ZERO弾“聖杯の行方”
ある時、ある世界で。
数々の人々の願い、欲望、希望を掛けた一つの戦いに終止符が打たれようとしていた。
先刻まで剣と剣がしのぎを削る音が絶えなかった戦場はしんと静まり返り、そこには息も絶え絶えの男――もっと詳しく言えば、顔の半分が麻痺し、真っ白に色の抜けてしまった髪を隠すようにフードを被った青年しかいなかった。
――いや、もう一人いたか。
それは、夜の闇に溶け込むように輪郭がぼやけた黒い甲胄(フルプレート)を纏う騎士。闘いの最中叫びとも唸りとも取れる咆哮を繰り返していた彼も、今はただ静かに鎮座している。
彼らはこれまでの闘いを振り替えるように天を仰ぎ、そして青年は己の手にある一つの物に再び目を向け――今この瞬間が夢で無いことを再確認した。
青年が手に持つものは、輝くばかりの器――聖杯。今まで青年と黒き鎧の騎士が戦ってきたその闘いの名の由来であるそれを天に掲げ持つと、青年は満足したように崩れ去り、息を引き取った。
その満足が、達成が、虚無であることを知らぬままに。
それからまもなくして、その聖杯は間桐臓現という一人の老人の元へと届けられた。
本来、それを手にした人間は狂うほどに喜ぶはずのものなのだが───しかしこの老人はそうではなかった。何故なら、気付いたから。
その聖杯があまりに無意味な存在であるということに。
しかしまた、決して怒ることもなかった。否、そのような虚無に命を賭けたあの青年への嘲笑さえ浮かべていたのだ。
「あのバカめ、こんなものに命を賭けるとは──ふっ、まぁこれも裏切り者の宿命ということかの」
さてしかし、この聖杯どうしたものか。ただ捨てるには惜しい。だが使うわけにはいかない。
では、どうするのか。
ひとしきり考えたのち、この性根がねじ曲がり腐敗しきった老人は一つの“名案”を思いついた。
この願望器を異世界に飛ばし、その世界に混乱を引き起こしてしまおう。全ての力の均衡を崩し、混沌を作り上げるこれを誰かに押し付け、破滅の街道に叩き落としてやろう。
性根の腐ったこの老人の考えそうな遊戯だった。
「何せ、儂は別段この聖杯戦争に期待はしておらんのじゃからのぅ……」
そしてこの老人はすぐさまその考えを実行に移したのだった。
――――そして。
異世界を漂い続けた聖杯は、ある一つの世界へと行き着いた。
そこは何千年も後、“緋弾のアリア”と呼ばれる武偵の少女が活躍するであろう世界。
そして聖杯は、その狂い、穢れきった奇跡をかざし、世界を改変していくのであった―――。
これはそんな平行世界で生み出された、一人の少年が現実逃避しながらしぶしぶ戦う何とも言えない戦いの記録である。……多分。
|
Tweet |
|
|
2
|
3
|
追加するフォルダを選択
にじファンへの哀悼とともに。
「緋弾のアリア“傘一本の狂戦士”(仮)」、(仮)を取り除いて、新たな名前で始まります。
東京武偵高。そこは、将来武偵になりたいとか抜かす、将来的にDQNまっしぐらな危なっかしい奴等が集う、それはそれはヤバイ学校であ……嘘です。
はい、嘘ですスミマセン!だからその拳銃をホルスターに仕舞ってはくれませんか強襲科の皆さん!?
続きを表示