No.472090

Sonic・the・hedgehog 【Running out of control ――― EMERALD】(4)

こたさん

いつものようにソニックとエッグマンは戦っていた。ソニックが七つのカオスエメラルドを使いスーパーソニックへ変身し、誰もが勝負はついたと確信した… しかし、異変は起こった。 突然暴れ出し、ソニック達を攻撃するカオスエメラルド。一体カオスエメラルドになにが起こったのか? そして、禍々しい暗黒色のハリネズミ――「ダーク・ザ・ヘッジホッグ」。彼の目的は?そしてその正体は? ソニック達の新たな冒険が始まる!――― どうも、こたです。別のサイトで書いていたので知っている方は知っていると思われる作品を読みやすくリメイクしたものです。現在執筆中の『超次元ゲイム ネプテューヌmk2 ~Blue wind~』の方もよろしくお願いします!

2012-08-18 21:56:20 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:1089   閲覧ユーザー数:1083

 

ヒュルルルルルルル――――

 

二本の黄色い尻尾を回転させてテイルスは宙に舞い上がる。

「う~ん……ここからかなりあるな~。」

そしてレーダー上の遥か離れた場所にある該当ポイントを見てため息をつく。

「……あ、そうだ!」

そう呟くと彼は突如Uターンし、目的地とは別方向に向かって飛んでいった。

 

 

「よっと。」

 

トンッ

 

テイルスは自分の作業場―――――「テイルス・ラボ」の扉の前に舞い降りた。

「確かあの辺に……」

そして彼はラボの周辺を歩き始める。

「あった!」

ラボの反対側まで来ると壁についているスイッチを見つけた。

彼はすかさずそれを押した。

 

ピッ!

 

―――――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

するとスイッチの隣の壁が重たげに回転し、大きな扉が出来る。

 

グイイイイイィィィィィィン!!!

 

そして中から紅色の少し大きな一人用の飛行戦闘機―――――「トルネードEX号」が大きなベルトコンベアーに乗せられ運ばれてきた。

「こんな時のためにちゃんと整備しておいて良かった!」

「トルネードEX」は過去にテイルスが対エッグマン用に開発した完全戦闘機だった。

戦闘だけではなく、移動用にも最適なマシンだ。

しかし、作られてから一度も使われたことは無かった。その理由は至って単純である。

 

―――――危険だったのだ。

 

この戦闘機には様々な武器が内蔵されており、心優しい彼にはとても扱えないマシンとなった。

このマシンは『本当に必要な時』にしか使わない―――――彼はそう決めていた。

「――――今がその『本当に必要な時』なんだよね。」

テイルスは「トルネードEX」の操縦席に座りながらまるで誰かに話しかけるように独りごつ。

 

――――本当はこのマシンは使いたくない。けど、あいつから――――ダークから世界を救うためには

仕方が無いよね。

 

操縦席のシールドが閉まる。

 

グイッ!

 

テイルスはエンジンレバーを引っ張る。

「エンジン全開!エメラルドの欠片の反応ポイントまで全速力!!」

 

ピピピピピ!!

 

ボウッ!!

 

テイルスが操縦桿の横にある小型キーボードを押すとトルネードEXの噴射口から勢いよく火が吹き出る。

「『トルネードEX』、発進!!!!」

 

ゴワアアアアアアアア!!

 

テイルスが叫ぶと耳を劈くような轟音をたて「トルネードEX」は青空へ猛スピードで飛び去った。

 

気がつくと雲の上に飛び出ていた。

 

キイイィィィィィン!!

 

「トルネードEX」は飛び立ってからまだ十分程しかたっていないのに該当ポイントまでかなり近づいた。

「快調快調!あともう少しだ!」

気持ち良さそうにテイルスは呟く。

(―――それにしてもダークの生み出した「守護者」って一体どんな奴なんだろう……?)

それを思うと若干表情が翳り、少しだけ俯く。

 

その時――――

 

「ピギャアアアアアアアァァァァァァァ!!!!」

 

ギュンッ!!!

 

トルネードEXの隣をまるで鳥のような鳴き声を発しながら、目にもとまらぬスピードで飛空する黒い影がすれ違った。

「うわっ!?」

そしてその衝撃で機体が大きく揺れる。

一瞬何が起きたのか分からなかった。

 

グオオオオーーーーーン!

 

テイルスはトルネードEXを大きく旋回させる。

「え!?」

そしてその姿を見て驚愕する。

奴は姿だけで言うのならば鳥の姿をしている。

だが、その色は漆黒で悪魔のような翼がバサリバサリと大きな音をたてている。尖った耳が垂れ、トゲのようにも見えた。手足は人型だが、獣のような鋭い爪を生やしている。その肢体もトルネードEXよりも何回りか大きい。

その上グルルと言う唸り声とギラギラと光る眼がこちらに鋭い殺気を向けているのが分かる。

「こ、こいつが……『守護者』……?」

テイルスの頬を冷や汗がつたう。

「ピギャァァァァァ!!」

テイルスの姿を見てその姿―――――「ゼラ・ザ・ダーク」は咆哮をあげた。

背筋が寒くなる。

「ぐッ……!」

テイルスは恐怖心をぐっと押さえる。

(――怖いけど―――ボクがやらなきゃいけないんだ!ソニックがいなくても、ボクだけでも……!!)

 

グッ!

 

操縦桿を引っ張り、再びトルネードEXを大きく旋回させる。

「行くよ!ボクが相手だ!」

そして操縦席から叫ぶ。

 

バッ!!

 

ゼラもトルネードEXを追う。

 

バババッ!

 

ゼラは翼から複数の大きな黒球体を出しトルネードに向かって飛ばしてくる。

「当たるもんか!」

テイルスはトルネードを回転させ、黒球体をよける。

 

ビッ!

 

今度は目から紫色のレーザーをトルネードに向かって放つ。

 

グオオオオン!!

 

テイルスはトルネードを大きく旋回させてレーザーをかわす。

「今度はこっちの番だ!」

 

ドドドドドドドドドドドッ!!

 

そう叫ぶとテイルスはマシンガンを放ちながらトルネードを旋回させた。

その照準をゼラに合わせようとする―――しかし、

 

シュンッ!

 

「え!?」

トルネードをゼラに向けるとゼラがまるで瞬間移動をしたかのように別の場所へと現れる。

「ピギイィィィィ!」

ゼラが笑っているように見えた。

 

ギュンッ!!

 

そしてトルネードに向かって一気に肉薄する。

「うわっ!?」

ぶつかる直前に気づき、テイルスはトルネードを回転させて体当たりをかわした。

「ピギャァァァ!」

ゼラは少し離れたところで体勢を整え、再びこちらを鋭い眼差しで睨めつける。

 

バッ!

 

突如としてゼラがこちらに向かって一気に飛来する。

 

「うわっ!?」

 

ガシッ!!

 

そしてトルネードEXを掴む。

掴まれた所はバキバキと鈍い音を立てて軋んでいる。

 

――――ギラッ!

 

操縦席の目の前にあるゼラの鋭い眼光にテイルスは改めて恐怖を覚えた。

(このままじゃ勝てない……!)

ゼラのバサリバサリという翼の音がとても大きく聞こえる。

(―――――こうなったら―――!)

「完全戦闘モードON!」

 

ピッ!

 

テイルスは操縦桿の隣にある「EX」と書かれた赤いボタンを押す。

 

ビリビリッ!

 

「ピギャァッ!!」

突如ゼラが吹っ飛ばされる。

先程までゼラが顔を近づけていた所に強い電流が奔ったのだ。

ゼラは体勢を整え、少し離れた場所からこちらを睨みつける。

 

ゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

トルネードの翼がさらに二つ出てくると同時に機体の様々な場所から兵器が現れる。

噴射口の数も今までの倍の四つに増えたことで火力もさらに強まり、機体全体が強い電流で覆われバチバチと音をたてる。

「完全戦闘モード準備完了!パワー、スピードともにアップ!行くぞ――!」

 

ギュンッ!!

 

トルネードがゼラに向かって飛来する。

「ピギイィッ!!」

 

シュンッ!

 

何度やっても同じだ――――そう言わんばかりにゼラが再び姿を消す。

「逃がさないぞ!」

テイルスはそう叫ぶとトルネードを素早く旋回させる。

「ギッ!?」

そこにはゼラがこちらに向かって手を伸ばしているのが見えた。

恐らく何かの攻撃をするつもりだったのだろう。

 

ピピピピピピピピピピピ!!

 

操縦席のレーダーにゼラの姿が映し出される。

「ターゲットロックオン!!追尾弾発射!!」

 

ドシュッ!ドシュッ!!

 

テイルスがそう叫ぶと操縦席の真下にある六つの穴がある発射口から大きなミサイルが次々と発射される。

「ピギィッ!!」

 

ドンッドンッドンッ!!

 

しかしゼラの伸ばしていた手から闇色の矢が放たれミサイルを撃墜してくる。

「それなら!」

 

ピッ!!

 

チュィイイイン!!

 

ドドドドドドドドドドドドドド!!!

 

テイルスが別のボタンを押すとトルネードにくっついていた銃器がゼラを一斉に砲撃し始めた。

「ギッ!」

 

バッ!

 

ゼラは素早く上昇し弾丸を全てかわす。

 

ヒュンッ!ヒュンッ!

 

そのままゼラは素早い動きで一回転したりするなど少し奇妙な飛び方をする。

(次は何をする気なんだろう?)

額に汗が浮かぶ。

暫くゼラが飛空したところでテイルスはあることに気づく。

(―――こいつ、トルネードの周りを飛行している―――!?)

そう、ゼラはまるでトルネードの周りをまるで楽しむかのように飛行していた。

 

バッ!

 

そして突如トルネードの周りから離れる。

(今のは一体?」

 

ビ――!!ビ―――!!

 

「!?」

突如危険信号が鳴る。

「こ、これは!?」

慌ててレーダーを確認するとテイルスは驚愕する。

トルネードの周りを漆黒で雲状の形をしたとてつもなく強力な電流が囲っている。

しかし気づくのがわずかに遅かった。

 

ババババババババババババババッ!!!!!!!

 

周りの雲状の電流が一斉にトルネードに襲い掛かる。

「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

操縦席に居るテイルスにも電流の激痛が奔る。

電流は機体にもダメージを与えている。

機体についていた重機が次々と落下していく。

「うっ、くくくくくくくくくくく……!!!!え―――――い!!」

電流が奔る中必死に操縦桿を掴み電流から脱出した。

「ハァ……ハァ……」

しかし、電流のダメージが大きく息が上がっていた。

「ピギャァァァァァ!!!」

ゼラはその光景を見て大きく咆哮をあげる。

(―――今のでかなりEXに負担がかかった。残る兵器も少ない。どうしよう……)

目立った傷一つ無いゼラの姿を見ると、再びテイルスの心に焦りが生まれた。

「ピギャアアアアアア!!」

ゼラは更に空高く上昇する。

恐らく上空から一気に飛来しトルネードを貫くつもりなのであろう。

「……これだけは使いたくなかったけど、しょうがないよね。」

テイルスは呟く。

 

「禁兵器、『AOITD砲』発射準備!!」

 

ピッ!

 

テイルスが『dangerous』と書かれたボタンを押す。

 

ガ―――――――!!

 

トルネードの上部から大きな発射口が現れる。

(……禁兵器『AOITD砲』、トルネードEXのエネルギー残量の九割を粒子砲に変換して発射するまさに「起死回生」の銃。とてつもない破壊力を持つけど、使った後のリスクが高い。運が悪ければ墜落する。本当は使っちゃいけないんだけど、もうこれしか方法が無い。)

 

――――――ただし、これが効かなければもうなす術は無い。

 

テイルスは覚悟を決める。

 

チュイイイイイィィィィィィィィン!!

 

発射口に強く青白い光が集まる。

「ギギィ……!!!」

ゼラは遥か上空からこちらを睨みつける。

「……ピギャアアアアアアアアア!!!!!!!」

そして一気に飛来してくる。

「『AOITD砲』、発射!!!」

 

ドンッ!!!

 

発射口から大きな光線が放たれる。

「ピギイイイイィィィィィ!!!」

ゼラは漆黒のオーラを纏い肉薄してくる。

 

ババババババババババババッ!!!

 

二つの強大な力がぶつかり合い、激しく火花を散らしながらの押し合いになった。

「ギギ……ギギギィイイイイ!!!」

ゼラから呻き声が漏れているのがわかる。

「ぐ、ぐぐぐ……!!」

テイルスも歯を食いしばる。

その後も押し合いは続くも両者動じなかった。

 

ビ―――ビ――――!!

 

「警告!エネルギー残量残リ20%!!」

警告音が鳴り響く。

「このままじゃ……!!」

テイルスの額に汗が浮かぶ。

「ギギギ………!!!」

 

ガ――――ガガガガガガガガガガガ!!!!

 

今まで動けずにいたゼラがそれでも力づくでこちらに迫ってくる。

「そんな……!!」

テイルスは目を見開く。

「ピギャアアァァァァァァァァ!!!!」

ゼラは咆哮をあげる。

「………」

そんな死に物狂いのゼラを静かに見据えながらテイルスは微かに俯いた。

焦燥や恐怖を超越したかのような、妙に落ち着いた心境だった――。

 

キッ!

 

そして迷いを断ち切るようにバッと顔を上げた。

「残りのエネルギー残量を全て粒子砲に変換!!」

そして操縦桿の隣にあるスイッチを押す。

 

―――――――ドンッ!!!

 

光線が更に太くなった。

「ギッ!?」

流石のゼラもそれに耐えきれない。

「いっけぇぇぇえぇぇ!!!」

 

ズガアアアァァァァァァァァ!!!!

 

「ピギャ―――ア―――ァ―――」

『AOITD砲』から放たれた粒子砲がゼラを飲み込み、消滅させた。

 

ガクンッ!

 

それと同時にエネルギーを全て失ったトルネードEXが海へと墜落していく。

 

プシュ―――!!

 

操縦席のドアが開き、中からテイルスが二本の尻尾を回転させて浮遊しながら脱出した。

 

ヒュウウゥゥゥゥゥゥゥ――――――

 

 

ドガ――――ン!!

 

そしてトルネードEXがそのまま海に墜落し爆発するのを何も言わずに見届けていた。

「……バイバイ、『トルネードEX号』……」

その衝撃で激しく直下だつ海柱に少し寂しげな眼差しを向け、小さく手を振る。

 

バッ!

 

振り返るとそこにエメラルドグリーン色の美しい光を放ちながらマスターエメラルドの欠片が浮遊していた。

 

ヒュルルルルルルルル―――

 

テイルスはマスターエメラルドの欠片を手に取る。

「……皆、大丈夫かなぁ……?」

そして天を見上げ不安そうに呟いた。

 

 

 

 

――――人間。それは、憎むべき存在

 

―――――絶対に許すことの出来ない存在

 

――――憎む以外何物でも無い存在

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タッタッタッタッタッタッタッタッタ――――

 

 

荒れ果てた高原をナックルズは一人走っていた。

ソニックほどではないが、彼もそれなりに走るスピードが速かった。

「後どれ位だ?」

走りながらレーダーを確認する。

「……もうちょっと先か……」

レーダーをしまい、再び顔を上げて走り出す。

数分走ったところで再びレーダーを確認する。

「この辺か……?」

周りを見回すが、あるのはゴロゴロ転がっている大きな岩や行く手を阻む絶壁くらいだった。

(少しここらを探してみるか……)

 

そう思い歩きだしたその時――――

 

――――カァッ!!

 

「!?」

突如ナックルズの立っている辺りの地面が光る。

「チッ!」

 

バッ!

 

ナックルズは危険を察し大きく跳躍する。

 

ズガアァッ!!

 

光っていた地面から黄色い閃光が噴き出した。

「誰だ!?」

 

スタッ!

 

ナックルズはそのまま少し離れた大きな岩の上に降り立つ。

 

ズンッ!

 

閃光で大きく開いた穴の中から漆黒の大きな手が出てきた。

「なっ!?」

あまりの大きさに愕然とする。

 

「ゴオオオォォォォォォォォッ!!!!」

 

その姿――――「ヴァルセル・ザ・ダーク」は地上に姿を現すと大きく咆哮する。

恐竜のような姿をしているが、漆黒の全身で眼だけが不気味に光り輝いている。手足が太く長く、その手にはまるでナイフのような長く鋭い爪が光り輝いている。口も大きく鋭い歯が整然として並んでいる。その巨大さも本物の恐竜を彷彿とさせた。

「な……なんだこいつは……!?こいつが『守護者』か……!?」

悪魔のような雰囲気すら醸し出しているその姿にナックルズも少し怯む。

「グッ!?」

ヴァルセルは少し離れた岩の上に立っているナックルズの姿に気づく。

「ゴオオオオォォォォォォォォォォ!!!」

そして威嚇するかのように再び大きく咆哮をあげた。

 

ビリビリビリビリビリ!!

 

少し離れた場所にいるナックルズにも振動が届くほどの大きな咆哮だった。

「グッ!」

その衝撃で吹っ飛ばされそうになるも両手を前に出しまるで強風に耐えるようなポーズでナックルズは

耐えた。

「ガァッ!!」

「なっ!?」

その隙にヴァルセルがナックルズに向かって肉薄する。

「チッ!」

 

バッ!

 

ナックルズはその衝撃波から強引に抜け出し、大きく跳躍する。

 

ガスッ!!

 

ガラガラガラ……――

 

ヴァルセルの腕が先程までナックルズの立っていた場所に振り下ろされると鈍い音を立て簡単に

大きな穴を開けた。

「なんつー馬鹿力だ……」

跳躍しながらその光景を見ていたナックルズの額に冷や汗がつたう。

「ガッ!」

ヴァルセルは上空にいるナックルズの方へ顔を向ける。

「だが、マスターエメラルドを復活させるためにはこいつをぶっ倒さなきゃいけねぇんだよな。」

ナックルズは自分の拳をもう片方の拳にゴツゴツとぶつける。

「ゴオオオオォォォォォォォォォ!!」

かかってこいと言わんばかりにヴァルセルが再び咆哮をあげる。

「行くぜ!俺の拳を受けてみやがれ!!」

ナックルズはヴァルセルに向かって急降下する。

「でええええりゃああああああ!!!」

 

ドガァッ!!

 

ナックルズは落下スピードを利用しヴァルセルの頭に強烈な一撃を喰らわす。

「ガァッ!!」

その衝撃をものともせずにヴァルセルは頭を振りナックルズを振り落とす。

 

ズザザザザザザァ!!

 

ナックルズは地面に着地する。

そしてヴァルセルを睨む。

(防御が堅い。殴りまくってダメージを与えてやる!)

「グシャァッ!!」

ヴァルセルの腕がナックルズに振り下ろされる。

「ハッ!」

ナックルズは跳躍し腕をかわす。

 

ドゴォッ!!

 

ヴァルセルの腕が地面に突き刺さる。

 

スチャッ!

 

ナックルズはその腕の上に着地し、ヴァルセルの顔面向けて一気に迫る。

「うおおおぉぉぉっ!!」

それと同時に腕を振り上げる。

 

ギラッ!

 

ヴァルセルの眼が不気味に光る。

 

ゴワァッ!!

 

そして大きく口を開け黒い炎を吐き出す。

「んなッ!?」

(しまった!)

ナックルズの足は止まらない。

 

ゴオオオォォォォォォォッ!!

 

そして炎の中に突っ込む。

「ぐあああああッ!!」

とてつもなく熱い炎がナックルズの体を焼き尽くす。

「………ぐおおぉッ!!」

 

バッ!!

 

ナックルズは大きく跳躍し炎の中から脱出する。

「!!」

だが、上を見上げた瞬間頭が真っ白になった。

「ゴギャアアアァァァァッ!!」

奴が――――ヴァルセルが片腕を振り上げていたのだ。

 

バキィッ!!

 

「ガッ!?」

腕が振り下ろされる刹那、あまりにも大きな衝撃にナックルズの意識が飛ぶ。

 

ヒュウウウゥゥゥゥゥゥゥ――――

 

ドガ――――ン!!!

 

そして上空から地面に勢い良く叩き落された。

「くっ……!」

ナックルズはよろよろと立ち上がろうとする。

その時だった――――

 

ドンッ!!

 

「ぐああああああああッ!!!!」

ヴァルセルがナックルズの胴体をその大きな足で全体重をかけて上空から急降下し踏み潰していたのだ。

あまりの苦痛にナックルズは悲鳴を上げる。

「ゴオオォッ……!」

ヴァルセルが鋭い眼光でこちらを見下ろしている。

「ち………畜生……!!」

ギリギリと歯を食い縛る。

屈辱―――まさに屈辱だった。

 

―――俺はまたマスターエメラルドを守れないのか?

 

―――マスターエメラルドの「真の守護者」であるこの俺が……

 

――――そうだ、俺は「真の守護者」だ

 

―――――負けられねぇ……

 

――――絶対に負けられねぇ!!!

 

 

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

ナックルズは潰された状態の腕に渾身の力を入れる。

 

グググググググググッ!!

 

ヴァルセルの足が微かに動く。

「ガッ!?」

その異変に気づいたヴァルセルは表情を一変させる。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

そしてナックルズはヴァルセルの足を持ち上げ立ち上がる。

「ガアアアアッ!!?」

ヴァルセルも力を入れるがナックルズの勢いは止まらない。

「俺はナックルズ!マスターエメラルドの『真の守護者』だ!!てめぇらみてえな『偽者』にマスター

エメラルドを渡してたまるかぁッ!!」

 

ブンッ!!

 

ナックルズはヴァルセルを遠くの大きな岩盤めがけて投げつけた。

 

ズガァッ!!

 

「ゴギャアアアァァッ!!」

ヴァルセルは岩盤にめり込み大きな亀裂を奔らせた。

 

ズウウウウウウウン……!!

 

そして地面に落下する。

「ギギィッ……!!」

ヴァルセルはこちらに向かって疾走しているナックルズを睨めつけ立ち上がる。

「ギャアァッ!!」

 

ブンッ!!

 

そして近くにあった大きな岩を掴むとナックルズ目掛けて投げた。

「おらああああっ!!!」

 

ドゴォッ!!

 

ナックルズはその岩に拳をぶつけ粉々に砕く。

「ゴギャアアァッ!!」

ヴァルセルは次々と巨大な岩をナックルズに向かって投げつけるも、ナックルズはそれらを全て破壊した。

「ギギャアアアァァッ!!!」

 

ブンッ!!

 

流石に焦ったのかヴァルセルは自らの腕をナックルズ目掛けて振り下ろす。

「オラァッ!!」

するとナックルズはその腕に自らの腕を振り上げた。

 

ドガァァァァァッ!!!

 

拳を通して両者に大きな振動が走る。

「ギギギ……!!!」

「くッ……!!!」

ヴァルセル、ナックルズは両者とも顔を歪ませる。

 

カッ!!

 

ナックルズが目を見開く。

「でえええりゃあああああ!!!」

そして腕に渾身の力―――『真の守護者』の力を入れた。

 

バゴオオオオオォォォォッ!!!!

 

ヴァルセルの体が吹っ飛ぶ。

ナックルズは再び疾走しだす。

「ギギャアアアァァァッ!!」

しかし、ヴァルセルは体勢を整えこちらを鋭い眼光で睨みつける。

 

ゴバアァッ!!

 

そして再び黒い炎を吐く。

「ハァッ!!」

しかしナックルズはそのまま炎の中に突っ込む。

「ギギイィッ……!」

ヴァルセルの表情に笑みが広がる。

 

しかし――――

 

「―――!?」

ヴァルセルの表情が一変する。

ゴオオと音をたてて燃え盛る黒い炎の中からこちらに向かってゆっくりと歩いてくるナックルズの影が見えた。

 

「――――俺のマスターエメラルドを守りたいという気持ちの熱さはこんなもんじゃねえ」

 

ボウッ!

 

そう告げたナックルズの拳に彼と同じ紅色のい炎がまとう。

「ギギギイィッ……!!」

ヴァルセルは悔しげに歯を食いしばる。

 

カアアアァァッ!!!

 

そしてその大きな口に黄色い光が集まる。

「ゴオオオオオオオォォォォォォッ!!」

 

ゴバァッ!!

 

そして大きな光線をナックルズめがけて放った。

「……」

しかしナックルズは動じない。

 

ドガ―――――ン!!!!!

 

光線が爆発を起こした。

ナックルズの居た場所だけでなく広範囲に渡って次々と炸裂する。

「ギギギィ……!!」

ヴァルセルに再び笑みが浮かぶ。

その時だった。

 

ドンッ!!!

 

「ガッ!!?」

頭に大きな衝撃が奔る。

とてつもなく重く、そして熱かった。

 

トッ!

 

目の前に拳に炎をまとったナックルズが降り立った。

「終わりだ、化け物め。」

そして静かに言い放つ。

それと同時にヴァルセルの体に上部から徐々にピキピキと音をたてて亀裂が奔る。

 

カッ!

 

そしてそのまま爆発した。

そこに残ったのは美しい光を放つマスターエメラルドの欠片。

ナックルズの拳にまとっていた炎も、音もたてずに消えた。

「手間取らせやがって」

ナックルズは欠片に近寄り手に取った。

そして静かに天を見上げる。

そこにはどんよりとした鉛色の空が果てしなく続いていた。

 

――――時が経つごとに人間への憎しみは大きくなる

 

――――憎しみだけではない

 

――――悔しさも湧き上がってくる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コオオォォォォォォッ!!

 

体に青白い光を放ちながらシルバーは湿地を飛行していた。

あちこちに背の高い草が生えており、少しジメジメしている。

(―――レーダーによると反応はこの辺りか……)

 

タプンッ!

 

シルバーは足首に届く程の半透明で澄んだ水の中に着地する。

「…………」

草を掻き分けながら探すと同時にシルバーは複雑そうな面持ちで考え事をしていた。

(――――ダーク・ザ・ヘッジホッグ。俺達は本当に奴を倒せるんだろうか?確かに俺達は超次元生命体を倒したことだってある。一緒にそいつを倒したソニックやシャドウも居る。なのにどうしてこんなにも不安が頭から離れないんだろう……?)

 

その時だった―――

 

「!!」

シルバーは危険を感じ顔を上げる。

しかしわずかに遅かった。

 

ガッ!!

 

「ぐあッ!!」

左腕に鋭い痛みが奔る。

激痛を感じながらも眼を自分の左腕に向けると黒い影が噛み付いているのが見えた。

 

ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……!!!

 

必死に右腕でその姿を退けようとするが物凄い力で喰いついており離れる兆しは無かった。

(こうなったら……!!)

「ハアアァッ!!」

 

バリバリバリッ!!

 

シルバーは全身に青白く強い電流を奔らせる。

「シャアアァァッ!」

黒い影は吹っ飛ばされる。

「痛ッ……!!」

シルバーは苦痛に顔を歪ませながら左腕を押さえる。

 

ッ―

 

大きな歯型がついた左腕から一滴の血がつたう。

「誰だ!」

そして一度右腕を離し目の前に広がる背の高い草に向けて右腕を伸ばした。

 

ガササササッ!!

 

すると草木がどんどん抜けていく。

「……な!?」

草がある程度抜け、視界がはっきりしてくると彼は驚愕した。

その姿は蛇のようだった。

しかし漆黒の全身で長さも尋常ではなく、おそらく20mはあるだろう。胴体には不気味な色の刺が生えており迂闊に触ることは出来ない。頭も大きく、先程噛まれた腕の毀傷があの程度で済んだことが奇跡に思える程の大きさだった。その眼が不気味に光る。

「現れたか!ダークの生み出した化け物め!」

シルバーは身構えた。

「シュウウゥゥゥ……!!」

その姿――――「ジャーズ・ザ・ダーク」はシルバーを睨みつける。

「ダークから世界を救うため、お前を討つ!」

 

バッ!

 

叫ぶが早いがシルバーは大きく跳躍した。

 

コォッ―――!

 

そしてシルバーの手に青白い光が集まる。

「ハァッ!」

 

バッ!

 

シルバーが腕を振ると青白い光がジャーズに向かって放たれた。

しかし―――

 

グググッ―――!!

 

ジャーズが大きく口を開ける。

 

ゴクンッ!

 

そしてシルバーの放った光を飲み込んだ。

「なっ……!!」

(俺のサイコキネシスを飲みやがった……!?)

シルバーは目を疑った。

 

グググッ……!!

 

ジャーズの長い胴体が青白く光る。

 

ゴバァッ!!

 

そしてジャーズの口から黒いオーラを纏った先程シルバーの放ったサイコキネシスが

シルバーめがけて勢いよく吐き出される。

「喰らうかっ!」

一瞬躊躇したが、シルバーは腕を前に出す。

しかしそれは止まらない。

「なっ……!?」

シルバーは目を疑う。

 

ドガァッ!!

 

「ぐあッ!!」

そしてそのままシルバーに激突した。

 

ドバァッ!

 

シルバーは落下し地に叩きつけられる。

「ぐっ……!」

(奴には俺のサイコキネシスが効かないのか……!?)

痛みに顔を歪ませシルバーは体を起こす。

しかし――――

 

ギュルルルルルルル!!

 

突如シルバーの体を黒い何かが巻き付く。

「なっ!?」

正体は言うまでもなくジャーズだ。

大きな見た目に似合わずジャーズの動きは素早く、あっという間にシルバーに巻き付いた。

 

ギュウウウゥゥゥゥゥゥゥ……!!!

 

そしてそのままシルバーを締め上げる。

「うあああああああ……!!!」

刺のついたジャーズの胴体による圧迫が、シルバーに呻き声をあげさせる。

「シュウウゥゥゥ……!!」

蛇のように細い舌をちらつかせるジャーズの顔がシルバーの目の前に迫ってくる。

「ぐあああッ……!!ぐッ……!!」

苦痛に顔を歪ませながらもシルバーはジャーズの顔を睨む。

「……うおおおおおおおおッ!!」

 

ババババババババッ!!

 

シルバーは再び電流を張る。

 

シャッ!

 

だがそれに気づいていたのかジャーズは目にも見えぬ速さでシルバーから離れた。

「くッ!」

 

バッ!

 

その隙にシルバーは大きく跳躍する。

 

コォォォォッ!

 

そして上空でサイコキネシスを使い空中に浮遊する。

「シュウゥゥゥッ……!!」

そしてこちらを睨めつけるジャーズに鋭い一瞥を投げる。

(――――下手に攻撃しても喰われ、サイコキネシスも効かない。どうすれば……!!)

 

バッバッ!!

 

焦燥に駆られていると、再びジャーズが毒を吐くかのようにこちらに黒い閃光を放つ。

 

スッスッ――――

 

シルバーは全てかわした。

 

ギュォッ!!

 

かわしきった刹那、ジャーズの尻尾が上空に浮遊しているシルバーめがけて勢いよく振り下ろされた。

「なッ!?」

突如思いがけない攻撃にシルバーは一瞬怯むが僅かな差でかわす。

 

ダッパ――――ン!!

 

尻尾が振り下ろされるとその衝撃で水が弾け飛んだ。

 

ビチャッ!

 

その飛沫がシルバーの頬に当たった。

(ん……水……?)

シルバーはジャーズの尻尾が振り下ろされた場所を見下ろす。

「そうか!」

そして眼を見開く。

「シャァッ!!」

しかし今度はジャーズが頭からシルバーに襲い掛かる。

「なッ……!」

それに気づくもシルバーはあまりにも一瞬の出来事に動けなかった。

 

ガブゥッ!!

 

そしてシルバーの体全体が噛み付かれる。

「ぐああああああああああッ!!!!」

身を裂かれるような激痛にシルバーは悲鳴を上げる。

「くッ……!!くくく……!!!」

シルバーは顔を歪ませるも噛み付かれたままゆっくりと上昇していく。

「!?」

ジャーズは異変に気づくが離れられなかった。

無理も無い。シルバーがジャーズの頭部を押さえていたからだ。

「……調子に乗るなよ化け物め!!」

 

バリバリバリィッ!!

 

そしてシルバーは今までの中で一番強い電流を放つ。

「シャァァァァァァッ!!」

ジャーズは悲鳴を上げた。

 

パッ!

 

そしてシルバーが手を離すとジャーズは落下した。

 

ドパァンッ!

 

水が大きく弾け跳ぶ。

「今だッ!」

シルバーはその弾け飛んだ水に腕を伸ばす。

 

コォォォォォォォォォッ!!

 

半透明の水が青白く光る。

「シュゥゥゥゥゥゥ……!!」

ジャーズは動けない。

「ハァァァァァァァッ!!!」

シルバーの上空に大きな青白い水の塊が浮かぶ。

「いけぇッ!!」

 

バッ!!

 

シルバーが腕を振り下ろすと水がジャーズに向かって勢いよく落下する。

「シャアァッ!!」

体勢を立て直したジャーズが大きな口を開けて水を待ち構える。

「今だ!」

 

グッ!

 

シルバーは腕に力を入れる。

 

ゴクン

 

大きく喉を鳴らしジャーズは水を飲み込んだ。

「!!?」

しかしその水を飲み込んだ刹那、ジャーズは体に違和感を覚える。

「そうさ!お前の飲み込んだ水の中に俺のサイコキネシスを混ぜ込んだ!いくらお前でも一度に二つも飲み込めるわけが無いッ!」

 

コオオォォォォォォォッ!

 

シルバーが叫ぶとジャーズの体が青白く光りだす。

「覚悟しろ!化け物め!!」

シルバーは腕を胸の前に組む。

「ハァッ!!」

 

バッ!

 

パァンッ!!

 

そして腕を振るとジャーズの胴体は弾け飛んだ。

そして鮮やかな光を放つマスターエメラルドの欠片だけが残る。

 

フッ――――

 

シルバーは地上に降り立ち欠片を手に取る。

「………」

そして何も言わずに空を見上げる。

 

――――何故だ?

 

――――何故奴らは我を裏切ったのだ?

 

――――許せぬ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カァ―――――!!

 

ギラギラした太陽が照りつける。

ここは砂漠。

見渡す限り砂しか見えない。

緑など少しも見当たらなかった。

 

ドシュゥゥゥ―――――!!

 

しかし、何処からか激しく砂埃を巻き上げながら猛スピードで移動する姿があった。

それは朱色の姿。

「――――もう砂漠まで来ていたのか。通りで暑いワケだ。」

そのハリネズミ――――ハイクは走りながら周りを見渡す。

 

―――――ズザッ!

 

ハイクは突如ブレーキをかける。

そしてレーダーを取り出した。

「……もう少し行った所か?」

画面を確認すると反応は少し離れた場所にあった。

それにしても暑い―――病み上がりの体はこの尋常でない熱気に蝕まれていくようだった。

 

(―――――ん?この光景、どこかで―――――?)

 

画面を見ると少し懐かしい感じがした。

 

ズキンッ!!

 

「うがッ……!!」

突如頭に激痛が奔る。

思わずレーダーを落とし自身の頭を抱え込んだ。

 

 

 

 

―――――!!――――!!

 

誰かの声が聞こえる。

 

だがその声はハッキリと聞こえない。

 

 

――――!!―――…い!―――!聞いて……のか!?

 

「彼」は除に眼を開ける。

 

目の前にぼんやりと黄色い姿の誰かが映る。

しかし、はっきりとした輪郭すら解らない。

 

 

―――ダレ―――ダ―――?

 

「彼」は尋ねる。

 

―――――っく、寝ぼけやがって!

 

――――?

 

こいつが何を言っているかわからなかった。

 

―――――ら、さっさと行くぞ!――――!

 

その姿が彼に踵を返し、さっさと歩き出してしまう。

 

―――――マッテクレ――――!

 

「彼」は手を伸ばす。

 

 

「……ハッ!?」

ハイクは我に帰る。

何故か自分が虚空に腕を伸ばしていることに気づくとそっと自分の掌を見る。

「俺は一体何を……?」

そして落としたレーダーに気がつき、拾い上げようと屈む。

(あいつは一体―――?)

レーダーを手に取り立ち上がりながらそう思った。

そして再びレーダーを確認する。

「!?」

そして異変に気づく。

レーダーの反応場所が彼の立っている所と一致したのだ。

「どうなってるんだ?」

ハイクは周りを見回す。

しかし周りは砂しかない。

ハイクは訳が分からないと言いたげに首を傾げる。

 

――――――その時だった。

 

ドガァッ!!

 

「ぐあっ!!」

突如顎に大きな衝撃が奔ると同時にハイクの体が吹っ飛ばされる。

「……くっ!」

 

バッ!

 

ハイクは空中で体勢を整えると先程まで自分の居たところを見る。

「なッ……!?」

そして驚愕した。

そこに居たのは狼の群れ。

全身が闇色の毛で覆われ、眼だけが鋭く光っている。まるで強い光に当たって映し出された狼の影が

そのまま具現化したような姿だった。

「グルルルルルルル………!!」

狼はそれぞれ別の動きをしていたが、大半はこちらを睨みつけていた。

「現れたか……!」

 

スタッ!

 

一度群れから離れたところに着地すると同時に茶色い砂埃が舞う。

 

チャッ!

 

ハイクはベルトについたホルダーから二丁銃を取り出すとクルクルと回転させ構えた。

「………」

そしてそのまま眼で群れの大凡の数を確認する。

(―――大体七匹位か……!)

そう思った刹那―――

 

ズウウウウウウン―――――!!

 

狼の群れの奥の砂が積もり、まるで山のようになっている箇所の頂点から

一回り体の大きい狼が現れる。

ハイクはその様子を何も言わずに眺めていた。

 

「アオオオオオオオオン!!」

 

群れのリーダー―――――「モーブ・ザ・ダーク」はハイクを睨むと同時に咆哮をあげた。

見た目だけでリーダーと分かるような逞しい肢体を持ち、頭毛が周りの狼よりも厳つく感じられる。

モーブの姿にはリーダーの威厳か、禍々しいが気高いオーラが感じられた。

(あいつがリーダーか!)

ハイクの視線とモーブの視線が激しくぶつかり合う。

背後に太陽があるためか、ただでさえ真っ黒なモーブの胴体がさらに黒く感じられる。

「砂漠に狼か……面白いじゃん!」

そして笑みを浮かべ叫んだ。

(でもまずはこいつらを片付けないとな……)

ハイクは彼を激しく威嚇する群れに一瞥を投げる。

暫くハイクと群れの睨み合いが続いた。

絡みつくような熱気が対峙する両者の間の砂から出ているのがはっきりと分かった。

「………」

それを意識し出したハイクのこめかみに汗がつたう。

 

ヒュウウウウウウウ―――――ン………

 

そして一風が吹く。

 

チッ

 

「!!」

 

その刹那ハイクの目に砂が入った。

思わずハイクは目を閉じた。

「ガッ!」

 

バババッ!

 

その隙に群れの狼三匹がハイクに襲いかかる。

ハイクは未だに目を閉じている。

 

ドザッ!

 

「ガアアァァッ!!」

そのまま三匹はハイクに飛びかかろうとする。

 

ニィッ!

 

バッ!

 

ハイクは笑みをこぼすと共に大きく跳躍する。

 

ドドドッ!!

 

狼三匹はそのまま何も無い所に飛びかかる。

「へッ!そう来ると思ったぜ!」

 

チャキッ!

 

ドォンッ!ドォンッ!!ドォンッ!!!

 

上空で眼を見開き銃口を三匹に向け、それぞれに弾丸を放った。

 

バシュッ!バシュッ!!バシュッ!!!

 

弾丸は見事三匹の頭に命中する。

「ギャゥッ!!」

三匹はそれぞれ聞くのが苦になるような悲痛な叫びをあげた。

 

ボシュオオォォォォォ……!

 

「!?」

そしてそのまま煙となってかき消える。

 

スタッ!

 

「グルルルルルルル……!!」

仲間を失った憎しみか、群れの威嚇が先程と比べ物にならないほど強くなっていた。

(どうやら群れは大したこと無いようだな。一気に親玉を叩く!)

 

ジャキッ!!

 

そんな群れの威嚇にも動じず、ハイクは拳銃二丁をホルダーに戻し背に手を伸ばし

ガトリング銃を取り出し腕に装着した。

「ガアァッ!!」

それを合図に群れ全体が一気にハイクに襲い掛かる。

「行くぜ――!!」

 

バババババババババババババババッ!!

 

ガトリング銃の六つある小さな銃口から弾丸がシャワーのように勢いよく放たれる。

 

ボシュボシュボシュボシュボシュ―――――!!!

 

鈍い音を立てながら狼が次々と煙となって消えていく。

「…………」

モーブは手下が次々と消されていく状況でも表情一つ変えることはなかった。

「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

弾丸を撃ち続け、残る狼も残り一匹となる。

 

ダンッ!

 

ボシュッ!

 

そしてその最後の一匹も姿を消した。

「ふぅッ……」

 

ガチャッ!

 

ハイクは一度ガトリング銃をしまう。

 

チャッ!

 

キッ――――

 

そして再び拳銃二丁取り出し遠くの砂山に佇むモーブを睨む。

しかしモーブはそれにも動じなかった。

「…………」

モーブが笑っているような気がした。

 

チャキッ!

 

ブウンッ!!

 

ハイクは銃の片方をしまい、残ったもう片方の銃を弄り銃口から小さなレーザーを出す。

銃のグリップも剣の柄のようになっていた。

 

ビシュッ!

 

そして虚空に一振りすると切っ先をモーブに向ける。

「行くぜ親玉!」

 

ダッ!

 

そして走り出す。

 

ギュンッ!!

 

ハイクはまるで朱色の光の矢のような姿となり一気にモーブに肉薄する。

「ハァッ!!」

ハイクは剣を振り上げる。

その時だった。

 

「ガァッ!!」

 

「なッ!?」

モーブの胴体から狼が飛び出す。

 

ドガッ!!

 

「ぐぁッ!」

そしてそのままハイクに頭突きをする。

 

ズザザザザザザザァ!!!

 

ハイクは弾き飛ばされるも受け身を取った。

「くッ!」

顔を上げると驚愕する。

「なッ……!」

 

「グウウウウゥゥゥゥゥウゥゥゥゥ……!!!」

 

モーブの周りに数え切れないほどの狼がハイクを見下ろしていた。

姿は先程と同じものの紫色の不気味なオーラをまとっていた。

(くそっ、まだいやがったのか……!?)

額に冷や汗がつたうのを感じるもハイクは群れを見渡す。

 

ババッ!

 

一瞬視界の端に黒い影が動きそこに視線を向ける。

「!?」

そして息を呑んだ。

 

バババッ!!

 

次々と黒い影がモーブから『出ていた』。

「アオオオオン!!」

そして新しく出てきた三匹は天を仰いで遠吠えする。

「……なるほどな。そういうことか。」

ハイクはモーブを睨む。

(どうやら奴は狼を生み出せるようだな。)

「ガァッ!」

今度は狼が十匹程ハイクに向かって襲い掛かる。

「なっ!?」

(速いッ!?)

狼のスピードは数段上がっており、一斉にハイクに肉薄する。

「チッ!」

 

ギュンッ!

 

ハイクは再び朱色の光の矢となり走り出す。

(いくら奴らが速くても俺のスピードにかなうものか!)

 

ヒュッ!

 

「!?」

だが、前を向いた瞬間に焦燥感が奔った。

狼が先回りをしていたのだ。

しかも奴らは走ると言うよりも足元を黒い影のように変化させ、滑るように近づいている。

狼が腕を振り上げる。

(まずい!この状態じゃ避けられない!)

何とか避けようともがくも意味が無かった。

 

バスッ!

 

「ぐあっ!」

狼の鋭い爪がハイクを切り裂いた。

「くッ……!!いってーな!!」

 

ダンッ!

 

ハイクは一瞬少しスピードが落ちたがすぐに元に戻り狼に向けて弾丸を放つ。

 

ビシュッ!

 

狼の頭に命中した。

しかしさっきはこれだけで消えたのが今回は消えない。

「!?」

ハイクは驚きを隠せなかった。

 

ニィッ!

 

狼が一瞬笑ったように見えたのは気のせいだろうか?

 

ガッ!

 

「ぐがッ!?」

狼が今度はハイクに噛み付いてきたのだ。

 

ドガッ!

 

ハイクはそのまま転倒する。

「くッ……!放せ!!」

 

バババッ!!

 

ハイクは青ざめた。

先程まで追いかけてきた狼が一斉に飛び掛って来たのだ。

 

ガッガッガッ!!

 

「ぐあああッ!!」

そしてその狼たちもハイクに噛み付いた。

「うああああああああッ!!!!」

ハイクの悲鳴が広大な地に響きわたる。

ハイクの居る場所は不気味な紫色のオーラをまとう小さな山のようになっていた。

「ガアッ!!」

そして先程までモーブの隣に居た狼の群れもこちらに向かって飛び掛ってきている。

身が裂けるような痛みと重み――――この二つがハイクを苦しめる。

「……………」

モーブは表情一つ変えずその光景を見ていた。

 

その時――――

 

――――カッ!

 

小さな山が光りだす。

それと同時に狼達が吹き飛ぶ。

中から出てきたのは言うまで間でもなくハイク。

「ハァ――――ハァ――――」

狼達によりボロボロになっているハイクはミサイルを肩に担ぎモーブを睨んでいる。

「ハァッ!!」

そしてモーブに向かって走り出す。

「ググググ………!!!」

そして吹き飛んだ狼たちはヨロヨロと立ち上がりハイクを追いかける。

ハイクはあっという間にモーブの目前に迫る。

 

バッ!!

 

そしてそのまま大きく跳躍する。

狼達も跳躍を試みた。

しかし少し遅かった。

「コイツで全員吹っ飛べぇ!!」

 

チャキッ!

 

ドンッ!!

 

ハイクは狼の群れにミサイルを撃ち込む。

 

ドガ―――――ン!!

 

そして大きな爆発を起こした。

 

トッ―――

 

ハイクは少し離れた場所に着地した。

爆発の衝撃で大きな煙と砂塵が視界を遮る。

煙が徐々に引いてきた。

 

ザッ―――――

 

「…………」

いつの間にか手持ちの銃をビームソードに変えていたハイクは無言でその姿を見ていた。

そう、中から現れたのは先程まで何があっても決して動じなかったあのモーブだった。

「とうとう親玉が動き出したってか。」

ハイクは構える。

 

ヒュウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ………ン

 

一風、小さな風が吹いた。

 

バッ!

 

刹那、両者が飛来する。

 

ガッ!!

 

そして攻撃しながら交錯し、再び飛ぶ。

 

ガッガッガッ!!!

 

両者は何度も交錯する。

再び両者がぶつかろうとした。

 

ガキィィン!!!

 

鈍い音が響く。

「くッ……!」

ギリギリと両者は腕に力を入れる。

(強い。流石親玉ってか)

目の前にあるモーブの顔を見ながら思う。

 

バッ!!

 

両者は離れる。

そして再び睨み合いが始まった。

「…………」

重い沈黙が続く。

その沈黙を破ったのはモーブだった。

 

カァァァァァァァァァァァァ………!!!

 

モーブの口に闇色の光が集まる。

「!!」

ハイクは身の危険を感じた。

「ガァァアァァァァァ!!!!」

 

バァッ!!!

 

モーブの口から大きな光線が放たれる。

 

バッ!!

 

ハイクはそれより一寸早く跳躍した。

 

ド――――ン!!!

 

標的を外した光線は砂漠を抉り巨大な穴を作った。

「………!!」

ハイクは呆然とその光景を眺めていた。

モーブは再び口に光を集めている。

「こうなったら……!!」

ハイクは背後から大きく広い銃口のレーザー銃を取り出す。

 

ジャキッ!

 

そして銃口をモーブに向ける。

銃口に鮮やかな光が集まってくる。

「ガァァァァァァァアアアアア!!!!」

モーブがこちらに向けて再び光線を放つ。

「『グレネードフラッシュ』!!」

 

ドォンッ!!!

 

ハイクの持っている銃も光線を放つ。

 

バババババババババババババババババ!!!

 

鮮やかな光と闇色の光線の押し合いが始まる。

「くくく……!!」

「ガ……ガガ……!!」

 

バチュンッ!!

 

僅かな力の差でハイクの出した光線が打ち勝った。

「いっけぇ――――!!!!」

 

ドンッ!!

 

光線がそのままモーブに直撃する。

いとも呆気なくモーブの姿はかき消えた。

残ったのはエメラルドの欠片だけだった。

ハイクは着地し、欠片を手に取る。

しかし、勝利を手中にしても彼はあまり嬉しそうな様子ではなかった。

 

―――――あの姿は一体――――?

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――オノレ

 

 

 

 

 

――――ニックキ人間ドモメ

 

 

 

 

 

――――我カラ全テヲ奪ッタ愚カシイ人間ドモメ

 

 

 

 

 

 

―――――我ト同ジ絶望ヲ味ワウガイイ――――!

 

 


 
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