No.457098

魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるサイヤは悪魔の子~ 二十一話

手向けの花火

2012-07-21 23:53:44 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2449   閲覧ユーザー数:2334

 

「な……なんてデタラメな……」

 

カリフの行動の一部始終を見ていた者の心情をクロノが代弁した。

 

正面の入口が大破され、そこからは一直線上に地面が抉れ、壁が破壊され、機械兵の体の一部が鉄くずとなって散らばっている。

 

数ある部屋の壁に穴が空き、もはやそのまま一つの部屋として繋がっていた。

 

とてつもない光景に固まっていると、またどこからか機械兵が集まってくるのが見えた。

 

クロノはそれに気付くと、今さっき起こった天変地異をひとまずは忘れて皆に声をかける。

 

「機械兵はまだ残ってる!! 今はまず自分のするべきことだけを考えるんだ!!」

「う……うん」

「はい……なの……」

「そ……そうだったよね……行こうアルフ……」

「……分かった……」

 

皆は衝撃から立ち直っていないのか動きはぎこちないが、ちゃんと動いてくれた。

 

そのことにクロノは安堵しながらも同時に体を震わせてしまう。

 

(……僕はなんて奴に目を付けられてしまったのだろう……)

 

自分の運命を呪いながら、クロノはなのはたちと共に機械兵に立ち向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩れ落ちる最下層

 

崩れ落ちる瓦礫の中、一つの人影と生体ポッドがあった。

 

「これで……全てが変わる……」

 

ここで全てが終わり……

 

「カリフの運命も……」

 

全てが始まろうとしている……

 

「アルフと……フェイトの運命も……」

 

母が娘に送る鎮魂歌も終幕に向かう

 

「そして……私の……」

 

プレシアがデバイスを天に仰いだ

 

 

 

 

その時だった。

 

「……………ラ……ボ……」

「……え?」

 

微かにだが何か聞こえた気がした。

 

明らかに瓦礫の崩れる音ではない。管理局が何かしているのだろうか。

 

管理局ならこの次元振を阻止しているだろう、だが、それとは違う気がする。

 

なんだか……嫌な予感もする気が……

 

「ボラボラ……」

「……何かいる……」

 

ここにまで来てプレシアは悟った。

 

そうだ、このまま人の思い通りに動かない暴れ玉が一人だけいた。

 

プレシアは思わず頭を抱えて俯いた時だった。

 

「ボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラァァァ!!」

 

崩れかかっていた天井が音を立てて派手にぶっ壊れた。

 

それはもう派手に瓦礫を払いのけ、そこから何かが飛び出してきた。

 

プレシアはプロテクションで自分とアリシアを守りながら落ちてくる“何か”が傍に落ちてくるのを見届けると、すぐにその正体が露わになった。

 

「ふぅーはっはっはー! ご機嫌うるわしゅう!!」

「もう驚かないけど言わせてもらうわ。何してるの?」

 

野太い声で社交辞令を模したカリフの挨拶にプレシアは病からか、それとも心労からかくる気だるさにため息を吐いた。

 

それに対してカリフは不敵の笑みで腕を組みながら答えた。

 

「お前との契約は切れた。今はフェイトとの借りを返すために動いているにすぎん」

「そう……できればこのまま逝こうかと思っていたのにね……」

「そう簡単に人生が上手くいくとでも?」

「……そうね……最期くらいは逃げずにフェイトと話して、片をつけるわ」

「あぁ、そうしておけ……ここからはお前たちの問題だ……」

 

そう言ってカリフはその場から文字通り消えた。

 

そして、その間を見計らったように上空から一人の少女と使い魔が降り立った。

 

(いくらなんでも到着が速すぎるわね……やっぱりあの兵隊をつぶしたのね……貴方って人は……)

 

今さっき消えた少年がもたらした行動にプレシアは内心で溜息を吐く。

 

もう少し心の準備の時間が欲しかった気もするが、文句は言うまい。

 

逆に感謝すべきなのだろう……何も関係ないのにここまでお膳立てしてくれたのだじゃら

 

彼が言ったのだ……しばらくの間は邪魔も何もないだろう

 

そして、私がすべきことは……

 

「母さん」

 

背後にいる最愛の我が子を

 

騙しとおすことだけに専念しよう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……予想以上に次元振が大きいわね……」

 

時の庭園内の廊下を妖精の羽を生やした女性が走っている。

 

リンディである。

 

リンディはアースラから特定の場所へと転移させてもらい、この次元振を自身の魔法で食いとめている最中である。

 

彼女は原因の元であるジュエルシードへと向かっている。

 

(速くこの騒ぎを止めないとなのはさんの世界まで……!)

 

リンディはできるだけ急いで地下へと歩を進めていた時だった。

 

「よっ」

「え!?」

 

聞き覚えのある声にリンディが足を止めて辺りを見回して探す。

 

「どこ!?」

「ここだ」

「え? きゃあ!!」

 

見回していると急に背後から声が聞こえ、振り返ると目の前に上下反対の顔面が現れて驚きに後ろに飛び退いて驚く。

 

武空術で逆さに飛んでいたカリフは体を反転させてミノムシ状態から元に戻って地に足を付ける。

 

「どうした? 年甲斐もなく『きゃあ!』って……まあ、お前の見た目に騙される男も結構いるから頑張れ」

「……こんな状況下でかける言葉じゃないわね……礼儀をもっと知った方がいいわよ?」

 

いきなり現れといて駄目だししてくるカリフに額に青筋を浮かべながら怒りを堪えるリンディに興味が無いかのようにカリフはすぐ近くの瓦礫にもたれかかってある一点を見据える。

 

「それよりもお前も見てみるか?」

「今はそんな時間じゃないでしょ?」

「少なくとも今回の件の大局だ。見て損は無い」

「どういうこと?」

 

疑問に思うリンディにカリフは目線を一点に見据えたまま一言

 

「これで決着がつく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何しに来たの?」

 

プレシアはフェイトに向き直る。その瞳は冷たく、フェイトとアルフは怯んでしまう。

 

それでもフェイトは引き下がらない。

 

それどころかプレシアの睨みにも負けない意志を以てプレシアと向き合う。

 

「母さんに……話があって来ました」

「消えなさい……もう貴女には用は無いと言ったはずよ」

「私は母さんに言いたいことがあります」

 

決して退く事の無い信念にプレシアの心が揺らぐ。

 

「確かに私は……母さんにとっては道具であり、人形だったかもしれない……」

「……」

「それでも……私はこれまでに貴女に育ててもらった……母さんの娘です」

 

分かっている……私も貴女を育ててきた……貴女の母親

 

そう……言いたい

 

「貴方の本当の娘……私の姉さんであるアリシアはもうこの世にはいません……私はアリシアになれないけど……」

 

違う……違うのよ……フェイト……

 

「貴女の悲しみを埋めることはできないけど……」

 

アリシアと違って素直じゃないし、物静かでアリシアとは似ても似つかない……けど

 

「私との思い出で貴女の悲しみを埋めてあげたい」

「!!」

「図々しいかもしれない。自惚れかもしれないけど……これだけは聞いてください」

 

そんな貴女が……

 

「私、フェイト・テスタロッサはどんな出来事からも……どんな敵からも貴女を守ります……だって

 

 

 

 

 

 

 

貴女は私の母さんだから」

「!!」

 

プレシアは一瞬だけ肩を震わせた。

 

(こんな……こんな私でも……まだ母だと想ってくれるの?)

 

どこまでも純粋で……心が綺麗な貴女が

 

 

 

 

大好き

 

 

 

 

もし、まだ私に母としての責任があるのなら……

 

 

 

 

私は……

 

 

 

 

 

「くだらないわ」

「!?」

 

貴女と離れなければならない……

 

フェイトの差し伸べた手を否定し、プレシアはデバイスで床を撃ち砕いた。

 

そして、プレシアとアリシアのポッドは崩れゆく足場へと飲み込まれていく。

 

「母さん!! アリシア!!」

 

フェイトは虚数空間へと落ちていくプレシアたちに手を伸ばそうとする。

 

「フェイト!!」

 

虚数空間へと見を乗り出そうとするフェイトをアルフが止める。

 

そして、フェイトは遠ざかるプレシアの顔を見た。

 

「……母さん…」

 

自分の勘違いかもしれしれにないけど……

 

母が微笑んでくれたような気がした。

 

 

 

 

 

―――フェイト……こんな母を許してなんて言わない

 

―――だけどこれだけは言わせて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ごめんなさい……そして、ありがとう……

 

そして、プレシアの意識は暗くも暖かい闇の中へ

 

 

 

沈んでいった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「母さん……」

 

未だ崩壊を続ける地下の中、フェイトは呆然と母と姉を飲み込んだ虚数空間を呆然と見詰めていた。

 

「フェイト……」

 

アルフはそんなフェイトを心配して自身の体へと引き寄せて抱きしめる。

 

母を失ったショックから周りの状況が見えてこないフェイトたちに近付いて来る影が二つ

 

「終わったか……」

「カリフ……」

 

突然に現れたカリフと後ろで内心複雑そうにしているリンディにフェイトたちは反応する。

 

「……結局、逝ったか……」

「うん……私……母さんを止めることができなかった……」

「……プレシアの意志がお前の意志を上回ったのだ。こればかりは仕方ない」

「分かってるよ……でも……こんなのって……」

 

アルフも悔しいのだろう……最期までプレシアを信じたフェイトの願いも空しく散ったのだから。やるせなさを隠さずに訴える。

 

それでもカリフは引き締めた表情のままフェイトたちに声をかける。

 

「反省も泣き言も後にとっておけ。それよりも今すぐにここから出たほうがいい気がするんだが?」

「カリフくんの言う通りです。この庭園も後数分で崩壊しますから速くクロノたちと合流……」

 

リンディがクロノとアースラに連絡しようとした時だった。

 

「「「「!!」」」」

 

突如として今までとは比較にならないほどの振動が庭園を揺らした。

 

それによってカリフを除く三人は振動に転倒してしまった。

 

それと同時に上空から庭園の駆動炉を止めたなのは、ユーノ、そしてクロノが降り立った。

 

なのはたちの表情も慌ただしいものだった。

 

「あの! これは一体どうなったんですか!?」

「この次元震は普通じゃないですよ!!」

 

なのはとユーノがまくしたてる中、クロノは苦虫をつぶした様な表情で納得した。

 

「そうか……やはり原因はあれか……」

「何かわかったのかい!?」

「ああ、原因はあれだ!」

 

アルフに答えながらプレシアのいた場所を指で示す。それに視線を追うと、そこには今まで集めてきたジュエルシードがとてつもない光を放って姿を現していた。

 

それを見てリンディも答えに辿り着いた。

 

「あのジュエルシードはプレシア女史の魔力で制御されていたものだったけど……」

「その制御が消えてジュエルシードの力が暴発し始めたんだ」

 

二人の言葉になのはたちは顔を青ざめる。ユーノは声を荒げる。

 

「そんな!! ここからじゃあなのはたちの世界まで巻き込まれて……」

「それどころかそこに隣接する世界も危険だ!」

「そんな!!」

 

クロノの言葉になのははさらに顔を青ざめる。

 

自分の世界には大切な家族と友達、その世界に住まう人たちがいる。

 

どうにかして止められないものか!?

 

色々と頭の中で解決策を模索するなのはたちだった。

 

そんな時、カリフが悠然とジュエルシードと向き合う。

 

「カリフ!?」

「な…なにを……!?」

 

フェイトとなのはが詰め寄るとカリフは手で制して言った。

 

「面倒だ。この石クズを全て破壊してこのうっとおしい地震を止める」

「「「「「「えぇ!?」」」」」」

 

カリフの一言にクロノとユーノが詰め寄る。

 

「馬鹿な!! あれだけの魔力だぞ!? 生身の人間が太刀打ちできるわけがない!!」

「この前の海での物とは別格なんだ!! ここはアースラに任せたほうが……!!」

 

そんな訴えも全く聞き入れずにカリフはリンディに向き直って言った。

 

「あれは壊しても文句はないな?」

「え、えぇ……できればですが……」

「どれくらいの威力で壊せる?」

「少なくとも……あれの数倍以上のエネルギーでなければ……」

 

だが、今のアースラのエネルギーを集結させても全然足りない。

 

このまま八方塞がりのはずなのに……

 

「数倍……か」

 

そう呟きながらカリフは腕を交差させて……

 

「ハアアァァ……」

 

気をゆっくりと解放していく。

 

深呼吸で気を落ちつけながらもより力強く練り上げる。

 

しばらくすると、カリフの黒髪がザワザワと逆立ち始めていた。

 

「ちょ……なにしてんだい?」

「カリフ?」

 

カリフの行動に疑問を持ち始めたアルフとフェイトの声も届かないままカリフは力を溜め……

 

「ハアァァァ………」

 

一息吐いた直後のことだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアアアアアァァァ!!」

 

力を解き放ち……

 

碧眼を宿らせ、逆立たせた金髪の宇宙最強の戦士

 

ス-パーサイヤ人となった。

 

「「うわぁ!」」

「「きゃあ!!」」

「ぐぅ!!」

「こ……これは……」

 

力の解放によって起こった力の奔流がなのはたちを飛ばそうとするが、全員床に掴まって踏ん張った。

 

そんな中で金色のオーラを滾らせながら手を太極拳のように緩やかに演舞を演じ、己の気を高める。

 

―――プレシア……お前が何を想って逝ったかは分からない

 

「喰らっておけ……大体十倍以上の量の飯を……」

 

―――もうお前にはこの光景が見えていないだろう

 

「これがベジータ直伝……」

 

―――感じてくれてさえばいい

 

「ビッグバン……」

 

―――これがお前に送る……

 

「アタァァァァァァック!!」

 

―――手向けの花火だ

 

カリフがジュエルシードに突きつけた手から放出させた球体のエネルギー弾が

 

ジュエルシードと衝突して

 

ジュエルシードを

 

時の庭園さえも飲み込んで

 

次元の海を光で彩った。

 

 

まるで、何かを伝えるように

 

その光は神々しく次元の海の中で光り続けていた。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
5
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択