No.459686

緋弾のアリア 紅蒼のデュオ 5話

暁晃さん

5話です。今思えば4話と一緒でよかったんじゃないかと思ってます。

ページ機能に気付きました。

2012-07-26 12:22:21 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:826   閲覧ユーザー数:791

負傷者二人を乗せたヘリは、八王子市の外れ、個人経営にしてはえらく大きい武偵病院のヘリポートに着陸した。

 

「やあ、直接会うのは随分と久方振りじゃあないか。スカーさんよ」

 

コクピットより降り立った飛牙を、この病院の院長である青年が迎えた。

 

 

 

彼は有言院(うごんいん) 伊仙(いせん)と名乗る男。そう名乗っているだけなので飛牙も本名を知らないが、どこか日本人では無いような顔付きをしている。紫色の髪は腰まで伸び、手入れされている感は全く無いのに妙にサラサラとしている。

彼の専門は精神科だが、薬学に特出し、また内科、外科にも精通、様々な手段で患者を助けるエキスパートだ。そんな彼は現在東京武偵高の教師である八常呂イリンの一番弟子で、過去行方不明になった師匠を探しに『国境なき医師団』に所属、スカーこと飛牙達とは戦場で知り合った仲だ。

因みに彼は自衛用に拳銃を使うが、強襲科(アサルト)Aランクと並べる程の腕前がある。

 

その後無事に師匠を発見し、現在は東京で私営の病院を営んでいる。

 

 

 

「よお。患者二人運んできたぜ」

 

「…また君かい?この前の六人は酷い有り様で、治療して吐かせるまで苦労したんだが…」

 

一昨日の事件の犯人は、全て彼が治療した。中には頸椎(首の骨)を骨折していたり、背骨を骨折して一時下半身不随にまで陥った犯人も居たのだが、彼の治療により前者は一命を取り留め、後者は後数ヶ月で元の機能に戻る程にまで回復することが出来た。

 

「失礼な。今回はただの搬送役だ。ヘリの燃料無駄に使ってまで運んできてやったんだ、ちったあ感謝しやがれ」

 

「そうだね。君がもう少し相手に対する気遣いが出来たら考えておこう」

 

ケッ、と飛牙は伊仙から視線を外し、負傷者を運び出している怜那達を見る。アリアはただの脳震盪らしく、傷は浅いらしい。普通の医者なら万策尽くしても痕が残る傷を、伊仙は数度通院さえしてくれれば数ヶ月で消えるという。運転手の方も大事には至っておらず、普通に腕を使える程に回復させることは出来るようだ。

 

「ま、大事に至らず何とかなったか?」

 

ふう、と安堵の溜め息をつく。とそこで、彼はある一つの重大な問題を思い出す。

 

「……レインボーブリッジ、穴だらけじゃねえか…。ま、どうでもいいか」

 

ひとまずアリアが目を覚ますまで暇だな、と飛牙は考え、暫し院内を彷徨いた。

ただアリアが目を覚ますのはそれからすぐ後であり、あまり歩かずにアリアの病室へ向かうことが出来た。

 

 

 

「よう神崎。任務、ご苦労だったな」

 

アリアの病室に入ってすぐ、飛牙は労いの言葉を掛けた。ベッドの上で座っていたアリアは暫し呆然とし、すぐ怪訝な顔になって、ハッと何かを思い出したかのように目を見開いた。

 

「確か…うちのクラスの飛牙…だったかしら。どうしてこんな所に?」

 

「…おいおい。お前を病院まで運んでやったのは俺だ。ヘリの燃料無駄使いしてまで運んでやったんだから、当事者ぐれえはちったあ感謝しやがれ」

 

「…え?だって、武偵高のヘリを操縦してたのは…」

 

「そっちじゃねぇよ。"俺の"ヘリだ。ったく、近くを飛んでる攻撃ヘリに気付かねえたぁ、Sランク武偵の名が泣くぞ」

 

飛牙の言葉に、アリアはまた呆然とする。当然だ。自家用車じゃあるまいし、そう易々と一般家庭がヘリコプターを買えるわけがない。メンテナンスだけでも相当の費用がかかるはずだ。

しかも飛牙は高校生である。どこかの財閥の坊ちゃんなのか。アリアの頭の中を疑問符が飛び交っていた。

 

「まぁ、んなこたどうでもいいんだ。とっとと本題に入ろう」

 

そんなアリアの疑問を、飛牙はどうでもいいの一言で一蹴し、言葉を繋げた。

 

「伊仙に聞いただろうが、額の傷は数ヶ月ぐれえは無くならねえからな。まあ、いずれ消えるだけでも有り難く思いやがれと言いたいがな」

 

「分かっているわ。そこの説明は受けたしね」

 

「ならいい。…で、俺が聞きてえのは遠山の事だ」

 

ぐっとアリアから息を呑む音が聞こえるが、飛牙は無視して続ける。

 

「アイツ…チャリジャックん時と今回、動きが違い過ぎねえと思わなかったか?」

 

「……それはもういい。私の見当違いだったようだわ」

 

「…あんだけ付きまとった癖に気付いてねえのか。ったく、それでもSランクかよ…」

 

アリアの目が鋭くなり、無言ではあるが飛牙を睨んだ。そんなアリアを完全に無視して、飛牙は自分の予想をアリアに告げる。

 

「いいか…?アイツは…

 

何かをトリガーにして戦闘能力を飛躍的に向上させる事が出来る

或いは何かをトリガーに人格が変わる

 

そのどちらかだ。俺がそう思うんだから間違いねぇ」

 

なっ…とアリアは息を呑んだ。

 

「…じゃあ何?私がパートナーにしたかったキンジは今のキンジじゃ無いってこと?」

 

「そういうこった。まあ、そのトリガーがまだ分かって無いんだがな」

 

そこまで聞くと、アリアにも心当たりが無い訳でも無かった。

チャリジャックの時、急にキャラが変わったかと思ったら敵を一瞬で制圧した。あの時は冷静でなかったので考えもしなかったが、なるほど多重人格者と言われれば納得がいく。

 

「で、だ。俺はお前がそれに気付き、何かしらトリガーのヒントになるものを持っているかと思ったんだが…。悪いな。俺はオマエを過大評価し過ぎていたようだ」

 

「なっ…どういうことよ!?」

 

「気にすんな。俺の相棒がお前等を追跡しても掴めなかった情報だ。チリ程度の確率で『H』の名に期待した俺が馬鹿だった。後二、三日すりゃ退院出来る。母国へ帰んのは自由だが、伊仙が飛んでまでオマエの面倒見る余裕は無いからな。ついでに言えば、遠山と本気で殺り合うまで少なくとも俺はお前等の完全な味方じゃねえ」

 

そのまま押し黙るアリアを見ずに身を翻し、パイロットスーツを着用しているため装備していない黒マントまで翻す動作をしてしまい、軽く舌打ちして病室から退室した。

 

 

 

 

 

 

「飛牙、どうでしたか?」

 

「どうもこうも予想通り、収穫無しだ」

 

アリアの病室すぐ近くの廊下に立っていた怜那に、飛牙は心底呆れたように、たがどこか想定通りだったように告げた。対する怜那もやっぱりと言いたそうに浅く溜め息をついた。

 

「『H』の家柄ですから、もしかしたらと思いましたが…。『H』家と上手くいっていないのも、そこと関係があるのかもしれませんね。」

 

「まあ、お前が調査に失敗したヤツだ。そう易々と情報が集まるだなんざ思っちゃいねえ」

 

「……そうですか。」

 

その言葉にほんの少しだけ嬉しそうに俯くと、踵を返して歩いていった。

変なヤツ…と飛牙は思い、以後の面白そうな事を考える。

 

「さて…遠山の事はさておき、当面は『武偵殺し』だな。もう一度洗った方がいいか…?」

 

飛牙は自身の電子端末を屋上で開き、怜那が調査した『武偵殺し』に関する調査書を流し見る。

その調査書に重大なヒントが隠されているのに気付くのは、もう少し後の話だ。


 
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