No.41981

せかい(風のタクト)

三上空太さん

リンクと赤獅子の王。保護者的な関係が好き。

2008-11-16 17:33:21 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:859   閲覧ユーザー数:774

暗い洞穴から外に出ると、太陽の光が眩しくて思わず目を細めた。

青と白と、その境にぽつんと赤い色が滲んで見える。

リンクは白い砂浜に、大きく弧を描くように足跡を付けて駆け寄った。

 

赤獅子の王――つまりは舟だ。本当は王様なんだけど、今は舟。

なんでまた舟なんだろうと思ったことがある。不思議に思ったから、リンクは直接本人に聞いてみた。

 

赤獅子の王はこちらに向けていた顔をくるりと前に戻すと、一言うーんと呟いてから答えた。

目を離すと、すぐにどこかへ遊びに行ってしまうお前を乗せて運ぶには便利だろう――と。

 

 

確かに便利だ。それにとても良く目立つ色をしている。

リンクがふらふらと興味の向くままに島中を探検して迷子になりかけても、ちょっと視線を海の方へ向ければ小さな赤い舟をすぐに見つけることができた。

 

リンクは赤獅子の王に近づくと、大きな目でまじまじと見上げた。

大きさの割には安定感のある船体に、赤と黄色で彩られた獅子の頭。

言われてみれば、どことなく人間だった頃の面影がある。派手な頭飾りは「王冠」だと思えなくもない。

――というところでリンクはふと考えた。

 

海の底へ沈んだ王国。

ハイラルという名の国はとても美しいところだったと聞く。

草原は見渡す限り続き、デクの樹さまが守る森は海よりも深く、山と湖には今はいない種族が住んでいたらしい。

 

リンクは知らない。

 

彼の世界の全ては小さな島々と、空のはじっこまで続く大海原だった。

だけど、こうも思う。

 

自分と、自分を取り巻く世界が不幸だったことなんてなかった。

 

上手く言葉にならなくて、ようやっと考えた末。しかめっ面からくるりと表情を変え、次の島が楽しみだと言ったら。

 

「ならば、早く乗りなさい」

獅子の口がリンクの首根っこをくわえ、真っ赤な船体へ放り投げられてしまった。

 

END


 
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