No.428420

真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史編ノ十三

 お待たせしました!

 今回は劉備軍と合同で黄巾党の砦に攻め入りますが…

 とりあえずは、ご覧ください。

2012-05-26 17:44:58 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:9759   閲覧ユーザー数:7352

「あそこに見えるのが黄巾党の軍勢がいる砦か…」

 

 俺達は劉備軍と共に黄巾党のいる砦が見える所まで進んで来た。

 

 多少なりとも敵の奇襲があると思って進んで来たのだが、ここまで

 

 全くといっていいほど黄巾側からの攻撃は無い。向こうの方が数は

 

 上なのだから、俺だったら奇襲をかけて足止めを試みるのだが。

 

「どうしました?北郷さん」

 

「いや、何でもない。それでは劉備さん、段取り通りに」

 

「わかりました、それじゃみんな行くよ!」

 

 劉備さんの号令と共に劉備さんの軍勢が砦に向かって動き出す。

 

「輝里、すまないが劉備さんの手助けの方を頼んだよ」

 

「はい、お任せを」

 

 前の戦いで疲弊している劉備さんの軍勢だけでは心配な部分もある為、

 

 輝里に千の兵を預けて劉備さんの手伝いに行かせる。もし不測の事態

 

 が発生しても輝里なら冷静に対処してくれるだろう。

 

「それではこちらも動いてください。先鋒、左翼は霞さん、右翼は岳飛さんに

 

 お願いします」

 

「応っ!」

 

「はっ!」

 

 朱里の指示に従い、二人は素早く隊を展開させる。

 

 今回の作戦は、劉備さんの軍勢が正面から攻撃して敵を引っ張り出し、その横腹を

 

 霞・岳飛で衝き、敵を混乱させたところで残りの兵で砦に突入というものだ。

 

 劉備さんの軍勢に正面を担当してもらったのは援助物資を送る代わりに俺が提案した

 

 ものだ。…正直、囮に近いものがあるのだが。

 

 とはいえ、数は敵の方が上である以上、正攻法も採れないのも事実なので何とか劉備

 

 さん達にはうまく敵をあしらってもらってその隙に俺達が決着をつけなければならない。

 

 激しい戦いが予想されるがここが踏ん張り所だ。

 

 そう思っていた。しかし……

 

 

 

 

「嘘、何でこんなにあっさり…」

 

 俺は困惑を隠せなかった。何故なら、劉備軍の攻撃によって敵の一部を引っ張り出し、

 

 霞と岳飛に攻撃させる所までは作戦通りだったが、迎撃に出た黄巾の軍勢は予想以上

 

 に弱かった為、ほぼ一瞬で壊滅してしまったのだ。

 

 そしてそれは劉備軍の方でも……

 

「どういう事だ?先程、我らがあんなに苦戦した相手が何故こうも弱いのだ」

 

「あいつら、さっきとは別人みたいなのだ!」

 

「姜維ちゃん……どうしよう?」

 

「ううむ、こんなにも計算違いになるとは…」

 

「桃香様!北郷軍が城の中へ!!」

 

 関羽が告げると姜維は瞬時に命令を下す。

 

「関羽殿は北郷軍に続いて城の中へ、張飛殿は城の外へ出てくる敵の迎撃を!」

 

「えっ!?しかし姜維殿…」

 

「鈴々も城の中へ行きたいのだ~!」

 

 関羽と張飛は不満を言おうとするが…

 

「二人共、姜維ちゃんの言う通りに」

 

 そう劉備より言われたので渋々命令に従う。

 

 ・・・・・・・・

 

「徐庶様、劉備軍が」

 

「ええ、わかっています。しかし、あっさり負け過ぎる割には何かから遠ざける

 

 ような動きが…、…そうか!!…私達は丁奉さんと合流します。全軍移動!」

 

 輝里の命令に一瞬戸惑いを見せるも、兵士はすぐに命令通りに動く。それだけの

 

 訓練をしてきたのと輝里に対する信頼によるものである。

 

「さあ、後はどういう展開になるか…朱里、あなたはどう考えるかしら?」

 

 

 

 

「どうする、朱里?俺達もこのまま城内に突入した方がいいのかな?」

 

 あまりにも急な展開で、判断がつきかねる部分がある。霞と岳飛が突入してから

 

 特に異常を伝えてこない所を見ると、わざと城内に誘い込む策ではなさそうだが。

 

 そう思い朱里を見るが、朱里は何かしら考え込んだまま返事をしない。

 

 そこへ、大音声が響き渡った。

 

「我が名は黄巾党の首領、張角が妹『張梁』なり!!我が首欲しくば奪ってみせよ!!」

 

 その声がする方を見ると、城壁の上に槍を持った一人の女性が立っていた。

 

 …って、張角の妹!?確かに正史では張角は三兄弟だったが、こっちでもか。

 

 先程の引き際の良さは張梁が指揮を執っていたからか。とはいえ、このような大物を

 

 みすみす逃がす事はできまい。実際、霞や岳飛だけでなく、劉備軍の面々も先を争う

 

 ように張梁の元へ行こうとする。

 

「全軍、張梁を……『待ってください!』…朱里?」

 

 俺が全軍を差し向けるべく号令をかけようとした寸前に、朱里が止めに入る。

 

「どうした?何か問題でも?」

 

「今、城内の確認に行かせてますのでその報告が先です」

 

 確認って、もう城内に皆なだれ込んでいる状況で何を…?

 

 程無く確認に行っていた兵が戻ってきた。

 

「どうでした?」

 

「城内に残っていたほとんどは負傷兵か非戦闘員でした。三万という数は嘘であった

 

 ようです。実質戦えるのは二割にも満たなかったと思われます」

 

 それが先程の弱さの原因か…劉備軍は遭遇戦での混乱であれだけの被害を被っただけ

 

 のようだ。しかしそれと張梁への攻撃を止めるのとどういう関係が…?

 

「わかりました……それでは丁奉さんへ伝えてください、輝里さんと合流したらすぐに

 

 その近辺の捜索をするようにと。そして三人組の女性を発見した際には必ず捕縛する

 

 ようにも伝えてください。いいですね、くれぐれも殺してはいけないと」

 

「はっ!」

 

 朱里は砦の裏手側に伏せさせてる丁奉さんへ伝令させる。どういう事だ?…三人組の女性?

 

「どういう事だ、朱里?三人組の女性の捕縛って…?」

 

「申し訳ありません、ご主人様。今まで秘密にしていた事があります」

 

「秘密?」

 

「はい、黄巾党の首領である張角には二人の妹がいて、三人で旅芸人をしていたという

 

 情報をです」

 

「なっ…でも、正史でも三兄弟だったわけだし、別にそれは秘密と言う程のものでは…」

 

「それだけではなく、常に三人で移動しているという事もです。今まで集めた情報を総合

 

 すると張角達三姉妹は目撃情報では必ず三人でした。だから妹一人残して逃げるというのは

 

 ありえません。よって、あの城壁の上にいるのは偽者です。そして、他の諸侯が討伐しようと

 

 している中央にいる十万の軍勢の方へ放っていた斥候の報告では、あちらの方に三人組の女性は

 

 いなかったとの事。だとすれば、ここに三姉妹がいるという事です。でなければ、わざわざあの

 

 偽者が張梁の名を名乗って敵を引き付ける意味がありません」

 

 朱里はそう断言した。…しかし、それは本当なのだろうか?朱里を疑うわけではないが、朱里の

 

 言葉以外に確証があるわけでもない。

 

「もし私の判断に間違いがあった時はいかような処罰も受けます。だから信じてくださいとしか今は

 

 言えません…」

 

「…わかった。朱里がそう言うのなら俺はそれを信じる」

 

 俺はそう言って朱里の頭の上に手を置く。

 

「ご主人様…」

 

 

 

 ~時は少し遡って、黄巾党side~

 

「砦の前に敵の軍勢!旗印は『劉』、その後方に『徐』!」

 

 見張りの兵士からの伝令に張三姉妹の三女、張梁の顔はこわばる。

 

「遂に来たわね…砦の中より一歩も出ないように伝えなさい!」

 

「人和、一歩も出ずに守りを固めたら逃げ出せるような混乱にならないんじゃ…」

 

「大丈夫、間違い無く混乱は起きるわ」

 

「何を根拠に『申し上げます!』どうしたのよ!」

 

 三姉妹の次女、張宝が妹に何か言おうとした所に兵士が駆け込んでくる。

 

「味方の一部が敵の挑発に乗って、討って出て行きました!」

 

「なっ!…今そんな事をしたら、みすみすやられるようなものじゃない!」

 

「予想の範囲内よ、ちぃ姉さん」

 

「それじゃ最初からこれを狙って…」

 

「ええ、みんなには悪いけど、これで混乱が発生するはずだから、これを利用させて

 

 もらうわ。二人共、私の指示に従って」

 

「わかったわ」

 

「うん…」

 

 遠くから喊声と門が破壊されたような音が聞こえたと同時に三人は裏口の方へ走り出す。

 

 しかしそこに立ちはだかる女性がいた。

 

「三人共、どこへ行かれるのですか?」

 

「「「……波才さん……」」」

 

 立ちはだかったのは黄巾軍の将である波才であった。彼女は三姉妹が活動を始めた当初

 

 より支えてくれた最古参の将でもある。

 

「もしかして、あなた方は…」

 

「「「……」」」

 

 沈黙が流れる。それはほんの一瞬の事であったが、四人にとっては永遠とも思える長さにも

 

 感じられる。その沈黙を破ったのは波才の方であった。

 

「…そうですね、あなた方にはこんな血生臭い場所は似合わない。それにあなた方が首領で

 

 ある事を知っている者は少数です。ここは私が食い止めますので、早くお逃げください」

 

「…!波才さん…でも、あなたは」

 

「私には軍を指揮していた責任があります。それに作戦とはいえ、このような兵の少ない

 

 所にあなた方を連れて来た失策の責も負わねばなりません故」

 

 波才はそう言うと、道を開ける。

 

「……ごめんなさい、波才さん…行こう、天和姉さん、地和姉さん」

 

 張梁は姉二人を連れてその場を後にする。

 

「三人共どうか、息災に…さて、それでは人生最後の大舞台へと参りますか」

 

 波才はそう呟くと、城壁の上に登る。

 

「この辺りでいいかな…」

 

 波才は眼下に見える敵によく聞こえるように大声で叫ぶ。

 

「我が名は黄巾党の首領、張角が妹『張梁』なり!!我が首欲しくば奪ってみせよ!!」

 

 波才が張梁の名前を使ったのは、張角は既に人相書きが出回っているからだ。…正直、似ても

 

 似つかないのだが。しかも、張角は中央に集めさせた十万の軍勢の中にいると皆思っているのは

 

 間違い無い事だ。ならば、ここで『張角の妹』と名乗っておけば、敵をしばらく引き付けておく

 

 事が出来る。…少なくとも三人が安全な所まで逃げる時間位は稼げるだろう。そう判断して名乗り

 

 をあげた。……まさか、それが敵の軍師に真実を気付かせる糸口になろうとは思ってもみなかった

 

 のであった。

 

 

 

 

「…ならば、城壁の上にいるあの人は主君を逃がす為にあのような事を?」

 

「はい、おそらくは」

 

 朱里の推測を聞き、俺は驚きと共に城壁の上にいる人物に目を向ける。既に乱戦の様相を呈していて、

 

 霞や岳飛、劉備軍の面々も攻めあぐねている。

 

「でも、どうする?今、あそこにいるのは偽者だって言っても、あの状況じゃ…」

 

「程無く輝里さんと丁奉さんから連絡が入るはずです。それから次の手を打ちます」

 

 一方その少し前、丁奉と合流した輝里のもとに朱里からの伝令が伝えられる。

 

「諸葛亮殿も徐庶殿と同じ事をお考えだったとは…」

 

「さすが朱里、見破ったわね。では丁奉さん、さっき言った通りに」

 

「三人組の女性の捕縛ですね。了解しました」

 

 輝里の指示を受け、丁奉は四方に兵を放つ。

 

 そしてしばらくして…。

 

「徐庶様、丁奉様、連れて参りました」

 

「では、こちらへ」

 

 連れて来られたのは張三姉妹であった。裏口から脱出した後ここまで逃げて来たのだが、あえなく

 

 北郷軍の網にかかってしまったらしい。

 

「初めまして、張角殿、張宝殿、張梁殿。私は南郷郡太守代理である北郷一刀のもとで副軍師を務める

 

 徐庶と申します」

 

 輝里の自己紹介を聞いて、三人の顔がこわばる。どうやら三人の名前を言われた事に驚いているようだ。

 

「な、何で…!張宝と張梁の名前は知られていないはずなのに……」

 

「確かに首領である張角殿の名前以外を知っている者は他の諸侯の軍勢にはいないでしょう。実を言えば、

 

 私も最近知ったばかりです。でも、我が軍の正軍師を務める諸葛亮は最初から三人の名前を知っていま

 

 したようです。張宝殿と張梁殿の名前を出せば、おそらく三人は黙秘する事も忘れるだろうとも言って

 

 ましたよ」

 

「…!諸葛亮ってあの噂の…」

 

 「諸葛亮」という名前を聞いた眼鏡の女の子の顔が青くなる。一体どのような噂なのだろうか…輝里は

 

 気になる所ではあったが、三人に対して言葉を続ける。

 

「さて、このような事態になった以上、おとなしくしてくれると助かるのだけど…」

 

「もし暴れたらどうするって言うのよ!」

 

「…わかっていらっしゃると思ってましたが?」

 

「……私達三人の命は保証してくれるのかしら?」

 

「もちろん」

 

「ならば、そちらの指示に従います。…姉さん達もそれでいいわね?」

 

 眼鏡の娘の言葉に他の二人は黙ったままだ。しかし、抵抗する素振りも見せない所を見ると従うようだ。

 

「それでは、太守様のもとへ参ります。あなた方三人の処遇は太守様よりお聞きください」

 

 

 

「輝里さんより連絡がありました!『三姉妹の保護に成功、すぐにそちらへ向かう』との事です」

 

「それは何より。では、次の段取りだな」

 

 その頃、城壁の上では…

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 「張梁」の名を騙った波才が奮戦を続けていた。しかし他にいた兵士達は皆討ち取られ、残るは彼女

 

 一人となっていた。彼女も既にボロボロといってもよい状態ではあったが、気合で踏ん張り続けていた。

 

「この者からは鬼気迫るものを感じる」

 

「ウチら相手に、ここまでやり合うんやからな」

 

「まだ油断はできません」

 

 関羽、霞、岳飛はじりじりと間合いを詰める。

 

(くっ、ここまでか…。でも、これだけ時間を稼げばあの方達は無事逃げ出せたはず…。張角様、張宝様、

 

 張梁様、波才は先に逝きます。あなた方の歌に出会えて幸せでした。どうかこれからも皆の心に響く

 

 歌声を届けてください…)

 

 しかし止めの一撃が繰り出されようとしたその瞬間、銅鑼の音が響き渡る。

 

「何事だ!我が軍の銅鑼の音ではないぞ!」

 

「今の音はウチらのや!」

 

「はい、しかし引き揚げの合図ではありません」

 

 三人は音のした方へ目を向けると、そこには…

 

「何や、あれ?一刀と朱里が誰か連れて来てるで」

 

「三人の女性の姿が見えます」

 

「捕虜…には見えないが、一体北郷殿は何を…」

 

 その言葉に反応したのは波才であった。そして波才も目を向ける。そこには彼女が最も信じられないものが

 

 あった。

 

「そ、そんな馬鹿な…」

 

 

 

 

 波才が見たのは、北郷軍の中に捕らわれた張三姉妹の姿であった。

 

(張角様、張宝様、張梁様!…くっ、捕まってしまわれたのか)

 

 続いて一刀の声が響き渡る。

 

「張梁殿に告げる!俺は南郷郡太守代理、北郷一刀である!この三人の命が惜しくば武器を捨てて投降せよ!

 

 もし投降しないのであれば、この三人の処遇に関してはこちらに委ねるものと判断する!」

 

 その言葉に霞達は困惑の度合いを深める。

 

「…何言っとるんや、一刀は?」

 

「あの三人はこの者にとって重要な人達なのでしょうか?」

 

「…ますます北郷殿の考えている事がわからない」

 

 しかし……ガシャン…

 

 何かが落ちる音に霞達三人が反応すると、そこには武器を捨てた「張梁」の姿があった。

 

「投降する。だからあの方達の命は助けてあげてくれ…」

 

「なっ…!本気なん、自分!?」

 

「ああ、私はどうなろうと構わない。だから頼む!あの方達だけは…」

 

 「張梁」がそう言いかけた時、『ドシュッ!』一筋の矢が彼女の左肩を貫く。

 

「ぐっ…卑怯な」

 

「誰や!今、勝手に矢を射たんは!?」

 

「私が命じた」

 

 そこに現れたのは…兵を連れた姜維だった。

 

「北郷殿が何をお考えなのかは知らないが、敵首領の妹を助けるなどみすみす手柄を捨てて

 

 しまうようなものだ。北郷軍が討ち取らないのなら、私がもらう。関羽殿、今すぐ張梁を

 

 討ち取れ!」

 

「えっ!?…いや、しかし……自ら武器を捨てた者に対してそれは…」

 

「何を馬鹿な事を言っている!ここで敵の幹部を討ち取れば、劉備軍の名が一気に上がるの

 

 だぞ!この姜維が言った事に間違いは無い!それが君の主の為なんだよ!!」

 

 自分の命に従わない関羽に対し、姜維は激昂した。しかし関羽は…。

 

「あなたが私などより遥かに優れている事はわかっている。そしてここまであなたの言葉に

 

 従ってきたおかげで私達はやってこれた。しかし、私は武人だ!自分の誇りを捨ててまで

 

 の手柄はいらない!!もし討ち取るのが桃香様の為であったとしてもだ!!」

 

 ハッキリと異議を唱えた。姜維の顔に困惑と怒りが満ちてくるのがわかる。

 

「…そうか、君は私の言う事が聞けないのか。ならば、もういい!!弓兵、張梁を討ち取れ!!」

 

 姜維が命を下し、弓兵が「張梁」へ向けて矢を射る。しかし…。

 

 カキン、カキン!

 

 霞と岳飛がそれを全てはじき返す。

 

「なっ、張遼殿、岳飛殿、何を…」

 

「黙れ、姜維!我が主、北郷様はこの者に投降しろと言い、この者はそれに従った!ならば、私は

 

 彼女を守る」

 

「確かに一刀や朱里が何を考えてるんかわからんけどな。でも、あいつらがそうせえ言うんやったら

 

 ウチはそれに従うまでや」

 

 霞と岳飛は「張梁」を守るように立ちはだかる。

 

「ぐっ、どいつもこいつも『私の』邪魔ばかり…そこまで言うのなら、お前らごと『待って!姜維ちゃん!』

 

 …劉備殿」

 

 そこに現れたのは劉備だった。

 

「姜維ちゃん、確かに私達は黄巾党と戦う為に兵を挙げたけど、黄巾党の人を皆殺しにして手柄を立てようと

 

 したわけじゃないよ。だから武器を捨てて投降した人に対して攻撃するのはやめてくれるかな?」

 

 さすがに主として従っている劉備の言葉には従わないとまずいと判断したのか、姜維は渋々引き下がる。

 

「ごめんなさい、皆さん。…そちらの方は北郷さんの軍に投降したのだからあなた方にお任せします」

 

 劉備はそう言うと、自分の軍を連れて城外へと出て行った。

 

「そんじゃ張梁、ウチらの陣へ来てもらうで」

 

「ああ、だが…」

 

「うん?何や」

 

「私の名前は張梁では無い、波才だ。そして張梁様は既にあなた方の陣の中にいる」

 

 波才のその言葉に霞は驚くと同時に全てを悟る。

 

「…さすがは朱里やな、ここまで全てお見通しやったっちゅう事か。やっぱりあいつはすごいな~」

 

 そして波才は北郷軍の陣へと連れていかれた。

 

 

 

 

~劉備軍side~

 

「何故だ!関羽殿の行為は軍令違反ではないか!!」

 

 姜維が劉備に向かって詰め寄る。何故こうなったのかと言うと、陣に戻ってから姜維が先程の関羽の行為に

 

 対し、処罰を求めたのにもかかわらず、劉備はそれを不問にすると言ったからだ。

 

「ほう、私のやった事が軍令違反だと言うのなら、お主のやった事は何だ!武器を捨てた相手に攻撃するなど

 

 鬼畜にも劣る所業ではないか!!」

 

「何を言うか、戦いとは結果だ!そして結果とは如何にして敵将の首を挙げる事以外に何があるというのだ!!

 

 その好機をみすみす逃す事こそ愚かなる所業ではないか!!いいか、我らは義勇軍なのだ。手柄をたてねば

 

 誰も認めてくれない。いい戦いをしただけでは何の恩賞も出ないのだぞ!それでは戦いが終わったら、また只の

 

 平民に戻るだけだ。お前達はそれで満足なのか!黄巾党さえいなくなればそれでいいのか!!」

 

 関羽の言葉に対し、姜維は自説を以て反論する。しかし確かに姜維の言葉にも一理はあれども、劉備達三姉妹に

 

 とって、それは受け入れられるべき話では無かった。

 

「姜維ちゃん、私は黄巾党がいなくなって、またみんなが平和に暮らせるようになればそれでいいと思ってるよ?」

 

「桃香様の言う通り、我らはその為に兵を挙げたのだ。恩賞など考えた事もないわ!」

 

「姜維は自分勝手なのだ!」

 

 姜維は完全に言葉を失う。

 

(くっ、まさかここまで愚か者の集まりだったとは、少々この者達を買い被っていたか…。どうする?このまま

 

 ここにいても、もはや私の言葉など聞いてもくれないだろう。ならば、また別の…)

 

 姜維が劉備の下を離れる決意をしようとした時、劉備が姜維に声をかける。

 

「でもね、私達が戦うには姜維ちゃんの頭脳が必要だと思っているよ。私達だってこのままで終わりたくはないの。

 

 でも、結果ばかり求めてたら私達も民を苦しめる賊と同じになっちゃうとも思ってる。だから、私達は甘いと

 

 思われてもこういう道を行くって決めたんだよ。だから…」

 

「もういい、劉備殿。あなたの考えはわかった。ならば、私はその想いに沿うように知略を張り巡らせなくては

 

 ならないのだな」

 

「姜維ちゃん…」

 

「だが、私は軍師だ。必要とあらばどのような手でも提案する。それは曲げないからな」

 

「うん!それでもいいよ。ねえ、愛紗ちゃん、鈴々ちゃん」

 

「…桃香様がそれで良いのであれば」

 

「お姉ちゃんに従うのだ」

 

「うん、これで決まり!!」

 

 劉備軍の諍いは一応これで治まったかに見えた。しかし…

 

(姜維をこのままにしておいてはいつか桃香様の想いと志に傷をつけることになりかねん…何とかせねば)

 

(軍師として名を上げるにはやはりこのまま劉備殿の下にいるしかないか…しかしこのままでは私は

 

 軍の中に居場所を失う。ならば、私の手足となって動く将兵を作らねば…私がこの大陸に名を成す

 

 為にも…しかし、関羽がそれを黙って見ているわけがない。さて、それをどうするべきか…)

 

 軍の筆頭である関羽と軍師である姜維。二人の間にはもはや埋め難き溝が出来ていたのである。

 

 それが劉備軍の行く先にどのような影を落とすのか、まだ誰も知らない……。

 

 

 

                                  

 

                                           ……続く。

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 

 

 mokiti1976-2010です。

 

 今回も投稿が少し遅れまして申し訳ございません。

 

 さて、今回は黄巾党の攻略と劉備軍の内部に生じ始めた軋轢をお送りしました。

 

 次回は投降した張三姉妹と波才の処遇と黄巾党のその後をお送りする予定です。

 

 ようやく黄巾編の決着が見えてきました…。

 

 

 それでは次回、外史編ノ十四でお会いいたしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 追伸 本当は今回で張三姉妹の処遇まで書きたかったのですが、うまく繋げられなかったので

 

    次回になります。ちなみに雛里は水鏡先生と一緒にお留守番です。

 

 

 


 
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