No.456021

SAO//G.U.  第二話

haseoさん

※この小説はSAO×.hack//G.U.のクロスものです。
作者はLINK嫌いのためにLINKの設定は全く使用せずにG.U.~SAOまでの空き時間は独自設定になっています※

以上の設定が受け入れられる方はどうぞお楽しみください。

2012-07-20 00:07:35 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:10536   閲覧ユーザー数:9738

Fragment2 《邂逅》

 

A.D.2022 十一月六日

 

 

茅場による《チュートリアル》が終わって数秒、俺の体は既に動き出していた。

ダガーの耐久値を確めて《はじまりの街》から抜け出す。

知り合いがいないからだろう、俺は殆ど無意識のうちに駆け出していた。

 

茅場の言葉によって俺達のHPはそのまま己の命へと直結した。

これによって多くのプレイヤーは外部の助けを待つため《はじまりの街》から出ようとはしないだろう。

おそらく、外部からの助けは期待出来ないと思うが。ヤツの言葉が嘘なら俺達はとっくの昔にナーヴギアを外され現実へと帰還しているはずだ。

そうすると、クリアしなければ解放されない、ということはだ。いつまでも《はじまりの街》にいてもリソースは尽き、食い詰めるのは簡単に誰にでも想像できる。

何故ならβ版のサービス期間3ヶ月で攻略された階層は10にも満たなかったのだから。

であれば、この《はじまりの街》周辺は敵も弱いため、多くのプレイヤーが狩場にしてしまいあっという間に敵のポッブが尽きてしまうだろう。

そうなれば次のリポップまでリソースは期待できず足止めを喰らう。

それは即ちこの世界で生きていく為の力を手に入れられないと言うこと。

 

これらを今までの経験から一瞬で悟った俺がとった行動は単純だ。

危険には晒されるだろうが、誰よりもリソースを得られる立場。最前線のソロプレイヤーになることだ。

 

利己的な自分の思考に吐き気がする。

昔の、The Worldのときのハセヲ(力のある俺)なら別の考え方をしていたかもしれない。

しかしこのSAOでの俺はただの一般プレイヤーに過ぎない。

何かを守れるだけの、自分自身に誓った信念さえ貫き通す力の無い俺はこうすることしか出来ない。

そう思いながらも、俺自身判っていた。そんなものは詭弁だと。単に自分が生き残りたいだけなのだと。知り合いの、仲間のいないこの世界では、自分が背負わなければならない物は何も無いのだから。

 

 

街を飛び出したは良いが、そこから何処に向かえば良いのかと思案していると、幸いにも視界に入った俺と同じ思考に至ったプレイヤー――おそらくβテスターだろう――が迷いなく道を走っているためあとをつけさせてもらう。

 

そして辿り着いたのは小さな村、《ホルンカの村》だ。

周りを見回しても誰もいないため恐らくあのプレイヤーと俺が一番乗りと言うことだ。彼もまたあの“チュートリアル”のあと間髪入れずに街を出たのだろう。

 

と、見回しているうちにあのプレイヤーを見失っていた。何処に行ったのかと探してみると彼は民家から出てきて森の方へ駆けていった。

 

あそこが宿屋であればあんなに早く出ていく意味はない。恐らく何かしらのクエストだろう。

そう当たりをつけてショップで素材(チュートリアル前の戦闘のせいで結構有った)の換金、装備の新調(と言っても革のジャケットと手袋を買っただけだが)をした。多少強いダガーは有ったものの、最初に買ったものが残っているため、買わなくてもなんとかなるだろう。何のクエストかは勿論判らないが、とりあえず受けておいて損はないだろうからクエストを受けることにした。

そういうわけで民家に行こうとすると、再び民家から出ていくプレイヤーがいた。

 

(また先客か……?)

 

気にしていても仕方がないので民家に入る。

 

中に入ると同時、鍋をかき回していた女性のNPCが此方を振り向き話しかけてきた。

 

「今晩は、旅の剣士さん。お疲れでしょう、食事を差し上げたいけれど、今は何もないの。出せるのは一杯のお水くらいのもの」

 

恐らくここで要らないと答えるとクエストが発生しないのだろうと、考え――

 

「それで構わない」

 

そう返事をすると水をカップに注ぎテーブルに置いた。

それを一気に飲み干すと、NPCは台所に戻っていく。

暫く待つと奥の部屋から咳き込む声がした。NPCの女性が肩を落とし、それから数秒すると女性の頭上に金色のクエスチョンマークが点灯した。

クエスト発生の合図だ。

 

「何か困ったことが?」

 

そうNPCクエストの受諾フレーズを口にすると、頭上のクエスチョンが点滅し始め、話しかけてくる。

 

「旅の剣士さん、実は私の娘が……」

 

 

 

=======================

 

 

 

その後女性の話を聞き終え、視界左のクエストタグのタスクが更新されたところで、先の2人が駆けていった方へ向かう。

 

走りながらクエストの内容について反芻する。

 

クエスト名は《森の秘薬》。キーアイテムは《リトルペネントの胚珠》。

 

リトルペネントがどんなモンスターかは知らないが、胚珠と言うからには恐らく植物系のモンスターなのだろう。などと考えていれば視界に入ったのはチューリップが人喰いの化け物になればそうなるような異形。

 

「噂をすれば、ってか?」

 

先手必勝。

腰のホルダーからダガーを振り抜きつつ接近して斬りつける。

 

ヤツのステータスを確認するとレベルは俺と同じ3。よって敵とのレベル差で変動するロックサークルの色は薄い。

 

「これなら余裕か?……ッ!?」

 

油断しているとヤツは口から液体を吐き出してきた。

咄嗟に横に回避してさっきまでいた場所を見てみると地面から煙が出ている。

 

「チッ」

 

腐食液だろうと推測して思わず舌打ちする。

これだけリアルに創られた世界だ。金属であるダガーで受け止めれば即座に腐食して耐久値が無くなるだろうことくらいは予想できる。況してや今のレベルで直撃しようものなら絶命必死だ。

 

「バカか俺は……」

 

そう自分を戒める。この世界は既に単なるゲームではないのだ。どんな状況だろうと殺られれば獲られる代償はリアルの命。

挙げ句十分な安全マージンすら取れていない現状。油断などしていい理由は全くないのだ。

 

「フッ!」

 

再び吐き出してきた腐食液をかわす。

 

「速攻で蹴散らす!!」

 

油断を棄てて前進。

ダガーという武器の特性上、近づかなくては意味がない。

身を屈め一気に肉薄する。

 

「ァァァ、ラァァッ!!」

 

恐らく弱点であろうそのデカイ頭を支える茎目掛けてソードスキル《ブランディッシュ》を放つ。

 

「グェェ……」

 

「ビンゴ……!」

 

予想通り、茎がヤツの弱点のようだ。

外見同様嫌な声を上げてポリゴンを散らしていった。

 

「ふぅ……よし次だ……」

 

一息つき、周囲を警戒しながら胚珠を持ったリトルペネントを探す。

 

 

 

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あれから十体以上のリトルペネントを狩ったが一向に胚珠を落とさない。

レベルが1つ上がってなお見つからず歩き回っていると話し声が聞こえてきた。

声の聞こえた方へ向かっていくと、いたのは俺が後をつけていた彼と俺とほぼ入れ違いで出ていったプレイヤーだった――あっちは知らないだろうが――。

向こうもこっちに気がついたみたいだな。2人で此方にくるようだ。

 

 

 

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「よかった、じゃあ、しばらく宜しく。僕は《コぺル》」

 

「……宜しく。俺は」

 

名前を言おうとしたところで足音が聞こえてくる。

そちらに顔を向けると俺やコペルよりも明らかに年上であろうプレイヤーだった。

思わずコペルと顔を見合せる。

 

「あの人にも声掛けてみるか?」

 

「そうだね。人手が多い方が効率いいし……」

 

互いの利益のためにそう判断した俺とコペルは此方に向かってくるプレイヤーの方に歩いていく。彼方も気付いていたのか俺達の接近に驚く様子はない。

近づくにつれその姿がよく見えるようになってくる。

恐らくはクラインより少し年下ぐらいだと思われる顔立ちだ。

最初に口を開いたのはコペル。

 

「こんばんは、かな? 僕は《コペル》。貴方も《森の秘薬》クエを?」

 

軽く感心してしまう。人付き合いがお世辞にも上手とは言えない俺は初対面の人に――たとえゲームであっても――あんなに自然に声を掛けることは出来ない。

 

「あぁ、やっぱりアンタ達もか」

 

そう彼が言うのと同時に違和感を感じ、ついと疑問の言葉が口をついて出た。

 

「見たところ短剣使いみたいだけど……」

 

「あ? それがどうかしたか?」

 

その返事によって更に違和感は更に深まる。

コペルの方をみてみると、彼も困惑した顔をしている。

 

「短剣使いならこのクエ受けなくてもいいんじゃない?《アニールソード》は片手剣だし、売ってもさほど価値はないし」

 

「そうなのか?」

 

彼は困惑気味に答える。

それを聞いて違和感は確信に変わった。《森の秘薬》クエストはβテスターなら誰でも知っているであろうクエストの一つだ。

それを知らないってことは……

 

「もしかして……βテスターじゃあ、ない?」

 

コペルの問に納得したような表情に変わる。

 

「あぁ、微妙に会話が噛み合ってねぇと思ったらそういうことか。そうだ。俺はβテスターじゃあない。ここにいてクエストやってんのはアンタの後をつけさせてもらったからだ。それについては一応謝っとく」

 

少しすまなそうな顔をして答える彼に俺も、それに恐らくコペルも驚いた。

しかも聞くと彼のレベルは既に4、俺よりも2つも上ということになる。

普通ソードスキルの発動や剣を実際に使って闘うのは慣れが必要だ。にも関わらず彼は既にレベル4であり、あまつさえこの森で初見であろうリトルペネントを俺たちに会う前に十数体倒しているらしい。

β時代、序盤ではかなりのプレイヤーが初見で躓いたというのに。

ましてや、さっきの“チュートリアル”の後だ。とても今日初めてインした初心者だとは思えないが、彼が今現在とっている行動が彼がβテスターでないことを証明している。

 

「ま、まぁ、そーゆーこともあるよね……それで……」

 

俺よりも先に正気に戻ったコペルが彼にクエストの協力を出現率なんかの説明も踏まえてもちかけていた。

それを聞いてやっと俺も正気に戻る。

協力に対して彼は快諾してくれた。どうせ自分には必要ないクエストの様だから胚珠は出現次第二人で分けていいと言って。

 

「よかった、宜しく、ええと……」

 

「あぁ、言ってなかったな。《ハセヲ》だ」

 

「うん。宜しく、ハセヲ」

 

そう言葉を交わしてから此方を見る二人。

そこで俺が名前を言いかけていたことを思い出して、慌てて答える。

 

「あ、ゴメン。俺も名前言ってなかったね。改めて、俺は《キリト》。宜しく、ハセヲ、コペル」

 

そして俺達3人はリトルペネント狩りを始めた。

 

 

 

========================

 

 

 

それから1時間近く、都合250体近いリトルペネントを3人で屠っている。

やはりコペルはテスターだけあって戦闘の勘はなかなかのものだ。

リトルペネントの挙動をしっかり読んでるしソードスキルの使い所もよく判っている。

 

それよりも……

 

「……フッ!」

 

今しがたその撃破数を加算させた短剣使い、ハセヲははっきり言って異常だ。

250体近く狩ったと言ったがその内の半分近く、100体以上を撃破しているのは彼。ダガーという嫌が応でも相手の懐に入らなければならない得物であるにも関わらず、その動きに恐れや躊躇はない。

俺――また恐らくはコペルも――の様にこの世界が本当の死の世界になった、という感覚が希薄な訳ではないだろう。

その証拠にこれだけの戦果を挙げていながらこの3人の内、誰よりも油断無く闘っているのは間違いなく彼だ。その様子から広場で僅かに見たプレイヤーを含め、彼が誰よりもこの世界の現状を現実として受け止めていると思える。

 

おかしなのはそれだけではない。彼の剣捌きもそうだ。普通SAOを始めたばかりのプレイヤーの剣捌きはたかが知れている。クラインが、勿論俺もそうだった様に皆一様に拙いはずなのだ。それはそうだ。皆現実で剣や槍なんて物を常日頃から振り回しているヤツなんか現代日本にはそうそういないだろうし、そんな人がゲーム――しかもこんな入手困難な――何てやるとは思えない。昔剣道をやっていただけ俺はまだマシな方だ。

そうだというのに俺やコペルと比較しても、俺たち以上にハセヲの剣捌きは堂に入っている。時に最小限の動きで素早い連撃を喰らわせ、時に大振りの横薙ぎや袈裟斬りを叩き込む。前傾姿勢でダガーを持った右腕を前に突きだし、左腕を右腕と一直線になるように後ろに持っていくという独特な構えから繰り出される 斬撃は本当にRPGの剣士のそれの様だ。思わずテスターであることを隠しているのでは、と疑ってしまうが、あれだけの使い手ならβ時代に有名になっている 筈だが《ハセヲ》という名前に聞き覚えは無いし、そもそもこれだけの使い手ならβ時代に噂になっている筈だが、そんな剣士がいるなんて話は聞いたことがな いので、彼は確かに今日初めてこのSAOに降り立った初心者(ルーキー)の一人に間違いないのだろう。念のために『ホントに初心者?』と尋ねてみたが、『んなことで嘘ついてどーすんだよ』と怪訝な顔とともに一蹴されてしまった。

それにしても、だ。

もう一度言うが、あれから1時間以上、都合250体以上、そろそろ300になろうかという数のリトルペネントを倒している。

なのに未だ《花つき》はポップしていない。

 

「………出ないな……」

 

発する声も流石に疲労を隠せない。

 

「βから出現率が変わってるのかもね。他のネトゲだと正規サービスになった時にレアポップのレートが下方修正されるのはよく聞く話だし……」

 

コペルの返事にも覇気が感じられない。

 

「どうする? 今日の所は切り上げっか?」

 

あれだけ戦っていていながら唯1人だけ疲労を感じさせない声でハセヲが提案する。

倒したリトルペネントの数が数だけに、俺とコペルは4、ハセヲに至っては6になっていた。この第一階層の十分な安全マージンは10であるため先へ進むには まだ早いが、リトルペネントが1体や2体出てきたところで騒ぐ段階ではない。俺のロックマーカーも赤になっているし、ハセヲは既にかなり薄くなっているだ ろう。

 

「ああ、そうしよ…ッ!?」

 

ハセヲの提案に賛成しようとして言葉が途切れる。

 

茂みの奥に見えたのは先程から何度も見ているポリゴンが収束していく光景。モンスターポップだ。今までと1つだけ違うのはそのリトルペネントの頭に花が咲いていることだった。

 

「「……ッ!」」

 

言葉が途切れた事に首を傾げていた2人が俺の視線の先を追って気付く。

 

咄嗟に駆け出そうとしたコペルを別の事に気付いて待ったを掛けようとした俺より先に、ハセヲが腕で制していた。

 

 

 

 

------------------------

 

 

 

「どうする?今日の所は切り上げるか?」

 

二人の疲労の濃さを見てそう言ってみる。

 

VR空間では実際に体を動かしている訳では無いので、肉体的疲労というものは存在しない。この世界での疲労はすべからく精神的疲労だ。つまり、精神力がそのまま体力に直結するという訳だ。

 

二人の疲労の原因は言わずもがな、長時間に及ぶ大量のリトルペネントとの戦闘だろう。二人ともテスターなので慣れてはいるだろうが、デスゲームと化した今、戦闘の重圧はβ時の比ではないに違いない。

俺は全く嬉しくないことにバーチャル世界における命懸けの戦闘には慣れているので2人ほど疲労は色濃く出ていない。

 

「ああ、そうしよ…ッ!?」

 

俺の問い掛けに答えたキリトの言葉が途中で止まる。

言葉が途絶えた原因を知るべくキリトの視線を追うと

 

「「……ッ!」」

 

そこにいたのは《花つき》だった。

コペルも俺とほぼ同時に気付いたのだろう。走り出そうとするコペルを腕で制する。

 

「どうして!?」

 

《花つき》に気付かれないようにか声を潜めて抗議するコペルに顎をしゃくって再度状況を確認させる。

 

「……っ!」

 

数秒暗闇に目を凝らしてコペルが再び息を飲む。それに気付いたようだ。

俺が彼を止めた理由はポップしたリトルペネントだ。《花つき》だけでなく《実つき》――事前に二人から聞いた話だと、実つきの実を傷つけようものなら、仲間のリトルペネントが匂いに誘われて大量に出現するらしい――までもがポップしているのである。駆け出さなかったことから鑑みるにキリトは気付いていたのだろう。

これだけ大量のリトルペネントを狩った状態で誤って実を傷付けようものなら、俺達を地獄に陥れるであろう状況を作り出すのは想像に難くない。

 

「……どうする?」

 

「……行こう。僕とハセヲが《実つき》のタゲとってキリトは《花つき》を速攻で倒す。それでいい?」

 

「おう」

 

「判った」

 

コペルの提案を呑んだ俺達は一斉に駆け出す。キリトが《花つき》に斬りかかるのを横目で見つつ《実つき》をロックして俺とコペルに注意を引き付ける。《実つき》であろうが《花つき》であろうがステータス的には普通のリトルペネントと違わないので倒せないことは全く無いのだが、如何せん実を傷付けるリスクを考えて2人とも此方から攻撃を仕掛けるような真似はしない。

 

「悪い、遅れた!!」

 

1分足らずで《花つき》を倒したキリトの声を聞き、退去の声をあげようとしたところでコペルの声が耳に入った。

 

「……ごめん、二人とも」

 

その言葉と瞳に籠められた感情は哀れみ。

そして《実》に向けて片手剣縦斬りソードスキル《バーチカル》を放つ。

 

「いや、駄目だろ……それ」

 

キリトの口をついて出た言葉も既に俺の耳には入らなかった。

 

パアァァァン!!

 

爆音とともに煙と臭気が振り撒かれる。

 

「な…………何で……」

 

茫然とする俺とキリトを置き去りにコペルは茂みへと飛び込んでいく。

そしてコペルを捉えていたロックが消えた。

 

「…………そうか…………」

 

「チッ、そういうことかよ……」

 

俺とキリトが呟いた言葉は奇しくも重なった。

気付いたのだ。コペルは俺達を殺そうとしたことに。敢えて実を割り大量のリトルペネントを呼び集め、自分は《隠蔽》(ハイディング)スキルで姿を隠す。100近い奴らのターゲットはハイド出来ない俺達二人に集まる。俺が《死の恐怖》と呼ばれていた時期によくやられた《MPK》だ。

動機はキリトが入手した《胚珠》を奪うため。恐らくキリトと話していた時から考えていたのだろう。

その行為は嫌というほど見てきたPK達を彷彿させる。他のプレイヤーを蹴落とし、出し抜き、奪い、自分が生き残る。

だからこそ、と言おうか。コペルが辿るだろう運命は自ずと判った。

 

「……コペル。知らなかったんだな、お前」

 

語り掛けるのはキリト。

 

「多分、《隠蔽》スキルを取るのは初めてなんだろ。あれは便利なスキルだけど、でも、万能じゃないんだ。視覚以外の感覚を持っているモンスターには、効果が薄いんだよ。例えば、リトルペネントみたいに」

 

キリトの言葉通り、30近い補食植物の集団は明らかにコペルが隠れた藪を目指している。

 

全ての行動には、須くその代償が付きまとうものだ。

 

狩る側は、ふとした拍子に狩られる側へと豹変する。

 

俺が見る限り、コペルの戦闘センスは良いもののキリトよりは劣る。この状況では助からないだろう。《碑文使い》のハセヲ(俺)なら助けられたかも知れないが、今の俺は他人を気に掛けるだけの力は持ち合わせていない。

 

「……オォォォーー!!」

 

雄叫びをあげてキリトがリトルペネントの群れに突っ込んでいく。窮地にも関わらず獰猛に釣り上げられた唇を見るに、アイツも俺と同じ性なんだと思ってしまう。

 

「ハハ……」

 

思わず嗤ってしまう。この状況に猛っている自分自身に。この期に及んで俺の奥底のに居る《ヤツ》は悦んでいるようだ。それは俺自身の《闇》。ならばその《闇》を受け入れよう。あの俺の《半身》の様に……。

 

ホルダーからダガーを抜き構えるがその耐久値はほとんど0に近い。どう考えてもリトルペネントを全滅させる前に壊れるのは明白だ。ストレージに残っている方も今までの戦闘での消耗で戻した、つまり初めに使っていた方であるため耐久値は然したる差はないし、戦闘中に交換している暇は無いだろう。

 

であれば、だ。

 

ストレージからもう1つのダガーを取り出し左手に装備する。警告が出てソードスキルが使用不能になるが知ったことではない。そもそも片手だけという違和感が残る状態でこの状況を乗り切れるとも思えない。なら、大技(ソードスキル)を捨ててでも慣れた双剣を使った方がましだ。単純計算手数が倍になるという利点もある。

幸いにも俺のレベルは6であるため、ソードスキルを使わずとも急所に斬撃を叩き込めば1、2発で倒せる。

使い慣れた双剣の構えをとり、イメージするのはThe World最強を誇っていた当時のハセヲ(自分)。それを重ね合わせ

 

「ウォォオオォォォーー!!」

 

獣の如き雄叫びをあげて駆ける。

 

 

 

========================

 

 

 

全ての攻撃を致命傷にならないよう、寸での所で回避し最小限の斬撃でその頭を支える茎を斬り飛ばす。

囲まれればその場で回転して周囲の茎を1つ残らず刈りとる。かつての己がとれていた動きをイメージして、できる限りそれを自らの身体に投影(トレース)しながら脚を一瞬たりとも止めることなく動き続ける。

そんなことをどれだけ続けただろうか。不意に背後から、カシャァァン! という音がした。キリトは俺の視界に入っているため背後にいる人物は一人しかいない。俺達と同じように数十体のペネントに囲まれていたコペルが遂に力尽きたのだ。

 

「「…………お疲れ」」

 

期せずキリトと言葉がダブる。

 

後ろを振り向くことはせず、構えをとり直して戦闘を再開するため、疾駆する。

 

 

 

それから十数分、俺とキリトは計80以上に及ぶリトルペネントとの戦闘を終えた。

 

 

 

========================

 

 

 

「お前のだ、コペル」

 

そう言って突き立てたコペルの剣の側にドロップした二つ目の《胚珠》を置いて立ち上がるキリト。

少し堪えればアイツも《胚珠》を手に入れられたのに、そんなもはや詮無いことを考える。

と、キリトが此方を見て口を開く。

 

「この後、アンタはどうする?」

 

「先に進む、お前は?」

 

「取り敢えず、村に戻ってクエスト達成してくるよ」

 

「そうか。じゃあ、またな」

 

「あぁ、また」

 

交す言葉は限りなく少ない。

そして、それぞれの向かう先へ歩き出す。

 

「……死ぬなよ?」

 

「お互いに、な……」

 

このいつ死ぬか判らない世界で、こんな言葉は無意味だろう。しかし敢えて、そう、俺達は言葉を交わした。この世界(デスゲーム)でおそらく最初のPKを見殺しにした俺達にとってその言葉は、楔であり、悔恨であり、呪いであった。

 

 

 

その日、辿り着いた次の町で宿屋を探して直ぐ様ベッドに倒れ込んだ。そこまでどうやって行き着いたのかはほとんど思い出せない。

ただただ、何も考えずに眠りたかった。

もしかしたら逃避だったのかもしれない。この現実(デスゲーム)への。

これは夢だと。寝て起きれば覚める悪夢なのだと。

あるいは、自分の信念を貫けずに《コペル》を助けなかった事への。

が、そんなことを考える余裕などなかった俺は、その睡魔に逆らわず泥の様に意識を暗闇の中に落とした。

 


 
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