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IS インフィニット・ストラトス ~転入生は女嫌い!?~ 第三十二話 ~一夏の目標~

Granteedさん

第三十二話です。

2012-07-20 18:35:46 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:8829   閲覧ユーザー数:8405

敵から距離を取ったクロウは楯無の隣に移動する。何故か敵も味方も、全く動かなかった。

 

「なあ、おい。どうしたんだ?」

 

クロウが楯無に向かって、疑問をぶつける。その答えは味方ではなく、敵から帰ってきた。

 

「おいお前!何で剥離剤(リムーバー)が効かねえんだ!?」

 

「剥離剤?何だそりゃ?」

 

とクロウが首をかしげると、楯無が解説をしてくれた。

 

「あなたに付着していたあの機械、剥離剤って言うのだけれど、装着したISを強制的に解除させてコアを抜きとってしまう物なの。でも何で・・・」

 

そこまで聞くと、クロウも合点がいった。要するにあの剥離剤とやらが作動すればブラスタは強制解除されてしまう、はずだったらしい。その時、セシリアから秘匿回線(プライベート・チャネル)で通信が入った。

 

≪私の意見ですが、クロウさんのブラスタは正確にはISではありません。そもそもISコアがあるかどうかすらわからない物ですから・・・≫

 

≪ああ、それが正解だろうな≫

 

そう、クロウのブラスタは元々機動兵器、この世界に転移してきた時にこのサイズになってしまっただけなのだ。そもそもISかどうかすら怪しい。それなら剥離剤とやらが効かないのも納得がいく。ただしここでその理由を話す訳にはいかないが・・

 

「まあ、今回は不良品だったって事じゃないのか?それよりも」

 

と言いつつクロウはバンカーとEAGLEを構え直す。楯無もランスを敵の方に向ける。

 

「お前を捕まえるとするか!!」

 

「ちっ!!」

 

敵も再び八本の足をクロウと楯無に向ける。クロウは楯無に相手に聞こえないように話した。

 

「(おいあんた、あいつの動きが止まれば一発で蹴りを付けられるか?)」

 

「(ええ、出来るわ。でもどうやって止めるの?)」

 

「(俺に任せてくれ。やるぞ!!)」

 

そう言うとクロウは敵に向かって加速する。敵はマニピュレータを展開したまま、動かない。クロウを待ち受けるつもりのようだが、素直に敵の懐に行くほどクロウは馬鹿では無かった。

 

「セシリア!やってくれ!!」

 

≪了解ですわ!!≫

 

すると、上空から、光が敵に向かって降り注ぐ。セシリアの“スターライトmkⅢ”による狙撃だった。発射された弾丸は寸分の狂いも無く敵ISに着弾する。

 

「くそったれ!!」

 

敵がいつまでも突っ立っているはずも無く、回避行動を取る。しかし、クロウはその間に敵との距離を一気に詰めていた。

 

「何だと!?」

 

「虫を捕まえるのはやっぱり網だよな!!」

 

そう言い放つと、EAGLEを発射する。先程の加速の際にEAGLEの弾倉はネット弾に交換済み。銃口から、ネットが飛び出して、敵を絡めとる。

 

「お次はこいつだ!!」

 

距離を取り、腰にマウントされているスタンロッドを射出。敵に突き刺さり高圧電流で動きを完全に止める。

 

「決めてくれ、生徒会長さん!!」

 

「私の名前は更識 楯無よ!!」

 

クロウの言葉に突っ込みをいれながらも、ランスを構え、敵に突撃する楯無。

 

「これで終わりよ!!」

 

「こなくそっ!!」

 

楯無のランスが敵に突き刺さる直前、敵は八本の足を全て切り離し爆発させた。

 

「きゃあっ!!」

 

爆風で楯無は体勢を崩し、そのまま後方へと吹き飛ばされる。慌ててクロウが体を倒れないように支える。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「ええ、なんとかね」

 

爆風が晴れ、クロウ達が敵のいた場所を見ると、そこにはもう何も無かった。どうやら爆発にまぎれて逃げたらしい。上空からはセシリアが降下してくる。

 

「クロウさん、ご無事で?」

 

「ああ、大丈夫だセシリア。さて、こっちは終わったみたいだし、一夏達の方へと戻るか」

 

とクロウとセシリアが急いでアリーナに戻ろうとすると、後ろから一言。

 

「そこの二人、少しいいかしら?」

 

「・・・何だ?こっちは急いでるんだが」

 

「ちょーっと聞きたい事があるんだけどね、特に貴方」

 

と言いつつ、どこから取り出したのか扇子でクロウを指す楯無。クロウはその言葉に苦い顔をする。

 

「悪いが後でいいか?弟分が頑張っているからよ、援護に行きたいんだが」

 

とクロウが言うと、楯無は笑顔を浮かべる。その笑顔の理由は次の瞬間に明かされた。

 

「あら、アリーナの騒動ならもう収まったわよ?」

 

「何だと?」

 

~アリーナ・十分前~

 

クロウとの通信が切れて約三十秒。一夏と箒、鈴は元ラウラのISを前にして待機していた。ただし緊張の糸は緩めなかったが。周りには教師部隊がいつでも介入できるように準備万端。一夏達はクロウの作戦を待っている状態だった。

 

「・・・まだかよ、クロウ」

 

「早すぎるぞ、もう少し待て」

 

「そんな事言ってる場合じゃないでしょ。あいつがいつ動きだすかわかんないんだから」

 

そんな時、一夏達の背後から声が聞こえた。

 

「お待たせ、一夏」

 

「シャルル!やっと来てくれたのか!!」

 

そこにはISを装着しているシャルルがいた。シャルルはクロウから話された事を一夏達に伝え始める。

 

「うん、じゃあクロウの作戦を話すね。まず、僕のラファール・リヴァイブから一夏の白式にエネルギーを譲渡して、白式を起動出来る様にするから」

 

「マジか!サンキュー、シャルル!!」

 

「あ、あとクロウから一夏に伝言。『絶対に、ボーデヴィッヒを助けろ』だって」

 

「ああ、一発殴るだけで勘弁してやる」

 

「そ、それはやめておいた方がいいんじゃない?」

 

とシャルルが苦笑いを浮かべながら言う。そして一夏の手首にある腕輪(ガントレット)に近づくと、リヴァイブから伸びているコードを接続。準備が整い、エネルギーの譲渡に入る。

 

「一夏、約束して。必ず勝つって」

 

「おう、当たり前だ。ここまで言って負けたら男じゃねえよ」

 

「じゃあ、負けたら明日から女子の制服で学校に通ってね。クロウも一緒に」

 

「何でそこでクロウの名前が出てくる!?」

 

「こう言えば絶対に負けられないでしょ?」

 

「ま、まあ元々負ける気はないしな!!」

 

と言いつつも、一夏の顔は冷や汗が流れていた。もし、負けてしまったらクロウと一緒に女子の制服で通う。その光景を想像してしまったのだろう。

 

「じゃあ、行くよ。リヴァイブのコア・バイパスを解放。エネルギー流出を許可」

 

そう言うと、リヴァイブから白式へとエネルギーが流れ込む。しばらくすると、エネルギーを全て渡し切ったのか、シャルルのリヴァイブが解除された。

 

「うん、これでリヴァイブのエネルギーは全部渡したよ。もう白式を起動できるはず」

 

「ありがとな、シャルル。来い、白式!!」

 

その言葉と共に一夏の体は光に包まれ、次の瞬間には白式が展開されていた。装甲も含め、全て展開出来ている白式を見て、鈴が呟く。

 

「へえ、全展開できるのね」

 

「そりゃあそうだよ、リヴァイブの全エネルギーを渡したんだから」

 

一夏が敵を見据えると、敵は全く動いていなかった。そこで今まで全く口を挟まなかった箒がいきなり一夏に話しかける。

 

「一夏っ!!」

 

「何だ?箒」

 

「頼む、頼むから・・・無事で帰ってきてくれ」

 

「何言ってんだ?お前」

 

「な、何っ!私はお前の事を心配して言っているのだぞ!!」

 

「俺を信じてくれ」

 

「えっ?」

 

「心配とかはいらない。ただ俺を信じて待っていてくれ。それだけで俺の力になる。必ず帰ってくるからよ」

 

一夏は再び敵を見据える。その心には確固たる決意が生まれていた。

 

「(そうだ、俺も誰かのために強くなるんだ。千冬姉みたいに、クロウみたいに)」

 

その心には二人の顔が浮かぶ。片や長い時間、自分を守ってくれた最愛の家族。傲慢かもしれないが、いつか自分が守れる様になりたいと思う相手。片や自分の道を示してくれる尊敬する人間。異世界の歴戦の戦士であるその人間の大きな背中はいつしか目標になり、並びたいと強く願う様になっていた。

 

 

  あの人達の様に強くなりたい、並んで歩きたい、それが一夏の願いであり目標。

 

 

「行ってくる」

 

「あ、ああ!勝ってこい!!」

 

一夏は敵の方に歩き出す。その瞳に映るのは敵の姿のみ。

 

「行くぜ、偽物野郎。・・・零落白夜、発動」

 

その言葉と共に、一夏の体をエネルギーが覆い、雪片も刃を展開する。

 

「(勝負は一瞬。欲しいのはスピードであり、切れ味)」

 

一夏は目を閉じ、イメージする。収束し、切っ先を尖らせる、ただそれだけを思い描いた。次に一夏が見たものは、細く、鋭くなった日本刀の様な雪片弐型の刀身だった。

 

「ありがとな・・・」

 

ゆっくりと敵に近づく一夏。異形のISも一夏の姿を認めたらしく、刀を構える。そのまま近づき、お互いの刀身が触れ合う瞬間、

 

「・・・」

 

敵が素早く手の刃を振り下ろした。そのスピードは一夏がやっと確認出来るほど早い。しかし、

 

「その太刀筋は知ってんだよ!!」

 

刃を雪片で弾く一夏、がら空きになった相手の正中線に沿って、斬撃を叩き込む。

 

「・・・」

 

敵の体には一直線に刀傷が入っており真っ二つの状態になる、そこからラウラがゆっくりと出てきた。眼帯が外れた金色の左目は、世界から置き去りにされた迷子の少女の瞳だった。一夏はその軽い体を支え、ぽつりと呟く。

 

「まあ、殴るのは勘弁してやるよ」


 
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