No.491175

IS ――十六条の陽光――

改大和型さん

2041年夏――日米関係の歪が明らかになった頃、ある少年の両親が殺された。少年もまた、左目を失った。
幼くして両親を失った少年は遺産目当ての親戚を拒絶し、自衛官を務める小父の下に自ら赴く。

それから12年後――
少年は紆余曲折を経てIS学園へと入学する。

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2012-10-02 01:16:20 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:770   閲覧ユーザー数:756

本章 1-2 彼らの宿命

 

 

 

――『IS』 正式名称:インフィニット・ストラトス

 

日本の天才科学者――IS発表当時は女学生であった――、篠ノ之 束(しののの たばね)によって開発された飛行パワード・スーツ。本来は宇宙での活動を想定したマルチフォームスーツになるはずであったが、予想に反して一向に開発が進まず、その高いスペックを買われ兵器へと転用されたが、各国の思惑により現在はスポーツへと落ち着いている。

戦闘時に操縦者をあらゆる物理的攻撃から守るための『操縦者保護機能』を始め、戦闘機をも翻弄できる三次元機動、様々な武器を瞬時に呼び出すことの出来る量子変換(インストール)などの高い基本性能を持っているが、『女性にしか扱えない』という最大の欠点があり、これが『女尊男卑』の風潮を生み出してしまった。

 

そう『ISは女性にしか扱えない』、筈であった。

がしかし、現実に大和と世界初の男性操縦者、彼の真後ろに着席している織斑 一夏(おりむら いちか)はISを動かし、それを直に見ていた証人も大勢いる。

 

((どうしてこうなった))

 

織斑一夏も草薙大和も、凄みを効かせつつある視線の中でほぼ同時に同じ事を思ったが、それは神のみぞが知るところだった。

 

~ ~ ~ ~ ~

 

女子37名の視線――美月は未だ寝ている――に大和が慣れ始めた頃、ガラリと音を立てて教室前方のドアが開いた。

現れたのは教師らしき女性。わざわざ『らしき』とつけたのは、その女性が童顔で年上とは思えないほど小柄だったからだ。ただ胸は見た目不相応に成長しており、男のみならず同姓の目線まで引き付けてしまう。実際、後方の織斑や他の女子たちも一様に釘付けになっていた。

俺はというと、未だに美月の頭を撫で続けていた。

彼女の長い黒髪は梳いたときに殆どひっかからないほど艶やかで、よく手入れされているのが分かる。そして匂い。梳くだけで広がっていくこの温かな匂いは、殺された母のものと似ていた。彼女と出会って初めてその匂いを嗅いだ時、不覚にも涙が出てしまい、彼女が慌てふためいていたのを思い出す。自分と同じ、普段は無表情な少女が慌てている姿には、なんだか和みを感じた。

 

「…ん…。…やまと?」

 

漸く彼女が起きたようだ。

まだ半目で舌足らずなところを見るに、完全に覚醒したわけではない。その無防備な姿も、やはり可愛い。

そう思っている間にも、時間は進んでいた。

 

「え、え~と、じゃあ自己紹介を名前順にお願いします」

 

自身の挨拶の返事が無言であったことに慌てている一年一組副担任、《山田 真耶|やまだ まや》は取り合えず場を進めようと思ったのか、焦りと悲しみの混じった声で、自己紹介をするように指示した。若干涙目なのは彼女のメンタルの弱さゆえか、それとも今までとは違う生徒たちに対応でき無い不安からか。…恐らく両方であろう。

 

「一番最初は…相坂(あいさか)さん!」

 

「は、はい!」

 

名前を呼ばれ、緊張の面持ちで勢いよく立つ女子生徒。急いで立ち上がったため、椅子の地面を引っかく音が五月蠅(うるさ》)かった。

クラス最初の自己紹介というプレッシャーに耐えながら、彼女はさりげなく男子――つまり俺と織斑――へのアピールを混ぜるという、なかなか図太い挨拶をしていった。

 

~ ~ ~ ~ ~

 

2,3人ほど挨拶が過ぎ、今日一日の目玉・世界初の男性IS操縦者、一夏の出番となった。女子生徒が、一斉に期待に満ちた目を向けた。『キラキラ』というよりは、『ギラギラ』という野獣の視線。

しかし当の織斑はといえば、顔を青くしてまだ座り呆けている。

真耶に『織斑君?』と呼びかけて漸く慌てながら立ち上がり、

 

「え~っと、織斑一夏、です。何故かISを使えるようになってしまいましたが、男だからといって気にせず接してくれると嬉しいです」

 

と、『何の台詞も用意してませんでした』と言わんばかりのタドタドしい挨拶をした。当の本人は本当に疲れたような顔をしながら、やり終えた感満載の心で思った。

 

――『とりあえずこれで良いかな』

 

しかし彼の安堵はホンの一瞬だった。(情報)に飢えた女豹たちに、テレビで知れるような常識や形式張った挨拶などは、最早どうでもいいことだった。

彼女らが欲しいのは彼の個人情報だ。何が好きで、何が得意で、趣味は何で、好きな食べ物は何で、そして、どんなタイプの女子が好きなのか。最後の情報はまず得られないとしても、その他の事項だけは聞いておきたい。

結果その執念が少女たちの目を血走らせた。

一夏は女子たちの異常な雰囲気をそこはかとなく察知しながらも自身に向けられている視線の意図が分からず、ただ、座ってはならないという事だけは本能的に悟っていた。

 

そして、その場に静寂が訪れた。

 

~ ~ ~ ~ ~

 

――…何をしているんだ?

 

美月を愛でることに無我夢中だった大和も、あまりの静けさに視線を教室へと戻した。

クラスの女子全員がこちらを向いていたのには驚いたが、その焦点が織斑に向いていることに安堵し、と同時に何があったのだろうかと後方に振り向いた。

 

刹那、織斑が助けを求める視線で、必死な形相をして訴えかけてきた。

 

彼にしてみればいきなり放り込まれた空間で何故か女子の視線に晒されて、参っているのだろう。

ただ残念なことに、彼の悲惨(?)な現状も大和にとってはどうでもいいことなのだった。大和は振り向けていた視線を美月の寝顔へと戻し、何事もなかったかのように彼女の髪を梳き始めた。後ろの一夏が涙を流していたが、大和の興味の対象にはなり得るはずも無かった。

 

~ ~ ~ ~ ~

 

一夏が汗の流しすぎによって水分不足になり始めた頃、救世主が現れた。

 

ガラリとドアを開け現れたのは、世界最強と称される女性。黒いスーツに身を包み堂々と歩むその姿は、古の武士を連想させる。クラス中の視線を一手に惹きつけた彼女の名は、

 

『諸君、遅れてすまない。私が、一年一組担任、織斑 千冬(おりむら ちふゆ)だ』

 

 


 
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