No.472033

相良良晴の帰還15話

D5ローさん

皆さんの応援+休日=更新速度アップ

という訳で15話お楽しみ下さい。

2012-08-18 19:49:22 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:29724   閲覧ユーザー数:25393

信勝の乱の数日後、戦時中であるため、内輪だけではあるが、良晴は勝家、犬千代、ねねとの婚礼の儀を終えた。(二人の婚礼が遅れたのは、屋敷持ちの武士になってからの方がそこそこの格式で出来るからである。)

 

そして勿論というべきか、婚礼の後、早速というか電光石火の速さで側室を一人増やした件で、しこたま信奈にひっぱたかれた。

 

まあ、流石に事情を知っているためそこまで怒ってはいなかったが、やはり感情的には少しもやもやしたものがあったらしい。そうして試練(?)を終えた良晴は、顔に未だに治らぬ真っ赤な紅葉をつけながら商売に勤しんでいた。女の嫉妬とは怖いものである。

 

「やられたね。良晴。」

 

半数の書簡を運んだ時点でクロが襖を開けた。

 

ねねが御茶を入れたので休憩したらと提案しに来たらしい。

 

「わかった。後、どうでもいいが猫が襖を立って開けるな。・・・まあ、この傷については何も言えんよ。流石にな。」

 

「結婚式まで殴るのを待っててくれたし、殴りたい気持ちも分かる。」

 

振るわれた暴力について全く気にしていないどころか、理解すら示す答えを良晴はクロに対して返した。

 

「それに褒美も貰ったしな。」

 

「・・・基本キスだけであそこまでヤれるのは凄いよね。わりとマジで。」

 

その上で続けて放たれた言葉に今度はクロが冷や汗をかいた。

 

「デバガメは感心しないな。」

 

嫌味で言ったつもりの言葉も平然と返される。

 

そうやりとりを重ねながら、机の上を片付け終えた良晴は、クロと共にねねの待つ居間に向かった。

 

その背中を追いながら、小さな事かもしれないが、このように自分が行った事に対する相手の怒りや暴力を愛や理屈によって誤魔化したりせず、全て受け止め、されどその相手を当然の如く愛せるその心のあり方が、他者を引き付ける『人たらし』の根幹なんだろうなあとクロは思った。

 

実際、罰と褒美の順序を逆にすれば恐らくキスによって勝家を側室にした事は誤魔化されていた可能性が高かったが、得られた好感度は今現在よりもずっと低かったし、信奈の心に『この件については解決した』という感覚も湧いてこなかっただろう。

 

その言うならば『オープンスケベ』状態が、逆に周囲に良い影響を与えていたのである。

 

さて、そのように尾張の騒動が落ち着いてきたのとは裏腹に、今川軍は徐々に接近しつつあった。ただし、その行軍速度は、前回とは比べ物にならないくらい遅い。

 

当然、仕掛人は良晴である。時間を貰えればもらえるだけ取引で莫大な金銭を稼ぎ、戦力を増強することが可能な良晴は、信勝の乱の最中からこっそり今川軍に対して手をうっていた。

 

まずは兵士の多さと動きから考えて、通るであろう広い道に丸太を転がし岩を落として通りにくくした上に、信奈の了解のもと、最も水深が深く流れの速い川に架かる進軍に使える橋を一つ切り落とした。

 

次に行軍経路の町、村に備蓄されている『塩』を通る数日前から少しづつ買い取ってしまい、軍が逗留する頃には全軍を賄える量が村自体には存在しないようにした。

 

ちなみに買い取った塩は商人に扮した川並衆に活用させる。

 

『こちらで足りない塩を用意できますが量が多いので、少々お高くなる上に半日ほどかかりますぜ。』とうそぶいて時間と金を同時に稼ぐ糧とするのだ。

 

当然、今川軍が略奪に走ればこの策は機能しないが、正式な軍がそれをすると、いざ統治しようとする際に多大な支障が出ることが分からぬほど今川上層部は考え無しではないし、そのような己の美学に反するような真似は義元自身も許さないため、現状はこの策は順当に機能していた。

 

御茶と暫しの歓談を終え、再び書斎に戻り報告書を眺めながらそれを確認すると、良晴は部屋着を脱ぎ、戦装束を纏った後、旅仕度を整えた。今から出れば、余裕をもって間に合う。

 

目指すは井ノ口の町、目的は軍師『竹中半兵衛』。

 

軍師として他とは隔絶した能力を持つ彼女を今川軍到着前に得ることこそ、良晴の今川軍に対する最も重要な策である。

 

居間に向かうと、そこでは大きめの鍋をかき混ぜながら唸っているねねがいた。その可愛らしさに微笑みながら、良晴はその肩を叩く。

 

「うーむ、兄さまから頼まれた『らーめんだし』は難しいのう。って兄さま!」

 

「お疲れ様。本当に苦労をかけるんだが、ちょっと大切な用事をすませに美濃にいきたいんだが、数日留守を頼める?」

 

「もちろん。ねねはつまとして、『ないじょのこう』につとめますぞ。」

 

「ありがとう。五右衛門!」

 

「ここに。」

 

ねねの返事に良晴は感謝の言葉と頭を撫でることで返すと、五右衛門を呼び出す。

 

「浅野の爺に留守を頼むと伝言を。加えて、ここの警備を頼む。」

 

「了解しましたが、ついていかなくてもよろちいのでごちゃるか?う、又かんだでござる。」

 

その問いに良晴は頷きで返す。

 

「ああ、ねね達妻の安全が第一だし、時間稼ぎの策を十全に発揮するには君がいた方が良い。それと、すまないが他家の間諜(スパイ)の排除も頼む。」

 

「わかりました。」

 

かんだ言葉に気にせず話をしたのが功をそうしたのか、五右衛門はすぐに立ち直って頷いた。

 

そして、その返事確かめた良晴は、すぐに許可を得るため織田家に向かっていった。

 

                                     ※※※

 

一方その頃、織田家の本殿では、最近見慣れた光景が広がっていた。

 

「聞いてよ万千代、一昨日も良晴と愛し合ったんだけどさあ。普段と違って情熱的で、最後は腕枕の中でー、甘えさせてくれてさあ。」

 

そう、ノロケである。

 

勝家にとって、ここ数日は人生の中でも最高の日々であった。なんせ信勝様がいつのまにやら信澄と名を変え信奈の下に着いたのに、此方への咎めは基本的に無し。(先日の話し合いでは言い回しが難しくて結婚の事以外理解できなかった。)

 

結婚した旦那は、武士というより大名と呼んだ方がしっくりくるくらい全ての面で優秀で、皆から鬼扱いされている自分を『女』として甘えさせてくれる稀有な人。

 

顔は美形とは言わないが、知性を感じさせる目と、鍛えあげられしまったその顔は、むしろ『残念な美形』の元で燻っていた勝家にとってみれば好みといえる。

 

つまり勝家にとってここ最近は言うなれば『熱々の新婚』状態であり、 つい、その場をセッティングしてくれた長秀に御礼と共に、ここ最近の事を話してしまうのは仕方がないことであろう。

 

まあ、さっきから肌寒いくらい殺意を振り撒いている信奈や、段々青筋を立てている長秀、そして既に数日前から二人の様子に気付き、そこら辺の事を口にしていない犬千代から袖を引っ張られても気づかないのは非常に困るが。

 

そうこうしているうちに、本殿の扉ががらりと開けられる。

 

「すまない信奈、少し頼みがある。」

 

旅装束に着替えた良晴が、そこにいた。

 

信奈は当初、竹中半兵衛の説得に井ノ口の町に向かいたいという良晴の言葉に首を傾げた。

 

しかし、良晴が現状織田家に大軍の指揮をこなせる家臣はほとんど存在せず、その為軍の指揮、展開を素早くこなせるのは信奈、長秀、良晴の三人しか居ない(勝家は基本突撃しか出来ない)ことは、迫り来る対今川戦は言うまでもなく、後々領地が広がった際にも不味いのではないかという問いを受け、納得した。

 

「良いわよ、良晴行きなさい。路銀は出すわ。」

 

「ありがたく頂戴するよ。行き帰りあわせて三日以内には結果は出せるようにするから。」

 

手持ちお金はかなり余裕があるが、ここで主君である信奈が出すと言ったお金を受け取らないことは不敬にあたるため、そのまま受けとる。

 

ただし、先日言われた、『その堅っ苦しい口調禁止ね』という命令通り、口調は砕けたものにする。

 

これは良晴にとってもありがたかった。

 

流石に身内に敬語を使うのが苦しくなってきたのだ。

 

「三日ね。だいぶ早いけど大丈夫?」

 

「これ以上経つと今川軍戦の指揮をとるのに支障が出るしな。まあ、無理はせず引き返すよ。」

 

「そう、それならもし成功すれば褒美(・・)をとらせるわ。」

 

良晴は『褒美』の部分を強調して口にした信奈の言葉の裏の意味(・・・・)を理解し笑みで返す。

 

「ああ、期待してる。それと褒美を頂く時、相談したいことがあるから時間をもらえる(・・・・・・)かな?具体的には二時間くらい。」

 

褒美の中身(・・・・・)を理解し即座に返す良晴に頬を染めて信奈が返す。

 

「いいわよ。」

 

だが納得のいかないのが勝家だ。

 

「お、お待ち下さい。良晴がわざわざ行かずとも、誰か…例えば信澄辺りに行かせればよろしいのでは。」

 

「はあ、あんた良晴が軍略で当てにできる人材に信澄が説得なんてできるはず無いじゃない。馬鹿じゃないの?」

 

「それに信澄様以外でも、軍師を他国から説得できるような人材は良晴以外いません。十点。」

 

だが口に出した言葉は二人から強烈に否定される。

 

「う、うわーん。よしはるー、二人が苛めるよう。」

 

たまらず抱きつく勝家の頭を撫でる一方、光の消えた二人の目を見て冷や汗を垂らす。

 

だが勝家を振り払う無体も出来ずに、とりあえず落ち着くまではその体を抱き締めていた。

 

一方、信奈の頭は言うまでもなく『私の良晴を独占して』という一念だったが、長秀の方は、病んだ目をしながら様々な事を考えていた。

 

『とりあえず私の苦労も知らずにノロケ続ける勝家は一度ちゃんと締めるとして。どうすれば私の苦労が分散されるかしら。誰か他に巻き込もうにも、余計な人を入れると又気苦労が増えるだけだし。』

 

『でも、これから尾張が信奈様と良晴の言う通りに勢力を広げていけば、必ず又何度が側室をとらなければならない時がくる。』

 

『人質として送られてきた娘を信奈様の妹分として迎えることは慣習としてできるけど、結局それは実際に血縁を繋げることにはなり得ないし、もし、京に上るために不可侵条約を結ぶ必要がある上杉や武田家など契約を結ぶ時がくれば、まず間違いなく両家とも彼の血を欲するわ。』

 

『そう、私以外に、信奈様の制止役となりうる存在を手に入れなければならない。そのような人は果たしているのかどうか。』

 

そこまで考えを至らせてはたと気づいた。今、良晴は何を探しに行くと言った?

 

「よ、良晴、わ、私からも確認したいことがあります。」

 

おもむろに顔を向けると、 長秀は良晴に向けてやや震える声でそう問いかけた。

 

「何だい?」

 

「その軍師、軍略以外にも頭が回りますか。」

 

前世で半兵衛に助けてもらった事を思い出す。うん、本当に色々世話になったなあ。

 

「知謀という面では、役に立てない場面が無いね。」

 

その答えを聞き、ぐっと拳を握りしめる。まだだ、まだ聞かねばならない事がある。

 

逸る心を押さえて、続けて問いかける。

 

「えーと、噂で半兵衛殿の事は伺っていますが、確か未婚でしたよね。」

 

己の内に固まりつつある策を見破られぬよう、長秀は慎重に問いかける。

 

「ん、まあ、十中八九そうだろうなあ。基本的に他者への交流を嫌うという話だし。」

 

良晴は五右衛門に調べさせた情報と前世での付き合いにより、その人となりなんぞほぼ全て理解していたが、流石に他国の事情に通じ過ぎていれば怪しまれる。よってぼかして答えた。

 

長秀は快哉をあげた。これならいける。長秀の中で策の断片が組みあがったのだ。

 

すぐに策を実行に移す。

 

「信奈様、実際に半兵衛殿を迎える際に問題が一つございます。」

 

突然、向きを変えて長秀は信奈に話しかけた。

 

「何?万千代。」

 

「もし説得に成功した際、どのような待遇で迎えるのかという問題です。」

 

そう問いかけられ、信奈ははたと気づいた。

 

現状、特に織田家に逆らっていたり家を取り潰されたりしていない竹中家から優秀な人材を引き抜く場合、それに釣り合う待遇をもって迎えなければならない。

 

しかし、あまり高い報酬であれば譜代から文句が出る元となるし、逆に安ければ、軽んじていると逆に竹中家から糾弾される原因となる。非常に難しいバランス感覚を必要とする問題であった。

 

気づかなかった己に恥じること数瞬、長秀の真意を理解し問う。

 

「万千代、ここで私にそう問いかけるということは、腹案があるの?」

 

「ええ、つたないものでは御座いますが。」

 

「デアルカ。なら披露しなさい。」

 

己が心を読んで任せてくれた信奈に心の中で感謝をしながら、長秀は続ける。

 

「まず半兵衛殿の身の置き所として、良晴の下を推します。これは信奈様の直属とするのは難しい反面、生半可な家ではで半兵衛殿に見合う報酬を支払い続ける財力が無く、又、その軍略を理解し満足な権限を与えることが難しいからです。」

 

「そりゃそうよね。でも、蝮から譲り受ける約束こそ貰っていても、未だ実効支配していない美濃からこちらの願いに応えて来て頂いた軍師を、昇格したてで土地を持たない侍大将の元につけるなんて酷くないかしら。せめて土地持ち武将ぐらいじゃないと。」

 

信奈の『だからそれをするなら早く良晴の地位上げろ』という目線を受け止め、頷きを返しつつ続ける。

 

「仰る通りですので、数度の戦をこなせばすぐにでも良晴を領地持ちの武将として引き上げる所存です。良晴が今川軍を破る際に活躍すれば、柴田家とつながっているため、皆もすんなり受け入れてくれましょう。ついでに、半兵衛殿に織田家から、『昇格が内定している有望株につける』と文面に起こして送るのはいかがでしょう。」

 

信奈は膝をたたいて賛同の意を示した。

 

さらに長秀は続ける。

 

「さらに駄目押しとして、半兵衛殿が気に入った相手と婚姻をする際に、上層部である我々が後ろ盾となるのは如何でしょう。慣れない土地で気に入った相手を見つけた際、後ろ盾があるのとないのではだいぶ違います。無論、両者の同意の上であることは必須ですし、格が違いすぎる相手は無理ですが。」

 

言葉を終えた後。、こう書いておけば逆に自分や信奈様が言い寄られる事は無いですし、私個人に感謝もしてくれましょうと長秀はぼそっと呟いた。

 

当然、長秀はこの恩を利用して半兵衛も自身と同じ立場に巻き込む気満々である。

 

そして、一方信奈は長秀の言葉が終わるか終わらないかという時には既に、紙を持ち文面を作り始めていた。脇には花押もある。心中に湧き起こる良晴との結婚が近づくという喜びを糧に、一心不乱に筆を走らせた。

 

「良晴、この書簡も持っていきなさい。すぐ用意するから。長秀、手伝って。」

 

「御意。」

 

長秀も既に花押は手元に用意している。

 

その後、又駄々をこね始めた勝家を宥め、じっとこちらを見つめる犬千代に構っていた良晴は、書簡が出来上がると、残り時間も少ないこともあってか、特に何も確認せず急いで井ノ口の町へ向かった。

 

長秀が誤情報によって半兵衛についてある一点だけ(・・・・・・)誤解していることに気づかずに。

 

そう、実は、長秀は子飼いの間諜から、陰陽師風の男が半兵衛である(・・・・・・・・・・・・・)という誤った情報を得ていたのだ。

 

実は、その男は半兵衛の式神である前鬼が化けた者であり、本当の半兵衛は結婚適齢期の女の子(・・・・・・・・・)であることを、その時長秀は知らなかった。

 

さらに、もって回った言い回しのために、唯一正確な情報を持っていた良晴からその事を聞けなかった。

 

その事と、ついでとばかりに追加された最後の項(・・・・)により、長秀が『策士、策に溺れる』状態になることを知るのはもう少し後・・・いや、もうすぐである。

 

(第十五話 了)

 

以下レス返し

 

甘露様→ええ、確かにいぢめられっ子キャラですよね。彼女は。

 

nameneko様→まあ、ソウデスヨネ(目をそらしつつ)

 

武蔵様→応援ありがとう御座います。もう少しで戦闘へ・・・入れるとイイナ。

 

pinohino様→楽しんで頂いて嬉しいです。長秀の受難の終わりは・・・来るのか(汗)

 

さまよう人様→次回以降の織田の特異点『良晴』対半兵衛をお楽しみ下さい。

 

レザード様→応援感謝します。勝家はかわいいですよ。ちょっと空気読めませんが(冷や汗)

 

sorano様→今後ともよろしくお願いします。長秀はきっと幸せになれますよ。(遠くを見ながら)

 

フォルトゥナ様→なんだかんだ言っても幼馴染を大切にしている長秀を不幸にしたままにするつもりは無いのでご安心を。

 

《追記》

 

次回より、このような形でレス返しを行いたいと思います。

 

今回は全て返しましたが、次回より、レス希望の方は、(レス希望)と表記をお願いします。

 

お手数かけますがよろしくお願いします。

 

以上


 
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