合は、こちらから↓
(第一話) http://www.tinami.com/view/402411

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2012-10-02 21:59:03 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:951   閲覧ユーザー数:864

 市瀬家に帰り着いて、真奈美さんの部屋で漫画を読んでいるうちに、真奈美さんは寝てしまった。当然といえば当然。昨夜一時から歩いて、十キロちかく離れたうちまでやってきて、朝の五時まで玄関先に座っていたのだから…ほぼ、というか完全に徹夜である。

「落ち着いたみたいだし、帰るか…」

起こさないように気をつけなくても、起きないだろう。

 机の上のノートを一枚破かせてもらって、「起こさないで帰るね」と書置きをして…ふと思い立って「漫画を一冊貸してね」と書き足して、机の上に置く。

 部屋を出ると、向かいの部屋から美沙ちゃんが顔を覗かせる。

「帰るんですか?」

「うん。真奈美さん、寝ちゃったし」

「…寝ついたから帰るとか言って、赤ちゃんみたいですよね」

赤ちゃんなのだ。今の真奈美さんは。怖がりで、あやしてないとお漏らしする。

「赤ちゃんみたいなものだから…」

「…私も出かけようかな…。一緒に、ちょっと…デート”みたいな”ことしません?」

うほ。役得。

 

 美沙ちゃんと、二人で出かける。

「ど、どこ行こうか?」

ぎこちなくなっちゃうのは、仕方ないじゃん。だって、美沙ちゃんと二人っきりでお出かけなんだぜ。しかも美沙ちゃん、帰ってから着替えたのか、白いブラウスとミニスカートというあざといまでに可愛い格好をしているんだもの…。

 そりゃ、俺の心臓もテンションも天井知らずの有頂天で天元突破でも不思議はないだろ。

「どこでもいいですよ」

俺は、試されている。

 女の子の「どこでもいいですよ」というのは、実は「どこで私を楽しませてくれるのか、あなたのセンスを試しています」という意味だと聞いたことがある。まさか、そんな知識の役に立つ日がやってこようとは!

 これが昨日までの俺だったら、公園をお散歩して、水のみ場で水を飲むというコース。バッドエンド一直線で、たぶん上野と友情エンドか、ハッピー橋本と友情エンドとかになるルート。しかし、今日は昨日の佐々木先生のお手伝いでゲットしたバイト代がある!『先生を手伝うぞ』の選択肢を選んでおいてよかった。(ギャルゲ脳)

 頭脳フル回転だ!先週読んだ雑誌に載っていたお店はどこだった?思い出せ、俺の大脳辺縁系!引き出せ、俺の海馬!

「あ…やっぱり、喫茶店がいいです」

あれ?やっぱり、試されてない。

 女の子が場所を指定してくるときは「本当は誰とでもいいんだけど、とりあえず行ってみたい所があるから、奢らせてあげるわ」という意味だと聞いたことがある。く…っ。うそだ。きっと、そんなのは女にフラれていじけたヤツが考えたことなんだ。嘘だと言ってくれ。

「お兄さんと二人だけでゆっくり話したかったんですよ…。最近、学校の食堂でもあまり話せていなかったから…」

それ見ろ!嘘だった。いえー。

 今日の俺は、感情の起伏が大きい情緒不安定気味なのだろうか。違うな。美沙ちゃんの一言一言に一喜一憂しすぎなだけだ。

 

 そんな話をしている間にちょうど良く、先日マウントフッドグレートなんとかというお腹壊すからやめておけ的なパフェを食べた喫茶店の前に差し掛かった。ちょうどいい。ここでいいや。

「この間、どさくさでお兄さんにご馳走してもらっちゃったから、今日は私がおごりますよ」

メニューを広げて、糖分多そうなページを楽しげに見ながら美沙ちゃんが言う。甘いものを見ているときの女の子って、本当に楽しそうだよね。ずーっと見ていたい。ときどき唇を濡らすのが、色っぽいし…。市瀬美沙ちゃん十五歳。可愛さとほんの少しの色気がベストバランス過ぎて、まちがいなく世界一かわいい。

「いや。自分の分は自分で出すよ。美沙ちゃんに奢らせるなんて、ちょっと情けない」

「…お兄さんは、ふにゃ男のくせに変な意地を持ってるよね」

メニューから目を上げずに、独り言のように美沙ちゃんがつぶやく。すっかり、美沙ちゃんの中では俺はフニャ男である。実際、フニャ男なんだからしかたないけれど。脳みそ筋肉のアメリカンマッチョガイよりは見込みがあるだろうと自分を慰める。

 俺は白玉団子サンデーを頼み、美沙ちゃんは、チョコブラウニータワー(全高四十五センチ)を頼む。美沙ちゃん、その隣に書いてあったチョコブラウニーサンデーじゃだめだったのかな?

「今度、真菜も一緒に来たときには、このチョコブラウニー・タワーリング・インフェルノ(全高九十センチ)に挑戦しましょうね!」

チョコブラウニーサンデーじゃ物足りないよね。うん。俺も、うっすらそう思っていたよ。

 

「おまたせしましたー。こちら、白玉団子サンデーです」

ことっ。白玉団子とあんこにバニラアイスにウェハースが添えてある。

「こちら、チョコブラウニータワーでございます」

ごとっ。チョコ、クリーム、チョコ、クリーム、チョコフレーク、チョコレートアイス、バナナ、バナナ、ポッキー、バニラアイス、チョコレートアイス、生クリーム、トッピング、チェリー、マンゴーが積層されて、美沙ちゃんの可愛い顔が隠れる。俺は座る位置をちょっとずらして、美沙ちゃんの顔を斜めから見れる位置に移動する。

「おいしー」

幸せそうでなにより。ただでさえ可愛い顔が、にこにこと笑ってとてつもない可愛さになっている。光の粒子を発しながら、四方八方に撒き散らされるプリティ波に被爆して、死にそうだ。美沙ちゃんは、こんなに甘いものが好きなのに肩とか腕とか脚とか腰とか、とても華奢でかわいらしい。きっと食べた栄養は全部胸に行くのだ。高校一年生でDカップ。卒業時には可愛い下着を探すのが困難を伴うようになるといわれるFまで行くかも知れない。Fか…。Dでもいいんだけど…。今の美沙ちゃんより可愛いとか想像を超えているんだが…。Fか…Fか…。うん。Fの美沙ちゃんもいいかもしれない!

「お兄さん?」

「ごめんなさい!」

「?なんで、謝るんです?」

しまった。ニュータイプされたかと思って、つい自白してしまった。

「それより、ちょっとお兄さんに聞きたいことがあったんです」

「な、なんでしょう?」

最近、女の子に聞きたいことがあるといわれると、つい身構えてしまう。尋問みたいな状況に追い込まれすぎだ。軽くトラウマになってるぞ。あぶない、気をつけよう。このまま女性恐怖症とかになったら大変だ。せっかく、世界一かわいい美沙ちゃんの近くにいられるのに、もったいない。

「いつまで、お姉ちゃんの面倒みるつもりなの?」

意外な質問だった。ってか、美沙ちゃんだよね。頼んだの。

「真奈美さんが、日常生活に復帰するまでかな」

「復帰してますよ。もう」

そんな気はしないなぁ。一人じゃ学校に行けないし、学校でだって、今は自分の教室には怖くて入れない。新学期が始まったときにクラスに復帰できていたら奇跡だ。

「そ、そうかなぁ」

「あれは復帰してます。家出して、夜中に一人で歩いてお兄さんの家まで行ったんですよ。以前は、部屋からトイレ以外出てこなかったし、学校に行かせようとして制服を無理やり着せたら、部屋の前で真っ青になって吐いたんですよ。以前より、漏らさなくなったし…。たぶん、一人で学校に行かせたら行けますよ」

「そ、そうなんだ」

俺は、以前の真奈美さんを良く知らないからな。自殺未遂とかしてたのは知っていたけど…。そんなに病んでいたんだ。かわいそうに。

 美沙ちゃんのスプーンが止まる。垂れ目気味の綺麗な目で俺を見つめる。どきどきする。色っぽい話をしているわけじゃないんだけど、かわいくて綺麗で、この子に見つめられてどきどきしない方がどうかしてる。

「お兄さん」

「う…うん?」

「お姉ちゃん、あのままだとヤンデレますよ」

ごくり…。

「や、やっぱりそう思う?」

「私、お姉ちゃんに刺されたくないんで」

ん…ああ。そういえば、美沙ちゃんに抱きつきまくるって話をしていたっけ?真奈美さんと美沙ちゃんの百合百合なところを想像してしまった。それもいいなぁ。真奈美さんは前髪切ってからにして欲しいところだ。

 しかし、たしかにそれは困る。俺や妹が美沙ちゃんと仲良くしていて、美沙ちゃんを取られたと思った真奈美さんが「美沙を殺しちゃえば、美沙はずーっと私だけのものだものね。ふふふ」とかなってしまったら大変だ。今までは、そんな気力もなかったから良かったけど最近は変な行動力がついている。

「そ、そうだね…。み、美沙ちゃん、家にいるときは真奈美さんと仲良くしてあげてよ」

「…?…ちょっと脈絡が見えなくなりました」

「え?美沙ちゃんと真奈美ちゃんって、百合姉妹じゃないの?」

「なんでそうなるんですか!わ、私がお姉ちゃんに刺されるってのは、お姉ちゃんが!…その、お、お兄さんのこと取られ…うっさいです!」

ばくばくばくばく。すごい勢いで、溶け始めたアイスを食べまくっている。美沙ちゃん、怒りを糖分で抑えるタイプなんだな。それにしても、なんで怒られるのだ。女の子はわけがわかんない。

「だいたい!」

ばくばく

「お兄さんは!」

ばくばくばくばく

「女の兄妹がいるくせに、ニブすぎます!」

ばくばくばくばく

「お姉ちゃんに、あんなにデレデレされてても気づかないし!」

ばくばくばくばく

「女の子が水着を選ばせてあげてるのに、自分からプールに誘ったりもしないし!」

ばくばくばくばく

「楽勝の予定だったのに!」

ばくばくばくばく

「ホントにもう!なんで!なんで、私が!こんな!」

ばくばくばくばくばくばくばくばくばくばくばくばくばくばくばくばく。

 全高四十五センチのチョコブラウニータワーが、パソコンのプログレスバーのようにみるみる減っていく。

「あの。美沙ちゃん?」

「なんですかっ!」

「お腹壊すよ」

「うっさいです!やっぱり今日もお兄さんの奢りです!」

だから、なんで怒られるのー?

 

 チョコブラウニータワーを奢った。千二百八十円だ。まだ余裕がある。労働の力は偉大だ。あんなにおいしいバイトは年に二回くらいしかないかもしれないけれど。

「本屋さん、いきましょう」

美沙ちゃんに連れられて本屋さんに行く。

 そういえば、夏休みの宿題にいまだに読書感想文があるんだよな。ここのところ、美沙ちゃんの影響で本はけっこう読んでいるな。たしか「あなたをつくります」と「ダブルスター」を読んだっけ。美沙ちゃんは、たしかフィリップ・ディックという人の本が好きだったはずだ。三島が意外そうな顔をしていたっけ。

「ねぇ。美沙ちゃん」

「なんです?」

「俺が読みそうもない本を一つ選んで」

「はい、これなんてどうですか?」

最新ヘアカタログだ。

「いや、たしかに読まないけど、そういう意味じゃなくて」

「冗談です」

「だよね」

「のりわるいなー」

「うわーい。ヘアカタログだー。って、んなわけあるかい」

「棒読みですね」

ノリが悪いと言われたから、ノリ突っ込みしたのにけなされたよ。

「じゃあ、お兄さんも、私が読まなそうな本を選んでください。お互いに、読まなさそうな本をプレゼントしあいましょう。お互い、カバーをかけてもらって家に帰るまでは見るの禁止です」

いいね。おもしろそうだ。

「じゃあ、スタート」

本屋の中で、あっちとこっちに別れて、お互いの本を探しあう。

 美沙ちゃんが、読まなさそうで、それでいてつまらないと思われない本だ。フィリップ・ディックはだめだ。ダブルスターを書いた、ロバート・ハインラインという人の本もダメだろう。ディックを読むと俺が言ったら、三島が勧めてきたんだからな。

 それにしても、本好きな美沙ちゃんなら色んなオススメの本があるかもしれないけど、俺はそんなにたくさん本を読んでいるわけじゃないからな…。こうなると、もうぜんぜん違うジャンルの本を選んで『美沙ちゃんが読まなさそう』というポイントだけを抑えることにしよう。

 ディックもハインラインもSF作家なんだな。SFはダメだ。

 だけど、SFが好きな人が楽しめる本じゃないといけない。

 むずかしいな。

 …あ。

 これにしよう!ってか、でかっ!重い!でも、コレしかない。これはいい。絶対にSF好きの美沙ちゃんは喜んでくれそうだし、こんなデカくて重い本は持ってない気がする。

 一気に財布の中身がすっとんでいく実感を感じながら本を買う。悪銭身につかずというが、一日で稼いだバイト代はなんと一日で消えた。

 本屋の入り口で再び美沙ちゃんと合流する。

「じゃあ、せーので交換しましょう♪」

美沙ちゃんが、本当に楽しそうだ。こっちまで楽しくなってくる。美沙ちゃんの笑顔を見ていると、胸の奥にじんわりとした温かさが湧き上がってくる。これが、愛おしさという感情なのか…。たしかに胸の奥にわきあがる感情だ。

「「せーの」」

「わ…。お兄さんのお、おっきいですね」

しまった。録音しておくべきだった。三回はいけたのに…。

「ま、まぁね。これは、絶対よろこんでもらえる自信があるよ」

「…すごい気になるけど、家に帰るまで開けません。お兄さんも、家に帰るまで開けちゃだめですよ」

「うん」

美沙ちゃんが渡してくれたのは、普通の文庫本サイズの本だ。俺のために選んでくれたのかと思うと、すごく嬉しい。さっき散会してから合流するまでの時間、美沙ちゃんが自分のことを考えながら本を選んでくれていたのだ。その時間、美沙ちゃんのことを独り占めしたみたいで嬉しい。

 うん。俺は、恋をしているな。美沙ちゃんに恋をしている。

 

 駅で美沙ちゃんに見送られて、改札をくぐる。また例の肘から先だけ持ち上げるバイバイだ。かわいすぎるぞ。

 電車の中で、美沙ちゃんから受取った本の包みを開けたくなるが、ぐっとこらえる。家に帰るまでは開けない約束なのだ。どんな本なんだろう。楽しみだ。この厚みからすると、そんなに厚くないな。薄くもないけど…。標準的な文庫本のサイズ過ぎてかえって予測がつかない。

 家に帰り着くと、もう夕食の時間だった。部屋の机の上に、美沙ちゃんにもらった本を置いて、夕食を食べる。今日は、珍しく妹が静かだ。俺も母親も父親も静かだ。カニを食べてるからだ。妹が静かだなんて、他にありえないだろ。

「母さん、このカニどうしたの?」

「市瀬さんからもらったの」

なるほど。ヤシガニさんの家からカニを貰った。共食いにならないのかな。

 ほじほじほじほじ。

 カニを食べている間は、家族の団欒は一時停止である。カニはプラモデルと食事を一緒に楽しんでいるような食べ物である。カニの殻を接着剤で繋いでカニ復活ってやりたいと思った。

 きっと臭くなるね。

 

 

 夕食が、終わって部屋でごろごろとしていると、妹がやってきた。

「にーくーんー」

肉あつかいするな。

「なんだよ」

「ひう。あ、朝はごめんなさいっすー」

知らず知らずのうちに口調が厳しくなっていたかもしれない。

「い、いや。すまん。で、なんだ?」

「あのっすねー。いつまで真奈美っちの面倒をみるつもりっすかー」

偶然か、美沙ちゃんと同じことを言い出す。

「お前も、もう社会復帰できてると思うのか?」

「思うっすー。まぁ、まだだいぶ変人の部類だとは思うっすけどー」

そういう妹の着ている服は、リアルな髑髏の両目にダイアモンドが入ったイラストのTシャツだ。こいつに変人扱いされるとは、真奈美さんもたいした高レベルである。

「少なくとも、学校には一人で行けるっすしー。毎日、にーくんが面倒を見なくても生活できるっすー」

「そうか…」

美沙ちゃんも、そんなことを言っていたな。女の子の見立ては厳しいのか?

「にーくん?」

「なんだよ」

「私が、引きこもったらどーするっすかー」

「ねーな」

「仮定の話っすよー」

妹は、なにやらTシャツの『骸骨金剛石X2』と描いてあるロゴの辺りをつまみながら言う。つまんで持ち上げもお前の胸はペッタンコだ。

 妹が引きこもるとか、魚が水に入るのを怖がるくらいありえないことだと思うが、一応考えるか…。そうだな…。

「上野を呼ぶ」

「なんすか、それは?」

「上野を全裸に剥いて、お前の部屋に放つ」

「……にーくん?」

「そうすれば、お前は絶対に部屋から出てくる」

「…私が、言って欲しい答えとはだいぶ違ってたっすー」

「欲しい答えが決まってたら、質問するな。意味ねーから」

「………欲しい答えが決まってたら、どうしたらいいっすか?」

「お願いなら言ってみるのもいいけど、たぶん聞かないぞ。少なくともタダじゃやらんと思う」

なにをさせたいのか分からないけど、ろくでもないことだということだけは分かる。

「…真奈美っちのはタダでやってるっす」

真奈美さんに関しては美沙ちゃんのお願いだからな。百万ドルの笑顔が報酬だ。あとDカップのふくらみを毎日見れるとか十分すぎる。

「お前らしくないな。なんで、そんなに回りくどいんだ?」

「……もういいっすー」

勝手に邪魔しに現れて、勝手に帰って行った。本当に意味がわからない。

 

 さて。落ち着いたところで、美沙ちゃんのプレゼント。プレゼント。

 いそいそいそいそ。

 袋の中から出てきたのは、案の定の文庫本だった。「ふたりがここにいる不思議」というタイトルの本だ。美沙ちゃんからのプレゼント。あわてて開かずに、まずは表紙を眺める。つるつるの加工がしてあるカバーではなくて、わりと普通の紙に印刷されている。地味だけど暗くない絵の表紙。「ふたりがここにいる不思議」か…。素敵なタイトルだな。美沙ちゃんと俺の二人がここにいるのは不思議といえば不思議だ。妹と美沙ちゃんが友達なのはいい。だけど、ここまで美沙ちゃんと親しく慣れたのは、真奈美さんが引きこもったからだ。真奈美さんの引きこもりが美沙ちゃんも妹も手に負えなかったからだ。俺だって、一度あきらめた。妹の計略にひっかかった。再度挑戦した。それで、ここまでやってきたのだ。真奈美さんが引きこもったのはいじめられたからだ。なんで、いじめられたんだろう…。

 沢山の偶然が積み重なって、俺と美沙ちゃんはこうやって本を交換した。ふたりがここにいる不思議。この本は俺が読まなさそうな本。この本を手にしている不思議。

 縁。

 これはたぶん。そんなもの。

 読むのは、もう少し後にしよう。あわててはもったいない。

 せっかくの、奇跡の縁でやってきた本なのだから。

 静かに机の真ん中に本を置く。

 んふー。本の表紙だけで幸せな気分になった。

 風呂に入って、今日はもう寝よう。

 

(つづく)

 


 
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