No.461487

異世界で生きる

神山夏彦さん

何かと不幸な人生をイケメンハーレムの友人のせいで送ってきた主人公、漣海人。しかも最後はその友人によって殺され、それを哀れんだ神達は力を与えて異世界へと飛ばしてくれた!!とにかく作者の好きなものを入れて書く小説です。技とか物とかそういう何でも出てくるような物やチートが苦手な方はご注意を。

2012-07-29 00:10:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3034   閲覧ユーザー数:2939

八話

 

 

曰く、灼熱の炎は塵も残さず。

 

曰く、激流は全てを飲み込む。

 

曰く、深淵は全てを引きずり込んだ。

 

曰く、転移の腕前は記すのもはばかられる程。

 

それこそがカロル・トロルの英雄の1人、大魔導士ヴィクターである……って、

 

 

「誰?」

 

 

「まぁお前さんがそう言うのも無理ないのぅ」

 

 

あれから連行されて事情聴取を2~3時間受けた俺は、ファーガスに連れられて外を歩いていた。本当であれば事情聴取の後に牢屋にぶち込まれてもおかしくないはずだったのを、ファーガスの口利きとオルグレン爺の手紙でとりあえずの釈放になった。もちろん監視は何人も色んなところから見ているし、監督役になっているファーガスがいないと自由にぶらつくことも許されない。

 

 

だが、それにしても簡単に放しすぎじゃないか、と疑問に思って聞いてみると、先程の英雄譚を聞かされたわけだ。

 

 

「オルグレンじゃよ。お前さんの手紙を書き、地下回廊に強制転移させたジジイのことじゃ。あれがかつて、儂と他数名と共に冒険者であったことは話したな?そうやって各地を転々としてここに来た時、この国が久々に魔物の大進行を受けたのじゃ。当然儂らも狩りだされたよ。そして、若気の至りと言うかなんというか……皆してはっちゃけ過ぎてな。気づけば最前線も最前線、先頭になって殺し続けていたら英雄視されていたというわけじゃ」

 

 

「へぇ~……あんたもオルグレンの爺様も凄い人だったんだな。オルグレンの爺様はちょっと疑問が残るけども」

 

 

「ふぉっふぉっふぉ、じゃから英雄譚にも書いてある。転移の腕前は記すのもはばかられるとな。あやつのせいで何度死にかけたことか……」

 

 

それをマイナスの意味に捉えられる人が何人いることやら、と思ってしまう。

 

 

こうやって石だらけの街を歩いていると、何人もの人が彼に挨拶をしてくる。それだけ彼がこの国に尽くして、好かれているんだろう。英雄視されているというのも頷ける人気ぶりだ。それに彼自身、訓練や書類作業で忙しく、なかなかこうやって外に出られなかったらしいので、それもあるのだろう。ドワーフが群れてくるのは何とも言い難い光景ではあったけども。

 

 

「まぁ何にせよ、お前さんはこうしてあの地下回廊から生き残った。そしてあの将軍『斧神』までもを打ち倒したのじゃ。しばらくすれば監視も解かれよう。それまでは詰所の部屋で暮らしてもらうからの。あぁ、そう言えばグスタフが近日中に今後の処遇を連絡すると言っておったよ。おそらく一度は城に呼ばれるかもしれん。うちの王族は好奇心が強いからな」

 

 

「マジか……」

 

 

それでいいのか王族……。

 

 

 

 

 

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「ふむ、とりあえずこれくらいか。お前さんが行きそうな所は大体案内したじゃろう。後は明日あたりにギルドにでも行こうかの」

 

 

「あぁ、すまないな。恩に着る」

 

 

「ふぉっふぉっふぉ、ただの爺さんのお節介じゃよ。それにお前さんは儂の息子に雰囲気がよく似ておるからか、どうも世話焼きになってしまうわぃ」

 

 

生活品や雑貨が買える店や、鍛冶屋などこれから必要になるであろう場所を一通り案内してもらった俺は、変わらず監視を受けながら兵舎に戻っていた。

 

 

ファーガスの自慢の髭をさすりながらの道案内はとてもわかりやすかった。道中目印にしたらいい物や美味い飯屋、品揃えのいい雑貨屋と色々と教えてもらえた。

 

 

「子供がいたのか。何て名前?」

 

 

「クドラクじゃ。一人息子でな。早いうちに妻に先立たれてからなんとか男手一つで育ててきた。今はこの国の警備隊長を勤めておるよ。最近また治安が良くなくなってきておるから、あやつも忙しそうに働いておるわ。儂より早く禿げないか心配ではあるがの」

 

 

どことなく誇らしげに話すファーガスに、苦笑して前を見る。父親というのはこういうものなんだろうか。なんて辛気臭い考えが頭をよぎるが、もう慣れた事なので頭を振る。そのことでファーガスにどうしたのか聞かれたが、適当に返した。

 

 

そしてそのまま歩いていると、何やら大きな馬車とそれに繋がれた人達がゾロゾロと歩いているのが目に付いた。それに気づいたファーガスは『あぁ』と言って説明してくれた。

 

 

「あれは奴隷商の馬車じゃよ。ここじゃそう珍しいことじゃあない。基本的に犯罪者なんかや口減らしで売られた者、身売りしたやつらが奴隷になる。そして労働力とかで働き、奉公先にもよるが、金が溜まれば大体奴隷から解放される事になっておる。奴隷用の法もあるからの。そうじゃ、わかってるとは思うが――」

 

 

「あぁ、手を出したりしないさ。俺は奴隷商をぶっ潰して解放したなんて思う程、馬鹿じゃないつもりだからな」

 

 

「うむ、ならばよいがな。あれも商業としてこの国では認められ、経済の一部じゃからの。もっとも、浚われてきたとかならば話は別じゃが」

 

 

じゃりじゃりと鎖を鳴らして離れていく集団をじっと見る。奴隷とかは縁のない生活だったから少し驚いたが、まぁ仕方のない事なのかもしれない。よく小説などでは奴隷解放しているが、この世界ではまずないだろう。

 

 

基本的に行く宛のない人達ばかりだから、むしろ変に解放されると犯罪者を増やす事になりかねない。それに国の経済に影響が出て、労働力不足になる可能性もある。実際犯罪者もいるらしいし、それをするのはよっぽど馬鹿なやつだ。

 

 

そんな事を考えていると、ふと馬車の中の少女と目があった気がした。

 

 

「おい、カイト。そろそろ行くぞ。あんな狭苦しい所にいるのは嫌かもしれんが、数日の我慢じゃ」

 

 

「ん?あ、あぁ……今行く」

 

 

ファーガスに言われて先に動いていたらしい彼の横まで早足で行く。そしてもう一度馬車を見てみたが、すでに馬車は見えなくなっていた。


 
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