No.468012

魏√after 久遠の月日の中で19

ふぉんさん

魏√after 久遠の月日の中で19になります。前作の番外編から見ていただければ幸いです。どうぞ!

2012-08-10 03:22:30 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:20957   閲覧ユーザー数:16217

『嘘や……そんなら、あれが一刀やったってことやないか……』

 

許昌へと帰還途中の遠征隊と合流し、事情を説明すると霞様がそう言った。

呆然と力無く呟く霞様の表情が忘れられない。

王祥さん。仕返し、一発じゃ足りないかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隊長の捜索は正式な仕事ではないため、私と霞様のみで行うことになっている。

遠征隊は小隊長に任せ帰還した。

霞様が華雄さんから聞いた情報を元に、私達は呉との国境近辺に向かっている。

 

「あの、霞様」

 

「んー?」

 

私の声にどこか物憂げに返事をする霞様。

合流してからずっとこの様な状態だ。

 

「隊長と仕合ったと言ってましたが、その……隊長には悪いですが、相手になったのでしょうか」

 

「……一刀、めっちゃ強くなってたんよ。うちと同じくらいって言っても過言やないかもなぁ」

 

「なっ」

 

その言葉に驚きを隠せない。

霞様がこの五年間鍛錬を怠ってなかったのを私は知っている。

その霞様にこう言わせた隊長は、五年前まで武に関しては一兵士と遜色がないと言ってもいい程だった。

隊長も鍛錬をしていたのだろうが、そうだとしても恐るべき上達振りだ。

 

「さっさととっ捕まえるで凪。一刀には聞きたいことが山ほどあるんや」

 

「は、はいっ!」

 

霞様……目が据わってる。

一瞬再開後の隊長の安否を心配したが、すぐに止めた。

これは隊長の自業自得なのだから。

日が落ちる頃に集落を見つけたので、そこで宿を取ることになった。

霞様は情報収集をすると荷物を置きすぐに外へ出た。

私は部屋に残り体を休めている。

許昌から霞様と合流するまで、休まず移動したため少し疲れてしまった。

隊長帰還の知らせを早く霞様に伝えたかったからこその行動だが、あまり褒められる事ではない。

一将ともなれば、如何なる時も冷静に行動しなければならない。

こういう愚直な部分が、自分で分かっていても昔から直らず悩んでいる。

 

と、部屋の扉が勢い良く開いた。

 

「凪。疲れてるとこ悪いんやけど、仕事ができた」

 

「仕事ですか?」

 

隊長の情報を集めてる時、集落の長から依頼されたらしい。

霞様の格好から、すぐに国の者だと分かったのだろう。

内容は近辺に根城を持つ野盗集団をどうにかしてほしいとのこと。

今は隊長の捜索としてこの集落にいるが、魏領の治安維持は私達の元々の仕事だ。

 

「辛い様やったら凪はここで休んでてもええんよ?集団言うてもうち一人で片付けられそうな規模やし」

 

「いえ、行かせてください」

 

隊長と華琳様が作ったこの平和。乱す輩を私は許せない。

霞様は私の顔を見て少し笑い、口を開いた。

 

「そかそか。一応言うとくけど、気を抜くんやないで。一刀に会う前につまらん怪我したらしょうもないわ」

 

「はっ!」

長から聞いた情報を元に山道を歩いていく。

空には満月が浮かんでおり、夜の闇を照らしていた。

松明等は野盗に見つかる恐れがあるので使えないが、月明かりが強いお陰で困ることは無い。

不測の事態にも対応できるよう気を引き締めて歩いていると、崖に突き当たった。

少し迂回すると、人の気配を感じ近くの山林に隠れる。

 

崖にできた大きな洞窟の端に、武器を持った男が一人いる。

恐らくは見張りだろう。霞様と顔を見合わせ頷く。

手筈はすでに決めていた。

野盗等に気取られず根城に潜入し各個制圧。

洞窟内に分かれ道が在ればそれぞれ近いほうに進む。

もし野盗等に気づかれ対多数になった場合は、合流するため行動すること。

私はともかく霞様なら心配は無いだろうが、万が一もあってはいけない。

頭の中で整理を終え、意識を見張りに向ける。

見張りの男が暇そうに欠伸をした瞬間、私と霞様は地を蹴った。

 

「ッ!……カハッ!」

 

男はこちらに気づいたものの、武器を構える間も無く霞様の飛龍偃月刀の柄が鳩尾に沈んだ。

静かに倒れる男を尻目に、私達は洞窟内に進入した。

入ってすぐに分かれ道になっていたので、一人洞窟内を進んでいた。

一本道を曲がると、人影と鉢合う。

 

「ふっ!」

 

出会い頭即座に昏倒させる。

叫び声すら上げさせない。声を聞いて増援が来ては厄介だからだ。

倒れた賊を道の端に寝かせる。

何故だかわからないが、洞窟の壁に付けられた松明らしきものが消されていたため、中は真っ暗になっていた。

だが、全てが消されているわけではないので、うっすらと人影程度の認識はできる。

限りなく自分に有利な状況だ。

ここにいるのは霞様以外全て敵なのだから。

 

更に進んでいくと、再び分かれ道になっていた。

直前で立ち止まりどちらに進もうか思案していると、背筋に寒気が走る。

 

この気配……強い!

 

分かれ道の一つから、人の気配を読み取った。

向こうもこちらに気づいた様だ。寸前で立ち止まっている。

 

自分から仕掛けるか……いや、ここは賊の根城。罠が無いとも限らない。

額に汗が伝うのを感じる。

張り詰めた空気の中、気配が動きを見せた。

 

来る!

 

相手が動いたと同時に、自分も拳を振るう。

洞窟内に響く金切り音。相手の武器と自分の拳が衝突したのだ。

状況を把握した瞬間、拳を引き蹴りを見舞う。

相手もすぐに対応し、蹴りを避け間合いを取ってきた。

まずい。このままでは逃げられて増援を呼ばれてしまう。

が、相手は武器を構えたまま動かない。

私を警戒しているのか?好都合だ。

猛虎蹴撃はその音から増援の危険があり使えない。

逃げられたら打つ手はないのだが、相手は私と戦うつもりらしい。

 

地を蹴り相手との距離を無くす。

右からの斬撃を閻王で受け止め、相手の脇腹へ気を篭めた一撃を見舞う。

相手は半身になりそれを避け、更に距離をつめてきた。

予想外の動きに反応が遅れ、胸に相手の肘鉄をもらってしまう。

後ろによろめいた私に、相手は武器を振るった。

その場にしゃがみ避けたと同時に足払う。

 

「ッ!?」

 

思わず息を呑んでしまった。

足払いが読まれていたのだ。

相手は宙に飛びながら武器を構えていた。

 

「あぐっ!」

 

頭に衝撃が走る。

視界に火花が走るが、何とか意識を繋ぎ止め間合いを取った。

相手は何故か困惑した様子で追撃をしてこない。

相手の武器、剣だと思っていたが鈍器の様だ。

鈍器で助かった。剣だったら死んでいただろう。

頭から顎へ伝う生暖かい感触。どうやら血が流れているらしい。

視界がぐわんぐわんと揺れ定まらず頭が朦朧とするが、ここで倒れたらまず命は無いだろう。

 

相手の様子が変わった。

再び武器を構えじりじりと間合いを詰めてくる。

逃げようにもこの状態で逃げ切れる筈が無い。

だが相手のほうが実力が上なのも、先程のやり取りで分かってしまった。

 

諦めてたまるものか!

 

弱気になりかけた自分を叱咤する。

もう少しで隊長に会えるかもしれないのだ。絶対に死ぬわけにはいかない。

 

相手が駆けながら武器を横へ一閃する。

半歩後退しそれを紙一重で避ける。反撃しようと拳を構えるが、既に相手の武器が迫っていた。

咄嗟に両手を交差し受け止める。

 

「ッあぁ!」

 

重い衝撃が腕から全身に伝わってきた。

頭が割れるほどの痛みが誘発し、視界が赤く染まるが止まってなどいられない。

 

左腕で相手の武器を掴む。

相手はすぐさま武器とは逆の腕で拳を向けてきたが、そちらも右腕で受け止め掴んでやった。

 

「はぁ!!」

 

「ぐっ!」

 

そのまま全力で勢いを付け頭突きを見舞ってやった。

蹴りを構えればすぐ様相手に武器を持っていかれてしまうからだ。

だが、もう限界だった。

足腰に力が入らずその場に座り込んでしまう。

相手は少し怯んだが、倒れる様子は無い。

ここまでか……だが、一矢報えた。

私の無念は霞様が晴らしてくれる。そう信じている。

唯一の心残り、言うまでも無く隊長の事だ。

 

相手が武器を私の首筋に構える。

抗う力も無く、自然と涙が浮かんできた。

 

「……すいません、隊長…………」

 

私は小さく呟き、目を閉じた。

あとがき

 

 

どうもふぉんです。

今回は凪視点オンリーとなりました。

ちょっと成長した凪を表現しようと頑張りました。

頑張っただけでうまくは書けませんでしたけど……

久遠も架橋にはいってますね。

あと5~10話以内には終われるかと思います。

ではまた次回お会いしましょう。


 
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