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遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第二章・九話

月千一夜さん

お久しぶりです
しばらく休みになったので、今後コソコソ出没しますww
では、久しぶりの本作
お楽しみ下さいww

2012-07-03 23:37:58 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:7974   閲覧ユーザー数:6576

思い出す

ついさっきのことのように

 

私は、今でも、いつでも

“あの時のこと”を、思い出せる

 

 

 

『この国に、王は二人もいらない』

 

 

 

あの、不気味な笑みを

あの、不気味な瞳を

 

 

 

『返してもらうぞ

愚かな王の治める蜀は、もうお終いだ

今、この時より・・・この国は、この“私”のモノとする』

 

 

 

そして、あの・・・“闇”を

 

 

 

 

『故に、お前らには出ていってもらおう

なに、背後を狙うなど、そのようなことはしない

安心して、尻尾を巻いて逃げていくがいい』

 

 

 

 

ああ、そうだ

あの、“絶対的な闇”を前に

 

 

 

 

『ふむ、そう言えば・・・まだ、自己紹介をしていなかったか?』

 

 

 

 

 

私の“心”は

私の“存在”は

 

 

 

 

 

 

 

『私の名は、“劉璋”・・・この国の、唯一人の王だ』

 

 

 

 

 

 

 

一瞬にして、“消されてしまったのだ”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫

第二章 第九話【憎悪の矛先】

 

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

「私たちの国を・・・これ以上、好きには、させないんだからっ!!!!」

 

 

響き渡るのは、蜀の王である、劉玄徳の叫び

深い、深い“想い”が込められた叫び

その叫びに合わせるよう、“軍”は一斉に動き出した

兵は皆、武器を構え

そして将は、先頭に立って、その身から恐ろしい程の“氣”を放つ

 

“臨戦態勢”

 

それに対し、彼女達は・・・美羽達は、戸惑っていた

無理もない話である

先ほどまでの態度が一転、いきなりこの状況だ

理解できるはずがない

しかし、だからといって、このまま黙って立っているのもマズイ話である

 

 

「の、のぅ劉備よっ!

これはいったい、どういうつもりなんじゃっ!?」

 

 

そう思い、声を上げたのは美羽だった

彼女はいつでも取り出せるよう、懐の短刀に手をあてながら、桃香に問いかける

その問いに対し、桃香は苛立ったような、怒ったような

そんな声をあげ、剣の切っ先を向けた

 

 

「まだ・・・まだ、とぼけるつもりですかっ!!?」

 

「じゃから、とぼけるとは、いったい何を・・・!!」

 

「いい加減にしてよっ!!

もう、貴方達の好きには、絶対にさせないんだからっ!!!!」

 

 

桃香は、全く聞く耳を持っていない

話を聞きながら、七乃を始め、皆はそう思っていた

しかしそれは、彼女だけではない

恐らくは此処に集まった蜀の者は皆、彼女と同じなのだろう

そう結論づけ、七乃は深く溜め息を吐き出した

 

 

「何があったか知りませんが・・・これは、少々マズイことになりましたねぇ」

 

「せやなぁ・・・」

 

 

と、同意するよう頷いたのは王異である

彼女は自身の武器を肩に担ぎ、苦笑を浮かべ辺りを見回した

 

 

「なんや、あの様子やと・・・このままやったら、マジで一戦交えなあかんようやね」

 

「この人数差でか?

冗談としては、性質が悪いな」

 

 

と、夕

そう言いつつも、顔が笑っているのは、恐らく彼女が生粋の武人だからだろう

しかし、それでも尚、“解せんがな”と呟くあたり

やはり、この状況に疑問を持っているのだろう

 

 

「こっちは五人・・・向こうは、万の兵か?

かっかっか、中々愉快な状況じゃな」

 

「祭さん・・・笑ってないで、なんとかこの状況を脱する手立てを考えてくださいよ~」

 

 

そんな状況の中、笑う祭に対し

七乃は、心底呆れたように言う

そのまま、彼女はしばし思考し・・・

 

 

 

 

「仕方ありません、か・・・」

 

 

 

 

やがて、劉備を見つめ

七乃は、その口を開いた

 

 

「劉備さん

私は、貴女が“仁君”であると聞き及んでいますけど

それは、間違いだったのですか?」

 

 

一歩、桃香に歩み寄り、七乃は真っ直ぐと劉備を見つめたまま

さらに、言葉を続ける

 

 

「私たちは、貴女のお知り合いの命を助けました

貴女は、そんな私たちに対し、“刃”を向けるのですか?

“恩”に対し、貴女が返すものは、それなんですか?」

 

「っ!」

 

 

七乃の言葉

桃香は、その足を、一歩引いた

その反応を見つめ、七乃は心の中で、うっすらと笑みを浮かべていた

 

 

「そ、それは・・・そうだっ!

きっと、そうやって私たちに近づこうと・・・」

 

「そんなこと、しませんっ!」

 

 

と、声をあげた人物に

桃香は、驚き表情を歪める

その声の主は、なんと月だったからだ

彼女はキッと表情を引き締めたまま、必死に声をあげたのだ

 

 

「華雄さんは、そんなことしません!

それは、私が保証しますっ!」

 

「月、ちゃん・・・」

 

 

月の、普段からは想像することもできない迫力に

桃香は、また一歩、其の場から引いてしまう

そんな彼女の姿を見つめ、七乃はまた、静かに笑みを浮かべる

 

 

「それに・・・こちらは、僅か五人

対して貴女が率いるのは、見る限り万の軍勢

これは些か、弱い者いじめが過ぎるのではないでしょうか?」

 

 

と、七乃は“ヤレヤレ”とばかりに首を振る

この一言に、劉備をはじめ、彼女の周りは僅かにざわめきたった

 

 

「そ、それは・・・」

 

 

劉備は、言葉が出ないのだろう

その両の目を僅かに泳がせ、体を震わせている

“計算通り”と、七乃が笑ったのは、言うまでもない

そんな中、七乃は静かに美羽の側に歩み寄った

 

 

「今ですよ、美羽様」

 

「は?」

 

 

耳元に口をあて、七乃は言う

その言葉に、首を傾げる美羽

そんな彼女に対し、七乃は“もう”と頬を微かに膨らませた

 

 

「美羽様の“必殺技”ですよ

今それを使うことによって、私たちの勝利は確実なものになります」

 

「なに!?

本当かやっ!?」

 

「マジです」

 

 

七乃の言葉

“しかし”と、美羽は眉を顰める

 

 

「妾に、そのような必殺技があったかのう?」

 

「ありますよ、何を言ってるんですか」

 

 

“忘れちゃったんですか?”と、七乃

彼女はそれから人差し指をピッとたて、いつものようにニッコリと微笑み

声高々に、言うのだった

 

 

 

 

 

「美羽様、“漏らしちゃってください”♪」

 

「できるかっ!!!!!???」

 

 

 

 

 

瞬間、美羽はツッコんだ

それはもう、凄まじい勢いで

 

 

「え~?

なんでですか?」

 

「普通に無理じゃろ!?

幼い頃ならばまだしも、今は無理じゃろ!?」

 

 

それはもう、ある種の特殊なプレイになってしまう

確かに昔の彼女ならば、それはもう似合っていただろう

しかし、今の彼女には、かなり無理がある

 

無論、七乃はわかっていて言っているのだが

 

 

 

「さて、美羽様をいじるのはこれくらいにして・・・」

 

「いじっ・・・!?」

 

 

その証拠に、美羽の反応に満足そうに頷くと、さっさと話題を変えてしまっていた

 

 

「な、なぁ・・・あの女、絶対性格悪いやろ?」

 

「「まぁな・・・」」

 

 

王異のさり気ない一言

夕と祭は、力なく頷くのだった

 

 

 

「劉備様・・・この際、信じる信じないは、置いておきましょう

ただ、聞かせてほしいんです

何故私たちが、貴女達の国を滅ぼすのか?」

 

「それは・・・」

 

 

七乃の言葉

真っ直ぐと見つめたまま、発せられる言葉に、桃香は言葉を濁してしまう

そんな彼女の背後

すっと前に出たのは、黄忠こと紫苑であった

 

 

「“予言”です・・・」

 

「予言?」

 

 

紫苑の一言に、七乃は眉を顰めた

しかし、そんな彼女の様子に気付くこともなく、紫苑は淡々と言葉を続けていく

 

 

「数日前・・・成都に現れた、管輅の予言よ

曰く・・・“蜀の地に、一人の男が現れる

その者、全てを終わらせる者なり

果てなき旅路の最中、彼はやがてこの蜀へと辿り着くだろう”」

 

 

 

 

 

 

 

 

“その者の名は・・・鄧艾士載

この蜀を滅ぼす者の名にして、全てを終わらせる光の名”

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・以上が、管輅の予言よ

そして、それからすぐ“奴ら”が現れた」

 

「そんな・・・」

 

 

“馬鹿な”と、夕は表情を歪める

同時に、強く拳を握り締めた

 

 

「そのような、くだらない戯言のために、一刀が疑われているというのかっ!?」

 

「戯言なんかじゃないっ!!」

 

 

それは、夕が叫んだ直後のこと

その声を上回る、叫びをあげたのは・・・桃香だった

 

 

「だって、管輅さんは“天の御遣い”が乱世を終わらせるって、言ってたもん!

そして、その予言は当たった!

だから・・・“だから私たちは、負けちゃったんだよ”!!」

 

「なっ・・・」

 

 

今度は、七乃が一歩引く番だった

 

その言葉に

その瞳に

 

滲む、どす黒い“何か”に対し

彼女は、怯えてしまったのである

 

“マズイ”と、七乃は息を呑んだ

 

 

 

「夕さん・・・これはちょっと、マズイですよ」

 

「言われなくても、わかっている」

 

 

と、夕

彼女は戦斧を握り締め、苦笑を浮かべていた

 

 

「しかし、参った

状況がまったくわからん」

 

「うむ・・・しかし、確実に何かがあったのじゃろう」

 

 

そう言って、祭も弓を構えていた

思い出すのは、桃香の言葉である

 

管輅の予言

其処にあった、蜀を滅ぼす者の名前

そして・・・成都を奪ったという、謎の勢力の存在

 

 

「まぁ、今はそんなん考えたってしゃーないやろ」

 

「そうなのじゃ

今は、この状況をなんとかしないといけないのじゃっ!」

 

「そう、ですね・・・」

 

 

呟き、七乃は深呼吸をした

同時に、双剣に手を添えて・・・

 

 

 

 

 

 

 

「あ~~~いやいや、何やら面白いことになっておりますなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

その手を、下ろすこととなった

 

 

 

「・・・は?」

 

 

と、呆けた声をあげたのは夕だ

その彼女の視線の先

 

其処に、一人の男が立っていたのだ

 

 

「なっ・・・」

 

 

睨み合う、劉備軍と七乃達

その、丁度真ん中に

彼は、いつの間にか立っていたのである

 

 

「これはこれは、まさか“両方とも”私の仕事になってしまうとは

幸か不幸か、さてなんとやら」

 

 

その男は、少しだけ太った体躯を揺らし、嗤う

その体型に合わせるよう、だらしなく着込んだ鎧には・・・“蜀”の文字が入っていた

 

 

「貴様っ・・・“いつの間に”!?」

 

 

そう言って、夕が焦るのも無理はないであろう

つい今まで、自分達の視線が交錯していたはずの場所

その丁度中心に、彼はいたのだ

あたかも、“はじめから其処にいたかのように”

平然と、其処に立っていたのである

皆が皆、驚きを隠せないでいた

 

が、そんな中

ただ二人、皆とは全く“違う意味”で驚いている人物がいた

 

 

「そ、そんな・・・」

 

「お前は・・・」

 

 

黄忠こと紫苑と、厳顔こと桔梗の二人である

彼女達がその人物を見つめるその瞳には、他の者にはない、もっと大きな驚きのようなものが見て取れる

そんな視線に気付いたのか、男はニヤリと笑みを浮かべ、頭を下げる

 

 

「これはこれは、黄忠将軍に厳顔将軍

どうもどうも、“お久しぶりでございます”」

 

 

この言葉

桃香をはじめ、蜀の皆の視線が二人に集まった

 

 

「“雷銅”・・・」

 

 

やがて、桔梗の口から零れ出た言葉

“雷銅”

それを聞き、男はさらに笑みを浮かべる

 

 

「これは、なんと・・・まさかまさか、この私の名を覚えておいででしたか」

 

 

“光栄ですなぁ”と、男は顔をあげた

 

 

「そんな、馬鹿な・・・」

 

 

と、桔梗

そんな彼女の様子が面白かったのか、男は笑みを浮かべたまま自身を指さした

 

 

「驚きましたかな?

まぁ無理もないことでしょう

まさかまさか、“ご自分が殺したはずの相手と対面するなんて、普通は想像も出来ませんからなぁ”」

 

 

“いえ、王を合わせれば二回目ですか”、と

そう言って、笑う彼を

桔梗と紫苑は、真っ青な表情のまま見つめていた

 

“驚愕”

“焦燥”

“畏怖”

 

様々な感情が、その胸の内

グルグルと、グルグルと、渦巻いていく

 

 

「まぁまぁ、昔話は、無駄話はここまでにしておきましょうか・・・」

 

 

そんな中、男は嗤うのを止め

スッと、片手を軽く上げた

 

瞬間、辺り一面を強烈な“殺気”が覆った

 

 

 

「恨まないで下さいよ?

王は“追わない”と言いましたが

まぁまぁ、これは仕方のないことなのです」

 

 

 

その殺気の正体が、いつの間にか現れた“軍勢”だと気付いた瞬間

既に、“始まっていたのだ”

 

 

 

「何故なら我らが王は、常に“気まぐれであるのですから”」

 

 

 

その身を“黒き雷”に包んだ“異常な軍勢”との

恐ろしい戦いが・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

「ふふ・・・ついに、始まったみたいね」

 

 

ある、山の山頂

その頂に立つ、一人の“少女”は

不気味な“笑み”を浮かべながら呟いていた

 

 

「流石だわ

今のところ全部、“貴女”の予言通りね?」

 

「・・・」

 

 

と、その隣

もう一人の少女は、唯黙ったまま・・・小さく頷いた

 

 

「私の予言は、絶対・・・外れない」

 

「ふふ・・・頼もしいじゃない」

 

 

少女の言葉

先ほどの少女は、満足そうに頷いていた

その際に、彼女の被っていた“猫耳のようなフード”が、ユラリと揺れる

 

 

「どういう“気まぐれ”で、私たちに“協力”してくれたのか

まだ、釈然としないけれど

まぁ、いいでしょう

今のところ、何もかもが順調だし」

 

 

と、少女はフードを深く被り直し・・・“嗤う”

その口元は、グニャリと歪んでいた

 

 

「このまま、このまま・・・このまま、滅んじゃえばいいのよ

どうせこの世界は、“在って無いようなものなんだもの”」

 

 

“だけど・・・”と

彼女は、スッと手を前に差し出す

瞬間、彼女の眼前の“空間”が歪んだ

 

 

「“アイツ”だけは、消させないわ

この世界がどうなろうと、この世界の人間がどうなろうと

それは、知ったことではないけれど

だけど、“アイツ”だけは、“私のモノ”なんだもの」

 

 

その、歪んだ空間の向こう

揺れる、“不安定な空間”の向こう

 

其処に映りこんだのは、倒れ眠ったままの

一人の“青年”の姿だった

その全身は、びしょびしょに濡れている

 

 

「勝手に消えて、勝手に帰ってきた“あのバカ”は

この、“私だけのモノ”なんだもの」

 

 

その青年を見つめたまま、彼女は嗤う

 

嗤い続ける

 

 

 

「待ってなさい・・・邪魔なモノを片付けたら、何もかもを消してしまったら

すぐに、迎えに行くから

何もかもを、出し抜いて・・・会いに行くから」

 

 

 

やがて、彼女はゆっくりと

その映像を、消していく

青年の姿を、歪んだままの、不気味な瞳で、真っ直ぐに見つめながら

 

 

 

 

「そう・・・私は“泥棒猫”

“泥棒猫の荀彧”なのだから」

 

 

 

 

彼女は・・・“荀彧”は

その身を、闇に溶かしていったのだった

 

 

★あとがき★

 

さて、本当にお久しぶりです

二章も、いよいよ混沌として参りました

 

しかし、それでもまだまだ序盤です

 

今後ともお付き合いいただければ、嬉しいです

 

では、また会いましょう


 
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