No.464174

リリカルなのは×デビルサバイバー

bladeさん

9th Day 願いの終焉

2012-08-03 07:31:18 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1693   閲覧ユーザー数:1658

 激しい戦いが行われたのか、王の間とも言えるそこは、ボロボロに成り果てていた。

 いや、幾ら戦いが激しくとも、ここまでボロボロになりはしない、恐らくは今のプレシアに、時の庭園を持続させるほどの魔力と、体力がないのだろう。

 それを表すように、今のプレシアは杖を支えにやっと立ち上がれている状態だ。

 

「ぐっ……ん? カイト! 無事だったのか」

 

 クロノが杖を支えに立ち上がる。クロノを見ると、所々に、火傷の痕や、傷の跡が見られる。 この状況から考えると、プレシアにやられたのだろうか?

 

 この場には、プレシアとクロノ以外にもう二人居るが、その二人もまたクロノと同じようにボロボロの状態だ。

 

「フェイトちゃん! アルフさんっ!」

 

 なのはがその二人……フェイトとアルフの方へと走っていき、ユーノはクロノの方へと走っていった。

 

「きたわね……」

 

 カイトはその声の方向……プレシアを見る。

 先も言ったとおり、プレシアもボロボロの状態なのは変わりないが、この状態でクロノ達三人を今の状態に持っていったのか? そう考えると、プレシアの才能とそれを活かすことが出来る能力は、恐ろしいものがある。

 

「あぁ、きたよ」

 

 カイトはプレシアの居る方へと歩いて行く。

 プレシアの後方には、一つカプセルがあり、遠くからではそれが何かはよく分からなかった。けれど近づくにつれ、その中身が何であるかが見えてくる。

 そのカプセルに入っている少女は、何処と無くフェイトに似ていた。いや、もしかしたら逆かもしれない。フェイトが、その少女に似ているのだろう。

 

「来たわね、悪魔使い」

「あぁ、きたよ」

 

 プレシアはそのカプセルを、守るように立っている。

 そのプレシアの周囲には、彼女を守るかのように、幾つかのジュエルシードが浮いている。

 

「気をつけるんだっ! 今のジュエルシードに少しでも、衝撃を与えてしまうと、甚大な被害が……!」

 

 クロノの言うとおり、今のジュエルシードはエネルギーがほとばしるように、バチバチと音を鳴らしている。

 

「……そうか」

 

 通常ならばありがたい、クロノの忠告なのだが、今のカイトにはそんなもの、関係はなかった。

 これから起こること、これから起きようとしている事を、カイトは予め、プレシアから聞いているのだから。

 

「本当にいいんだな? 今ならまだ引き返せるけど?」

「今更引く意味があるのかしら? 後少しで、私の願いが果たせるというのに」

 

 一見すれば、犯罪を止める少年と、それを拒絶する女性の一シーンだといえるかもしれない。しかし、実際はそうではない。

 

「……分かった。なら踊ってやるよ、その手のひらの上で」

 

 COMPを取り出し、セイリュウを召喚。その背に乗る。

 未だ地面があるのに、何故この行動を取ったのか? これもまた、計画のうちの一つだ。

 

「ま…まってっ」

 

 フェイトがなのはとアルフに、支えられながらも立ち上がる。

 その状態を見るに、かなりプレシアに傷つけられたようだ。しかし、そんな状態であっても立ちあがっている。それだけプレシアのことを、母のことを大切に思っている証拠なのだろう。

 

「……あら、まだ居たの?」

「あ……」

 

 プレシアのその言葉に、フェイトは立ちすくむ。そして、視線をフェイトから、カイトへと移す。

 

「さて、渡してもらいましょうか? 貴方の持つ、そのCOMPを…。それがあれば、私の願いが叶う確率が上がるわ」

「……断る。そっちこそ答えてもらおうか? その白い羽根、天使の羽根を何処で手に入れた」

 

 カイトとプレシアは睨み合う。

 その状況の中で動いたのは、その両者どちらでもなく、クロノだった。しかし、その行動は無駄に終わる。

 

「なにっ!?」

 

 バインドを使い、プレシアの動きを止めようとするも、ジュエルシードから放たれる、エネルギーが自動的にバインドを破壊する。

 

「バインドが……っ」

「…邪魔よ」

 

 プレシアの手から雷が放たれる。

 クロノはその雷を回避するも、完全には避けきれず、右足を焦がす結果となった。

 

「ぐぁ……」

「……ふぅ。ブリジット、召喚」

 

 赤いツボに炎を入れた、女神ブリジットがクロノの近くに召喚された。

 ブリジットは、クロノの傷を見て直ぐ様状況を理解し、その右足に、ディアラマをかけた。

 

 バチッ!

 

 何かが弾ける音がした。

 よく見ると、ジュエルシードの様子が先ほどと比べてもおかしい。

 ほとばしるほどのエネルギーが、他のジュエルシードと共鳴し、更に強大になっていく。

 

「時は来た。後はこれを……」

 

 プレシアは懐から一枚の白い羽根を取り出す。そして、その羽根を一つのジュエルシードに触れさせた。

 すると、先ほどまででも十分強力だったエネルギーが、輪にかけて強くなっていく。

 それこそ、空間を捻じ曲げるほどのエネルギーが、鞭のようにしなり、カイトたちに襲いかかってくる。

 

「くっ……護りの盾!」

 

 薄い霧のような盾が、カイト達を守るように現れる。しかし、その盾をつき破り、指向性を失ったエネルギーは唯暴れ狂っている。

 

『聞こえるっ、みんな?』

 

 辺りにエイミィの声が響き渡る。

 その、慌てたような声から、現状を完全に理解しているか、もしくは、ジュエルシードから発せられるエネルギーに気づいたのだろう。

 

『早くそこから離れてっ! でないとみんな、虚数空間に飲み込まれちゃうよ!』

「虚数空間?」

「次元断層によって引き起こされる、空間の穴だ。って、そう言っても分からないだろうから、底なし沼を思い浮かべてもらえればいい。それに追加して、その空間では一切の魔法を使用する事ができない」

「なるほど、それは厄介だな」

 

 魔法が使えないということは、空も飛ぶことが出来ないということだ。

 そしてただ、ただ落ちていく。どこまでも、そんな人生の終わりなんて、真っ平ごめんだろう。

 

「だが、犯人を目の前にして、退散するなんて……っ」

『そうは言っても無理だよっ! それにこれは艦長命令だよ!』

「……くそっ!」

 

 手に持ったデバイスで、地面を力強く叩きつける。そして、背を向け、なのは達の方へとユーノと共に走り出す。

 

「戻るよ」

「でもっ、母さんがっ!」

 

 暴れるフェイトを、アルフとなのはが抑えこむ。そしてそのまま、五人をアースラへと転送収容する。

 

『カイトくんもっ』

「……」

 

 一瞬、エイミィの声に反応し後ろを向くも、すぐさま視線をプレシアへと変える。

 

『カイ――』

 

 ――プツン。

 

 何か小さな音が聞こえ、それ以降エイミィの声が聞こえる事は無かった。

 

「これで、問題はないわ」

「……」

 

 その発言から、アースラからの通信を切ったのは、プレシアだと分かる。

 

「さてと、覚悟はできたかしら?」

 

 先までとは違う、優しい笑み。だけどもそれは、何処と無く儚くも感じられた。

 

「五月蝿いな。覚悟も何も、お前が強要してるだけだろ」

「そうかもしれない。でも、私はそれを望むわ」

 

 ギリッ、とカイトから歯ぎしりが聞こえる。そして、プレシアを強く睨みつけていた。

 

「俺があんたを無視するという手もある」

「そうすれば、あの時空航空艦もろとも、ここが吹き飛ぶだけよ? それだけの威力が、これらにはあるのだから。ほら、どうするの? いくら迷っても、貴方の出せる答えは一つしかないのだから」

 

 カイトは顔を俯け、その手を前に出す。と、同時にカイトから巨大な魔力が発せられていく。

 

「分かった。やってやる、やってやるさっ、やってやるよ!!」

 

 覚悟を決めた。

 否、そうではない。

 人を殺すことには当然抵抗はあるし、誰かのために行動するのも、嫌だとカイトは考える。

 しかし、しかしだ。だからといって、誰かの身勝手のために、誰かが死ぬのを黙ってみてられるほど、薄情でもなかった。

 

「嫌だといっても、もう止めないからなっ!」

「えぇ、当然でしょう?」

 

 プレシアが合図をすると同時、カイトの周りにゴーレムが出現する。

 カイトを倒すためではない。

 カイトと戦うふりをするために、ゴーレムを出現させた。

 

「行くぞっ」

 

 カイトの放った炎は、辺りを焼いていく。

 敵として認識した、プレシアとゴーレムを観察しつつ、プレシアの立てた計画を、頭の中で思い出していく。

 

 そして、カイトが炎――マハラギを放ったのと同じ時、どこからともなく、ラッパの音色が響き渡った。

 

* * *

 

 いかに体調が悪くとも、プレシア・テスタロッサはランクSオーバーの大魔導師と呼ばれる存在だ。

 今はそれに加え、ジュエルシードによる魔力ブースト、天使の羽根の魔力を使用し、自身の周りにフィールドを形成、それだけで要塞ともいえる守備を誇る。

 

 それに対しカイトは虚数空間、通常空間問わず空をとぶことが出来ず、移動をセイリュウに任せている。

 これがかなりの痛手となっている。

 

「くっ……セイリュウっ!」

 

 プレシアの手から放たれる雷が、カイトたちを襲う。当然それを回避しようとするが、いかんせんセイリュウの機動力では完全に回避することはできない。

 唯一の救いは、セイリュウが雷に対し耐性をもっていることだ。それにより、セイリュウのダメージは最小限に抑えられている。

 

「大丈夫か?」

「問題はない…が、どうする? このままではジリ貧だ」

「だな……」

 

 セイリュウを少し育てておけば、雷撃反射のスキルを獲得するのだが……もはや、後の祭りである。

 

「よしんば近づけたとして、問題はその後だよ。あのフィールド……かなり厄介だ」

 

 思い出すのは、カイトを閉じ込めていた結界だ。

 かなりの硬度と再生能力を持つ結界、その結界の前には、カイトも手も足も出なかった。

 

「だけど、今ならどうにかできそうだ」

「む?」

 

 カイトはCOMPを操作し、スキル画面を出す。そこには今まで装備することができなかった、スキルを装備する事が可能になっているのが見えた。

 

「後は戦い方だ。あの結界を一瞬でも破壊出来さえすれば、後は……」

 

 拳を握る。

 なんとなくだけど、そこから先の言葉をカイトは言いたくなかった。

 

「どうしたの? 悪魔使いの力はそんなものなのかしら?」

「うっさいな……っ」

 

 プレシアの挑発に、カイトは苦々しく言葉を返す。

 そも、殺そうとしている相手に、そんな言葉を言われるのは些かおかしいものがある。

 

 ザザッ――ザザザッ――ッ!

 

「……?」

 

 辺りにノイズ音が響く。が、そんな事に気をとらわれる訳にはいかず、カイトはプレシアの雷を退けつつ、プレシアに攻撃を仕掛けていく。

 

『――ぇる? 聞こえるっ? カイトくん!』

「エイミィさんか……」

『よしっ、聞こえてるね? 計器類が壊れてて、今私たちは現状を把握できてないんだけど……説明できるかな?』

 

 少々言葉に間が開いたのは、カイトがプレシアと戦闘中であるからだ。

 カイトは途切れ途切れながらも、エイミィに現状の説明をした。当然、プレシアを殺さなければ、ここら一帯が吹き飛ぶことも含めてだ。

 

『待って!』

 

 全てを説明し終えた時、カイトにとって聞きなれない少女の声が聞こえる。少し考えた後、それがフェイトだということに気づく。

 

「……なんだよ」

『それでどうするの? 母さんを殺すの?』

 

 既に心に決めた事ではある。だが、その事を言葉にするのは憚られる。しかし、ここできちんと宣言しなければならない。

 

「あぁ――それしか手がないのなら、殺す」

『駄目! 母さんを殺さないでっ』

「なら……この状況を何とかする策を言ってみろよ!」

 

 沈黙。

 本来虚数空間では、何人たりとも行動する事はできない。いかに強力な力を持つ魔導師でも、その力を封じられれば何も出来ない。

 しかし、例外はある。

 現状で言えば、天使の羽根を持つプレシア。そして、セイリュウに乗っているカイト。戦いの舞台に立つことができているのは、この二人。

 ……フェイトでは、戦いの舞台――プレシアの眼前に立つことはできない。

 

「策はないんだろ? だったらやるしか無い」

『待って! カイトくんがやらなくても、アースラの砲撃でなら……!』

「それも無理だっ! プレシアの周囲にあるフィールドが、天使の魔力であるのなら無意味だ! 悪魔と天使に、化学兵器は通用しないっ。それがたとえ、魔導を組み合わせていてもだ」

 

 再度の沈黙。

 そして、この会話により最後の策は成った。

 

「……行くよ、セイリュウ」

「ウムッ」

 

 カイトからの合図を受け、セイリュウは真っ直ぐ、プレシアへと突き進んでいく。

 プレシアもまた、セイリュウを迎撃するかのように見せる程度の雷を放つ。

 そして、限界まで近づくと、セイリュウの尾がフィールドに纏わりつく。

 

「グオオオオォォッッッッ!!!」

 

 防御フィールドが、セイリュウの尾により締めあげられていく。だが、セイリュウの尾もただでは済まない。綺麗な青い尾が、徐々に黒ずんでいく。

 

「すまん、セイリュウ……後少し、後少しだっ」

「グ……ウゥゥゥゥゥッ!!」

 

 そのセイリュウを、回復させつつカイトはプレシアからの雷からセイリュウを守っている。

 十秒、二十秒……時が経つにつれ、フィールドが軋んでいく。そして、最後の時。

 

「サマナーよっ!」

「わぁってるっ」

 

 防御フィールドが音を立て崩壊する。

 しかし、このフィールドには再生機能が付いている。だから、一撃で仕留めなければならない。

 

 カイトはセイリュウから飛び降り、プレシアへと飛び降りた勢いのまま向かい……。

 

「これがっ『渾身の一撃』だぁぁ!」

 

 カイトの『渾身の一撃』が、プレシアの腹部を貫く。

 プレシアは腹部に突き刺さる、カイトの腕を見ると、微笑みながらカイトの頬を触り。

 

「ごめんなさい……そして、ありがとう」

 

 二言、プレシアの謝罪と感謝の言葉。それを聞いた後、カイトの意識は、闇へと沈んだ。

 

* * *

 

 痛みは、感じない。

 それどころか暖かさや、寒さといった物もかんじない。

 プレシアを護るフィールドは既に無く、虚数空間内を唯、プレシアは漂っていた。

 後悔はない、と言ったら嘘になるのだろう。

 されど、最後の最後にアリシアの願いを、叶える手伝いはできたのではないだろうか?

 アリシアとピクニックに行った時の会話、『妹が欲しい』と言っていた、あの時のアリシアの笑顔。

 あの時のことを思い出すだけで、プレシアの心は暖かくなり、同時に冷えても行く。

 その中でふと、フェイトは大丈夫だろうか? と考える。それと同時に自分を殺す事を強制した、少年のことも。

 

 少年に話したプレシアの策、それはフェイトを悲劇のヒロインに仕立て上げ、且つ生きる理由を与えることだった。

 その為に必要だったのが、プレシアの死と、フェイトの憎悪の対象と成りうる人物だった。

 優秀な魔導師と成りうるフェイトならば、情状酌量を勝ち取ることにより、その罪を軽減させる事が可能。そして、プレシアを殺した対象を憎悪することにより、『生きる』その力が沸くからだ。

 少年に罪悪感はあるものの、後悔はしていない。それが自分に出来る最善だったからだ。

 

 プレシアが思考に耽っていると、身体に何かが当たっている感触を感じた。虚数空間に物があることに、少々違和感を覚え、強烈な眠気を跳ね除け、それを見る。

 それは、カプセルだった。

 自分の希望であり、願いだったそれは、もう自分の望みを叶えることはない。

 されど、されどだ。

 プレシアはカプセルを操作し、その中に入っている少女の身体を優しく抱きしめ強烈な眠気に、身を委ねながら眠りにつくのだった。

 

* * *

 

 時空航空艦アースラのとある一室、今回の事件の資料をまとめながら、クロノはエイミィと会話をしていた。

 

「身体に異常はなしか」

「うん。魔力をの塊を身体に受けたから、その衝撃で気絶してるんだって」

「魔力の塊、か」

 

 カイトの拳が、プレシアの腹部を貫いたのを、クロノも見た。そして次の瞬間カイトはすごい勢いで吹き飛ばされたのだ。

 

「それでカイトは大丈夫なのかい?」

「うん。身体に外傷はあるけど、大したものじゃないし、すぐ眼を覚ますだろうって」

「そうか……」

 

 少しホットした後、クロノはその表情を再び真剣なものへと変える。

 

「それで、フェイトの方は大丈夫かい?」

「うん。今はなのはちゃんとアルフが、付き添ってるから。問題はこの後じゃないかな?」

 

 理由があるとはいえ、カイトが母であるプレシアを殺したのは事実だ。

 大局的に見れば、カイトの取った行動は正しいと、だれだって判断する。だが、人の心は単純なものでも、簡単なものではない。少なくともフェイトとカイト、この二人の間に軋みのようなものは残るだろう。

 

「厄介だな……」

「そうだね――」

 

 事件は解決した。だというのに、まだ問題は解決しない。それどころか、もっと厄介な事になった気がする。その事に気づき、二人は揃ってため息をつくのだった。

 

一応書いておきますが、As編は映画版ではなくてアニメ……というか、テレビで放送したほうになります。

理由は様々なありますが、流石に映画の話を書くのは憚られるし、これを読んでいる人の中にはまだ映画行ってない人もいるだろうし、何より書き溜めはTV放映版でやってるせいでもあったりします。


 
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