No.432663

Black dream~黒い夢~エピローグ

C-maさん

PSO2「ファンタシースターオンライン2」の自分の作成したキャラクターによる二次創作小説です。
(PSO2とその世界観と自キャラが好き過ぎて妄想爆裂した結果とも言う)

ようやく完結。恥筆(そんな言葉は無いが)かつ色々と痛い感じ(自覚はある)で散々書き散らしてきましたが、いままでお付き合いありがとうございました。結局Oβ来なかったあははあはははははorzあと2週間くらいどうしよう・・・どうしようorz

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2012-06-04 18:53:07 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2384   閲覧ユーザー数:2315

 

「この間はみっともない所見せちゃってすいませんでした…」

 

アークスカウンターを望むロビーの階段の隅で、アフィンが俯いたまま呟いた。

 

あれから数日が経ち、ようやく被害を受けたシップの復興作業が始まった。

十年前とは違い、シップそのものを投棄する事態にまでは陥らずに済んだらしい。

アークス内の騒然とした空気もようやく収まり、再び秩序の中へと戻っていった。

既に待機ロビーには人影も少ない。殆どのアークスが探索に出てしまったからだ。

中には、復興の手助けをする為にシップ4073へ自ら出向いている者も居る。

 

意気消沈したままのアフィンの傍らに立つエリの表情は複雑。

ただ、何とか力づけたいとは思っている。

 

「いつまでも終わった事をくよくよしないの。落ち込んでて先に進めるの?あなたも人を探す為にアークスになったんでしょ?」

「そ、それはそうですけど…相棒も実は凄いベテランだって聞いたし…俺一人置いてかれた感じで…」

 

エリの隣に立っているリュードを上目遣いで見て、もう一度溜息を付く。

リュードは苦笑した。

 

「誰だって最初はあるし似たようなもんだ、いきなり強くなろうって方が間違いだぞ」

「そうだけどさ!けど、やっぱ役に立ちたいしさ…」

「まだお前はそんな事を言っているのか」

 

唐突に、彼の背後から声がした。

アフィンは跳ねるように振り向く。

 

「じ…ジャン師匠!!」

 

白髪を後ろで乱雑に纏めた、厳つい初老の男性が立っている。

歩み寄ってくるジャンに、エリは首を傾げる。

師匠?

装備を見ると、確かにレンジャースーツ。それもかなり年季の入った物だ。

彼にとっては相当苦手な相手なのだろう、アフィンは思わずエリの後ろに身を隠した。

 

「あの…?」

「君らがアフィンのチームの方々のようだね、どうやら不肖の弟子が迷惑をかけているようだ。申し訳ない」

「あ、いえいえ」

 

礼儀正しく頭を下げるジャンに、エリは慌てて返すように会釈する。

だが、その直後にジャンはずかずかと歩み寄り、エリの後ろで息を潜めているアフィンの首を掴んだ。

 

「お前は!女性の後ろに隠れて恥ずかしいと思わんのか!」

「わぁあ!ごめんなさい師匠ー!!」

 

まるで親子のような会話。

ジャンは首を掴んだままアフィンを睨み据えて居る。

 

「大体お前はいつまで初心者気分で居るのだ、正規アークスになったならそれなりの心構えをもたんか!」

「でも師匠、俺だって」

「言い訳無用!私が一から性根をたたき直してやる、付いて来い!」

「で、でえええええええ?!」

 

付いて来いと言いながらアフィンをアークスカウンターに引っ張っていくジャンを、二人は茫然と見送るしか出来ない。

エリは肩をすくめて苦笑した。

 

「随分と凄いお師匠様なのね」

「いいんじゃないか?あのくらい強引でないとあいつの能力は引き出せないかもしれん」

「なんだか、ちょっと可哀想な感じもするけど」

 

くすくすと笑って、エリはアフィン達を見送る。

「さて、どうするかな」

「そうね、私達だけじゃ流石に探索には出られないし、エコー達に声掛けてみようかしら?」

「そうだなぁ」

 

何気なく、リュードが階段に腰を降ろすと。

その隣にすとんとエリが座った。

背中の真新しい戦略OSに目が行く。

 

「新しくなったのね?」

「総督が俺の能力に合わせた物を用意してくれたよ。流石にもうあんな状態に陥るのは御免だからな」

「良かった。非常時とは言っても思いっきり壊しちゃったから心配していたの」

「はは、あれは痛かったな」

「だからごめんなさいって言ってるでしょ」

 

冗談半分のリュードの言葉に、思わず怒ったように答えるエリ。

だが、リュードはふとエリから視線を外して俯く。

 

「謝るのは…俺のほうだろうな」

「え?」

 

唐突な謝罪に、エリは戸惑った。

 

「何のこと?」

「君の命を救う為とはいえ、俺の『時間』に君自身を巻き込んだ。すまないと思ってる」

 

事象の羅針盤(マターボード)が時を引き戻す度、エリも一緒に時を遡る事になる。

エリにとってどんなに大切な時間が過ぎていたとしても、時間を遡ればそれは全て「無かった事」になる。

彼女自身の記憶は残っているにもかかわらず、周りの人々にとってはそれは「これからの出来事」になるのだ。

それがどれだけの「心労」になるかを、リュードはその身をもって知っていた。

だからこそ出る、謝罪の言葉。

表情に影が浮かぶリュードに、エリは顔を曇らせた。

どうして、自分ばかりを責めるのか。

 

「巻き込んだ?本当にそう思ってるなら、何故マターボードを『使った』の?」

 

厳しい口調のエリ。

 

「私はあの時自分の意思で死を選んだ。それで良かった筈でしょ?少なくともあの時に『闇』は封じる事が出来たのだから」

 

相応の覚悟はしていたが、これほどとは。

沈黙が場を満たした。

重い空気が言葉を紡ぐ事を許さなかった。

だがしばらくして、エリ自身がぽつりと呟く。

 

「…ごめんなさい。自分を棚に上げて、言い過ぎたわ」

 

思いがけない言葉にリュードはエリに視線を戻した。

視線を逸らすように、エリはアークスカウンターの窓の彼方のキャンプシップを見る。

 

他人(ひと)を遠ざけるのって簡単だけど、それは結局傷付けあうのが怖いだけ。他に方法が無かったとはいえ、『あの時』の私は貴方を傷つけるのが怖くて逃げたのよ。その事そのものが『貴方を傷つける』事にも気付かずに…本当に謝るのは私の方」

 

小さく息をして、エリは顔を背けた。

自分の顔を見られたく無かった。

それほど、自分の過ちを自覚していた。

冷静になれば判る事。だが、それを状況が許さない時に人は本質が現れる。

リュードは静かに首を振った。

 

「やめよう。これ以上言ってもお互いに辛いだけだ」

「そうね、そうよね…」

 

溢れそうになる感情を飲み込んで、ふとその目が厳しいものになる。

 

「それに、何も解決してないわ」

 

そう、何一つ終わっては居ない。むしろ、始まってすら居ない。

ヴォル・ドラゴンの言う『愚かなるヒト』も。

彼らを初めとするアークスそのものが実験体(モルモット)である事も。

マザーシップの「闇」もそのまま。

何一つ、変わっていないのだ。

あくまで『闇の阻止』という一つの事象を乗り越えたに過ぎないのだから。

 

「そうだな。いつか違う方法で必ず『力』を手に入れようとする筈だ」

「私達にしかそれを止められないって事よね。…でも」

 

不意に、エリの口調が変わった。

 

「色々言ったけど、結局私はね」

 

ぐっと、リュードの顔を覗き込む。

今までの「アークス」としてのエリではなく、一人の女性として。

 

「貴方の隣に立って、同じものを見て、同じ時間を生きる。それが出来る事が嬉しいだけなの」

 

これでもかと、エリは笑った。

驚いて一瞬身を引きかけるリュードだったが。

その言葉の意味に、我に帰った。

 

同じ?

 

過ちを繰り返さないとか「奴等」の行動を阻止するとか。

そんな言葉は後で付けたようなもの。

本当の理由はただ一つ。

 

ただもう一度、エリに会いたかった。

 

それだけだった。

ふ、とリュードは笑う。

 

「『俺達』が生き延びたのには意味がある、か」

 

お互いの意思が通じる事の、なんと心地よい事か。

時が止まったかの様に、お互いを見つめる。

「いい感じのところを悪いんだけどさぁ」

 

唐突に、割り込むように声がした。

弾かれるように、二人が振り返る。

 

「ちょ…っと、ゼノ!!」

 

ゼノがニヤニヤと笑いながら、階段の一番上の段に座っていた。

顔を真っ赤にして、エリが立ち上がる。

 

「いつからそこにいたのよ」

「さっきからねー。あ、会話は聞いてないぜ?俺だってそこまでヤボじゃねえよ、なあ旦那?」

「勘弁してくれ…」

 

思わず表情を隠すように頭を抱えるリュードが、ゼノは益々面白いらしい。

からかうように笑うゼノに、エリが怒りの表情で迫った。

 

「で、何なのよ?」

「そう怒るなって、新しい仕事が来るかも知れないんだから」

 

その一言に、二人は一瞬で真顔になる。

流石はアークスと言った所か。

 

「任務ね?」

「場所は何処だ?」

「ナベリウス。但し、極地だ」

「極地?」

「調査隊が、先日のダーカー大発生の原因を辿って行き着いたのが極地の永久凍土らしい」

 

永久凍土。

ナベリウスに、そんな場所が存在しているとは。

しかもそこにダーカー大発生の原因がある。

調査に向かっている人たちはきっと「ラボ」とは無関係。純粋に「原因」を探るためだろう。

それすらも「奴等」の手の内だとしたら。

エリとリュードはお互いに頷きあう。

 

「まだ初期調査に数日はかかるらしいが、そんなに間を空けずに俺たちにも要請が掛かると思うぜ。何しろあのデカブツを倒した実績があるからな」

 

そこまで聞いて、エリはふと意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「ゼノ、その情報はどこから?」

「そりゃあまぁ、アークスカウンターのおねぇさんから色々とね…」

「へぇー、そりゃ大した情報網ね」

 

その声に、ゼノの顔が一瞬で引きつる。

エコーが思い切り、怒りの表情で立っていた。

 

「私が装備を整えてる間に、ゼノはナンパしてた訳ね?」

「いやそういう訳じゃな・・痛ぇ!!!」

 

思い切り、ヒールでゼノのブーツを踏みつけるエコー。

また始まった、とエリが笑うと、エコーはエリに向き直ってひきつった笑顔を見せる。

 

「ごめんねー、お邪魔だったでしょ?」

「そんな事は無いけど」

「一応情報はこのオバカさんが伝えたみたいだし。行くわよゼノ」

 

また、耳を引っ張って引きずろうとするエコーに、ゼノはその手を払った。

本気で怒りの表情を浮かべている。

 

「だからちょっと待てって!痛ぇって言ってんだよ!」

「うるさいわね!二人の邪魔しといてよく言うわよ!」

「あのなぁ!そもそもお前が遅れて来たのが悪いんじゃねぇか!」

 

周りそっちのけで喧々囂々。

立ち去りながらずっと口喧嘩を続ける二人に思わず笑ってしまう。

正直なのかそうでないのか。

苦笑しながら、リュードは二人の後姿を見送った。

 

「相変わらずだなぁ」

「あれでお互いに絶対的な信頼を寄せてるのよ、凄いわよね」

「全くだ」

 

ふとエリは、リュードの手元に小さく輝く光点を見つけた。

それは、リュードとエリの二人にしか見えない「事象の羅針盤」の輝き。

マターボードが僅かに反応している。

リュードは彼女の変化に気付いて手元を見、その表情が厳しいものになった。

 

「…事象の欠片(マター)の反応があるな」

「それが兆しなの?」

「ああ。多分今の『情報』がきっかけだろう。だがその『回帰』が何時何処で起こるかは判らない」

 

今この瞬間にも「選択」は行われている。

無数に散らばった「事象の糸」を手繰り寄せ、その中から道を一本だけ見つけて行く。

それがどれだけ難しく、重い事か。

 

「じゃあ、アフィン君が戻ってくるまでに少しでも強くなっておかないと」

「エリ?」

「私達だけでも受けられる任務を探しましょ、回復はメイト系で何とかすればいいし」

 

その目は既に「先」を見ていた。

リュードは立ち上がり、同じ方向を向く。

 

「やっぱり君は頼りになるな、心強いよ」

「どういたしまして」

 

同時に二人は歩き始めた。

 

同じ方向を見、同じ時を歩む。

 

時々はお互いを確認し、お互いを想い、支えながら。

 

傷だらけにもなるだろう。時には傷付け合う事もあるかもしれない。

 

それでも歩む事をやめなければ、いつか辿り着ける事を信じている。

 

何処へ?

 

 

 

 

 

マターボードが必要とされない、未来へ。

 

 

 

 

 

(2012年6月4日 脱稿 C-ma)

 

 
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