No.455459

IS~狂気の白~ 第五話《暗知蛮脳》

衛宮理樹さん

狂気の白第五話です。

今回はちょっと、キャラが違うかも知れません。
多少のアンチと感じられるかもしれない描写があるので、
嫌いな方はご注意ください。

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2012-07-18 23:58:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3187   閲覧ユーザー数:2730

IS~狂気の白~

 第五話《暗知蛮脳》

 

 

 

 

 

「おや、どうしたかね」

「……あっ……?」

 

静まり返った教室に、朗々と一夏の声が響いた。

その声によって、茫然としていたセシリアを含む生徒たちが動き出す。

教室の空気は変わらずに冷え切っている。

にも拘らず、この空気を作りだしたはずの一夏本人は

愉快そうな笑みを顔に浮かべていて、その瞳は閉じ切られている。

まるで、今の一瞬が何事もなかったかのように。

 

その様子は、セシリアに恐怖と疑問を抱かせる。

 

(今のは、一体……。幻覚?でもそんな……)

 

そんな彼女の心を読み取ったかのように、一夏が言葉を投げ掛ける。

 

「ふむ、随分と震えているね。何か、恐ろしいものでも見たのかね?」

「なっ、何でもありませんわ……!そう、それよりも――――」

 

その言葉を挑発と取ったセシリアは、心の底で蠢く恐怖を押し殺し、

気丈な態度を示して言葉を繋ぐ。

 

「それより、何かね」

「決闘の事ですわ!……まあ、結果は見えてますけれど?

男が女に勝つことなんて、有り得ないのですから」

「……クハッ」

 

その言葉に、遂に一夏は堪え切れないといった風に笑い出す。

 

「な、なんですの!いきなり笑い出したりして」

「いやいや失礼!君はつくづく面白いと思ってね。

きっと君には、類稀なるコメディアンの才があるのだろうね?」

「……どういう意味ですの」

「つまりだね――――」

 

一夏は笑うのをやめ、至極真面目な、冷やかな表情で言う。

 

「――――たかがISに乗れる程度で、強さを誇る君が、実に滑稽なのだよ」

 

その言葉に、周囲の生徒達が物申す。

 

「織斑君、乗れる程度ってどういうことよ」

「そうだよ。女の方が強いのは確かでしょう?」

「男が女より強かったのは、ずっと前の話だよ」

 

悪意のない嘲笑が教室内に伝播していく。

そこで一夏は、静かに片手をあげて振り下ろした。

――――ただ、一言と共に。

 

「――――カット」

 

 

 

 

 その時彼が立っていた位置の真隣の席に座っていた少女は、後に友人に語る。

 

――――織斑一夏が手を振った瞬間、自身の隣を真っ黒な、

まるで砂か蟲の様に蠢く影が、通り過ぎて行った、と――――。

 

 

 

 

「では諸君、質問だ」

 

誰も、動けない。

「例えば、深夜、街中、一人の時に、君達は悪漢に襲われた」

 

誰も、喋らない。

 

「さて、その時にISは君達を救ってくれるだろうか?」

 

今度こそ静まり返った教室で、語る男。

 

「答えはまず、否だろう」

 

織斑一夏は、その静寂に君臨していた。

 

「それ相応の戦闘技術も学ばず、持ち歩ける専用機もなく。

例え専用機を持っていようともそれを使う前に身動きを封じられては?」

「そもそも、ただ乗れるだけの一般の女性は言うまでもないだろう」

「そんなことが起きないようにする?そもそも男は女に逆らわない?」

「そんな道理はアリエナイ、ツマラナイ妄想に過ぎない」

「そんな虚構を妄信し、ISの力を女性そのものの強さと同列に扱うなど」

 

――――実に滑稽、極まりない――――。

 

「そうは思わないかね?セシリア・オルコット君」

 

 

セシリアは思う。

この男は、違う。

ただ流されるだけの、軟弱な男とは違うのだと。

自身の思いに染み付いた記憶の存在と一緒にしてはならない。

セシリアは思う。

知りたい。

この男の事を知りたいと。

 

意を決した彼女の口は自然と言葉を紡いでいた。

 

「ええ、全くその通りですわ。わたくしとした事が、思い込みも甚だしい」

 

一夏を見据え、問いかける。

 

「ですが、その様に言うからには、あなたの強さを見せて貰いたいですわ」

 

一夏は一瞬だけキョトンとして、すぐにいつもよりも深く微笑んだ。

 

 「ああもちろん。君が見たことのない舞台を、見せてあげよう」

 

微笑みと眼差しが交錯し、セシリアは再びその言葉を言い放つ。

 

「決闘ですわ!」

「受けて立とう!」

 

 

 

 

 

 

 「話はまとまったな。では、決闘の日時は追って伝える。が、織斑」

 

その時一夏は、真後ろから自身に向かって出席簿を振り上げる実姉に月の姫を幻視した。

 

「教室を、傷付けるな!!」

 

パァァァァンッ!!!

 

一夏とセシリアの立ち位置、その間。

教室の床には、浅く長い一筋の亀裂が刻まれていた。

 

 

 


 
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