No.470833

魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 四十三話

金色の悪魔再来

2012-08-16 03:18:18 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4426   閲覧ユーザー数:4120

ユーノは焦燥していた。

 

ある日を境にカリフの携帯に連絡がつかなくなってしまった。

 

調査を続けていたユーノは闇の書の恐るべき特質を昨日までカリフに伝えられず、ギリギリまで打開策の調査を続けて海鳴の夜空を飛びながらカリフ携帯にかけているの今に至る。それなのに一向に出る気配が無い。

 

(普段ならともかく、この時期で僕の電話に出ないのはおかしい……何かあったのかな)

 

ならば尚更急がねばならない。

 

闇の書について明かされた恐るべき事実を伝えるために。

 

「闇の書の完成ははやての死を意味していることを……カリフを止めなきゃ!」

 

ユーノは夜空の中へと消えて行った。

 

 

海鳴病院の屋上

 

そこにはシグナムとシャマル、なのはとフェイトが向かい合っていた。

 

沈痛な面持ちでなのはたちは真実と向き合っていた。

 

「はやてちゃんが闇の書の……」

「あと僅かで悲願は達成される」

「邪魔するならたとえはやてちゃんの友達でも……!」

「駄目なんです! 闇の書を完成させてしまったら……!」

 

シグナムとシャマルの決意にも怯まずになのはが叫ぶが、その時、上空から雄叫びが響いた。

 

「でやぁぁぁ!」

「!」

 

なのはは奇襲をかけてきたヴィータのグラーフアイゼンを咄嗟に片手のシールドで直撃を防ぐ。

 

しかし……

 

「きゃあぁぁ!」

 

シールドは粉々に砕かれ、遥か後方の金網のフェンスに叩きつけられる。

 

「ぶっつぶれろぉぉぉ!」

「!!」

 

痛みに鈍くなっいるなのはにヴィータはアイゼンをブーストでなのはに叩きつける。

 

なのはのいた場所で大規模な爆発が起こった。

 

「なのは! はっ!」

 

なのはの身を案じるフェイトにシグナムはレヴァンティンを構えて斬りつける。

 

素早い動きでシグナムの一撃をかわしてバルディッシュを展開させる。

 

「管理局に主の存在を知られては困るのだ……シャマルは後方で電波妨害を」

「えぇ……」

 

シャマルがバリアジャケットに着替えると同時にシグナムも炎に包まれてバリアジャケットを装着する。

 

察したフェイトはバリアジャケットを装着する。

 

『バリアジャケット、ソニックフォーム』

 

バルディッシュの機械的な音声と共にフェイトの姿形が変わる。

 

その姿は従来のマント姿とは異なり、黒いタイトスーツのようだった。

 

『ハーケン』

 

バルディッシュの声と共に鎌の形へと変形させる。

 

「薄い装甲をさらに薄くしたか」

「その分速く動けます」

「些細な攻撃でも当たれば死ぬぞ……正気か?」

「あなたに勝つためです」

 

フェイトの曇りなき覚悟を肌で感じたシグナムは静かに涙を流す。

 

自分より小さい少女が命を賭け、誇りを貫く眩しい姿に敬意と自分への情けなさを感じて……

 

「こんな形でなければ私たちはどれほどの友になれたか……」

「今ならまだ間に合います」

 

真っ直ぐに見つめてくるフェイトにシグナムも濡れた瞳でにらみ返す。

 

「止まれん……我等は主の笑顔のためなら誇りを捨てると決めた……もう、止まれんのだ!」

 

毅然と言い放つシグナムにフェイトは堂々と返す。

 

「私とバルディッシュが止めます。それに負けられない理由もあります」

 

バルディッシュを構えてシグナムと相対する。

 

それに答えるようにヴィータも涙を流しながらバリアジャケットを装着する。

 

「もう少しなんだ……あともう少しではやては助かるんだ……カリフだってもう肩身の狭い思いなんてしなくてもよくなるんだ……」

 

燃え盛る炎の中の影を憎悪の瞳で睨む。

 

「だから……邪魔すんなあぁぁぁぁ!!」

 

ヴィータの悲痛とも怒りとも取れる叫びにバリアジャケットのなのはは沈痛な面持ちで語る。

 

「やっぱり……カリフくんもいたんだね……なんとなくそう思ってた……」

「……悪魔め」

 

ヴィータからしたら炎の中から現れるなのはがはやての命を追い詰め、カリフを独りにした悪魔に見えたのだろう。

 

なのははそれに対して悲観することなく、逆に決心したようだった。

 

「悪魔で……いいよ。悪魔らしい方法で話を聞かせてもらうから!」

 

なのははレイジングハートを展開させて臨戦態勢に入る。

 

最後の戦いが今ここで始まる。

 

そう思っていた矢先だった。

 

 

突如としてなのはの体にバインドが巻き付いた。

 

「あぁ!」

「なっ!?」

 

これから戦おうとしていた矢先に何者かのバインドに捕まる。

 

「バ、バインド!?」

「あぁ!」

「うわ!」

「なっ!」

 

それはなのはたちに限らずに騎士たちにもバインドがかけられた。

 

その時、夜空から仮面の男が現れた。

 

「あなたは!?」

「貴様は!」

 

両者にとっても因縁深い相手の登場にバインド捕らわれながら声を荒げる。

 

そんな時、仮面の男がもう一人現れた。

 

しかし、その手には見慣れた本があった。

 

「闇の書……? なんで……」

「なぜ貴様等が!!」

 

理解できていないようなシグナムたちだが、仮面の男は有無を言わさずにページを開く。

 

「蒐集開始……」

「不要になった騎士たちは蒐集してもらう……この機に八神はやてに消えゆく貴様等の姿を見せてやろう」

「なんだとテメェ!!」

 

はやて……そのワードだけでヴィータは殺気を一杯に男たちにぶつける。

 

しかし、男たちはまるで騎士たちを物のように認識しているのか全く相手にしない。

 

それどころか男の一人が騎士たちとなのはたちを頑強な結界に閉じこめる。

 

なのはたちは無理矢理結界ごと遥か上空に飛ばされる。

 

シグナムたちはもがきながら怒声を放つが、音さえも遮断してしまう。

 

シグナムたちを余所に男たちはなのはとフェイトの姿へと変わる。

 

「闇の書の主の目覚め……」

「いや、因縁の終焉だ」

 

 

 

 

 

病室のベッドの上で帰って行ったアリサたちがくれたプレゼントを見つめて笑顔になる。

 

「今日はクリスマス・イブかぁ……」

 

呟きながら半年前までのことを思い出す。

 

新しくできた家族、友達

 

この半年で大切な人たちができた。

 

「あともう少しで一年も終わりやなぁ……」

 

今までと違って特別な一年の始まりがとある一人の男の子

 

壮絶な登場のしかたも普段の態度から見ても一筋縄ではいかない不良みたいな怖い子かと思っていた。

 

だけど、その実は現代では珍しいくらいに男らしく、時にはだれよりも子供らしかった。

 

「シグナムとヴィータとシャマルにザフィーラ、プレシアさんにアリシアさんやすずかちゃんたち……それと……カリフくん……かぁ……」

 

あの日の夜に本音を吐き出し、それを真摯に受け止めてくれたカリフに新たな想いが生まれたと気付くのは簡単だった。

 

自分に特別な日々をくれた張本人であり、誰よりも強くて正直だ。

 

そんな家族や友達、さらに我儘を言えばカリフと皆とクリスマスを過ごしたい。

 

そう想いを馳せていた時だった。

 

 

 

 

「っ!!」

 

突然、大きな胸の鼓動と痛みによって目を瞑って胸を押さえる。

 

だが、この時の発作はいつもと違って単発で終わった。

 

だが、発作は治まっても肌で感じるのは冷たい風。

 

「あれ? ここは?」

 

不思議に思ったはやてが目を開けると、そこはネオンの街頭が一望できる屋上だった。

 

そして、目の前には最近になって知り合った友だった。

 

「なのはちゃん? フェイトちゃん?」

 

何が何だか分かってない様子だが、一つだけ分かってることがある。

 

(何だろう……なんだか違う……)

 

自分はカリフほどの神がかった直観力、観察力なんて持ってない。

 

それでも……

 

(あの二人はあんなに冷たい目なんてしない……)

 

それでも二人が別人だと分かってしまう。

 

後方で声は聞こえないけど自分に向かって

 

そんな二人に恐怖を抱いていると、二人の少女の皮を被った“何か”が語り出す。

 

「はやてちゃん。君はね、病気なんだ」

「闇の書の呪いって病気」

「もうね、治らないんだ」

「君は一生苦しむんだ」

 

二人の言葉がはやての心を傷つける。

 

だが、それでもはやては屈することはない。

 

「そんなんどうでもええねん……それよりもシグナムたちを解放して!」

「この子たちはね……もう壊れてるんだ」

「まだ闇の書が使えると思いこんでいる」

「無駄なことをしていたんだ」

「無駄ってなんや!? それよりも三人を返して……っ!」

 

はやての訴えも全て嘲笑いながら二人は守護騎士たちへ向き直る。

 

「この子たちはもう壊れてるんだ……」

「壊れた機械は壊しちゃおう」

 

それぞれのデバイスをシグナムたちに向ける。

 

「な、何するんや!!」

「そんなに言うなら返してあげるよ」

「コアに返還させてね……」

 

そう言って二人ははやての涙の制止を無視する。

 

「だめ……止めて!!」

「止めたいのなら」

「力ずくでどうぞ。といっても力を手に入れた時にはもう手遅れだけどね」

「駄目ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

孤独だった少女の懇願を無視して闇の書をシグナムたちに向ける。

 

全てが思い通りになる快感と達成感になのはとフェイトに成り変わっている者はほくそ笑んだ。

 

そして、シグナムたちの魔力を蒐集する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

「バカな!! なぜだ!?」

 

なのはに化けている者が驚愕の声を上げる。

 

「蒐集できない、だと!?」

「落ち着くんだ! もう一度やってみろ!!」

「何度やっても無駄だ」

「「!?」」

 

慌てふためく二人に対して落ち着いた声が二人を止める。

 

そこを見ると人間体型のザフィーラが睨みを利かせていた。

 

「お前は!!」

「何度連絡を入れても連絡が付かなかったから来てみれば……やってくれたものだ」

 

いつもと変わらない口調だが、明らかにザフィーラは怒っていた。

 

自分の主や仲間が追い詰められているのを見れば当然の反応なのだが……

 

思わぬ事態に偽物たちが狼狽しているのを見てザフィーラは種を明かす。

 

「足りないページをシグナムたちの魔力で補おうとしたようだな……まさにカリフの作戦勝ちだな」

「ど、どういうことだ!!」

 

ザフィーラは悠々と項垂れるはやての元へと馳せ参じる。

 

「ザフィー……ラ……」

「遅くなって申し訳ございません……主はやて」

 

愛おしそうにはやての安否を確認すると、すぐに表情を引き締めて偽物たちに言う。

 

「続けよう。既に我々守護騎士は全員蒐集を行っているのだ」

「「な!?」」

 

予測し得なかった答えに二人は驚愕に目を見開く。

 

「カリフの提案で我々の存在が消えない程度まで魔力を蒐集した。時間短縮と“もしもの出来事”に備えてな」

 

次々と暴露される答えに二人は絶望の色を強くする。

 

「リンカーコアは闇の書の修復プログラムで回復した……それでもページを埋めるには至らなかったがな……」

「だが、最後の蒐集相手は決めた」

「なん……だと!!」

「お前は!!」

 

新たな声の元へ目を向けると、そこには最も警戒すべき脅威がそこにいた。

 

朗らかな笑顔を浮かべたカリフだった。

 

その姿を目にした偽物は寒気を感じて構える。

 

「カリフくん……」

 

対象的にはやては安心したようなのか、嬉しさで泣きそうになる。

 

「バカな! あの睡眠薬は大の男さえも一日は眠らせるくらいに協力なはず……!!」

「この世界に来てから毒を飲んで飲んで飲みまくって抗体を作りまくった成果かな、毒以外の薬なら一時間以内に消えるようになった」

 

額にビキビキと浮かぶ血管とは裏腹にカリフには笑顔が張り付いている。

 

「ありがとよ。新たな“抗体”ができた」

「こ、この……!」

 

嘗めたわけじゃない。

 

ただ警戒が足りなかっただけ。

 

その無意識の油断がこの戦況を逆転させたのだった。

 

「お前たちは油断してノコノコと間抜けにもエサに釣られたのさ」

 

そう言いながら手首のスナップを利かせるだけで斬撃が生じる。

 

その斬撃はシグナムたちを捕らえていた結界をまるでゼリーのように容易く斬り払う。

 

「シグナム! ヴィータ! シャマルぅ!」

「はやて!」

 

ヴィータははやての下へと飛んでいって互いに抱き合う。

 

その様子に後から来るシグナムたちもはやてに笑いかけながら寄り添う。

 

「はやてちゃん……よかった……」

「すみません……あなたに怖い思いをさせてしまいまいした」

「ううん! ううん! 皆が何ともなくて良かった……」

 

掠れる声で呟きながら騎士たち全員を引き寄せて涙を流す。

 

 

 

 

 

そんな傍らでもカリフは気にすることなく嘲笑を続ける。

 

「お前等みたいな慎重なチキンは必ず“自らの手で目的を完遂させる”と思って泳がせた結果だ。ここまで計画通りだと爽快な気分だ」

 

今度はカリフに嘲笑われることになる。

 

偽物は密かに魔法を行使しようとする。

 

しかし、その直後に青いバインドが自分たちを捕らえた。

 

「なっ!?」

「これは!!」

「ストラグルバインドだ……」

 

そこに、更なる招かれざる客……クロノが現れた。

 

「クロノ!」

「お前……!」

「この結界のおかげで遅れてしまったよ……そして認めたくはなかった」

 

クロノは残念そうに呟きながらバインドに魔力を流す。

 

「「うあああああぁぁぁ!!」」

 

偽物たちは力を奪われて絶叫する。

 

「拘束しながら対象の魔法を無効化させる。こういった相手には丁度いい」

 

尚もクロノは残念そうに続ける。

 

そして、なのはとフェイトの姿は解け、その正体が露わになった。

 

そこには、クロノの恩師の姿だった。

 

「こんな魔法教えなかったはず……」

「一人でも精進しろと言ったのは君たちだろ……ロッテ、アリア」

 

悲しそうに言うクロノに事の顛末を見据えていたカリフが近付いてきた。

 

「なるほど……このためにオレを泳がせたと言う訳か?」

「……気付いていたのか」

 

その言葉にカリフはクロノを鋭い眼光で睨みつける。

 

「人の嘘くらい見分けるのは簡単だ……それを承知で貴様はプレシアの件で凶弾したんだろうが」

「……見えざる敵は君を一番に警戒していることくらいあの写真で一目瞭然だったからな。君を孤立させれば敵の目もそっちに行って僕たちの行動もしやすいと思ったことでの行動だ……覚悟はできている」

「殊勝な心がけだなぁ……オイ」

 

カリフの威圧がクロノの体に一身にのしかかり、嫌な汗を拭きだす。

 

この時ばかりは死を覚悟していたクロノだが、すぐに気丈に振る舞って持ち直す。

 

「だが、君もそれを承知で乗ったんだろう?」

「あぁ、お前たちの駒になった気がして不愉快だった……だったが……」

 

カリフは身動きのとれないリーゼ姉妹を見てほくそ笑む。

 

「お前の登場でこいつ等の絶望が深まった……近しい者に背徳を知られた奴の典型的なパターンに乗せてくれたんだ。今回は役得だったぜ」

「……そうか」

 

遠まわしで『許してやる』と上から見られているが、それだけカリフやはやてにしてきたことを許さないという気持ちも理解してしまった。

 

カリフの『義理』の心に触れて何も言えなくなってしまった。

 

そこへ、はやてに寄り添って静観していたシグナムたちはカリフに言う。

 

「手筈通りに進めるぞ」

 

そう言って闇の書を戻すシグナムにクロノはデバイスを展開させる。

 

「闇の書を完成させる訳にはいかない」

 

クロノと守護騎士たちはまさに一触即発の緊張状態となった。

 

圧倒的にクロノが不利

 

後で来るユーノとアルフがなのはたちを救い出してもカリフがいる。

 

分は……絶望的に不味い。

 

「その口ぶり……まさか……」

「ああ、最後の蒐集はその二匹の使い魔からいただく手筈だ」

「やはりか……」

 

さらに、拘束している二人の護衛をしなければならない。

 

結界の外からの援護が来るまでの時間を稼がねばならない。

 

この状況を乗り切るための策を頭の中で練っていた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「まだ……すべきことがある」

「「「「?」」」」

 

カリフの一言に騎士たち全員がカリフの方を見た。

 

クロノも騎士たちの様子に疑問を抱く。

 

「まだ何かあったっけ? さっさとこいつ等の魔力を……」

「それで今までの“ツケ”をチャラにするにはいささか物足りないとは思わんか?」

 

カリフの髪がザワザワと揺らめく姿はまさに一触即発のライオンを彷彿させるものだった。

 

クロノや守護騎士、あげくはリーゼ姉妹までもが寒気を覚えた。

 

「オレはこの日までずっと苦汁を舐めさせられてきた……ここまでコケにされたのは久方ぶりでねぇ……」

 

いつもよりも優しい口調なのに悪寒が止まらない。

 

嫌な汗がカリフの一言一言で溢れ出る。

 

「人には越えてはならない一線がある……今回は流石にプッツンしてしまってねぇ……ハハハ……」

「うっ!」

 

笑いながらカリフを中心に突風が吹き荒れる。

 

それによって全員が咄嗟に腕で顔を覆う。

 

しかし、突風は止むどころか徐々に強くなって行く。

 

「久しぶりだよ……ここまでオレをコケにした馬鹿共は……」

 

その時、リーゼ姉妹の傍で急に“二人のカリフ”が現れた。

 

「なっ!?」

「これは……!」

 

突然のことで反応が遅れ、更にはバインドによる拘束で動けない二人の手首をおもむろに掴んで

 

 

 

 

手首を“外した”

 

「うああああぁぁぁぁぁ!」

「あ、あぁ……」

「ひっ!」

 

痛みで大声を上げるロッテと痛みで声が出ないアリア

 

手首が変な方向にねじ曲がっているのを見たはやては恐ろしさに後ずさる。

 

嫌な音が余韻として響く耳に聞き慣れた、聞きたかった声が静かに響いた。

 

「この先は……見ない方がいい」

「え? あ……」

 

この時、別の場所で待機していたもう一人のカリフに首筋を触られた瞬間にはやては意識を失う。

 

「主!?」

「喚くな。ノッキングと気の麻酔だ。これからのことを見てギャーギャー喚かれたら邪魔だからなぁ……」

「おいカリフ! これはどういう……!!」

 

突然のアドリブにシグナムたちはさっきまで話していたカリフに詰め寄ろうとするが、それを遮る者がいた。

 

「なんだそれは! それは君の力か!?」

「あぁ? そういえばクロノとかには見せてなかったよなぁ……」

 

なぜだか“四人に増えた”カリフにクロノは困惑するが、守護騎士たちは戦慄した。

 

「あれは……」

「えぇ、確か“四身の拳”……だったかしら?」

 

ザフィーラとシャマルは半年前までの体験を思い返していた。

 

四身の拳……カリフの技であり、幻術ではなく、本当に術者を四人に増やす反則技。

 

その時に与えられた精神的ダメージは今でも忘れられない。

 

「あいつ……マジじゃねーか……」

「あぁ……殺す気はないかもしれんが……あの二人……」

 

シグナムは未だに痛みで地面に転げる二人を見て同情と恐怖を覚える。

 

「もはや五体満足でいられるか分からんぞ……」

 

シグナムは体を震わせ、冷や汗を流しながら見ていることしかできずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

そして、四人のカリフは一カ所に集まり、やがて一人に戻る。

 

リーゼ姉妹を見下ろして宣告する。

 

「覚悟するんだな……こうなったオレはねちっこいし、陰湿だ……」

「ぐ、くぅ……!」

 

痛みに耐えて地べたを這いずりながらも睨んでくる姉妹にさらにカリフは加速する。

 

「さぁ……久しぶりだから少し力を出してやろう……もう逃がしはしない」

 

この瞬間、カリフは両手を交差させて力を溜める。

 

「こおおおぉぉぉぉぉ……」

 

只でさえ恐ろしい闘気がさらに膨れ上がっていくのを感じてその場のカリフ以外の全員が驚愕と畏怖を抱く。

 

 

 

 

 

 

あまりに底の見えないカリフの昂りはやがて目の色を碧眼に変え……

 

 

 

 

 

 

黒髪が逆立って金髪に変わって……

 

 

 

 

 

 

 

金色のオーラとけたたましい小規模の稲妻を纏った戦士へと変貌を遂げた。

 

 

 

「あ……ぁ……」

「な、なんなんだよ……お前……」

 

桁違いに膨れ上がった覇気や殺気、怒気に姉妹は絶望の色を強くして目の前の存在に問う。

 

だが、今度はそんな二人を無視して続けた。

 

「絶対に許さんぞ虫けら共……ジワジワと嬲り尽くしてくれる。一人たりとも逃がさんぞ覚悟しろぉ……」

 

 

 

 

 

ただ一つ分かったことがある。

 

目の前の金色の化物は自分たちを地獄に叩き落とすという命を授かった正真正銘の死神なのだということを……


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
8
1

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択