No.486247

すれ違わない日常(rap/室青・腐向け)

バレンタインという時期はずれネタですが、過去小説なので気にしないでください。選んで投下するので、全体的にまったりした話中心になります。今回結構、修正入れてやった。青目線で、喧嘩した話。甘め。

2012-09-19 23:52:53 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2451   閲覧ユーザー数:2451

 

室井さんと喧嘩した。すぐに原因も思い出せないぐらいの、つまんない物。

 

 今日は世の中的にバレンタインデーというやつ。たまたま室井さんの休みと俺の非番がかぶったから、今日一日は二人っきりで過ごそうと決めたのに。

 

 確かにふたりっきりという意味では叶っているけど、部屋に重い空気背負ったままでは意味がない。

 

 今だって室井さんのソファで、見てもいないテレビを見ている。

 

 帰るのは簡単だ。だのに俺は帰る気配も見せず、くつろぐフリをする。

 

 室井さんは、どうなんだろう。自室にこもることもせず、ダイニングテーブルの椅子に座って、新聞を読んでいる。いや、読んでいるフリをしている。

 

 お互いが、お互いの行動に気を張っているんだ。

 

 俺は室井さんに気付かれないよう、小さくため息をつく。

 

 時刻はとっくに昼をこえ、おやつの時間だ。本当は、こんな日になる筈じゃなかった。

 

 何をするかっていったら、特には無い。日帰り旅行しようとか、ご馳走を食べに行こうとかじゃない。二人でどうでも良い会話をしながら食事したり、だらだらと時間を気にせず過ごしたり。

 

 普段が慌ただしいから、本当に、ふたりでのんびりと居たかっただけなのに。

 

 一体いつまで、俺達は一言も会話を交わさずに同じ空間にいるんだか。

 

 もう俺も室井さんも、分かっているんだ。

 

 怒る気力はとっくに失せて、意地だけが残っているって事を。

 

 新聞のページを何度も折る音が耳に届く。既に読み終わっているのも分かってる。

 

 俺も何回もチャンネルを押す。全く見る気が無いのは知られている。

ついでに、まともにご飯を食べてないことに気付いた。昨日、室井さんと『明日は何食べましょうか』なんて話していたなあ。

 

 空腹を誤魔化すために煙草でも吸おうと、手を伸ばしてみれば空っぽだった。ヘビースモーカーの俺が、吸える環境で煙草も無しにいられる訳がない。

 

 仕方無しに鞄を取りに行こうとした時、俺はその鞄の中に、有る物を入れていた事を思い出す。

 

 その瞬間だった。

 

 ぐ~きゅるるる・・・・・・。

 

 部屋中に響く、間抜けながらも切迫した音。

 

 間違いなく、俺の腹の虫だ。

 

 俺は見たくないのに、無意識に室井さんの方へ顔を向けてしまった。固まった俺を見る室井さんも、一瞬固まっていたが、しばらくすると喉の奥から聞こえる笑い声。

 

「室井さん」

 

 非難めいた声も何のその。

 

「す、すまん」

 

 室井さんの中で、どこのツボに入ったのか、必死に笑いをこらえている。珍しい光景だ。

 

 希少価値な室井さんに、それなりに恥ずかしい俺は声を荒げて文句でも言ってやろうかと思ったけど、もう怒鳴るのは疲れた。

 

 ここはため息一つ。軽くて明るい、ため息一つ。

 

 俺は自分の鞄を開けて、新しい煙草と一緒に薄くて四角い箱を取り出した。そして室井さんの隣の椅子に座るや、シックなラッピングがされている箱を、自ら開ける。

 

「青島、これは?」

 

 手の中に収まる程度の、箱の中に入っていたのは、ひと口サイズのチョコレート。ちなみに6個入。突如テーブルに置かれた食べ物に、室井さんも笑いを収めた。

 

「今日、バレンタインデーでしょ。昨日コンビニで思い出して、買ったんです」

 

 この時期のコンビニは、バレンタイン用の棚が設置されている。専用フロアよりはマシだが、正直、男がそれを買う恥ずかしさったら無い。けどその羞恥は、レジに持っていってから気付いたんだから、どうしようもない。

買ったのなら渡したかった。いや、渡したかったから自然に買っていたんだ。

 

 この場合、忘れていた、なんて事は伏せておく。男の俺がわざわざ買ったのだから、それだけで感謝して欲しい。そんなちょっと上から目線で言いながら、これを渡すつもりだったんだけど、何も出てこない。

 

「室井さんも良かったらどうぞ。あんたもどうせ腹減ってるんでしょ。ていうか、あんたの為に買ったやつだから責任持って食べてください」

 

 そう言って、一つ摘んで口にする。胃に染みる甘さに、正直美味しくて頬が緩みそうになった。やはり食べる事は大事だ。

 

 一方の室井さんといえば、人の物を先に食べる俺の姿を見て、息を吐くように笑みを浮かべている。今度は声を殺して笑うようなものじゃない。どこかホッとして、嬉しそうな顔。

 

 やだな、この人。

 

 普段そんな顔しない人が見せちゃ反則だよ。

 

 これって俺の負け?

 

 まあ、いっか。

 

「珈琲でも入れます」

 

 照れ隠しもあって立とうとした俺の腕を、室井さんは掴んだ。何か言いたいことでもあるのかなと、顔を向けたら不意打ちにキスをされてしまった。

 

 きっとこの人、これで仲直りさせようとしてるんだ。

 

 せこい。

 

 ずるい。

 

 やっぱ、卑怯モン。

 

 でも面と向かって謝れない大人になったのは、お互い様か。それに、こんなくだらない喧嘩なんて両成敗だもんね。

 

 俺は室井さんの首に腕を回して、室井さんからの仲直りに応えた。チョコの味のキスっていう所だけ、バレンタインぽい。

 

 まだ時間はあるんだし、俺たちは残りの休暇を本来の目的に当てることにした。つまりはこんな風に、一緒に過ごす事。

 

 

<了>


 
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