No.455346

魔法幽霊ソウルフル田中 ~魔法少年? 初めから死んでます。~ 都市伝説の女の子に死ぬほど付け回されて死ぬ、な13話

前半戦闘、後半ギャグ、そしてこの作品での初めての死亡者が出てしまいます。

2012-07-18 21:26:18 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1198   閲覧ユーザー数:1170

『テケテケ』

 

 

 それは、凍てつくような寒さが漂う冬の出来事。

 

 

 タクシーを運転している男が、夜の町を走っていた。

 

 

 その日は寒さのせいか乗客が殆ど来ることがなく、男は夜通し走り回って客を乗せようと必死だったのだ。

 

 

 男は車で進んでいくと、踏切が見えてきた。

 

 

 しかも運の悪いことに丁度けたたましい音と共に遮断機を下ろす所だ。

 

 

 仕方なく踏切前で止まった男は、車のライトによって照らされた物を見て驚愕する。

 

 

 

「お、おい! アンタ危ないぞ!」

 

 

 

 女、だった。

 二十歳ぐらいの、スーツを着た髪の長い女性が今まさに電車が通る踏切の中で寝転がっていた。

 

 

 酔っ払いなのか、自殺希望なのかは男には分からないが何度もクラクションを鳴らして電車が来るのを知らせようとするが…………。

 

 

キイィィーーッ!!!

ズシャアッ!

 

 

 電車もブレーキをかけるが、間に合わなかった。

 

 

「あ、ああ……!」

 

 

 男は呆然として、車から出て女性だった上半身を見ることしかできない。

 

 

 しかし、この話はこれが終わりではない。

 

 

 テケ……、テケ……。

 

 

「え?」

 

 

 

『動いた』。

 上半身だけとなった屍が、腕だけを使って。

 そのまま上半身だけの女は、男の方へ『テケテケ』と謎の音を立てながら猛スピードで迫ってくる。

 

 

「う、うわああぁあぁあぁあぁぁああ!!!」

 

 

 男は半狂乱になりながら、慌ててタクシーにのって逃げようとするが――――――

 

 

 

 テケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケ!!

 

 その後、男がどうなったかは知らないが聞いた話によると体が真っ二つになった女は、極寒の冷気によって切断口が一瞬で凍結していたために『まだ生きていた』らしい。

 

 

 

……これが、テケテケさんの『初めごろに広まった話』である。

 移動する際に『テケテケ』と音がするからテケテケさん、下半身の方は話には出てないが『トコトコ』歩くからトコトコさんという訳。

 

 そして、いつしかポロっと口にしたかもしれないが怪談とは日々進化するものなのだ。

 初めはシンプルな話でも、人から人へ語り継がれていくうちに話の内容は『付け加えられる』。

 そう、テケテケさんの真の恐ろしさとは『怪談の多様化』にあった。

 

 

――――例えば彼女は、たまたま電車事故で下半身と切り離された、『若い女性の霊』でもあった。

 

――――例えば彼女は、いじめを苦に自殺をして復讐をしようと刃物を持ち襲いかかる、『幼い子供の霊』でもあった。

 

――――例えば彼女は、失った下半身を取り戻そうと他者の体を狙う、『老人の霊』でもあった。

 

――――例えば彼女は、自分の話を聞いた人間を殺そうと迫ってくる、『殺人鬼の霊』でもあった。

 

 

 そうしていつしか、『都市伝説』とも『学校の怪談』とも呼ばれるようになった彼女は現在――――――

 

 

 テケテケテケテケテケテケテケ!!

 

「アハハハハハハッ! ねーぇカマキリさん! お腹空いてるんでしょ!? わたしを食べてみなよおぉぉぉぉぉ!!!」

 

「ギギギィイィィィイィイッ!!?」

 

 両手に包丁を握りしめ、肘を使い猛スピードで走ってでかいカマキリを追い詰めています。

 

 

 すごく……カオスです。

 

「………………!(トコトコトコトコ!)」

 

 しかも、テケテケさんの下半身の幽霊『トコトコ』さんもどうやって位置が分かるのかは知らないが的確にその後を走って追いかけている。

 

 いや、別に暴走体が弱いわけじゃないと思うんだ。

 最初はシリアスに戦ってたと俺は記憶している。

 

 

 しかし、テケテケさん達が強いのなんのって。

 テケテケさんはランドセルから次から次へと刃物を取り出して投げつけるわ切りかかるわ、トコトコさんも足技が半端ないし。

 

 しかもこの二人(?)バトルジャンキーらしく戦ってるうちに変なテンションになっちゃった辺りから、このありさまである。

 

 

「これじゃどっちが危険なのかわかんないぞ……」

 

 ハイテンションなテケテケさんをみて危機感を覚えた俺は、なのはちゃんがとばっちりを受けないようにその隣で浮いていた。

 いたんだけど……。

 

 

「「…………………」」

 

〈……気絶していますね〉

 

「二人ともおぉぉおお!?」

 

 手遅れだった、なのはちゃんは立ったまま、ユーノくんはその肩に乗っかって、仲良くSAN値直葬されていた。

 

 まあ、悪夢としか思えないこの光景を直視し続けるよりかはマシなんだけど……。

 

 

 

「ギィー! ギィー!」

(T□T;)

 

 そんなことを考えてたら、テケテケさん達に恐れをなした暴走体は、いつしか通ったことのあるあの抜け道へ向かっていた。

 

「あっ!? あいつにげるつもり

 

 

 瞬間。

 ドカカカカカッ! と暴走体の目の前に大量の刃物が突き刺さった。

 

 カッターナイフに包丁からサバイバルナイフまでその数は100個ぐらいあるんじゃないだろうか。

 もしかして、一瞬でこれだけの量を投げたの……?

 

 

「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだよぉ? カマキリちゃあぁああん?」

 

「……!(タツマキセンプウキャク!)」

 

「ギィィィィッ!!?」

(°□°;)

 

 

 カマキリさん逃げてー!

 やばいテケテケさんマジ恐い!

 

 初めて会った時は「君が花子ちゃんの弟子かぁー! うんうん、大変礼儀正しくてテケテケさん嬉しいっ!」って凄い明るい良い人だと思ってたのに!

 狂気でイッちゃった顔が超恐い!

 

 ちなみに、トコトコさんは側で某ゲームの足技を披露している。

 スカートがめくれあがってるけど嬉しくない、下半身だけだからか……?

 

 

「こ、これはやり過ぎなんじゃあ……?」

 

 いやまあ、お手伝い頼んだのは俺だけど流石に殺しそうなのは不安に……。

 

 

「……!(ムートンショット!)」ドカッ!

 

「グギィッ!」

 

「ねえねえ! どれで切られたい? 包丁? 日本刀? チェーンソーとか? それとも…………ギロチンアックスとかあ!?」

 

「ギィイィイイイ!」

(TДT;ノ)ノ

 

 

 前言撤回、完全に殺る気でございます。

 トコトコさんが蹴っ飛ばして、飛んだ先にいるテケテケさんがトドメをさそうとする二段構えに隙は無かった。

 

 つーかあのランドセルどうなってんだ!?

 ギロチンアックスとか3メートルはあるぞ!?

 

 

 俺は流石にやりすぎだと思い、待ったをかける。

 

「ちょ、テケテケさん! 殺しちゃ可哀想ですって」

 

 

 

「あは、自慢のカマも羽もボロボロだね……! どうしよっかなー」

 

「ギィッ……! ギィ、ギィー……!」

 

 駄目だ、ぜーんぜん話聞いてくれない。

 暴走体、最後の力を振り絞って後ろへ後退するが、木に阻まれる図である。

 心なしか、暴走体が「話せば、分かる……!」って言ってる気がした。

 どっちが悪役だ。

 

 

 ここまで来るともう弱いものイジメどころじゃない!

 元はただのカマキリなんだし何とか止めてあげないと……!

 

 しかしどうやって?

 テケテケさんは俺の話を聞いてくれな…………!

『話を聞いて』?

 

 

 

「そうだっ! なのはちゃんに封印してもらえば!!!」

 

 なのはちゃんが封印すれば暴走体だってもとに戻るはずだし、テケテケさんも攻撃対象を見失ったらおとなしくなる筈!

 早速俺はなのはちゃん達の方を向いて――――

 

 

 

 

「「……………………(気絶)」」

 

 

 あれ? 無理じゃね封印?

 

 

「死 刑 執 行 ☆」

 

「ギィィィーー……!」

(┳◇┳)

 

 無情にも、暴走体に凶刃が振り下ろされた。

…………アーメン。

 

 

(………………やっぱり有り得ない)

 

 回想を終え、ユーノは心の中で呟く。

 以上が4個目のジュエルシード暴走体についての顛末……らしい。

 

 らしいというのは、さっきの回想の殆どはレイジングハートが記録していたものだからだ。

 

 

 大半は気絶していたユーノ達が意識を取り戻して最初に見たのは、完全に魔力を使い果たしたジュエルシード。

 そして『勇者カマキリ、ここに眠る』とアイスの板に書かれた小さなお墓らしきものだったのだ。

 

 

 

――――ちなみに記録には田中は映ってはいなかったため、ユーノが見たのは暴走体とテケテケ、トコトコだけである。

 

 

(暴走体を圧倒した『人じゃない何か』、度々僕らの周りで起きる『黄緑色の爆発』、そして『正体不明の黒い服の男』……)

 

 もしかすると、ジュエルシード以上に危険な『何か』がこの町にいるかもしれない。

 

 

 ユーノはその可能性を危険視している。

 恐怖しているといっても過言ではなかった。

 

 

 もっとも、彼が恐怖しているのは自分の危機にではない。

 いや、上半身と下半身の化け物は確かに怖かったし気絶してしまったが……。

 

(この町に何がいたとしても、なのはの事だけは何が何でも守らないと。絶対に)

 

 

 

 一人だった自分を助けてくれた、心優しい少女。

 

 自分も怖いはずなのに、危険を顧みずジュエルシード回収を手伝ってくれる彼女が傷つく事を、ユーノは何よりも恐れているのだ。

 

 

 

 まあ、なぜユーノがこんな決心をしているのかというと……。

 

 

 

 

 

「ねぇユーノくぅん。やっぱり一緒に寝ようよぉ…………」

 

「だ、だ、駄目だよっ!」

 

 現在、なのはがユーノへ『同じベッドで寝よう』と誘ってくることへの現実逃避だったりする。

 

 あらかじめ言っておくが、別にこの状況は二人の愛がうんたらかんたらとかいう訳では決してない。

ではなぜこんな事になっているかと言うと……。

 

 

 

「だ、だって怖いんだもん! 今度はお家にジュエルシードが入った手紙が来たんだよ!? しかも、ト、ト、『トイレの花子さん』からって……!」

 

 

 原因は、ついさっき入手したばかりの5個目のジュエルシードである。

 驚くことに、この高町家に『なのは宛て』の手紙と一緒に届いたのだった。

 

 内容は「高町なのは様、掃除当番の時はあなたが一番トイレを綺麗にしてくれますね。学校を歩いていたらこの宝石を見つけましたので、お礼に差し上げます。――――――――いつもあなたを見てますよ。トイレの花子」と『血文字』で書いてあるのだ。

 

 だから、なのはもそれはそれは怯えてしまう訳で……。

 

 

 

「だ、だからって僕はお、男なんだよ!? まだ戻ったことないけどフェレットじゃなくて人間のっ!」

 

「いいもん! 今ユーノくんはフェレットなんでしょ! かわいいから気にしないもん!」

 

「君が良くても僕がダメなんだよ!? それに僕はそこにあるぬいぐるみじゃなーい!」

 

 

 なのはのベッドには、まるでなのはを守ろうとするかのように結構な数のぬいぐるみが置かれていた。

要するになのはは、怖いから一緒に寝てくれる相手が欲しいだけ、ということ。

 

 しかしユーノは自分と同い年の異性と一緒に寝るなんて、恥ずかしすぎてたまったものじゃない。

 (一応初日に一緒に寝たが、あれはノーカン)

 

 

 

 ユーノは小さい体と獣の瞬発力を活かして部屋中を逃げ回っていたが……。

 

「えいっ! 捕まえたの!」

 

「あうっ!?」

 

 

 後ろに回りこんだ瞬間、まるで見えているかのように手を伸ばしたなのはに捕まってしまう。

 なのはの天性の空間把握能力と、そんなに戦ってないからなのはが疲れていないという結果である。

 

 

 

「さあ! 一緒に寝ようよユーノくん!」

 

「い、や、だぁ~~!」

 

 

 ユーノは体をくねらせてなんとか脱出しようとするが、両手でがっちりとホールドされてるので徒労に終わる。

 しかし、ユーノがあんまりにも嫌そうにするからなのはは表情を暗くしてしまった。

 

 

 

 

「ユーノくん、私のことが嫌いなの……? やっぱり、手伝うっていってもあんまり私が役に立ってないから……?」

 

 ただ、涙目で心細そうに見つめてくる姿は超弩級の破壊力を秘めてる訳で。

 

 

 

「グゴフッ!? そんなことないよっ! なのはは僕の命の恩人だよっ! すっごい助かってるし嫌いになる訳ないじゃないか!」

 

「そ、そうなの……? 良かった……! じゃあ、一緒に寝よっ♪」

 

 

 

 しまったーっ!? と自ら墓穴を掘ったことに気づいたユーノ。

 いや事実なのはのことは嫌いじゃないというかむしろ好みではあるしそれにしてもさっきのアレは反則すぎる、と言っても意味のない言い訳が頭に浮かぶ。

 

 なのはは完全に無意識なのだが末恐ろしい……。

 

 

 とはいえ、このまま一緒に寝てしまっては『淫獸』なる不名誉な称号が与えられるのは確実、それだけは嫌だ。

 

 ユーノは何か打開策がないか、頭をフル回転させる。

 

 

 

(なのはが一人で寝れない理由、つまりそれはあの化け物達が『怖い』から。じゃあ一人で寝れるようになるためには『怖さ』を無くす必要がある! 考えるんだ……! なのはが『怖くならないよう』にするためには……! そうだっ!)

 

 そしてひらめいた。

 この場を切り抜け且つなのはの恐怖を取り除くベストなアイディアを。

 

 

 

 

「と、『特訓』しよう!」

 

「ふぇ?」

 

 

 ユーノはとっさに声を出した、それを聞いてなのはは動きを止める。

 言うなら今しかない、ユーノは語り続けた。

 

「あ、明日から魔法の特訓をしようよ! 前の暴走体でも苦戦する所があったし、これから魔法の練習をしていけばジュエルシードだって集めやすくなるはず、それに何よりもあの化け物達にも魔法は効くと思うし!」

 

「な、なるほどなの……」

 

 

 納得してくれた!

 これでなのはも安心して寝れる。

 

 

 

 

「でも、『今日は』心細いから一緒に寝ようね!」

 

「キ、キューーー…………!」

 

 

 やっぱ無理でした。

 


 
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