No.480260

恋姫夢想 真・劉封伝 8話

志半ばで果てた男がいた。その最後の時まで主と国の未来に幸あらんことを願った男。しかし、不可思議な現象で彼は思いもよらぬ第二の人生を得る事に。彼はその人生で何を得るのか…

2012-09-05 23:10:47 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2300   閲覧ユーザー数:2044

 

何度も何度も私と公孫賛に礼をいう楼斑を宥め、ようやく会議室からでた私達は、そのまま二人と話しながら鍛錬場へと向かっていた。

これで烏丸に道が出来た!早く父にも伝えなくては!と、拳を握りながら興奮している楼斑は気にせず、公孫賛が話しかけてきた。

 

「なぁ、劉封、なんかさ、情けないところを沢山見せてしまったけど、士官する気持ちは変わってないか?出来ればさ、一緒に頑張ってくれたら嬉しいんだけど、無理強いはしたくないし…」

 

不安そうに、しかしどこか諦めているようにも見える表情でそう問いかけてきた。

私は彼女を見限るような行動をした気はしないのだが…彼女の不安をそのままにしておくわけにもいかない。

 

「私は貴方の元に来て良かったと思っていますよ。民を根幹に置いて動かれているのにも非常に好感が持てます。罷免されなければ変わらずここで働かせて頂きたいのですが…」

 

そう言っただけで彼女は本当に嬉しそうに笑った。

 

「ほ、本当か!?よかったぁ…ならさ、これから一緒に頑張るわけだから、劉封にも真名を預けたいんだけど…いいかな?」

 

「真名、ですか?先程も楼斑に告げていたようですが、それは一体なんなのでしょうか?」

 

聞きなれぬ言葉にそう聞き返してみたのだが、公孫賛は何故かとても驚いている。姓や字とも違うそれを私は今まで聞いたことがない。

この辺りの風習なのかもしれないかもしれないと思い聞き返した。

 

「劉封は漢民族だよな?」

 

「はい、荊州の生まれです」

 

それを聞くと彼女はまた不思議そうに首を傾げてみせる。

 

「真名は漢民族では一般的なんだぞ?産まれた時に親から貰う、命と同じくらい大事な真の名だ。心を許し、命を預けれる相手にしか呼ばせない大事な名前さ」

 

おかしい。そのようなものは聞いた事がない。

親から貰った記憶もなければ、他の者が呼んでいるのも聞いた事がない。

私もつい彼女と同じように首を傾げた。

 

「やはり知らないか?」

「はい、申し訳ございません…」

「いや、責めてるんじゃないんだ!知らなきゃこれから知ればそれでいいさ!」

 

謝る私に慌ててこちらに詰めより私を擁護しようとしている。そして、姿勢を正すと小さく咳払いをして真名について教えてくれた。

 

「ん、知らない者に会うのは初めてでうまく説明できるかわかんないけど…真名はな、さっきも言ったけど、それを預けられた者しか呼ぶ事を許されない神聖な名なんだ。もしな、さっき楼斑に教えていた私の真名を聞いていたからといって劉封が呼んでいたら私は剣を抜いていた…かもしれない。まあ、世間一般的には迂闊にも呼んでしまえば斬られようと文句は言えないくらいに大事なものなんだ」

 

腕を組み、私に説明をしてくれた。いつの間にか元に戻っていた楼斑も隣で一緒に話を聞いて頷いている。

異民族である烏丸では聞きなれぬ風習でも、これから関わる風習だ。彼女は仲間達にもその事を周知せねばならない立場であるし、知りませんでしたで許されるものではない大事なものと判断したのだろう。

 

「で、だ。話は戻るが、私は劉封にも真名を預けたい。これから轡を並べ共に戦場に立つ事もあるだろうし、共に北平の民を守ってくれる存在でもある。わざわざ私の元に仕官しに来てくれた事にも感謝している。だから、それに報いるためにも私の真名を預けたいんだ」

 

真剣に、そう告げる彼女はまっすぐにこちらを見つめてくる。

命に等しいもの、それを臣下になったばかりの私に預けてくれる。その信頼に応えたいと心の底から思う。

 

「私の真名は白蓮。劉封、君を信頼し私の真名を預けるよ」

 

そして、その名を告げながら朗らかな笑顔を見せてくれた。

それは人懐こく、それでいて気高くも見える不思議な笑み。

私は思わず跪いていた。

 

「はっ!確かにお預かりします!この劉封、公孫賛殿の信頼に必ずお応えしましょう!」

 

跪き抱拳礼をとる。

だが、何故か先程までの威厳のあった空気はいつの間にか霧散していた。

不思議に思い顔をあげると、困ったようにこちらをみる楼斑と公孫賛。

 

 

「…あ、あのな、真名を預けたんだから、できれば真名で呼んで欲しいんだけど………」

 

「も、申し訳ございません!」

 

後に、真名を預けられたのに呼ばないのは、預けた相手が恥をかく行為だと聞き、平謝りを繰り返す事になった。

はやくこの風習に慣れなくてはいけないと、そう深く感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは真名を預けられた後、白蓮から自然に出た言葉であった。

 

「さて、鍛錬場はもうすぐだ。あれからかなり時間もかかってしまったし、趙雲達も待ちくたびれているかもしれないな」

 

彼女の何気ないその言葉に、落雷にも似た衝撃を私は受けたのだ。鼓動が高鳴り、一瞬呼吸も止まる。そして錆びてしまったかのようにぎこちなく首の向きをかえて、白蓮の方へと向き直った。

 

「…ぱ、白蓮殿?先程なんと?」

 

「ん?だから待ちくたびれているって…」

「そこでは…っ!も、申し訳ありません!」

 

逸る気持ちから思わず彼女の言葉を途中で遮ってしまった。相当に礼を失した行為にすぐさま頭を下げる。悪い癖だ、何かに気を取られるとすぐに熱くなって周りが見えなくなる。

これが原因で一度は死んだようなものなのに、死んでも直らないとは本当に笑えない話だ。

 

「ふふっ、確かに劉封はちょっと堅いな。もう少し気軽に話してくれていいんだぞ?」

 

頭を下げたままの私の前から小さく笑う声が聞こえ、頭を上げるように促してきた。

それに従い頭を上げればやはり微笑む彼女。

 

「ほら、一応関係は主従だけど、私達は仲間なんだ。仲間の前でも常に気を張っていたら疲れちゃうぞ?」

 

「あの…はい、申し訳…」

「ああ!ほら、また堅い反応!まあ、あいつみたいに気軽すぎるのも時々困るけどな。二人を足して割れば調度いいのかもしれないけど…」

 

そういって笑顔を少し変えて苦笑へとする。自然に『あいつ』が誰を指しているかはわかった。

気軽にするように、など求められた事がなく、どのようにすればよいのか悩むところだ。

友人のように、家族のように接する方がいいんだろうか。

 

「…努力します」

 

「ああ、宜しく頼むな!」

 

「あの…劉封様?先程慌てていらしたみたいですが、どうかされたのですか?」

 

私達の会話が一段落したのを見計らってかけられた楼班の言葉にその原因を思い出した。

別の事で慌てたせいで先程よりは自然に受け入れられた。

 

「あの、白蓮殿、先程趙雲と申されませんでしたか?」

 

「ああ、なんだ。てっきり自己紹介は済ませてると思ってたんだが、この様子だとまだだったみたいだな。でも名前は知ってたみたいだし、噂でも聞いて知ってたのか?」

 

「はい!どうかお目通りをお願いします!」

 

聞き間違えでは無かった。

よかった。本当によかった。彼がここに居たのは知っていた。だが、黄巾の乱の前だとは知っていたが、いつから居たか正確な事はわかっていなかったのだ。

出会う者出会う者、以前は知らない者ばかりであったので、少しでも知る者に会えるのは非常に心強い。

しかし、ここが過去ならば趙雲殿は私の事を知らないだろう。

一から関係を作り直さなければいけないだろうが、それでも心強いのには変わりない。

再会を心待ちにする私には、鍛錬場へと続く残り僅かな道のりも非常に長く感じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それなのに…

 

 

それなのに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「挨拶が遅れたな。私の名は趙雲、字は子龍という。これから宜しく頼むぞ。劉封殿」

 

鍛錬場で趙雲と名乗るのは、何度も見た青髪の女性で、私の知る趙雲殿とは見比べる必要もないほどの別人で。

そして嬉々として私に刃引きされた素槍を渡してきたのだった。

悪い冗談のような展開に呆然としたままそれを受け取る私から距離を取り、構える姿。

良くみれば、私の知る趙雲殿の構えに似てなくもないか?

いや、構えはともかく、彼女の武術の錬度は凄まじい。朝の槍術は本当に見事なものだった。

あの時の最初の顔面を狙う一撃は武官として仕官するならば最低でもかわさねばいけないもの。

それ以降は私の力を計りつつも、当たっても致命傷にはならない場所に槍を振るっていたのだろう。

 

「む…気配が読めぬ。隙だらけに見えるが、こちらの攻撃を誘っているのか…」

 

それほどの実力がありながら無名。それはおかしいと思っていた。しかし、彼女が趙雲殿ならば全く無名ではないではないか。

しかし信じられない。信じられるはずが無い。どう見ても別人で、これは皆が私を騙そうとしているのではないかとも考えた。しかし、少し話しただけだが白蓮はそのような事をしそうな人間ではない。

という事は、もしや、この者は本当に趙雲殿であるというのか。

そしてここに私の知る趙雲殿はいないと?

それはおかしい。しかし、死んだはずの私が生きていて、過去に戻っている時点で相当な異常だ。ならばこれもありえる事なのかもしれない。

しかし、性別が違うなど想像もしていなかった。

 

そうなると、変わったのは趙雲殿だけなのだろうか?

もしや白蓮も私のいた世界の公孫賛とは違うのか?

確かに公孫賛が女という話だって聞いてなかった。それは隠していたからでは無く元々の世界では普通に男だったからか。

他の、他の武将の方々もそうなのか?

楼斑や董頓は、私の世界では男なのか?

そういえば波才は男だ。ならば波才は私の世界では女なのか?

いや、まさか、ああ見えて波才も女なのか?

 

「………動かぬ、か。ならばその誘いに乗ってやるとしよう!」

 

父である劉備様は母になるのか?

そうなると私はその義理の娘になるのか?

いや違う、私は男だ。それは間違いない。

しかし、どういうことだ。全くわからない。

父をまた支えれると思っていたのにそれは叶わないのか?

 

真名。そうだ、この風習もおかしいではないか。白蓮は漢民族なら誰でも知っていると言っていたのに私は知らなかった。

つまり、これは…

 

 

ふと、前を見たら槍が私の鳩尾に迫ってきている。

見事な突きだ。様子見なのか槍の速度はそれほどではないが、無駄の無い槍捌きには私以上の技術が垣間見える。

ふむ。さすがは趙雲殿だ。

それはなんの抵抗も無く私の腹に突き刺さった。

 

猛烈な吐き気。

ぐるぐると回る思考。

膝をつき意識が遠のいていく。

 

意識が無くなる直前、私は時を遡っただけではないのを認識するのだった。

 

 

 

 

 

 

短い上に投稿予定と違いますが、諸事情により更新しました。

いまいち劉封の混乱がうまくかけたかわかりませんが、次の二話は拠点の話になりまーす。

 

あと、バイクで事故って左手の骨が折れちゃいました。タイピングがすごく手間取って辛い…それに慣れるか治るまで、週一更新ではなく不定期更新になると思います。

皆さん、雨の日の運転は気をつけてください!

 


 
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