No.453584

落日を討て――最後の外史―― 真・恋姫†無双二次創作 ⅰ

ありむらさん

独自解釈独自設定ありの真・恋姫†無双二次創作です。魏国の流れを基本に、天下三分ではなく統一を目指すお話にしたいと思います。文章を書くことに全くと云っていいほど慣れていない、ずぶの素人ですが、読んで下さった方に楽しんで行けるように頑張ります。
はい、第一話にして原作からそれてしまいました。ですが魏国ですすめていくことに違いはありません。
こうご期待。
ちなみにこの前に序章があります。

2012-07-15 21:00:20 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:12711   閲覧ユーザー数:9495

【ⅰ】

 

 砂の匂いがした。

 未だ覚束ない意識を手繰り寄せ、ゆっくりと瞼を開けると、その先には薄青色の空が広がっていた。流れる雲もほとんどない。ただ吸い込まれそうな空がこちらを圧倒しているだけだった。

 一刀は軋む身体を緩慢に引き起こす。胸の上には見覚えのある布袋があった。これはどこで手に入れたものだっただろうか。

 中を改めると、酒瓶が一本にチェスセットがひとつ入っていた。

 ――餞別よん。

 そうだ、と一刀は思う。これは友人からもらった餞別なのだ。ただしかし、その友人の顔がどうしても浮かんでこなかった。

 喉元まで出かかった言葉が出てこない時のような、そんな嫌なしこりが心に残ったが、荷物の送り主は記憶の沼底へずぶずぶと沈んでいくばかりだった。

 どんどんと、曖昧になっていく。やがて思い出そうとするその思考さえもなくなり、一刀はため息とともに疑念の欠片を宙に放った。

 ――とにかく、ここはどこだろう。

 その問いに自答するならば、荒野としか云いようがない。無人の荒野が広がっている。彼方には、森の影がうっすらと見えるが、それでもあまりに味気ない風景であることに違いはない。

 自分がどうしてこのような場所に座り込んでいるのか。現状に理解が追い付いていない。しかし、眼前に広がる光景は決して夢ではないと、一刀は自覚していた。

 生来、一刀は色のある夢を見たことがない。いつも見る夢は白と黒の濃淡で描かれており、それはさながら写実の極みに至った水墨画のようであった。

 だから今、空の青を眸に移す一刀には、これが夢ではないと自覚できた。それにそのような自覚とは別なところで、これが現実なのだと叫ぶもうひとりの自分がいる。云いかえるのならば、根拠のない自信があるといったところか。

 さて、と一刀は立ち上がり伸びをすると、腰をひねる。どれほどの時間この荒野で横になっていたのかは知らないが、身体の節々が痛くてかなわない。ゆっくり優しく目覚めさせるように、身体をほぐしていく。

 現状を把握できない焦燥は、慌てても仕方ないだろうと云う諦観に中和されていく。ただやはり、やけに落ち着いている理由は分からない。

 北郷一刀、大学二回生は何故突如として、かような荒野で目覚めるに至ったのか。昨夜眠ってからの記憶がまるでない。

 これが夢でないのならば、幻覚でも見ているのか。ただ昨夜は酒も飲まずに眠ったのだから、二日酔いのせいで幻を見ていると云う線は薄そうである。

 ならば、眠っている間に頭でもぶつけたか。そのせいで目覚めた部屋の景色が、荒野に見えているのか。

 ――ないな。ないない。

 一刀は頭を振って、気を取り直す。

 とにかく、今現在自分は荒野に立っているのだと、その事実だけが厳然と存在している。これは受け止めようじゃないかと一刀は大きく深呼吸した。

 その時である。

 乾いた風に乗って声が届いた。

「おうおう、いい加減に諦めたらどうだ?」

 野太い男の声に一刀は振り返る。荒野は無人だと思ったが、背後、その遠くに人がいたらしい。

 視線の奥、黄色い布を頭に巻いた男たちが何かを取り囲んでいるようだ。男たち――五十人はいるだろうか。その誰もが、どこか物騒な気配を漂わせている。

「ふん! 三下どもにくれてやるものなど何もない! 死にたくなければ下がるがいい!」

 次に飛び込んできたのは威勢のいい女の声。一刀は遠巻きに、男たちの間を縫うようにして、その声の主を探した。

 黄色い男たちの中央には、若い娘が三人。威勢のいい声を上げたのはその中で唯一得物――槍を構える娘のようだ。

 見るに、女だけの道中、おかしな連中に絡まれたらしい。赤い刃の槍を構える彼女のまわりにはすでに斬られたのであろう男たちの身体が転がっている。生々しい死体に、一刀は思わず顔をしかめた。

 目覚めれば婦女子が、ガラの悪い男たちに絡まれている。男たちは無粋で粗末な刃物を握り、さながら野盗の風体である。

 ますますわけの分からぬ状況であるが、先ほども考えた通り、まずは眼前の状況を受け止めようと一刀は努める。

「はッ! 息もたえだえでよく云うぜ! 斬られた仲間のかたき、みっちり払ってもらわねえとなあ」

 集団の頭と思しき男が、下衆な声を上げる。

「なるほど、斬られる覚悟はできていると見える」

 槍の娘が不敵に笑う。しかし、彼女の顔色はすこぶる悪く、蝋細工のように白い。その様子を見るに、病の身体を押して槍を握っているのだろう。

 槍の娘がかばうように立つその後ろには、娘が更にふたり。ひとりは涼しい顔立ちに眼鏡をかけており、座り込んだ最後のひとりを抱きかかえている。

 抱えられている三人目の娘は、随分と色の淡い髪を乱し、その顔に苦渋の表情を浮かべながら、右の足首を押えていた。どうやら怪我をしているらしい。かなり痛むのだろう、透き通るようないちょう色の癖っぽい髪が、汗で頬に張りついていた。

「強がりもほどほどにしなあ!」

 首領らしき男が得物を一閃する。槍の娘はこともなげにそれを弾いたが、足元がおぼつかない。それどころか、目の焦点が合っているのかも怪しかった。

 

 瞬間、一刀は駆け出していた。

 

 もうひとりの己が、走れと告げている。

 身体の内側からむくむくと起き上がって来るものを感じる。乾いた地面を蹴りつけ、疾走、大きく助走をつけた一刀はひと息に跳躍し、男たちの中心へと降り立った。

 突然のことに事態を呑み込めないのか、男たちも娘たちも、言葉を発せぬようだった。一刀はその隙をついて、近場の肥った男を蹴り飛ばす。

「ぐげぇ!」

 踏まれた蛙のような声を上げた男は周囲の男たちを巻き込んで、飛んでいく。そこでようやく、野盗の首領は声を上げた。

「なんだてめえ!」

「この子たちは、俺がいただこう」

 云ってしまった後に、もう少し云いようがあったかもしれない、と思い直す。しかし、一度発した言葉を戻すことは出来ないのだ。気にするのはよそう。

「へッ、そうはさせ――」 

「ふんぬ!」

 一刀は近くに寄ろうとした小柄な男を殴り飛ばす。その男も仲間を巻き込んで飛んでいった。思わず野太い掛け声が出たようだが、気にしてはいけない。

「じゅ、十人がいっぺんに……てめえ、妖術使いか!!」

 首領が慌てたように叫ぶ。

 妖術――随分と前時代的な言葉を使う男だ。科学に非科学が駆逐された現代において、妖術の存在する間隙などあるはずもなし。

 

 ならば、ここは現代ではないのか。

 

 そう思い至った一刀の頭に、ひらめきが走る。一刀は尻のポケットから携帯電話を抜き放ち、ぱかりと開く。

「な、なんだそりゃあ」

 不敵に笑いながら携帯電話を構える一刀に、首領が身構える。

 ――こいつ、携帯を知らない。

 そう思った次の瞬間には、一刀はカメラモードを起動させていた。バッテリーは十分にある。アンテナは圏外。

 ――ですよね!

 荒野に携帯電話の中継器があるわけがない。

 次の瞬間、一刀は携帯電話のカメラの撮影ボタンを押した。電子音と共に、フラッシュが煌めく。眩い閃光に野盗たちがよろめく。

 ――やっぱりな。

 一刀はこれまでになく不気味に笑ってみせる。

「いかにも! 我は妖道仁斎! たった今、貴様らに閃光の呪いを放った! 貴様らは間もなく死を迎えるであろう!」

 そう云いながら、連続で撮影する。面倒になったので、連射モードで撮影する。連射モードは、二十枚連続で撮影できる素晴らしい機能なのだ。

 二十連続の撮影音に、野盗たちは大いにひるむ。

「ふふふ、術者である我を殺したところで、もはや呪いは解けぬ!」

「な、馬鹿な。ふはは! そんなことは――」

「死ぬぞ! 貴様らは死ぬのだあ! 死ぬのだあああ! ああああ!!」

 一刀は狂人のように喚いた。一層、野盗たちが慌てふためく。

 ――あれ、どうしてこうなった?

 しかし、今更やり直しはきかぬ。それに上手くきまったハッタリは中々悪くない。

「ただ、我は一介の妖術師であって悪鬼ではない。死より逃れる術を知りたいか?」

 野盗の首領は七度、首を縦に振った。彼の冷や汗が飛ぶ。

 ――うえ、ばっちい。

 一刀は顔をしかめながら言葉を紡ぐ。

「この場より去れ! 息の続く限り走り続け、我より離れよ! 振り返るでないぞ! 再び我の姿を見たとき、それが貴様らの最期じゃあああああああああああああああ!!」

 叫びながら、再び連射モードを起動する。そればかりでなく、フラッシュをライトに切り替え、その光を振り回す。

 その有様に、野盗たちは狂騒に陥いり、やられた仲間を担いで一心不乱に走り去っていってしまった。

「やれやれ」

 一刀は黄色い集団が走り去った先を見て、ひと息つく。

 しかし。

 背後で固い音がした。

 首だけで振り返ると、こちらに赤い槍が突き付けられている。

「あれ?」

 間抜けな声が出た。

「動かないで、いただきたい」

 槍の娘が剣呑な声を突き付けてくる。ただ、病のせいだろう、その表情は随分と辛そうである。

「なにかな?」

「妖道仁斎殿とおっしゃられたか。まずは助太刀いただいたこと、感謝いたします」

 槍の娘はそこで言葉を切った。

「しかし、先刻の閃光の呪い。どうやら我ら三人も浴びた様子。ただ我らは見ての通りすぐに動けぬ身。ですから――」

 解呪していただきたい、と彼女は続けた。

「解呪、ね」

「先ほどあのようにおっしゃられたのは野盗を追い払うため。術者であるあなたならば、解呪の法をきちんとお持ちのはず。さあ! 解呪を!」

 更に鋭くなる娘の視線に一刀は罪悪感を覚える。

「解呪――その方法はありません」

「何ッ!?」

 娘は覚束ない足元を踏みしめて抗議の声を上げる。一刀は種明かしを始めた。

「呪いなんて嘘ですから」 

「は?」

 娘の反応を気にするでもなく、くるくると携帯をまわす。そして自分に向けて撮影してみせた。

「なッ!」

 娘が驚きの声を上げる。

「ほらね、呪いなんかじゃないから、自分に向けても大丈夫。これはね、カラクリ趣味の友人から譲り受けたおもちゃなんだ。珍しいものだから上手くいくと思ってね。ハッタリだよ」

 云い終えた一刀は安心させるように笑んだ。形態の説明に嘘を差し挟んだのは、きっと彼女らには上手く説明できないだろうと云う云いようのない予感からだった。

「妖道仁斎って名前も即興の大嘘。ほんとの名前は北郷一刀って云います。すいませんね、俺の変なハッタリのせいで怖がらせてしまったみたいで」

 さり気なく携帯電話の電源を切って、ポケットに仕舞う一刀は、三人娘に向き直り、挨拶する。すると取り敢えずの危機はないと察したのか、槍の娘も得物をひいた。

「――そうでしたか。こ、これは無礼を」

「いえ、俺の方がややこしい真似をしたんですから。それより、顔色が悪いみたいですけど」

 刹那、娘の身体がゆらりとゆれる。それを眼鏡の娘が素早く支えた。

「大丈夫ですか、星!」

「すまない、稟」

 星と呼ばれた娘は辛そうに、眼鏡の娘に応じると、再びこちらに視線を向けた。

「北郷殿、と云われたか。危ないところを助けていただき、感謝します。私は趙子龍と云う者」

「趙子龍……!」

 一刀は目を丸くする。趙子龍と云うのは、あの趙子龍なのだろうか。

「北郷殿は私を知っておいでか」

「いえ、どこかで聞いたような気がしただけです」

 戸惑いながら云う一刀に、次は眼鏡の娘が声を掛けてくる。

「北郷殿、私は戯志才と申します。先ほどは危ないところを――」

 挨拶を始める戯志才を、一刀はやんわりと制する。

「自己紹介もいいですけど、今はどこか人のいるところに行きましょう。そっちのお嬢さんも怪我をしているみたいですしね」

 一刀は座り込んでいる、淡い髪色の少女に目をやる。彼女も随分と辛そうだった。

「俺はこのあたりの地理に詳しくなくて――」

「あちらに村があったはずです」

 戯志才は遠くに見える村の方を指した。

「じゃあ、そこまで手を貸しましょう。俺がそっちのお嬢さんを抱えて行くのがいいのかな?」

 趙子龍はふらついているものの歩けぬわけでもなさそうなので、戯志才に支えてもらえばよい。座り込んでいる少女は足を怪我しているのだから、自分が抱えて行けばいいだろう。

「すみませんが、お願いします」

 戯志才が頭を下げる。一刀は座り込んでいる少女の元へよると屈んで視線を合わせた。

「少しだけ、俺で我慢してもらえますか?」

「申し訳、ないのですよ」

 少女は辛そうに云う。

 一刀はなるべく怪我に響かぬよう、そっと少女を抱え上げると、戯志才、趙子龍と共に、村があるのだと云う方角へ歩き出した。

 

 

 

 

《ごあいさつ》

 

 ごあいさつ申し上げます。ありむらです。さっそく支援していただいた方、読んでいただい方がいらっしゃるようで、歓喜のあまり声も上がりません。

 これからも懸命に書いていくつもりですので、ますますの応援よろしくお願い致します。

 すでにお分かりかと思いますが、拙作の一刀さんはお強くいらっしゃいます。そう云った一刀さんが苦手な方はごめんなさい。

 ただ、個人的にはあまり無双させたいと思っているわけではありません。ですので今回も寒いハッタリで済ませました。

 真剣なところは真剣に書いていきますけれども、まあ、序盤と云うこともあって、まずは軽くひとあてです。

 もちろんかっこいい一刀さんも描こうと思っています。

 皆さんにより一層楽しんでいただけるよう、がんばります。気軽にコメントなどいただけると、やる気がでます。きっとすごく出ます。とってもでます。遮二無二書きます。きっと。

 よろしくおねがいもうしあげます。

 

 ありむら


 
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