No.472216

裏庭物語 第2箱

笈月忠志さん

原作キャラと原作には出てこない箱庭生たちによるスピンアウト風物語。

にじファンから転載しました。
駄文ですがよろしくです。

2012-08-19 00:46:02 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:607   閲覧ユーザー数:597

第2箱「ごめんなさいっ!」

 

『序章・その弐』

 

今回の語り部:杵築(きつき) (いつき)

 

 

 

 おう。杵築 樹だ。

 

 隣のクラスの女子から、急に話があると言われて(第1箱参照)から一日経った放課後。

 

 俺は、寄田が確かに部活へ行ったのを確認してから、指定された体育館裏へと指定通り一人で向かっているのだった。

 

 話。

 どういう種類のどんな話だろうか。全く見当もつかない。

 

 ……まさかの告白か?

 甘い妄想が頭に広がる。

 

「……まさかな」

 

 それらを否定する。だって隣のクラスの彼女とは、そこまで接点はないのだ。俺を好きになる隙はどこにもない。

 

 などと考えているうちに、体育館裏へ着いた。

 

 そして、俺を呼び出した張本人である彼女はそこにいた。

 

「あっ、杵築くん! ……来てくれたんだね……!」

 

 

 内牧(うちのまき) (まき)

 

 所属:一年三組

 性別:女

 血液型:AB型

 部活:報道部

 

 

 優しそうな目に、あどけない顔。艶やかな黒髪を髪ゴムで二つに束ねている二つ結び。真面目で大人しく、清楚で純粋な印象を受ける。すらりとしたスレンダー体型も魅力的。

 

「良かったぁ、来てくれて。もし杵築くんが今日も来てくれなかったら、私どうなってたか……。うう、想像するだけで恐ろしいよ……」

 

 なんか知らない間に俺は物凄い責任を負わされていたようだ。

 

「いろいろ気になるけど、内牧さん、まずは『話』から聞かせてくれ」

 

「あっ、もう聞いちゃうの……?」

 

「聞いちゃう」

 

「っ……何かいざ言うとなったら恥ずかしいな……」

 

 照れているのか、頬を赤く染めてもじもじしだす内牧さん。少しからかってみたくなった。

 

「言わないなら帰るぞ」

 

 そう言って背を向けようとする俺の制服の袖を、内牧さんが急いで掴んだ。

 

「……ちょ、ちょっと待って……。心の準備をする時間がいるの」

 

 若干目を潤ませていた。少しやり過ぎた。

 

 俺が罪悪感に浸っている中、内牧さんは胸に手を当て深呼吸を始めた。

 

 そして最後に大きく息を吐くと、彼女の目は、先ほどまでの優しい目とは異なる、決意に満ちた目へと変わっていた。

 

「……よし! じゃあ言うから……よく聞いてて」

 

「おう」

 

 力強い返事を返す。

 

 緊張の一瞬。高鳴る鼓動。

 

 ―――しかし。

 

 

 

「……杵築くん! えっと、学園をフィールドに変えるから……その、立派な冒険家になってください……!!」

 

 

 

「……は?」

 

 気合いが入っているのか、胸の前で両手をぐっと握り締めて言った彼女のその言葉は、生粋の日本人である俺には到底理解できるものではなかった。

 

 と言うか生粋の日本人でなくとも理解できないだろ。

 

 ……まあ告白でないことくらいは理解できたけれど。

 

「あれっ、なんか違う……ような……」

 

 頭に無限のクエスチョンマークを浮かべる俺を尻目に、内牧さんはポケットからカンペを取り出した!

 

「……あ、やっぱり! 『冒険家』は間違いで、正しくは『探検家』だったね……! ごめんなさいっ!」

 

 いや知らんけども。

 

「あ~ん……またやっちゃった私……。緊張し過ぎかな……?」

 

 いや知らんけども。

 

「……内牧さん。冒険家でも探検家でもどっちにしても、大して意味は変わらないし、対して意味は分からない。問題はそこではないと思うんだけど」

 

 言い間違いを恥じているのか耳まで真っ赤になる内牧さんに、冷静に突っ込む。

 

「いやっ……あのっ……い、今のは言い間違いで……。あ、もっかいチャンスください!」

 

「……まあ別にいいけど」

 

 

 

 

 ~テイク2~

 

 

 

 

「……『報道部に入れば』……『学園中が探検フィールドに様変わり』……! 『さあ君も報道部に入って、立派な“探検家になろう”』!」

 

 言い終わるなり、ぱあっと明るい満面の笑みで、カンペに向けていた視線をこちらへ戻す内牧さん……。

 

「カンペガン見じゃねーか!」

 

「ひゃっ! ご、ごめんなさいっ!」

 

「しかもさっきと全然違う。さっきのは一体何だったんだ!?」

 

「いやっ……だから、そのっ、言い間違いというか……!」

 

「……言い間違いにも、いい間違いと悪い間違いがある」

 

「ごめんなさいっ!」

 

 あわあわとあたふたと、ひたすら謝り続ける内牧さん。

 なんか可哀想になってきたので責めるのをやめる。

 

 さて。

 話というのはつまり、ただの『報道部の勧誘』だったらしい。うん。思わせ振りもいいところである。

 

「しかし内牧さん。何でわざわざ俺を勧誘したんだ? 別に自分のクラスメイトとか友達とか誘えばいいのに。そしてどうして体育館裏なんだ? 別に廊下でよかっただろ」

 

「いやそれは……えっと、部長に……開聞(かいもん)部長に、『一年二組の杵築っていう男の子を体育館裏で勧誘しろ』って言われて……。なんか杵築くんが報道部に必要とかで……。……あ、あやふやでごめんなさいっ!」

 

 ……つまり、報道部部長が俺をスカウトしている、とな。

 二組(うち)にはたまたままだ報道部員はいないから、三組(となり)の内牧さんを派遣したのだろう。

 

 しかし今度は、何故報道部部長が俺を必要としているのか、それから何故体育館裏と場所まで指定したのか、という疑問が浮上する。

 

「ま、そんな疑問は置いといて。内牧さん、俺は高校では部活に入らないって決めててね、だから悪いけど、その話は断らせて――」

 

 ――もらいたい。と。

 

 言い終わる前に。

 

 キ――――――――――――――――――――ン

 

 ある種の耳鳴りのような。

 しかし莫大で膨大な音量がそれの比でない音の塊。

 それが俺の平衡感覚を一瞬にして奪った。

 

 地面にどさりと倒れ込む。

 

「えっ!? 杵築くん!? ど、どうしたの!? 大丈夫!?」

 

 内牧さんが血相を変えて、血相が変わった俺の所へ駆け寄ってくる。

 

 耳が、というか頭が痛い。

 脳が痛い。

 痛い痛い痛い痛い痛い。

 

「内牧さんよりイタい」

 

「……えーっと……。案外大丈夫なのかな?」

 

 言わなければよかった。

 

 

 そして、今の今まで二人っきりだったこの体育館裏に、俺のでもない内牧さんのでもない、第三者の声が唐突に響く。

 

「ごきげんよう薪さん。どうやら、というかやはり、薪さんには勧誘の仕事は合ってなかったみたいね。ワタシが加勢に来なければ、確実に逃げられてたわよ? 来てみて本当に正解だったわ」

 

 女性の声。

 女子と言うより。

 少女と言うより。

 大人の女性のような、そんな大人びた声。

 

 そして話の流れから、恐らくこの人が報道部の部長さん。

 

「部長! 勧誘の加勢に来てくれたんですね! 助かります!」

 

 いや、内牧さん、俺が助からないから。早く保健室へ連れていってくれ。

 

 そんな俺の目の訴えかけに気づいたのか、内牧さんはハッとなった。

 

「それより部長、杵築くんが大変なんです! なんかいきなり倒れちゃって!」

 

 未だにガンガンと鳴り止まない頭痛に苦しみながら、地面に踞る俺。

 

 普通は今の俺の姿を見たら慌てて保健室に運び込んでくれそうなものだが、しかしその報道部の部長さんは、踞っている俺の元へゆっくりと歩いてくる。

 

 ゆっくりと。

 ゆったりと。

 

 そして、しゃがんで俺の顔を覗きこんできた。目が合う。

 

 その時の部長の顔は――

 

 微笑んでいた。

 

 

「心配いらないわ薪さん。樹さんは、聴覚をほんの一瞬の間だけ、半径十数㎞の全ての音声情報を聞き取れるように調整されただけよ。

 

 “ワタシの手によって”。

 

 もう聴覚は元に戻しているけれど、脳の方は莫大で膨大な音声情報を処理しきれずにショートする。分かりやすく言えば、今から少しの間気を失うのよ。

 

 だから、さあ、薪さん。手伝って頂戴。樹さんを部室に運び込むわよ。

 

 この子は“我が報道部には欠かせない人材だから”。フフフ♪」

 

 

 報道部部長はそう言って、妖艶に微笑んだ。

 妖しいくらいに艶やかに。

 妖美に。

 そして艶美に。

 

 彼女が俺の何を買っているのか知らないが、俺は部活に入るつもりなどない。

 

「絶対に入部してもらうわ。逃がさないから☆」

 

 特にこんな、初対面の人に突然謎の術かなにかを仕掛ける人が部長の部活には!

 

「それじゃあ樹さん。一旦おやすみなさい♪」

 

 あれ。

 

 目の前が真っ暗に……

 

 

 


 
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