No.490848

インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#84

高郷葱さん

#84:文化祭 二日目 その一



前の投稿から一ヶ月掛ってこれかよ…

続きを表示

2012-10-01 10:41:11 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1859   閲覧ユーザー数:1764

日本国内、某所。

 

『―――以上だ。……勝手な真似はしてくれるなよ?スコール。』

 

「………了解。」

 

プツン、と音を立ててモニターが暗転すると部屋は完全な闇に包まれた。

 

そんな暗闇の中、金髪長身の女性は忌々しそうに表情をゆがめていた。

 

「―――老害共がっ!」

 

握りしめられていた拳が震え、行き場を無くした鬱憤が壁に叩きつけられる。

 

ドゴン!!

 

轟音とともに凹み、ひび割れる壁。

しかし、陽炎のような揺らめきを纏った拳は全く傷つく事も無く、壁にめり込んでいる。

 

「スコール!大丈夫か!?」

 

そこに飛び込んでくるロングヘアーの女性。

その表情は心配の一色であり、壁を殴った音を聞きつけて駆けつけてきた事が一目で解る位に慌てていた。

 

「……オータム。」

 

「壁が……手は大丈夫なのか?」

 

壁に視線を向け、驚いた顔をうかべた後にスコールの元に駆け寄り手を取るオータム。

 

「…ええ、大丈夫よ。―――また、修理をしなくてはね。」

 

「壁よりもスコールの手の方が大事だ。……また、『ヤツら』か。まったくあのジジイどもは…」

 

顔を憎悪に歪め、沈黙しているモニターを睨みつけるオータム。

ISが有れば機銃弾でも叩きこみに行きそうなくらいな勢いだ。

 

「オータム、そこまでにしておきなさい。」

 

「スコールがそういうなら………」

 

そんなオータムをスコールは優しく抱きとめる。

すると急に大人しくなるオータム。

 

「いい子ね。」

 

「…そういえば、エムのヤツは?」

 

スコールに頭を撫でられているオータムはバツが悪そうにしながら呟くように言う。

 

「ああ、あの子なら出掛けてるわ。」

 

「出掛けてる?」

 

「あの子が妙に乗り気だったから任せたんだけど…あの様子じゃ無駄足になりそうね。」

 

「?」

 

訳が判らなくて、オータムはただ撫でられながら首を傾げるしかできなかった。

 

 * * *

 

[side:   ]

 

IS学園の正面ゲートは何時にない活気に満ちあふれていた。

 

「来賓の方はこちらで受け付けをお願いしまーす。」

 

「一般入場の方はこちらで入場券確認を行います。」

「列にならんでくださ~い。」

 

学園が招待した来賓と生徒が招待券を渡したごく一部の人しか入場できないIS学園の文化祭であるが、それであっても入場開始当初から大混雑だった。

 

「一般入場の最後尾はこちらになります!」

「列を崩さずに並んでください!」

 

受付担当の生徒や職員、果ては警備の為に上空に居たラファールや打鉄までが入場整理に駆りだされる大混雑。

その一角で………

 

「え―――入れない……んですか?」

 

フリルの多用されたノースリーブのワンピースを着た少女――エムは愕然としていた。

 

「ごめんなさいね。来賓用の入場券は当人が居ないとダメなのよ。」

 

「そんな………」

 

落胆に肩を落とすエム。

瞬間的にゼフィルスを使っての強行突破という手段が思い浮かぶが『目的』の為には使えない。

 

さて、どうしたものか―――と、その時。

 

「ああ、すまないね。その子はウチの連れなんだ。」

 

エムは不意に背後から聞こえた声にハッ、と振り返る。

 

そこに居たのは白衣のようにも見える白い上着を着た『如何にも研究者』風な眼鏡をかけた優男だった。

 

「え、でも、この子の持ってる招待状は――」

 

「ああ、恥ずかしながらウチの護衛をやってくれているメンバーが食あたりを起こしてしまってね。その代理をやれる人物が居ないかと彼女(・・)に相談したら人を送ってくれるというそうなんだ。」

 

「はあ……」

 

「つまるところ、この子は私の連れと言う事になる。故に私の招待券で入場しても問題は無いだろう?」

 

「あ、はい。どうぞ。」

 

「ああ、ありがとう。」

 

『ついて来い』と言わんばかりの優男。

エムは胡散臭さや怪しさに警戒しつつも、折角入場できるのだからと後に続いてゆく。

 

 

「………どういうつもりだ。」

 

護衛としておかしくない位置取りをしてエムは低く小さな声で『優男』に問う。

 

「ん、何がかな?」

 

「見ず知らずの私を何故護衛(つれ)と偽った?自分で言うのもなんだが相当の不審者だぞ。」

 

「何、君の上司(ミューゼルくん)と顔見知りなだけだよ。」

 

「ッ!?」

エムの顔が強張った。

(コイツ、何故!?)

 

「さて、護衛はここまでで良いから好きに回ってきたまえ。」

 

「…は?」

 

「それが目的なのだろう?護衛不在は辺りの見回りにでも行っていると言っておくよ。」

 

胡散臭い。

怪しい。

 

 

信用できる要素など欠片もないハズなのに、何故か『信じられてしまう』。

 

「………一つ、聞かせて欲しい。」

 

「なんだい?」

 

「――お前は、何者だ?」

 

エムが冷たく、鋭く問う。

 

その答えは―――

 

今は(・・)しがない研究所の所長だよ。」

 

「――今は…?」

 

「では、達者でね。織斑 和(オリムラ マドカ)くん。」

 

「ッ!待―――」

 

呼び止めようと、捕まえようと手を伸ばすが、その手は届かずに優男は雑踏の中に消えてしまった。

 

この中から探し出すのは中々に骨が折れるだろう。

 

「………一体、何者なんだ?」

 

その呟きも雑踏が織りなす騒音に掻き消されるのであった。

 

 

また、そのほんの人垣一枚隔てた向こうで発せられた声も誰に届くでもなく消えて行く。

 

「………さて、流れは変わった。今回はどうなるのやら………ゆっくりと見させてもらうよ。マキムラくん?」

 

その言葉の意味と、暗示する物が判らぬままに。

 

「さて、理事長に挨拶しに行くとしようか。」

 

雑踏の中に消えてゆく男。

 

その姿を追う事はもう誰にも叶わない。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
2
1

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択