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勇神伝説 第6章 恐怖神サイクロード

スーサンさん

実に久しぶりな更新です。サイトじゃ、もうとっくに終わってるのに……

2012-05-02 09:41:20 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:430   閲覧ユーザー数:425

「よぅ、ザムジードはどうしたんだ?」

 ゲイジャードに声をかけられファイファルは鬱陶しそうに返事した。

「今、調整中じゃ……思いのほか、ガイアストームにやられた傷が深いようじゃからの?」

「ケッ……情けねー奴だぜ!?」

「そういう、お前もフルアーマーがなければ、奴らに勝てぬことを忘れるなよ?」

「ケッ……嫌味な、爺さんだぜ!」

「それよりも……」

 顎鬚を撫でながら、目を吊り上げた。

「死んだアルティミスタの情報を探ったら、どうやら奴は全ての勇神が誰を憑依したかをわかっていたらしい……」

「なに、それって、俺たちにとってかなり有利な情報じゃねーか!? なんで黙ってたんだよ!?」

「あやつは、自分の目的で動いていた、幼帝魔王様のためには一切、動いたことはない」

「ケッ……生き別れの妹に会うか? 生き別れになった原因と同僚になってまで探すことか?」

「……お主は暴れられれば、それでいいからの?」

「なにがいいたいんだ、ジジィ?」

「……ふん」

 言葉を濁すように老人は二枚の紙をゲイジャードに投げ渡した。

「あやつが残した資料はそれだけじゃった……」

「へぇ~~……こいつらが、残りの勇神か?」

「そやつらのうち、今、一人が復活しようとしている……阻止しろ!」

「ビビッてるのかよ?」

「無駄口を叩く暇があるなら、その娘を始末しろ」

 

 

第四章『恐怖神サイクロード』

 

 

「大ちゃ~~ん♪ こっちの卵焼きのほうが美味しいよ?」

「お兄ちゃ~~ん♪ こっちの卵焼きのほうが美味しいよ?」

「……」

 二人の美少女(高校生と小学生)に囲まれ、大助はダラダラと嫌な汗をかいていた。

 な、なんでこうなったんだろう。

 自分がアラシードになった日……

 その日、偶然、助けた少女――渚に気に入られ、毎日、朝食を作ってくれる事になった。

 それが壮絶な女の戦いの始まりでもあった……

「ささっ……クルミのダシの利いた卵焼き食べて!」

「違うよ! 卵焼きは甘くなきゃ……さあ、お兄ちゃん食べて♪」

「……」

 大助はテーブルの上のものを見て、ため息を吐きたくなった。

 卵焼き以外、ご飯すらない……

 卓上に二皿並べられた卵焼きの匂いに大助はますます泣きたくなった。

 うまそうな匂いがするな?

 でも、炭水化物がほしい……

「……」

 そっとクルミのほうを向いた。

「えへ♪」

 満面の笑顔が返され、ゆっくり、渚のほうを見た。

「えへへ♪」

 渚もテレたような笑みを浮かべ、自分の卵焼きを差し出した。

(両方勝ちじゃダメだろうか?)

《そんな事、女が許すわけないだろう?》

「ッ!?」

 突然、アラシードに声をかけられ、ビクッとした。

「ど、どうしたの、大ちゃん……凄い顔して!?」

「い、いや、なんでもない」

 そっと二人に気付かれないように、大助は小声でアラシードに文句いった。

「いきなり話しかけるな……お化けと話してるようで怖いんだよ!」

《なんだ、その年でおばけが怖いのか?》

「お前自身が、おばけみたいなものだろうが!?」

《心外な! 正義と愛の戦士に向かって、その口の聞きかたは許せんな?》

「いいから、お前も、この状況を切り抜ける方法を考えろ!」

《素直にどっちの料理が旨いか判定すればいいだけの話だ。なにも難しいことはない!》

「テメェ、他人事だと思って、いい加減なこと言ってるだろう?」

《当たり前だ! 君の事情など、私の知ったことではない!》

「絶対、いつか泣かす……」

「どうしたの、大ちゃん? 早く食べてよ!」

「そうだよ、お兄ちゃん! 私のが美味しいって証明してよ!」

「ふ~~んだ……クルミのほうが大ちゃんの好みをたくさん知ってるもんね!」

「ふんっ! 私だって、これから知るもん!」

 火花が散り大助は泣き出しそうになった。

「マトモな朝食が食べたい……」

 

 

「ぷぅ~~……」

 不機嫌な顔でクルミは大助の前を歩いていた。

 後姿を眺めながら、大助は脂汗だらけの顔でクルミに声をかけた。

「クルミ、いい加減機嫌を直せよ……」

「だって!」

 クルリと振り返り、悔しそうに目を潤ませた。

「クルミ以外の女の子の食事、食べちゃダメって約束したのに……!?」

「仕方ないだろう……渚ちゃんを傷つけるわけにはいかないし?」

《女泣かせの名ゼリフだな……最終的にはどちらからも嫌われるんだよな?》

「お前は黙ってろ!」

「ひ、酷いよ大ちゃん……」

「あ……?」

 大助の顔が真っ青になった。

「確かにクルミもしつこかったけど、そんなに怒鳴ること無いのに……?」

 ジワジワ涙を流すクルミに大助は慌てて弁解した。

「ご、誤解だ!? 本当は……」

「もう知らない!」

 踵を返すようにクルミは走り出した。

「あ、待ってくれよ……クルミ!?」

 置き去りにされ、大助は滝のような涙を流した。

「なんで、こうなるの?」

《女好きだから?》

「貴様のせいだ!」

 

 

 学校につくと、大助は机の上で盛大に泣いていた。

「……いつに無く、情けない顔をしているな?」

「うん……吉永か?」

 顔を上げると大助は涙で緩んだ鼻をすすり、親友を見た。

「お前は自分の身体に悪霊が取り憑いて、毎日、語りかけられたら、どうする?」

「なに言ってるんだ、お前……?」

「いや……なんでもない」

「なんなんだ?」

《さぁ……?》

 吉永の中にいるサンフォーチュンも不思議そうに返答を返した。

《まぁ、青春は悩むためにあるというしな……ほかっといてやろう》

「それもそうだな……痛っ!?」

 左肩に鋭い激痛が走った。

《大丈夫か……吉永?》

「なんとかな……しかし、あれだけの強さでフルアーマーが未完成だなんて」

 自嘲するように笑った。

「神さまも罪な物を作るぜ?」

《現段階で、あのアーマーに打ち勝つのは不可能だろうな?》

「じゃあ、どうすればいいんだ?」

《こちらもそれ以上に強くなればいいだけの話だ》

「簡単に言ってくれる……」

《一つだけ手がある……我々と対となる勇神を復活させることだ!》

「対となる、勇神?」

《そうだ……光があれば、影があるように我々、勇神にも影というべき勇神がいる》

「影の勇神……」

《しかし、今、その勇神がどこで眠っているかわからない……仮にわかっても、その者が勇神として目覚めない限り意味が無い》

「目覚めればどうなるんだ?」

《我々は真の姿に……さらなる上の合体が可能になる》

「さらなる上の合体……痺れるぜ!?」

 しかし、サンフォーチュンの声はどこか沈んでいた。

《なんども言うようだが、今、私の対となる勇神がどこにいるかわかっていない……そう、転生神クリスブレイカーがどこにいるかを》

「……」

 吉永の脳裏にゲイジャードの下品な笑みが浮かび、拳が握られた。

 

 

 昼休みに入ると大助はなるべく愛想よく笑い、もみ手を組んだ。

「あ、あの……クルミちゃぁぁん? 僕のお昼のお弁当は?」

 プイッと顔を背けられ、慌てて位置を変えた。

「ねぇ~~ん……クルミちゃ~~~ん?」

 またプイッと目線を逸らされてしまい、大助は泣き出しそうになった。

「あれは誤解なんだよ……わかるよな?」

「……」

 一人で黙々と弁当を食べるクルミに大助は必死に弁解した。

「なぁ、頼むよクルミ……許してくれよ? せめて、お弁当だけでも譲って?」

「お弁当だけでも?」

 ギロッと睨まれ、大助は怯えたように返事を返した。

「い、いえ……クルミさん、許してください」

「ふんっ……」

「あ~~ん!」

 本気で泣き出す大助にクルミも少し可哀想かなと顔をしかめた。

 ぶるるっと首を横に振った。

 そんな事無いもん。

 これを機に、クルミが大ちゃんにとってどれだけ大切な存在かわからせてやるんだもん。

「なぁ、クルミ……」

『クルミという女はお前だな?』

「え……?」

 どこから聞こえる声に大助は声を上げた。

「ゲイジャード……どこにいる!?」

『貴様……なぜ、俺の名前を知っている?』

「……?」

《大助、ゲイジャードは直接、お前のことを知らないらしい》

「そうか……ゲイジャード、俺はお前のことを知っている……なんのようだ!?」

『お前に用はない。用があるのは……」

 クルミの身体を黒い霧が包み込んだ。

「クルミ!?」

 黒い霧に飲み込まれていくクルミに大助は急いで彼女の手を握ろうとした。

「ッ……!?」

 黒い霧が四散し、クルミの姿が消えた。

「クルミ……」

『三勇神告ぐ! 女を一人、人質に取った、返してほしければ、希望町にある裏山まで来い! 待っているぞ?』

 ゲイジャードの宣戦布告に大助はギリッと奥歯をかみ締めた。

《大助、これは罠だ……どうしても行く気か?》

「当たり前だ!? クルミが人質に取られたんだ……他を犠牲にしても絶対に助け出す!」

《……》

「もともと、俺はヒーローって柄じゃないんだ! 好きな人を守れればそれでいいんだ》

《いい答えだ》

「止めないのか?」

《止めて聞くのか?》

「ありがとう……」

 大助の姿も教室から光とともにきた。

 

 

 平らに削り取られた山を椅子のように座り、、ゲイジャードは愉快そうに笑った。

「これで、後は勇神がくれば、問題はないな?」

 背後でそびえ立つ巨大な十字架にゲイジャードはゲラゲラ笑った。

「簡単なもんだぜ、こんな女を奪えば、簡単に勇神を呼び出せるんだからな?」

 巨大な十字架の真ん中に貼り付けられたクルミは息苦しそうにゲイジャードを睨んだ。

 大ちゃん……

「クククッ……さて、三勇神は来るかな?」

『なぜ、このような無駄なことをするのじゃ?』

「うん、ファイファルか?」

 頭の中に響く、ファイファルの声にゲイジャードは忌々しそうに唾を吐いた。

「あいつらには借りがあるからな……その借りを返すまで、こいつは囮だ!」

『しかし、忘れるな? その女は勇神を身体に眠らせている。もし、復活したら……』

「関係ねー……復活しても、フルアーマーの俺に勝てるわけがねーだろう?」

『……ただ暴れるだけならサルでも出来るぞ?』

「なにが言いたい!?」

『目的を忘れるな! 貴様は光滅四天王なのだからな……その事を忘れるな?』

「チッ……いけ好かねージジィだぜ!」

『お前のためを思って言ってるのだ。目的もなく、ただ暴れるだけなら、アルティミスタにすら劣る』

「俺を、あんな奴と一緒にするな!」

『どうやら、お前と議論も終わりらしいな?』

「そのようだ……三勇神が来たな?」

 上空から強い光が三つ瞬くと影が三つ地響きを上げ、大地に着地した。

「勇気神アラシード!」

「運命神サンフォーチュン!」

「救世神ガイアストーム!」

 剣を握り締め、三体の勇神はゲイジャードを睨んだ。

「我ら、三勇神!」

「……」

 十字架に張りつけられたクルミを認め、アラシードは怒気を上げた。

「貴様……豪将といわれたものが人質をとるとはな!?」

「それがどうした? 相変わらず、人間に思い入れの強い奴だな、アラシード?」

 剣を構え、アラシードは歩き出した。

「貴様を倒し、クルミを取り返す……いくぞ!」

「来い、三勇神!」

 空高くジャンプし、アラシードは手に持った勇気剣を振り下ろした。

(やるなら、フルアーマーを装着してない今だ!)

「必殺……大光断!」

 アラシードの剣がゲイジャードの脳天を切り裂こうとし、跳ね返された。

「なにっ!?」

 勇気剣を受け止められ、アラシードは空中で身体を止めた。

「ふっ……」

 回転するようにアラシードの身体を蹴り飛ばした。

「グッ……!?」

 大地をえぐるように蹴り飛ばされ、アラシードの身体が倒れた。

「クククッ……弱いぞ、勇気神?」

「後ろが、ガラ空きだ!」

「……!?」

 鞘に収められた運命剣を抜き放ち、ゲイジャードの横っ腹を切り裂こうとした。

「斬光閃!」

「甘いわ!」

 勇気剣同様、弾き返され、サンフォーチュンは信じられない声で叫んだ。

「肉体からフルアーマーが飛び出した!?」

 銀色の鎧に包まれた背中を見つめ、ガイアストームも忌々しそうに呟いた。

「これが、フルアーマーの完成型!?」

 驚きを隠せないガイアストームにゲイジャードは大きく笑った。

「これが、更に進んだフルアーマー形態よ! 身体の皮膚と鎧を融合させることにより、より完成度の高いアーマーへと昇華した!」

「こ、これが完成型……」

 動揺するサンフォーチュンにゲイジャードは指を揺らした。

「これはまだ未完成品よ……本物が完成すれば、お前たちなど、石ころも同然!」

「……クッ!?」

 救世剣を上空でクロスさせ、ガイアストームは刀身にエネルギーを溜めた。

「だが、それには欠陥がある! 鎧が出る前に、お前を切り刻めばいいだけの話!」

 クロスに組んだ救世剣をゲイジャードに向かって無数に斬り回した。

「演舞剣・怒涛の舞!」

「ぬおっ!?」

 無数に迫り来る、救世剣の嵐にゲイジャードは目を見開いた。

「な~~~んちゃって?」

「な……!?」

 ゲイジャードの身体に光が包まれ、大きな爆発を起こした。

「グッ!」

 爆風に飲み込まれ、空中に吹き飛ばされたガイアストームは体勢を持ち直し、大地に着地した。

「フルアーマーに欠点など無い!」

 爆風の煙がやみゲイジャードは銀色の身体を誇るように筋肉を盛り上げた。

「こうやって、随時鎧を纏えばいいだけの話なのだからな?」

 身体全体に鎧を包み込んだゲイジャードは手の平に光を作り、後ろの十字架に向かって投げつけた。

「面白いゲームを始めよう?」

 放れた光が背後の十字架を包み込み、クルミの姿を消した。

「これは……?」

 グッと立ち上があると、アラシードはなにをしたと怒鳴った。

「この光は俺がダメージを受けると、その内側でエネルギーを貯め、膨張する」

「エネルギーを?」

 サンフォーチュンも自身の剣を構え、ゲイジャードの言葉を待った。

「エネルギーが収縮しきれなくなった時、中のエネルギーは大爆発を起こす! 女を巻き込んでな……?」

「ッ!?」

 言葉を失うアラシードにゲイジャードは思わず笑ってしまった。

「わかるか!? 俺を攻撃すれば、中の女は確実に死ぬ! 俺が死んでも、その時に発するエネルギーで光は爆発し、女は死ぬ! どっちにしろ、お前たちに俺を倒すことは出来ない!」

「ひ、卑怯な……」

 ガイアストームの拳に力が込められ、身体が震えた。

「貴様には武人としての誇りはないのか!?」

「そんなもん、最初からねーよ! 自分の物差しで俺を計るな?」

 ゲラゲラ笑うゲイジャードにガイアストームは怒りを露にした。

「ゲイジャード……そこまで、堕ちたか?」

「もう一つ、言い忘れたぜ? この光は時間が経てば、自然とエネルギーを蓄えるシステムになっている! お前たちがホカッとていも、自然と爆発するぜ?」

「それじゃあ、俺たちに手のうちようがない!?」

 サンフォーチュンの戸惑いの声にゲイジャードは子供のように飛び跳ねた。

「その顔よ……その顔が見たかったのよ♪」

 サンフォーチュンの腹を蹴飛ばし、ゲイジャードは嫌らしくアラシードを見下ろした。

「そこの人間好きは、どう対処する? 俺を倒し、女を見捨てるか? 俺を倒せず、女を見捨てるか? どっちを取りたい?」

「く……くそ!?」

 膝を突き、アラシードは屈服するように頭を下げた。

「た、頼む…クルミだけは助けてくれ?」

「う~~ん……聞こえんな? よく聞かせてくれよっ!」

 顔を蹴り飛ばし、アラシードの顔を踏みつけた。

「早く答えねーと女が死ぬぜ?」

「頼む……私はどうなってもいい。だが、クルミだけは助けてくれ?」

「ケッ……情けねー面だぜ? 吐き気がする!」

 アラシードの顔を地面に埋めるように踏みつけると、ゲイジャードは呟いた。

「男が女のために戦うだ? 戦士として恥ずかしくねーのか? 男って言うのは、自分の強さのためだけに戦うものよ!」

 頭を持ち上げ、さらにアラシードの横っ腹を蹴り飛ばした。

「なんとか言ったらどうだ……この根性無しが!?」

 大地に身体を伏せ、抵抗しないアラシードにサンフォーチュンの怒りが轟いた。

「貴様……卑怯にも程があるぞ!」

 運命剣を振り上げるサンフォーチュンにゲイジャードはニヤニヤと喋った。

「俺を攻撃すると女が死ぬぜ?」

「ッ!?」

 ピタッとサンフォーチュンの剣が止まり、ぶるぶると刀身がゆれた。

「卑怯な……」

「卑怯だと!?」

 サンフォーチュンの横顔を殴り飛ばした。

「グァッ!」

 大地に身体を叩きつけられ、サンフォーチュンは悔しそうにゲイジャードを睨んだ。

「俺のどこが、卑怯だって言うんだ? むしろ、女ごときに攻撃できないお前たちが情けないんだよ」

 倒れているサンフォーチュンの腹を何度も踏みつけ、ゲイジャードは得意げに叫んだ。

「訂正しろ……ゲイジャード様こそ、最強の戦士ですとな? そうすれば、ほんの少しの生き地獄で殺してやるよ?」

「お、お前のどこが、戦士だ?」

 踏みつけられながらも、サンフォーチュンは威勢を張り叫んだ。

「人質を取って、自分は安全な場所で平然と暴力を振るう……貴様にピッタリの言葉を教えてやる……下種だ」

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? そんなに死にたいなら、殺してやる!」

 ゲイジャードの右腕が振り上がり、サンフォーチュンの左胸を貫こうとした。

「やめろ!」

「ッ!?」

 振り返り、ゲイジャードは鼻を鳴らした。

「勇気神か……答えは見つかったのか?」

 アラシードの勇気剣が宙を待った。

「貴様を倒す!」

「なッ!?」

 ゲイジャードの顔が真っ青になった。

「き、貴様、女を見殺しにする気か?」

「このまま……このまま、クルミを見殺しにするくらいなら、貴様を殺して、私も死んでくれる!」

「血迷ったか!」

 迫りくる勇気剣を弾き返そうとゲイジャードは拳を振り上げた。

「なっ……!?」

 ぶつかった剣が腕のアーマーを粉々にし、ゲイジャードを困惑させた。

「バカな!? 未完成とはいえ、フルアーマーが粉砕しただと?」

「まだだ!」

 身体を回転させ、アラシードはバットを振るかのようにゲイジャードの横腹を蹴り飛ばした。

 大地に尻餅を着き、ゲイジャードは怯えた悲鳴を上げた。

「よ、よく考えろ……お前の目的は、あの女を救うことじゃないのか!?」

 弁解するゲイジャードにアラシードはユラユラと揺れる動きで近づき、剣を握り締めた。

「言ったろう……貴様を殺して、私も死ぬと? 貴様が選んだ道だ、悔いは無いだろう?」

 冷たく光るアラシードの目にゲイジャードは逃げるように腰を引きずった。

「わ、わかった……あの女は開放する! だから、許してくれ!」

「信用できんな?」

 まるで死神に近づくアラシードにゲイジャードは慌てて立ち上がり、叫んだ。

「な、なら、このフルアーマーを脱ぐ! それなら、考えてくれるだろう?」

「……」

 しばらく黙り込み、アラシードは静かに答えた。

「一分だ、早く済ませろ!」

「わ、わかった……」

 アラシードの許可に、ゲイジャードは慌てて鎧を脱ぎだした。

「は、話がわかるぜ、勇気神? 今、脱ぐからよ……」

 そういい、ゲイジャードは一つ一つ鎧を脱ぎ捨て、生身の状態へと変わっていった。

「アラシード、逃げろ!」

「遅いわ!」

 サンフォーチュンの叫びよりも先に、ゲイジャードの腕がアラシードの腹部を貫き、火花が散った

「か、かはっ……!?」

「アラシード!?」

 腕を抜き去り、ゲイジャードは爆笑した。

「ゲハハハッ!? まだまだ、青いな勇気神! やはり、戦士は強くなければ!」

「かっ……」

 貫かれた傷から火花散らし、アラシードは大地へと倒れこんだ。

「ク……ルミ……」

 

 

 光に包まれた世界の中、クルミは必死に大助の名前を呼んでいた。

「うぅ……大ちゃん……逢いたい……」

 途切れ途切れな口調のまま、クルミは必死に大助を名前を呼び続けた。

「大ちゃん……助けて……」

《クルミ……》

「誰……?」

 頭の中に響く謎の声に、クルミは薄れゆく意識の中、虚ろな瞳を開けた。

《クルミ……お前の大切な者が今、危機に陥っている……》

「大切な……大ちゃん……逢いたい……」

《クルミ……大助なるものが死に掛けている》

「うぅ……うそ……」

《クルミ……お前に問いたい。大切な者を守りたいか?》

「大ちゃんを……」

《そうだ……お前が守る立場に立つのだ。怖いだろうが、大切なものを救えるのはお前だけだ》

「クルミは……どうなるの?」

《危険な戦いに巻き込まれる……それを覚悟して問いたい。大切な者を守りたいか?》

「守りたい……クルミはどうなってもいいから……大ちゃんには幸せになってほしい……」

《その言葉……待っていたぞ!》

 クルミの周りに淡い光が溢れ出し、巨大な十字架を巻き込み消えていった。

 

 

「き、貴様……どこまで卑怯なんだ?」

 剣を構え、サンフォーチュンは怒鳴った。

「一瞬でも、貴様を信じた、アラシードに恥ずかしいとは思わないのか?」

「恥ずかしい?」

 ゲイジャードはニタニタした顔で倒れているアラシードを踏みつけた。

「敵を信じるのがいけねーんだよ! 俺は兵法に従ったまでさ!」

「貴様……もう許せん!?」

 腰の鞘に手をかけ、サンフォーチュンは運命剣を抜き去ろうとした。

「クルミさんを見殺しにしてでも、貴様を倒す!」

「果たして、出来るかな……」

 また、吸い寄せられるようにフルアーマーがゲイジャードを包み、手をクイクイと振った。

「さあ、かかって来い……お前たちに俺が倒せるかな?」

 ゲイジャードの言葉にサンフォーチュンとガイアストームはジリジリと距離を置き、剣を構えた。

「貴様のような外道!」

「俺たちが滅殺する!」

 二人の剣の刀身が眩く光り、ゲイジャードに向かって走り出した。

「終わりだ!?」

「その必要はない!」

「ッ……!?」

 ピタッと剣がとまり、サンフォーチュンとガイアストームは顔を上げた。

 上空に黒雲が広がり、雷鳴が轟くと一体の龍がゲイジャードを威嚇した。

「キァァァァァァァァァァッ!」

「な、なんだあの龍は!?」

「サイクロンドラゴン!」

 ガイアストームの声にゲイジャードは信じられない顔で叫んだ。

「まさか……勇神として覚醒した!?」

「キァァァァァァァァァァッ!」

 勇ましい咆哮を上げ、口から七色の光をアラシードに向けて撃ち放った。

「助かる……」

 アラシードの身体が小さな光の粒子へと変わり、サイクロンドラゴンの中へと吸収された。

「対となる勇神は、その者を自分の身体の中に眠らせることで傷を癒すことができる」

 サイクロンドラゴンの身体から眩い光があふれ出した。

「恐怖合体!」

 光に包まれたサイクロンドラゴンの身体が変形し、大爆発が起こった。光が弾け飛ぶよ

「グアァァァァッ!?」

 大地に倒れ、ゲイジャードは光の中から生まれた巨大なロボットを見た。

「恐怖神サイクロード!」

 右腕を振り上げるように構え、サイクロードは倒れているゲイジャードを睨んだ。

「バ、バカな……勇気神と対となる勇神が復活しただと!?」

 驚きを隠せないゲイジャードにサイクロードは静かに腰に手をあて、呟いた。

「久しぶりだな、ゲイジャード……少し見ないうちに見た目が硬そうになったな?」

「あ、あわわ……」

 腰を抜かし、後ずさるゲイジャードにサイクロードは忌々しそうに舌打ちした。

「相変わらず、力自慢の小心者の卑怯者か? 殺す価値もないが、生かす価値もない!」

 サイクロードにガイアストームは慌てて肩を掴んだ。

「待て、サイクロード! あいつは少女を人質に取っている!」

 ガイアストームの手をのけ、サイクロードは大丈夫だと説明した。

「その娘なら、私がすでに助けた。あの光の中はもぬけの殻だ!」

「た、助けた!? 一体いつの間に……どうやって!?」

「……」

 サンフォーチュンの言葉を無視し、サイクロードは右手を大きく振り上げた。

「恐怖剣!」

 上空に現れた柄の長い薙刀のような武器を取り出し、ぶんぶん振り回した。

「この世で一番踏みにじってはいけないのは人の想いだ! あの少年の強く優しい想いを貴様は踏みにじった! 許すわけにはいかない!」

「い、言わせておけば……俺にはフルアーマーが……」

「右腕の粉砕された鎧が、ウィークポイントだ! そこを突けば、究極合体しなくっても、今のお前でも勝てる!」

「なっ……そんな事、出来るわけ……」

「私の恐怖剣は薙刀のように敵の射程外からの攻撃を想定された究極の剣、味わうか?」

「くっ……」

 顔を青ざめさせ、弱腰になるゲイジャードにサイクロードはジリジリと近づき、残像が生まれた。

「点殺! 真空神風剣!」

「ひぃッ!?」

 サイクロードの剣がゲイジャードの腕を貫こうとした。

 瞬間、ゲイジャードの姿が消え、サイクロードは剣を止めた。

「消えた……?」

『勝負は預けたぞ、勇神共よ!』

「この声はファイファル……?」

 サイクロードは恐怖剣を消し、サンフォーチュン達を見た。

「すまない、出るのが遅くなって」

「気にするな……助かった」

 荒い息を吐き、サンフォーチュンはグッと親指を立てた。

「戦いは終わった、私は先に帰らせてもらうぞ?」

 そういい、ガイアストームは空に向かい飛翔していった。

「それでは私も行かせてもらう」

 サンフォーチュンも身体を三体のジェット機に分離し、大空を翔けていった。

「さらばだ、サンフォーチュン!」

 

 

 宇宙に帰ると、ゲイジャードは安心したようにファイファルに礼をいった。

「いや~……助かったぜ爺さん! アンタが助けてくれなきゃ、俺は死ぬところだったぜ?」

「……」

「だが、安心な? フルアーマーさえ完璧になればあんな奴ら……」

「言い残す言葉はそれだけか?」

「え!?」

 ズシャッ!

「えっ……?」

 自分の胸を貫くファイファルにゲイジャードはなにが起きたかわからず、顔をしかめた。

「な、なぜ……」

「お前の行いは神として余りにも醜く浅ましい! 我らの同胞となる資格はない」

「ま、待ってくれよ! ゆ、勇神を復活させたのは謝る! だから、チャンスを……」

「わからんか? 勇神を復活させずとも、ワシは貴様を始末するつもりだった。光滅四天王の名に泥を塗ったお前をな……」

「い、嫌だ……し、死にたくない! 助けてくれ!?」

「なら、せめての奉公だ……幼帝魔王様の飢えの贄えとなれ!」

 貫いていた腕を抜き、ファイファルは冷たい目でゲイジャードを黒点に向け、蹴り飛ばした。

「た、頼む! 許してくれ! 喰われたくないぃぃぃぃぃぃ!?」

「どこまでも、恥ずかしい奴め……」

 クルリと背を向け、ファイファルは静かに歩き出した。

「た、助……け……て……」

 黒点に飲み込まれ消えていったゲイジャードにファイファルは苛立った顔で爪を噛んだ。

「志の強さを考えれば、己の目的を持っていたアルティミスタのほうがまだ光滅四天王にふさわしかったというわけか?」

 

 

「う……うぅん……」

 目を覚ますと、大助は固い岩肌の上で眠っていた。

 グッと身体を起こした。

「大ちゃん……無事だったんだね?」

「クルミ……」

 涙を浮かべ抱きつていくるクルミに大助は驚いたように呟いた。

「無事だったのか?」

「うん……サイクロードに助けてもらったの!」

 コクンッと頷いた。

「クルミって結構、運が強いのかも!」

「そうか……」

 よっこいしょっと立ち上がると、大助は腰をポンポンと叩いた。

「さて、お前も無事だし……帰るとするかクルミ?」

「うん! でも、どっちに帰る? 学校? それとも、家に?」

「……」

 クルミの言葉に大助は言葉を失い言いよどんだ。

「どっちにしよう?」

《ハッハッハッ♪ 考え無しとはこの事だな?》

「うるさい!」

「だ、大ちゃん……酷いよ……うるさいだなんて?」

「あ……」

 また、大助は自分のミスに気付き、顔を青ざめさせた。

「こ、これは違う……」

《お~お~……女を泣かせた♪》

「お前は黙ってろ!」

「ぶぅ~~……わかったよ! もう喋らない!」

「ああ、待ってくれ、誤解だ!」

 歩き去っていくクルミの姿を追い、大助は情けなく涙した。

「なんで、こうなるの!?」

《運命だ!》

「お前が言うな!」

 


 
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