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IS -インフィニット・ストラトス- ~恋夢交響曲~ 第三十八話

キキョウさん

恋夢交響曲第三十八話

2012-09-16 00:16:09 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1037   閲覧ユーザー数:1023

夕食の後、俺は一人で旅館の屋上に来ていた。理由はまぁ、多々あるが、主な理由は戦闘が終わった後の未来の言った言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しばらく、眠る?」

 

『うん。私は元々、あってないような存在。今回『約束の場所』で奏羅に会って話すことができたのも、ほんのちょっとした奇跡なの』

 

「じゃあ、俺達はもう・・・会えない、のか・・・」

 

『ふふっ、大丈夫。また会えるよ。この世界は常日頃からいろんな奇跡に満ち溢れてるの。みんなは何気ないことだと思ってるのかもしれないけど、本当は一秒一秒が奇跡の連続なの。だから――』

 

 

 

 

 

 

 

 

「絶対にまた会える、か・・・」

 

未来の言葉を思い出しながら、なんとなく口に出した希望とも言える言葉。でも、それが本当になると俺は信じることにした。

 

「しかし、今日は大変だったなぁ・・・」

 

自分で言っておいてなんだが、今日一日の感想が全部この言葉に詰まってる気がする。いろんなことがあって、長かったような短かったような、そんな変な感覚を感じながらぼうっと海を眺めていた。

 

「何たそがれてるの?」

 

不意に、後ろから声をかけられる。その声の主は俺のよく見知った人物。

 

「別にたそがれてなんか無いですよ、旭さん」

 

そう、幼馴染の塚乃旭。

 

「まあたそがれてる云々は置いといて、良い事はあったみたいだね」

 

「なんでそう思う?」

 

「うーん・・・幼馴染の勘、かな? なんとなくだけど、奏君嬉しそうだし」

 

そう言いながらケラケラと笑う旭。付き合いの長さは伊達じゃないようだ。

 

「そういえば、今回のゲリラライブの件はなんて言われた?」

 

俺は少し心配になっていたことを聞いた。

先生たちを引きつけるためとはいえ、今回の事件に関わってしまったことには代わりはないのだ。

 

「福音のことは口止めされたよ。ライブは、まあタイミングがいつであれ、この臨海学校でIS学園の人たちにアイリスの発表はする予定だったし、お披露目扱いということにしてもらったの。本当は生徒達に見せるつもりはなかったんだけどねぇ・・・」

 

「ってことはつまり――」

 

「特にお咎めはなし。でも、メディアに発表するにしてもいい話題になるんじゃないかな? 『IS学園に突然の乱入者! その正体は新型ISに乗ったアイドル!』」

 

「・・・のんきなもんだな」

 

「IS学園の人たちはちょうどいいと思ったみたいだけどね。暴走したISをメディアに知られる前に、私の乱入を代わりに発表すれば――ってね」

 

なんというか、誤魔化すのには絶好の話題なのかもしれないけど・・・。

 

「もしそうなったとして、お前はそれでいいのか?」

 

「うん、私だって事情はわかってるよ。それに――」

 

「それに?」

 

「アイドルの仕事はみんなを笑顔にすること。この嘘で誰かが笑顔になるんだったら、私は喜んで嘘をつくよ」

 

誤魔化すために嘘をつく、それがわかっているはずなのに旭はいつもどおりの笑顔でそう言った。

 

「なんかすごいな、お前」

 

「すごくなんて無いよ。みんな、嘘を付く責任とか、罪悪感が怖くてしようとしないだけだよ。あ、後は周りの人も嘘をついたとわかったらとたんに非難したりするから、それも怖かったりとかもあるんだろうね」

 

「いや、その心構えがすごいって言ってるんだよ」

 

さも当たり前のような口調の旭を見て、素直な感想が出てしまう。毎回のことだがこいつには驚かされてばっかりのような気がするな。

 

「さて、じゃあ私は部屋に帰ろうかな」

 

「そうか? なら、部屋まで送るよ」

 

「そんな子供じゃないんだから大丈夫。あと、これもあの子の笑顔の為だしね」

 

「どういうことだ?」

 

「あ、いや、なんでもないよ。それじゃ!」

 

意味深な言葉を残して小走りで走り去っていく旭を見送った後、旭の言った言葉を思い出していた。

 

「仕事・・・笑顔にする・・・か・・・」

 

すると、後ろから足音が聞こえてくる。旭がなにか忘れたのだろうか?

 

「どうした? 忘れ物か?」

 

「あっ・・・」

 

しかし、そこにいたのは俺が予想していた旭の姿はなく、代わりにセシリアの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

俺とセシリアは二人並んで屋上のフェンスのそばに立って海を眺めながら終始無言だった。なにか話せばよかったんだろうが、なんというか、雰囲気が話しかけちゃいけないような気がしたのでずっと黙ったままだった。

 

「あ、あのさ」

 

しかし、この空気にいたたまれなくなった俺が口を開く。

 

「さっきはありがとう。セシリアが俺を庇いながら戦ってくれたんだよな」

 

「・・・・・・」

 

話しかけてはみたが、無言で返される。なんだかセシリアの様子が少しおかしい。

 

「あー、えっと・・・」

 

こういう時旭がいたら空気が変わるんだろうが、さっき帰ってしまったから俺が何とかしないといけない。どんな話題がいいか色々と思案していると、セシリアが口を開いた。

 

「わたくしは代表候補生失格かもしれません・・・」

 

「・・・え?」

 

いつも自信満々のセシリアの口から思いがけない言葉が出てくる。

 

「奏羅さんを、何度も危険な目にあわせてしまいました・・・。いつも、あんなに大きな事を言っておきながら、あなたを満足に守ることすら出来なかった・・・」

 

セシリアの目に涙が光る。どうやら、相当思いつめてるみたいだった。

 

「もし、もしも、あなたが死んでいたらと思うと、わたくしは・・・わたくしは・・・」

 

「あのさ、俺は感謝してるって言ってるんだ。謝られるいわれはないぞ?」

 

「でも――」

 

「でもも何も無いよ。過程がどうであっても、俺を守ってくれた事実は変わらない。結果的に俺は助かった、それはセシリアのおかげだよ」

 

「奏羅さん・・・」

 

「なんだ、未だ不安なのか? なんだったら心臓の音でも聞いてみるか? ほら来い、そら来い」

 

「っ!? け、結構です!」

 

顔を真っ赤にさせてそっぽ向くセシリアの様子をみて、俺は少し安堵した。なんとか慰めにはなったみたいだ。

 

(そういえば、旭が言ってた『あの子』の笑顔のためって、もしかして――)

 

そこまで考えた時、

 

「ん? あれ・・・」

 

ふと海岸沿いを見ると、箒の手を引いた一夏が、鈴に追いかけられている。

 

「まったく、あいつらは・・・」

 

「懲りませんわね」

 

一夏たちの様子を見ながら、俺とセシリアは顔を見合わせて笑いあった。

 

「セシリア、助けてくれてありがとな」

 

「下々を守るのは貴族のつとめ、当然のことをしたまでですわ」

 

もしかしたら、本当はこの笑顔の為に俺は屋上に来たのかもしれない。そう、一秒一秒の奇跡に導かれて――

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、朝食を終えてIS及び専用装備の撤去を行った後、俺たちはこの旅館から学園に帰るバスに乗り込んでいた。

 

「あ~・・・」

 

隣の席で死にそうな声をあげる一夏。昨日は一時間近く追い回された挙句、旅館を抜けたことがバレて織斑先生に大目玉を食らったらしい。そのおかげで睡眠時間が三時間くらいだったらしく、その後の重労働もあっていわゆるグロッキーといった感じだ。

 

「すまん・・・箒、ちょっと飲み物を――」

 

「な、なにを見ているか!」

 

一夏が箒に視線を向けた瞬間、箒の顔がボッと赤くなり、いきなり一夏にチョップをしていた。どうやら飲み物をあげる気はないらしい。

 

(自業自得なんだろうけど・・・)

 

なんだかかわいそうな気もする。

 

「一夏、俺の飲みかけのサイダーでいいならやるけど・・・」

 

「おお、ありがとう奏羅! やっぱ持つべきものは友達だなぁ!」

 

俺が飲み物を渡したその瞬間、目の前に4つの影が並び立った。

 

「い、一夏さん! そんな飲みかけじゃなくてここに新品の紅茶がありますわ! 疲れていらっしゃるようですし、そんな炭酸飲料よりかはリラックスできるはずです! これと交換して差し上げますわね!」

 

「いやいや、セシリア。こっちのミネラル満点のスポーツドリンクのほうがいいよ! それに僕サイダーちょうど飲みたいと思ってたんだ! ほら一夏、これと交換しようよ」

 

「ふたりともなにを言っているか、こっちの天然水のほうがいいに決まっている。 一夏、そのサイダーを私によこせ!」

 

「三人とも落ち着け! ここは私の持っている日本茶をやろう。だから一夏、それは奏羅に返してやれ!」

 

なぜか必死な様子の四人。てか、箒はさっき飲み物をあげない素振り見せてなかったか?

あーでもない、こーでもないと四人が言い合いを続けている中、車内に見知らぬ女性が入ってきた。

 

「ねぇ、織斑一夏くんっているかしら?」

 

「あ、はい。俺ですけど」

 

俺たちは一番前の席にいたので一夏がそのまま反応した。

その女性は大体二十歳くらいで、鮮やかな金髪。格好はおしゃれなブルーのサマースーツで同じくスーツを着ている織斑先生とはまた違った雰囲気の人だった。

 

「君がそうなんだ。へぇ・・・。じゃあ、君が天加瀬奏羅くんね?」

 

とりあえずうなずいておく。するとこの女性はサングラスを傾けると観察するように俺達を眺めてきた。

 

「あ、あの、あなたは・・・?」

 

視線に耐えられなくなったのか一夏が質問をする。

 

「私はナターシャ・ファイルス。『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の操縦者よ」

 

「え――」

 

予想外の言葉に一夏と俺は困惑していると、ナターシャさんはいきなり一夏の頬にキスをしていた。

 

「これはお礼。ありがとう、白いナイトさん」

 

「え、あ、う」

 

「じゃあ、またね。バーイ」

 

「は、はい・・・」

 

そう言ってバスから降りるナターシャさん。一夏はそのままぼーっと手を振っていたが、俺は気になることがあって彼女の後を追いかけた。

 

「あ、あの!」

 

「何? 君もキスして欲しかった?」

 

「え? いやいやいや、そうじゃなくてですね・・・。あの、助けられなくてすみませんでした」

 

「・・・私は助かってるわよ?」

 

「いえ、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』を、です」

 

俺の言葉にナターシャさんがハッとする。そして、少し悲しそうに微笑みながら、

 

「ふふっ、そう言ってくれるとあの子も報われるわ。・・・ありがとう」

 

そう言って俺の頬にキスをした。

 

「え、あ、えっと、どう、いたしまして・・・」

 

「・・・それじゃあね、天使さん。また会いましょう」

 

ナターシャさんを見送りながら頬に残る余韻になんとなくくすぐったい気持ちになってしまう。イカンイカンと気持ちを落ち着けながらバスに戻ると、

 

「・・・しばらく見ないうちにボロボロになったな」

 

「ホント、なんでだろうね・・・」

 

先程よりも死にそうになっている一夏の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

バスから降りたナターシャは目的の人物を見つけてそちらへと向かう。

 

「おいおい、余計な火種を残してくれるなよ。ガキの相手は大変なんだ」

 

そう言ってきたのは千冬だった。

 

「思ったより素敵な人たちだったから、つい」

 

「やれやれ・・・。それより、昨日の今日でもう動いて平気なのか?」

 

「ええ、それは問題なく。――私は、あの子に守られていましたから」

 

ここで言う『あの子』というのは、暴走によって今回の事件を引き起こした福音のことを指していた。

 

「――やはり、そうなのか?」

 

「ええ。あの子は私を守るために、望まぬ戦いへと見を投じた。強引なセカンド・シフト、それにコア・ネットワークの切断・・・あの子は私のために自分の世界を捨てた」

 

言葉を続けるナターシャは、先ほどまでの陽気な様子など微塵も残してはいなかった。

 

「だから、私は許さない。あの子の判断能力を奪い、全てのISを敵に見せかけた元凶を――必ず追って、報いを受けさせる」

 

福音は、そのコアこそ無事だったが、暴走事故を招いたことから今日未明に凍結処理が決定された。

 

「・・・なにより飛ぶことが好きだったあの子が、翼を奪われた。相手が何であろうと、私は許しはしない」

 

「あまり無茶なことはするなよ。この後も、査問委員会があるんだろ? しばらくはおとなしくしといたほうがいい」

 

「それは忠告ですか、ブリュンヒルデ」

 

「アドバイスさ。ただのな」

 

『ブリュンヒルデ』と呼ばれるのが嫌いな千冬は、すこし眉を寄せながら応えた。

 

「――ひとつ、聞いておきたいことがある」

 

「なんでしょう?」

 

「『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』、それに兄弟機と言える似たような黒い機体はあるか?」

 

「・・・いえ、そんなものは存在しませんが?」

 

「そうか、ならいい。すまなかったな」

 

「そうですか。では、忠告通りおとなしくしていましょう。・・・しばらくは、ね」

 

一度だけ鋭い視線をかわした二人は、互いの帰路に就く。

 

(また――)

 

(――いずれ)

 

そんな言葉が二人の背中にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

日本、とある空港。様々な人が行き来する玄関口とも言える場所に、一人の女の子が降り立った。

 

「うん、ちょうど着いたとこ。大丈夫、わかってるって」

 

携帯電話で話しながら、空港から出るために少女は歩を進めていく。

 

「もー、いっつもそればっか。大丈夫だから。うん、やることはちゃんとやるよ! わかった、わかったから。うん、切るよ。じゃあね」

 

半ば強引に話を終わらせて通話を切ると、少女は大きく伸びをした。

 

「あー、疲れたー。飛行機って座ってばっかで何も無いから嫌いなんだよねぇ・・・」

 

タクシー乗り場に向かいながらブツブツとひとりごとをつぶやく。薄い金色に輝く綺麗な髪が、歩くたびに揺れていた。

 

(たくさんやることあるけど・・・まぁ、まずは憂さ晴らしに――)

 

少女が近寄るとタクシーのドアが開く。彼女は乗り込みながら運転手に行き先を伝えた。

 

「すみません、ここから一番大きなゲームセンターまで!」

 


 
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