No.423769

真・恋姫†無双~覇王を育てた男~曹嵩編(プロローグ)5

TAPEtさん

プロローグの終わりです。
本編があるかは判りません。

2012-05-16 17:15:34 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:4690   閲覧ユーザー数:3940

屋敷から逃げ出して一週間、俺と曹嵩は徐州の大都市である下邳に到着した。

曹騰にバレる危険性を考えると、こんなところより小さな街がいいのではないかと曹嵩に言ったのだが、

 

「隠れているだけではダメよ。こっちからも情報を集められる場所じゃなきゃ意味がないわ」

 

彼女には夢があった。

単に逃げるだけではその夢に届くことはできなかったのだろう。

 

俺は彼女の夢を尊く思う。

彼女のためならどんなことも出来ると思っている。

 

 

 

 

下邳に来て最初にやったことは、住む家を探すことだった。

『宿屋』ではなく、ここで過ごすための家。

曹嵩は庭が付いた街の平均より少し大きめな家を選んだ。

理由を聞くと、庭で子供たちに剣術を教えるつもりらしい。

金は屋敷から持ってきたのがたくさんあったが、家を買うことに半分ぐらいは使った上に、収入源がまったくないということも相当きつかった。

彼女が剣術を教えて、俺はそれに兼ねて精神修練や基礎体力づくりなどの雑な仕事に回ることになった。

 

でも、それ以前にやらなければいけないことがあった。

そう、曹嵩と俺の本当の姿を隠すことだった。

 

「名前はなんとか出来るけど、さすがに姿で気づかれやすいわ」

 

俺がこの世界に来た時は、平常服だった。それはつまり元の世界の平常服という意味であり、この世界の服の質感ではない。

それで曹嵩はこの世界で着る服を幾つか新しく買った。自分はその3倍以上の数の服を買うところがやっぱり女の子だった。それを持つ人の立場にもなってみてほしい。

 

次に名前だが、曹嵩は以前使っていた『夏侯』の姓を使うことにした。

俺に関しては特に思い当たるところがなかったので、そのままの名前で行った。街の人たちには、遠い所の異民族出身だと説明した。あながち嘘でもない。

 

そして最後にだが…

 

「本当に良いのか」

「良いって言ってるでしょ?やっちゃいなさい」

 

曹嵩は最初は服を染色する時に使う染料で自分の髪を染めようとした。でも服に使うものなんて人の髪に使ったらどんな悪影響があるかわかったものじゃない。

それで、彼女はクルクルなのを外したら腰にまでくるその髪を切ることにした。

 

「本当にやるぞ」

「さっさとやってよ。私まで戸惑っちゃうじゃない」

「別に髪でバレるぐらいだったらこの都市に隠れる意味ないだろ」

 

俺は彼女の頸の後ろ辺りではさみを握りながら言っていた。

ここまで僕が言うのは、俺自身だって彼女の髪が気に入ってたせいもあったし、切った後に彼女に文句を言われることもちょっと怖かったりもした。

 

「……貸しなさい」

 

そしたら自分の決心が揺れるのが嫌になった曹嵩は俺からはさみを奪って自分からその長い髪を切った。

 

「あ」

 

曹嵩の髪の毛の半分以上が地面に落ちた。

そして十分ぐらい、彼女は自分の髪をなんとか整えた。

自分も、自らそう髪を扱うのが初めてだったため、切った髪は更に短くなって、終わった頃にかなりボーイッシュな形となった。

 

「……ど、どう?」

 

はさみを下ろして俺の方を振り向いた曹嵩はおそるおそるそう聞いた。

俺は昔の方がもっと綺麗だと思っていた。

でも、そんなこと言ったら彼女が傷つくだろ。

 

「今のお前にはぴったりなんじゃないか?」

「今の私って何よ」

「もう城に閉じ込められて王子を待つだけのお姫様じゃない的な意味で……」

「…良く判らないけど、似合わないとは言ってないみたいね」

「お前は素がいいからな。髪型ちょっと変わった所で振り向く男の数が減ったりはしないだろ」

「…馬鹿」

 

 

 

 

道場は大体子供たちにタダで剣術を教えることがメインとなっていた。

元の世界だと子供たちにも精神修養も兼ねて剣道を教える親も居たが、この時代では余計に子供にそんなことを吹き入れる方が危険だと思う人も多いらしい。

代わりに健気な男の子たちが遊び半分の心で集まってきたので、時間が余ったら相手をしてあげるぐらいにはなった。

 

それに比べて収入の対象になったのは若い人たちだった。

徴兵はされていない普通の浪人の若者たちだったが、いつ徴兵されて戦争に出るか知らない世の中で、自分の身を守るために武術を学ぼうとしている人たちも(そう多くはなかったが))居た。

 

ぶっちゃけ収入とは言うものの、道場だけでは赤字で、最初は屋敷から持ってきた財宝などを売って生活した。

財政が潤ってきたのは、俺たちの噂を聞いた徐州のある官吏が、刺史の陶謙に俺たちのことを薦挙してからだった。

陶謙は曹嵩に兵たちの鍛錬を頼んだ。

最初は将として受け入れるつもりだったらしいが、曹嵩はそれを断って、定期的に城に行って兵を鍛錬させる任を任された。

 

「なんで将にならなかったんだ?」

 

と聞いたら、

 

「冗談でしょ?誰かの下に付くなんてお断りよ。しかもあんなジジイの下にね」

 

と答えた。

プライドだけは相変わらずのようだ。

 

「後、将になんてなったらあんたと一緒に居る時間減っちゃうし」

「なんか言った?」

「何も…それより、あんたは最近調子はどうなの?」

「あ?ああ…まあまあかな」

 

曹嵩が言っているのは俺の勉強のことだった。

主に読み書きの勉強の問題だった。

自分なりには、曹嵩が教えてくれたもの以外にも自主的に頑張ってるつもりだが、正直うまくなっているかどうかは微妙だ。

 

「何か本屋で本を買って読んだらどうなの?小説とか」

「小説か……この時代だとな…どうだが」

 

昔の中国の小説となると、どうも文厚い割にはそれ程面白くない…というより描写とかがすごく難しいからあまり読む気にならない。

 

「お前が一緒に行って選んでくれよ。俺だけじゃ良く判らないし」

「そ、そうね…じゃあ来週に道場は開かずに出かけましょうか」

「いや、別に本屋行くぐらいで道場閉じなくても…」

「最近ずっと休んでないでしょ?休みも兼ねてるのよ!」

「怒んなよ…」

 

未だに曹嵩の怒るツボは良くわからなかった。

 

 

後で知ったことだが、来週の曹嵩が言ったその日は、街に祭りの日だった。

そして、偶然にもこの日は、俺たちが徐州に来て丁度一年になる日だった。

 

「ほら、行くわよ」

「おい、おい、早いって。引っ張るなよ」

 

街は盛り上がっていて、曹嵩のテンションもいつもより高かった。俺のテンションもやや上がってたが、曹嵩は朝から何か準備していて、完全にノリノリだった。

この祭りの趣旨だが、収穫祭らしい。べつに豊作だったわけではないようだが、ここ最近ずっと凶作が続いてたようで、ちょっと無理をしてでも祝うことにしたらしい。人は嬉しくなくても嬉しいことを作ってでも嬉しくならなければ死んでしまう生き物なのだ。

 

街はとても賑やかで、いろんな所で色んなものが売ってあった。

俺の手を掴んであっちこっちを見て回った曹嵩もそういう売り物たちを見ながら、ふとある場所で目が止まった。

 

「?」

「……」

 

曹嵩の目線を追っていくと、そこには蝶の模様の髪飾りがあった。

鉄糸と曹嵩の瞳のような青色に染めたガラスで羽を作った蝶は、太陽の光を反射してすごく綺麗に輝いていた。

曹嵩の目はそこに止まって動かなかった。

 

「…買ったら?」

「…要らないわよ」

 

曹嵩は、髪を切った以来髪飾りなんてしてなかった。

屋敷に居た頃は色んな髪飾りをしていたが、髪を切った後、曹嵩は持ってきた物の中で髪飾りたちを優先的に売り払った。

 

「買えよ」

「要らないって言ってるでしょ?私は…」

「じゃあ良いよ。俺が買うから…」

「え?」

 

俺はそう言って店の人にお金を出した。

 

「ちょっと、何勝手な事……」

「俺がお前飾ってるの見たいんだよ」

 

俺はそう言って止まっている曹嵩にいまさっき買った蝶の髪飾りを付けた。

 

「ほら、似合ってるじゃん。な、店主」

「良く似あってますわよ、奥さん」

「………」

 

曹嵩は不満そうな顔をしていたが、店主が差し出した鏡に映った自分の姿をしばらく見てたら…

 

「…本当に似合ってる?」

「ああ」

「お世辞じゃなくて…」

「俺がいつお前にお世辞で綺麗だと言ったか?」

「…馬鹿」

 

曹嵩はそういつものように言って鏡を店主に返した。

 

「いいわ、付けてってあげる」

「態度でかいな……」

「何よ、文句あるの?」

「いえ、ありません、奥さん」

「……」

「ほら、行くぞ」

「待って、他に行く所があるわ」

「あ?ああ……」

 

そうやって曹嵩は俺を祭りの群れから離れた所に連れていった。

 

 

 

そこは普段なら涼しくて綺麗な川があって、良く鍛錬の後子供たちと一緒に遊びに来ている川の近くだった。

今日は街で祭りがあるせいで、人はまったく居ない。

 

「ここで何を……」

 

そう言って俺が振り向いた途端、突然曹嵩が唇を重ねてきた。

「!」

 

驚いた俺は一瞬後ろに足を踏んだが、後ろが見えていない状態で踏み入れたせいで姿勢を崩した。俺が川の方へ倒れると曹嵩もそれに付いて川に落ちてしまった。

 

「ぶはーっ、何落ちてるのよ」

「お前こそ何いきなりキスしてんだよ」

 

今まで夫婦だと振る舞ってきたが、実際には一緒の部屋でも寝るのは別々だったし、やましいこともしてなかった。キスも今回が初めてだった。

 

「何よ、嫌だったわけ?」

「嫌とかじゃなくて…いきなりすぎ…」

「じゃあ、いいよね?」

「え」

 

そう言って、濡れたことも構わず、曹嵩は再び濡れた体で俺の顔に手を這い寄らせて口付けをした。

二度目まではさすがに驚きもせず、俺はそれに応えた。

やりたくなくてやらなかったわけではなかった。いつも隣に居る美しいその姿を見ていると、男としての自分を抑えることに精一杯だった。

 

「んちゅっ……むぅ……ん…」

「……んぅっ…」

 

でも、何でだったのだろう。

何で俺は一度もその線を越えなかったのだろう。

それ程曹嵩のことを大切に思っていたのだとしたら口では良い。

俺は単にヘタレだったのかもしれない。

そうする程の勇気がなかったのだ。

その点からすると、曹嵩はさすがに英雄だった。

 

「ぷはぁ……」

「はぁ…はぁ…」

 

キスが終わった頃は水の中だと言うのに、体はすっかり火照ってきた。

 

「お前、いきなりなんだよ?」

「お礼よ」

「お礼?なんの、髪飾りか?」

「違うわよ…まぁ、それも兼ねても良いけど」

 

水玉が付いた髪飾りは、さっきより更に曹嵩を美しくしていた。

それともキスした直後なせいでそう見えてるのかもしれない。

 

「そろそろ一年になるわよ。あなたとこうしてきたの」

「…そうだな。…って今更そんなこと言うのか?」

「仕方ないでしょ?あなたが何もしてこないのだから。それでも男なの?実はあなたも宦官なんじゃないの?」

「おいふざけんな」

 

その侮辱だけは黙っていられない。

 

「冗談よ。わかってるわよ。あなたが私のことを大切にしてきてくれたのは…」

「……」

「でも、さすがに一年もご無沙汰だと私も自信失くしちゃうわよ?もう私のこと女に見ていないんじゃないかって」

「…その言い方、こっそりお前に返してやるよ」

「どういうこと?」

 

そろそろ水の中に居るのが寒くなって、俺は川の外に出て曹嵩も引っ張りだした。

 

「お前、俺に真名教えないだろ」

「……」

「昔椎花に聞いたんだよ。この世界の風習。大事な人にしか呼ぶことを許さない名があるって…お前、一度も言ったことないだろ」

「…椎花にだってソレで呼ぶことは許してないわ」

「そうだったな」

 

確かに椎花が曹嵩のことを他の名で呼ぶことは見たことない。

 

「…知りたいの?私の真名」

「知りたい。当たり前だろ」

「……」

 

曹嵩は戸惑っているみたいだった。

その様子だけでも十分俺の要求の答えには出来ていた。

 

「…ほら、帰るぞ」

「待って、話すから」

「別に言わなくても良い。というか、今話すな」

「何で…」

「俺が無理矢理言えって言ったみたいじゃないか。そんな感じで聞かれたくはない」

「………」

 

ちょっとまずかったかもしれない。

でも、本当のことだった。

 

「取り敢えず、家に帰って服を着替えよう。それからまた街に出かけようぜ」

「……ええ」

 

 

家に戻って着替えて、ちょっと休んでまたアレコレやっていたら日がどんどん暮れてくる頃、街の広場で街の人たちが踊り始めた。

格式のある踊りではなく、単に皆で手を繋いでぐるぐると回るそんな踊り。

でもそこには活気があった。祭りは成功のようだ。

 

「俺たちも行くか」

「嫌よ、あんなのは苦手なのよ…」

 

曹嵩は人前で踊ることが嫌みたいだった。

 

「まあ、踊れないなら別に良いが」

「……誰が踊れないって言ったの?」

「え?嫌」

「あんた、ちょっと家から剣持って来なさいよ」

「何でだよ」

「いいから、二本持ってきて」

 

俺は彼女の言う通り、直ぐに家に戻って剣を二本持ってきた。

曹嵩はそのうちに一本を持って広場の中に飛び込んだ。

その時、曹嵩が既にお願いしていたらしく、音楽が変わり、踊っていた人たちの目が曹嵩に集まった。

 

剣を持った曹嵩は踊り始めた。

そう、剣舞だ。

剣舞を始めるとまるで街中が彼女を中心に回るかのように、彼女だけが動いていた。

 

そしてふと踊る彼女の目が俺に向かっているという事に気づいた俺は、俺持っていたもう一本の剣の意味を自覚した。

 

俺が曹嵩に合わせて剣を動かし始めると、剣舞はどんどん激しくなった。

お互いの剣が混ざり合う度に、人々は声をあげた。

音楽が早くなっていくと俺たちの動きもどんどん激しさを増していく。

合わせてみたこともない、行き当たりばったりの剣舞、一歩間違えれば大怪我ものなのだが、一年も続いた彼女との年月は飾りではなかった。

 

どんどん情熱的になっていった音楽が終わる頃、俺たちは互いが汗を流す姿を見ながら、人々の喝采を浴びた。

 

「……」

「……」

 

俺も何も言わなかったし、曹嵩も何も話すことはなかった。

でも、互いに確かに感じるものはあった。

俺たちは今、互いをこの世で一番良く知っている人の前に立っていた。

 

 

 

 

そしてその夜、俺は先に部屋に戻って寝床で仰向きになって考え事をしていた。

そしてたら曹嵩がお風呂を済ませて部屋に入ってきた。

俺は何も考えず曹嵩が自分の寝床に向かうと思った。

でも、彼女が俺の寝床に向かって腰を下ろしたことに気づいて彼女の方を見た。

 

「な、何だ?」

「何だ、とは何よ」

 

言っておくが、今まで一度もこんなことはなかった。

 

「…ねえ、一刀」

「何だ?」

「鈴琳(レイリン)よ」

「……え?」

「私の真名」

「…お前」

「椎花がなんと言ってたかは知らないけどね、一刀」

 

曹嵩は俺にどんどん近づいてそう言った。

 

「親や兄弟以外の異性に真名を預けるのは、その人が自分の人生に置いて『一番大切な存在』だと認めることなのよ」

「……!」

「どういう意味か分かる?」

「……ああ」

「責任、取りなさいよ」

「取るさ。一生賭けて」

 

俺は今度は自分から曹嵩、いや、鈴琳に口付けした。

それからは互いに気を失うまで夜中互いを求め合った。

 

「愛してるよ、一刀」

「ああ、俺も愛してる、鈴琳」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その次の日の昼遅く目を覚ました時、鈴琳の姿は徐州から消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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