No.457475

異世界で生きる

神山夏彦さん

何かと不幸な人生をイケメンハーレムの友人のせいで送ってきた主人公、漣海人。しかも最後はその友人によって殺され、それを哀れんだ神達は力を与えて異世界へと飛ばしてくれた!!とにかく作者の好きなものを入れて書く小説です。技とか物とかそういう何でも出てくるような物やチートが苦手な方はご注意を。

2012-07-22 16:47:39 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:4324   閲覧ユーザー数:4128

二話

 

 

扉横にいた兵士に睨まれながら謁見の間を後にした俺は、とりあえず王の言うようにここから出るために歩き出した。永遠と続くように長い廊下一面に敷かれている赤い絨毯を踏みしめながら、ひとまずこの新しい身体のスペックを脳内で確認開始。

 

 

ヘラクレス様により強化されたこの肉体は、重装歩兵の鎧を殴って貫通出来るだけの筋力と、鈍器等の衝撃系には特に耐性のある強固な肉体防御力。あとは持っている能力に負けないといったつくりになっている。そしておまけとして半径1kmは生き物の気配を察知することが可能で、個人の完全特定は流石にできないものの、意識することで目標を感じ取ることは可能みたいだ。しかしそれは一度出逢った事があり、尚且つその人の気配を覚えているのならでのことであり、他の者にはどこら辺にいるのか、敵意はあるかの察知等になる。これだけでも大概チートだけども。ちなみに察知出来るからといって全体に意識を向けることは今はやらない方がよさそうだ。量にもよるけど、それだけで下手をすれば頭がイカれかねん。徐々に馴れていけば大丈夫になる可能性はあるようだけども。

 

 

次に、これらの事を理解させてくれるメティス様の知識及びそれらに負けない脳だ。これはメティス様が言っていたように能力をどう使えばいいかや、この世界での魔法についての全ての知識、魔導具造りの技術もある。魔導具とは魔法の術式の込められた道具の事だ。これは術者によって術式は変わるし、効果も様々で使い勝手はいいものの強力な物になると非常に高度な知識や技術を用いるため数があまり多くないそうだ。それら魔法を使うために俺自身の魔力も多くしてあるそうだから、それらを使うのに不便することはほとんど無いだろう。ちなみにこれらの知識は頭の中で検索するようにして探し当てる。こうするにはどうすればいいかという風に思えばその知識が出てくるし、知識の中にある単語等が会話とかで出てくれば思い出すようにして俺の正式な記憶として残る。つまり、えーっと……と考えればいい訳だ。

 

 

「おぉ、ここにおられたか。探しましたぞ」

 

 

「ん?」

 

 

とりあえず二つの能力確認を終えたあたりで、T字の廊下つきあたりで俺が曲がろうとしたのと反対側から聞き覚えのある声により思考と足を止める。振り向くと護衛らしき兵士、いや、騎士を二人連れたあの召喚時に俺を見ていたじいさんがいた。手には変わらず長い木の杖を持ち、某魔法学校の校長先生を彷彿させる長い髭と優しげな顔をしているが、その瞳の奥には未だにこちらを見極めんとする意思と長い年月の賜物である鋭い眼力を感じる。両隣にいる騎士も恐らく腕が立つのだろう。こちらを油断無く見やり、いつでも剣を抜くことの出来る体勢だ。

 

 

「何か?生憎と、この国を即刻立ち去れとの王命でしてね」

 

 

「なんと……王は貴殿にその様なことをのたまったのか……!」

 

 

ポケットに手をつっこんでため息を吐きながら言う俺に、じいさんは額に手を置いて天を仰いだ。横にいる騎士達も苦虫をつぶしたような顔をしていることから、どうやらじいさんは俺をこの国に留めたいらしい事がうかがえる。派閥的なのはやっぱりあるらしい。もっとも、残る気なんてさらさらないんだけども。

 

 

「はぁ……それは、謁見の間にて重役達の前で言われたのじゃろうな。となれば覆す事は出来ぬか」

 

 

「オルグレン様、どうするにせよここでは……」

 

 

「そうじゃのぅ……したらば貴殿について来てもらいたい所がある。危害を加える事は勿論無いし、安全は保証しよう。どうかついて来てもらえぬか?」

 

 

ふむ、じいさんに嘘を言っている感じはない。それにどちらかと言えば交渉より懇願に近い。まぁ、横の騎士達は早くしろって感じで見てくるが。

 

 

俺は考える素振りを見せながら腕を隠しつつ、念のために両手にアサシンクリードⅡに出るアサシンブレードを装備する。これは手の部分の無い籠手のような外見で、手首を捻ると隠しナイフが飛び出す暗器だ。毒もつけれるし、ブレードを火薬で飛ばして銃のようにする事も可能という優れもの。しかも今俺は学ラン姿なのでアサシンブレードが見える事はない。いい感じでピッタリだったから、触られる事さえ無ければ大丈夫だ。

 

 

「……わかりました。危害を加えないと仰るなら、信じましょう」

 

 

「おぉ、そうかそうか。ならば、急がねばなるまいの。時間は余りない」

 

 

俺が返事をすると、じいさんはやけに嬉しそうに頷き、歩き出した。俺の両横に騎士をつけて何だか隠すようにして移動をしていく。絶好の暗殺ポジションだなぁなんて考えてしまう自分自身に、疑問を感じながら。

 

 

 

しばらく似たような場所を右へ左へと曲がりながらついて行くと、じいさんは他より少し豪勢な扉の前で足を止めた。そこの両側にも扉番がおり、一言二言じいさんが話すと扉を開けてくれる。

 

 

「よいか、くれぐれも粗相の無いようにな」

 

 

誰かもわからずにそんな事言われてもって感じだったが、頷いてじいさんと共に中に入る。すると中には甲冑を着た横の騎士とはまた違う風貌の騎士風の護衛が数名と、中心でテーブルを挟んで座る綺麗な紫色の髪でドレスを着た女性、そしてそっくりだが若干薄い髪色をした少女が人形――頭から釘が生えて目玉と腸が飛び出た布製――を抱きしめていた。騎士がいてドレスを着こんで上品な格好とくればよっぽど位の高い貴族、もしくは王族だろう。王のいる城にいる以上後者の確立が一番高いわけだけど。とりあえず、じいさんがひざを突いているので頭を下げておく。俺はこの人に忠誠を誓っているわけではないからな。そこら辺は許容してもらおう。

 

 

「頭をお上げ下さい、勇者様」

 

 

「はっ」

 

 

「……急な呼び出しを受けていただき、感謝します。そして現王とその取り巻きの短慮な命令について謝罪させてもらいます」

 

 

顔を上げると女性はピクリと眉を動かして少し間が空いたものの、少し頭を下げた。同様に周りの人達もしている事からやっぱりあの人をトップにした派閥で決まりだろう。護衛の顔はしぶしぶといった感じではあるけれども。

 

 

「いえ、お気になさらず。自分は用意が出来次第ここから出るつもりでしたので……その準備が全く出来てはおりませんがね」

 

 

「そう、ですか……まぁ、王命が出された以上もしもの話をしても致し方ありませんね」

 

 

俺がそう言うと、彼女は眉を下げて残念そうな顔をする……この顔にまで不信感を抱いてしまうのに内心嫌悪感を感じてしまう。警戒するのは最もではあるが、どうしてもし過ぎてしまう。ここら辺は追々治していくしかないかな。まぁでもぶっちゃけ同情するなら金をくれって感じだけども。

 

 

「今回お呼びしたのは他でもありません。何もかもが無い状態のあなたに物資を提供するためです。袋には簡易ですが空間系の魔術がかかっていますし、これで少なくとも一週間、そして中の金貨を使えばとりあえず当面は保つでしょう」

 

 

彼女の言葉と共に騎士に渡された革袋には干し肉などの保存に優れた食料と革の水筒がいくつか。そして金貨・銀貨・銅貨・鉄貨(鉛色の小さな硬貨なので仮称だが)が10枚ずつ入っていた。

 

 

「ありがとうございます……しかし、どうして私のような者にここまでの施しを?」

 

 

「私達の勝手な都合による呼び出しについての謝罪……と言ってもあなたは信じないでしょうね。あなたは疑い深いし、残忍な心の持ち主であるけど、人の痛みがわかるとても優しい人。だから本当の事を言わないと、私達を信じてくれないでしょう。ふふっ、そんなに怖い顔しないで?私、人一倍観察眼があるみたいなの」

 

 

顔に出ていたらしい事を言われて目頭を揉んで顔を戻す。そんな笑顔で観察眼が凄いとか言われても……ここまで来ると化け物じみてるぞ。未だにジッと見てくる少女と相まってかなり怖い。というか、流れを向こう側に変えられたか……というかいきなりフレンドリーになったぞ。彼女の立場的な発言はとりあえず終了ということか。

 

 

「本当はオルグレン爺があなたはもう1人よりも私達に利を生むだろうから引き入れておこうって話だったの。現王派に1人ついてしまったも同然だけど仲も悪いみたいだし、勇者の力への対抗策は同じ勇者の力しかないもの。でも先手を打たれてしまったし、どうしようかとは思っていたけれど……なかなかどうして、あなたには大きなナニかを感じるの。だからこれは、私の気持ちと素直に思ってくれて良いわ」

 

 

先行投資とも言うけどね、と笑顔で言う彼女に拍子抜けしてしまう。この言葉の裏に何かある可能性も捨てきれないが、とりあえず嘘をついてるようには思えなかった。もし本当だとしたら、派閥のトップとして良いのかとひどく気になるけども。

 

 

「……なる程。まぁどのような理由であれ、私はこれを拒否する権利も状態でもないですからね。素直に受け取っておきます。ありがとうございま「お話の最中失礼します。シャーリー様、こちらに現王派の勇者達が来ていると監視の者からの報告です」……」

 

 

話を遮られる形で、扉の前にいた兵士が焦りながらも静かに入って来て女性――シャーリーさん――に報告し、一礼してから出て行った。すると騎士達は少し焦ったように、女性と爺さん――オルグレン?爺さん――は苦虫を噛み潰したような顔をする。ちなみに少女は変わらずこちらに目を向けている。見返すとビクンッと震えて人形を抱きしめる強さが増しているみたいだけども……地味に精神ダメージがくるぞ。

 

 

「くそっ、もうバレたかの?目と耳は無いし、誰にも見られる事もなかったはずじゃ。いくらなんでも早過ぎる」

 

 

辺りが静かに慌ただしくなる中、オルグレン爺さんが真剣な顔立ちで俺の前に来た。左右には騎士がいて、相も変わらず警戒態勢だがね。まぁ当たり前なんだけど。

 

 

「すまんが、これからお主を略式の転移魔法によって飛ばす。かの勇者にわしらが一緒に居る所を見られるのは些か都合が悪いでの。場所は二つの大きなドワーフの領土のうち比較的平穏なほうで、知り合いのドワーフが住んでいる所の近くじゃ。もう片方は日々地下回廊からの魔物の軍勢と戦っているところじゃがお主にはしばらく関係ないじゃろう。名をベイレンという鍛冶馬鹿じゃから、近くのドワーフにでも聞けばすぐにわかるじゃろう」

 

 

オルグレン爺さんは俺の返事を聞くまでも無く早口に呪文を詠唱し始める。ここで俺が何を言っても駄目だろうし、俺自身もアレには会いたくないから詠唱を中断させるようなことはしない。状況的にもこの人達に迷惑かけるだけだからな。

 

 

なのでその間に俺は腕輪からシャーリーさんと横に居る少女にお礼も兼ねてプレゼントを用意することにする。金は街に入ればどうとでも出来たかもしれないがあって損はないし、下手をすればこのまま手ぶらで移動しなければいけなかったんだからお礼はきちんとしないとな。時間がないから二人だけだけど。まずはシャーリーさんにはFF13よりシヴァ姉妹の入ったクリスタルだ。設定や機能は無理ない程度でいくらか弄れたので、彼女と俺にのみ発動でき、しかも彼女に危機が迫れば自動的に彼女の元に来るという最高のガードマンにした。ルシじゃないけどそこらは割愛。見た目は普通の宝石だから彼女が持っていてもなんら不思議がられることも無いだろうからね。

 

 

「準備できたぞい。これからすぐにお主を飛ばすが……準備は良いかの?」

 

 

「少し、待っていただきたい。お礼の品をと思いましてね。まずはあなたにはこれを。御身が危険になりましたらこれを砕いてください。彼女達が守ってくれる事でしょう。一度安全な場所で会っておくのも良いかもしれませんがね」

 

 

「彼女達?」

 

 

「それはご自分の目でご確認を。次は退屈な話を我慢してくれていたあの子にはこの子プレゼントします。優しくしてあげてください。そうすればこの子が守ってくれるでしょう」

 

 

次に少女、おそらく娘さんには『アカメが斬る!!』より帝具のヘカトンケイルだ。これは適合者の指示、危機的状況、もしくは敵対者の攻撃などになると巨大化して戦う生物型帝具。普段は小さなぬいぐるみのような姿をしているが戦いでは巨大化して獲物を捕食する。また、さらに戦闘能力を上げ強烈な咆哮によって敵の動きを止める「狂化(おくのて)」もあるが、使用するとオーバーヒートで数か月動けなくなる。生物型帝具の特徴として、体のどこかにある核を破壊しない限りいかなる破壊からも再生し毒物なども効かない、高い耐久力を誇る。しかし自律行動が前提であるため、使用者とのコンビネーションが必須だ。これは追々頑張ってもらうしかない。

 

 

 

元々の帝具の設定として1000年前、帝国を築いた始皇帝の命により造られた48の超兵器であり、体力、精神力を著しく消耗するがその性能は強大で、帝具の所有者同士が戦えば必ずどちらかが死ぬと言われている。始皇帝の「ずっとこの国を守っていきたい」という願いのもとに開発されたが、開発から500年後の内乱により半数近くが行方不明となっている。使用者が帝具へ抱いた第一印象が相性に左右するらしい。しかしクリスタルと同じく設定はいじれたので消耗する体力等は極力少なくして、魔力も代行して使えるようにしてあるし、ある程度は俺の命令も聞く。あとはこの子がどう感じるかにあるんだが――。

 

 

「「……!」」

 

 

――なんか互いに見つめあった後に抱きしめ合っているので大丈夫だろう。周りは俺が何処からともなく出したこれらに唖然としているけど、俺は無視してオルグレン爺さんに話しかける。目の前には青白く光る魔法陣があって、メティス様の知識によればこれはかなり高度な術式らしい。少しでもミスがあると、指定の場所ではなく、キーワードの該当する場所にランダムに飛んだり、いきなりドラゴンの巣の中だったりするらしい。

 

 

「終わりました。では、この陣に入ればいいのですか?」

 

 

「う、うむ。あれらについて詳しく聞きたいが、時間がない。海が近いきれいな場所じゃからしばらくそこでこの世界に馴れるよう頑張るのじゃぞ?では、転移!……あっ!!ちょ、待っ」

 

 

盛大に不安をあおる声と共に、俺は転移した。


 
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