No.422195

真・恋姫✝無双 ~天下争乱、久遠胡蝶の章~ 第四章 蒼麗再臨   第十話

茶々さん

相変わらずの低クオリティな戦闘描写です。

2012-05-13 10:29:38 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2217   閲覧ユーザー数:2004

 

 

広宗の駐屯地では、既に各陣が慌ただしく動き回り、出陣の時を今や遅しと待ち構えている。

 

 

「一刀……支度は整ったぞ」

「ああ…………えっと、大丈夫か?」

 

 

注視せずとも分かる程、司馬懿の目の下には隈が出来ていた。よくよく見やれば、顔も何処か青ざめてげっそりしている様に見えなくもない。

 

 

「ふ、ふふふ……大事ない。ああ、大事ないとも」

「ちゅ、仲達……?」

「別に朝から朱里と話していない事も視線がそれとなく逸らされるのも伝達事項を雛里に仲介して貰わなければならない事も軍全体に支障をきたす様な事態ではないああ大事ないとも無論だ無用な心配だ無問題だ」

 

 

ブツブツと呪詛を吐き散らす様に呟く司馬懿は、背中にどす黒い瘴気染みた何かを背負っている様に見える。

 

相当参っている様だった。

 

 

「大体何なんだアイツは事あるごとに僕にくっついては朱里にあらぬ誤解を招く様な戯言を次から次へと何だというのだ一体何処かで会った事でもあるのかいや僕の記憶にはないというに……」

 

 

虚ろな様相でゆらゆらと頼りなく歩く司馬懿を隣に、俺はぐるりと陣容を見渡した。

 

これから始まる戦を、そこかしこで最後の調整が行われている。

 

 

隊列を組み、槍捌きを確かめる者

自軍の副将にあれこれと指示を飛ばす者。

人の群れを避けて、一人武器を手入れする者。

 

 

と、そんな中でふと、白一色で染め上げられた騎馬隊が視界に飛び込んできた。

 

 

「なぁ仲達、あれは?」

「朱里に何と言ったモノか…………ん?ああ、あれか。白馬に『公』の旗、であれば幽州の公孫瓉だろうな。僕らと共に右翼の攻撃部隊を任されている」

「公孫瓉……って事は、劉備の陣営も此処か」

「…………この間から気になっていたのだが、その『劉備』とかいう者はそれ程の大器なのか?配下の関羽であれば、確かに傍目に見ても相当な武人である事は窺えるが……」

 

 

先日、俺が倒れた際に僅かばかり言葉を交わしたらしい仲達が訝しげに眉を顰めた。

 

 

劉備玄徳。

以前の外史でも――そして或いは、この外史でも――三国の一角を担う人物。余りにも大きな理想を抱き、しかしそれに押しつぶされる事無く蜀を打ちたてた、稀代の仁君。

 

 

最も、今は名も無い義勇軍の長に過ぎないが。

 

 

「君の知識を疑う訳ではないが、全てがその知識のままに推移するとは考えにくい。第一、僕らの行い全てが定められた事である等と、信じろと云う方が無理な話だ」

 

 

無論、仲達には俺が知る限りの三国志の情報を話してある。

この“黄巾の乱”が、群雄割拠の戦国乱世を招く前夜祭に過ぎないという事も含めて、だ。

 

 

それに対して、仲達の反応は実に冷やかだった。

俺の住んでいた世界における技術や知識にはかなりの好感触だったのに対し、この時代の人物や事件に関しては参考程度に留め置く、とでも言いたげなくらいに反応が薄い。

 

 

何時だったか、華琳にも似た様な事を言われた気がした。『未来を定めるのは天ではなく人である』…………だったか。俺の知る人物と、目の前にいる人物が必ずしも一致した行動をとるとは限らない。ましてや、司馬懿と諸葛亮と鳳統が手を組むとかそれどんな無理ゲーという話である。

 

まぁ、何はともあれ。

 

 

「とりあえず同じ戦線で戦うんだし、挨拶の一つもしとかないとな」

「ああ…………最も、また倒れたりしてくれるなよ?肉体労働は、僕の専門外なんだからな」

 

 

肩を竦める様にそう言った仲達に、俺は苦笑を浮かべた。

 

 

 

衛兵に挨拶の旨を伝えると、思いのほか簡単に目通りが叶った。

 

連れられ、訪れた天幕の前では公孫瓉と劉備、それに劉備配下の関羽と張飛が談笑していた。

 

 

「おっ、噂をすれば……だな」

 

 

此方を一番にみやった女性―――幽州にその名の知られた白馬義従の長、公孫瓉は人当たりの良い笑顔を浮かべた。

 

 

「桃香、此方が『天救義志』軍の北郷殿だ」

「は、初めまして。劉備、字は玄徳と申します」

 

 

公孫瓉の隣に立つ桃色の髪の女性―――誰と見間違う筈もない劉備その人が礼をとると、その後ろに控えていた黒髪の女性、関羽もまた礼をとった。

 

 

「にゃ?お兄ちゃんが『天の御遣い』って人なのか?」

「こ、こら鈴々!失礼だぞ」

 

 

身の丈の倍はあろうかという蛇棒を手に俺の顔を覗きこんでくる少女―――張飛の姿に、慌てた様に関羽がその首根っこを捕まえて頭を下げさせる。

 

 

「此方は私と同門の出の劉備と、その義姉妹の関羽、張飛だ」

「初めまして」

「……お初にお目にかかる」

 

 

軽く挨拶した俺を咎める様な視線を向けつつ、仲達もまたしっかりと礼をとった。

初対面の筈なのに、その表情は何処か硬い。嘗ての記憶はない筈なのに……まるで不倶戴天の仇を見る様に、その顔は強張っていた。

 

 

「……どうかなされたのか?何やら、随分と顔色が優れぬ様子だが」

「心配御無用。僕らの仕事は戦場を見渡す事、前線で剣戟を交わす貴殿らに比べれば、瑣末事に過ぎぬ」

 

 

暗に「首を突っ込むな」とでも言いたげに仲達が言い放つと、何処か腑に落ちない様子ながらも関羽は言葉を呑みこんだ。

 

何処となく剣呑となった場を和ます様に、公孫瓉が口を開く。

 

 

「ま、まぁ此処にいる関羽や張飛は私もその武勇を見知っているし、北郷殿の配下にも音に聞こえた超雲や徐晃がいるんだ。此方の方面は制圧したも同然だな。勿論、油断は禁物だが」

「そ、そうだよね!パイパイちゃんの言う通りだよ」

「いやだから白蓮(ぱいれん)だって!いい加減覚えろよ桃香?」

 

 

計算なのか天然なのか――多分後者だろうが――良く分からない劉備のボケに見事なツッコミを返した公孫瓉の姿に軽く笑みを浮かべつつ、俺は踵を返した。

 

 

「じゃ、お互い無事に生き残ったらまた会おうか」

「ああ。武運を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠のいていく背中を眺めながら、白蓮はふと隣に立つ桃香を見た。

 

 

「……桃香?」

「ふぇ!?な、何?白蓮ちゃん」

 

 

白蓮の呼びかけに、桃香は驚いた様な声を上げる。まるで先程から心此処に在らず、とでも言いたげな程に上擦った声音だった。

 

 

「いや、何か食い入る様に見てるからてっきり知り合いか何かなのかなぁって」

 

 

憶測でしかない白蓮の言葉に、しかし桃香は僅かに言い淀んだ。

 

 

「……ううん。知らない、筈だけど…………」

 

 

桃香は視線を上げ、二人の消えた跡を見つめた。

記憶の端に一瞬蘇った光景を掻き消す様に、普段の彼女からは想像も出来ない程に神妙な面持ちで。

 

 

「…………違うよね?そんな筈……」

 

 

あり得る筈がない、と思っていても。

桃香は結局、その疑念を振り切る事は出来なかった。

 

 

 

「全軍、突撃ィ!!」

 

 

大天幕からの号令一下、左右両翼の分隊と中央の本隊が一斉に突撃を開始した。

右翼の先鋒を往くのは“白馬義従”で名高い公孫瓉の白馬の騎兵隊と、脚の早い徒歩を率いる星の部隊である。

 

 

左翼の先鋒は孫策。中央では黒一色で統一された曹操の部隊がそれぞれ攻撃を仕掛けていた。他の諸侯も我先にと続くが、練度の違いからかその行軍速度にはかなりの差があった。

 

 

「雑兵は下がれ!我が龍牙と打ち合うは、勇者のみで良い!!」

 

 

大音声を張り上げる星は、誰よりも早く麓の敵軍へと喰らいついた。

山麓に砦を築いて陣取った黄巾賊は、その威勢に気圧された様にたじろぐ。

 

 

「ひ、怯むんじゃねぇっ!相手はこっちより数が少ねぇんだ、囲んで討ち取れ!」

 

 

統一性がないながらも、各々に武器を構えた男達が星に襲いかかる。

が、その横腹を抉る様に銀閃が閃いたかと思えば、一瞬にして十を超える男達が吹き飛ばされていた。

 

 

「全く、随分と勇み立っているな!」

 

 

艶やかな黒髪を棚引かせ、世に二つとない青龍偃月刀を振りかざすその様は、正しく後世にもその名を轟かせる軍神。

 

 

「わが名は関羽!劉玄徳が一の刃と相成りて、官匪匪賊を打ち倒してくれる!」

 

 

雷鳴の如き雄叫びに応える様に、偃月刀が音を立てて唸り、血飛沫を巻きあげた。

 

 

「う、うわぁああぁぁあぁぁあ!!」

「ひっ!い、いやだ!死にたく……うぎゃあぁぁあぁあ!!」

 

 

どれだけ数が多かろうと――いや、今回の場合は数が多いからこそ――所詮は寄せ集めの集団だけあって、恐怖が伝播するのは実に早い。

 

 

 

瞬く間に数十近い屍を周囲に築いた二人は、背中合わせに言葉を交わした。

 

 

「お主、中々達者な腕前の様だな」

「そういう貴様こそ」

 

 

どちらともなく笑い合う――――――その時、大地を揺るがす様な地響きが二人の耳朶を打った。

 

 

「っ!?」

「な、何だ……っ!?」

 

 

地響きのする方へ顔を上げた二人は、次の瞬間その表情を凍りつかせる。

 

 

 

無数の岩石が、唸りを上げて転がり落ちてきた。

 

 

 

 

 


 
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