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真恋姫†夢想 弓史に一生 第三章 第四話 鬼の化身 (後半)

kikkomanさん

どうも、作者のkikkomanです。

転載後初投稿ですね…。

この話を待っていた方もいらっしゃるんじゃないでしょうか…。もしいらっしゃいましたら、お待ちどうさまです!!

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2012-07-14 20:40:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2861   閲覧ユーザー数:2569

~聖side~

 

 

俺の予感は当たるべくして当たったのかもしれない。

 

町の近くに行くと、ただの小火だとは思えないほどの煙だと分かる。煙の柱の数が多すぎるのだ。

 

煙は町のあちらこちらから上がっていて、町に何かあったのだと直ぐに分かり、俺たちに緊張が走る。

 

 

門を越えて町に入ると、そこはまさに地獄絵図。

 

町の至る所で火が上がり、人々は血を流して倒れていたり、火に焼かれて真っ黒になっていたり、大通りの端には幾人もの死体が…。

 

俺はその光景を見て気持ち悪くなり、吐き気を催した。

 

 

「ひどい…。一体誰がこんなことを…。」

 

「分からない…です~。でも、ここまでの残虐非道が出来るなんて…。人とは思えないですね~…。」

 

「…!! 皆!!あれを見てくれ。」

 

奏が指差した方向には黄色い布が落ちていた。

 

「あれは…。 まさか、これを黄巾賊が…!?」

 

「まぁ…そう考えるのが妥当なのです。」

 

「とにかく、今は少しでも情報を集めよう…。 手分けして生存者を探すぞ!! 見つけたら大声で呼ぶこと。良いね?」

 

「「「はい!!!」」」

 

俺たちは、ばらばらに町の中を散策することにした。

 

俺は町の北部、芽衣は西部、奏は東部、橙里は南部を捜索する。

 

皆、生存者がいることを願っていた。

 

 

俺は道を歩きながら、この残酷な光景を眺めていた。

 

この人はきっと、追いかけられて逃げているところを背中から切られたんだろう…。

 

この人は、勇敢にも立ち向かったが、右肩から袈裟切りされたんだろう…。

 

この人は…きっと子供を助けるために、燃えてる家の中に入ってそのまま焼け死んだんだろう…。

 

この子は…きっと何が起こったのか分からない内に殺されたんだろう…。

 

どの死体からも無念さと悔しさが滲み出ている…。

 

その思いはまさに彼らの死に際の一言…。その表情から痛いほど読み取れる。

 

自然と俺の目からは涙が零れ落ちる。

 

「惨いな…。大人子供関係なく皆殺しか…。この町の人々を…俺の家族を…手に掛けた奴は何処のどいつだ。」

 

静かな怒りだけが、今の俺の感情を占める。

 

とにかく、誰か生存者はいないものか…。

 

俺は、何件かの家に入っては声を掛けてみたが、いずれも返事は無く、無残に荒らされ、金目のもの、食料が全て持ってかれていた。

 

 

とりあえず町の北限辺りまで行ってみた。

 

この辺りは、あの町長さんの家があった辺り。

 

この辺もひどく荒らされてるな…。

 

あたりを見渡しながら歩いていると、少しだけ動く影が見えたので、その場に急行する。

 

すると、そこに倒れていたのは、この町の町長さんその人だった。

 

「町長さん!!しっかりして下さい!! 皆!!! こっちに来てくれ!!!」

 

俺は、皆を呼ぶために大声を出した。

 

「ぐっ…うぅぅ…。 み…御使い…様…??」

 

「そうです。町長さん家に昨日泊まった者です。」

 

「おぉ…。良くぞご無事で…。」

 

「一体、何が起こったんですか??」

 

「はぁっはぁ…。皆さんが出て行った後…この町に…こ…巾賊が…はぁ…若い…娘たちは…全員…ぐっ…はぁ…連れて…いかれました。」

 

「黄巾賊がこの町を襲ったのか…。しかも、この町の娘たちが全員連れてかれてるだと…。町長さん、すまないんですが、奴らがどっちに行ったか分かりませんか??」

 

「やつら…は…この町で暴れた後…西に……。」

 

「西ですね…。 …ありがとうございます。」

 

「聖様!! どうなさいましたか~!?」

 

 

すると、芽衣、奏、橙里がやってきた。

 

 

「皆、町長さんを介抱してやってくれ。」

 

「町長さん!! 大丈夫ですか~!?」

 

「大丈夫か!! 気をしっかり持って!!」

 

「娘さんは?? 娘さんはどうしたのです??」

 

「娘さんは…黄巾賊に連れて行かれたらしい…。この町の若い娘は、全員連れていかれたそうだ。」

 

「そんな…。」

 

俺の中で何かが切れる音がした。

 

罪の無い、そして武器を持っていない無抵抗の人間を、これだけ残酷に殺害したに収まらず、さらに人をさらっていった…だと…。 調子に乗ってんじゃねぇぞごらぁあ!! 俺の家族を奪っていってただで済むと思うなよ!!!

 

俺は、皆が町長さんの介抱をしているのを横目に見ながら、陽華に跨り、一路西を目指すために馬首を向けた。

 

 

「聖様!! どこに行くのですか~!?」

 

「奴らをのさ晴らしとくわけにはいかねぇ…。俺が片付ける…。」

 

「っ!!!???」

 

俺の声は酷くくぐもり、低いドスのきいた声になっていた。

 

俺の声に、並々ならぬ雰囲気を感じたのだろう。皆の顔が恐怖で強張っている…。

 

 

俺は馬を走らせて西に向かった。

 

 

「…はっ!! とりあえず町長さんを介抱した後、皆で聖様を追いましょう!!」

 

芽衣たちは、介抱した後向かうことにしたらしい。

 

 

俺は、馬を走らせて町から西に向かう。

 

とにかく西に向かう…。黄巾賊の姿が見えるまでとにかく向かう。ただひたすら…強い怒りと共に…。

 

果たしてどのくらい馬を走らせただろうか…。

 

日は落ち、辺りが暗くなっている。

 

とにかく無我夢中で走らせていると、少し先に野営している集団を見かける。

 

 

「…あれか。」

 

 

俺は、馬を今まで以上に煽り、急いでその野営地に向かう。

 

~野営地~

 

ぎゃはははっ~。

うはははっ~。

飲めよ!!歌えよ!!黄天當立!!天下大吉!!

 

黄色い布を付けた男たちが、大勢で飲めや歌えやの大宴会。その数はおよそ千人余り。

 

辺りは騒然としていて、馬一頭が近付いていることなど気付いていない。

 

黄巾賊の野営地まで、およそ四半里程という所まで近付いたところで、陽華から降りる。

 

そして、陽華を近くの木のところに軽く括り、話かける。

 

「陽華…。ここまで運んでくれてありがとな…。俺は、この後戻らないかもしれない…。俺が戻らなくても、きっと芽衣たちが後から来るから、皆と一緒に帰るんだ、良いね…??」

 

「ひひん。」

 

「そんな悲しそうな声で啼くなよ…。 お前はきっと、俺の言葉が分かるんだな…。頭の良い馬だ…。だからこそ、お前なら分かってくれるだろう…??」

 

「ぶるるっ。」

 

「分かってくれ…。俺にもしものことがあった時、芽衣達にそれを教えて欲しいんだ。その為にも、お前はここで皆を待たなくてはならない…。 …大丈夫、俺はきっと無事に帰ってくるから…。 出来るよな…??」

 

「(…約束…。)」

 

「あぁ、約束だ…。」

 

「ひひん、ぶるる!!」

 

「そうか、分かってくれたみたいだな…。ありがとう。じゃあ頼んだぞ…。」

 

俺は、陽華を残して野営地に歩き出す。

 

その間にふと思う。

 

「あれっ?? 俺今、馬と会話しなかったか…。 っていうか陽華喋らなかったか!?」

 

そう思って陽華を振り返るが、陽華はこっちを寂しげな目で見ているだけだった。

 

「まぁ、頭良い馬だし…。そういうのもあるのかな…。」

 

なんて考えながら、ちょっとおかしくて笑えた。

 

 

考え事に夢中で気付かなかったが、俺は野営地の門を潜っていた。

 

中では、大勢の黄巾の男たちが笑いながら宴会をしている。

 

ふと見れば、男たちの傍にはあの村の娘たち…。殺されない様に、奴らの機嫌をとりながら酌をしていた。中には町長さんの娘さんの姿も見えた。

 

修羅の如き怒りが、俺の胸を占める。

 

「あぁ~??お前も飲めよ!! 一緒に騒ごうぜ!!」

 

親しげに話しかけてくる賊の一人。

 

「なぁ、一体この酒とか食料はどうしたんだ??」

 

「そりゃあ、ここから東にある村から奪ってきたに決まってるだろ!! 娘たちも一緒にな!! …あぁ?? 何だ流れの奴か?? まぁ、俺たちの仲間になりたいって言うなら、入れても良いがな。はははっ。」

 

「ふふふっ…ははははっ。」

 

「あぁん? 気でもおかしくなったか??」

 

「いやっ、なに…。 やっぱりお前らは碌でもない奴だと思っただけさ…。武○錬金!!」

 

「あぁ!? なんだ…と……。」

 

男の首と胴体は一瞬にして離れ、首は地面を転がった。

 

その姿を見ていた者の顔つきが変わる。

 

「なんだ、てめぇは!? 何しにきやがった!!」

 

「決まってるだろ…。お片づけさ…。」

 

「っ!!?? いつの間に!!!」

 

俺の姿は先ほどあった位置に既になく、男の直ぐ傍で話しかけた。

 

「ざけんじゃ…ねぇ……。」

 

男は振り返るも、その動きで、乗っていただけの頭が首からずれ落ちた…。

 

「さて…。てめぇら、覚悟は良いな。」

 

「はっ!!たった一人でなにが出来るって言うんだ!! こっちとら千人近い人数がいるんだ、さっさと諦めた方が身のためだぞ!!」

 

「じゃあ、やってみるか…。」

 

俺は磁刀を構え、生体エネルギーを力に変えて、素早さを最大限まで引き上げる。

 

「でぇぇぇえええりゃああああ!!!!!!!」

 

ズガーン!!!!!!

 

「うわぁぁぁあああああ!!!!!!!!」

 

幾重にも囲んでいた賊たちのその囲いを、一撃の下で破壊する。

 

すると、その攻撃で空に浮いた人が落ちてきてボトッボトッとその重みを伝える音が聞こえる。

 

攻撃後には、数多の死体が連なる…。

 

「どうした…。来ないなら、また俺から行くぞ。」

 

そこからはまさに阿鼻叫喚の図。

 

先ほどの一閃で多くの賊が戦意を喪失していたし、見た感じ動揺はしていた。

 

俺はとにかく、切っては避け、また切っては避け…死体の山を築き上げていく。

 

「まるで鬼…。御使い様は鬼の化身なの…??」

 

その姿を見ていた村の娘たちは、その目の前で起こっている光景に恐怖しながら、絞り出すような声でこう言ったという…。

 

そして、一刻後。残る人数は片手で数えられるほどになっていた。

 

 

「…。」

 

「ばっ…化け物だ…。」

 

「何でこんな奴が…。」

 

チャキッ!!!!

 

「ひっ!!? たっ…助けてくれよ…。 そうだ!! この娘の中から好きな子を選んで良いからさ!!」

 

ザッ…。

 

「じゃっ…じゃあさ、ここにある酒や食料もやるからよ!!」

 

ザッ…。

 

「分かった、分かったよ。俺らの持ってる金とかも全てつけるからよ。」

 

ザッ…。

 

「だっ…だから助けてくれよ!!」

 

「…お前らは…そうやって命乞いをした村人たちを何人救った…??」

 

ザシュ。ガシュ。グシャ。ドスッ。

 

男たちの首を、手を、足を切り飛ばし、賊共は全員絶命した。

 

 

「終わった…。」

 

背後にそびえる山は人の死骸…。

 

辺りには鼻を衝く悪臭がたちこめる。

 

その匂いに、怒りに満ちた心に冷静さが戻ってくる。

 

あぁ…。俺はまた、人を殺したんだな…。しかも今度は、助けを乞うた人を…。

 

俺は一人その場を離れ、森の中に入っていく。

 

森の中は、気味が悪いほど静かだった。でも、今はその静けさが心を落ち着かせた。

 

「俺は…このままで良いのか…。 口上ではあるが、あいつらは俺に謝っていた…。それを俺は切って捨てた…。俺はそれで良いのか…。手に手を取って平和な国を作るんじゃなかったのか…。」

 

俺は考えながら森の中を歩く、そしてつり橋を渡る。

 

「…話し合いって方法もあったのか…?? でも、あいつらは万死に値する行為をしたやつらだぞ…。それを生かしといて良い訳…『ブチッ!!グラッ!!』っ!!?……しまった!!?」

 

つり橋を支える紐が切れ、揺れるつり橋にバランスを崩した俺は、体ごと宙へと投げ出された。そして、重力に従い、暗い暗い谷底に墜ちていく…。

 

 

~芽衣、奏、橙里side~

 

彼女達は、町長さんに手当てを施し、安全な場所に避難させた後、馬を走らせて自分たちの主を探した。

 

やがて、野営地らしきものが見えてきたところで、何か知っていないか情報を聞くためにそこに立ち寄ることとした。

 

 

…そこには、目を疑う光景が広がっていた。

 

 

あるのは大きな山…。

 

ただ、その山は土で出来たわけではない…。

 

全て人の死体なのだ…。

 

「「「…。」」」

 

三人が三人とも黙ってしまった。

 

それほど強烈な衝撃が、彼女たちを襲ったのだ…。

 

「ここで戦闘があったのは間違いないようですね~…。」

 

「…一体誰がこんなことをしたんだ??」

 

「…!! あれを見てくださいです。あの娘達は村の人たちなのです。」

 

彼女達は、恐怖で身を震わせている。

 

私達を見つけると、一瞬身を強張らせるが、その後直ぐに安堵の表情に変わる。

 

「大丈夫ですか~。」

 

「…はい…。怪我とかは誰もしていません…。助けてくださって、ありがとうございます。」

 

「なぁ、あんたらの誰かで、この惨状の理由を知ってるやつはいないかい??」

 

「「「「…。」」」」

 

彼女達は、顔を見合わせて何か話している。

 

「なんだい?? 言いづらい事でもあるのかい??」

 

「…実は…。 先ほどここに御使い様が来て…。」

 

「先生が一人でやったのですか!!?」

 

「…私達は夢でも見ているようでした…。」

 

「…聖様は今回の出来事に酷く怒っていました~。 家族に手を出した奴らを許しはしないって…。」

 

「ところで、当のお頭はどこにいるんだい??」

 

「…先ほど、思いつめた表情で、お一人で森の中に入って行きましたが…。」

 

ザッ…ザッ…。

 

馬の蹄音が聞こえる。

 

振り返ると、後ろから陽華が駆けて来た。

 

「陽華!!? 聖様と一緒ではないのですか??」

 

「ぶるるっ。」

 

陽華は首を横に振る。皆の顔に不安の色が浮かぶ。

 

「とにかく、先生を見つけに行きましょう。」

 

三人は森の中に入っていく。

 

森の中を進むこと数分。つり橋に差し掛かったところで皆、息を呑む。

 

「…つ…つり橋が…。」

 

「まさか…!! お頭!!」

 

「先生!! 先生~~~!!!!」

 

その悲痛な叫びは、ただただ谷底に吸い込まれていくだけだった…。

 


 
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